Category Archives: カートリッジ - Page 35

シュアー M44-5

シュアーのカートリッジM44-5の広告(輸入元;バルコム)
(スイングジャーナル 1969年8月号掲載)

Shure

サテン M-11/E, M8-45E, STD-1

サテンのカートリッジM11/E、M8-45E、昇圧トランスSTD1の広告
(スイングジャーナル 1969年8月号掲載)

Satin

オーディオテクニカ AT-VM3, AT-35X

オーディオテクニカのカートリッジAT-VM3、AT35Xの広告
(スイングジャーナル 1969年8月号掲載)

AT-VM3

サテン M-11/E

サテンのカートリッジM11/Eの広告
(スイングジャーナル 1969年6月号掲載)

Satin

フィデリティ・リサーチ FR-5

菅野沖彦

スイングジャーナル 6月号(1969年5月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 カートリッジが再生装置の入口として大切なことは今さらいうまでもない。確実にレコードの音溝に刻まれた振動を検出して、素直に電気エネルギーに変換するのが役目である溝を針がたどって、そのふれを発電素子に伝えるという点ではどのカートリッジも同じ方法によっている。つまりカンチレパーといわれるパイプの棒の先に針がついていて、その反対側にマグネットなりコイルなりあるいはその他のエネルギ一変換に必要な物体がついているわけだ。その材質や形状には各設計者の意図や技術が反影していて千差万別だが、基本構造には変りがない。この振動体を弾性体て支えて、針先が常に所定の位置を保つようになっているがこれをダンパーといっている。これらを総称して振動系というが、この振動系の設計製造がカートリッジの特性をほぼ決定するのである。これを電気エネルギ一に変換する変換系にはいろいろな方式があるが、まず振動系が正しく働かなければ、そのあとにいかなる忠実な変換系を用意してもまったく無意味である。MMとかMCとか、あるいは光電子式とかいったカートリッジの種類はすべて変換系についての分類であるが、こうしたタイプの差だけをもってどれがよいか悪いかを決めこむことは出来ないという理由がここにある。
 フィデリティ・リサーチというピックアップ専門メーカーは従来その代表作FR1シリーズで高い信頼を得てきたメーカーである。FR1は改良型MK2になってますます力を発揮し、最高級カートリッジとして広く認められている。このFR1系はMC型であったから、FRといえばMCカートリッジという印象をもっておられる方もあるだろう。同社は古くからMM型の開発もしていたらしいが、製品として市場に登場するのはこのFR5が初めてである。MM、MCというタイプの違いこそあれ、FRの専門メーカーとしてのキメの細い設計製造技術は、まず振動系の完成度の高さに特徴があると思われ、このMM型の出現には大きな期待が寄せられた。
 MM型はMC型に対して使用上いくつかの利点をもっている。まず、出力電圧が高く、そのまま普通のアンプに接続できること、次に針先の交換が容易であることなどである。商品として大量生産向きであることもひとつのメリットだが、これはメーカー・サイドの問題である。そして、このFR5はMM型とはいえ、本体内のコイルのターンニングが特殊で、あまり量産向きではない。このMM型はいかにもFRらしい、こった設計でマニア向けの高級品といえる。磁性体の歪については、すでにFRT3という整合トランスで立証済の高い技術力をもつFRだから低歪率のMM型カートリッジの出現となったのも不思議ではない。ここへくると話は変換系の問題になるのだが、水準以上の振動系が出来上ると変換系の直線性も問題になってくるのである。ひらたくいえば、正確に楽器をたたくテクニックが完成してこそ次に音楽性の問題がでてくるようなものだ。もっとも音楽性のない奴はテクニックも完成しにくいように、カートリッジも変換系と振動系は密接な関係があって実際には2つを分けて考えるのが難しい。ある種の変換系では振動系を理想的にもっていけないという制約もある。その点、MC、MMといった方式では非常に高度なものを実現化できるのである。FR1の追求によって生れた高い機械的技術と磁性歪に関する豊富な資料が生んだこのFR5はMMカートリッジに新風を吹きこむものだ。
 音質は非常にクリアーで歪が少ない。これはジャズのプログラム・ソースに対してはパンチの欠けた弱々しい印象につながる場合もあるかもしれない。特にある種のルディ・ヴァン・ゲルダーの録音のように、どす黒い凄みのある音には品がよすぎるようだ。しかし、物理的に歪の少い高度な録音、たとえばボブ・シンプソンのO・ピーターソンの録音とかコンテンポラリーのロイ・デュナンのものなどには真価を発揮する。のびきった高域特性が保証するシンバルのハーモニックスの美しさ、デリケートな息使いの手にとるような再現が見事であった。

