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JBL L300A

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 JBLのスピーカーシステムとして、代表的な存在といってよいであろう。プロユースの4333シリーズに相当する内容のコンシュマー用であり、外観フィニッシュもずっとファニチュア的雰囲気が濃く、好感のもてるものだ。38cmウーファー、音響レンズ付ホーン型スコーカー、ホーン型トゥイーターの3ウェイ・3ユニット構成で、エンクロージュアはパイプダクトのバスレフ方式をとる。明解精緻なJBLサウンドだ。

パイオニア S-933

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 ブックシェルフとしては高級大型システムに属する。32cmウーファー、6.5cmドーム型スコーカー、リボン型トゥイーターの3ウェイ・3ユニット構成をとり、エンクロージュアはバスレフタイプである。朗々とした明るい響き中にも、緻密な音像のエッジが明快に再生される。コーン、ドーム、リボンと各ユニットの構造のちがいを、巧みに調和させ、質感もよく統一されているのが見事である。

ビクター Zero-5Fine

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 意欲的な開発姿勢もさることながら、よくまとまった個性的スピーカー。コーン型ウーファー、ドーム型スコーカー、リボン型トゥイーターという組合せがユニークだし、帯域バランスを、質的にもよく統一した技術が光る。30cmウーファーがベースだけに、低音の豊かな支え、よのびたワイドレンジのスケール感が魅力。許容入力も余裕たっぷりで、かなりの大音量再生も可能であるから、音楽の表現力も大きい。

ヤマハ NS-460

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 全きバランスと、肌ざわりのよい質感、親しみやすくおだやかな雰囲気の中にも、適度な鋭さを合わせもった佳作である。構成は25cmウーファーと6cmトゥイーターの2ウェイのバスレフ型。トゥイーターは、コーンとドームの複合的性格をもっている。大きさとしては、中型に属するが、高能率で使いやすい。50〜70W程度のプリメインアンプとの組合せで使うのがよい。万人向きながら、マニアの耳にも十分応え得るもの。

トーレンス Reference

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 これはトーレンスの新製品で、本来トーレンスの研究用に作り上げられた製品である。それを超マニアの要望があって一般にも売ることになったもので、実に超ド級にふさわしいものすごいプレイヤーシステムだ。トーンアームが三本付くようになっており、スタンダードとしてはトーレンス自体のアーム、カートリッジ、EMTのアームとカートリッジ、そして好みのアーム、カートリッジを付けるようになっているり 全重量は90kgに達するが、このプレイヤーはリンソンデックやトーレンスの126のところでも述べたような、フローティング・マウンティングという思想を守っている。それでターンテーブルボードのものすごい重量をリーフスプリングとコイルスプリングで吊っている。しかも吊りの張力をコントロールできるようになっていて、共振周波数を1Hzから5Hzの間でもってコントロールできるという、凝った構造になっている。
 ターンテーブルは超ド級にもかかわらず、ノーマルな30cmのものが付いている。ベルトドライブとフローティングというトーレンスの思想を守ったターンテーブルだ。当然これは値段的にいっても、EMTの927に比して考えざるを得ないのだが、927はプロフェッショナル・ユースを志しているのに対して、これは言うならばコンシューマー・プロダクツのためのレファレンスだ。
音質 音質もまた927と比較して言うことになるが、927で私が戸惑いを感じたほど、レコード以上ではないかと思うような強引な力強い音ではない。しかし、力強さという点ではいささかも不満はない。しなやかさ、繊細さ、柔らかさという、つまり音楽的情緒では、私にはこちらの方がずっと満たされる。927の場合には、ちょうど仕事をして聴いている時のモニターの音のような気がした。モニターをしている時は、情緒までうんぬんしている余裕はないが、自分自身、家に帰って聴く音というのは全然違う。これは、自分が家に帰ってきて聴く時の、最高品位の音を出してくれるプレイヤーだと思う。
 柔軟性が出ていて、音楽がずっとのびのびしている。非常にバランスもすばらしくて、血の通った低音から、本当に過不足のない輝かしさのある高音まで実にしなやかだ。決して耳障りではなくて、それでいて頼りない音にはならない高域だ。こういうフルレンジにおいて、いささかの冷たさもトゲトゲしさも出てこない。解像力がものすごくよくて、音の奥行きの深さ、広がりとか各楽器の質感の響き分けとかというものは、レコードに入っている音楽的な響きを全くそのまま出してくれる。ただ、これはTSD15で聴いた時の印象であって、トーレンスのカートリッジ、アームで聴いた時にはちょっと問題があったように思う。品位の点では、TSD15の方がいいと思った。また、使い手によって自分の好きなアームとカートリッジを付けることができるけれども、ここでの試聴レポートでは触れない。たまたまTSD15を使った限りにおいて大きな差が出たが、それでいてこの二つは共通して他のいかなるプレイヤーとも全く次元を異にする音だった。

EMT 927Dst

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 このプレイヤーシステムは非常に特殊なもので、決して家庭用のプレイヤーではない。プロ用としても超ド級であって、何しろターンテーブルの大きさが16インチ径もある。これはカッティングしたラッカーマスターを検聴する目的で開発されたという。この下の930が放送局用のプレイヤーとして使われているが、ターンテーブルはもっと小さい。カッティングの検聴用ということだが残念なことに、私はこういうプレイヤーを実際にカッティングルームで使っている例をまだ知らない。カッティングルームの場合には、カッターマシンをターンテーブルに置いたままで聴けるようになっているので、このプレイヤーシステムの本当の使い方がどこにあるのか、私自身はっきり知らない。おそらくEMTとしてディスク再生機のあるべき姿を追求すればこうなった、というふうに解釈するのが本当ではないかと思う。
 もちろんこれはEMTのトーンアームとカートリッジを使うものであって、ユニバーサルタイプではない。TSD15を標準として使う。そしてイコライザーを内蔵していて、ライン出力を取り出すという方法をとっている。付属機構がいろいろ付いていて、針先のポジションがはっきりスケールで見られるようになっていて、レコードをかけるには確かに完璧を期したプレイヤーだ。
音質 駆動方式は今回の中では唯一のリム方式である。音質はもうケタ違いといっていい。今回聴いた最高級プレイヤーの中でも、これは一次元を画したたくましい音だ。はじけるようなベース、うなるようなバスドラム、パーカッションの立ち上がりの機敏な音、目も覚めんばかりだった。ピアノのスケールが一段と大きくなって、今までのものと違ってしまった、というふうに楽器のスケール感が変わって聴こえる。そして全帯域にわたって、実に朗々と響いている。同じレコードがこういう音になるとは信じがたい。
 とにかくこの重量のかかった音──音の目方という表現が許されるならば──これは全く今までとはケタ違いの目方がかかった音だ。そして音のパワーというものがものすごい。実際これはどういうことだろうか。レコード自体がこれだけ猛々しく鳴るべきものなのか、このプレイヤーがこういう音を出しているものなのか判断に苦しむ。とにかく次元を異にした猛烈な力強い音だ。もちろん帯域バランスとかはよくとれているし、クセがどこへ出るというものでもない。本当に最低域から最高域までを、ものすごい充実感と確実性と重量感を持って、スケールの大きな圧倒的な音を聴かせてくれる。
 まさにプレイヤーシステムによる音の違いとして、本当にひしひしと感じさせられた。948と同じTSD15を使ってテストしたが、カートリッジが同じであるにもかかわらず、同じEMTの中でもスケールがガーンと大きくなった。ましてやほかのプレイヤーシステムと比較してみた時には、相当違う音になる。こういう音を一度聴かされると、確かにほかのプレイヤーの音はどこかひ弱だ。しかしいい音には違いないが、レコードそのものがこういう音なのかどうか、疑いを持つほどに堂々たる音だ。もう圧倒されて、これは別格だという表現を使わざるをえないプレイヤーだった。

