Category Archives: スピーカーシステム - Page 11

ラウナ Njord, Tyr

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ラウナ・スピーカーというスウェーデンのブランドは、わが国ではあまり馴染みがない。それほど古いメーカーではないらしいし、今まで正式なエイジェントによる輸入もおこなわれていなかったと思う。今度、オーディオニックスが代理店として、このニューブランドを日本市場に紹介することになり、ニョルド Njord とティール Tyr という2機種を試聴する機会を得たので御紹介する。
 外国製品は数多いが、世界に冠たるオーディオ生産国日本に輸入するには、それなりの必然性がなければならないし、市場も拓けるはずがない。多くの輸入製品に接する時、その製品のオリジナリティとアイデンティ、そして、その音の魅力が日本製では聴けないもの……つまり、ある意味では異文化の香りをもつものであることをポイントに価値判断をするのが僕の考え方である。いくら貿易不均衡が問題となっても、輸入する必然性のないものを輸入しても結局は長続きはしないはずである。この点、このスウェーデンからのニュー・ブランドは一見一聴しただけで、この条件をパスするユニークなものである。
 ラウナのスピーカーシステムのラインアップは3機種あって、大きさと価格の順でニョルド、ライラ、ティールという名称がつけられている。ユニットは共通で、16cm口径ウ−ファーと2・5cm口径ソフトドーム・トゥイーターの組合せで、大中小のシステムに対応させている。ニョルドは、16cmウーファーを2個使い、その1個の中央にトゥイーターを配置しコアキシャルのようなセッティングだ。ティールはこの2個のユニットをインラインに独立配置している。ライラは聴いていないが多分、ニョルドからウーファーを1個とった構成と思われる。エンクロージュアがラウナ独自のユニークなものでベトンという一種のコンクリートレジンで強剛性大重量の素材による。いかにも北欧らしいモダニズムを感じるデザインで、ニョルドは特にユニークなオブジェだ。製品はホワイトだが、インテリアに合わせ好きな色にペイン卜することを推めているあたりが面白い。ティールは小型ブックシェルフ。各35kg、12kgという重量だ。
 聴いてみて驚いた。その音の豊潤なこと。とてもコンクリート製エンクロージュアのイメージからは想像できない暖かさであり、ステレオイメージは奥行感の豊かな空間再現能力に優れている。楽音の自然な質感・帯域バランス共に大変優れ、制作者の技術と耳のバランスのよさが実感出来る。特に小型のティールは秀逸である。家庭用スピーカーとしての限界の中で、現代スピーカー技術の可能性と限界をよくわきまえたバランス設計が見事に生かされた傑作だ。

ダイヤトーン DS-2000

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 従来からのオリジナル技術である、ハニカムコンストラクションコーンとボロナイズドDUD構造という振動板材料の熟成を待って、これにフレーム関係の高剛性DMM構造やDM方式を加え、さらにエンクロージュア関係でのディフラクションを抑える、2S305以来の伝統のラウンドバッフル採用のエンクロージュアを使った新世代のダイヤトーンの高級シリーズは、小型高密度設計のユニークな製品DS1000をもって出発点としたが、昨年の4ウェイ・ミッドパス構成のDS3000に続き、3ウェイ構成のDS2000が新製品として発売された。
 外観上は、DS1000の単なる上級版とも、DS3000の3ウェイ版とも受け取られやすいが、構成ユニットは、何れとも関係のない新開発ユニットである。
 低音の30cmユニットは、ポリアミドスキンのカープドハニカムコーン型で、このタイプとしては初採用の口径である。DMM方式フレームは、高剛性化が一段と進められ、フレームの脚は、平均的な4本から8本に倍増され、3次元的な剛性を高め、脚の延長線上の止め穴でエンクロージュアに固定する設計。DMM方式の基本構想はコーンが前に動けば、磁気回路はその反動として後に動くため、これをフレームでガッチリと支えようという単純明快なもの。
 中音ユニットは、これも初めての口径である60mmボロナイズドDUD型で、特殊な硬化処理が施され、従来よりもー層高遠応答型に改良されている。この振動板にDM方式が組み合わされユニットとなるが、この方式の基本構想もDMM方式と共通な面がある。一般的な構造では、振動板を取付けたフレームに磁気回路をネジ止めしているが、中域以上の帯域では、その接合面の強度とフレーム自体の強度が高速応答を妨げる要素となる。解決策は、フレームレス化だ。現実の手法では、従来構造のフレームを小型化し、磁気回路の前のプレートを拡大し、これをフレーム替わりとして直接エンクロージュアに取付ける方法が採用されている。
 高音の23mm口径ボロナイズドDUDユニットは、DS1000以来、DS3000と受継いできたDMタイプで、ユニットナンバーから見れば、DS2000用の新設計であることが判かる。
 ネットワーク関係は、スピーカーシステムでは、スピーカーユニットほどに重視されない傾向があるが、ユニットの性能が向上すればするほど、ネットワークの責任は重くなるものだ。簡単に考えてみても、ネットワークを通らなければ、ユニットには信号が来ないわけで、この部分で歪を発生していたらお手上げである。
 本機のネットワークは、コイル間の電磁結合はもとより、磁気回路のフラックス、ボイスコイル駆動電流によるリケージフラックスや主にウーファーからの音圧、振動による干渉などを避けるために、高、中、低と独立した3ピース型を初めて採用し、配線は半田レスの無酸素銅スリープ圧着式DS3000での成果であるラジアル分電板採用のダイレクトバランス給電方式などかなり入念な設計である。
 エンクロージュアは、ラウンドバッフル採用の完全密閉型で、基本となる6面の接合強度を高め箱を剛体構造としながら、伝統の分散共振構造で中域以上の色づけを抑え、全体の振動バランスをとる方法が行われているが、このあたりのコントロールがシステムの死命を制する重要な部分である。
 試聴を始めるにあたり、適度なシステムのセッティング条件を探すことが必要だ。DS2000用の専用スタンドは、現在はなく、DS3000用のスタンドも試聴室にはないため、とりあえずビクターのLS1を使って音を出してみよう。
 最初の印象は、素直な帯域バランスをもった穏やかな音で、むしろソフトドーム型的雰囲気さえあり、音色も少し暗い。LS1の上下逆など試みても大差はない。いつもと試聴室で変わっているのは、聴取位置右斜前に巨大なプレーヤーがあることだ。この反射が音を汚しているはずと考え仕方なしに薄い毛布で覆ってみる。モヤが晴れたようにスッキリとし音は激変したが、低域の鈍さが却って気になる。置台が重量に耐えかねているようだ。ヤマハSPS2000に変えてみる。これなら良い。帯域バランスはナチュラル、表情は伸びやかで明るくオープンなサウンドで、いかにも高速応答という印象はない。プログラムソースにより、激しいものは激しく柔らかいものは柔らかくと、しなやかな対応ぶりは従来では求められなかったダイヤトーンの新しい音の世界への提示だろう。

スピーカーシステムのベストバイ(1985年)

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・
「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 いつものことながら〝ベストバィ〟の選出の基準について書くのに苦労する。ベストバイ……つまり、お買徳、最高の買物……などといった意味は、実に複雑な多面性をもっているからだ。それぞれのジャンルについて選出の基準を述べよという編集部の注文は、それでも毎年同じように続いているのである。それぞれのジャンルという言葉を使いながら、価格帯の分類まではいっている。価格帯によっては、選出の基準がちがってもいいということなのか? 僕自身にもよく解からないのである。
 スピーカーのジャンルでは、20万円未満から160万円の価格帯に分類されているが、選出の基準は、この事実からだけでも大きく制約を受ける。安くてよいものという基準はまず成り立たない。最高品位のものというのもおなじく成り立たたない。
 価格帯別に基準はふらつくわけで、ジャンルでくくって、確固たる基準を述べることは不可能である。いわば無理難題であるわけで、この種の企画に共通の矛盾を含んでいることをまず申し上げておきたい。結論を言えば、率直にいって基準などという厳格なものは僕の場合にはない。述べれば述べるほど矛盾を生むことになって、やり切れない。観点とか基準とかいう言葉は曖昧であったり矛盾と流動性を含んでいてはナンセンスである。近頃、あまりに安易にこうした言葉が使われ過ぎる。もっともらしくて恰好いいのだろうが、本当は恰好悪いのである。
 僕の場合どう考えても、よくいえば柔軟性をもって総合的に価値を見当して、〝よいもの〟を選んだということになるが、悪くいえば、どうもまんべんなく選んだようにも思え、改めて、後味の悪い思いをしながら反省しているところである。数の制限もあってのことだから、こうなるのもやむを得なかったのだが、いずれにしても選出というのは骨の折れることである。
 スピーカーの低価格帯域のベストとして選んだのはB&OのCX100である。小型で使用条件の限定を受けるが、何より、その音とつくりのセンスの高さが抜群だ。小型ながら、その高貴さ故にベストワンとした。他に外国製ではスウェーデンのラウナの〝ティール〟、セレッションのSL6など素晴らしいものがたくさんあるが、能力としてはこのランクでは国産のほうが高い。特にケンウッドLS990AD、オンキョーD77、ヤマハNS500Maなどのように選にはいったものはもちろん、選外にも優れた特性と能力をもったものが多数ある。しかし、音の品位、表現の説得力となると今一歩のものが多いのである。
 20〜40万円のベストワンはボストンアコースティックA400であるが、このスピーカーの素直でありながら、豊かな情感を伝える能力、価格も含めた製品としてのバランスのよさは高く評価したい。国産ではダイヤトーンのDS2000、コーラルDX−ELEVENが充実している。CP的には外国製品を大きく上廻ることはいうまでもない。ユニットの作り、エンクロージュアの密度の高さなど、同じ価格で比較すると、国産品の充実は外国製を圧倒している。しかし、ハーベスやスペンドールの、あるいは、タンノイの音の味わいや魅力には欠けるのだ。
 40〜80万円では異例といってもよい国産のベストワンをあえて選出した。ダイヤトーンDS10000である。この音の美しさは、遂に世界的なレベルに達したように感じられる。それも、日本的な緻密で繊細さを極めた音であって、海外スピーカーのもつ味わいに追従すするものではない。技術のオリジナリティも他に類例のないアイデンティティをもっているものだし、作り手の情熱の感じられる作品としての表現力が力強い。他はすべて、このランクになると海外製品になった。JBLの新製品4425は、いかにもJBLらしい鮮鋭さと精度の高い音像再現性をもった素晴らしいもので、その発音の基本的性格が他の製品に聴けない独自の明るさとエネルギーに満ち溢れているスピーカーシステムだ。タンノイのエジンバラの重厚な風格、B&O/MS150−2のモダニズムの精密さ、ボーズ901SSのオリジナリティと長年にわたるリファインの成果は、いずれも明確なアイデンティティと魅力を持っている。
 80〜160万円ではJBLの4344が、圧倒的に安定したリファレンス的サウンドで好ましい。頼りになるシステムだ。
 160万円以上では、ユニークな技術的特色と、熟成した音の魅力で独自の世界を創ったマッキントッシュのXRT20の姉妹機XRT18を選んだ。重厚にして柔軟だ。

スピーカーシステムのベストバイ(1985年)

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・
「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 スピーカーシステムは、基本的にメカニズムを使ったトランスデューサーであることが、エレクトロニクスの産物であるアンプやCDプレーヤーと異なった特徴であり、スピーカーユニットを構成する振動板材料、磁気回路、フレームなどがある水準以上の性能を要求されれば、それ相応の物量の投入が前提となるため、いわゆる生産性の向上で価格の低減を期待することは不可能と考えてよい。
 もちろん、スピーカーシステムの分野でも、いわゆる売れ筋価格帯というものが存在し、このゾーンに製品が集中する傾向が強いが、ここ数年間にわたり売れ筋価格が維持されているために、各社各様のサウンドポリシーを貫いてはいるものの、その内容は、やや希薄化の動向は否めない事実といえるだろう。
 基本的に、ある水準以上のサウンドクォリティを要求される、いわゆるコンポーネント用のスピーカーシステムに相応しい内容、実力を備えた製品となれば、現状では、ステレオ・ペアで約20万円以上のシステムが好ましいといえるが、やや妥協して考えても、売れ筋価格帯上限の、ステレオ・ペアで12〜13万円クラス以上が、ベストバイの下限であろう。
●20万円未満の価格帯
 自分なりに価格帯の下限を設定したために、選択した製品は、海外製品を除いて、標準サイズのブックシェルフ型システムである。外形寸法的には、やや大型である点が特徴でもあり、内容的な問題点でもあるようで、そろそろ大きいことは良いことだ!的な観念を捨てて、少しは小型、高密度化の方向のシステムの開発を各メーカーの企画担当者に要望したいものである。
 海外製品は、ともに英国の小型ブックシェルフ型システムを選択したが、基本性能もかなり見事であり、音質的にもかなりインターナショナルな雰囲気を備えている。気軽に小型、高性能を楽しむためにはSL6が相応しく、やや構えて、高密度な音を聴きたい向きには、LS3/5Aはベストバイ中のベストバイである。
 この価格帯の製品には、いわゆるAV対応という、防磁構造のユニットを採用したモデルが散見されるが、本来、防磁構造はスピーカーのシステムの基本性能を向上する不可欠の要素であることを認識してほしいものだ。洩れ磁束は、内部の配線、ネットワーク素子、アッテネーターに影響を与え歪を発生する元凶なのである。
●20〜40方円の価巷帯
 内容が充実しており、選択するのが楽しい標準サイズのブックシェルフ型がメインの価格帯である。国内製品の大勢は、CDの驚異的な情報量に対応するための、低歪化に代表される性能向上による、聴感上でのSN比の向上の方向の開発であるが、一部には、音の輪郭をクッキリと聴かせるアナログ派とでもいえるモデルもあるようだ。
 DS2000は、強烈なインパクトこそ受けないが、新開発ユニットをベースとした内容の濃い製品。使いやすく、誰にでも高性能を基盤にしたバランスの良いハイディフィニッションな音が楽しめ、完成度の高さは同社製品中で文句なしにトップだ。飛躍的に完成度を高めたS9500DVの柔らかく豊かな低域。未完の大器らしい凄さのあるZero−FX9。木目仕上げが魅力のNS1000XWなどの新製品に注目したい。S955IIIの爽やかさ。SX10のソフトドームならではのしなやかさと、アンティークなムードも個性派の存在。玄人好みのDS1000。伝統的タンノイの魅力を凝縮したスターリングも使いたいシステム。
●40〜80万円の価格帯
 ペストバイの感覚からは少し離れた価格帯の製品で、ジックリ聴き込んで選択をしないと後悔を残す個性派が多い。現代的な高密度ハイデイフィニッション型では、DS3000が最右翼の存在。さりげなく高品位の音楽を楽しむためには901SS−W。少しメカニカルなイメージを求めれば901SSだ。実感的なバリュー・フォー・マネーならタンノイに限るし、個性派には、QUAD/ESLだろう。目立たぬがベストバイに最も相応しいのがMONITOR1である。また、NS2000の美しい仕上げもヤマハならではのものだ。ベスト1は、唯一の鋳造磁石採用の磁気回路をもつ2S305だ。最新のCDプレーヤーで一度は追込んでみたい製品。
●80〜160万円未満の価格帯
 上位5機種は、傾向は大きく異なるが、正確な目的さえ持っていれば、長期間にわたり充分に楽しめるシステムである。締切り後に聴いた製品ではDUETTAがドライブしやすく一聴に値する。

パイオニア S-9500DV

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 パイオニアから新製品として登場したスピーカーシステムS9500DVは、そのモデルナンバーが示すように、従来のS9500をベースに大幅な改良が加えられ、内容を一新したシステムである。
 改良のポイントは、低域磁気回路の防磁化と、エンクロージュアでのラウンドバッフル採用と、形式がバスレフ型から密閉型に変更されたことがあげられる。
 磁気回路の防磁化は、単にTVなどへのフラックスによる色ずれを避ける目的に留まらず、エンクロージュア内部に位置するネットワーク用コイル、配線材料、アッテネーターなどへの磁束の影響がなくなり、歪が減少するメリットは非常に大きい。
 また、エンクロージュアのラウンドバッフル採用は、現在のスピーカーの大きな動向であり、情報量が非常に大きいCDの普及も、プレゼンスに優れたこのタイプに移行する背景となっていると思う。次に、エンクロージュア形式のバスレフ型から密閉型への変更は、現在のバスレフ型を中心としたパイオニアのスピーカーシステムとしては異例なことであるが、伝統的には、ブックシェルフ初期の完全密閉型として定評の高いCS10以後の密閉型システムの技術は現在でも保たれているはずである。
 ユニット構成の基本は前作を受け継いでおり、ウーファーは2重ボイスコイル採用のEBD型で、駆動力の直線性を向上するリニア・ドライブ・マグネティック・サーキットの新採用と、二重綾織りダンパー採用のダイナミック・レスポンス・サスペンション方式、フレームの強度向上などが特徴。スコーカーは、イコライザーの2重ダンプ処理、新開発ケミカルエッジ・ウーファーと共通の低抵抗リード線採用などが改良点だ。トゥイーターは、低磁気漏洩設計と防磁カバーの防振処理が特徴である。
 ネットワークは、中域と高域用で基板を廃した低損失化と高域でのバランス回路化が改良点であり、エンクロージュアは、黒檀調リアルウッド仕上げで、重量は4kg増しの37・5kgである。
 試聴は、同時発売のウッドブロックスピーカーペースCP200を使って始める。基本設置は、左右の幅は側板とブロック外側が合った位置、前後はブロックの中央とされているために、これを基準とする。聴感上の帯域バランスは、異例ともいえるほど伸びた、柔らかく豊かな低域をベースに、穏やかだが安度感もあり安定した中域と、いわゆる、リボン型的なキャラクターが感じられないスッキリとしたナチュラルな高域が、スムーズなワイドレンジ型のバランスを保っている。音色は、ほぼニュートラルで、聴感上のSN比は、前作より格段に向上しており、音場感的情報はタップリとあり、見通しがよく、ディフィニッションに優れ、定位は安定感がある。ウッドブロックの対向する面に反射防止のため、フェルトをあてると、中高域から高域の鮮明さが一段と向上し、高級機ならではの質的な高さが際立ってくる。使用上のポイントは、良く伸びた低域を活かすために、中高域から高域の鮮度感を高く維持する設置方法や使いこなしをし、広いスペースを確保する必要があるだろう。

コーラル DX-ELEVEN

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 コーラルのスピーカーシステムは、伝統あるユニット専業メーカーとしての独自の技術を活かしたユニットを基盤にシステムアップされている特徴があるが、今回、発売されたDX−ELEVENは、同社初の4ウェイ構成、完全密閉型ブックシェルフシステムである。
 ユニット構成は、低域が項角の異なった2枚のカーボングラファイトを重ねたモノコックコーンで、ネック部分に円型のクボミ型メカ二カルフィルター付で高域をカットする構造を採用し、ボイスコイルはOFCエッジワイズ巻き。磁気回路はバランス型で、直径160mmのマグネットと銅キャップによる低歪設計が特徴。中低域は口径10cmの超大口径ハードドーム型で、商品化されたユニットとしては、世界的に見ても最大口径であり、このシステムの注目すべき部分だ。振動板は新開発の特殊な軽合金といわれ、詳細は不明。磁気回路は、低域同様のバランス型で銅キャップ付。銅クラッドアルミ線エッジワイズ巻きボイスコイル使用で、97dBの高能率を誇る。中高域は、中低域と類似した構造と振動板採用の口径60mmハードドーム型高域は、同じく新開発振動板採用の口径22mmハードドーム型である。
 クロスオーバーは、280Hz、4kHz、8kHzと発表されており、中低域と中高域のクロスオーバーが、使用ユニットの口径から予想される数値より大幅に高い周波数4kHzであることが特筆に値する。
 エンクロージュアは、前後バッフルが15mm厚パーチクルボードの2枚貼合せ使用。側板、天板、底板は、25mm厚パーチクルボード採用で、前後ともラウンドバッフル構造の完全密閉型。ネットワークは、低域が独立した2分割型で、音帯域にマッチした素材を投入した高性能設計で、高域と中高域共用の連続可変型アッテネーター採用。
 木製のスタンド上に置き、システムのあらましを聴いてみる。タイトで、少し抑え気味の低域をベースに、穏やかで安定した中低域、輝かしく明るい中高域とシャープな高域が、やや高域に偏った帯域バランスを聴かせる。使いこなしの第一歩は床に近付けて低域の量感を豊かにすることだ。コーラルのBS8木製ブロックに似た高さ20cmほどの木型ブロックに置き直してみる。かなり、安定型になるが、基本的な傾向は変らない。そこで、10cm角ほどの木製キューブの3点支持を試してみる。バランス的にはナチュラルであるが、中高域ユニットのエージング不足のせいか、表情が硬く、アコースティックなジャズなどでは抜けが良く聴こえるが、クラシックの弦楽器では、線が硬く、しなやかさが少し不足気味である。そこで、かなり大きくトータルバランスが変化する高域と中高域連動のアッテネーターを絞ってみる。
 変化は、かなりクリティカルではあるが、最適位置での音は、引締まった低域をベースとした、明るく抜けの良さが特徴である。
 使用上のポイントは、壁やガラスなどの部屋の反射の影響を受けやすいタイプと思われるため、カーテンなどで響きを抑え気味にコントロールした部屋で使えば、4ウェイらしい音が楽しめるだろう。