シュアー V15 TypeII, M75E Type2, M44-5

シュアーのV15 TypeII、M75E Type2、M44-5の広告(輸入元:バルコム)
(スイングジャーナル 1969年6月号掲載)

Shure

マイクロ M-2100

マイクロのカートリッジM2100の広告
(スイングジャーナル 1969年6月号掲載)

micro

シュアー M44-5

シュアーのカートリッジM44-5の広告(輸入元:バルコム)
(スイングジャーナル 1969年5月号掲載)

ShureM44

シュアー M75E Type2, V15 TypeII

シュアーのカートリッジM75E Type2、V15 TypeIIの広告(輸入元:バルコム)
(スイングジャーナル 1969年4月号掲載)

Shure

サテン M-11/E

サテンのカートリッジM11/Eの広告
(スイングジャーナル 1969年3月号掲載)

M11E

オルトフォン SL15, 2-15KJ, RS212, マランツ Model 7T, Model 15

オルトフォンのカートリッジSL15、昇圧トランス2-15KJ、トーンアームRS212、マランツのコントロールアンプModel 7T、パワーアンプModel 15の広告(輸入元:日本楽器)
(スイングジャーナル 1969年3月号掲載)

SL15

シュアー V15 TypeII, M75E Type2

シュアーのカートリッジV15 TypeII、M75E Type2の広告(輸入元:バルコム)
(スイングジャーナル 1969年2月号掲載)

V15II

シュアー M44-5, M75G, M75E TypeII

シュアーのカートリッジM44-5、M75G、M75E TypeIIの広告(輸入元:バルコム)
(スイングジャーナル 1969年1月号掲載)

M75

サテン M-11/E

サテンのカートリッジM11/Eの広告
(スイングジャーナル 1969年1月号掲載)

M11

サテン M-11/E

サテンのカートリッジM11/Eの広告
(スイングジャーナル 1968年11月号掲載)

M11

シュアー M44-5

シュアーのカートリッジM44-5の広告(輸入元:バルコム貿易)
(スイングジャーナル 1968年11月号掲載)