EMT 948

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 これはEMTの新製品だ。コンセプトとしては、放送送り出し用のターンテーブルということで、従来の930に匹敵する製品だ。930と同じくイコライザーを内蔵していて、ライン出力が取り出せるようになっている。
 また、放送機器として使うために、使い勝手が非常によく考えられている。けい光灯のようなものが付いていて、それがついてからすべてのスイッチがオンされる。もちろんマーキングがあって、頭出しも非常に便利だし、スイッチ一つで逆転が可能というところも大変に便利な構造ということがいえる。これはカートリッジ、アーム付きであって、EMTのTSD15を使う。それ以外のカートリッジは使えない。
 この948はターンテーブルがベルトからダイレクトドライブになった。このへんも新しい世代のEMTのプレイヤーシステムといえると思う。アクリルのカバーも付いていて、カバーは密閉式ではなく、両サイドがあいており、中にキャビティーができることによる害は比較的避けられている。その他の仕上げの点では、さすがにEMTらしく非常に精度の高いものだ。従来のEMTの持っていた重厚なイメージとは違って、これは非常にモダンなイメージにまとめ上げられた、これ自体大変に美しいターンテーブルシステムということができると思う。実際にはインシュレーターが付いているはずだが、今回はそれがなかったために、インシュレーターなしで使ったけれども、ハウリングには問題がなかったように思う。
音質 一つ気になった点は、ある低域に特定の周波数に共振が出ることだ。ほかのプレイヤーにない、ある種のベースの特定なピッチが少々強く出すぎるという感じがあった。全体には非常に締まった、むしろゴリゴリしたような低音だけれども、ある一点でそれがやたらにブーミーになる。音の感じとしては、全体に彫りの深い音だと思う。大体これは、カートリッジのTSD15の性格ももちろんあると思うが、やはりよくできたターンテーブルだからだろう。端正な響きで非常に魅力的だ。ただ中域のピアノの響きがちょっと伸びきらず、少しやせるというところが感じられたけれども、このへんはカートリッジのせいなのか、アームのせいなのか、あるいはターンテーブルシステムのせいなのか、トータルで聴いているためはっきりわからない。とにかく日本のプレイヤーとは次元を異にしている。クラシックのオーケストラをかけた時に、実にニュアンス豊かで品位の感じられる音になる。ふくらみがあって、それでいて解像力が優れていて、彫りの深い響きが鳴る。これはもう伝統としか言いようがない。EMTの930、927の音と比べて、これらの音の魅力をよく知っている人には変わったなと感じられるかもしれないけれども、確かに変わった部分はあるにせよ、持っている本質は変わらないと思う。あくまでも力強く、しっかりとした解像力でえぐるように音を鳴らす。それでいて決して雰囲気は即物的にならず、重厚なすばらしい風格を持った響きを持つという、EMT独自の個性はここでも明らかに感じられた。

マイクロ SX-8000

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 これは一般にはSX8000といっているが、各ブロックによって全部型番が違う。いわゆるターンテーブルと、駆動モーター部分、それからバキュームポンプの三つの部分からなるスリー・イン・ワンとでもいうか、セパレート型だ。非常にユニークで、強烈な重量を誇るターンテーブルシステムにバキュームポンプでエアを送って、ごくわずかだがフロートさせて軸受けベアリングの摩擦抵抗をなくし、SNをよくすると同時に、寿命を延ばすという方法をとっている。そしてモーターでこのターンテーブルを糸ドライブするという、超マニアックな製品だ。いかにも専門メーカーでなければ作れないし、また相当なマニアでなければ使わないものだ。
 実際に使ってみて、これは重量でがっちり固めて、それこそクッション類だのというものは一切使わない。全部リジツトに固めていくという方針だから、地上何メートルからかコンクリートを打ち込んで、そういう所において聴くというのが本来だろう。床がグラグラというような建物の中に入れて聴くのは意味がない。
音質 これは評価が大変難しい。非常にいい面とそうでない面とが相反していたように私は思う。全くブラインドホールド的に、構造だのなんだのを抜きにして、音として評価した場合のことを言うと──まず、ベースの音が不思議な、ブーミングではないが、どこかプログラムソースの音がゆがめられたというと語弊があるけれども、逆相成分を含んだ響きになった。もしこれがソースそのものだとするならば、これはソースの音を正直に出したということになる。今回聴いた十六機種中、ほかのはこういうベースの音にはならなかった。
 それから、強烈なベースのピチカートがいささかも振られることがない。極端にいうと、これ以外のプレイヤーでは何となくベース自身の支柱がぐらついているような感じの音がする。しかしこれは、ベースの支柱はあくまでがっちりしていて、そこでもって非常に強烈なはじく力で弦だけが震えている。そういうエネルギッシュなベースのはじき音は秀逸だった。クラシックのオーケストラを聴いてみても、非常に透明ですっきりとした、俗にいう抜けのよい音ということだろうが、とにかく明快で、透明であくまで底の澄んだ湖を見るがごとき透明感で、実に独特の魅力を持っていた。とにかくプレゼンスはいいし、分離もいいし品位の高い音ということは間違いない。各楽器の音像が大きくならないし、非常に定位が明快。結局、あくまでこの機械の持っているオーソドックスな、徹底的に物理特性を攻めていったという性格にふさわしい、精巧無比な音である。
 これだけのシステムで、徹底的に重量だけで攻めているから、いわゆるフローティングとかクッションとかによるハウリング対策は何も考えられてない。それだけに使い場所と使いこなしによって、ハウリングの悪影響を受ける場合があるかもしれない。
 現実に今回も鉄筋コンクリートの中でテストをしたわけだけれども、相当にハウリングが起きた。しかし、ラスクを下に敷くことによって見事に止まった。したがって、これは対策を施せばハウリングがとれるということで、そのへん注意された方がいい。

