井上卓也
ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より
テクニクスの第1作「テクニクス1」スピーカーシステム以来、連綿として開発されてきた同社のスピーカーシステム。最近のDDD方式重低音再生を柱にした一連の新スピーカー群は、継続は力なりを具現化した同社の意欲作だ。
その頂点に位置するSB−M10000は、超広帯域再生の実現に挑戦し、約5年の歳月をかけて完成させた、国難異性品ではヤマハのGF1以外にあまり類例のない、超弩級・超高価格なフロアー型スピーカーシステムだ。
基礎研究は同社の技術研究所で始まり、目標とした電気・音響トランスデューサーとして完成させてから、次に音楽を聴くためのオーディオ用スピーカーシステムとして音響事業部が製品化するといった、日本の超大型企業ならではのプロセスを経て完成されたことでは、国内製品唯一といってよいビッグプロジェクトと成果だ。
現在のCDソフトでは、低域は5Hzまで収音されており、これを再生するためには超大型システムとするか、アンプで低域を増強するかの二者択一となるが、同社では新重低音再生方式を開発することで、これをクリアーしている。一方、超高域側は、100kHzの再生を可能とした独自のリーフ型トゥイーターがすでにあるが、本機ではスーパーグラファイト振動板のドーム型で挑戦している。また、超広帯域化により聴感上で歪みが多く感じられることもあるが、エンクロージュア時代の低振動化、振動系各部の改良や駆動源の磁気回路にも新技術が導入されている。
構成は4ウェイ型で、低域用のパッシヴラジエーター付ケルトン型ウーファーがキーポイントになる。口径は低域22cm、中低域18cmと異なるが、共通の特徴は低歪率型リニア磁気回路、エッジ前後非対称空気排除量を低減する6分割の凹凸プッシュプルエッジ、高域にも採用された振動板外周部に高内部損失材を配したピークレス振動板などの搭載だ。
注目の新重低音再生方式とは、一個の密閉型エンクロージュアの前面と背面に駆動ユニットを置き、そのまた前後の前面と背面にパッシヴラジエーターを取り付けた密閉型エンクロージュアを設け、同相駆動するという構造を採用。これを同社ではデュアルダイナミックドライブ(DDD)方式と呼んでいるが、この方式は振動の打ち消し能力があり、エンクロージュアの振動を大幅に低減させながら重低音再生を可能としている。この方式により、超広帯域型システムとしては予想外に台形寸法は抑えられているが、さすがに重量は155kgと物凄いスピーカーシステムだ。ただし、運送を考慮し、上下2分割が可能となっている。
柔らかくゆったりした、しなやかな低域は、重低音という表現とは異質だが十分に伸び切る。この低域と質感が揃った中低域以上はナチュラルで、スムーズなバランスだ。特に中域のエネルギーが十分にある点は素晴らしい。
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