M44

フィデリティ・リサーチ FR-1MK2

菅野沖彦

スイングジャーナル 11月号(1968年10月発行)
「ベスト・セラー診断」より

 フィデリティ・リサーチ、略してFRというイニシアルは、マニア間で高く評価されているカートリッジ、トーン・アームの専門メーカーである。FRは社長が技術者で、会社というよりは研究所といったほうがよいような性格のため、広く大衆的な商品はつくっていない。この社の代表製品はFR1と呼ばれるムービング・コイル型のカートリッジで、昨年MKIIという改良型を発表して現在に至っている。この欄でもカートリッジを何回かとりあげ、そのたびに、再生装置の音の入口を受持つ変換器としての重要性については詳細に解説されている。そして、現状では理想的なカートリッジというものの存在が理論的には成立しても、実際の商品となると困難だというのが偽らざる実状のようである。つまり、物理特性をみても、あらゆるカートリッジがあらゆるパターンを示し、皆それぞれ専門家によって慎重に開発され製作されているのに……と不思議になるくらいである。ましてやその音質、音色となるとまったく千差万別で、どれが本当の音かは判定不可能といってもよい。一般にはレコードの音がどうであるべきかという基準がない(そのレコードを作った人でさえ本当のそのレコードの音を知ることはむずかしい)から音質や音色を感覚的に受けとって嗜好性をもって優劣を判断することにならざるを得ないわけだ。
 話は少々ややこしくなってしまったが、そういう具合で良いカートリッジというものを、いずれも水準以上の最高級品の中から見出すことはむずかしいのである。FR1MKIIは、そうした高級品の中でも、一段と明確に識別のできる良さをもっている。それは高音がよくでるとかどぎついとか、低音が豊かだとかいった、いわば外面的な特質ではなく強いて表現すれば透明な質といった本質的な音のクォリティにおいてである。FR1の時代には、かなり外面的な特長もそなえていて、音の色づけ、いわゆるカラリゼイションを感じさせるものがあった。それにもかかわらず質的なクォリティの良さを高く評価されていたのだが、MKIIとなってからは、そうしたカラリゼイションも一掃され本当に素直な本来のクォリティが現れてきた。そしてつけ加えておかなければならないことは、FRT3というトランスの存在についてである。ムービング・コイル型は出力インピーダンスが低く、一般のアンプのフォノ入力回路にはトランスかヘッド・アンプを介して接続しなければならない(例外もある)。これがMC型のハンディで、そのヘッド・アンプやトランスの性能が大きく問題とされた。せっかく、本来優れた変換器であるMC型が、その後のインピーダンス・マッチングや昇圧の段階で歪を増加させたのでは何にもならないからである。同社が最近発売したFRT3というトランスはコアーとコイルの巻き方に特別な設計と工夫のされた恐しく手のこんだもので、その歪の少なさは抜群である。FR1MKIIはFRT3のコンビをもってまったく清澄な音を聴かせてくれるようになった。FRT3は他のMC型カートリッジに使っても、はっきりその差のわかる歪の少ないもので、少々高価ではあるけれど、マニアならその価値は十分認められるであろう。
 FR1MKIIの音は恐らくジャズ・ファンの中には物足りないと感じられる人もいるかもしれない。しかし、そう感じられる人は、きっと歪の多い、F特の暴れた装置の音で耳ができた人だと断言してもよいと思うのである。私が優秀だと思うカートリッジはすべて、そういう傾向をもっているが、それは決して何かが足りないのではなく、何も余計なものがないのである。そして、そうしたカートリッジから再生される音はやかましくはないけれど、迫力がないということは絶対にない。これはぜひ認識していただきたいことだ。

デンオン DL-103

菅野沖彦

スイングジャーナル 8月号(1968年7月発行)
「ベスト・セラー診断」より

 DENON……デノンと読む。もともとは電音、つまりデンオンといって日本コロムビアでつくられるプロ用音響機器のブランドのことである。デノンという呼び方は輸出を考えてのことだろうが、我々にはやはりデンオンのほうがなじみやすい。ここでもデンオンと呼ばせてもらおう。
 デンオンには、もともとプロ用音響機器を専門に作っていた会社だが、5年前現会社である日本コロムビアに吸収されて、その事業部のような形になった。放送局やレコーディング・スタジオではデンオンのテープ・レコーダー、ディスク・プレイヤーが大活躍している。プロ用機器はその性能もさることながら、安定性、耐久性に優れていなければならないので、デンオンの製品も一見して、いかにもがっちりとした信頼感にあふれている。業務用として日夜酷使されるわけだから、なまじのことでは耐えられるものではない。一般機器からしたら、不必要と思えるほどの気の配り方、念の入れ方、材質の厳選、仕上がり完成度の高さが要求される。
 ところで、このようなプロ機器の専門メーカーであるデンオンの製品のなかで最もアマチュアにも親しまれているのが、カートリッジDL103だろう。DL103は無C型、つまりムービング・コイル・タイプのカートリッジで、その構造は有名なオルトフォンのカートリッジの系統である。このカートリッジは発表以来地味ではあるが着実な信頼をもって迎えられ、プロの世界はもとより、愛好家の中でも高級装置をもっているヒトたちの間では高く評価されている。このカートリッジはNHK技研との共同開発によるもので、カートリッジとして具備すべき物理特性は完璧なまでに追求され、その周波数特性は理想的といってよいフラットなものである。音質は実に素直で明晰、レコードに刻まれた波形を忠実にピック・アップしてくれる。再生装置の音の入り口であるカートリッジが癖のあるものでは、スピーカーからでる音はさらに癖の強いものになることはいうまでもない。再生装置は多かれ少なかれ固有の音質をもつものだし、趣味としてのオーディオはそうした個性のバリエーションと自分の嗜好との結びつきにもつきない興味があるものだ。しかし、その目的はあくまで、レコードなりテープなりに収録された音の完璧な再生にあることは否定できない。完璧な再生をするためには、個々のパーツがその機能を完全に果すものでなければならないことはいうまでもない。ここに再生装置の各パーツ単体に高性能を追求する高度のアマチュアイズムがある。なぜ、こんなことをいうかといえば、再生装置は結果的に出てくる音がよければよいのだから、各パーツを単体でみた時には少々欠点があっても組合せでおぎない合ってオーバーオールで良い結果にすればよいという考え方があるからだ。この考え方にも十分理由はあるし、現実に、このような考え方によるアッセンブルのテクニックは重要である。しかし、互いに補い合いによって特性を結果的によくするということは、ある限度内で可能なことであって、最高のリアリティを求めると、これは無理である。最高の音を得るためには各パーツが単体で最高の特性を持っていなければならない。DL103は、このような要求に十分こたえる特性をもったカートリッジだと思う。先に述べたようにこれはプロ用のもので、プロ用としてカートリッジが使われる場合はレコードになったマザーやラッカー・マスターの試聴(音とこれのテープの音との比較試聴)などが主な用途なので、できるだけ固有の音色をもたないことが望ましいわけである。このようなわけで、これは、現在のカートリッジ中もっとも素直な癖のない、そして安定したパーフォーマンスの得られるカートリッジの一つだといえるだろう。MC型で出力は小さいが、アンプによってはこのままでも十分。足りない時には、同社のトランスDL03Tを求めるとよい。