パイオニア Exclusive P3

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 このプレイヤーはパイオニアの高級ブランド、エクスクルーシブで出ているプレイヤーの最高級のもので、同社のプレイヤーに対する永年の技術を投入して作り上げたプレイヤーということになっている。確かに相当な力作であって、プレイヤーとしての備えるべき条件をがっちり守って作られたという、非常にオーソドックスなプレイヤーだ。
 まずベースが非常に重く、しかも剛性の高いものであって、全体のムードは非常にソフトなファニチャーライクなものになっているけれども、中身は相当たくましいものだ。トーンアームは軽くオイルダンプを施した、少し実効長の長めのトーンアームで、これもなかなかシンプルで、かつオーソドックスなもの。もちろんモーターはDDだけれども、考え方としては重量と剛性というものを追求していって作り上げたマニュアルプレイヤー。ハイクラスマニアにとっては非常に魅力のある製品だと思う。
音質 実際にこのプレイヤーでまず感じることは、ターンテーブルにレコードを置いて針を下ろした時に出てくるノイズが大変に静かだ。つまりSN比がいいということだ。そして、非常にエネルギーバランスが妥当で、各楽器の質感をよく出してくれる。少し感覚的に音の評価をすると、適度に温かい音、それでいて透明感がある。透明感のある音というのはともすると冷たくなりがちだけれども、それが冷たくならないのだ。もう少し細かくいうと、例えばピアノの音なんかは十分にピアノらしい輝きを持っていながら、決して鉄のハンマーでたたいているといった感じではない。それからベースがよくはずむ。リンリンデックのところでも触れたが、この場合は上へはずむ感じが出てくる。楽器の音色感とエネルギー感が非常に自然だ。その代わり低音は重量級の割にはそれほどたくましく、馬力のある音ではない。もちろん決して弱々しくはない。「ダイアローグ」を聴くと、バスドラムの締まり具合とふくらみ具合のバランスが非常にいい。芯がはっきり締まっていて、しかもその回りにつきまとう楽器のブーミングとステージの床に共振しているそのブーミングが非常によく出ているが、このへんのバランスの大変にいいということが、このプレイヤーの性格を示しているのではないかと思う。ベースの弦による音色の変化、これも非常によく出ている。それから、ブラシワークはちょっと細みで硬質になる。ブラシによるシンバルとか、ハイハットの音、あるいはスネアをブラシすると、やや細みだ。もう少し豊かさが出てもいいな、という感じがしたけれども、問題になるほどではないと思う。むしろ透明感とか繊細さというふうな感じで、リアリティーがあるように聴こえた。いかにも日本のち密な製品という感じがする。
 オーケストラを聴いても、全体に大変響きのバランスがよく、特に低音楽器群の響きはとても好ましいと思った。ここでも締まりとふくらみがほどよいバランス。つまり基音と倍音のバランスが非常にうまく出てくるといっていい。ホール感も大変にプレゼンスがよく、抜けもよくて全体的に濁りの少ない品位の高い音という感じだ。こういうとベタボメになってしまうけれども、中域の豊かさがもう少し充実してくれば、これは文句のつけどころがない。

ラックス PD555

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 これはターンテーブルシステムであって、アームはついていない。アームレスの他の機種と同じく、アームはクラフトのAC3000MC、カートリッジはオルトフォンMC20MKIIで試聴した。このターンテーブルシステムは非常に凝っていて、一番の特徴はバキュームによって完全にレコードをターンテーブルのゴムシート面に吸着させてしまうことだ。ゴムシートを介してターンテーブルとレコードが一体化してしまうというほど強力に吸引してしまう。これによってレコードそのものの不安定な、複雑な振動を完全にダンプしようというもの。形も非常にユニークで、かなり横長なもの。アームを二本取り付けて聴けるという利点がある。思い切った設計のターンテーブルシステムということがいえる。ハード的な雰囲気とソフト的な雰囲気を巧みに取り入れ、ハードにも片寄らず、ソフトにも片寄らない仕上げとなっているが、それが逆に何となく中途半端なイメージを作り出しているということにもつながるのではないかと思う。
 バキュームポンプが付属しており、リモートでもってスイッチを押してスタートすると、これがパチッと吸着される。しかも気圧計まで付いている。吸着するという効果は大変大きいと思う。その効果の程度が果たして、音という感覚評価の対象としてどうなってくるかというところは微妙な問題だ。ビクターのTT801システムが比較的軽く吸引しているのに対して、こちらは本当に、完全に吸着しているというところに大きな違いがある。従って、バキュームポンプを使って吸引、吸着システムを採用しているものとしては、こちらは徹底的。ビクターはそのへんをうまくコントロールしているということになる。徹底している方からすれば向こうは中途半端だということになるし、向こうからすれば、徹底させるといろいろな問題が出てくる、ということで判断は非常に難しい。
音質 音は総合的にいって、なかなか品位の高いいい音だ。打楽器を聴いても、ベースのピッチカートを聴いても、大変に締まっていて、かつ響きが殺されていない。これは吸着するターンテーブルの質、あるいはターンテーブルベースの構造によるものだと思う。だからこの部分がうまくいっていないと、音が死んでしまったり、音が吸着しすぎてダンプしすぎてしまう、というような音になるだろうと思うが、ここまで強力に吸着して、しかもそんなに響きが失われないということはターンテーブル並びにターンテーブルベースの振動モードが好ましい状態にあるということだと思う。輝やかしい音色でありながら硬くならず、そしてよくダンプされながら急激に減衰するというようなこともなく、楽器の楽器らしい音のはずみがよく出ている。エネルギーの帯域バランスもよくとれていて、ステレオフォニックな音場の再現感もなかなかナチュラルだ。よく音が前に出てくるし、左右の広がりも非常に豊かだ。個々の音についてはどこといって欠陥は出ていない。注文をつけるとするならば、オーケストラの低音楽器群での豊かさが少し物足りないのと弦楽器の高い方の部分がやや華やぐ傾向にあるということだ。しかし、楽器の音色の鳴らし分けその他は非常にいい線いっており、音質的にはこのプレイヤーはかなりのものだ。

リン LP-12 + LV-II

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 このプレイヤーはスコットランドの製品で、大きな特徴はフローティングマウントシステムを採用していることだ。トーレンスのTD126シリーズと同じような考え方である。これは大体ヨーロッパのプレイヤーシステムの主流だ。このことに関してはほかのところでもう少し詳しく述べたい。このリンソンデックの場合は、フローティングが大変うまくできている。見た目にはあまり有難味のない、この値段に匹敵しない仕上げ、デザインで、おそらく普通の人がちょっと見ただけでは、これは五、六万円のプレイヤーじゃないかと思うだろう。プレイヤーは音がよければいいということではなくて、見た目も非常に重要な要素だと思うので、この点に関してはリンソンデックに対する私の評価は非常に低い。いかにいい音がしても、高級プレイヤーシステムとして家庭に持ってきて、大事に扱おうという気が起きないようなデザインではダメだと思う。ここまですばらしいものを作りながら、このデザインで平然としているリンソンデックのセンスには私としてはちょっと共感しかねる。ところが実際に音を聴いてみるとこれがビックリ。私はリンソンデックのプレイヤーはオーディオ界の七不思議の一つだと思っているけれども、とにかく大変に音のすばらしいものだ。今回は、リンソンデックが最近出したアサックというカートリッジを付けて試聴した。トータルでリン・ディスク・システムと呼ぶ。
音質 このアサックを付けて試聴した感じでの音は、とにかく非常に重心の低い落ち着いたエネルギーバランスで、ピアノを聴いても打楽器を聴いてもガッチリとした、しっかりとした音で実に重厚、剛健というか、音楽の表現力が非常にたくましく躍動する。やや繊細さには欠けるような感じがして、もう少しデリカシーの再現ができればいいと思うが、しかしこの力と豊かさがわれわれの聴感には非常に心地よいバランスだ。これは非常に特異なものだと思う。ベースの太くたくましい、ズシンとくるような響きの豊かさというのはほかのプレイヤーと一線を画して魅力のあるものだと思う。ただベースの音色的な細やかな変化はあまりきかれない。そういう意味では先ほど述べた、繊細さに欠けるということにも通じるかもしれない。それからリズムは下へ下へ、グングン押しつける傾向のリズムで、上へはねる傾向には聴こえない。このへんがこのプレイヤーの特色だろう。しかし、ドラムス、ベースはジャズを聴いても迫力十分だし、オーケストラを聴いた時の厚みのある低音弦楽器部分の怒とうのように迫る響きはなかなかのもの。管の音もバスクラとかバスーンとか、そのへんの領域の音が非常に奥深く、深々と鳴ってくれる。こういうところが、このプレイヤーならではの充実した再生音だろうと思う。奥行き、音場感、これもなかなか豊かで、ステレオフォニックな音場感がこういうように再現されるというのは、プレイヤーの共振モードが大変にうまくコントロールされているのだと思う。私の感じたところによると、500Hzから800Hzあたりが非常に豊かに響いてくる。これが音楽を奥深く感じさせることになっているのではないかと思う。高域の弦楽器群、バイオリンのハイピッチの音などは、決してしなやかとまではいかないけれども、とげとげしくもない。