ロジャース LS7

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 英国ロジャース社のスピーカーシステムには、BBCモニターシステムとして有名なLS5/8、LS5/9、LS3/5Aなどのシステムの他に、一般のコンシュマー用として開発されたスピーカーシステムが数多く存在するが、今回、新製品として試聴をしたモデルは、ドメスティックシリーズとして登場したLS1、LS5、LS7の3モデル中のトップモデルLS7である。
 LS7は、独自のポリプロピレンコーンと超高耐熱ボイスコイルを採用した205mm口径ウーファー、R205ユニットと25mmソフトドーム型セレッション製T1001を組み合わせた2ウェイシステムで、最大入力300Wを誇るシステムである。エンクロージュアは、バスレフ型が採用され、仕上げはチークとブラックがあるが、構造上の特徴として、STUDIO−ONEシステムで開発された特殊ファイバーレジン材が、前後のバッフルに採用してある。
 スピーカーの試聴でつねにポイントになるのが、スピーカーを置く台であるが、ロジャースにはSTUDIO−ONEとLS7用に、スピーカースタンドSS40が別売で用意されているため、ここではこのスタンドを使い聴くことにする。
 使用機器は、このところリファレンス的に使っているデンオン2000Zと3000Zのペアとソニー552ESである。
 SS40は、台の底の部分に鋭い針のような突起部があり、これでカーペットなどを貫通して床に直接スタンドを設置できる構造が特徴である。まず、基本的な間隔と聴取位置からの距離だが、平均的な置き方よりはやや間隔を広く、距離もとったほうが、英国系のシステムでは音場感的にも拡がり定位もクリアーで、いわゆる、見通しのよいサウンドになるようだ。
 LS7は、しなやかで適度に明るく弾む低音と、スッキリと細部を聴かせる爽やかな高音が巧みにバランスした、気持ちよく音楽が聴けるタイプで、物理的特性の高さを基盤としたトランスデューサーとして完成度の高い国内スピーカーシステムとは明確に一線を画した、異なった出発点をもつ、フィデイリティの高いサウンドである。
 左右のスピーカーの聴取者に対する角度は、音場感、定位感をはじめ、音像の立つ位置に直接関係するポイントであるが、わずかに内側に向けた程度が、音場感がキレイに拡がり、見通しもよいようだ。音像定位は小さく、かなり輪郭がクッキリとした特徴があるが、このあたりはSS40のもつキャラクターが適度にLS7の音にコントラストを与えているようで、この種のシステムとしては、中域のエネルギー感がそれなりに感じられるのが好ましい。
 スピーカーケーブルは、同軸、平行線、スタッカートなどの構造およびOFCなどの材料の違いを含め、各種試みてみたが、純銅線採用というISORAのスピーカーケーブルが、トータルバランスが良く緻密さもあり、粒立ちの良い音が楽しめる最終的なバランスは、SS40上での前後方向の位置移動で整えるとよい。中央やや後ろで、表情豊かな雰囲気のよい音になる。

ボストンアクースティックス A40V(組合せ)

菅野沖彦

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「CDで聴く海外小型スピーカー中心の組合せに挑戦」より

 ボストン・アクースティックスのA40Vというのは、同社のシリーズの中で一番小型でローコストのA40に防磁対策を施したモデルです。
 このA40Vもそうですが、ボストン・アクースティックスのスピーカーは、どのモデルも、ナチュラルなバランスを持ち、音色的にも非常にニュートラルなんです。そういうと無個性のように感じられるかもしれないけれども、決してそんなことはない。非常に温かい、熟っぽさのある音です。
 このボストン・アクースティックスはARの系譜の中で発展してきたスピーカーですが、ARのスピーカーに感じられた、密閉型の音の重さはなく、密閉型のよさである、非常にきちっとした、ダンピングの効いた音が出て、それに、さわやかさと明るさが加わってきて、アメリカ的というよりもむしろヨーロッパ的な音と言えるのではないでしょうか。
 17cm口径のウーファーとソフトドームの2ウェイ構成の小型スピーカーですから、スケール感はそれほど期待できませんが、小型のよさを充分に生かしたバランスが感じられます。ウーファーの口径が小さいため、重低音は無理ですが、リニアリティもいい、無理のない鳴りかたをしてくれます。また、ウーファーの口径が小さく、エンクロージュアも小さいため、ディスパージョンが優れていて、A40Vの音場再現性は、価格を考慮すると、かなり高いレベルのものと言えます。
 A40Vの持っている魅力で際立っているのは、質感のよさですね。それもアコーステック楽器を再生したときに、それが強く感じられます。何か特定の色づきのある魅力は持っていませんが、楽器の持っている質感を非常にナチュラルに聴かせてくれます。
 最初の組合せは、プリメインアンプがサンスイのAUーD507Xと、CDプレーヤーがマランツCD34で、組合せトータルで20万円と、出てきた音を考えると、非常に安くまとまりました。
 外国製品、特にスピーカーは、国産のオーディオ機器では味わえない味を持っており、オーディオの、大事な楽しみとも言えますが、海外スピーカーを使って組合せをまとめますと、どうしても高い値段になってしまう。その異文化の薫りを、限られた予算の中で感じとれる音を出したいということが、今回組合せをつくる、すべてのスピーカーに対するねらいなんです。ぼくが担当する4つのスピーカーの中で、A40Vはペアで六万円台と、大変に安い。ですから、A40Vのよさを充分に生かしながら、どこまで予算を抑えることができるかということで、もっともローコストのアンプ、CDプレーヤーをいくつか聴いた中から、サンスイとマランツを選んだのです。
 AU−D507Xの音の性質は、A40Vの音と非常によく合うところがあるようです。A40Vのよさである、ナチュラルな質感をよく引き出してくれます。この価格帯のアンプは、妙に高城に癖があったり、力感は出すけれども少し音が粗っぽかったりするのが多い中で、AU−D507Xは真面目に音づくりされている。価格を考えると、思ってた以上に、質感、肌ざわりがよくて、高城にも癖がない。ヴァイオリンも、高域の音が非常に滑らかに出て、楽しめる味がある。フィルクスニーのピアノも、中域の温かな、トロッとした軽やかなタッチの味が出てきます。
 CD34の音も、A40Vの性格に似ているところがあります。CD34は、近視眼的に、CDのもっている能力を発揮させることだけにとらわれないで、音楽を楽しく、情緒的に聴かせていこうという方向でつくられたCDプレーヤーだと思います。
 CDプレーヤーとスピーカーの性格が非常によくマッチしている。そして、その間をつなぐアンプも、共通した音のよさをもっている。しかも価格的にも安い。3つの価格的バランスもよくとれていますし、音も、いいバランスを保っている組合せだと思います。
 最初の組合せをつくるときは、A40Vをこう鳴らしてみたいという意図はもってなかったのですが、二番目の組合せをまとめるために、いくつかアンプを聴いていくうちに、こんな小型スピーカーでも、アンプへの対応度が広く、いろんな音で鳴るということを、この場で気づかされました。これは、鳴らすアンプの個性に、A40Vが寄り添うのか、このスピーカーの持っている個性の幅の中の一面を、それぞれのアンプが引き出しているということかもしれませんけれども、とにかく違ったニュアンスで鳴るアンプがたくさんありました。その中でケンウッドのKA1100SDが、最初の組合せでは得られなかった、繊細さとさわやかさを出してくれました。特に弦の音の魅力は、非常に強く引かれるところがあります。
 KA1100SDは、力で聴かせるという方向のアンプではなくて、質感の美しさを聴かせてくれるタイプです。しかもオーケストラのトゥッティのときでも、音の崩れが全然なく、どんな細かい音もピシッとよく出てくる。前の組合せが、ポピュラー系のソースを、全体の力でもって聴かせるのに対して、こちらは、まったく違う味わいの音ですね。この組合せは、クラシックの音の持っている美観を大事に聴かせてくれる印象です。
 CDプレーヤーは、アンプと同じケンウッドのDP1100IIを使いました。この音はKA1100SD同様、非常によく洗練されていて、デリケートに、細やかな音をきちんと出してくれます。消極的に、全体をふわっとまとめて聴きやすくしたのではなく、CDに収められている情報はきちんと出しながら、音の美しさをねらって成功したCDプレーヤーだと思います。ケンウッド同士の組合せは、細やかな音の粒立ちに素晴らしいものをもっており、それが、A40Vの、少しファットになってしまう傾向をうまく補ってくれて、細やかな音をきちんと出してくれました。
三番目の組合せは、プリメインアンプにヤマハのA2000、CDプレーヤーも同じヤマハのCD2です。
 前の二つの組合せは、アンプの音色の変化に興味を持って、アンプを選んでみましたが、今度は、もう一段クォリティの高いアンプをつないでみたら、一体どんな音がするのだろうということで、かなり価格的には高くなりますが、A2000を鳴らし
てみたわけです。
 やはりアンプのランクが上がっただけあって、A2000によって、A40Vが持っている音の特徴が、リフレッシュされたというくらい、クォリティが一段上がります。A40Vの、滑らかで癖のないよさを積極的に出してくれます。悪いところを抑えて、うまく鳴らし込むというんではなくて、積極的によさを引き出してやるといった鳴り方をしました。
 音の傾向としては、前二つの組合せの中庸をいくものだと思います。最初が聴きやすい丸い音、二番目が美しいさえた、すがすがしさが特徴でしたが、この組合せはちょうど真ん中といった感じです。
 こういうふうに言いますと、A2000の音のよさがシステム全体の音を決めてしまったように思われるかもしれませんが、CDプレーヤーにCD2をもってこなければ、もう少し違った傾向の音になっていたでしょう。
 A2000は、高域の繊細さとかさわやかさが、非常に印象的なアンプですが、反面、中域あたりの豊かさが、やや欠けるという印象も持っていました。その中域の薄さを補う意図で、CDプレーヤーにCD2を選んだのです。CD2は、国産のCDプレーヤーの中で、最も中域に甘さ、豊かさといった味わいを持っている製品です。この中域の味わいが、A2000の中域の薄く感じられる部分をうまく補ってくれて、二番目の組合せが持っているさわやかさに対して、ちょうど中庸をいく音になったのも、CD2によるところが大きいと思います。事実、アンプはA2000のままで、CDプレーヤーをマランツのCD34に換えて鳴らしてみましたところ、中庸というよりも、やはりさわやかさ、すがすがしさの方向へいくんです。
 例えば、CD2とサンスイのAU−D507Xを組み合せて鳴らせば、アンプの温かい音とCD2の中域の豊かさが、相乗効果で、ファットになりすぎる危険性があります。この点が、組合せのおもしろいところで、ふたつを組み合せることで、お互いによさを生かしあったり、欠点を補ったりすることができる。
 同じスピーカーを使いながらも、三つの組合せはそれぞれに違った音を出してくれました。けれども、音とは正直なもので、クォリティの追求ということでいったら、いちばんお金のかかった、最後のA2000とCD2の組合せが一番高い。前二者は金額の差はありますけれども、クォリティの差よりも、音色の傾向の違いの方が大きいと言えます。

JBL 4425

菅野沖彦

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「SS HOT NEWS」より

 JBLから、新しいモニタースピーカーシステム4425が発表された。この3月、ノースリッジのJBLの工場を訪れ、これを試聴する機会をもったが、その後、私の帰国と同時に日本に送られてきた製品を自宅で聴く機会も持てたので、簡単に御紹介してみたい。
 4425は、そのモデルナンバーからしても明らかなように、4435、4430のシリーズとして開発されたものであり、バイラジアルホーンと呼ぼれる垂直・水平方向の指向性を100度×100度でカバーする(コンスタントダイレクティヴィティ)高性能ホーンをもつ高域ドライバーを特徴としている。4425に使用されているバイラジアルホーン2342は、4435、4430に使われでいる2344ホーンのスケールダウンモデルであるが、その性能は、クロスオーバーの1・2kHzに至るまで平均した指向性パターンであることに変りはない。ドライバーは2416という新設計のもので、チタンダイアフラムにダイアモンドエッジ構造をもつなど、JBLのニューテクノロジーが生かされている。低域のユニットも、2214Hという新設計のもので、口径は30cm、ボイスコイル径は7・6cmの強力なものだ。バスレフタイプのエンクロージュアは40・6cm×63・5cm×31・1cmと、大型のブックシェルフサイズといってよいものである。ネットワークは2ウェイではあるが高域のパワーレスポンスを、絶対レベルとは別に調整でき、12dB/octのものだ。
 4400シリーズのバイラジアルホーンは、その奇異な外観のためか、わが国における人気は今一つ……の印象を受けるが、その性能の高さは、さすがにJBLらしいもので、その優れた放射パターンによる音色の自然さと音場の豊かさは、もっともっと高く評価されて然るべきものだと思う。この製品では、小型化されているので、それほど奇異な感じも受けないし、チタンダイアフラムのコンプレッションドライバーとの組合せで、きわめて精度の高い緻密な音を再生する。しかも、たいへん滑らかなレスポンスのため、質感の品位も高い。そして、新しい2214Hウーファーがエネルギッシュな面からも、質的違和感がなく、よくつながっていて、全体のバランスは4430、4435をも上廻る完成度をもっている。200ワットの連続プログラムに対応するパワーキャパシティをもつ、このシステムの音は、JBLのコンプレッションドライバーシステムらしい安定性と、タフネスにより圧倒的な迫力が得られるし、音の質感は明らかに、新世代の製品らしい品位の向上が認められるものである。一般家庭用としても手頃なサイズでありながら、本格的な再生音は並のスピーカーとは異次元だ。

マッキントッシュ XRT18

菅野沖彦

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 XRT18という新しいスピーカーシステムがマッキントッシュから発売された。そのモデルナンバーからしても、また、全体のサイズからも、あのXRT20の弟分であることを想像する人が多いだろう。それは、しかし、全面的に正しい推測ではない。理由は、この製品が、XRT20にない、一歩進んだテクノロジーに裏打ちされたものだからである。ウーファー以外のユニットは全く新しいものに代っている。それだけではない。トゥイーターコラムが、一段と進歩し、時間特性の向上を見ているのである。
 もともと、このユニ−クなマッキントッシュのスピーカーシステムは、全帯域にわたって、位相特性を精密に調整し、ステレオフォニックな空間イメージと、楽器の音色の忠実な再現を実現したところに大きな特徴があった。真のステレオスピーカーと呼ばれる所以である。XRT18ではこれを一歩進め、トゥイーターコラムを構成する16個のユニット相互の関連にまでメスを入れたのである。つまり、XRT20では24個のユニットを使ったトゥイーターコラム全体を、スコーカー、ウーファーとタイムアライメントをとるにとどまっていたのであるが、今回は、そのコラム内でのアライメントまでとっている。そして、トゥイーターコラムは、スコーカー/ウーファーエンクロージュアとインラインで使うようになった(XRT20は、エンクロージュアのサイドにコラムを置いていた)。トゥイーターは、上下二個ずつ一組として順次時間調整がほどこされているのである。これには、ハーバード大学の大型コンピューターを使って膨大な計算をおこなったということだ。この結果、高域は一段と滑らかで、しなやかなものとなり、音色の再現はより忠実になった。XRT20もそうだが、もはや、そこにはスピーカーの存在が意識されなくなった観がある。
 また、このシステムも、マッキントッシュらしい細かなノウハウがみられ、〝よい音〟のための技術の柔軟性が大人の考え方として現われている。一方において、緻密な計算と測定によるテクノロジーの追求がおこなわれ、他方において、そうした経験によるコツとでもいったものが無視されていないのである。つまり、剛性といえば、それ一点張り、軽量化といえば、他に目もくれないといった近視眼的なアプローチに傾くメーカーのような子供っぽさはないのである。
 その一例として、このシステムのウーファーのエンクロージュアへの取付けを御紹介しておこう。ウーファーはエンクロージュアのバッフルボードに強力に締めつけるのが一般的である。特に密閉型の場合、エアータイトの面からも、この傾向が強い。しかし、XRT18のウーファーのフレームは直接バッフルボードに固定されていないのである。フレームのエッジは、エアーシールドも兼ねた弾性材のガスケットを介してバッフルボードに密着し、その上から別の弾性材を二重に介して、リング状のキャストフレームで圧着されている。今時、こんな非常識とも思える方法で、しかも手間暇かけて、ウーファーをマウントしているのは、マッキントッシュとしての理由があるからこそだ。何が何でも剛性一点張りの考え方で、ギューギュー締めつけ、補強のかたまりのような箱に改造し悦に入っている中途半端なエンジニアやアマチュア諸君の顔が見たい。どんなに剛性重視でやってみても、所詮は、物質や形状の本性をコントロール出来るものではないし、やればやるほど自然性から離れ、アンバランスな弊害が音となって現われる。肩肘張った、ガチガチのオーディオ的低音が好きならそれもよかろう。しかし、いい加減に不自然なオーディオサウンドから脱脚したほうがよい。ものごと全て、バランスが大切であり、トータルとしての視野をもって、音の自然な質感を追求すべきではないだろうか。このXRT18の方法がベストとも思わないし、未来に向って絶対的だとも考えられないが、少なくとも、音を目的とした行為である以上、見習うべき姿勢であろう。
 MQ107とう専用イコライザーを使って、部屋との総合特性を調整する点はXRT20と同様であり、入念な調整で部屋の欠点をカバーし、かつ、聴き手の感性にぴたりと寄りそわせる努力は必要である。私はXRT20と、もう三年も取組んでいるが、確実にその努力は報いられ、しかも、まだまだよくなりそうな可能性を感じているほどである。スピーカー自体に強引な主張と個性がないように感じられるが、実は、自然に、素直に鳴るという性格こそ、最も重要なのである。

JBL 18Ti(組合せ)

菅野沖彦

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「CDで聴く海外小型スピーカー中心の組合せに挑戦」より

 JBLの18Tiというのは、同社の新しいTiシリーズの中の一番小さいモデルです。JBLにはコンプレッションドライバーを使ったシステムが上級機種にあって、そのJBLのコンプレッションドライバーのすばらしさが、多くのファンをつくってきて、JBLサウンドを確立したきたわけですが、JBLは同時に、ダイレクトラジェーターの持っている能力も追求しようということで、コーン型ウーファーにドーム型のユニットを加えたブックシェルフ型のスピーカーも、かなり長い間、手がけています。
 Tiシリーズというのは、Tiという言葉が示しているように、チタンのダイアフラムを待ったドームトゥイーターを開発して、それを採用したシリーズなんです。18Tiは、いちばんローコストのモデルなんですけど、JBLの、ダイレクトラジェーターを使ったスピーカーで一つの完成度を見たシステムではないかと思います。
 小型ではありますけれども、JBL伝統の非常に力のある、エネルギッシュな、そして音像の輪郭の明快なサウンドというのは、依然として持っている。さらに、新しいドームトゥイーターのおかげでしょうか、高域が非常にスムースになってきています。これは、物理特性を追求していくと、どうしてもこういう傾向になるわけで、高域のスムースさは、明らかに特性の改善なんです。そのスムースさゆえに、古いJBLのスピーカーの、言うならば毒が薬になっている個性が、やや丸められ薄まったと言う人もいますけれども、音の個性というのはどんなに物理特性を追求していってもなくなるものではないと思いますし、毒として残っている部分を、特性をよくしてなくしていくということは、オーディオが科学技術の産物である以上、必要なことだと思います。ぼくは、いささかもTiシリーズが、JBLのサウンドを損なってはいないと思います。むしろ、JBLサウンドの本質を理解すれば、これは明らかにJBLの音を保っているものだと思います。ただ、表面的な、外面的なところでJBLサウンドをとらえると、変わったとか、角が矯められたとかいう受けとり方になるかもしれませんが、JBLの音というのは、そういう外面的なところで理解すべきものではないと思っているんです。
 18Tiの音も、いかにもアメリカ的で、そこには、アメリカ文化の独自性がありますが、そのアメリカ文化というのは、異質な文化のまじり合った、ある意味では非常にコスモポリタンな文化だと思うんです。ですから、JBLのサウンドは、確かにアメリカ的なサウンドですけれども、しかし、それは非常にコスモポリタンなミックスされた文化から生まれてきているだけあって、ある種のプログラムソースにしか向かないというようなことはないと思うんです。実際、この18Tiを聴いてみても、こちらの狙いによっていろいろと変化してくれます。つまり、このスピーカーをアメリカ的な、かなりギラッとした音で鳴らして、例えばショルティのマーラーの録音の音を生かしていこうとすれば、その方向で鳴りますし、それからハイティンク、コンセルトヘボウのようなヨーロピアンサウンドのしなやかさと、ややベールをかぶったようなニュアンスというものを求めようとすれば、そのようにちやんと鳴るんです。これは、やはりJBLスピーカーの持っている能力の高さだというふうに、ぼくは解釈します。
 組合せは三例つくるわけですが、それぞれニュアンスの異なった音で鳴る組合せになったと思うんです。最も安いトータル金額にまとまったのが、ヤマハのA550というプリメインアンプと、マランツのCDプレーヤーCD34の組合せです。マランツのCD34を使ったというところから推測できると思いますけれども、このスピーカーから、ヨーロピアンサウンド的な特徴を、ちゃんと鳴らせるかどうかを試してみたわけです。
 その結果は、A550の持っている素直さが大きく作用したと思いますが、CD34の持っているヨーロッパ的雰囲気が非常に生きてきて、ヨーロッパ録音のヨーロッパサウンドというものが、ちゃんと出てきました。この組合せは比較的コストを安くしようという目的だけではなくて、18Tiから、ヨーロッパの伝統的な音楽を違和感なく聴こうと思うときの組合せとしても成功したと思います。
 この組合せで、音源主義的な、ショルティのマーラーを聴きますと、ギラギラとした録音の本質は変わらないけれども、そこに雰囲気が出てきますね。木管が非常にフッと脹らむような音になってきますし、弦の鋭さもやや角が取れて、しなやかさも出てくる。そしてフィルクスニーのピアノを聴くと、非常にソフトなやさしいタッチによる、彼の音楽性がとても生きてきたと思います。
 二番目の組合せは、プリメインアンプにデンオンのPMA940V、CDプレーヤーはパイオニアのPD7010です。この組合せはJBLのはつらつとした音を出す組合せと言えると思うんです。特に、この組合せによる、ショルティのマーラーとかジャズは大変に輪郭の明快な、よく弾む、明るいいい音で鳴ってくれました。ただし、明快な傾向が非常に強くて、ヨーロッパ的な雰囲気の音や音楽には、少々違和感を持つ結果になりました。ですから、最初の組合せと、対照的な音の組合せというふうに考えていただいていいと思います。ショルティのマーラーの迫力、録音の特徴をよりストレートに出したのは、こちらの方かもしれません。ただ、このロンドンの録音に抵抗のある方にとっては、最初の組合せの方がいい音だと聴こえるでしょう。この二組の組合せはそういう関係にあります。
 三番目がいちばん高い組合せで、プリメインアンプはサンスイのAU−D707X、CDプレーヤーはヤマハのCD3です。この組合せから出てくる音は、前二者の音の中間に位置しているといえるでしょう。ギラッとした音にも偏らず、ヨーロッパ的な、やや薄曇りのような音にもならない、ちょうどその中間をいくような音です。
 ヤマハの製品は、前の組合せに使ったA550、そしてCD3も素直な性格を持っている。魅力の点では、この上のCD2が持っているトロッとした中域がないので、CD2と比べるとものたりなさを感じていましたが、素直さでは、CD3の方が上ですね。アンプやスピーカーの組合せに素直に応じていくという特質を持っているとも言えます。そういう意味で、CD3はなかなかいいCDプレーヤーだと思います。
 AU−D707Xも、非常に中庸をいった、普遍性のある音のアンプだなということを再確認しました。おそらく、このアンプで鳴らした18Tiの音というのが、18Tiの持っている能力の幅みたいなものを、一番ストレートに出してくれたと思います。ですから、プログラムソースによって、どっちらにもこなせるということに通じる。非常に中庸をいった、いい組合せです。三者三様はっきりとした音の傾向の違いというものが、18Tiから出てきたんではないかと思います。