サテン M-11/E

サテンのカートリッジM11/Eの広告
(スイングジャーナル 1968年8月号掲載)

M11E

シュアー V15 TypeII

菅野沖彦

スイングジャーナル 10月号(1968年9月発行)
「ベスト・セラー診断」より

 この製品については今さら説明することのほうが無駄と思えるほど、オーディオ・マニア間では有名な製品で、最高級カートリッジとして名実共に第一級の製品なのである。シュア一社はアメリカの音響機器メーカーで、もともとマイクロフォンの専門メーカーだった。カートリッジはステレオ時代になってから急に名声が上り、現在ではアメリカを代表する有力メーカーとして世界的に、その高性能と豊富な種類、大きな販売実績を誇っている。V15IIの特長について一言にしていえば、最も安定した動作をもった素直な音のカートリッジということになるだろう。私がこのカートリッジを初めて手にした時その宣伝文句が、トラッカビリティという新語をもって、レコード溝への追従能力の抜群さをうたっていたために、手持ちのほとんどのカートリッジがビリつきを生じるレコードをかけたのにもかかわらず、V15IIはまったく悠然と歪みなく再生してしまったことだ。〝トラッカビリティ〟という言葉はシュア一社のつくった新造語だが、カートリッジの針先がレコードの溝を完全になぞる能力といった意味である。カートリッジの本来の役目が、レコードの溝を針でなぞって、それによって起る振動を電気のエネルギーに変えるというものだから、その性能はまず、完全に溝の動きに追従しきれるかどうかということが条件であることは理解していただけるだろう。
 したがって、よくいわれるように、MM型とMC型とかいったことよりも、本当は針先の形状、大きさ、針のついた金属棒(カンチレバー)や、これを支えるダンパーと支点などの材質や組立て具合のほうが根本的な条件として大切なわけだ。シュアーV15IIはMM型つまり、ムービング・マグネット・タイプといって、小さな磁石を針と一緒に振動させて磁場の中に巻かれたコイルから電気を誘発するという方式のカートリッジだ。そして、溝を忠実になぞるというカートリッジの必要最小条件を満足させることによって、周波特性や音色の素直さといったむずかしい条件を含む諸問題を一挙に解決したのである。ちょっと表現がむずかしいが、それまでのカートリッジが周波数特性とか、弱音から強音までの幅や直線性、または左右の分離能力による臨場感の再現、音楽を生き生きと再現する豊かな音色といったような問題について多角的に、あちらこちらから検討され、手さぐりで改良されていたのに対し、V15IIは、そういったいくつもの条件を針の追従能力を徹底的に追求することによってのみ解決してしまったというような気がするのである。このためには情報分析をコンピューターによっておこなうなど、データの豊富な蓄積と積極的な実験精神、技術者が軽視しがちな経験の裏付けによる直感力といった人間の能力の結集によるところが大きい。
 V15IIは28、000円という高価格だから決して一般的とはいえない。一般的には同社のM44シリーズがベストセラーであろう。しかし、このカートリッジはマニア間ではたしかにベストセラーといってもよいほどの売行きを示している。経済的に余裕があれば、投資に見合った結果は必ず得られる製品だと思う。好みの強い個性的な音を求めると見当ちがいで、レコードに入っている音をかなり忠実に再生する信頼感あふれるカートリッジだと思う。かなり…と書いたように、これが決して終着点とは思えない。しかし、V15IIはカートリッジとしておさえなければならない大切なポイントを、他製品に先がけておさえた、つまり最もビリツキの少ない安定した製品だ。

