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ルボックス BX350

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 すばらしく音の質感のいいスピーカーだ。いわゆる歪っぽさや粗さが少しも感じられず、しっとりと潤いある美しい、とてもクリアーかつ滑らかな音がする。いわゆるリニアフェイズの考え方をとり入れているが、ブックシェルフ型よりももう少し小型なので、どういう置き方がよいのかといろいろ試みたが、結局、トゥイーターとウーファー(こウーファーは小口径のスピーカーを4本使った独特の構成だが)の中心あたりがほぼ耳の高さにくるように、高さ約50センチほど台に乗せるのが最もよかった。左右になるべくひらき、スピーカーの正面が耳の孔に向くように設置する。壁に近づけると低域の低いところで一ヵ所、少し音が重くなるところがあるので、背面は適度にあけて、むしろアンプの方で低域を補う方がいいように思った。まさにドイツ独特のクリアーサウンドだが、かつてのブラウンやヘコーのようなクセのある音ではなく、バランスはきわめていい。ただ、パワーを上げると中〜高域が硬くなるので、中程度迄の音量で楽しむスピーカーだ。オーケストラの中のチェロのユニゾンなど、時折ハッとするほどの美しさが出るし、ベーゼンドルファーの艶と丸みもかなり良い感じだ。カートリッジやアンプも乾いた音を避けたい。455Eや7300Dのような傾向が合う。意外に38FDIIもそれなりの良さで鳴った。

セレッション Ditton 33

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 セレスティオン(と発音するそうだが)のスピーカーは、近ごろやたらに製品の種類を増やしていて分類にとまどうのだが、大きく分けるとこのDittonシのリーズと、もうひとつ別にULのシリーズとがある。がDittonの中でも、66や44のようないわゆる「ゾロ目」のシリーズが比較的新しい。ULの方が音をより正確に再生するシリーズであるのに対して、Dittonはホームユースとして楽しめる音をねらっているのだそうだ。この33はその中でも最も新しいスピーカーで、今回のテストでいえば、B&WのDM4/IIや、別項ミニスピーカーの分類に入っているJRの149や、スペンドールSA1それにロジャースのLS3/5Aなどと比較する方が、このスピーカーの性格を説明しやすい。まず大掴みにいえば(イギリスのスピーカーにしては)やや硬質の、つまり中〜高域の張った傾向で、スペンドールSA1よりもいっそう張っている。したがって、ピアノの打鍵音などにも独特の光沢を感じさせ、オーケストラ録音でも音のこまかな構造をあきらかにする。とうぜん、JRやロジャースが色濃く持っている音のひろがりや雰囲気描写はやや後退する。パワーにはわりあい強い。台は50〜60センチと高め、背面は壁に近づける方がよい。455Eや7300Dの傾向の組合せの方がよかった。

オットー SX-P1

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶少人数で演奏されているようなピッチカートだ。
❷くまどりたしかだが、ひびきががけりがちで生気にとぼしい。
❸特徴あるひびきのからみあいをさらに鮮明に示してほしい。
❹低音弦のピッチカートが少しふくらみすぎ。
❺大きくひびきはふくらむが、腰のすわった音がほしい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は大きい。もう少しくっきりしてほしい。
❷音色的な対比は拡大ぎみに示す傾向がある。
❸「室内オーケストラ」のひびきとしては、重すぎないか。
❹いくぶんこれみよがしになっているといわざるをえない。
❺ソロをとる楽器のひびきの特徴が拡大される。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶風呂場の中での声のようにきこえる。表情を拡大しがちだ。
❷接近感を誇張する。笑いそうな声もきわだたせたりもする。
❸声の方がきわだち、クラリネットはうめこまれがちだ。
❹はった声は、硬くなり、特徴的なひびきになる。
❺声と楽器のひびきはもう少しとけあってほしい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶バリトンやバスがせりだし、横一列に並んでいると感じにくい。
❷声量をおとした分だけ、言葉の明瞭度がうすれる。
❸さらに残響をきりおとした方が、言葉がたつだろう。
❹吸う息をきわだたせる。ひびきに敏捷さがほしい。
❺「ラー」はのびているが、自然なしなやかさは不足だ。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、音場的な対比を充分に示している。
❷クレッシェンドが多少ゴツゴツしがちである。
❸ひびきがもう少し浮いてほしい。ひろがりはある。
❹前後のへだたりはまずまずで、横へのひろがりもある。
❺ひびきにより一層の力があれば、さらにはりだすのだろうが。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひびきのキメがいくぶん粗めなのがおしい。
❷音像的に横にひろがりすぎるので、❶との差がつきにくい。
❸下の方でひろがるようにひびくので、くっきりと浮びあがるとはいえない。
❹一応の効果はあげるものの、光り方がたりない。
❺他のひびきにうめこまれてはいないが、効果的とはいえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ベースのひびきがせりだしすぎていないか。
❷厚みというより、横へのひろがりがきわだつ。
❸ハットシンバルの音は、乾いているが、薄く感じられる。
❹ドラムスのひびきが、切れが鈍く、重い。
❺バック・コーラスのうたう言葉は、もっと鮮明であってほしい。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像はきわめて大きく感じられる。胴の中できいているかのようだ。
❷クローズアップした感じが強いが、なまなましさはもう一歩だ。
❸消える音の尻尾の提示は、必ずしも充分とはいえない。
❹細かい音の動きに対しての反応はあまり得意ではないようだ。
❺左右の両ベーシストとの音像的な差がある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶この部分の音楽的なアタックは、もう少し鋭く示してほしい。
❷ブラスの音は、そのひびきの特徴を示すものの、大きくふくらむ。
❸横には充分にひろがるが、前にははりだしてこない。
❹さらに後方へのひきがとれていてもよかった。
❺リズムの提示がシャープに示されれば、より効果的だったろう。