B&O CX100(組合せ)

菅野沖彦

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「CDで聴く海外小型スピーカー中心の組合せに挑戦」より

 B&Oは、ホームエンターテインメントという主張の中でオーディオ製品をつくっていくという会社ですから、機械が圧倒的に存在を主張するというような、マニアックなオーディオ機器は決してつくらない。こういういき方は、ともするとイージーな安物というふうに受け取られがちですが、B&Oの製品はそんな感じをまったく与えない。家庭で使われることを充分考慮した上でクォリティを追求していこうというメーカーですから、カートリッジ、スピーカーに関しては、超一級の物理的特性を持ち、かつ、すばらしい洗練された感覚を聴かせてくれるものがあります。
 CX100は、そのB&Oのスピーカーシステムの中で、壁かけ用としても使える、もっとも小型のスピーカーシステムで、10cm口径のウーファーを二発と、ドームトゥイーターを、アルミ製のエンクロージュアに収めた2ウェイシステムです。形は、同社の高級スピーカーと同じ湾曲型のバッフルを使った、本格的な同社の主張の見られる仕上げになっています。ユニットも、相当質の高いものでしょう。
 今回、ぼくが聴いたスピーカーの中ではいちばん小型ですが、音の質感はすばらしいものを持っています。先ほど、BOSEの301MMIIを、デニーズとか、マクドナルドに例えた例でいけば、こちらは小じんまりとした、しかし、非常にいい味を食べさせるビストロだという感じがします。ヨーロッパの味わいを、質で追求したいという人にとって、このスピーカーはすばらしいものだと思います。非常に小さいスピーカーですから、量は大型スピーカーのようには望めませんが、聴き手であるこちら側が頭の切りかえされすれば、十分な量感も味わえるスピーカーです。量より質というものを追求する、これは音のグルメの、いわゆるコニサーのためのスピーカーだという感じがするんです。
 このCX100で、ハイティンクのマーラー、あるいはルドルフ・フィルクスニーのピアノなどを聴きますと、本当に、ヨーロッパの文化の薫りが馥郁として薫ってくる。特に、フィルクスニーは、ヨーロッパのよき時代の薫りを待った、数少ないピアニストの一人なわけです。彼のそういう薫りが、大型スピーカーでもめったに聴けないんではないかと思うくらい、すばらしいニュアンス、雰囲気で聴けるんです。フィルクスニーのピアノの特徴が、最も生きるスピーカーという感じを持つくらい、よく鳴ってくれました。
 小型スピーカーであるだけに、ディスパージョンが非常によく、空間の再現がものすごくいい。位相差、時間差をきちんととった、オーソドックスな空間収録をした録音ならば、オーケストラを聴いても、量感を持った雰囲気を十分に伝えてくれる。ぼくはこの音に身震いするぐらい、ほれぼれとしてしまった。CX100が聴かせてくれたような音の質感を知り、その質感そのままで、リアリティとスケールの大きさを追求していくという方向でいってくれたら、オーディオは非常にすばらしい方向にいくだろうと思います。そういうことを感じさせるほど、B&OのCX100というスピーカーは、すばらしいと思います。
 CX100が持つヨーロッパの薫りを生かすには、CDプレーヤーに同じヨーロッパの雰囲気を伝えてくれる、マランツのCD34を使うことに決め、組合せを考えてみました。
 アンプは、本当は、このスピーカーのたたずまいにふさわしいセンサブルな製品が欲しいところなんですけど、いまの日本のプリメインアンプから、それを探すのは困難ですので、せめて、音だけでも、CX100にふさわしいアンプというような考えで、アルパイン・ラックスマンのLV105を選んでみました。このアンプの持っている音のニュアンスは、独特でコニサー的と言え、非常に音が軽やかに浮遊し、漂うような感じなんです。決して、音がへばりついたり、押しつけがましくなったりしない。このアンプを組み合わせてCX100から聴こえてきた音も、非常に豊かなふわっとした奥行きのある、空間の厚みまでをよく出してくれるものでした。CD34という、いい雰囲気を出してくれるCDプレーヤーと、このスピーカーとの間にあって、立派に間をつなぐ役目を果たしてくれた感じです。この組合せは、本当に音楽を非常にいいセンスで、もとの音楽の持っている薫りを楽しみたいという方に勧めたい。
 二番目の組合せは、CX100の、性能的な優秀さを引き出してみようという考えで、マランツPM84とソニーのCDP302ESとを組み合わせてみました。LV105は、他のアンプではちょっと聴けない内声部の美しさがある反面、ちょっと上と下の帯域が弱い。他のアンプにないよさを持っていますが、他のアンプにない弱点もある、という微妙なアンプなんです。それに対してマランツのPPM84は非常に中庸を得た音のバランスを持つアンプなのです。
 CDP302ESは、CD34と比べると雰囲気ではやや劣るところがありますが、情報量の豊かさ、音の伝送の正確さという面では優れており、使ってみたということです。
 この組合せで聴きますと、このスピーカーではちょっと無理だろうなと思われるような、音源主義の録音、例えば先ほどから言っている、ショルティのマーラーのような録音が意外に生きてくる。この組合せは、このスピーカーが、ただ雰囲気だけで聴くためだけのものではないことを証明できたように思います。最新録音のものにも、細部にわたり充分対応してくれるだけの能力を持っています。ですから、ショルティのような録音の好きな方、またヨーロピアンじゃなくて、少しアメリカン、あるいは最近の日本の傾向の音を、このスピーカーから聴きたいというような向きには、この組合せが合うんではないかと思います。
 そこで、第三例は、もう少しお金を出して、いま手に入るものの中で、音、アピアランスも含めて、このスピーカーを生かし切る組合せを考えてみました。頭に浮かんでくるアンプは、メリディアンのMCA1です。今回は、プログラムソースにCDしか使っていませんから、予算を少しでも下げる意味もあって、モジュールはCD用一つというシンプルな形をとりました。アンプに、MCA1を使いますと、CDプレーヤーも、やはり同じメリディアンのMCDを持ってきたいところですが、約20万円とかなり値段が高くなるので、あきらめざるをえない。そうなると、CX100の持ち味を生かすCDプレーヤーとなると、やはりマランツのCD34にどうしてもなってしまうのです。予算の関係もあって、第一例と同じものになってしまいましたが、このスピーカーの再現するヨーロッパ音楽の豊かな薫りを再現できるCDプレーヤーとしては、現状では、このCD34がベストといわざると得ませんね。
 トータル金額がかなり高いものになりましたが、出てきた音は、本当にほれぼれとするほどのものです。もう本当に、美味ですな、これは。本当にグルメの音だと思いますね。こんなにすばらしいセンスの音は、ちょっとほかではなかなか得がたいんではないでしょうか。リアリズムを追求するとか、大きな音でガーンと音を体感するとかいうようなことではなく、インテリジェンスとセンスで趣味のいい音楽を聴こうと思ったら、この組合せは、大変ハイクラスなものだと思います。

BOSE 301MM-II(組合せ)

菅野沖彦

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「CDで聴く海外小型スピーカー中心の組合せに挑戦」より

 BOSEのスピーカーというのは、一般的なスピーカーの考え方とは違って、間接音を豊かに再生することによって、より自然な音が聴けるという主張のもとにつくり出されたもので、この思想をはっきりと具現化したのが、901です。901ほどまでには同社独自の思想が徹底して生かされていませんが、よりコンベンショナルな形で実用的なブックシェルフ型にまとめたのが301MMIIといえます。トゥイーターを二個、角度を変えてエンクロージュアにマウントし、高域を拡散するところにBOSE独特の考え方が生きていますが、全帯域はほとんど正面へ出ていますから、まったく普通のスピーカーと同じように使えます。
 BOSEの音の特徴、個性を一言にして言うと、アメリカ文化の音だと思うんです。それも301MMIIは、アメリカ大衆文化の音ですね。このスピーカーを聴くたびに思い出すのはマクドナルドとか、ケンタッキーフライドチキン、デニーズ、これらを思い出します。非常に大衆的ではあるけれども、ある文化の薫りを、それも異文化の薫りを持つことで成功している。そして、大衆的な値段ではあるけれども、ある種の格好のよさも保っている文化性が、BOSEの301MMIIとか、あるいは101MMの持っている音の特徴というものに、非常に合っていると思うんです。アメリカで生まれた大衆文化の中から誕生したものですから、よく売れるスピーカーだと思うんです。つまり、個性が非常にはっきりしていて、思い切りが非常にいい。特に、BOSEは小型のスピーカーで大型スピーカー並の十分な馬力を出す、パワーハンドリングも優れているというところに特徴があるわけです。この301MMIIも、相当パワーをぶち込んでもびくともしないというところが、大きな特徴と言えます。しかも出てくる音は、音量を絞ったときでもパワー感のある、非常にエッジのはっきりとした、あいまいさが全然ない、明快そのものな音と言えます。そして、その色合いが非常に濃厚であるため、他と比較するまでもなく印象づけられてしまうスピーカーです。
 デリカシーという点に関しては、文句を言いたいところもあります。しかし、きちんとしたオリジナリティを持っていますから、ある意味では、現代の大衆の心をばっちりつかむ音だと思う。そういう点で、このスピーカーを高く評価します。
 とにかく比較的安い値段で、異文化の薫りがあって、しかも何か強烈な個性の主張を聴きたいということだったら、迷うことなく、この301MMIIを勧めます。日本のスピーカーにものたりなさを感じ、もうちょっとコクのある音で、思い切り鳴らしたいというような要求を持っている人には、まさにぴったりのスピーカーです。それだけ、他のスピーカーと違ったよさを持っているということです。
 このスピーカーはペアで10万円を切る値段です。普通だったら、異文化の薫りを味わえる値段ではないともいえるわけですから、非常に安い買物と言える。だから、組合せのトータル額もできるだけ安く抑えて、異文化の薫りを充分に味わってみようということで聴いてみました。
 このスピーカーは、ボストン・アクースティックスのA40Vのようにいろんな方向にもっていくということは望めない。とにかく301MMIIが目指している方向を、ぎりぎりまで生かすべきだと考えて、最初の組合せは、アンプにオンキョーのA815RXと、CDプレーヤーはパイオニアのPD5010にしてみました。
 A815RXは、同社のプリメインアンプの中で一番安いアンプですが、オンキョーが追求してきた、電源の問題の解決によるスピーカーのドライブ能力の向上が、このA815RXからも充分感じられます。この値段のアンプとしては非常に力のあるアンプですね。その分、高域にややキャラクターがついていて、繊細な品位のある音を望むと、ちょっと艶っぽかったり癖があったりという感じがしますが、301MMIIを鳴らす限りにおいては、むしろ、それがいい方向に作用して、生き生きはつらつと鳴ってくれる。A815RXと301MMIIのコンビというのは、値段的な点からいっても非常によくマッチした組合せだと思います。
 PD5010は五万九千八百円という、現在のCDプレーヤーの最低価格のところへぶつけてきたパイオニアの意欲作ですが、ソニーのD50とか、あるいはマランツのCD34とは一味違っていますね。CD34やD50は独特のコンセプトの方向に踏み切っていますが、PD5010というのは、より価格の高いCDプレーヤーのコンセプトを、ぐっと値段を下げて実現したという感じがします。音も、非常に明快でふっきれてますね。CD34のように、何か雰囲気をつくろうというのでもなければ、D50のように徹底的に、小型軽便で、音も非常に明るい方向に徹しているわけでもない。つまり、その中庸をいくというのか、非常にまともな音です。つくりも非常にまともです。実際にさわってみてびっくりしたのは、メカノイズ、サーチノイズが少ないし、アクセスが早い。上級機種に堂々と伍していけるようなフィーリングを持っていることです。
 こうしてA815RXとPD5010と並べて置くと、デザイン的にもまったく違和感がない。同じブラックで、色合いの調子も合ってるから、デザイン的にも統一されるし、当然、音的にも非常にうまくいった組合せだと思います。できるだけ値段を安くして、301MMIIの能力をフルに発揮させる、という意図が見事に成功した例です。
 二番目の組合せは、NECのプリメインアンプA10IIとCDプレーヤーCD609を使いました。NECの製品には、常に高性能ということが印象づけられる。音の情緒性、感性という点で、やや現代的過ぎて、ぼくにはついていけない面があるのもたしかです。しかし、保証された物理特性のレベルは、非常に高いものです。その保証された高いレベルの物理特性で鳴らせば、301MMIIの個性と能力が相当なレベルで発揮できるんではないかという気持ちで鳴らしてみたわけですが、非常によく合うんですね。最初の組合せ以上に、性能のいいことを感じさせる音になります。音に精巧さが加わって、ソリッドです。アキュラシーというよりも、プリサイスな感じです。最初の組合せと同じ方向の音ですけども、明らかに、こちらの方がクォリティアップしたという感じがします。
 この301MMIIのようなスピーカーになりますと、鳴らすソースがはっきりと決ってくる。例えば、マーラーのシンフォニーでいえば、今回ハイティンクの第四番と、ショルティの第二番を使ったんですが、301MMIIはショルティ盤が相応しいですね。この両者は演黄も違えば録音も全然違う。ショルティの第二番の、ロンドンのレコーディングは、徹底的に拡大鏡でオーケストラを部分的にのぞいていったような録音なんです。マルチマイクロフォンの一つの極だと言える。こういう録音は、絶対的に、あるレベル以上の性能がないと、全然生きてこない録音になる。雰囲気でフワッと聴けない音です。ところがハイティンクの方は、雰囲気がよくない装置でないと聴けないというくらいに、両者にははっきりとした録音のコンセプトの違いがあるし、演奏にもはっきりとした違いがあります。ショルティはアメリカの指揮者ではないけれど、彼の演奏というのは、極めて戦闘的で、真っすぐ猪突猛進するところがある。それと、アメリカのオーケストラとが組み合わさって、そして、ロンドンの録音でマーラーをやられると、独自の世界と言わざるを得ないくらいになる。こういうマーラーもあってもいいんだろうけれども、一方に、ハイティンク、コンセルトヘボウの、繊細緻密でロマンティックなマーラーもある。BOSEのスピーカー音は、ハイティンクのマーラーとはまったく異質だという感じがするんです。ところが、ショルティをかけると、小型スピーカーとは思えないくらいのダイナミズムを発揮して、快適な爽快感が味わえる。
 三番めの組合せも、前の二例と同じ方向を狙いますが、もう少しパワーハンドリングを上げたいと思って選んだのが、マランツのPM84です。CDプレーヤーのソニーのCDP302ESと組み合わせて鳴らした音は、前の二例と比べて少し雰囲気が出てきます。A10IIが、いわば冷徹とも言えるハイパフォーマンスな感じに対して、マランツとソニーの音は、そこに少しぬくもりとある種のしなやかさが加わってきたように思います。
 クォリティ的には互角の第二例と第三例のどちらを選ぶかとなると、徹底的な現代性というものを求めるんだったら、NEC同士の組合せの方を、そこにニュアンスを求めたいのならば、マランツとソニーの組合せ、といったところです。

JBL 120Ti

井上卓也

ステレオサウンド 74号(1985年3月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より

 JBLからコンシュマープロダクツの新ラインナップとして、Tiシリーズが登場することになった。この新シリーズは、従来のL250をトップモデルとしたしシリーズに替わるべき製品群で、現在、250Ti、240Ti、120Tiと18Tiの4モデルが発売されているが、そのモデルナンバーから類推しても、120Tiと18Tiの中間を埋めるモデルが、今後登場する可能性が大きいと思われる。
 新シリーズの特徴はスコーカーの振動板にJBLとしては、初めてのポリプロピレン系の材料と、既にコンプレッションドライバーユニットのダイヤフラムとして、2425、2445に採用されているチタンをトゥイーターダイヤフラムに採用したことである。ちなみに、Tiシリーズの名称は、このチタンから名付けられたものだ。
 新シリーズの4モデル共通に採用されているトゥイーター044Tiのダイヤフラムは、25μ厚のチタン箔をダイヤモンドエッジと特殊形状のドーム部分とを下側から渦巻状の窒素ガスを吹付けて一体成形してあり、ドーム部は、強度を確保するために放射状に配した4本のメインリブと2本の同芯円リブ、さらに、両者の交点をつなぐサブのリブを組み合せた特殊構造により、2425などに採用された250μ厚のチタンと同等の強度を得ており、従来の044と比較して出力音圧レベルが、3dB、許容入力も30Wのピンクノイズに耐えるまでに向上しているという。また、周波数特性も−3dBで23kHzと伸び、ダイヤフラムが軽量化されたため、過渡特性も優れ、デジタル録音に素晴らしい立上がりを示す。
 一方、ポリプロピレン系の振動板もJBLとしては初採用だが、従来の紙に替わって新採用されたのは、19Tiの16cm口径ウーファーが最大のサイズであり、それ以上の口径では、紙のほうが便利との結論のようであり、安易に、より大きな口径のコーン型ユニットに採用しないのは、名門の見識とでもいいたいところだ。ある雑誌に240Tiの36cmウーファーも特殊ポリプロピレンコーン採用とのリポートがあり、一瞬、驚かされたが、資料をチェックしてみれば明らかに誤報である。それほど、ポリプロピレンで大口径コーン型ユニットを開発することは、困難であるわけだ。なおJBLで採用したポリプロピレンは、炭素粉を適量混入して硬度を上げているとのことで、3ウェイ構成以上のコーン型スコーカーは、すべて、この特殊ポリプロピレンコーン採用である。
 その他、エンクロージュア関係では、フィニッシュがチーク仕上げとなり、グリルが、フローティング・グリルと呼ばれるグリル枠の反射によるレスポンスの劣化を防ぐ構造が新採用されている。また、上級2モデルは、バッフルボードの端にRをとった、ラウンドバッフル化が特徴である。
 今回、試聴した120Tiは、Lシリーズでは、ほぼ、L112に相当するユニット構成をもつ3ウェイ・システムである。
 30cmウーファーは、独特な魅力のあるサウンドで愛用者が多いアクアプラス複合コーン採用で、表面からスプレーをかけて黒に着色してある。磁気回路は当然のことながらJBL独自のSFGタイプだ。
 13cmコーン型スコーカーは、特殊ポリプロピレン振動板採用の104H、トゥイーターは、シリーズ共通のチタンダイヤフラム採用のドーム型ユニット044Tiだ。
 エンクロージュアは、リアルウッドのチークを表面に使い、40年間のキャリアを誇るJBL伝統のクラフトマンシップを感じさせるオイル仕上げであり、ユニット配置は左右対称ミラーイメージペアタイプであるが、左右の木目はリアルウッド採用の証しで、絶対に一致することはない。
 また新シリーズは、Lシリーズではバッフル面にあったレベルコントロールが、スイッチ型になり裏板の入力端子部分に移され、不要輻射を防ぐとともに、接点部分の信頼性が一段と向上し、音質的なクォリティアップがおこなわれている。
 試聴は、スタンドにビクターLS1を、底板にX字状にスタンドが当たる使用方法ではじめる。最初の印象は、JBL独特の乾いて明るい音色が、少し抑えられ、穏やかさ、スムーズさが出てきた、といったものだ。スタンド上で位置の移動でバランスを修正し、ユニット取付けネジを少し増締めすると、反応がシャープになり、全体に引締まった音に変わってくる。良い意味でのポリプロピレン系の滑らかさ、SN比の良さが中域をスムーズにし、チタンの抜けの良さが、音場感の拡がりと、低域の活性化に効果的だ。かなり楽しめる新製品だ。

オンキョー Grand Scepter GS-1(組合せ)