サテン M-11/E

サテンのカートリッジM11/Eの広告
(スイングジャーナル 1968年6月号掲載)

M-11E

オルトフォン社長に聞く

菅野沖彦

スイングジャーナル 6月号(1968年5月発行)
「オルトフォン社長に聞く」より

 オルトフォンといえば世界一のカートリッジの代名詞。まず、その名を知らぬ人はいないだろう。しかし意外にそれ以上のことは詳しく知られていない。無理もない。オルトフォンというメーカーは北欧デンマークにあって、本来プロ機器専門のメーカーなのである。メッキ設備からプレス機、そしてカッティング・マシーンなど、レコードを製造するためのすべての機械を作っている特殊なメーカーである。そして、そのカートリッジとトーン・アームだけが、一般愛好家にも縁がある商品で、このところ高級ファンを中心に広く使われるようになった。オルトフォンという名前を聴いただけで、艶やかで重厚な、豊かに響く音がイメージ・アップするファンも少なくないだろう。オルト(ギリシャ語のパーフェクト、つまり完全)フォン(ラテン語の音)の名のごとく、それは現在、私たちが入手し得る最高のカートリッジである。
 このオルトフォンの社長ハ−ゲン・オルセン氏が初めて来日した。それを機会に早速オルセン氏に会見を求め、オルトフォンという企業について、それを代表するオルセン氏の、音についての考えなどを詳しく聴くことができた。私の質問に答えるオルセン氏は気品のある初老の紳士でおだやかな風貌の中にも鋭い感性と技術者らしい潔癖性をしのばせる。
 以下、氏との対話をもとに筆者の印象も加えて紹介するとしよう。
 まず、オルトフォンという会社、正しくはフォノフィルム・インダストリーとはいかなる会社か?
「1918年に二人のトーキー・エンジニア、ピーターセンとポールセンによって創設されました。そして、1943年ぐらいまで、トーキー関係の仕事を専門としてきたのですが、この年からレコード製造機器の製造を始めました。この頃はデンマークは第二次大戦中で大変困難な時代でしたが、1946年に初めてカッター・ヘッドを完成しました。これはヘッドからのフィードバックによってカッティングしている音をモニターできるという点で世界で初めてのヘッドでした。このカッター・ヘッドで切った原盤を試聴するについて、よいカートリッジがないことを知り、続いてカートリッジの製造に着手したわけです。もちろん、当時はモノーラル・カートリッジで、タイプA、タイプCと呼ばれるものです。このタイプCカートリッジは大変好評で世界中のレコード会社や放送局からの注文が殺到しました。1951年から数年間のことです。そしてステレオ時代になったのですが、初期のステレオには問題がありましたが、私共が最初のステレオ用のカッターヘッドを作ったのは1959年で、同時にステレオ用のムービング・コイル・カートリッジを作りました。これが、SPUシリーズです。私共の会社は全部手づくりで製品を仕上げていますので、そんなに数はできません(現在月産7000個)、同じ形のものでも年々性能の向上があります。」
 思ったより新しい会社だ。タイプA、タイプCのモノーラル・カートリッジも日本での使用者が少くない。そしてSPUシリーズというカートリッジは、オルトフォンの名を完全に浸透させた傑作で、ステレオ・カートリッジの名品である。その後、S15という新型を出したが、残念ながらあまり評判時よくなかった。これについてオルセン氏は
「S15は優れたカートリッジです。SPUより一段と進歩した製品です。しかし、一つだけ、このカートリッジについて誤解されていることがあると思うのです。それは、ヴァーティカル角が完全に15度のカッティング・ヘッドで切られたレコードだけを考えて設計されている点です。実際にアメリカや日本ではカッティング角が15度のものばかりではなく、そうしたことでこのカートリッジが受け入れられなかったかもしれません。」
 ちょっと本誌の読者にはむずかしいかもしれないが、S15も悪くはないということだ。そして、1年後にその不評の巻き返しを計るかのごとくSL15が発売されたのであった。このSL15は期待にそむかぬ優秀な製品で好評を得た。
「SL15はS15より設計基準を広げ、広い適応性を計りました。同時にSPU、S15の開発時にはできなかったことをSL15では実現しています。SL15は今までのオルトフォンの中での最高のカートリッジです。」
 自信満々のオルセン氏は説得力をもって語る。