ソニー PS-X9

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 このプレイヤーシステムはいうならば、EMTのプロフェッショナルのプレイヤーシステムのコンセプトを受け継いだもの、といっていいように思う。それはどういうことかというと、まず第一にイコライザーアンプを内蔵している。全体にかなり剛性の高いしっかりした構造でまとめ上げていて、実際に放送局などで使うための便利さというものも十分に考えられている。起動トルクが大変大きくてすぐ立ち上がる。それから実際にターンテーブル周囲にはマーキングがあって頭出しがきちんとできるなど、細かい配慮も行われている。そういう意味でEMT930、927を範として開発されたプレイヤーシステムと考えてもいいと思う。見るからにしっかりした出来で、精度も高いし、いかにも業務用機器のイメージがあって、いわゆるウオームなファニチャーライクな仕上げではないけれども、これはそれなりの次元に達したプレイヤーだ。
 これは本来は、おそらくXL55プロのカートリッジが付いてくるものだと思うが、今回はそれが付いてこなかったので、ほかのものと共通のオルトフォンMC20MKIIを使ってイコライザーをジャンプして聴いた。
音質 実際の音だが、一番の問題点はやや響きが押えられすぎるという感じがすること。特に低音にそれがあり、全体にプログラムソースそのものに入っている音の伸びやかさみたいなものまでが吸収されるという感じがする。楽器そのものというのは大体ブーミングを利用して出来上がっているもので、当然再生系においてブーミングが加わるということはよくないことだけれども、その再生系においてあまりブーミングが加わらないように一生懸命固めていくと、どういうわけだか楽器そのもののプログラムソースに入っているブーミーな音色感をも硬くしていってしまう。そういう問題があるように思う。このプレイヤーにはそれが出ているように思う。従って、生きたナマの楽器の質感が出てこないということ。非常に端正に全部ガチッとした音像でまとまってはいるが、楽器そのものの生き生きとした性格がどこかへ押し込められてしまう。抑制される、そういう傾向を持っている。ベースなどは詰まり気味で、はじいた余韻が十分伸び切らない、減衰が早いという感じがする。それからピアノも中低域のフワッとした肉付きと雰囲気というものが出なくて、何か押し込められて、立ち上がりだけが鋭くパチッと立ち上がってくるということで、やや即物的なものになってしまう。俗に言えば、少し鋭いというか、つまり豊潤な響きのニュアンスというのがよく出てこない。言い方を変えれば、少々節制がききすぎてる。しかし、聴いてみると、どれもきちんと出てくるものだから、頭の中での自分のイメージのレファレンスを変えると、これはなかなかしっかりしたいいプレイヤーだともいえる。ところが自分の感受性で音楽として受け取った場合には不満が出てくる。いうならば優等生的な音といっていいかもしれない。そういうところがこのプレイヤーの良さでもあるし、悪さでもある。楽しい音は聴けないが、正確な音は聴けそうだというところか。

ケンウッド L-07D

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 このプレイヤーシステムは完全にアームまで一体となったもので、カートリッジレスである。このケンウッド、つまりトリオの作ったプレイヤーシステムは、非常に力作だ。このプレイヤーの思想というのは、できるだけ剛性と重量でがっちり固めていって、そして異種共振を持った材料を組み合わせることによって、共振点を互いにずらし、プレイヤーとして必要な良い共振モードを作り出そうということ。つまり特定の周波数に大きな共振が出ないような形にしていこうという、リンリンデックとかトーレンスのフローティングマウントシステムとは反対の考え方だ。日本の高級プレイヤーシステムに対する最近の考え方の主流を占めているものだ。そのために非常に凝った構造となっている。アームそのものにもう少し望みたいところもあるが、これは力作というにふさわしいプレイヤーだ。各部の構造、仕上げともに非常にしっかりとしており、精度も高い。アームの高さ調整などもギアでもって回転させる方式でスムーズに行える。その結果、必然的にできたデザインというのは非常にメカメカしいものになって、少々レコードを聴くというムードからはかけ離れてしまった。私自身も大変に良いプレイヤーだと思って、かなりの期間使ってみたが、もうひとつ愛着が持てない。力作であるということを十分認めながらも、デザインには注文をつけたいと思う。
音質 音質面について、ちょっと細かくレポートしていくと、高音域がやや華やぐ傾向にある。やや硬く、輝きがつく感じがあるが、しかしそれほどきつくはない。低音に関してはなかなか妥当なエネルギーバランスで、楽器のそれぞれの個性的質感をよく出している。例えばベースなどは決してゴリゴリとしたベースにはならないし、ドスンドスンというような、ただただワンノートベースのような重い響きにならない。ベースの響きは非常によく出てきている。はずみもあるし、弦楽器らしい柔軟性もよく出ている。なかなか解像力の優れたプレイヤーだけれども、かといって決して猛々しい音ではない。どちらかというと妥当な、むしろおとなしい音といってもいいかと思う。解像力が非常に明快なものだから、よくこのプレイヤーはガチッとした音というように評価されている場合が多いのではないかと思うが、それは見た目からもきているのではないだろうか。実際には音としてはそんなに硬い音ではないと私は思っている。ある意味ではエネルギーバランスとしては、レファレンス的なバランスを持っている。つまり標準的なバランスを持っているといってもいいのではないか。オーケストラを聴いてみても、管の音色の鳴らし分け、あるいは弦楽器の質感の鳴らし分けもなかなかよく、自然だ。トゥッティでのエネルギーバランスも非常によくとれていると思う。音場感、プレゼンス、ステレオフォニックな広がりとか奥行き、あるいは空間の再現、このへんもまずまずだ。飛び抜けてハッとするような次元は越えていないけれども、高級プレイヤーとしてはまず十分な再現能力を持つものではないかと思う。多くのプレイヤーは見た目と音の印象が非常に似ているけれども、このプレイヤーだけは見た目は少々ごつくてメカメカしすぎるが、音は標準的な、妥当なエネルギーバランスをもっているといえる。

