オルトフォン SL15

岩崎千明

スイングジャーナル 3月号(1968年2月発行)
「新製品試聴記」より

 一昨年66年の暮から春先にかけて日本のオーディオ界は新型カートリッジが話題を呼んでいた。もっとも毎年、暮のHiFiセールのシーズンには必ずといってよいくらい国内カートリッジ・メーカーから新型で出るのだが、この66年の春には米国のシュア社からV15の新型であるタイプIIが出たし、その直前にはヨーロッパのカートリッジ・メーカーの雄、オルトフォン社で、5年ぶりに新型カートリッジを出したことが日本HiFi市場にも伝えられていたので、その着荷がファンに待望されていた。
 S15と呼ばれたその新型は、春になって発売されたシュアV15タイプIIや、すでに当時すごい評判を得ていたADCの高級品10Eとともに比較されたのは当然である。
 しかし、結果はあまりはかばかしいものではなかった。S15は一聴して分る高音域のピークが耳についた。シュア・タイプIIやADCのカートリッジが、最新型らしく超高域までフラットにのびており、ソフト・トーンにまとめられているのにくらべたしかに従来より、よく高音はのびているものの、S15の高音は作られた音を意識させてしまうものであった。しかし世界的なコイル型のカートリッジ、オルトフォンの新型ということで、当初はとびつくように買われたと伝えられている。
 だが、それを聞いて誰もが感じるであろう、高音のあばれは、間もなく米国市場においてもいわれる所となり、5月号のコンシューマー・レポート誌の2年ぶりのカートリッジ・テスト・レポートにおいてはっきりと指摘されてしまった。
 いわく「ヴァイオリンは金属的高音であり、これは6000サイクルから10000サイクルにかけてのピークが原因である!」
 かくて、米市場だけでなく、オルトフォンのS15は敗北を喫してしまったのである。
 米国を廻ってきたオーディオ・マニアがよくいう所だが、オートチェンジャーが広く普及している。米国でもやはり高級ファンはオルトフォンのMC型の愛用者が少なくない。そしてオルトフォンの販売を扱う米国エルパ社がシュア社に対する対抗意識はすさまじいほどであるという。
 果せるかな、このS15の惨敗の以来6か月で、オルトフォンは再び軽針圧カートリッジを発表した。これが今度のSL15である。S15の惨敗の後をうけて立ったSL15。今度こそはなんとしても、絶対に負けてはいられないのである。ムービング・コイル型の名誉と栄光を担ってデビューした新型なのである。
 SL15は、実はS15のみじめな後退にすぐ代って出たことが伝えられていたが、実際に製品が日本市場に着いたのは97年押しつまった頃であった。
 そして、この背水の陣のデビューは、多くのプロフェッショナルの方々に絶賛を浴びてまずは幸運なスターとを切ることができたのである。
「オルトフォンの迫力と輝きを失うことなく、広帯域化に成功した」「新しい時代のハイファイ・サウンドをオルトフォンらしい音の中に実現することに成功した」というこの多くの賛辞はすべて事実であり、しかもこのSL15の価格は、従来のオルトフォンSPUシリーズよりも、10〜20%低価格であることともに、売れ行きも急上昇しているという。
 オルトフォンのカートリッジの最大の難点と思われるのは、従来からいわれていることだが、製品にばらつきが多い点にあるようだ。
 音色の微細な点、最適針圧などだが、今度のSL15においてはこの唯一の難点すらも遂に乗り越えているのはさすがである。これは従来より量産体制が確立していることを物語ろう。そしてこの事実を、日本のカートリッジ・メーカーは果してどのように受け止めているだろうか。
 国内メーカーのMC型カートリッジとオルトフォンSL15との価格差は20%にも満たないほどだ。世界的なオルトフォンの実力ぶりを発揮しているこのSL15は日本の市場での成功がすでに約束されているといえるが、これに対する日本メーカーの出方が気になることである。

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