 オルセン氏がこの会見を通じてもっとも強調したことは、音響機器についてのセールス・トーク、つまり宣伝文句のナンセンスについてであった。オルトフォンのカートリッジやアームについて大きな宣伝文句をもって表現されることは好まないというのである。オルセン氏の語ることはすべて技術的な裏付けのあることであり誇大な表現は一切しないということをくり返しくり返し力説しながらカートリッジの針圧の軽量化の必要性と、一方では過度になる危険性、針先のコンプライアンスについての最適値についてなど、こまかい技術的な話しが続いた。
 ところで、カートリッジの最終チェックはどういう方法をとるか。つまり、測定できるファクターはすべて厳格に測定することはもちろん、私の聴きたかったのは音を決めるにあたって耳による聴感をどう扱っているかの問題だった。
「ご質問の聴感テストについてですが、実は製品の開発、チェックを問わず、これをたいへん重視しています。新しい機構や仕様を採用する時、新製品の開発にあたっては、たくさんの耳のよい人たちにモニターしてもらって意見をききます。そして、私たちの社内での試聴を最終決定にします。製品の検査としては100個に1個の抜きとりで最終測定と試聴をします。私の経験では、100個に1個の割に検査していけばまず問題はないと思うのです。なぜなら、各プロセスにおいて厳重な検査がされ、組立てはすべて手で慎重におこなわれるからです。」
 聴感テストにはどういうレコードを使うか? これは大変重要な問題である。つまり、聴感によるテストには、聴感と科学的な分析とを関連づけて耳を測定器のように利用する方法と、もう一つ完全に感覚器として美意識に結びつけて評価するものとがあるからだ。後者の場合は、とくにどんなレコードを演奏するかということは非常に重要なことだといわねばなるまい。
「試聴に使うレコードは90%以上ドイツ・グラモフォンのレコードです。」
 しめた! 実際私はそう思った。実は飛び上らんばかりに嬉しかった。ドイツ・グラモフォンのレコードはクラシックが中心だから本誌の読者にはあまり縁のない話と思われるかもしれないが、オルトフォンのカートリッジほどグラモフォンのレコードを、すばらしく再現するものはない。これは私がつね日頃感じていたことで、私なりの空想で、オルトフォンのカートリッジとグラモフォンのレコードの音溝の形状とは非常によくあい、相互関係的なものがあるのではないかと、思っていたのである。というよりも、グラモフォンのレコードはオルトフォン以外のカートリッジでかけた場合、音色に異質なものが加わるというような事だけではなく、時に歪っぼい不安定な再生音になることすらあるのだ。そして、逆は真なりとはいかないところが不思義で、オルトフォンのカートリッジはいかなるレコードをかけても不安定になることがない。これは、オルセン氏の次の説明が理解の糸口となるように思われる。
「商品としての機械は誰がどう使おうと常に安定した動作が得られるものでなければなりません。そのためには極度に軽い針圧や、高いコンプライアンスは好ましくないと思います。また、針先の形状は非常に重要です。特に最近のダ円針については問題があります。私共はカッターを作っていますので、レコードの溝については徹底的に解析しています。一口にダ円いっても正確なダ円針はそうありません。オルトフォンの針先はそうした点で完全に磨かれ、検査されています。」
 これをまとめて私なりに解釈するとこういうことになる。聴感によるテストのうち、感覚的な美的判断という点では、オルトフォンのカートリッジは、あの重厚な豊かなグラモフォン・レコードの響きへの共感をもってなされる。つまり、ジャズ・ファンにはやや縁遠いが、それはベートーヴェンやブラームスの、そしてベルリン・フィルの伝統的な重厚な響きである。そして、カッティング・マシーンのメーカー、オルトフォンのレコードへの徹底的な理解の成果は、オルトフォン・カートリッジの機器としての万能性、安定性として現われている。この結論は、次のような少々意地の悪い質問によって導きだしたものである。〝オルセンさん、もしAという人がオルトフォン・カートリッジを買って、カラヤン指揮のベルリン・フィルによるベートーヴェンの交響曲をグラモフォン・レコードで聴き、すばらしいカートリッジだといったとします。そして、Bという人はコロムビア盤のマイルス・デヴィスを聴いて不満をもらしたとします。あなたはこれをどう解釈されますか?〟