マランツ Tt1000L

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 このプレイヤーの最もユニークなところはまずその仕上げ、デザインだ。プレイヤーボードは、重量のある金属をガラスでサンドイッチしている。これは大変にユニークだし、ガラスの性格が音響特性上好ましいという考え方から使ったものと思われる。ターンテーブルボードとしてガラスを使っているということは、いろんな点で利点はあると思う。つまりガラスのいいところは、こういう高級機に使った場合、絶対汚れない。はげないし、アカがついてもふけばすぐ元通りになる。マッキントッシュのアンプのパネルのように、いつまでも新鮮さを保つという点からも大変にいいことだ。それから比重が重いということも、ターンテーブルのボードに採用された理由ではないかと思う。そのために、全体に非常に派手なルックスになっている。色も非常にユニークな塗装と金メッキでゴージャスな感じのモデルだ。これはアームレスのターンテーブルシステムなので、AC3000MCとオルトフォンのMC20MKIIを付けてテストした。高級プレイヤーとして非常に個性的な製品であるだけに、好みが分かれるかもしれないが、私にはなかなか力の入った力作と思えた。
 マニュアルプレイヤーとして非常によくできたものと思う。
音質 音質は低音に関してはなかなか締まった音がする。ただ少々硬いという感じがつきまとう。中低域から上に関しては、その低音の硬さに対して少し締まりがない。そのへんの音色の変化のために、音楽がやや不自然になるところもある。例えばピアノの音などはややヤセ気味になる。中低域がしっかり、ふっくらしないということで、特にミドルC近辺のメロディーを奏でるあたりの音が少々ヤセ気味になるために、高域の輝きが少し目立ち、華麗な音になるということだ。こういう効果は曲によっては非常に生きてくると思うのだが、もう少しピアノの肉づきが出て、ふっくらした方が望ましいと思う。
「ダイヤローグ」のバスドラムの音はなかなか締まっていてブーミーな音は全く出てこない。カッチリと締まった音が出てくるし、それから高域もブラッシングのハイハット、あるいはスネアーの音が決してキンキンととげとげしくならないところもこのプレイヤーのいいところだと思う。ベースがそれに比して、少し弱々しい感じがする。強じんなはじく音が、俗にいうパッチリ決まらない。このクラスのターンテーブル、プレイヤーシステムになると、非常に重量級のものが多いので、大振幅のベースなんかは非常に力強くはじく感じが出てくるものだ。総合的にいって、確かにこれ以下のものと比べれば、そういうはじく感じが出ているとは思うけれども、このクラスの中で比べると少し物足りない。オーケストラを聴いた時にも、管楽器の空間における浮遊するようなヌケが、もうひとつ悪い。このへんが透明感を持ってこないと、音の品位という点で物足りない。ステレオフォニックな音場感というのはなかなか豊かでよく広がっていて、そう大きな不満はなかった。
 全体の印象としては、外観とよくマッチした音色、つまりなかなか華麗な音でダブついたところがなく非常に締まっている。

B&O Beogram8000

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 これは完全なプレイヤーシステム。このプレイヤーは全く観点を変えてつかまないと見当違いなことになる。特に今回聴いた十六機種中、設計のコンセプトから、あるいは使われる目的が全然違うものだ。これを同列でもって比較するということは見当違いの評価になってしまう。
 つまりこのプレイヤーは最高級のシステムコンポーネントのプレイヤーである。B&Oのカセットデッキ、プレイヤー、レシーバー、それにスピーカーを一つのシステムとして構成した時に真価を発揮する。エレクトロニクスコントロールでは最も早く先鞭を切ったプレイヤーで、これはその最新モデルだ。そして各コンポーネントをシステム化することによって全部自由にリモートコントロールできるという、大変すばらしいものだ。デザインの斬新さと美しさ、これはもう比類のないものでデンマークのモダンデザインの極といってもいいほどすばらしい。
 内容的にも相当高度な内容を持ってはいる。まず、同社が随分前から採用していたリニアトラッキング・インテグラルアームで、しかもカートリッジと一体型である。ただ一体型にしてはプラグインというのがちょっと気になる。
音質 この中で同列に評価すると非常に気の毒なことになる。こういう複雑な構造を持って、しかも非常に薄型の形になっていて各部が大変デリケートであると同時に、そんなに重量のあるものではないので、これをこのクラスの重量級のターンテーブルシステムと比較するとやはり音ではかなわない。まず低音がこの二十万、三十万円というターンテーブルの中で比較したら全然比較にならない。低音は出ない。無理やり出せばメカのノイズが出てくる。従ってこれに見合ったシステムで再生した時にすばらしい音楽的な音を聴かせる。超ド級のもの、例えばマッキントッシュの2500にJBLの4343Bなんかでグァーンとやることは、まさにベオブラム8000を顕微鏡で拡大したようなことになる。だから、根本的に考え方を変えてかからなければならないので、音に関してはあまり詳しく触れるのはやめておく。
 ただこのシステムの魅力、こういうデザイン感覚は絶対にオーディオ製品には必要だと思う。これは飛び抜けている。今回出てきた半分ぐらいは多少なりともこのデザイン感覚を見習って欲しいと思う。とにかく美しいすばらしいプレイヤーシステムだ。特に最近はエレクトロニクス・コントロールのターンテーブルシステムがたくさん出てきているが、その範とするに足るものではないか。
 オーディオというのは音そのものをよくするだけでは片手落ちで、結果的にはまず気分よくならなければならない。だからゴチャゴチャ配線を引き回して、すごい重量級の道具を置いて気分のいい人はそれでいい。しかし世の中はそういう人だけではない。部屋をきれいに掃除してすばらしいインテリアでもって気分よく音楽が楽しめる。そういうことを優先する人にとってはこのプレイヤーはすばらしいものだと思う。
 オーディオは、どんなメカ派でも音質派でも音楽を聴く。音楽を聴くことということだったら、やはりその範囲の中でセンスというものに関心を持たなければおかしい。

ビクター TT-801 + UA-7045

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 これはプレイヤーシステムだが、大変変わったシステムで、実際使っているターンテーブルやトーンアームは単体で売り出されているもの。ターンテーブルはTT801というクォーツロックのDD。別売のトーンアームUA7045が付いてきたのでこれで試聴した。ただトーンアームはベースが板ごと取り換え可能だから、ほかのアームを付けることももちろんできる。このプレイヤーシステムには、ターボディスク・スタビライザー・システム=バキュームポンプによってターンテーブル上にのせたレコードを吸着させるという効力を持つ機能がある。ただその吸着はがっちりと吸い着けるというほど強いものではなく、演奏中、絶えずある程度の力でレコードを吸い着けておくということだそうだ。実際にこのへんのコントロールはガッチリ吸い着けるよりもこの方がいいというのがビクターの主張だ。これは非常に難しい問題で、確かにガッチリと吸い着けてしまうと、かえってターンテーブルの物性とか、あるいは構造からくる共振、その他の影響を受けやすくなるということがあって、ある程度の吸引力で吸い着けておいた方が音質的には好ましい、というのがこのシステムの考え方だろう。こういったシステムなので、当然マニアックなものだが、このポンプが音を出すのでどこか別のところに置かないとやはり気になる。そういうこともいとわずに、これを使うかどうかが、この製品を選ぶか選ばないかの分かれ道だと思う。
音質 実際に音を聴いてみると、確かに吸引の効果はあるけれども、ガッチリ吸いつけた時ほどのダンピングのきいた低音にはならない。ベースの音などややふくらみがち。悪い言葉で言うと、少しブカブカする。もうちょっと締めて欲しいという感じがする。しかし、これを言いかえると、締まった音というのは音楽性が足りない。やはり適度にベースなどは豊かに鳴ってくれると音楽的には楽しい。そういう点から考えると必ずしも悪いとはいえない。ただ余計な音全部をこのバキュームによってコントロールしている、という感じはやや薄いという意味だ。ピアノの中域の音がちょっと薄くなるという点が気になった。これはターンテーブルのせいではなく、ほかの部分によるものかもしれない。例えばトーンアームとカートリッジの相性とか。カートリッジはMC20MKIIを付けたけれども、そのへんの要素も入ってくるので、すべてがこれの特徴であるバキュームシステムの音というように解釈していただきたくない。けれども、全体的に少しそういう感じがした。それからちょっと高域がきつくなる。これはもうカートリッジのバランスではないかという感じがした。全体的なエネルギーバランスはいま言ったような細部の問題はあるが、まずまず取れていた。それからプレゼンスが大変いい。これはバキュームを使う時と使わない時では大違いだ。ただ、バキュームを使わなくても、もっと締まった低音のターンテーブルもあるし、締まりすぎて音が物足りないという方向へも行っているということからいけば、この程度のブーミングのあるベースの方が音楽を聴く時には楽しいという感じもする。全体の音を、とにかくバランスよく、適当なところでコントロールしていくという思想がこのプレイヤーには感じられる。