菅野沖彦

ステレオサウンド 74号(1985年3月発行)
特集・「ベストコンポーネントの新研究 スピーカーの魅力をこうひきだす」より

 オンキョーGS1は、オールホーンシステムという、スピーカーの構造としてはっきりとした特徴を待ったスピーカーです。低域までホーン型を使ったオールホーンシステムというのは、ダイレクトラジエーター方式のシステムと比べていろいろな点でメリットが多く、そのことは理解されていたわけですが、その反面のデメリットも非常に多かったと思います。それを理解した上で、ごくごく特殊な人たちが、そのデメリットを使いかたで何とかカバーして、すばらしい音にしているというような状況であったわけだけれども、メーカーの製品でオールホーン型スピーカーを、ここまでまとめたシステムというのは初めてだろうと思います。
 ホーン型スピーカーのメリットは何かというと、いちばん大きいのは非常にトランジェントがいいということでしょう。それから、ホーンによって非常に能率が高くできる、この2点が大きなメリットとしてあります。それに対して一般的なデメリットはなにかというと、まずホーンの鳴きがどうしてもとれないということでしょう。ダイヤフラムから出た音がホーンから放射されるときに、いろんな反射音をつくり出してしまう。そのために、本来の再生音にホーン鳴きが加わって、独特の音色をつくる。ある意味では、その独特の音色というものが、個性的なホーンのよさとして好まれている面もあったわけだけれども、正しい再生をするためには、一つの問題であったと思います。
 GS1は、ホーン型のウィークポイントとされていた部分にメスを入れたシステムで、オンキョーが一番力をそそいだのは、そのホーン鳴きをまずなくすことだったといいます。さらに、ホーン内部における音の反射をなくし、再生周波数帯域内でのリスニング位置への音の到達時間がきちんと等しくなるような努力をしたという。それによって、非常に忠実な音色というものが得られるようになったのが、このGS1の一番大きな特徴だと思います。
 今までのスピーカーシステムで、各周波数における聴取位置までの到達時間をきちんとそろえるということは──言い換えれば完全にリニアフェイズで再生するということは──ダイレクトラジエーターにおいては幾つかの例があります。しかし、ホーン型でこれを実現したというところに、このスピーカーの一番の特徴がある。それによって、スピーカーとして完璧なものになったとは言わないけれども、ホーン型スピーカーのよさというものがさらにクローズアップされることになりました。
 ただ、一方において、このスピーカーといえども、いろいろ限界がありまして、特に一番ネックになっているのは、ホーンでありながら能率が低いということです。この規模のホーンシステムならば、100dB/W/mぐらいの能率が稼げてしかるべきですが、公称値は88dB/W/mにすぎないわけです。実際には、聴感的なレベルでは、86dB/W/mぐらいの感じです。
 なぜこれほど低能率になってしまったかというと、低音ホーンに全体の能率を合せようとしたからなのです。このスピーカーの場合には、オールホーンシステムとするために、低域まで完全にホーンロードをかけています。このGS1に使われている低音用ホーンは、非常にきれいに低域までホーンロードがかかるんだけれども、低い帯域ですと非常に能率が低くなる。そこの帯域にすべてのユニットの能率をあわせる必要があったわけです。
 したがって、ホーンドライバーの能率の良さは、絞りこまれて犠牲になって使われているということで、全体としては88dB/W/mの能率しかないというところが、一番大きなデメリットです。
 そういうわけで、決してこれが理想的なスピーカーとは言えないわけですが、今までのスピーカーの歴史の中で、オールホーン型でここまでホーン鳴きと時間特性というものを追求し、それをコンシュマーユースのスピーカーとして具体化したものはなかったわけで、そこが素晴らしい。
 しかも、フロアー型のオールホーンスピーカーではあるけれども、比較的コンパクトに、家庭で使えるサイズにきちんと全帯域がまとめられているということも、これも一つの商品として見ると、非常に画期的と言えます。
 ただ、時間特性をあまりにシビアに追求し、ホーンの内部での反射を極限までカットしたことで、時間特性がスピーカーの開口面においてきれいにそろってはいるものの、実際にスピーカーをリスニングルームに置いたときには、リスニングルームの中に全体の音が拡散していきますから、したがってリスナーの位置で聴くときには、完全にあらゆる周波数帯域の時間がぴしっと一致するということは、これは無響室でもない限り不可能なわけです。しかし、ごく短いところでの一次反射の時間ずれさえなければ、あとの反射音は空間のライブネスとして私たちは認識できますから、音色の忠実性を確保するためには、非常に短い時
間でのおくれ、つまり一次反射──スピーカーのすぐ側面に反射性の壁があるというような状態でおこる──を排除するということが重要です。その点をきちんとしてやれば、このスピーカー独特の音色の忠実性というものを楽しめます。
 そういう意味で、今までのスピーカーよりも、多少、置き方とか使い方が難しいと言われるのもいたし方のないことではないかと思います。
 今まで、このスピーカーはいろいろなところで聴いてきましたが、どちらかというと能率が低いために、よほどのハイパワーアンプでドライブしない限りは、大きなラウドネスで鳴らすというチャンスがありませんでした。しかも非常にデリケートな音色の忠実性を持っているものだから、ついつい比較的低いレベルでの音のデリカシーを活かすということで、クラシック中心に聴いてきたように思うのです。
 せっかくのホーンシステムが持っているハイサウンドプレッシャーレベルの再生音の良さということを、今まで無意識ではあるけれども、聴いてこなかった。それでこの際、ハイパワーアンプで、このスピーカーから大音量再生してみたいと思ったわけです。このスピーカーの能力としても、能率は低いけれども、逆に許容入力は、オンキョーの発表データを見ても、3kWと書いてあり、88dB/W/mの出力音圧レベルでも、瞬間で3kW入れたら、相当な高いSPLに達するわけです。
 それで、このスピーカーでハイSPLの必要な音楽を聴いてみたいという、かねがね思っていたことを今回試してみました。高いSPLで再生する音楽というと、すぐフュージョンとかロックが思い浮かぶかもしれませんが、実際にはそれほど単純なものではありません。しかも、フュージョンとかロックというのは、電気楽器を多用していますから、その音を主観的にいい悪いということは自由に言えるけれども、本当に正しい音であるかどうかはわからないし、ある意味では、ソースそのものが、このスピーカーの持っているクォリティよりも悪いクォリティの音である場合が多いですから、このスピーカーの能力を考えたときに、ハイサウンドプレッシャーレベルでしかもアコースティックなものと考えた結果、僕はやっばりオーソドックスなジャズのフルバンドの演奏を、このスピーカーで聴いてみたいというふうに思いました。この組合せでは具体的に、僕が一番好きなカウント・ベイシーのオーケストラのレコードを、このスピーカーがどんなふうに再生するかがポイントです。
 ハイサウンドプレッシャーレベルでありながら、しかもアコースティックな音──つまり、新しくつくり出されたような楽器ではなくて、極端に言えば、神から授かった美しい音の楽器の音──で、しかも生き生きと体で感じるような迫力のある音楽の代表として、カウント・ベイシー・オーケストラを選んだわけです。
 また、ハイサウンドプレッシャーレベルを追求する上で、安定性とか、アコースティックフィードバックの影響を受けない点をかって、CDを主に使うことにしました。カウント・ベイシーの追悼盤として出ている『88・ベイシーストリート』。それから、『ウォームブリーズ』。この二つのCDを、このスピーカーで鳴らしてみようというふうに考えたわけです。
 『88・ベイシーストリート』というのは、カウント・ベイシーのピアノを音楽的にもオーディオ的にもフューチャーしたものと言えます。カウント・ベイシーのピアノというのは魔力といってもいいほど、たった一音を叩いただけでも、カウント・ベイシーだとわかる、独特のリズム感と音色を待ったピアノなんです。これが一体、どの程度リアリティを持って出てくるかが一つの聴きどころでしょう。
 それから、カウント・ベイシー・オーケストラのブラスセクションとサックスセクションの、怒濤のように押し寄せてくる雰囲気というのは、オーケストラのプレーヤーたちの抜群なピッチ感覚によるわけです。ピッチがすばらしいというのは、単に物理的にピッチが合っているというだけでは充分ではありません。それに加えて音楽的ピッチの良さが要求されます。つまり、ハーモニーとしてのピッチがすばらしい。そういうものが整っているからこそ、カウント・ベイシーのサックスセクション、あるいはブラスセクションというのは、こちら側を生き生きと駆り立てるような、言い換えればスウィングさせるというような音楽的特徴を持っている。その感じを、新しい技術の成果が反映したスピーカーで聴いたら、どんなふうになるだろうという期待が一番大きかったわけです。
 しかし、一方においては、さっき申し上げたように、このスピーカーの持ってる音色のデリカシーによって、クラシックも聴いてみたいという気持ちもありました。したがって、その両方をちゃんと再生でき、なおかつ、そのどちらにも第一級のレベルを求めるとなると、ドライブするアンプも一種類では難しいなという結論に達したわけです。
 具体的に組み合せる製品はどういう選び方をしたかというと、まずカウント・ベイシー・オーケストラの音を、このスピーカーから十分に引き出すことを考え、最初にアンプから選択していきました。そのときひとつの条件として、アンプの出力は今までのこのスピーカーを聴いた体験から、200Wや300Wではちょっと足りない。本当は1kWぐらい欲しいところです。しかし、1kWの出力を持ちながら音質のいいアンプというのは──SR用なら別ですが──この世にはまだありません。
 もちろん、アンプをBTL接続して、パワーを上げていくという方法もあるんだけれども、そこまで大げさにせず、一つのアンプで得られる最大パワーというのは今のところ500Wだろうと思います。500Wのアンプで、そして充分に質のいい音ということになると、私はマッキントッシュのMC2500以外に思いつかない。質と量の両立という点ではこのアンプが最右翼のアンプだと思います。プリアンプもマッキントッシュのC33を候補にあげて、MC2500との組合せを頭の中に描いたわけです。
 マッキンのC33とMC2500というのは、自分自身ずっと自宅で使っていますが、ハイパワーでありながら、ローレベルにおけるリニアリティや、あるいはデリカシーについても全く不満のないアンプで、そこが僕は好きなところなんです。
 しかし世の中にはいろんなアンプがあって、ある音量以下で聴くときは、これ以上にいいアンプというのもあるわけです。例えば、同じマッキントッシュでもMC2255の方がきめが細かい。また、他社のアンプを聴いてみますと、あるレベルででは、よりデリカシーのあるアンプというのはたくさんあります。クラシックの弦であるとか、それからピアノの本当の音色の変化、つまりピアニストによる音楽的な音色の変化──いいピアニストというのは必ず自分の音を持ってます。そういう、トップクラスのピアニストによるデリケートな音色の変化──こいうものを聴くためには、もっとニュアンスの豊かな、デリカシーのあるアンプが存在するのではないかというふうに思いまして、最近、僕の聴いたアンプの中から、これはいけると思って、頭に描いたのがカウンターポイントのSA5コントロールアンプと、SA4パワーアンプの組合せです。この二組の組合せで、このスピーカーをドライブしようというアイデアが浮かんだわけです。
 そこで、まずマッキントッシュ同士の組合せを聴いてみました。これはある程度、ぼくも既に実験済みでしたが、実際にここでまた改めてカウント・ベイシーの二枚のCDを鳴らしてみたんです。フルパワーをいれたときの非常に迫力のあるすばらしい音だけではなくて、さっき申し上げたブラスセクションとサックスセクションのユニゾン、あるいはハーモニーの正確さ、それが実際にフェイズの正確さとして、空気がわっと迫ってくる実感、リアリティというのが非常によく再現されたと思います。
 このMC2500はパワーガードのシグナルがフォルテシモでつくまでボリュウムをアップしてみても音が崩れることがありません。パワーガード機構が、波形ひずみを取り除いてスピーカーが破壊されるのを防いでいるわけです。実際、ランプがついたからといって音のひずみは感じらず、ダイナミックレンジがぐっと抑えられたという感じも全くしません。カウント・ベイシー・オーケストラのかぷりつきにいるぐらいの音圧感は十分得られました。
 さすがに、このスピーカーが持っている音色の忠実性が生きていたし、ベイシーのピアノのリズムの弾むようなところが、大音量にしてもいささかもへばりつきません。空間に自由に立ち上がるという点で、非常に満足のできる音になったと思います。
 カウント・ベイシーの音楽というのは、僕の最近の言いかたでいうと、ネアカで重厚なんです。ネアカ重厚というと、ちょっと表現が軽薄ですけど、これに尽きるわけです。スウィングする音楽というのは、人を明るくさせます。しかし、明るく、スウィングするというだけでは、本当に真の感動には至らない。音楽から得られる本当の芸術的な感動というのは、そこに非常に豊かな重厚さというものがあってこそ得られるもので、それでこそより感動が大きくなります。カウント・ベイシーのオーケストラというのは、そこに一番大きな特徴があるのです。
 具体的に言えば、サックスセクションの充実であり、リズムセクションの充実ということなんだけれども、これがスピーカーから安定して、がしっとして出てくる必要がある。ですから、トゥッティでフォルテシモになったときに、ブラスセクションのぴゃーという音だけに気をとられて、ハーモニーとしてついている中低域から低域の印象が薄れるような音になると、重厚さがなくなってしまう。
 そういう烏で、僕はこのMC2500でドライブしたときのこのスピーカーの音は、いかなるトゥッティにおけるブラスの輝かしい音が出てきても、中低域から低域のベースがしっかり安定していたと思います。つまり明るさと重厚さというのが、実に堂々とした安定感で両立し、再現されたのです。
 しかし、一方では、他にもいろいろな音楽を聴きたいわけで、このアンプでは、クラシックが荒くて、全然聴けないということでは困るわけです。その点も確認をしてみたわけですが、クラシックの微妙なニュアンスもかなりよく再現でき、このスピーカーの組合せとして自信を持ってお薦めできます。
 もう一方の、もっと違ったデリカシーやニュアンスの豊かな音楽を再現するという意図のために、カウンターポイントのSA5、SA4の組合せを試みました。そのために選んだレコードが、一つはハイドンの『チェロ・コンチェルト』。これはチェロがロストロボーヴィッチで、オーケストラがアカデミー室内合奏団です。このレコードは全く純粋なアナログ録音で、十年ぐらい前の録音ですが、自然なしなやかないい音で、オーケストラのバランス、独奏楽器とのバランスも大変にすばらしい。オーソドックスなステレオフォニックな空間の再現も大変に見事なレコードです。
 コンパクトディスクではシューマンのシンフォニー『ライン』。この交響曲第三番『ライン』は、ハイティンクとコンセルトヘボウの演奏で、これも大変に各パートのバランスがよく、しかも、それが空間の中でステレオフォニックに溶け合っていながら、細部が明瞭な、とてもいい録音だと思います。
 特に、このCDは第四楽章の弦とホルンと木管とのハーモニーがきれいに出てくれないと演奏が生きない。そこのところを聴き取るために絶好のソースです。
 それから、先ほど申し上げた、本当にいい演奏者の持っている個性的な音色のニュアンスというものを聴くために、ルドルフ・フィルクスニーのピアノのCDを使いました。
 この三枚のコンパクトディスクで、カウンターポイントを聴いたんですが、まずフィルクスニーのピアノの音色に関しては、これは文句のないものです。スピーカーの良さとともに、このSA5、SA4の組合せも素晴らしいと意識せざるを得ないほどです。フィルクスニーは、ピアノの持っているリニアリティのいい範囲だけを使うピアニストなのです。彼は直観的に、常にその楽器のダイナミックレンジというのを把握し、そして本当にきれいなその楽器のフォルテシモのピークを、彼のフォルテシモとして設定して、あとは下へずっとダイナミックスをつくつていくピアニストです。そこにフィルクスニーのすばらしさがあります。ピアニシモからピアノ、メゾピアノ、メゾフォルテ、フォルテと、音のグラデーションの、豊かさと、音量に対比した音色の変化、これがフィルクスニーのピアノの魅力の一つです。このレコードをSA5、SA4の組合せで聴いてみると、マッキントッシュでは味わえないサムシンングが出てきました。フィルクスニーの音楽の音色を通じての彼の心の温かさとか、あるいは優しさといったものが、ほぼ完璧に出てきた印象です。これはわれながら図に当たった選択でした。ですから、マッキントッシュでもうーつ欲しかった、そういう優しさ、デリカシー、温かさというのが、このカウンターポイントのときに非常によく出てたわけです。
 シューマンのシンフォニー第三番の聴きどころはどこかというと、第四楽章の、弦の各パートのバランスです。たとえていうと、この各パートのバランスというのは、ちょうどスピーカーのf特みたいなもので、スピーカーのf特にうねりがありますと、せっかくいい感覚でハイティンクが弦のバランスを調えても、それが崩れてしまう。第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスとある弦楽器群を、「コントラバス少し強い、チェロをもう少し強く。メロディはいいけれども、内声が弱い…‥」と、それを整えるのが指揮者です。ですから、そこでバランスをとることで、ヴァイオリン単体でもなく、チェロでもなく、ビオラでも、コントラバスでもない合奏の音、アンサンブルの音をつくるわけです。それが、スピーカーの特性の方にうねりがあったり部屋の特性に乱れがあると、せっかくのアンサンブルのバランスが崩れてしまうわけです。これは演奏表現を台なしにしてしまうことを意味します。しかも、エネルギーバランスをととのえることに加えて、その各楽器の持っているファンダメンタルとハーモニックスの音色のバランスというものがきちっと再生される必要がある。それによって、初めて演奏の音楽性が生きるわけです。
 話は少しそれますが、よくオーディオにおいて、音楽性という言葉があいまいな表現だと言われることがあります。しかし実はそんなことはとんでもない話なんです。音楽性があるとはどういうことかというと、演奏家が入念に仕上げた音色と、エネルギーバランスとの双方がきちっと出ることなんです。ですから、音楽性とはひっくり返せば、物理特性的な問題ともいえるんです。しかし、物理特性の追求方法が現時点では──これは将来も究極の到達点はないわけですが──完璧ではありませんから、あえて音楽性という言葉も使うというように認識していただきたい。
 このハイティンクのシューマンを聴いたときの弦と木管と、少し距離と間をおいて、豊かに響くホルンの、この合奏の音色の美しさというのも、ほぼ完壁に出ていたと思います。だから、ねらいどおり、ほとんどこれは満足のいくものでした。
 そこで、今度はさっきと逆に、カウント・ベイシーのようなものが140Wの出力のこのSA4でも──もちろん500Wアンプのように、重厚に力づよく出ないにしても──ある程度、それが聴けた方がいいというふうに思い、カウント・ベイシーも聴いてみました。ところが予想と反して、びっくりするほどの充実感のあるパワーで聴くことができました。マッキントッシュと比べると、音色は一段ときれいですが重厚さが若干なくなります。つまりトゥッティで全ブラス、サックス、そしてリズムセクションがうわっと盛り上がった時、音のバランスが少し高い方へいってしまう。カウント・ベイシーのオーケストラの持っている重厚さというのが、少し明るさの方へ偏った印象になります。ですから、きれいであるけれども、もう一つ地に足のついた、どっしりとしたリズムの粘りがほしい感じです。リズムは同じものが入ってるんだから、同じはずなんだけども、粘りが欲しいなというような印象になるのは、これはやはり、ハイパワーのときのバランスの問題でしょう。140Wクラスのアンプと500Wクラスのアンプの差ではないかというふうに思います。
 ちょうどそういう意味で対照的な組合せができ上がりました。
 この組合せでは、プレーヤーはマッキントッシュのアンプ用の組合せとカウンターポイント用の組合せでは、あえて違うものを使っています。つまり、トーレンスのプレスティージにSME3012Rゴールド、ブライヤーのカートリッジの組合せと、それからマイクロのSX8000IIにSME3012R-PRO、それにAKGのP100リミテッドの組合せの二つを用意したわけです。
 プレスティージでかけますと、すべてのプログラムソースに対して、これはこれで非常に素晴らしいのですが、この際、中庸を得るよりも、重厚さをとるということをメインに考えますと、音が少し柔軟なんです。ですが、これは表裏一体で、それがいいとも言えるわけです。つまり、これは相性が悪いというわけではありません。プログラムソースで言えば、ハイドンの『チェロ協奏曲』とか、今日はCDで聴いていますがシューマンのシンフォニーをアナログディスクで聴きたいというときには、プレスティージとSME+ブライヤーの組合せはなかなかいいと思います。
 ところが、ジャズをハイサウンドプレッシャーレベルで聴くというときに、どこか芯が少し柔らかい。それでマイクロとAKGの組合せにかえ、結果として非常に骨格のしっかりした音が得られました。マッキントッシュでGS1を鳴らすという今回のねらいに関しては、マイクロとAKGの組合せが良かったわけです。
 カウンターポイントのときには──カウンターポイントで少しでもかちっとした音を出そうと思ったら、やっぱりマイクロ、AKGがいいのかもしれないけれども──微妙でデリケートで、そして温かいニュアンスというものを得ようとすると、プレスティージ、ブライヤーの方がよかったということになりました。
 今回は、せっかく二つ組合せをつくつていますので、できるだけはっきり個性を分けたいと思い、プレスティージとブライヤーはカウンターポイントに、そしてAKG、マイクロの方はマッキントッシュというふうに決めたわけです。
 CDプレーヤーは、現在の製品はまだまだ一つのプロセスの途中のものですから、理想的なものというのは難しいかもしれませんが、一応、家庭用として使える最高のものは、つい最近出たセパレート型ということになるでしょう。セパレート型CDプレーヤーは一体型のものと比べて、クォリティは明らかに一段上で音の細かいところまでとてもよく出します。現在、Lo-DのDAP001+HDA001とソニーのCDP552ESD+DAS702ESの二機種が出ているわけですが、Lo-Dとソニーを比べてみますと──これがまたCDプレーヤーとしておもしろいところだけれど──明らかに音が違うんです。ソニーの方は非常に明快で、どちらかというと少し華麗で、しっかりした音が出るCDプレーヤーです。Lo-Dの方は、もっと厚みがあって温かさが出る。
 ちょうど、この違いが今日の二つの狙いにはっきりつながって、マッキントッシュにはソニーのCDP552ESD+DAS702ESの組合せ、カウンターポイントの方にはLo-Dの組合せというのがよかったわけです。
 アナログプレーヤーのそれに対応するような形で、同じような音の個性の違いがソニーとLo-DのCDプレーヤーにもあります。したがって、マッキントッシュの方はソニー、カウンターポイントの方はLo-Dを使うということで、より組合せの個性が際立つわけです。
 もし、この組合せにチューナーをいれるのでしたら、ケンウッドのKT3030を絶対薦めます。ただ、AMがないのが残念ですが。AMがどうしても欲しいという人には、音質にわずかな違いはあるけれども、KT2020の方が値段も安いし、AMもFMも入っていますのでこちらのほうがいいでしょう。FMのクォリティだけでいくならば、KT3030がベストです。

組合せ1
●スピーカー
 オンキョー:Grand Scepter GS1
●コントロールアンプ
 マッキントッシュ:C33
●パワーアンプ
 マッキントッシュ:MC2500
●CDプレーヤー
 ソニー:CDP552ESD + DAS702ES
●プレーヤー
 マイクロ:SX8000II
●トーンアーム
 SME:3012R PRO
●カートリッジ
 AKG:P100 Limited
●チューナー
 ケンウッド:KT3030

組合せ2
●スピーカー
 オンキョー:Grand Scepter GS1
●コントロ-ルアンプ
 カウンターボイント:SA5
●パワーアンプ
 カウンターポイント:SA4
●CDプーヤー
Lo-D:DAP001 + HDA001
●プレーヤー
 トーレンス:Prestige
●トーンアーム
 SME:3012R-Gold
●カートリッジ
 ゴールドバグ:Mr. Brier
●トランス
ウエスギ:U-BROS5(H)
●チューナー
 ケンウッド:KT3030

ボストンアクーティックス A400(組合せ)