座鬼太鼓座
❶尺八のいる位置が比較的近いところに感じられる。
❷尺八のひびき特徴を示すが、低い方の音がふくらみがちだ。
❸きこえる。しかし、輪郭を示すわけではない。
❹大太鼓の大きさを感じさせるが、消え方が伝わりにくい。
❺さらに硬質なひびきでもたらされてもよかっただろう。

B&W DM4/II

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 鳴りはじめた瞬間から、素性の良さは争われないものだと感じさせる。たまたま試聴の順序から、これの前に国産の5万円台の製品の3機種(しかもこの3機種はいずれも結果が悪かったので記事にはならない)が続いたせいも多少あるが、それにしてもやはりこのバランスの良さはみごとだ。以前別のところでテストしたときもこの良さには感心したが、細かいことをいえば今回のサンプルの方が、以前聴いた製品にくらべて、いわゆるモニター的というか、音をいっそう真面目に鳴らす方向に仕上っているように感じた。たとえば菅野録音の「SIDE BY SIDE 3」のレコードなど、ハイエンドをもう少し強調したいと思わせるほど音に誇張がない。中音域もイギリスのスピーカー一般の平均値からみるとあまり引っ込んだ感じがせず、たとえばシェフィールドのダイレクトカットのレコードでも、このあとに試聴したJRと比較でいえば、オーケストラ録音では各声部の細かな進行をJRよりよく浮き上らせ楽曲の構造をよくわからせる。反面、JRよりもい位相差成分が消えてしまうようなところがあって、音のひろがる感じはJRの方がおもしろく聴かせる。その意味で組合せも455E+KA7300Dの傾向の方が楽しめた。台は約40センチぐらい。背面を壁にやや近づける置き方がよかった。

ボリバー Model 18

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 試聴に入る前にそのスピーカーを最も良く生かす設置条件を探すために、テストをくりかえしながらいろいろ動かしてみる。そのことはすべてのスピーカーに共通しているが、その調整のプロセスから、すでに、おや、これは相当に素性の良い製品だな、と思わせる。たいていの国産スピーカーは低音の鳴り方が粘ったり重くなったりして、そこをおさえるために置き方に苦労するが、ボリヴァーの場合はむしろ低域がとても軽く、そのためにやや低め(約20cm)の台にして背面をほとんど壁につけるくらいにしてみたが、こうするとファンダメンタルがとても充実してきて、しかも低音楽器の動きがよく聴き分けられる。全域に亘ってやや軽い傾向だが、誇張感のないバランスの良さで楽しめる。好みによってハイエンドをわずかに強調してもよく、そうしてもユニット自体の共振が目立つようなことがなかった。総体にべとついたところがなく、さらりと明るく鳴るが、反面、弦や女性ヴォーカルなどで、もうひとつしっとりした潤いがあってもいいかな、と思わせる。ただそれは悪い意味でのドライではなく、質感も緻密だしザラついたり粒の粗くなったりするようなこともない。組合せは、ポップス系には4000DIIIとCA2000の傾向で徹してしまうのもよいが、455E+7300Dの方が音に潤いが出てきて楽しめる。これはダークホースだ。