マイクロ BL-111

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 これもアームレスのターンテーブルシステム。これは大変にユニークなターンテーブルと言ってもいいと思うが、これほどマニアックなターンテーブルも珍しい。重量10kgの砲金製のターンテーブルが見た目からしてもまずマニアをしびれさせる。そして、そのターンテーブルを糸、あるいはベルトによってドライブする。糸ドライブというのが、今マイクロの主張している一番いいドライブ方式ということで、これもその方式を採用したターンテーブルシステム。
 これのよいところは各ユニットが一つのキャビネットの中におさめられて、マイクロの中では最高に使いやすく、性能も十分出しながら、しかも使いやすい製品にまとめられていることだ。もう一ついいところは、モーターのサボーティングとアームのベースを一体化して、極めて剛性の高い質量の大きなしっかりとした金属のベースでまとめているということだ。これは、音質に非常に大きなメリットをもたらしているように感じた。こういう機械だから操作性はごくシンプルだ。欲を言うと、ベースの表面のフィニッシュがち密できれいだといいと思う。しかし全体的に決してぶ骨な感じを与えないし、マイクロの中では最も洗練されていて、見た目にも好感の持てる製品だ。
音質 実際、音はこれもまたアームレスだから、AC3000MCとMC20MKIIを付けて聴いたけれども、すばらしい音だ。とにかく音全体が大変に澄んでいる。透明感が非常に高い。中高域が非常に明快で、そして低域がずっしりと太く落ち着くものだから、非常に音全体の品位が高くなる。エネルギーバランスがとても妥当なところへいっている。これはやはりアームベースと、軸受けの一体化を図ったところに大きなメリットがあると思う。どんなレコードを聴いてみても、とにかく低域の特性は抜群である。ダレるということは全然ない。むしろダーッとかっちり締めて、自由にスピーカーをドライブするという、大変すばらしい振動支持系を持ったターンテーブルだ。一番印象的だったのは「ダイアローグ」というレコードを聴いた時のベースのエネルギーが、チャチなプレイヤーだとベースのエネルギーにプレイヤー全体が振られているようなイメージがする。つまり何かフラフラツと支点が振られていて、ベースの弦のはじけた張力感というのがなくなる。それが、このプレイヤーは全然ビクともしない。ベースのエネルギーに振られて濁ることがなく、本当にベースの弦のはじき具合が弾力性を持ってピーンと張って聴こえた。
 それからオーケストラでも、チャイコフスキーの「マンフレッド・シンフォニー」の冒頭をテストに使ったが、あそこでファゴット数本にバスクラリネットが入ったユニゾンで吹くところがあるが、あの響きの透明感と抜けのよさ、空間の広がり、これがほかのターンテーブルと一味違う。音場感も非常に豊かに、広がるだけでなく奥行きが出てくる。ティンパニとグランカッサが一緒にたたかれた時に一緒になってドーンと響いてしまうプレイヤーもあるが、これはそういうことはなく、グランカッサとティンパニが音色的に分かれて明快に聴こえる。それでしかも量感があって力感がある。あらゆる点ですっきりしたデフィニションは一頭地を抜いてすばらしかった。

Lo-D TU-1000

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 これもやはりアームレスのターンテーブルシステムだから、オーディオクラフトのAC3000MCにオルトフォンのMC20MKIIを付けてテストした。外見はそっけないが、一番基本になる回転部分のベースとなるコンストラクションが非常にしっかりしたもので、特にアームベースは取り付けるアームによって特注加工するというもので、ものすごくがっちりしたものだ。この思想は相当重量的にしっかりと押えていって、そして特殊な粘弾性の材料を封じ込めたエアダンプ型のインシュレーターとの組み合わせにより、ハウリングマージンもかせごうというもの。それからこのモーターは非常に特徴があって、全くコッキングレスでスムーズに回転するユニトルクモーターで、このターンテーブルを聴いた時の音の豊かさとかスムーズさというのは、何かそういうところに起因しているのかもしれない。このように超重量級を指向していくと、物理的な音になってきて、耳当たりが何か機械的な音になりがちだが、とにかく非常に聴きやすい音になっている。加えてさすがに重量級のアームベースの構造からいって、非常にしっかりとした骨格の太い音がちゃんと聴けるし、ベースなどの音がフワフワしない。きちんとベースがはじかれているという実感が明確に出てくる。
音質 オルトフォンで聴いた音だが、まずレコードに針をのせてボリュームを上げていった時のSN比が非常にいい。ザワザワとくるようなノイズっぽさが少なくて、サーフェイスノイズだけがシーッと出てくる。通常、そういうノイズの感じからいってターンテーブルの品位というのは大体わかるものなのだ。高域から低域にわたる全帯域のエネルギーバランスも大変によい。どのレコードも非常に落ち着いて聴ける。特にオーケストラのトウッティのバランスのよさというのがこのターンテーブルシステムのよさだと思う。細かい音も非常によく立ち上がるし、ステレオフォニックの音場感が非常に豊かだ。
 プレゼンスの豊かな音で、音像が妙にカチッと小さくもならないし、かといって大きくボヤーッとふやけもしない。このへんのコントロールがターンテーブル、プレイヤーシステムの一番難しいところなのだ。このターンテーブルはトーンアームとカートリッジにいいものを組み合わせた時には相当高品位なものになる可能性を持っている気がする。
 ただ一つ注文をつけたいのは、これは絶対にデザインがひどい。ターンテーブルそのものの形がまず悪いし、ベースのメタル部分は趣味のいい色とはいえない。この色に塗って重みを出そうとするとしたら、これは大変な見当違いだと思う。
 細かい内容をみていくと、インシュレーターがマグネフロートされ、軸受けのベアリング周りなど、非常に充実したものを持っている。それらが外観に出てこなければ私にとって困るのだ。殺風景でぶ骨なイメージを与える製品は好ましくない。これだけの値段にして、音の魅力をマイナスするデザインは、今後このメーカーに考えてほしい大事なポイントと思うが皆さんはどうだろうか。