菅野沖彦

ステレオサウンド 74号(1985年3月発行)
特集・「ベストコンポーネントの新研究 スピーカーの魅力をこうひきだす」より

 ボストンアクースティックスのA400というスピーカーの外観上の一番大きな特徴は、エンクロージュアのプロポーションにあります。ユニットの口径に対して、比率でいうと、大きなバッフル面積をもっていて、しかも奥行きの短いフラットな形です。これはいわゆるバッフル効果を考えている証拠だと思います。バッフル効果というのは、スピーカーの放射する音の廻り込みを抑えるので、フェイズをコントロールするのに大変に素直な状態に持っていくことができる。そのために、いわゆる平面バッフル、無限大バッフルにユニットをつけて鳴らしたときの効果に似ていて、音に癖がなくて、そしてステレオ・ペアとして使った場合に、極めて広い、独特の音場感ができます。
 それから、エンクロージュアの奥行きが浅いために、低域にエンクロージュアのキャビティによる影響が出にくく、いわゆる箱くささのない音です。
 低域がすっきりとしているため、量感的には多少すくない感じがしますが、その分、濁りも少ない。こういう広い面積を待ったバッフルにつけることによって、部屋の影響も受けにくくなっています。これがこのスピーカーのデザインポリシー、技術的な設計のポリシーの特徴でしょう。
 ユニット構成で面白いのは20cm口径のウーファーを二発使っていることです。現代のスピーカー理論からいうと、よい低音を出すという点では口径を上げていった方が有利ですが、磁気回路と振動系の関係で、現在の技術レベルでは、特性のすぐれたスピーカーをつくるには、おのずから大きさに限界がある。そのことは、セレッションのSL6とか、SL600の主張にもはっきりとあらわれています。
 僕は自分でも大口径ウーファーを使ってますけれども、それも時代を追って変化してきています。今から十五年ぐらい前までは、良質な低音を得ようとしたら、せいぜい25cmまでが限界で、それ以上は無理だとか……。その後やっと、30cm口径まで使えるような時代になったとか、ようやく38cmでも使えるユニットが出現するようになったとか、そういうプロセスをずっと体験してきているわけです。ですから、もちろん今、自分のマルチウェイシステムでは38cmウーファーを使っているし、いいスピーカーユニットも数多くありますけれども、確かに技術的にいろんな面の無理ない設計をすると、16cmとか18cm、あるいは20cm、このぐらいのところが技術的には問題のないサイズだということも言えるわけです。
 したがって、あえて大口径ウーファーを使わないで、小口径ウーファーを二発使ったというところにも、このスピーカーの特徴があると思います。当たり前のことですが、大口径にすればするほど、指向特性が高い方では悪くなりますから、そういう意味で、小さな口径に抑えたというところに、このスピーカーの設計の意図がはっきりとでています。それが、このエンクロージュアのフラットな、そして表面効果の大きなフロントバッフルとマッチして、癖がなく、重くるしくなく、左右と奥行きにすぐれた音場感の再現ということにつながっているのでしょう。このボストンアクースティックスというメーカーは、アクースティックサスペンション方式のオリジネ一夕ーと言えるARの流れをうけついだメーカーです。このA400もアクースティックサスペンション方式を採用して、比較的小さな口径のスピーカーを完全密閉箱に入れることで、十分な低音を出すことに成功しています。そういう意味で、基本的な技術のコンセプトはARの流れを踏襲しているけれども、昔のARのスピーカーというのは、どうしても重く、少し鈍い低音でした。そのままでは現代スピーカーの要求にマッチしないわけです。そこで、同じアクースティックサスペンションの理論を使いながら、明るく、引きずらない、重苦しくならない低音を出したのが、このスピーカーのすばらしいところだと思います。アクースティックサスペンションが持っているよさを活かしつつ、悪い部分を大幅に改善している。
 家庭用として使う場合にも、奥行きが浅いということは、とてもスマートだと思います。実際に今、この試聴室では割合に壁から離して使いましたけれども、もし壁に近づけて置いても、それほど低域の持ち上がりがありません(コーナーに置いてしまっては無理ですが、コーナーから多少離して、左右方向の長さがとれる部屋でしたら、壁にかなり接近させて置いても、低域が不明瞭にならないよさがあります)。奥行きが少なく、高さは少し高目だけれども、高さ方向というのは居住空間にさほど邪魔にならないわけで、むしろこのぐらいの高さの方が普通のリスニングポジションには、高域のディスパージョンがちょうど合っています。クラシック音楽のときに特に感じることですが、音源が自分の位置より低いよりも、少し上ぐらいの方がナチュラルに聴こえます。演奏会場のいいポジションというのは、多少ステージを見上げるようなポジションが普通ですから、そういう習慣からもスピーカーは、少し高目ぐらいがいい。その意味で、スピーカーの下に台を置く必要がなく、ちゃんとスタンドがついていて、この高さということは、家庭での実用という点からも、非常によく考慮されているスピーカーだと思います。
 最近は日本のスピーカーは一般的にサテンの色が黒とか、濃紺とか、濃い色が多く、存在感が強すぎると思うんです。その点、A400のように中間色のサランネットの方がスピーカーの存在感が強過ぎなく、部屋の中で適応性も広いと思えます。モダンでいてクラシック。そういう外面的なコスメティックなデザインの面でもなかなかすぐれたスピーカーです。
 音の特徴は、何といっても、全帯域のバランスが非常に素晴らしいということにつきます。一聴したところ個性がないように感じられますが、非常に美しく緻密な、いかにもファイングレインといえる、きめの細かい音です。音の質感がナチュラルで、ホームリプロデュースの可能性と限界というものをほどよくバランスさせた明確なコンセプトが感じられる音です。このスピーカーはばかでかい音でガンガン鳴らすということは考えていないでしょうが、しかし、現代の技術水準をクリアーした、かなりリアリティーのある、そこに何か楽器を置いて演奏するかのごとき音量ぐらいまでは十分再現できる。今のオーディオの中庸をとらえたスピーカーだといえます。
 値段的にも外国製スピーカーで、この質の高さからするとリーズナブルです。輸入品でこの価格というと、おそらく一般にはもう少し低いクォリティのスピーカーを想像すると思いますが、このスピーカーの持っているクォリティは見事で、これの倍ぐらいの価格がついていても、恥ずかしくないサウンドクォリティを備えています。
 A400は使いやすいスピーカー、偏らないスピーカーと言えますが、その分個性は淡泊です。ですから、猛烈に深情けで惚れる、というスピーカーではない。しかし、何をかけても、何を聴いても、ちゃんと満足させてくれる数少ないスピーカーの一つです。
 このスピーカーを鳴らすに当たって、用意したプログラムソースですが、いろいろなものを揃え、特定のジャンル、傾向、表現性格に偏らないものを選びました。
 一枚はミケランジェリのピアノと、それエドモンド・シュツッツ指揮のチューリッヒ・チェンバー・オーケストラの共演しているハイドンのピアノ・コンチェルトのアナログレコードです。これは十年前のアナログレコーディングで、 チューリッヒ・チェンバー・オーケストラというのは意外にレコードが少ないんですけれども、アンサンブルがしなやかで非常にいい室内オーケストラです。このレコードはEMIですが、チューリッヒ室内オーケストラのレコードは、昔、ヴァンガードでステレオ初期に何枚も出ているのを大分聴いて、このアンサンブルの音色をよく知っています。そのしなやかなアンサンブルは、組合せを選択する上においても一つのテストソースとして非常にいい。こういう古典をきちんと古典らしく聴かしてくれるということが、優れた再生装置の一つの条件です。そういう意味でこのハイドンのピアノ協奏曲を一枚選んだのです。
 それから、リヒャルト・シュトラウスの有名な三つの交響詩が入ったCD。アンタル・ドラティが指揮するデトロイト・シンフォニーで「ドン・ファン」と「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」と、それから「死と変容」です。これは、同じオーケストラでもチューリッヒ室内オーケストラとは全然性格の違う、もう少し大きなオーケストラ編成です。その二枚をクラシックとして選びましたが、同じクラシックでも性格は非常に違います。
 ポピュラーの方も性格の違うものを選びまして、一枚はダイアン・シューア。今、話題の歌手ですが、盲目の女性歌手です。彼女の声の変化がすばらしい。この人はゴスペル的な歌い方もできるし、ブルース的な歌い方もできる。それから新しい、かわいらしい声で歌うこともできる、声の変化のうまい人です。新しいレコードだけに、デイヴ・グルーシンのアレンジでバックがついていて、今の、ナウい音楽的なサウンドも同時にこのレコードの再生では当然要求されます。それでいて、決してディスコミュージックだとか、ある種のフュージョンなどに出てくるヴォーカルのような、それこそハーモナイザーを使った、ぐしゃぐしゃにされたヴォーカルではありません。声はちゃんと彼女のナチュラルな声ですが、バックには適度にエレクトリックサウンドが使われ、そういうナウい音楽に対する適応性もありながら、オーソドックスなヴォーカルとしてもいける。いいかえれば、逆に、ナウな音楽的なよさを活かさないと、このレコードはまた生きてこないと思います。
 もう一つは、非常にオーソドックスな、アコースティックのジャズです。それも非常に古い、今から二十五年も前、コンテンボラリーというレーベルで活躍したロイ・デュナンといって、僕がジャズの録音の仕事をするときに最もお手本としたミキサーが録音した、ソニー・ロリンズの「ウェイ・アウト・ウェスト」という古いレコードのCD化されたものです。
 ロイ・デュナンのレコーディングの特徴として、一つ一つの楽器の音のクリアネスというのがすばらしいと同時に、当時としては珍しく、ちゃんとステレオフォニックな空間をつくつている。しかもとても自然なライヴネスなんです。当時は、鉄板エコーが一般的だったころですが、そんなものは全く使っていません。人工的なものは、一切使用せずに、自然の空間でのライヴネスというものと、そしてジャズに要求される楽器の近接感、リアリティをよくバランスさせています。CD化されたものを聴いてみますと、これが二十五年前の録音かと思うほどSN比も高く、帯域も広く、立派なものだと思います。そして、何よりも、こういうアコースティックなジャズに表現されるプレーヤーの個々の生きた表現、これが細かなところまで再生されないとジャズの息吹というものが出てきません。そういう意味で、さきほどのダイアン・シューアのものと同じポピュラー系レコードながら全然違う音楽で、当然、再生装置に要求される要素も違います。結果的には四つの全くバラエティに富んだプログラムになったということです。
 組合せをつくっていく過程でいろいろなアンプを聴いてみましたが、アナログレコードのよさ、たとえば、チューリッヒのしなやかなアンサンブル、それからミケランジェリが使っているピアノ──これは古いスタインウェイで、ピアノとしては古典に入るぎりぎりのところですが──その独特の音色が、まず、どういうふうにアンプによって変わるかを、最初に聴いてみました。ところが、おもしろいことにこれが全部、見事に違うのです。
 一番最初にトリオのKA1100SDを聴きましたが、このアンプは実に何も難点のない、ごくごくまっとうな音です。ただ、僕は高い方にちょっとしなやかさがないように思いました。そこがちょっと気になる。ヴァイオリンのパートが分かれたハーモニーのときに、ちょっとぎすぎすした感じになる。その辺でちょっと気になったけれども、全体としてはこのレコードを比較的正しく再生してくれたと思います。またピアノが引き込まずに再生されるよさがあります。ポジショニングとして、このレコーディングの場合には、決してオーケストラにピアノが囲まれたというような録音ではなく、ピアノがちょっと前面に打て、その後ろにオーケストラがいるという録音ですが、その感じが非常によく出ている。全体として、充分に使えるアンプです。
 次は、ヤマハのA2000。このアンプは非常に独特な美しさを待ったアンプです。そして、美音のアンプです。高域が、特にこのレコードを聴いた場合に少し脚色されますが、その脚色は美しさと説得力を持ち、「ああ、きれいだな」と思って聴かされてしまいます。しかし、このチューリッヒのアンサンブルが持っている音として、少しくすんだところがなくなり、やや明るくなり過ぎる。全体的にいえば見事なのですが、ただもう少し、独特の陰影が出てほしいといえます。
 次がラックスL550X。これがチューリッヒ・アンサンブルの音色の陰影を一番よく出しました。一番よく出しましたけれども──これは50Wというパワーのせいかもしれないのですが──骨格のしっかりしたところがやや弱い。ただし、音としては、このチューリッヒ・アンサンブルに関する限り、非常にいい。恐らく、今まで聴いてきたアンプの中では一番いいという感じがしました。
 それから、アキュフェーズE302。このアンプは、他のアンプと比較して、全く違う音がしました。アンサンブルの音がアレンジされたという感じなんです。全く別の楽団のような音がしました。それなりにすばらしく、ものすごく輝きがあって、透明で、それはすばらしいのですが、このアナログレコードの音にしては少々色づけがある。多少あり過ぎるという感じがして、異質な感じを持ちました。バランスであるとか、パワーだとか、オーディオ的な音だとかいう点では大変にいいアンプだと思いますが、その色合いの点で、このレコードからは少し異質感を感じたわけです。
 次にビクターのA-X1000。全体に音が非常に柔軟で、高域の荒れが一番少ないアンプです。使用したレコードのなかで、もうぎりぎりのところでもって荒れそうなところが何ヵ所かあるんだけれども、そこの荒れが気にならないでスムーザに響いたのがこのアンプです。ほかのアンプがひずみがあるわけではないのですが、ヴァイオリンの音の荒れの一番目立たなかったのがこのアンプです。
 そういう点で確かにいいアンプだと思うし、ある種のソースに限定したら、これは非常にクローズアップするに値いするモデルです。アンサンブルを聴いたとき、ヤマハと対照的なわけです。ヤマハの場合、少しきれい過ぎて、美し過ぎて、明る過ぎると言ったけれども、ビクターの場合には少し暗くて重い。重心が少し低く過ぎる。
 次がアルパイン/ラックスマンのLV105。このアンプは、僕がこのアンサンブルを聴くときに非常に重要視するビオラ、チェロの内声部がとてもいい。指揮者のハーモニー感覚にごく近いわけです。オーケストラでは、メロディというのは、ほとんどの場合、ヴァイオリンで出てくる。そして、ハーモニーで一番下のベースを受け持つのがコントラバスセクションです。ビオラとチェロというのがその間に入って、しっかりした色合いとボディをつくるわけだけれども、その内声から多少メロディとベースを浮き上がらせる、そのぎりぎりのところのバランスというのが、このアンプの場合、見事なわけです。録音でもハーモニー感覚のいい指揮者とハーモニー感覚のいいミキサーがいないといいバランスのレコードができずに、大体メロディーが浮き立って、そして低域がゴーンと出て内声部がおろそかになる。メロディーも良く、ベースの音もしっかりして、さらに内声の動きと厚みがちゃんと出てくることが大事です。それはアンプやスピーカーにもいえることで、LV105は内声が非常によく出ますが、ちょっと下と上が弱い。ほかのアンプにないよさを持ち、ほかのアンプの持っているよさがないという、非常に微妙なアンプです。
 そこで、マランツPM84を聴いてみました。これがなかなかバランスがいい。このアンプを聴いて、一番、中庸を得たモデルだとおもいました。それまでのアンプが聴かせた音の振幅のなかで、それがちょうどピシッといいところにきたなという感じが、このマランツでしたわけです。
 アンプを選ぶ過程において、ナウなサウンドのサンプルとしてダイアン・シューアを聴いてきたんですけれども、ダイアン・シューアのバックのデイヴ・グルーシンの演奏も、このアンプが一番リズムががっちりと明確でした。それでいて細かいエレクトリック楽器のエフェクトもはっきりと聴き取れ、ナウい要求にもこたえられるということで、結局、このマランツPM84が残ったわけです。
 つぎに、さきほどのR・シュトラウスの三つの交響詩と、もう一枚のジャズの「ウェイ・アウト・ウェスト」、この二枚をCDで聴きました。そこで大きな問題があった場合つぎの候補を捜す必要があるわけで、そんな心配もしながらCDを聴きましたが、結果は非常によかった。特にロイ・デュナンの録音した、二十五年も前のソニー・ロリンズのレコード「ウェイ・アウイ・ウェスト」がとてもよかった。
 ソニー・ロリンズは、ご承知のようにニグロで、イーストコーストの非常にガッツのある、重厚なテナーサックス奏者です。ついせんだって亡くなった、非常にセンスのいい、よくスウィングする卓抜のテクニックを待ったウエストコーストのシェリー・マン、同じく卓越したテクニックと、いいサウンドを持ったベースのレイ・ブラウンの、その二人とロリンズがミートしたところに「ウェイ・アウト・ウェスト」の音楽的な特徴があるわけです。このレコードはそういう意味で企画的にも非常におもしろいわけです。
 したがって、このレコードはガッツのある、どろどろっとしたイーストコースト的な音になってしまっては困るんです。かといって、スカーッと晴れ上がったウエストコーストになり切ってはまた困ると言うところに、このレコードの音楽的特徴とともに再生する上での難しさがあります。これはうがった話ですが、聴いていて僕が感じたのは、ボストンアクースティックスというスピーカーが実にそういう音になってます。つまり、本当にアクースティックサスペンションの落ちついたよさを持ちながら、重さがとれて、明るさが出てきたんです。だから、このレコードの性格とこのスピーカーの性格というのはピシッと合った。これは一番満足して聴けました。
 それから、リヒャルト・シュトラウスの交響詩三つが入ったドラティのレコードは、英デッカの録音で、最新録音というわけでもありません。そして、多少きらびやかなところがあるんだけれども、しかしリヒャルト・シュトラウスの色彩的なオーケストレーションにはこのぐらいのきらびやかさも決して違和感がないんです。そういうリヒャルト・シュトラウスの、複雑な色彩感を待ったオーケストレーションのあやみたいなものをよく生かした録音だけれども、今の組合せで聴いた音というのは、そのあやをよく出しています。ときには、少々、弦などに英デッカ独特のキャラクターがつき過ぎている感じがしないでもないですが、レコード音楽として、特にこういうリヒャルト・シュトラウスのようなオーケストレーションには、むしろこういう音は効果的です。決して音楽の本質から外れたエフェクトではなくて、いいエフェクトだと思えますが、それがボストンアクースティックスで鳴らしたときに非常に生きたと思います。加えて、プレゼンスも非常によかった。いかにも二つのスピーカーから出てきたという音場感ではなくて、そこに奥行きを持った一つの空間が、むしろ音としては面で迫ってくる。きれいに融合したいい感じの音場できて、オーケストラの量感というものが非常によく再現されたと思います。オーケストレーションの細かいところは実に明確に録音されているんだけれども、それが全部出てました。
 特に「死と変容」の、スコアで三枚目ぐらいのところだろうと思いますが、フォルテになるところがあります。その前に、チェロのトレモロがあるんです。そのトレモロの感じというのはこのスピーカーで聴くと独特の魅力があります。普通のスピーカーでは、中でごそごそという感じになりがちなんです。ところが、それがちゃんとスピーカーの前にきて、いかにもそこで弦が並んでトレモロをやっているという感じの、いい感じで出てくる。大型スピーカーでガーンと、本当に生らしいというようなイリュージョンを聴かせるところまではいかないけれども、家庭用としてはほどよいリアリティーとエフェクトだと思います。
 CDプレーヤーとレコードプレーヤーシステムについて、最後に触れておきたいんですが、レコードプレーヤーは、特にアナログのプレーヤーというのはいろいろなコンセプトがあって、どこをどう変えてもすぐ音に影響するというのがアナログの良さでもあり、悪さでもあります。とにかく使う材料をちょっと変えれば変わるし、目方をちょっと変えれば変わる。つまり、どこかのバランスをちょっと変えれば、必ず音が変わってしまう。そういうアナログプレーヤーにあっては、これが絶対のものだということはあり得ない。結局、限られた現実の中でもって、いかにしてバランスのいい音をつくるかということが絶対必要だと思います。その点で、比較的そういうバランスを気にしないで、モーターならモーター、ターンテーブルならターンテーブル、トーンアームならトーンアームの物理的特性だけを追求していく傾向にある日本のプレーヤーは、なかなか優秀なプレーヤーではあるのですが、やはり使ってみると音に違和感が感じられる場合が多い。カートリッジにもそういうことが言えます。
 結果的に、ARのターンテーブルにトーンアームはSMEの3009SII、これにB&OのMMC1カートリッジでまとまったわけです。決して最高のものとは言えないけれども、妥当なバランスでまとまっていると思います。プレーヤーとして本当にコンパクトで、大げさでないモデルです。多少、フローティングサスペンションのスプリングをダンプする構造がもう一つ加わってほしいことと、使い勝手の点で──揺れて、しばらく揺れがとまらないというところで──ちょっと使いにくいところがあるし、あるいはSMEの3009SIIも、アームレストがどうも使いにくくて困るんだけれども、これはなれていただくことにして、トータルパーフォーマンスとして、ちょうど僕はボストンアクースティックスA400と同じレベルにバランスしているプレーヤーだと思う。全体の組合せとして考えたときに、実にいいコンビネ-ションと言えるでしょう。
 CDプレーヤーはLo-DのDAD600を使いましたけれども、これはLo-DのCDプレーヤーとしては三世代目になります。このDAD600は、バランスのいいCDプレーヤーで、特にアナログ的にフワッとする音でもないし、デジタル的にぎすぎすしたところのない、中庸をいくモデルです。値段の点からいくと中級機種ですが、まずCDの音を間違いなく、あるバランスで聴かせてくれるプレーヤーだと思います。もちろんCDプレーヤーは、各社からいろいろなモデルがでていて、ファンクションの点でも、音の点でも、これを越えるものはたくさんありますけれども、組合せのバランスからいくと、パーフォーマンスも、値段も、やはりちょうどいいところにあると思います。
 取り立てて高価ものを使っているという組合せではなく、バランスがとれて、お金のかからない方向というので考えたわけですけれども、出てきた音を聴きますと充分納得できる値段だと思います。
 さらにチューナーを加えるとすると、マランツではPM84とのペアモデルはだしていませんので、ケンウッドのKT2020がいいと思います。この組合せはパネルデサインの面でもマッチします。このKT2020はAMも備えたFMチューナーとして、最近の製品の中では一頭地を抜いたモデルと言っていいでしょう。

●スピーカー
 ボストンアクーティックス:A400
●プリメインアンプ
 マランツ:PM84
●CDプレーヤー
 Lo-D:DAD600
●ターンテーブル
 AR:AR turntable
●トーンアーム
 SME:3009SII/Imp.
●カートリッジ
 B&O:MMC1
●チューナー
 ケンウッド:KT2020