オルトフォン SL15

岩崎千明

スイングジャーナル 3月号(1968年2月発行)
「新製品試聴記」より

 一昨年66年の暮から春先にかけて日本のオーディオ界は新型カートリッジが話題を呼んでいた。もっとも毎年、暮のHiFiセールのシーズンには必ずといってよいくらい国内カートリッジ・メーカーから新型で出るのだが、この66年の春には米国のシュア社からV15の新型であるタイプIIが出たし、その直前にはヨーロッパのカートリッジ・メーカーの雄、オルトフォン社で、5年ぶりに新型カートリッジを出したことが日本HiFi市場にも伝えられていたので、その着荷がファンに待望されていた。
 S15と呼ばれたその新型は、春になって発売されたシュアV15タイプIIや、すでに当時すごい評判を得ていたADCの高級品10Eとともに比較されたのは当然である。
 しかし、結果はあまりはかばかしいものではなかった。S15は一聴して分る高音域のピークが耳についた。シュア・タイプIIやADCのカートリッジが、最新型らしく超高域までフラットにのびており、ソフト・トーンにまとめられているのにくらべたしかに従来より、よく高音はのびているものの、S15の高音は作られた音を意識させてしまうものであった。しかし世界的なコイル型のカートリッジ、オルトフォンの新型ということで、当初はとびつくように買われたと伝えられている。
 だが、それを聞いて誰もが感じるであろう、高音のあばれは、間もなく米国市場においてもいわれる所となり、5月号のコンシューマー・レポート誌の2年ぶりのカートリッジ・テスト・レポートにおいてはっきりと指摘されてしまった。
 いわく「ヴァイオリンは金属的高音であり、これは6000サイクルから10000サイクルにかけてのピークが原因である!」
 かくて、米市場だけでなく、オルトフォンのS15は敗北を喫してしまったのである。
 米国を廻ってきたオーディオ・マニアがよくいう所だが、オートチェンジャーが広く普及している。米国でもやはり高級ファンはオルトフォンのMC型の愛用者が少なくない。そしてオルトフォンの販売を扱う米国エルパ社がシュア社に対する対抗意識はすさまじいほどであるという。
 果せるかな、このS15の惨敗の以来6か月で、オルトフォンは再び軽針圧カートリッジを発表した。これが今度のSL15である。S15の惨敗の後をうけて立ったSL15。今度こそはなんとしても、絶対に負けてはいられないのである。ムービング・コイル型の名誉と栄光を担ってデビューした新型なのである。
 SL15は、実はS15のみじめな後退にすぐ代って出たことが伝えられていたが、実際に製品が日本市場に着いたのは97年押しつまった頃であった。
 そして、この背水の陣のデビューは、多くのプロフェッショナルの方々に絶賛を浴びてまずは幸運なスターとを切ることができたのである。
「オルトフォンの迫力と輝きを失うことなく、広帯域化に成功した」「新しい時代のハイファイ・サウンドをオルトフォンらしい音の中に実現することに成功した」というこの多くの賛辞はすべて事実であり、しかもこのSL15の価格は、従来のオルトフォンSPUシリーズよりも、10〜20%低価格であることともに、売れ行きも急上昇しているという。
 オルトフォンのカートリッジの最大の難点と思われるのは、従来からいわれていることだが、製品にばらつきが多い点にあるようだ。
 音色の微細な点、最適針圧などだが、今度のSL15においてはこの唯一の難点すらも遂に乗り越えているのはさすがである。これは従来より量産体制が確立していることを物語ろう。そしてこの事実を、日本のカートリッジ・メーカーは果してどのように受け止めているだろうか。
 国内メーカーのMC型カートリッジとオルトフォンSL15との価格差は20%にも満たないほどだ。世界的なオルトフォンの実力ぶりを発揮しているこのSL15は日本の市場での成功がすでに約束されているといえるが、これに対する日本メーカーの出方が気になることである。