テクニクス SL-1015

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 このSL1015というシステムはテクニクスが単体で発売しているSP15というブラシレスDCモーターによるダイレクトドライブのターンテーブル、それにやはり単体としても発売しているEPA500シリーズのトーンアーム、これを組み合わせてしっかりとしたベースによってシステム化したというもの。そういう点ではプレイヤーシステムとして非常に有機的にできているけれども、個々が単体製品だというところに一つの特徴がある。それだけに全体の作りの調和という点ではややチグハグなところも感じなくはない。例えばSP15のフィニッシュとEPA500のフィニッシュとのバランスがちょっと悪かったりするけれども、しかしそれは大きい問題ではない。EPA500の説明になってしまうけれども、非常に大きな特徴はアームのパイプ部分交換によってカートリッジを使い分けていくということ。そしてそのパイプにもハイコンプライアンス用、ミディアムコンプライアンス用、ローコンプライアンス用というように、使うカートリッジによってそれぞれ違ったパイプが用意されているというシステム化、シリーズ化されている大変ユニークな製品だ。おそらくトーンアームの機能として考えるべきことは全部盛り込んだのがこのアームの特徴だ。
音質 実際の音だが、全体的に言って、このプレイヤーの音というのはルックスからくるものと非常によく似ている。どこかに何か冷たさというものがある。非常に精緻な音であり、明るいし分解能はものすごく優れているし、もう音楽の細部までよく聴き取ることができるし、性能的に優秀だということは十分感じる。しかし実際にそのレコードの持っている柔らかい面とか厚みのある面、くすんだ面など、そういった音楽的ニュアンスまで少し明るくくっきりと描いてしまう。ベースのピッチカートなんか聴いていると実に音程は明快で、そういう音楽の聴き方をしたら実に優秀なプレイヤーだ。ところがはずんでこない。音楽がノッてこないのだ。
 例えば実際にいろいろなアームとカートリッジを付け換えてテストしてみなくてはわからないことだけれども、ハイコンプライアンス用でMC20MKIIというのはあまりマッチングがよくない。カートリッジによってアームを細かく使い分けた方がいいと思うが、今回テストに使ったA501HにMMC20MKIIを使った限りにおいては、少々高域が硬くて細い。中域から中低域にかけるボディが若干不足する。従って音の情緒的な面で少し物足りなさが残ってくる。しかし、音場感、ステレオフォニックなプレゼンスなどは実に非常にすっきりとよく表現する。低域は十分豊かに伸びるという感じではないが、すっきりと最低城までよく再生する。しかし、低域の量感みたいなものにちょっと不足するところがあるような気がするのだ。おそらく周波数帯域としては非常にワイドレンジだろうという感じはするが、どこかやはりコンストラクション全体のおさまり具合が音楽をふっくらと再生する要素に欠けている、というのがこのプレイヤーの性格ではないか。しかしその半面、とにかく正確に情報を聴きたいという人にとっては、これほど音楽の情報を明確に豊富に伝えてくれるプレイヤーはない。

トーレンス TD126MKIIIBC

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 高級ターンテーブルの中では、安直に使える家庭用の高級ターンテーブルというイメージが非常に強い。トーレンスの思想であるクッションによってモーター部分とアームのベース部分と一体にして浮かせるという構造のターンテーブルシステム。見た感じからいくと、おそらく二十万円に近いと思えないイージーハンドリングな感じを持つ。構造的には別に目新しいところはなくて、DCモーターによるベルトドライブ。特に重量級とはいえないが、回転メカニズムを支えて、そしてトーンアームを明確に支えるコンストラクションの部分はがっちりと出来ている。
 当然だが、何といっても浮かしたターンテーブルというのはやはり外部からのショックに強くて針とびが少ない。ハウリングマージンも取れる。最近のように低域がどんどん伸びてきている場合にはこのハウリングマージンを重量だけで押えていくのは並大抵のことではない。50kg、60kg程度では押え切れるものではない。そういう意味から、このトーレンスのようないき方のフローティングシステムというのは、大きなメリットを持っている。日本においては、このフローティングはあまり受け入れられず、どちらかというと、どんどん重量で固めていく傾向のようだが、それ一辺倒の思想は改めてもいいのではないかと思う。このシステムにはアームが付いてカートリッジレスのものと、アームレスのものとあるが今回はアームレスを試聴した。
音質 テストにはオーディオクラフトのAC3000MCのトーンアーム、オルトフォンのMC20MKIIをつけて聴いたが、音の点でのバランスはとにかくものすごくいいターンテーブルだ。
 操作性は慣れれば非常に明快だが、スピード切り替えとスターターが一緒になっていて、OFFスイッチはアームの手元についている。慣れればこれは大変使いやすいマニュアルターンテーブルだ。
 いま日本だけでなくて、世界的にDDモーターが全盛時代を占めている。この時代にベルトドライブに固執しているのは一、二のメーカーだけだが、そのメーカーには技術的な主張があるわけだ。実際に音を聴いてみても、このベルトドライブの持っているよさというのは何となくわかるような気がする。明らかな欠陥がDDにあったり、ベルトにあったり、ということではないから明確にいうのは困難にしても、ベルトドライブが持っている音の穏やかさというか、滑らかさというか、非常に温か味を感じる音だ。
 具体的に言うと、ややピアノの音が高域音にうわずるところがある。これは、もちろんカートリッジとトーンアームというものの音をいろいろなターンテーブルで聴いた平均より、という意味だ。それから音の密度、締まり具合というものが、完全にこのクラスの最高級のプレイヤーと比べるとやや甘いというところがあるが、それがまた音の穏やかさというか、聴きやすさということにつながってくる。オーケストラの低域のコントラバス、チェロなどの楽器の持っているブーミーなボディというのがよく出る。そういう点ではこのシステムはよく楽器の、そういう独特な音の傾向というものを出してくれたと思う。全体的にとにかく音楽らしく聴かしてくれるいいターンテーブルだった。

ディスクから情報を豊かに引き出す可能性をもった趣味の製品

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

 今回試聴したプレイヤーは十九万円以上のもので、プレイヤーとしては一般用の最高級品ということになる。しかし、この価格帯のプレイヤーの特徴を、一言でいうのは非常に困難だ。ただ言えることは、ディスクに入っている情報を非常に豊かに引き出すことのできる可能性を持っているということ。それから物を作っている側が、完全に趣味の製品だということを意識して作っているということである。従って、これは実用機器の範囲を出ているということになるので、物の見方も性能本位だけではなくて、デザイン、工作精度、仕上げ、使っている材料、コンセプト……こういったものにまで目を向けてみるべきものだと思う。
 次に、今回聴いてみた製品の中にもいくつか性格が異なるものがある。まずカートリッジが付いた完全なプレイヤーシステムとしての形をなしているもの。それから、カートリッジレスだがアームまでは付いているもの。次にアームも付いていないもの、これは正確にはターンテーブルシステムという範ちゅうで区別すべきものだと思うが、この三つがある。
 これはそれぞれのユーザーの目的と好みによって選べばいいと思う。
 今回はその三つのジャンルのものを、できるだけ近い条件で聴こうということで、カートリッジの付いていないもの、アームの付いていないものに関しては、レファレンスとしてカートリッジはオルトフォンのMC20MKII、トーンアームはオーディオクラフトのAC3000MCを使った。
 AC3000MCを使った理由は、私が比較的このアームの音をよく知っているからだ。いろいろなケースで使っているし、自分の家でも使っている。このアームとカートリッジの相関関係についても、私なりに頭の中に入っているということで、これをレファレンスに使った。
 次にオルトフォンのMC20MKIIを使った理由だが、これも私があらゆるケースで自分のレファレンスとして使っているカートリッジだからである。しかもこれは、恐らくいろいろなカートリッジの中で、レファレンスとするに足るカートリッジだと思う。帯域バランス、あるいはトレーシングの安定性、性能、音質ともに妥当なものだと思う。
 MC20MKIIがローインピーダンス型のMCなので、トランスはU・BROS(上杉研究所)。プリアンプはマッキントッシュのC29、パワーアンプは同じマッキントッシュの新しい500W×2のMC2500。スピーカーはJBLの4343Bを使った。ここに使った機器というのは、すべて一応最高級機器のレファレンスとして納得のいくものだと思う。と同時に私自身が聴きなじんでいるということだ。
 今回聴いてみたシステムの中から、私がいくつか気に入ったものを選べということになると、自分が本当に個人的な、いろんな要素を入れて、値段に関係なく選べということであれば、無条件にトーレンスのレファレンスを第一に選ぶ。トーレンスのレファレンス、EMTの927が飛び抜けているからだ。その点からいえばEMT927をとるということになるけれども、私はあえてここではそれをとりたくない。そこで考え方をちょっと変えて、性能一点ばりということではなく、やはり実用性ということを加味して考えると二機種ほどある。リンソンデックとトーレンス126である。ただ見た目は決して良くないし、仕上げも良いとは言えない。その点、気になってしようがないが、ただフローティングマウントによる実用性、ハウリングマージン、あるいは外来ショックによる針飛びの問題、その他をここまで避けて、しかもこれだけの音が出るというのは、やはりすばらしいものだ。考え方として大人だなというように思う。
 もう一方の剛性と重量でがっちり攻めた、国産のプレイヤーの中から二つぐらい選ぶということになると、マイクロのBL111をあげたい。非常にオーソドックスなもので、振動循環系をがっちり固めながら、しかも、ものものしい形ではなく、プレイヤーとしてなかなか温かいふん囲気にまとめている。もう一つはエクスクルーシブP3をとりたい。重量、剛性を追求して共振をコントロールし、かつ非常にオーソドックスなユニバーサルアームを持っているが、そんなにものものしいふん囲気の仕上げではない。非常に使用範囲のフレキシブルな高性能の機種だといえる。
 このベスト5を選んでみてアレッと思ったのは、四機種がベルイドライブ、糸ドライブ(BL111)の間接駆動で、エクスクルーシブのP3だけがダイレクトドライブだということだ。私はこのドライブ方式というものは、オーディオのメカマニアにとっては興味があることだと思うが、実際にはこだわる必要はないと思っている。DD方式は最も新しい方式だから、ベルトや糸は古いということになるかもしれないが、そういう考え方は必ずしも正しくない。常に新しいものはよくて、古いものは悪いというのは、これはどこの世界においても誤りである。古いものの方に正しいことが往々にしてある。この場合はどちらが正しいとかということではない。間接駆動方式が多かったから、その方がやっぱりいいのではないか、というように解釈されてもこれは早計である。これは私が、マウンティングの方式だとか、あるいはトーンアームを含めた問題とかで、総合的に選んだもので、この結果をもってDDがいい、ベルトがいいというような解釈はしていただきたくない。
 ところで、このレポートは厳密なテストというように読んでいただきたくない。むしろこのレポートから、皆さんがそれぞれの機器の総合的な印象、赤とか青とか緑だという程度の印象をつかんでいただければいいと思う。自分の共感できる部分が多いものを参考として、プレイヤーシステムの決定に利用していただければ幸いだ。

