井上卓也
ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より
現在、ブックシェルフ型と呼ばれているスピーカーシステムはかなり幅広い範囲で使われているが、これは本棚に横位置で収納できる程度の小型エンクロージュアで、フロアー型に勝るとも劣らぬ低域再生能力を持たせることに成功した、米ARの創始者エドガー・M・ヴィルチュア氏の発明による、AR1をその最初の製品としたアコースティック・エアーサスペンション方式が原点である。
小型エンクロージュアに、低域共振を可聴周波数以下にしたユニットを組み込み、小型ユニットで優れた低域再生能力を持たせようとする発想は、AR以前に東京工大の西巻氏により提唱され、細い木綿糸などで振動系を支持する糸吊りサスペンションが、一時期国内のアマチュア間で盛んに行われたことがある。これを30cm級のウーファーを使い、コーン振幅が大きくなる分だけ、磁気回路のプレート厚の2〜3倍の巻幅をもつロングボイスコイルと、それに対応するエッジ、スパイダーを組み合わせ、完全に気密構造のエンクロージュアに密閉して、内部の空気そのものを振動系のサスペンションとする方式が、ARの特徴だ。
幅広ボイスコイル採用だけに能率は激減し、この低下に見合う強力なアンプが必要となる。時代は折よく半導体アンプの登場期で、真空管と比べ圧倒的にハイパワーが低価格で可能となったことがこの方式の確立に大きく寄与している。
ARの代表作は64年発売の30cm3ウェイ機のAR3aで、20cm2ウェイ機AR4x,25cm3ウェイ機AR5などがラインナップされ、独自な形態のAR−LSTがその頂点に立つシステムであった。約30年の歳月が経過し、ARはこれも超高級スピーカーで高名なジェンセン・グループに属しているが、AR3aの復刻版が限定発売され、再びハイファイマーケットで、かつての名声が復活しつつある。
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