JBL L200B

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートの音は、くっきり、輪郭たしかに立つ。
❷低音弦のスタッカートの力は感じさせる。
❸くっきりとそれぞれのひびきの特徴を示す。
❹第1ヴァイオリンのフレーズにもう少しキメこまかさがほしい。
❺腰のすわった音でクライマックスを迫力にとんだものにする。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶力を感じさせるひびきで、ピアノは中央にくっきり定位する。
❷音色対比の提示にいささかのあいまいさもない。
❸多少ひびきのキメが粗い。もう少ししっとしてもいいだろう。
❹ひびきのしなやかさがたりない。誇張しない良さはあるが。
❺鮮明ではあるが、キメこまかさに欠ける。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶くっきりと音像を示す。言葉の表情をきわだたせる。
❷アイゼンシュタインの接近感を、思いきりよく、すぱっと示す。
❸クラリネットのひびきの特徴を、きわめて明快に提示する。
❹声は全体的に硬めだが、特にはった声は金属的なひびきになる。
❺さまざまなひびきの個性を、くっきり示す。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶低い方の声が強調ぎみに示されて、不自然だ。
❷声の強弱を拡大して示す。とってつけたようなところがある。
❸余分なひびきがつきすぎていて、言葉のたち方は不充分だ。
❹微妙なひびきに対しての反応でものたりないところがある。
❺「ラー」はとってつけたようにのびる。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンの硬質な性格をよく示し、音場的な対比も充分だ。
❷シンセサイザーのひびきのクレッシェンドはみごとだ。
❸一応の浮遊感を示し、提示される空間も狭くるしくない。
❹前後のへだたりは充分にとれて、音の飛びかい方もいい。
❺ピークは力をもっていて、圧倒的な迫力を示す。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶重力を感じさせないひびきの奥の方でのひろがりはきわめていい。
❷ギターの音色のきりかえを充分に示して、ひびきそのものも積極的だ。
❸あいまいにならず、実在感たしかにひびく。
❹さらにキメ細かいひびきであってほしいが、充分に光る。
❺せりだしてくるギターとの対比はなかなかいい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音色をよく示し、フレッシュだ。
❷ひびきの厚みをよく示し、効果は歴然だ。
❸ここできこえるハットシンバルのひびきはなかなか有効だ。
❹ドラムスは、切れ味鋭く、アタックの強さもいい。
❺バック・コーラスの、声としては乾いたひびきがよく伝わる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像は大きくふくらむ。もう少しひきしまるべきだろう。
❷オンのなまなましさを伝えるが、いくぶん誇張ぎみだ。
❸消える音の尻尾を拡大ぎみに示す傾向がある。
❹細かい音に対して反応はさらにシャープであってほしい。
❺両ベーシストの対比は、ほぼ順当である。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶リズムがシャープに切りこんでくるので効果的だ。
❷ブラスのつっこみは、音色的にも、力の点でも、まずまずだ。
❸フルートによるひびきが横にひろがらないのはいい。
❹奥行きもたっぷりとれて、ひろびろとしている。
❺ひびきにふやけがないので、めりはりはよくついている。

座鬼太鼓座
❶尺八までの求められる距離感は明らかにされる。
❷尺八のひびきとしては、やはり脂がつきすぎている。
❸もとが大太鼓の音だということを感じさせる。
❹消える音を示しはするが、スケールゆたかとはいいがたい。
❺ふちをたたいているとは思える音は、それしらく示しされる。

トリオ LS-707

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 弟分のLS505も、正攻法でまでめに作られた佳作だったが、さすがにフロアータイプになると音のスケール感がずっと豊かになり、質感も上等になってくる。すべてのプログラムソースを通じて、505よりも帯域内での出しゃばりがよくおさえられ、完成度が上っていることを納得させられる。興味深かったのは、いろいろと設置条件を変えてテストしているあいだに、約20分ほど鳴らし込んでから本調子が出てくることに気がついた。鳴らしはじめはどうにも表情が硬くバランスも悪い。どのスピーカーにもそうした傾向はあるのだが、LS707はことにそれが顕著だった。単純な切り換え比較では見落とすところだろう。もうひとつ補足の必要のあるのは部屋の音響条件のととのえかただ。本誌の試聴室は、前回のテストから改装されて以前より残響時間が短めになったものの、いわゆるデッドではないが、LS707は、この部屋にウレタンフォームの大きなロールを数巻入れてデッドに仕上げた上で、ブロックの台の上に乗せ、背面は壁に近づけるが左右になるべく開いて設置するという方法で、前記の試聴結果を得た。ライブな部屋では音がこもる傾向があった。アンプはあまり選り好みしないが、カートリッジは455Eの傾向よりも4000DIIIの系統で、プログラムソースはポップス系の方が納得できた。