フィデリティ・リサーチ FR-7f

菅野沖彦

ステレオサウンド 58号(1981年3月発行)
特集・「第3回《THE STATE OF THE ART 至上のコンポーネント》賞選定」より

 FR7fというカートリッジは、いうまでもなく、前作FR7の姉妹機で、いわばそのMKIIではないからこそ、fという別名を与えたというだろうが……FR7でもそうだったのだが、このカートリッジは、現在のカートリッジのコンセプトへの真向からの挑戦ととれるもので、構造的にも音的にも実にユニークなオリジナリティとフィロソフィの明確な作品であって、「そういってはなんだが、どんぐりの背比べよろしく、ムービング・マスや自重の軽量化や、軽針圧の限界競争などにうつつをぬかしている、そこらへんのありふれたカートリッジとはわけが違うぞ!!」とでもいいたげな内容と外観をもっている。たしかに、このカートリッジは、並のカートリッジとは一味も二味もちがった、コニサー好みの魅力的なものなのだ。推測だが、このカートリッジは、とても商品として量産のきくものとは思えず、一つ一つが丹念につくられた精密機器だけがもつ風格をもっている。血の通った名器と四分にふさわしい。7fの基本構造は、前作7と同じで、2マグネット4極構成の磁気回路によるプッシュプル発言方式。可動コイルは、カンチレバーに直接取り付けられ、鉄芯はもちろん、巻枠さえ持たない完全空芯タイプというユニークなものである。インピーダンスは2Ωという低いもので、出力電圧は0・15mV〜0・2mVである。その他数え上げれば、数々の特長を上げることができるが、いたずらに新素材を使ったり、スペックをよくすることを目的としたテクノロジーのスタンドプレイは、ここには見当らない。カートリッジとレコードを愛し、見つめ、いじり、考えに考えた一人の人間の眼と耳が、練達の技を通して具現化した執念の作品がこれなのだ。これほど主張の強いオーディオ製品はそうざらにはあるまい。特に、昨今のデータ競争によって平均化され、無個性化される傾向の強い環境の中では、一際目立った個性的な存在なのである。音を聴けばこのことがさらに、さらによく理解できるであろう。こんな音が? と驚くほど、かつて聴き得なかった音までを、レコード溝の奥深くから、さらって聴かせるといった雰囲気で、出てくる音の輪郭の明確さ、音像の実在感の確かさ、曖昧さのない張りのある質感は、少々圧迫感があり過ぎるほど、あくまで力強く、濃厚である。血の通った音という表現は私好みだが、まさにこのカートリッジにこそ、この表現はふさわしい。それも熱い血潮だ。かつてオルトフォンのSPU全盛の時代にあって、今はなくなった音を、レコード・オーディオ通の諸兄ならご記憶であろう。そう、同好の士なら解っていただけるであろう、あのレコード独特の聴き応えのたしかな音の質感である。あれが、このところスピーカーから聴こえてこなくなって久しいとは思われないだろうか? その代りに、繊細、透明、軟らかく、軽やかな、さわやかな音は豊富に聴けるようになったと思う。艶も輝きも聴こえないといったらうそになる。
 しかし、あの弾力性のある真の艶と輝きの実感、厚い音の温度は、今聴くことは難しい。それがあるのだ。それを聴かせてくれるのが、このカートリッジなのだ。前作7が出た時、私は、この音を聴き得て飛び上ったが、惜しむらくは、トレース能力に難があったことも確かである。7fはこれが向上し、たいていのレコードはOKとなった。自重30gの重量級カートリッジだからこそ、2〜3gの針圧だからこそといった音がする。これは、今の軽量級支持者がもっともっと考えるべき問題提起なのである。いいことばかりではない。こうした構造をとれば、よくもあしくも特長が現われ、それが個性となる。要は、この個性を好むか否かであろう。角度を変えて欠点をほじり出せばきりがない。勇気のある製品なのだ。だからこそ、ステート・オブ・ジ・アートに選ばれるにふさわしい。

ヤマハ FX-3

菅野沖彦

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 ヤマハFX3はベストセラーのNS1000Mに準ずるユニット構成の3ウェイ。36cm口径とウーファーは大きくなっているが、スコーカー、トゥイーターは同口径のベリリウム振動板をもつ。しかし全く同一のものではないらしい。かなり迫力ある表現力の豊かなシステムで、フロアー型としてのゆとりを聴かせる。

ヤマハ NS-1000M

菅野沖彦

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 ヤマハNS1000Mは、まさに当社のスピーカーシステムを代表するプレスティッジ製品だ。3ユニット・3ウェイの大型ブックシェルフシステムで、プロのモニターとしても十分に責任を果すタフネスと、音の精緻さをもっている。プログラムソースの情報は正確に、緻密さと豊かさを、そして力強さを明確に再現するシステム。

KEF Model 105 SeriesII

菅野沖彦

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 KEF105IIは、ユニークな形状のリニアフェイズ・スピーカーで、ステレオフォニックな定位感や拡がり、奥行きといった、レコード録音の特質を忠実に再現する。高域にやや小骨っぽさがあるのが時として気になるが、バランス、質感ともに現代第一級のシステムといえる。