エレクトロボイス DIAMANT, SAPHIR

井上卓也

ステレオサウンド 74号(1985年3月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より

 超弩級フロアー型システムである、パトリシアンIIをトップモデルとするエレクトロボイス社から、新しく、コンシュマーユースのラインナップとして、ジュエリー・シリーズが登場することになった。
 このシリーズは、スイスEVにより開発されたシステムであり、ヨーロピアンサウンドとヨーロッパ調デザインに特徴がある。シリーズの名称が示すように、CRISTAL、OPAL、SAPHIRとDIAMANTの、それぞれ、宝石の名がつけられた4モデルシリーズを構成している。
 今回試聴をしたのは、SAPHIRとDIAMANTの上位2モデルであるが、他の2モデルも簡単に招介しておこう。まず、CRYSTALは、もっとも小型なモデルで、20cmウーファーと25mmドーム型トゥイーターを2500Hzでクロスオーバーした2ウェイ方式のシステムである。このモデルのみ、エンクロージュア仕上げがウォルナットレザーとブラックオークレザーの2種類が用意されている。
 OPALは、CRYSTALよりひとまわり大きなバスレフ型エンクロージュアに、20cmウーファーと38mmスーパードームトゥイーターを1500Hzでクロスオーバーした2ウェイシステムである。この2モデルは、ユニット配置が、バッフルボード中心に置かれたインラインタイプで、トゥイーターユニットの上部に、EVでいう、ヴェンテッドボックスという、バスレフ型のポートがある、というユニークな点が特徴であろう。
 まず、今回の試聴で最初に聴いたSAPHIRは、20cmウーファーをベースに、38mmスーパードーム・ミッドレンジと25mm口径CDホーントゥイーターを、1500Hzと7000Hzでクロスオーバーした3ウェイシステムである。
 新シリーズをユニット構成から眺めてみると、CRYSTAL、OPAL、SAPHIRの3モデルが、20cmウーファーを採用したモデルで、CRYSTALをジュニアタイプとすれば、OPALが標準型、SAPHIRは、そのグレイドアップ型とすることができるだろう。つまり、この3モデルは、シリーズ製品というに相応しい内容をもっているといえるだろう。
 SAPHIRは、とくにワイドレンジを意識させないスムーズなレスポンスをもつシステムである。低域は、20cmウーファーらしい、軽やかで、適度な反応の早さが特徴であり、滑らかでサラッとした中域と程よくクリアーな高域が、巧みにバランスする。
 使いこなしのポイントは、気持ちよく、軽快に弾んだ音を楽しむといった方向へのチューニングが好ましいであろう。
 まず、スピーカーの置台は、構造的に充分に剛性があり、音質に注意を払った材料を使った木製のスタンドあたりが好ましい。もしも、平均的にコンクリートブロックを使うとすれば、その表面は薄いフェルトなどでカバーし、ブロック固有の乾いた響きは抑えたいものだ。そして、その上に、木のブロックや角棒などを置いてから、システムをセットするとよいだろう。
 またスピーカーコードも、情報量が多いOFCやLC−OFCを使い、トータルバランスは細かにスピーカーのセッティングを変えて修整することがポイントだ。
 DIAMANTは、新シリーズのトップモデルであるが、内容的には、上級機種のBARON・CD35iのジュニアタイプとも考えられる。しかし、両者を比較すると、新製品らしく音響的には、DIAMANTのほうが基本設計が一段と進んでいるように見受けられる。
 その、第1は、新シリーズ共通の特徴であるが、バッフルにネックステル材料が採用され、バッフル面の不要輻射を抑えていること。第2に、中音と高音用のアッテネーターが、バッフル面から除かれ、この部分でのノイズ発生を防いでいることだ。
 このシステムは、新シリーズのトップモデルだけに、かなり本格派の音をもっている。さすがに、30cmポリプロピレン・ウーファーをベースとするだけに、SAPHIRと異なり、スケール感が格段に豊かになり、柔らかく余裕のあるベーシックトーンをもっている。中域以上も、適度にクリアーで抜けがよく、帯域感は充分に伸び、音場感もナチュラルに拡がり音像も比較的クリアーに立つ。使いこなしの基本は、SAPHIRと共通であるが、チューニングをした結果として得られる音は、明らかに1〜2ランク異なったものである。
 平均的な国内製品の高級システムよりは使いこなしは難しいが、期待に応えられるだけの内容を備えた製品と思われる。

ダイヤトーン DS-3000

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「興味ある製品を徹底的に掘り下げる」より

 プログラムソースのデジタル化は、コンシュマーサイドでは、EIAJフォーマットのPCMプロセッサー、CD、ごく最近でのLDをデジタル化したLDDとバラエティも豊かになり、かつては、特別な響きをもって受け止められていた『デジタルプログラムソース』の言葉も、最近は身近な存在となり、伝統的なアナログプログラムソースと共存のかたちで定着しつつあるようだ。
 デジタルプログラムソースの一般化により、その桁外れに優れた基本特性に裏付けられた情報量豊かなサウンドと素晴らしい機能の両面から、従来の伝統的なアナログプログラムソースで育ち、発展してきたオーディオコンポーネントの全ジャンルにわたって、少なからぬ影響を与え、非常に興味深い結果が生じているようである。
 ダイヤトーンの新世代の到来を感じさせた500シリーズの第1作DS505は昭和55年に発売されたモデルだが、いち早くデジタルプログラムソース時代に対処して開発された、いわばデジタル対応スピーカーシステムの第1号機ともいえるコンセプトをもつシステムであった。
 今回、発売されたDS3000は、4ウェイ方式完全密閉型エンクロージュア採用というアウトラインから判断すれば、DS505を受継ぐモデルと思われるだけに、いわゆるマークII的なモディファイによる開発なのか、または、似て非なる完全な新製品であるかについて、DS505以来のDS503、DS501と続く500シリーズ、一昨年から始まった1000シリーズともいうべきDS5000、DS1000などとの相関性から探ってみることにしよう。
 最初に、ユニット構成、使用ユニット、スペックなどからDS505とDS3000の比較をしてみよう。基本コンセプトが同一だけに、両者の相違点を探せば結果は明瞭に出るはずだ。
 まず、エンクロージュア関係では、外形寸法的な高さと幅が3cm大きくなり、外容積では13ℓ増加しているが、内容積は70ℓから78ℓへの増加だ。外観的には判らないが、ミッドバス用バックチャンバーは、DS3000用のユニットの磁束密度が向上しているため、チャンバーに取り付けたときのQを臨界制動の0・7にする目的で、容積は12ℓから9・7ℓに縮少された。また、使用材料の変更で、本体重量は42kgから52kgに増加した。
ユニット関係では、低域と中低域振動板はアラミドハニカム・ストレート型コーンを採用し口径も同じだが、磁気回路とフレームの相対的な構造はDS1000で初めて採用されたDMM方式になっている。
 中高域と高域は、チタンベースにボロンを拡散した独自の製法による材料を使い、ボイスコイルと振動板を一体成型した直接駆動DUDドーム型採用は同じだが、中高域ユニットの口径が40mmから50mmに大型化され、ダイアフラム周辺に取り付けられた6個のディフューザー的なフィンは廃止された。なお、構造的には、低域や中低域ユニットと同様に、DS1000での技術を受け継いだDM方式が採用された高剛性設計である。
 また、発表された定格からは、再生周波数帯域、最大許容入力、定格入力などに相違を認めるが、決定的な差はなく、周波数特性、指向周波数特性での僅かな改善と、高調波歪特性で現状の限界値と思われる、100Hz~10kHz間で-60dBというラインに、DS505より一歩近付いたようだ。
 これらかち判断すると、デジタル対応スピーカーシステム第1号機として誕生した昭和55年当時のDS505において既に、ユニット関係の、とくに振動板周辺技術は完成されており、現在でもトップランクの性能を当時から獲得していた先進性は、発表された定格値が示している。
 一方、DS505以来の500シリーズの歩みを考えてみると、翌年の昭和56年に、口径65mmDUDボロン振動板採用の中域ユニットを開発し、ダイヤトーンの3桁シリーズは完全密閉型が原則という禁を破ったバスレフ型3ウェイシステムDS503を開発し、続く、昭和57年に新材料ωチタン採用の3ウェイ密閉型システムDS501と、DS502での開発の成果である65mm口径のDUDドームユニットに、新開発のアラミドハニカム・カーブドコーン採用の27cm口径ミッドバスユニットを中核とした4ウェイ構成バスレフ型のフロアーシステムDS5000を完成させている。このDS5000は、モデルナンバー的には500シリーズを受け払いだ♯1000シリーズの第1弾製品であるが、使用ユニットからみれば、500シリーズの技術の集大成として頂点を極めたモデルであり、モデルナンバーもDS500+0と考えられ、500シリーズのスペシャリティという類推もなりたつように思う。
 CDが実用化され、実用面での安定度が高まり、ソフト側のプログラムソースも数を増しはじめた昨年秋に、ダイヤトーンが新製品として発売したDS1000は、DS5000やDS505以来の500シリーズのシステムとは、一線を画した内容をもつコンパクトなブックシェルフ型システムである。表現を変えれば、500シリーズが新世代のダイヤトーンを象徴するとすれば、DS1000は新々世代、つまり、近未来型ダイヤトーンシステムの出発点となるモデルである。その技術的内容は500シリーズで展開し、完成されたアラミドハニカムとDUDボロンの2種類の振動板の優れた性能を一段と高め、より次元の高い音の世界への進化を目的として、振動板周辺のユニット構造を再検討し、構造面での性能アップを図っている点が最大の特徴である。
 この構造面での新技術は、きわめて基本的な部分での検討に端を発したもので、コーン型ユニットのフレームと磁気回路の相対関係にメスを入れたDMM方式と、ドーム型ユニットのフレームレス化を計ったDM方式が2本の重要な柱であり、DMM方式の採用で問題点として浮上してきたことがらが、変形8角フレームよりも振動減衰モードが単純で、音質向上ができる円形フレームの採用と、均等分割8点止めのユニット取付方法、さらに、フレームの不要輻射を抑えるための前面露出面積の縮少などがあげられる。
 これらの新構造ユニットの完成でクローズアップされたものが、ディフラクションを抑えるラウンドバッフルの採用へとつながった。ダイヤトーンにとってはこのラウンドバッフルは、放送用モニター2S305に初採用し2S208へと続く、いわば伝統的な手法であるが、このタイプを最初にコンシュマー用に採用したのがDS1000だ。
 このように、スピーカーシステムを歴史的に開発の流れに従って眺めてみると、今回発売されたDS3000は、1000シリーズのモデルナンバーが意味するように、DS1000をベースに4ウェイ構成化をしたシステムであることが判るであろう。
 DS3000で採用された4ウェイ構成は、帯域の分割方法により各種のバリエーションが存在するが、ここでは当然のことながら、DS505、DS5000での成果が反映された設計になるであろう。
 DS505の開発時点でダイヤトーンが名付けた、ミッドバス構成4ウェイシステムという考え方は、一般的な3ウェイシステムの場合に、低域を受持つウーファーは重低音から中低域までをカバーしており、これは音楽の最もエネルギー量の多いところだが、1個のユニットでこの帯域を完全にカバーすることはたいへんに難しいようだ。
 大ホールのライブネスやライブハウスのプレゼンスを重視すれば、中低域のレスポンスはタップリ必要となるが、それでは重低音が弱くなり、いわゆる重心が高い腰高の低音になってしまう。逆に、重低音を要求すれば、線が太くゴリゴリとした、力感めいたものがある低域になるが、いわゆる楽器の低音とは少し異なったものになる。
 現実は、二者択一で、重低音型のチューニングのほうがユーザーに判りやすく、いわばオーディオファン好みでもあるため、このタイプのほうが一般的であり、巷の評価も高いように思われる。
 この3ウェイ方式での問題点である低域ユニットの受持帯域を、重低音を受持つウーファーと中低音を受持つミッドバスユニットに分割したものが、ミッドバス構成4ウェイ方式とダイヤトーンで名付けたタイプで、それぞれの帯域を専用ユニットで再生するだけに制約は少なく、理想に近い低音の実現が可能である。
 この構想に至るまでには、ダイヤトーンにも、かなりの期間が必要であったようだ。もともと、コンプリートなスピーカーシステムとして市販されている製品では、4ウェイ構成のシステムはそれほど多くないが、ダイヤトーンではコンシュマーユースのシステムを手がけた第1作のDS301が4ウェイ構成を採用している。しかしこの場合の帯域分割の方法は、1500Hz以上を3個のユニットで分割したタイプで、放送用モニターシステム2S305の高域ユニットTW25の受持帯域を3ウェイ化したような特殊な4ウェイ化である。
 DS301の次期モデルとして開発されたDS303も4ウェイ構成のシステムだ。この場合は、低域と中域のクロスオーバー周波数が600Hzあたりで、標準的な3ウェイシステムにスーパートゥイーターを加えたとも考えられる帯域分割である。
 この2モデルの開発を通じて得られた結果が、ミッドバス構成4ウェイシステムに到達し、ユニット開発面での性能向上の要求が、コーン型ユニットではハニカムコンストラクションコーンの開発 スキン材のCFRPからアラミドへの発展と進化し、ドーム型では、フェノール系、紙などを使った従来型のタイプから、ボイスコイルボビンとダイアフラムを一体成型したDUDボロン型が開発され、従来のモデルにくらべて驚異的ともいえる性能と内容をもったDS505が完成されたわけだ。
 DS3000の低域と中低域ユニットは基本となるDS1000の27cmウーファーの帯域を拡張し2分割するために、結果としてはDS505での成果を受け継いだ32cm口径のウーファーと16cm口径のミッドバスユニットとなったが、ユニット構造はともにDMM方式を採用している。
 DMMとは、ダイレクト・マグネティックサーキット・マウントの略で、簡単にいえば、スピーカーフレームと磁気回路を機械的な強度を上げて結合しようというものである。国産ユニットでは一般的に、磁気ギャップがある前側の磁気プレートはフレームとネジで国定してあるが、マグネットとポールを含む後側磁気プレートは接着剤で糊付けする方法がとられている。
 ボイスコイルにパルシブな信号が人り、例えば前に動けば、その反動でフレームと磁気回路は後に動くのは当然であるが、このときに、フレームと前側のプレートと、マグネットと後側プレートは、接着剤で固定されているため個別な運動をするわけだ。
 海外製品ではマグネットのフェライト化にあたり、古くは米ポザーク、昨今では英タンノイ、米JBLなどは、この糊付部分は、ネジで固定し強度的にも問題はないようにしている。
 DS3000で採用されたDMM方式は、低域はフレームと別ピースのブロックで磁気回路を抑えるタイプ、中低域が磁気回路全体をフレームが包み込むタイプと、構造的違いはあるが、保持する部分が後側プレートのボールピース外側を抑えるアウターサポート方式と呼ばれるタイプで、DS1000のボールピース中心を抑えるセンターサポート方式と異なった方法を採用している。
 両者の得失は、モーダル解析の結果から、一次モードに対しての制動効果はセンターサポートが強烈だが、高次モードの高い周波数では効果が激減するのとくらべ、アウターサポートは広い周波数帯城のモードに安定した効果があり、ミッドバスを含めた中低域までの高剛性化では、アウターサポートが優れるという。この結論から、DS3000ではアウターサポート方式が採用された。
 中高域ユニットと高域ユニットは、独自のボロナイズドチタンDUDドーム型でDM構造採用である。DMとは、ダイレクトマウントの略で、従来型がフレームに振動系を組み、これと磁気回路をネジで固定していたが、DM方式では、磁気回路の前側プレートに振動系を組み、このプレート自体をエンクロージュアに取り付ける構造で、磁気的なエネルギーロスにより、わずかに磁束密度に影響は出るが、フレームの固有音や共振が皆無となり、シンプルで高剛性化が達成でき、非常に優れた応答性を実現している。
 中高域ユニットは、外観はDS1000の中域ユニットと類似するが、バックチャンバーレスとなり、バックチャンバーの形状、材質などに起因する固有音の発生や鳴きがなく、一段と純度が高い再生音が得られるユニットに発展している。なお、振動板関係は、DS1000の中域ユニットとエッジ部分を除いて共通である。このタイプのダイアフラムは、DS505の中高域ユニットと比較して、口径のほかに、ボロンが強化拡散化され物性値の向上と、ボイスコイルボビン部分までボロン処理が行なわれ、ボビンの長さも短縮してある。
 高域はDS1000のトゥイーターと同じ振動系に、φ85×φ32×13tからφ100×φ50×16tのストロンチュウムフェライト磁石を採用し、これはDS505の高域ユニットと同じものだ。
 エンクロージュア内部の吸音材も音質を左右するポイントとして、一部では古くから研究が続けられてきた。DS505時点でも、聴感上でのSN比を向上させるために、ナイロンロック、アセテートファイバーにグラスウールを加えた吸音材が採用されていたが、フレームを含めたユニット関係やネットワーク関係での高SN比が促進されたために、DS3000ではグラスウールは全廃され、ピュアウール、フェルト、ナイロンロックの3種のノイズの少ない吸音材が使われている。ちなみに、グラスウールはノイズの発生が目立つが、繊維状のガラスとほぼ同量の粒子状のガラスが混っているのがその原因であろう。この点で少しは、米国系のグラスウールは粒子の混入が非常に少なく、ノイズの発生も少ない。いずれにせよ、吸音材関係の研究は、いまだにメーカーサイドでもあまり意欲はなく、マンネリな吸音材の使用をしているのが実態のようで、音質に非常に有害なアッテネーターやレベルコントロールの問題を感知していない点も含み、使う側の使いこなしの欠如とも相まって、スピーカーの問題点は山積しているようである。
 ネットワーク関係も、ユニットと同等に音質を左右する重要なファクターである。基本的には、フィルムコンデンサーを主体としたDS505当時とは逆に、フィルム系独特の音的な強いキャラクターを避けるため、音質面で充分に検討されたバイポーラ電解コンデンサー主体の方向に進んでいる。
 アッテネーター、レベルコントロールの類を全廃しているのは、DS1000に続く見事な英断である。レベルコントロール用のツマミ類は、それ自体が、パッシブラジエーター的に中高域あたりの周波数でノイズを発生することにはじまり、アッテネーターをバッフル面に設けることにより、配線経路の延長と磁気フラツクスの影響による歪の発生、接点の存在や半田付処理の必要、さらに経時変化的接触不良の問題、バッフル板に穴あけが必要で、バッフルの響きを損うなどの問題が発生する。性能、音質を極限にまで追求する高級スピーカーシステムにおいては諸悪の根源といっても過言ではない存在だ。
 コイル関係は、ダイヤトーン独自の特殊コア採用の低歪型。配線材料は一種OFC、1・4スケアを中低域と中高域に、LC-OFCを低域と高域に使い分けている。素子間の接続などは、すべてノンプレーティングOFCスリーブを使用した庄着によるもので、入力端子部分のターミナルはDS5000と同一仕様の大型金メッキターミナルを採用し、各ユニット間の電流密度を均一化する特殊給電方式が採用されている。
 DS3000の試聴を始めることにしよう。このクラスの完成度が高いシステムでは、結果を決定的に支配するのがセッティングである。セッティングに関係なく、だれが使っても良い音で鳴るスピーカーが優れた製品とされた時代があるが、基本性能を向上させ、細部のモディファイを続けて追い込んでいくと、スピーカーシステムは、反応がシャープになり、無視されるようなセッティングの差や、わずかのアンプやプレーヤーシステムの使用条件の変化も音の変化として聴かせるようになるものだ。
 現在の優れたスピーカーシステムは、適当なセッティングでも程よく鳴り、正しく使いこめばシャープに反応を示し、圧倒な素晴らしいサウンドとプレゼンスが得られるものだと考える。このことは、いわゆるシャープな音からソフトな音まで、ダイナミックなサウンドからキメ細やかな繊細な響きまで、かなりの幅でコントロールできるだけのフレキシビリティを備えることを意味している。
 最初のラフなセッティングは、重量級のブロックや硬質な木製のブロックなどを置き、その上にスピーカーをのせて、ガタガタしないように置くことが条件である。ブロックを2段積む場合は、ブロック間に数mm厚のフェルトを挟む必要があり、スピーカー底板とブロック間にもフェルトを敷くべきだ。
 調整は、左右のブロックの幅をコントロールして低域と高域のバランスをとり、続いて前後方向に移動をさせてシステムの鳴りっぷり、表情をコントロールする。ポイントは、左右、前後ともに大幅に置き方を変えてみて、変化量を試してから細かい調整をすることだ。細かいコントロールを要求するときには、ブロックの穴は吸音材などで塞ぐべきであるし、スピーカー底板と床面、左右のブロック間の反射を避けるために、スピーカーに当らぬように吸音材を軽く入れるとよい。この吸音材にグラスウールの使用は不可だ。詳しくは、本誌71号の特集を参照されたい。
 本誌試聴室での試聴は、硬質な木製ブロックを1段で使ったが、床がコンクリートの上にカーペットを直接貼った仕上げのためか、この木製のブロックでは、やや重く、鈍く、反応が遅い傾向の音になるようだ。この条件では、重量級ブロックかビクターのLS1のような木組みのスタンドがマッチするだろう。使用コードはLC-OFC。手元にあったのは4本の芯線がパラレルになったタイプだけで、しかたなくそのうちの2本のみを使い、残りは使用していない。
 全体の傾向としては、柔らかく芯がクッキリとした安定感のある低域をベースに、、厚みのある中域、シャープな分解能が高い中高域から高域という広帯域型のバランスをもつが、聴感上のSN比が非常に優れ、音像定位がクリアーに立つ、音場感情報の豊かさが他のシステムと一線を画した特徴で、聴感上のSN比は、ブロック周辺の吸音材の使用と密接な関係がある。
 注意点としては、システム全体のメインテナンス、つまりコード関係のクリーニングやAC極性のチェックと機器の給電方法、プレーヤーやアンプの置き方などをあらかじめ整えてからヒアリングを始めることだ。システムに不備があれば、それはそのまま音に出て、スピーカーの責任と受け取りやすいことが往々にしてあるからである。DS3000はまず、整備された試聴室などで試聴をし、少しセッティングを変えながら、自分にとって好ましいかをチェックすることが必要であろう。イージーに使っても、優れた特質の片隣は聴かせるが、どのように使いこなすかによって、結果は大幅に変わるだろう。これが、試聴の印象を最少限にとどめた理由である。DS3000は使い手の力量が試されるシステムである。しかしそれにもまして、内に秘めた力をとことん引き出してみたいという強烈な誘惑にかられるシステムである。

スピーカーシステムのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 一組10万円未満のグループからは4機種選んだが、これと同じ価値のあるものが他にないわけではない。ただ、どうしても、スピーカーの絶対価値とでもいうものは、もう少し高価格帯に層が厚いと思ったので、このゾーンでは思いきって数をしぼる結果となった。そして、これら4機種は、それぞれ、性格の異なるものを選んでみた。つまりビクターのZero10Fは、ハイファイ志向で、小型ながらスケールの大きな再生音で比較的優等生的な万人向きが特徴だ。ボストンアクースティックスA40Vは、国産スピーカーとは一味違った趣きをもち、豊潤で暖かい血の通った音が魅力だ。ケンウッドLS330は、小型サイズながら、ワイドレンジ、ワイドスケールの音をうまくまとめあげている。ソニーAPM22ESは、現代スピーカーの奏でる美音が特徴。
 10〜20万円でも同じく、互いに性格の異なるものをあげた。4機種それぞれが、設計思想と結果の音が違い、スピーカーの本質を物語っていると思う。
 オンキョー/モニター500は小型で大型スピーカーにないよさを追求した高性能機。小型ならではのディスパージョンのよさ、低能率だが大きなパワーキャパシティで大音量再生が可能。
 セレッションSSL6は前記オンキョーのモデルになったと思いたくなるような製品で、良いスピーカーは、この大きさでなければならないという主張によって作られたイギリスの傑作だ。
 ケンウッドLS990Aはこの価格帯では大型のシステムでバランスのよいものだ。
 ボーズ301VMは301MMIIの漏磁対策型で、小型で個性派。きわめて効果的な音が魅力。
 20〜40万円では音に風格を求めたくなる。ただバランスよく鳴るのでは趣味は満たされない。6機種中5機種が外国製という結果になった。唯一の国産ヤマハNS1000xは、いわば日本的端正美といえる点で選んだ。タンノイのスターリング、グリニッチの両機種共に、雰囲気のある音は説得力がある。ボストンアクースティックスA400は節度の利いた美しい音で整然とした響き。スベンドールSP1は、サラブレットを見るような締まった美しさで音楽が毅然と鳴り響く。B&O/M150−2は彫琢の深い克明なニュアンスの再現に優れ、音像が明確で緻密である。
 40〜80万円では8機種選んだが、共通項は特にない。このクラスでは、それぞれのコンセプトに基づき、コストにこだわらずメーカー自身納得した自信作が多いので、小型から大型まで、あらゆるタイプが入り混っているゾーンである。中では特に、タンノイのエジンバラとB&OのMS150−2が、品位の高さと音楽の感動を伝える魔力をもっていて好きだ。国産ではダイヤトーンのDS3000が最新の高忠実変換器として徹底していて可能性の大きさが予知出来るし、古い2S305が日本的な美しさで、いまだに世界に通用する名器だと思う。
 80万〜160万のゾーンは3機種。それぞれ性能、個性、風格の面で立派なものばかりである。クォードのESL63はその繊細、端麗な響きの美しさで類い稀なものだし、技術的なオリジナリティでも魅力十分。JBLの4344、L250共に、屈託のない現代アメリカンサウンドの魅力が満喫できる明朗豪胆なよさが推薦理由である。
 160万円以上は、並はずれた技術の傾注、クラフトマンシップ、確固たる主張が感じられるものが並ぶ。タンノイ/ウェストミンスター、JBLパラゴンは芸術的作品といっても過言ではないし、マッキントッシュXRT20、オンキョーGS1は、他に類例のない技術的追求の成果である。アルテックA5Bは見直すべきよさをもった伝統的名器で、大らかな音は最高のものだ。

スピーカーシステムのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 スピーカー部門の選択の基準は、基本性能が価格帯に応じて適度に維持されており、エンクロージュア、各ユニット、ネットワークなどの総合的なバランスの優れた製品を条件としている。簡単そうな条件であるが、意外に総合的なバランスの優れた製品が少ないのがスピーカーの特徴である。
 10万円以下では、これを、1グループにすることが無理な分類方法で、少なくとも5万円に、さらにボーダーラインを置くべきだ。5万円未満では、ボーズ101MMが、音質、形態 販売量ともにナンバー1の実力を持ち、アクセサリーの豊富さも好バックアップ材料。これに標的を合せた、抜けがよくクリアーなビクターZeroMP5、ナチュラルで伸びやかなヤマハNS−L1は共に防磁型がプラスのメリットだ。5万円〜10万円では、内容が充実し、総合的バランスに優れるダイヤトーンDS53Dがトップ商品。新製品では、上級機の高音と中音ユニット採用のデンオンSC905が注目作、小型ブックシェルフ型では、上級機での技術を凝縮したダイヤトーンDS211が玄人好みの好製品。防磁設計では、ダイヤトーンDS175AV、ビクターZero10Fが好対照の製品である。ユニークな存在がジョーダンワッツJumbo、ダークホース的な新製品がソニーAPM22ES、デザイン、音質に優れ、専用スタンドは非常に魅力的だ。海外新製品は、ボーズ201MMとユニークな200のサウンドの魅力を聴いてほしいものだ。
 10万〜20万円では、1ランク上の強力ユニット採用のパイオニアS180Dが実力ナンバー1だが、使いこなしの腕が必要。防磁設計で音質が向上したタイプに、ダイヤトーンDS73AV、ビクターZero50FXがあり、オーディオ専用としても内容は充実している。また、中域と高向域にハードドーム型ユニット採用のデンオンSC907も注目したい。ユニークな存在はオンキョー500で、海外製品との競合がどうなるだろうか。海外製品は、実力派ボーズ301VMがトップだろう。BBCモニター/ロジャースLS3/5Aは貴重な存在。
 20万〜40万円では、ユニット構造を一新したダイヤトーンDS1000がトップランクの製品。聴感上のSN比、音場感情報の豊かさは、本格派デジタル対応型。ただし、正続的使いこなしが必須条件。標準タイプなら、ヤマハNS1000Mが価格対満足度で素晴らしく、とくに、アナログ的な味わいは抜群。使いこなせれば、パイオニアS9500は、見事な1000M対抗作だ。渋い個性派のビクターSX10、新製品NS1000xのタイトな音も注目したい。安定した内容のダイヤトーンDS505、503、ビクターZero100、パイオニアS955III、海外製品では、ハーベスHLあたりも見直したい製品である。
 40万〜80万円では、ダイヤトーンの新製品DS3000が、性能、音質どれをとっても新世代の実力派といった飛抜けた存在。独自の音場理論によるボーズ901SS−Wのプレゼンス豊かな音も一聴に値しよう。個性派ではQUAD/ESLは古いが、新しい魅力。フロアー型では、テクニクスMONITOR1がコストパフォーマンスで抜群。とくに、ローズウッド仕上げとの対比は、ベストバイとは、この製品のために存在する表現ともいえる印象が強い。
 80万〜160万円では、本来のベストバイ的感覚から外れるが、ダイヤトーンDS5000、正統派のエンクロージュア採用のタンノイGRFメモリー、ユニークなスタックスELS−F83、QUAD/ESL63あたりしかないだろう。
 160万円以上は、ベストバイの対象外の価格帯であり、非常に幅の狭い趣味性という意味でしか考えられない製品だと思う。

オンキョー D-7RX

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 オールホーン型スピーカーシステム、グランセプターでユニークなスピーカーシステムに対する姿勢を示したオンキョーからの新製品は、ウーファー振動系に、既発売のモニター2000に初めて活用された、ピュア・クロスカーボンを採用したD7RXとD5RXのシリーズ製品であるが、ここでは、上級機種、D7RXを紹介することにしたい。
 カーボン繊維を平織りなどとし、これを合成樹脂系の材料でシート状にしたものは、航空機関係をはじめスキーなどの素材として広範囲に使われているが、もともと非常に高価な材料であり、一般的にはガラス繊維を一本おきに入れて原価を抑えながら、適度の物性値を得ている例が多い。
 この高価な材料を、ピュア・クロスカーポンの名称のように、平織りシートを45度角度をズラして、2枚を特殊なエポキシ系樹脂で貼り合せてコーンとしていることは、この価格帯の製品としては 驚異的なことで、特筆すべき成果である。なお、この振動系の採用で、ピストン振動領域は高域にまで拡大され、従来のようにコーンの剛性不足で、音量を上げたときの飽和感が解消された点が確認できた。
 スコーカー振動板は、紙に比べ格段に大きな内部損失と速やかな減蓑特性をもつデルタオレフィンに添加物を配合し、剛性を4倍としたデルタオレフィン・リファインド板動板採用。トゥイーターは、オンキョー独自の振動板用薄箔マグネシュウム振動板採用のハードドーム型である。
 ネットワークはアンプ技術を導入した集中一点アースや、低音と中音・高音を2分割としたコンストラクションをとり、エンクロージュアは、レベルコントロール部分の平坦化、サランネット枠の反射対策、システム背面のバスレフポートなど、モニター2000の技術を採り入れている。ウーファーとスコーカーユニットとエンクロージュアの接触部に剛性のあるマイカとブチルゴムの混合物を充填して、不要干渉から正確なピストンモーションを保護していると発表されているが、おそらく、いわゆるパッキング材に相当する部分と思われる。この部分と振動板のピストンモーション領域との相関性があるとする説は、非常に興味深く、ぜひともその相関性をデータとして発表してほしいものである。
 適度にスムーズにコントロールされた帯域バランスと、しなやかで伸びのある音をもつシステムである。新材料ピュア・クロスカーボンも第2弾製品のためかほどよくコントロールされ、大音量時の芯の強さ、腰の坐った低域は、従来のデルタオレフィンとは別世界の安定感だ。情報量が多いLC−OFCスピーカーケーブルを使い、細かくセッティングを追いこめば、新製品らしい魅力を充分に味わえるはずである。

パイオニア S-180D

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 1978年秋に発売されたS180は、ほぼ、2年毎に改良が加えられ、S180A、S180IIIを経て、今回3度目のモディファイにより、S180Dにリフレッシュして登場することになった。
 基本構成は、第3世代のS180III以来の高域にリボン型トゥイーターを採用した3ウェイ・バスレフ型システムだが、内容の変化は、完全に新モデルと呼ぶに相応しく、実質的なグレイドアップだ。
 まず、ウーファーは、S9500で採用した、ダブルボイスコイルのEBD方式が最大の特徴だ。2重綾織りダンパー、ロープロファイルウレタンロールエッジとカーボングラファイトコーンの振動系に、磁気回路の振幅歪を低減する、ボールピースの切れ込みとサブポールを使ったリニア・ドライブ・マグネティック・サーキット方式を併用する。S1801IIIと比べ、外径は165mmと共通だが、厚みを12mmから17mmに約40%増したストロンチュウムフェライト磁石採用の強力磁気回路が目立つポイントだ。
 スコーカーは、基本型はS180以来のものだが、振動系は一新され、コーン周辺部に折曲げリブ構造をもつワンピースの一体成形タイプに発展し、ボイスコイルと振動板の接着にはS9500で初採用した特殊接着剤により伝達ロスを抑え、エッジは3層構造の新タイプを採用している。
 トゥイーターは、ペリリュウムリボンに新形状のホーンを組み合せ、指向性とエネルギーバランスを改良して、クロスオーバー4kHzを達成した新タイプである。
 エンクロージュアは、内部定在波をコントロールするため、奥行きを小さくし、S180IIIより吸音材を少なくした高剛性タイプである。
 S180Dは、このクラスの製品としては、異例ともいうべき物量投入型で、しかも、新方式、新構造を採用した注目すべき新製品である。最大の特徴たるEBD方式は、エンクロージュア容積を2倍にしたことに相当する豊かな低域再生を可能とし、重低音再生に特徴があるが、S9500よりは、聴感上でタイトにまとめてある。
 ほぼ、1ランク上級機種に相当する強力なユニットから再生される音は、内容がギッシリと詰った印象があり、音の伸びも鮮烈である。基本的な帯域バランスは、充分に低域に向かって伸びた柔らかい低域をベ−スに、抜けのよい中域と適度に華やかで輝きのある高域が、巧みに3点バランスを形成したタイプだ。内容があるだけに使いこなしでトータルなサウンドが大幅に変わり、セッティングとか、併用するアンプ系やプログラムソース系の欠点を、スピーカーの欠点と誤認しやすい点に注意したい。
 性能の高さを音として活かすには、正しい使いこなしがぜひとも必要であり、使いこなしを要求する見事なシステムである。

トリオ LS-990A

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 トリオから、デジタルオーディオに対応したスピーカーの新技術、クラスAサスペンションを開発し、これを採用した3ウェイシステムLS990Aが発売された。
 従来からも、トリオのスピーカー技術は軽質量コーン採用の完全密閉型とか、高剛性思想に基づいたリブを付けた紙製の高剛性コーンのウーファーの採用など、ユニークな開発を特徴としている。今回の、クラスAサスペンション方式とは、ウーファーのコーン支持部分の一部である、いわゆるダンパーとかスパイダーといわれる部分を、ボイスコイルが前方に動くときと、後方に動くときと、完全に同じ動作となるようにし、かつ微少入力から大入力時までの直線性を高めるために、対称型のスパイダーを2枚組み合せて使うタイプのことを意味している。簡単に考えれば、従来からの手法であるダブルサスペンション型の発展型と考えてよいものだ。
 ちなみに、かつてトリオでは、コーン外周のサスペンションであるエッジ部分に、前後方向の振幅に対して対称的動作をさせるために特殊なS字型をした形状のタイプを開発し、採用したことがあったが、今回はスパイダー部分のみであり、エッジ部分はいわゆる在来型である。
 このところ振動板材料に新素材を導入する傾向が一段と強まっているが、トリオでは従来の高剛性思想に基づいた特徴的なリブ入りパルプコーンを脱皮して、今回はウーファーコーン材料に、HRクロスカーボンを採用している。この材料は、同社のLS1000システムでスコーカーとトゥイ−ター振動板に既採用のものだ。今回はリブ強化パルプ層、高発泡樹脂層をサンドイッチ3層構造として採用されているようだが、資料にはその詳細は発表されていない。
 スコーカーは、ボイスコイル部分を含め一体成形をしたチタンの表面に窒化系セラミックTiNをイオンプレーティングしたドーム型に、特殊処理をしたコーンをつけた複合型。トゥイーターは、スコーカードームと同様な材料によるハードドーム型だ。
 ネットワークは、相互干渉を除去した、このクラスには少ない、高・中・低の3ブロック分割型。エンクロージュアは、バッフル板に、18mm厚と12mm厚を貼り合せに使用し側板と裏板は12mm厚とした、いわばバッフル重視型の、折曲げポート付のバスレフ型である。
 本機の音は無理のない帯域バランスとメリハリの効いた輪郭のクッキリとした力強さが特徴である。あまり音を抑えてキレイに鳴らそうという傾向が感じられず、ストレートさが良さであり魅力だろう。個性型のためか、あまり置き場所の影響も受けず、活気のある鳴り方をするため、分かりやすくその商品性は高いと思う。

BOSE 901SS-W, 301MM-II

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ボーズからの新製品は、同社のトップランクモデルとして開発された、901SS−Wシステムである。その基本型は、前面と背面の2通りの使い方ができるバイフェイシャル方式のユニークなモデルとして発売された901SSで、これに数々の改良が加えられた新モデルであり、901シリーズIVとは、異なったラインの製品である。
 このモデルの最大の特徴は、エンクロージュアの仕上げが、落着いたローズウッド調のダークブラウン系にまとめられていることで、エンクロージュア底面には、入力端子と天井取付金具CB1、スピーカースタンドSS5が使えるように、ナットが埋込まれており、別売のスタンドには色調を揃えた茶系のPS4SSが用意される。
 発表資料によれば、901SS−Wの音質面での特徴は、高域における繊細さをさらに洗錬させるための改良を随所に施し、SN比の向上、ダイナミックレンジの拡大と併せて、音楽性をより一層高めた、とある。
 インピーダンス0・9Ωのフルレンジユニットを9個直列接続にして、8・1Ωとしていることをはじめ、エンクロージュアの基本構造はシリーズIVと変わらないが、細部においては、合成樹脂系の成形品で作られている内部構造材と木製のジャケット的な外皮でエンクロージュアとしシリーズIVと比べ、内部構造材そのものだけでエンクロージュアを形成してこの部分の気密性を高めてあること、ユニット関係では、振動系の外観上の変化は少ないが、高域の歪の低減をはじめ、耐入力、耐破損性を高めるとともに、コーン裏側に施したダンプ材料のコーティングなど、細部を含めればシステムとして100箇所あまりの改良が加えてあるというのが、ドクター・ボーズのコメントであるとのことだ。
 なお、専用イコライザーは、初期の901SSでは、ブラックパネルに2個のレベルメーターが付いたタイプであったが、これが新タイプに発展したブラック仕上げが901SS用であるが、この901SS−W用には、シルバー仕上げのイコライザーが専用として用意されている。
 301MM−IIは、発売以来すでに4年が経過し、仕様を変更して、今春シリーズ IIに発展している。これにともない301MMのカラーバージョン301MM−WもシリーズIIに変わった。
 主な変更点は、まず、ユニット構成が従来と同様に2ウェイ方式であるが、トゥイーターが2個になり、エンクロージュア内部で一定の角度で前後に向けて固定され、旧型のフォーカシングコントロールがなくなったことが最大の特徴である。その他、前面と側面のウレタン製グリルが布製になり、BOSEのエンブレムが固定式となった。また、左右グリル間の木製の板が成形品となったことも印象が異なる。
 エンクロージュアの外形寸法は旧型と同様だが、板厚が数mmほど厚くなったためPR3以外の従来の取付金具は使用できず、新タイプの金具が用意されている。
 ユニット関係は、振動系コーンの色調がグレイ系から新製品共通のブルー系のコーン材料に変更され、裏側にダンピング材料がコーティングされている手法は901SS−Wと共通なところだ。
 901シリーズの音は、小口径フルレンジユニットを前面に1個、背面に8個分散させ、実際のコンサートホールでの直接音と間接音の比率をリスニングルームに再現するというユニークな構想に基づいた特徴に加えて、小口径フルレンジユニットの音に不連続な面がなく、緻密で、いきいきとしたサウンドの特徴を活かした点にある。低域と高域の不足を電気的なイコライザーで補い、その技術的内容がダイレクトに音として感じられる、プレゼンスとサウンドの魅力がメリットである。
 901シリーズIVが、穏やかなまとまりを示しながらも、緻密で内容の濃い音を聴かせるのに比べ、901SSは、同じようにダイレクト/インダイレクトの使いわけをしても、適度に広帯域型で、分解能が向上したクリアーで現代的なクールな音と雰囲気が、コントラストを作っていた。今回の901SS−Wは、901SS系をベースに分解能が一段と向上した印象である。細やかさ、しなやかさが、穏やかで暖かな雰囲気のなかにまとまって、熟成されているのが魅力であろう。
 この性質は、直接音を大きくして使う、サルーンスぺクトラムの場合でも、901SSとの性質の違いとなってあらわれるが、エンクロージュア左右に一対として付属しているフィンが、901SS−Wでは、木製ということもあって、バイフェイシャルな使いかたで、音とプレゼンスが大きく変化する。一例として、壁面から数十cm離して設置し、901シリーズIVと同様にフィンを閉じた状態と、外側のフィンを壁と平行とし、内側のフィンを各種の角度で使ってみると、音のバランスをはじめ、音像定位、音場感が相当に変化をするのが聴き取れるだろう。つまり旧301MMのフォーカシングコントロール的に考えればこの2枚のフィンは、サウンドキャラクターとプレゼンスのコントローラーとして使いたいユニークな機能である。この901SS−Wの小型高密度タイプでありながらクォリティが高く、音場感的プレゼンスに富むところは、他に類例のない魅力である。
 なお、301MM−IIは、旧型よりキメ細かく、しなやかとなり聴感上でのSN比が良いのが特徴だ。2個の固定した高域を活かすためには、使用にあたり内側と外側に置換えて調整するのがポイントだ。

オンキョー Grand Scepter GS-1

菅野沖彦

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
「興味ある製品を徹底的に掘り下げる」より

 グランセプターについての概要は、本誌71号の《ビッグサウンド》に既述した。しかし、限られたスペースで、このスピーカーのもつ特徴のすべてにふれることは不可能であったし、ようやく市場に導入され始めたこのスピーカーに大きな関心をもつ方もおられることと思うので、その後のこのスピーカーと私の触れ合いも含めて、さらにグランセプターの実像を浮彫りにすることを試みてみたい。
 前にも書いたが、このスピーカーシステムは、オンキョーの技術陣が、新しい視点でスピーカーを見直し、多くの成果をあげたニューカマーである。この製品は現在までに存在した世界の数々のスピーカーシステムが成し得なかった性能を具備していることは明らかであり、スピーカー技術史上に記憶されるべきシステムだといっても過言ではない。ただ誤解の危険性もあるので、あえていわせていただければ、個人の嗜好を含めて、即、最高の音が鳴るシステムだといいきることは難しい。すべてのスピーカーは、その技術の新旧に関わらず、そして、程度の差こそあるかもしれないが、必ず固有の音色や、音場イメージをもつものであり、それらが、個人の音感覚やコンセプトと結びついての好き嫌いの判定という問題は、絶対的なものだ。これをすべて否定し去ることはレコード鑑賞やオーディオの価値を著しく低下させるものであり、人間性の無視にも繋がる。ごく控え目にいっても、オーディオの楽しさを半減させる不毛の論理ともいえるだろう。限りなき科学的追求と芸術性の追求こそが、オーディオに大きな実りをもたらすものであり、そのバランスの達成が、この道の本道だ。録音空間という、いわばオーディオのインプット空間と、リスニングルームというアウトプット空間との異次元ともいえる条件の違いの中で機能するオーディオシステムの本質をわきまえれば、そして、さらには人の感性と情緒を満たすことを唯一のエイムとすれば、右のような結論にならざるを待ない。
 このような立場にたって、このグランセプターを見る時に、このスピーカーが、その科学的追求の歩を大きく進めたものであることが明らかに理解される。と同時に、高忠実度再生を家庭の部屋の中で大きく前進させる可能性をもつものだとも思う。しかし、すべての人の嗜好性への対応という点では、多くのスピーカーシステム群の中で、依然として〝ワン・オブ・ゼム〟の存在であることも認めざるを得ない。それでいいし、また、それは当然である。聴き手は常に自己の感性と情緒を満たす自由をもち、何人もこれを犯すことは出来ないことは、いまさらいうまでもない。しかし、それ故に、聴き手は常に自己の感性を磨き、情緒を豊かにし、正しいコンセプトをもつ努力をしなければならず、そうすることにより、より大きな幸せを得ることが出来るものだ。そこにオーディオの趣味としての存在価値と、オーディオを趣味とする人々の生甲斐の大部分があると考えるのである。