ロジャース LS3/5A

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきが、少し細すぎる。
❷もうひとつ力がほしいが、ひびきのくまどりがついている。
❸きわだたせはしないが、音色の特徴を鮮明に提示する。
❹低音弦のピッチカートがふくれすぎないよさがある。
❺細部の提示は鮮明だが、クライマックスの迫力という点で不足する。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像はひろがらない。まろやかなピアノのひびきに魅力がある。
❷音色的な対比が自然で、無理のないのがいい。
❸ひびきがふくれないよさはあるが、もう少し軽やかでもいい。
❹いくぶんひっこみがちなところが気にならなくもない。
❺木管のひびきの特徴をよく示し、さわやかだ。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶定位がきわだっていい。人物の動きがおもしろいようにわかる。
❷接近感は、かなりなまなましい。表情を過度にしないところがいい。
❸声が少し後ろにひいて、クラリネットが前にいることがわかってこのましい。
❹はった声は硬くならないが、まろやかさはいくぶんそこなわれる。
❺声とオーケストラのバランスがいいので、ききやすい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶すっきりと横一列に並んで、凹凸がほとんど感じられない。
❷声量の差をくっきりと示して、よくわかる。
❸残響をひきずっていないので、言葉がよくたつ。
❹さらひびきに軽やかさがあれば、一層ひきたつだろう。
❺しなやかに、自然にのびて、このましい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的な対比は充分だが、音場的対比ではものたりない。
❷奥へのひきは申し分ない。すっきり中央からきこえてくる。
❸ひびきの浮遊感が必ずしも充分とはいえない。
❹前後へのへだたりはとれているものの、ひびきに軽やかさがほしい。
❺ピークでの一応の力は示すが、もう一歩というところだ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひっそりとした、きめこまかなひびきのひろがり方はいい。
❷ギターはきわだって奥の方から、次第にせりだしてくる。
❸このひびきの特徴を示しはするが、きわだたせることはない。
❹ひびきに輝きがあり、ここで求められる効果を示す。
❺うめこまれないで、充分にききとれる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ひびきの上下のバランスがいいので、12減ギターの特徴がよく示される。
❷ツイン・ギターの効果がくっきりと示されている。
❸ことさらきわだつわけではないが、ひびきは乾いている。
❹中域のエネルギーが充分なためか、言葉のたち方がいい。
❺バック・コーラスのひろがりがよくわかる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶ひびきが積極的に前にでて、力のあるのがいい。
❷誇張感はないが、かなりのなまなましさを示す。
❸音の尻尾も、必ずしも充分とはいえないが、まずまずだ。
❹反応はかなりシャープで、力強さも感じさせる。
❺両者の対比が無理なく自然なのがいい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶くっきりリズムを提示する。音場的なひろがりも感じさせる。
❷ブラスのひびきが金属的にならないのがこのましい。
❸積極的に前にでて、充分な効果を発揮する。
❹後方へのひきもよく、ひびきの見通しもいい。
❺バランスの点で問題が少ないので、めりはりがついている。

座鬼太鼓座
❶尺八がへだたったところでひびいている感じをよく示す。
❷音色的にも尺八のひびきの特徴をのぞましく示す。
❸この音が大太鼓の音であることはよくわかる。
❹スケール感はやはりかなりものたりない。
❺この音に求められる効果をつつがなく示す。