サテン M-11/E

サテンのカートリッジM11/Eの広告
(スイングジャーナル 1968年3月号掲載)

M-11E

グレース F-8L

岩崎千明

スイングジャーナル 2月号(1968年1月発行)
「ベスト・セラー診断」より

 おそらくカートリッジの分野では今や世界のトップメイカーといえる米国シュア社が、最高級品の新型カートリッジV15タイプIIを発表したのは昨春であった。
 すでに、それまでの製品V15でさえ、多くの高級オーディオ・マニアや音楽ファンから、これ以上は考えられないほどの称賛の辞を贈られていた。いわく「音が透明」、いわく「立あがりの音の良さが抜群」、いわく「豊かな音楽性、しかもシャープな音の分解能」……。しかし、その評価の中には、アバタもエクボ式な賛辞もなくはない。国内で求めることができるカートリッジの中で、おそらく最高価格であったことが、そのあやまちをおかさせたのであろう。
 そしてタイプIIが、67年春に突如28、000円と、さらに高価格で発表された。今までの評価の言葉は、今度こそ本当であった。今までのV15をほめちぎっていた方の中に、新型に対しての称賛の言葉をついに探しえなかった人も少なくはない。しかしその人でさえ、V15タイプIIを愛用しはじめたのであった。
 しかし、このタイプIIを初めて見たとき、その基本的な態度に、すでに発表済みの国産の高級カートリッジと酷似している点をいくつか見出してがくぜんとしたのであった。音質的にも似ているその国産カートリッジが、「グレースF8」(¥12、500)である。シュア・タイプIIがとり入れたと思われる点を列記してみよう。
 ①カンチ・レバーの形状
 ②カンチ・レバーの垂直に対する角度(21度)
 ③コイル・アセンブリーの傾斜と形状
 さらに興味深いのは、シュア社がタイプIIの発表に際してのメッセージは、「カートリッジはどうあらねばならないか」という問題点をコンピューターで解答した内容である。
 グレースがNHK技研の共同開発を始めるに当って提出したレポートの、その箇条書と順序こそ違え、内容はほとんどそっくりであるといえる点である。
 それを要約すると、次の2点である。性能の安定性ととりあつかいやすさ。そしてトレース特性とクロストーク特性。しかも特筆できるのはグレースのF8の発表は’66年秋のオーディオ・フェアであり、シュアV15タイプIIの突然の発表に先だつことなんと8か月前である点だ。タイプIIとF8Lは発売期日こそほとんど同じだが、その狙っていた線がまったく同じであったのは、注目に値しよう。
 多くは語る必要がない。そのF8の優秀性と狙いの正しいことは、何よりもまずその売れ行きが示そう。
 従来コイル型がマグネット型にすぐれると言われていた高級カートリッジの常識は、こうしてグレースとシュアの新型によって崩れ去り、F8は国内カートリッジ中のベストセラーにのし上ったことは、誰もが認めよう。
 その優秀性の一端を示そう。クロストーク特性をながめてみればわかるように、10、000c/sを越える音域でさえ20dB(つまり1/10)を越すほどだ。クロストークの原因が、根本的にはカンチ・レバーの局部的共振であることを考えれば、これはそのまま、ずばぬけた周波特性を意味しようし、その点でもシュアのタイプIIの超高域におけるクロストークの劣化よりはるかにすぐれ、この点、まさにF8は世界的な傑作といいうるのである。そしてこの評価は、当分の間は変ることはあるまい。そしてその優秀性は、グレースの「一度出た製品は向上させよう」というそのポリシーの成果である。旧製品F7はシュアのコピーからスタートしたのであるが、F8はシュアがまねたとも言えそうだ。
 しかし、この世界的な傑作を生んだすぐれた技術を内蔵するグレースに一言注文をつけたい。ムービング・マグネット型はシュア社の特許で、世界に進出することを阻まれている。そこでマグネット型からさらに一歩進んだ、例えば、ムービング・アイアン型でもいい、グレースだけの完全なるオリジナル製品がほしいと思うのである。