●グランセプターの技術的特徴
 グランセプターの特徴的な技術の概要を記すことにしよう。
 その第一は、これが、家庭用として設計されたオールホーン型システムであるということだ。ホーン型スピーオーは、他のシステムにない良さが認められているにもかかわらず、現在は家庭用のシステムとして決して主流とはいえず、極端に数が少ない。そして、そのほとんどが、中域以上でしかホーンロードはかけられておらず、このシステムのように、全帯域のオールホーンシステムは珍しい。現役製品の中からさがしてみると、コンパウンド(複合)型ホーンを採用したタンノイのウェストミンスター、フォールデッド・フロントローディングホーン(クリップシュホーン)のヴァイタヴォックスCN191、その他エレクトロボイスやアルテックなど外国製品にわずか見られる程度で、大半は特殊な業務用の色彩が濃いものだ。そして、その低域用のドライバーのほとんどはコーン型の大口径ウーファーで、、 オールホーンとはいうものの、そのダイレクトラジェーションを併用しているものが多く、純粋にオールホーンといえるものは少ないのである。ホーンスピーカーには過渡特性や高調波歪率などの点で、たいへん優れた点がありながら、同時に、ホーン特有の癖がつきまとい、また、オーソドックスな低音ホーンは極度に大型化するなどの難点もあった。したがって、最近はコーン型、ドーム型などのダイレクトラジェーターが主流となり、ホーン型は1950~60年頃をピークとして、一般用のシステムとしての開発は休眠状態に入っていたといえるだろう。オンキョーの技術陣は、現時点において、このホーンシステムの良さを改めて認識しなおし、かつ、その問題点を現代の技術でメスを入れたのである。
 ホーンの形状の見直しにとどまらず、その材質の検討には並々ならぬ努力を要したことが、このグランセプターから窺い知ることが出来る。アメリカのアルテックや、JBL、エレクトロボイスなども、新しい理論により、ホーンの研究開発を行ない、それぞれのコンセプトにもとづく成果をあげているが、実用的なオールホーンシステムとしては結実していないし、そのコンセプトも、やや局面的にとどまっているように私には思える。その点、このグランセプターのホーンの設計開発のコンセプトは、トータルサウンドとしての把握がベースにあって、音のよさと物理特性を新たな見地からとらえたユニークなものなのだ。

●グランセプターの性能的特徴
〝グランセプター〟オールホーン型システムの最大の性能的特徴は〝時間を正しく再生する〟というテーマに基づく研究開発の成果である。オンキョーでは、これを二つの代表的なファクターとしてとらえ、その解析と理想値の達成に大きな努力を払った。
 これが、グランセプターの第二の技術的特徴である。
 音は、それがピュアなサインウェーヴでもないかぎり、たとえ単音といえども、複雑な周波数成分から成立っているのが普通である。楽音では、それが条件でさえある。ピアノの440HzのAのキーをたたいても、440Hzは基音で、これに数次の高調波成分が重なり、また、ピアノのメカニズム、構造から発する複雑な低域成分ものっている。それがピアノのピアノらしさという音の表現である。この、異なった周波数成分の比率を正しく鳴らすには、周波数特性がフラットでなければならず、波形を変形する歪などはもってのほかである。しかし、これだけでは不十分で、各周波数成分が時間的にずれを生じてはならないというのが、このグランセプターの最大の主張なのだ。つまり、ピアノのAの音に含まれるすべての周波数成分は、スピーカーから寸分の遅れもなく、きちんと同時に再生されなければ、音色が正しく伝わらないということだ。
 たしかに、従来のスピーカーにおいては、この点は、帯域別という大ざっばな範囲では位相特性として着目され、各ユニットの音源の位置をそろえたり、ネットワークでタイムアライメントをとるという方法で対処され、それなりに成果があった。しかし、一つのユニットの守備範囲での時間の遅れについては、ダイレクトラジェーター(コーン型やドーム型)にあっては、それほど問題にする必要はないので、おろそかにされていたし、低域のf0附近での位相のずれに起因する時間の遅れも、より低域までフラットに再生するという意欲が勝って放置されていたのは事実である。これは、あらゆるタイプのスピーカーを作っているオンキョー自身が一番よく知っているはずだ。
 また、それだけに、現代スピーカーの音色の不満を、もう一歩つっこんで解決する意欲をもった時に、この時間のずれをなんとか解決しなければならないという考えになったに違いない。しかも、それが、ホーンシステムであれば、ダイレクトラジェーターとは比較にならない大きな要素としてクローズアップしてきたはずである。ホーンくさい、ホーンが鳴くなどの、ホーン型の泣きどころは、ほとんど、この時間特性の劣化(時間歪)に起因するものだからである。オンキョーは、これをマルチパス・ゴースト歪とリバーブ歪として提唱している。

●マルチパス・ゴースト歪とは
 マルチパス・ゴースト歪は、ドライバーから放射された音波がホーン開口面での反射による低域レスポンスの乱れとして音色に悪影響を与えるという従来からの定説とは別に、ホーン内部での反射による時間的遅れがきわめて有害で、これは、あたかもFM放送やTVの電波のマルチパスにも似た現象として捉えられるというものだ。セクトラルホーンやディフューザーつきホーンはもちろんのこと、ホーン内面の凹凸や段差、そして、急激な形状の変化などのすべては、音の反射を生じ、反射された音は、主信号から少し遅れて出てくるため、本来の音の質や色合いを害するというものである。たしかに納得できる説であり、微妙な音色の問題を追求する時にはおろそかに出来ないことだと思う。
 私が愛用しているJBLのHL88ホー
ン(537-500)などは、これの極端なもので、複雑に反射させて、ぶつけ合い、トータルとしては平均化して、かえって強い癖から脱しているのかもしれない……などと自らをなぐさめているのだが……。
 オンキョーによれば、ある種のマルチパス・ゴースト歪は音が華やかになり、これが好まれる場合もあるという。毒も薬だ。

●リバープ歪とは
 リバーブ歪とは、いわゆる鳴きといわれる、ホーンやエンクロージュアの振動によって発生する共振音のことで、これは時間遅れの残響音であるから明らかに時間歪と理解できるだろう。残響はすべて歪ということになるが、理論的にはたしかにその通り。だから、理論的に正しい音響再生空間は無響室であるべきなのである。しかし、いわゆる部屋の残響は時間的に差が大きく、方向感の識別も出来るもので、これは主信号と一つになって、それを害す印象にはならないから、感覚的にプラス効果として利用するのが得策だというのが現在のリスニングルームについての考え方になっている。このリバーブ歪も、時には毒も薬で、これを適度に利用して良い音のスピーカーが出来あがっているのも事実である。しかし、正しい、純度の高い再生音を得ようとするならば、その嘗は無視出来ないはずだ。
 これらの問題を設計製造の入念周到な努力によって解決したグランセプターは、ホーンの形状・材質そして木部の構造、仕上げに最大限の注意が払われて作られていることはもちろん、使われているドライバーも並のものではない。特に低音用のウーファーは220φ×110φ×25mmという大きく強力なマグネットに10cm口径のボイスコイルをもつ28cm口径の振動板で(振動板自体の実効径は23・5cm)、もはやコーン型スピーカーとは呼びにくい代物だ。f0での共振のQが小さく、低域の時間遅れを極力少なくしている。クロスオーバーは800Hz、12dB/octによる2ウェイ構成で、当然のことだがウーファーとトゥイーターの位置関係による時間のずれは起きないようにコントロールされている。十分とか、完全とかいう言葉を不用意に使うつもりはないが、よくここまでやった! というのがこのスピーカーに接した時の実感である。
 このように、かなり厳密に追求されたスピーカーだけに、その真価を発揮させるのは非常に難しいのではないかと感じられる方が少なくないだろう。事実、私の今までの経験でも、まるでこのスピーカーらしからぬ音で鳴ったのを聴いたことがある。リバーブ歪を考えても、現実に生活空間に置いた時に、スピーカーから離れたところではまだしも、すぐそばの壁面や物の反射や共鳴の影響が大いに気になる。また、マルチパス・ゴースト歪についても、まるでヘッドフォンと耳の関係のようなところまでスピーカー自体はつめがおこなわれているだけに、室内での反射があれば、その細かい努力も徒労に終るのではないか……という気もしてくるだろう。このスピーカーの他のスピーカーの音とは違う何かには、確かに、そうした技術的な特徴が音として出ているはずだから、そのデリケートな良さが損われてしまっては、比較的よく出来たホーンスピーカーシステムというに留まってしまうだろう。よほどよく出来た部屋でなければその特徴が聴けないのかもしれない……。
 これが、このスピーカーを紹介する時の用者側の努力を要求しないイージーな機械がはびこり過ぎたおかげで、真剣にオーディオと取り組む人が減っているようにも思えるので、これはこれでいいではないかと開き直る気持ちもなくはない。それにしても、私が、このシステムの試作段階から聴いてはっきり把んでいる特質と魅力をある水準以上で再生するにはどうしたらよいか? というのは気がかりなことである。他のスピーカーからは聴き難いデリカシー、ディフィニション……それは、あたかも、よく出来たヘッドフォンを聴くような音の質感である。
 そこで、次に、このシステムを本誌試聴室に運びこんで、オンキョーの技術者にアドバイスを受けながら、セッティングの実際を実験してみたので、ユーザーがこのスピーカーを使われるときのセッティングの参考として御紹介してみよう。

菅野 最初のセッティングは、スピーカーの軸が耳からずれており、また、左右のスピーカーまでの距離も違っていました。それを、きちんと合せたところ、いままで不満に思えた点──ややもたつきぎみの音──がなくなり、優れたホーンスピーカーらしい立ち上がり見事な音になり、このスピーカー本来の音に近づきましたね。
オンキョー このスピーカーの使いこなしでまず重要なポイントは、音の軸と距離合せです。ですから、できるだけ正確にやってください。具体的には、細いひもを使いリスナーの顔の中心から左右のスピーカーまでの距離をきちんと合わせてください。音の軸合せの方法は、懐中電灯を用い、ホーンのノドに光をあて、奥がリスナーのほうを向くようにやってください。このとき、最初にウーファー部、それからトゥイーターを合わせてください。さらに、トゥイータ一部分はうしろの足で高さ(傾き)調整が可能ですので上下方向の軸も合せるように。
菅野 フリースタンディングにちかいこの状態ですと、音のクォリティは非常に高いのでずが、やや低音の量感が不足していますので、これを補うため試しにコーナーに置いてみましょう。
(コーナーに置いて試聴)
菅野 普通コーナーに置きますと、低音の量感は増すものの、音がかぶりぎみで不明瞭になりがちですが、このスピーカーはそういったことがまったくなく、低音の量感のみ増えました。オーケストラではグランカッサがよりはっきり量感を増して聴こえるようになり、かぶりすぎて聴けないのではないかと思えたジャズのアコースティックベースもかぶりなく量感のみ増して、きほどのフリースタンディングの状態よりも全体のバランスがよくなりました。
 これは、いったいどうしてなんでしょうね。
オンキョー 一般のスピーカーは、無響室において周波数特性がフラットになるように設計されていますので、コーナーに置くと低音がかぶりすぎてしまいます。このグランセプターは2π空間で聴感上の周波数特性がフラットになるようにしていますので、無響室での特性は、低域がややだらさがりぎみです。そのため、コーナーに置いてちょうどいいバランスになったのでしょう。それと他のスピーカーと比べて本体の奥行きがあり、そのおかげでコーナーの悪影響を受けずに、コーナーセッティングの良さだけがでてきたのだと思います。
 セッティングのポイントは、スピーカーのまわりの音を聴いて、スピーカーの前面よりも横のほうが低音がでていたらそちらの方向にスピーカーをずらしてみてください。
 この鳴りかたですと、このスピーカーのつくり手であるわれわれとしましても非常に満足できます。
 しかし、もうすこしよく鳴らしてみたい欲もありまして、スピーカーの両サイドの壁にソネックス(吸音材)を粘ってみましょう。
(試聴)
菅野 さらに、このスピーカー本来の音にちかづきましたね。いかにもいい条件でスピーカーを鳴らしている感じで、音像が引き締まり、定位もぴしっと決まります。ただ、私個人の好みでいえば、壁に何も粘らないほうが、スピーカーを意識しなくてすみ、音が少し位相差をもって部屋全体にナチュラルにひろがってくれるので、好きです。ただし、これはソースの録音状態にもよりますが。
 ソネックスを貼られたのは、壁からの一次反射を取り除くためですか。
オンキョー その通りです。一次反射はスピーカーから耳に到達するまでの時間が直接音とそれほど変わらないため、一種のマルチパス現象を起こし音を濁してしまいます。二次、三次反射は時間差が大きいため直接音には悪影響は与えず、むしろ、響きとして音を豊かにしてくれます。
 一次反射が発生しているかどうかは、視覚的に簡単に確認できます。両サイドの壁、スピーカー前面の床を鏡に見立てて、リスニングポジションから壁、床を見てスピーカーが見えるようであれば一次反射が起こっていると考えてください。その場合には、その場所に雑共振のないものを置いて乱反射させ、一次反射がリスナーの耳にとびこまないようにしてください。一次反射は低音ではなく、中、高域に影響を与えますのでカーテン、ソネックス等の吸音材を貼っても十分効果はあります。
 今回は試聴室というオーディオ機器以外はなにも物がないという特殊な条件でしたのでいろいろと後処理をしましたが、適度に物の置いである普通の部屋ですと、それほどシビアに一次反射について悩むことはありません。ただし、スピーカー前面の床は極力かたづけてください。
菅野 吸音材を貼るよりも、物を置いて乱反射させたほうが響きを殺さずにすみ、いい結果が得られるでしょうね。また、吸音材を使うときは、床一面にジュータンを貼るよりもスピーカー真ん前に適度の量を貼ったほうがいいと思います。
 このスピーカーを使いこなす上で、大事なことはこのスピーカーが持っている優れた性能をできるだけ素直に引き出し、それを生かす方向で使っていただきたい。
 そうやって使った場合には、このスピーカーは、録音再生の変換伝送のアウトプットとしてひとつの正しいありかたを具現したものだとはっきりいえます。録音の違いをこれほど出してくれるスピーカーはまずありません。その意味でこれは、シビアなモニタースピーカーといえます。
オンキョー 同じ曲でCDとレコードを聴き比べますと、CDはセバレーションのよさでさ一っとひろがります。アナログディスクですとやや真ん中に音が固まり、どちらかといえばこちらの方が自然にきこえます。しかし、録った状況からいえば、CDのほうが正しいと思います。
菅野 ソースの違いもよく出しますが、録音の差も非常によく出してくれますね。
 一般のユーザーの言う『いい録音』とは、オシロスコープで位相特性を見るとリサージュが縦横一直線に近いもののことをいうことが多いのですが、われわれは、リサージュがマリモのようにひろがるのをよしとします。後者の録音ですと、このスピーカーで軸を合せても、自然な音場感を出してくれます。ところが、縦横軸独立型のものですと、右と左が完全にセパレートして、たとえば弦が左側に偏ってしまい、スピーカーの軸をややずらしたほうが、自然に聴こえがちです。
 こういう録音の違いは、このスピーカーにとって重要となります。これを理解せずして、このスピーカーの良さを感じとることはできませし、使いこなすのも無理でしょう。
オンキョー われわれとしては、百人なら百人のユーザーすべてにこのスピーカーを理解してもらうのは無理だと思っています。ただし、理解していただけた人は、いままでのスピーカーでは聴けなかった音が聴けるはずです。
菅野 まさにその通りですね。
 スピーカーには、BOSEに代表される、あら取る方向に音を拡散する音場型のものと、このグランセプターのように、聴取ポイントを一点に決め、そこに音を集中するものとに分けられます。現在では、スピーカーの在りかたとしてどちらが正しいとは言えませんが、グランセプターは、後者の項点にたつスピーカーのひとつと言えます。
 さきほど、アンプ、コードも変えてみましたが非常にその差をだしますね。
オンキョー この辺も使いこなしで大切なことで、チューニングのひとつのポイントです。
菅野 それは私も感じました。今回は、ピンコードを普通のOFCのものとLC-OFCのものとをきいたわけです。OFCはLC-OFCと比べるとやや不明瞭、よくいえば雰囲気的ですLC-OFCは、ひとつひとつの音がクリアーによく聴こえますが、それだけにバランスも違い、LC-OFCのほうがワイドレンジです。これは、好みの問題でしょう。
オンキョー 何度も言いますけれども、この辺のことをよく理解しませんと、スピーカーを取替えただけでは決していい音はでてきません。
菅野 このスピーカーに取替えますと、いままでのスピーカーとは全然音がちがってとまどうことになると思います。その違いになれ、その違いが、何が原因で起こるのかをちゃんと見きわめる必要があります。その状態で、置きかた、家具の配置、コードの問題を解決して、かなりいい方向にもっていった段階で、初めてアンプに手をつけるべきでしょう。
 このレベルのスピーカーを使う人になると、技術的な高度のものを求め、また、それをもっている人も多いとおもいますが、一般的に言いますと、強烈な嗜好をもっている人のほうが多い。しかし強烈な嗜好だけではこのスピーカーは決してうまく鳴ってくれません。技術的なものをもっていないと、特にこのスピーカーは誤解してしまいますので注意していただきたいものです。

 以上が、セッティングの実際の試みであって、以前思っていたより扱い易いスピーカーという印象だ。そこで、今度は、私の部屋へ運び込んで、このグランセプターを鳴らしてみることにした。
 実のところ、もう、ずい分前に、このシステムを、バラックのような試作段階で、わが家へ持ち込まれて聴いたことがある。その時、私は、その音の素姓に、従来のスピーカーでは聴けない良さを発見し、その商品化を強く要望したのであった。新しい発想と技術で努力した成果が、音に表われているか、いないかが試聴のポイントであり、システムとしての完成度には程遠いものであったし、バランスや音楽性を云々出来る段階ではなかったが〝栴檀は双葉より芳し〟と見てとった。
 しかし、以来、グランセプターをわが家では聴いたことがなかったのである。いよ
いよ商品として完成したグランセプターをわが家で聴く。たいへん楽しみであったし、不安でもあった。外で聴いてもかなりのものとは思っていたし、それだから本誌でもすでに紹介記事で讚辞を呈した次第だが、自室で確認するのは今度が初めてであった。
 わが家のリスニングルームは約20畳。しかし、正面には常用のJBLの3ウェイ・マルチシステムとマッキントッシュのXRT20が収まっている。右の壁面はレコード棚が天井高くまであるし、左の壁面には窓と、その前に家具がある。背面はアンプ棚だ。したがって、試聴スピーカーはXRT20の前に置くしかない。決して理想的な置き方は出来ない。しかし、前に試作機を聴いた時も同じ位置であったし、いつも試聴スピーカーはその位置へ置いて聴く。だから、最上の状態とはいかなくても、私にとってはもっとも適確に、被試聴機の特徴を把握することが出来る条件である。また、私の部屋は、私の考え方からして特に音響設計は施していない。一般家庭の音響条件に近いはずだ。放っておけばオーディオ機器の倉庫のようになるのを、努力して、出来るだけ普通の部屋のように保っている。音楽を楽しめる雰囲気を最小限にでも確保したいからだ。
 グランセプターが運びこまれた。本誌の編集部のスタッフが汗だくになって玄関の階段をかつぎあげてきた。ごく、単純に、XRT20の直前に置いて結線した。使用したスピーカーコードは何の変哲もない……というより、人がみたらびっくりするような貧弱なビニール被覆の平行線(これでよく鳴らないようなスピーカーは問題にしないことにしている)。プレーヤーはトーレンスのリファレンスにSME3010Rゴールド、カートリッジはゴールドバグのブライヤー、CDプレーヤーはヤマハのCD1a、プリアンプはマッキントッシュC32、アキュフェーズC280、クレルPAM2、ウエスギU・BROS1など、パワーアンプはマッキントッシュMC2255、MC2500、クレルKMA100、ヤマハB2x、サイテーションxI、エクスクルーシヴM5などで鳴らしてみた。
 編集スタッフのいる時に、ちょっと確認のため鳴らしたのは、C32とヤマハB2xであったが、これが、何もしないのに、結構な音で鳴った。ほんの10分くらい鳴らしただけで、編集部の人々は帰って行った。それから翌日の午前中でしか、グランセプターはわが家に滞在しない。限られた時間ではあったが、一人で、いろいろな組合せで鳴らしてみた。わずかではあるが、スピーカーのポジションも調整した。どんどんよくなる。少なくとも、今まで何回か外で聴いたグランセプターの音よりずっとよく鳴る。正確な音という印象を越えて、夜の9時頃からは楽しめる音になってきた。風格のある音にすらなってきた。クレルのプリとメインで鳴らした澄明で瑞々しい音の魅力、ウエスギのU・BROS1+M5のしなやかな質感は印象的だった。アンプの音のちがいはきわめて明瞭である。合う、合わないを書けるほどは聴いていないから何ともいえないが、概して、低域の豊かなアンプのほうが向いていると思う。結局、最後は、マッキントッシュのC32、MC2500の組合せに落ち着いた。
 外で聴いていた時には、いつも低音に物足りなさを感じたグランセプターであったが、わが家では違った。試みに、リスニングポジションで測ってみたが、低域は50Hzからスムースに下って、20Hzで8dB落ちという特性を示した。30Hzまでは確実だ。この辺は少しアンプでブース卜してやるといっそう好ましい音になる。低域の位相特性による時間のずれが起きるとオンキョーのエンジニアに怒られそうだが、このシステムの音色再現の忠実性を乱すようなことはなさそうだった。トランジェントのよい音の自然な立上りはダイレクトラジェーターの及ぶところではない。ホーンの独壇場であろう。それでいて、たしかに癖のない音が聴けるのだから嬉しくなってしまう。いつまでも聴いていたいと思った。これで、もっとセッティングを整え、スピーカーコードもしっかりしたものに変え、鳴らしこんだらさぞ……と思える音であった。
 翌日、編集部が引上げに来た。昨夜の最終状態の音を、ちょっとだけ聴いてみないかと私は編集部のM君にいった。M君に明らかな反応があった。
「たった一晩で、こんな鳴り方に変るもんですかねえ? 昨日とちがって、もう何年もここで鳴っているような感じ……」
 たしかに、私にもそう感じられたのだった。しっとりと鳴る弦、リアリティに満ちたピアノの音色の精緻な再現、ヴォーカリストの発声の違いの細部の明瞭な響き分け、たった一晩のグランセプターとのわが家におけるつき合いであったが、このスピーカーはそんな正確な再生能力に、しっとりと、ある種の風格さえ加えて鳴り響いた。
 このわずかのつき合いの間に、私は、このスピーカーを欲しくなっている私自身を発見した。ただ、せっかくの仕上げの高さにもかかわらず、あの〝グランセプター〟のエンブレムはいただけない。前面だけならまだしも、サランをはずした時にはホーンの開口部にまで〝ONKYO〟と貼ってある。このユニークな傑作は誰が見てもオンキョーの製品であることを見誤るはずがない。本当はリアパネルだけで十分だ。エンクロージュアやホーンと看板とをごちゃまぜにしたようなものだ。
 私がこのシステムを買わないとしたら、このセンスの悪いブランドの誇示と、内容からして決して高いとは思わないが、とにかくペアで200万円という大金を用意しなければならないという理由ぐらいしか見つからない。