ビクター S-3000

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶くっきりと示されるピッチカート。木管のひびきにもう少し繊細さがほしい。
❷あいまいにならず、輪郭がしっかり示されるところがいい。音に力がある。
❸特にデリケートとはいえないが、ひびきの特徴によく対応できている。
❹第1ヴァイオリンのたっぷりしたひびきがいい。低音弦もふくらまず。
❺もりあがりに力があり、迫力をよく示す。アタックも充分だ。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像的なまとまりがよく、ひびきに力のあるのがいい。
❷これみよがしにならずに、くっきりと示すこのましさがある。
❸「室内オーケストラ」としてのまとまりのよさがある。
❹対応が自然で、誇張のないのがこのましい。
❺とりわけ繊細というわけではないが、さわやかさがある。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶定位がいい。人間関係の鮮明な提示はなかなかだ。
❷接近感には多少誇張が感じられるが、不自然ではない。
❸声は硬めながら、オーケストラとバランスは悪くない。
❹セリフでの声も、うたってはった声も、硬くなりがちだ。
❺きわだって鮮明とはいいがたいが、必要充分に各ひびきを示す。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶余分なひびきをひきずっていないために、すっきりしている。
❷奥の方でのひびきが、くっきりと、たちあがる。
❸ひびきの細部にあいまいさがない。
❹ソット・ヴォーチェでは、声のキメ細かさの不足が感じられる。
❺のびにしなやかさが不足するものの、誇張がない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンというひびきの硬質な性格がよく示されている。
❷声のまろやかさがもう少し示されることが望まれる。
❸浮遊感ということではもう一歩だ。ひびきがくっきりしすぎる。
❹ひびきの輪郭がつきすぎている。狭くるしさは感じないが。
❺力のある音がもりあがり、迫力のあるクライマックスとなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひっそりとした気配にいくぶん不足している。
❷この音はもう少しなにげなくひびいてもいいだろう。
❸下の方でひろがっているひびきで、実在感に多少欠ける。
❹かなりきわだつ。ひびきの光り方としては、もう一歩だ。
❺うめこまれているとはいえないが、ききとりにくい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶あいまいにならない。くっきりした提示はこのましい。
❷ひびきの上でのアクセントを充分に示して効果的だ。
❸ひびきはじゅうぶんに乾いている。すっきりしたところがいい。
❹ドラムスのひびきも、言葉のたち方もこのましい。
❺バック・コーラスの効果は充分に発揮されている。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像は、ふくらみすぎず、ひびきに力があっていい。
❷オンでとったなまなましさを示し、しかし過剰にはなっていない。
❸消える音の尻尾もよく示し、スケール感をもたらすのに有効だ。
❹細かい音の動きに対しての対応はシャープで、迫力がある。
❺音像的な対比に不自然さがなくていい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ひびきが横にひろがりすぎないので、アタックの強さを感じやすい。
❷つっこみは力があるが、ひびきが刺激的にはなっていない。
❸ひびきが積極的に前にはりだして、効果的である。
❹後方へのひきは充分だ。広々とはしないが、音の見通しはいい。
❺音のエネルギー感をよく示すので、めりはりがつく。

座鬼太鼓座
❶くっきりと左奥から、なまなましさをもってきこえてくる。
❷尺八のひびきに脂っぽさがなくて、すっきり示される。
❸きこえ方はかすかだが、ひびきに輪郭がある。
❹スケール感ということでは、いま一歩だが、力感は充分だ。
❺このひびきの硬質なところがよく示されて、有効だ。

スペンドール BCII

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶あかるいさわやかな音のピッチカートだ。少し細すぎるかもしれない。
❷輪郭はしっかりしているが、ひびきにもうひとつ力がほしい。
❸それぞれのひびきの特徴を鮮明に示してこのましい。
❹第1ヴァイオリンの音にもう少し艶がほしい。低音弦のまとまりはいい。
❺もりあがり方に無理はない。クライマックスで示される力も一応のものだ。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ひびきはさわやかで、音楽的なまとまりもいい。
❷音色的な対比は鮮明だが、ふかぶかしたひびきがほしい。
❸「室内オーケストラ」ならではの軽やかさは示す。
❹きわめてさわやかだ。すっきりとした提示はこのましい。
❺鮮明だ。軽く、キメ細かいひびきがいきる。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶定位は大変にいい。一種なまなましさもある。
❷言葉が、重くならず、しかもすっきりたつ。
❸少し後にひきぎみのロザリンデとクラリネットの対比がとてもいい。
❹はった声がしなやかさを失わないのはいい。表情の誇張がない。
❺うたいてとオーケストラとのバランスがよくとれている。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶ひびきに軽やかさと敏捷さがあるために、不自然さがない。
❷声量をおしたからといって、言葉が不鮮明になったりしない。
❸残響がまったく切りおとされているというわけではないが、言葉は鮮明だ。
❹各声部のからみを不明瞭になることなく示す。
❺声のしなやかさを示しつつ、自然にのびる。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンの硬さとポンの柔らかさの対比を充分につける。
❷後方からのきこえ方は、ひろがりを感じさせてこのましい。
❸浮遊感は充分だ。ひびきにべとつきがないためといえよう。
❹充分に前後のへだたりがとれている。ひろがりの点でも不足ない。
❺ピークでは少しきついが、ぬけはいい。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶はるけきひびきが、静かに、ひろがり、さわやかだ。
❷その中央から、次第に姿を拡大してくるギターのひびきが効果的だ。
❸くっきりとひびきの輪郭を示して、まことに効果的である。
❹ここでのひびきに輝きがある。アクセントをつけている。
❺うもれない。しかし、きわだちすぎない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきの特徴をすっきりと示す。
❷もう少し力強くてもいいが、一応の効果はあげる。
❸ひびきは、乾いているが、薄くないのがいい。
❹くっきりはずんだひびきで示されるドラムスがいい。
❺バック・コーラスによる言葉のたち方は自然だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像的にかなりふくらむ。少しふくらみすぎか。
❷オンでとったなまなましさがあり、しかし極端にならないのがいい。
❸音の消え方の提示にこだわりすぎているのかもしれない。
❹少し甘い。ひびきそのものに力不足なところがあるからだろう。
❺音像的な対比ということでは、充分とはいいがたい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ひびきに、腰のすわった力があれば、さらにはえただろう。
❷一応つっこんではくるが、ひびきは金属的になりがちだ。
❸拡大して示すものの、せりだしてはこない。
❹前後のへだたりを示し、見通しの点でも悪くない。
❺アタックの強さを示しきれず、めりはりがつきにくい。

座鬼太鼓座
❶すっきり示す。程よい距離感も示せている。
❷ひびきのキメ細かさが、ここでは有効な働きをしている。
❸一応きかせはするが、輪郭はあいまいだ。
❹スケールのゆたかさは、ついに示しきれない。
❺きこえはするが、ひびきのアクセントたりえない。

オーレックス SS-930S

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶まろやかな、力の感じられるピッチカートは、悪くない。
❷くっきりした輪郭をもった低音弦のスタッカートはいい。
❸音色対比に、誇張感がなくていい。低音弦のまとまりがいい。
❹たっぷりひびく第1ヴァイオリンのフレーズに魅力がある。
❺力をもったクレッシェンドは迫力にとむ。クライマックスも効果的だ。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像的にはほどよくまとまり、ピアノのひびきのゆたかさがいい。
❷音色対比は、自然で、きまじめなところがある。
❸「室内オーケストラ」のひびきとしてはいくぶんふくらみすぎか。
❹もう少ししなやかでもいいかもしれない。
❺木管楽器のひびきに対しての反応はいい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶このまろやかさをあきらかにし、言葉をきわめて鮮明に示す。
❷アイゼンシュタインの声の質は、なかなかいい。
❸たっぷりしたオーケストラのひびきと声との対比は自然だ。
❹歌のこまかい表情をわざとしらくしないのがいいが、はった声は幾分硬い。
❺オーケストラと声とのバランスに無理がない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶ひびきに肉がつきすぎて、低い方の声がせりだしがちだ。
❷声量をおとしたところでの、鮮明さがほしい。
❸言葉の細部の提示ということでは、いま一歩だ。
❹各声部のからみはさらに明瞭であってほしい。
❺「ラー」はのびるが、いくぶん誇張気味だ。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンというひびきの硬質な性格をよく示す。
❷奥出のひびきは、弱音ながら、積極性がある。
❸広さを感じさせはするが、音の飛び方はたりない。
❹前後のへだたりはとれるが、さらにひびきの敏捷さがほしい。
❺ピークは力をもったひびきで大きくもりあがり、迫力にとむ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶暖色系だが、粒のこまかいひびきが、すっきりひろがる。
❷中央から、くっきりたちあがってくるギターの音はいい。
❸このひびきはもっとくっきり提示されるべきだろう。
❹このひびきの輝き方は、不足ぎみである。
❺うめこまれはしないが、効果的とはいいがたい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ベースの音がはりだしすぎのように感じられる。
❷ひびきの厚みを示すが、さらに切れが鋭くてもいいだろう。
❸さらにからっとしたひびきで示されることが望ましい。
❹ドラムスの音にエネルギーは感じられるが、重い。
❺バック・コーラスの言葉のたか方は、ものたりない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力は示すが、音像的に大きすぎるようだ。
❷オンのなまなましさはあるが、誇張感がなくもない。
❸消える音の尻尾を拡大して示す傾向がある。
❹必ずしもシャープに対応しきれているとはいえない。
❺音像対比は十全とはいいがたく、不自然さがある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ひびきが総じて重く、力はあるが、鈍さがついてまわる。
❷ブラスのひびきは、力をもってせりだす。
❸フルートによるひびきは、力にみちているが、横にはひろがらない。
❹後へのひきはかなりとれている。しかし、見通しは充分とはいいがたい。
❺リズムの刻みがさらに積極的に前にでてほしい。

座鬼太鼓座
❶尺八の位置は、比較的近くに感じられる。
❷尺八固有のひびきに対応するためには、より一層肉がおちてもいいだろう。
❸ひびきの輪郭はあいまいになるが、きこえる。
❹消える音の尻尾を示し、一応のスケールゆたかな感じもわかる。
❺ききとれなくはないが、アクセントとして充分な働きをしていない。

ルボックス BX350

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶からっとしたひびきで示されるピッチカート。あいまいさのないのがいい。
❷くまどりたしかな、力をもったスタッカートだ。音に力がある。
❸拡大して示しはするが、ひびきの特徴をよくとらえている。
❹腰のすわった第1ヴァイオリンのひびきはなかなか魅力的だ。
❺クライマックスは力にみちているが、弦にはもう少ししなやかさがほしい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像はくっきりしている。たしかなひびきがいい。
❷必要充分に音色的対比を示してこのましい。
❸さわやかさが感じられる。ひびきのふくらみすぎないのがいい。
❹これみよがしにならず、きれいに示す。
❺フルートのひびきがさわやかでいい。あいまいにならないよさがある。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶舞台のひろがりを感じさせるひびきだ。声は少し硬めだが。
❷接近感を、無理なく、自然に、なまなましく示す。
❸声とオーケストラのバランスは折目正しく、すっきりさわやかだ。
❹うたう声も硬めだが、言葉のたちあがり方はいい。
❺声と楽器のひびきのとけあい方が自然だ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶定位がいい。横一列に並んでいる感じがわかる。
❷余分なひびきをひきずっていないので、言葉は鮮明だ。
❸言葉の輪郭をくっきり示すが、几帳面にすぎるかもしれない。
❹ソット・ヴォーチェになった時に、もう少し声のまろやかさがほしい。
❺音の消え方が幾分段取り的になりがちだ。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的にも、音場的にも、充分にコントラストがついている。
❷奥へのひびきが充分で、シンセサイザー固有のひびきへの対応もいい。
❸浮遊感は必ずしも充分とはいえない。提示される空間は広い。
❹前後のへだたりがとれている。ひびきの明るさがいい。
❺ピークで示される力は充分だ。ひよわにならないよさか。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶奥の方で左右に、かすみがたなびくようにひろがる。
❷❶の中央から力をもったひびきで次第に前におしだしてくる。
❸ひびきの特徴を確実におさえたよさがある。
❹ひびきに充分な輝きがあり、効果的だ。
❺うめこまれてはいないが、ことさらきわだつわけではない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶くっきり思いきりのいいひびきが、ここでいきる。
❷サウンドに厚みが感じられ、ここで求められる効果が感じとれる。
❸ひびきの特徴の示し方にあいまいさがなく、このましい。
❹ドラムスのつっこみは、力があり、みごとだ。
❺言葉は、いささかもあいまいにならず、すっきりたつ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶中身がぎっしりつまった筋肉質なひびきのよさがいきる。
❷オンで録音したが故のなまなましさを示すが、誇張感はない。
❸必ずしも消える音の尻尾を充分に示すとはいえない。
❹細かい音の動きに対しての反応はシャープで、効果的だ。
❺不自然な音像差がなく、ひびきに力が感じられる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶アタックの強さを充分に感じさせてこのましい。
❷ブラスのつっこみは、鋭く、前にでる。
❸前に力をもってはりだして、効果的である。
❹後方へのへだたりがとれ、音の見通しはきわめていい。
❺力感があり、くっきりとめりはりをつける。

座鬼太鼓座
❶自然な距離感を、無理なく示す。しかもすっきりとした提示だ。
❷尺八のひびきとしては、いくぶん異色ながら、まずまずだ。
❸ここでのひびきの輪郭を強調しすぎているかもしれない。
❹ひびきは力をもって特徴的だが、大太鼓らしさは稀薄だ。
❺くっきりと示して、充分に効果をあげる。

KEF Model 105

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶細く、薄いひびきのピッチカート。もう少し音に力があってもいいだろう。
❷低音弦のスタッカートならではの力が感じとりにくい。ひびきが遠い。
❸特徴あるひびきの提示は鮮明だが、力のある音がほしい。
❹第1ヴァイオリンの艶のあるひびきはなかなか魅力的だ。
❺クレッシェンドへの対応のしかたは充分だが、もうひとつ力に不足する。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像はふくらまず、くっきり定位してこのましい。
❷あざやかに対比させてこのましい。ひびきに深みがほしい。
❸「室内オーケストラ」ならではのひびきの軽やかさへの反応がいい。
❹ひびきは、細く、薄くなりがちだが、しなやかさを失わないのがいい。
❺木管楽器のひびきへの対応は大変にいい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声のなまなましさを、キメこまかに示す。定位もいい。
❷言葉のたちあがり方がいい。人物の動きも鮮明だ。
❸声とオーケストラのひびきのとけあい方は自然だ。
❹はった声が、硬くはならないが、薄くなる。ニュアンスに欠ける。
❺オーケストラと声のバランスに無理がない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶上下のバランスがよく、すっきりときこえる。定位もいい。
❷声量をおとしても言葉が不鮮明にならないのはいい。
❸残響が充分に切りおとされているので、すっきりと細部が示される。
❹ソット・ヴォーチェでの各声部のからみは明瞭だ。
❺自然にのびて声のしなやかさを明らかにする。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶対比は必ずしも十全とはいいがたいが、まずまずだ。
❷奥の方でのひびきの広がりはきわめていい。
❸軽く、色にすれば青い色がこきみよく浮きあがる。
❹前後のへだたりは充分で、広々としている。
❺ピークでの力不足は明らかで、迫力に欠ける。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひそやかなひびきの奥の方でのひろがりは美しい。
❷❶との音の質的・性格的対比が充分とはいいがたい。
❸このひびきの特徴を充分に示しているとはいいがたい。
❹このましく光って、ここでのアクセントたりえている。
❺うめこまれてはいないが、エフェクティヴとはいいがたい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきの特徴は示すが、全体的なサウンドは薄味だ。
❷個々のひびきが分離してきこえ、厚みを感じさせにくい。
❸ひびきの切れはいいが、力強さに不足している。
❹ドラムスの音色的な特徴はいいが、力感という点でたりない。
❺バック・コーラスでの声の重なり方をよく示す。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像としてのまとまりはいいが、迫力がたりない。
❷オンのなまなましさを十全に伝えきれていない。
❸音の尻尾に対しての反応のしかたは、甘い。
❹シャープに対応できているが、力強さに欠ける。
❺音像的な対比の面ではまずまずというべきだろう。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶アタックに充分な強さがないので、切れこみが弱くなる。
❷浅いひびきで、力が不足するために、つっこみがたりない。
❸横にはひろがるが、前に進む力がたりない。
❹奥へのひきはとれているが、トランペットのひびきは刺激的になる。
❺ひびきが総じて腰高なために、めりはりがつきにくい。

座鬼太鼓座
❶充分な距離感を示しえている。ある種のなまなましさがある。
❷尺八の音色的な特徴に対しての反応は、このましい。
❸一応ききとれはするものの、ひびきの輪郭はぼける。
❹どう考えてもスケールゆたかとはいいがたい。
❺硬質なひびきの特徴をよく示して、有効だ。

サンスイ SP-G200

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶幾分乾いた音だが、すっきりと示すところはいい。
❷へだたったところでひびいているようにきこえるが、くまどりはつく。
❸木管群とヴァイオリンのフラジオレットの対比にもう少し鮮明さがほしい。
❹第1ヴァイオリンのひびきに艶が不足し、低音弦がふくらみすぎる。
❺クライマックスでの高音弦は硬質になる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像がいくぶん大きくふくれるのが気になる。
❷音色的な対比はつくものの、ひびきにキメ細かさがほしい。
❸「室内オーケストラ」らしい繊細さと軽やかさが不足ぎみだ。
❹ここでのひびきの特徴は示すが、粗い。
❺木管楽器特有のしなやかなひびきがききとりにくい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶特にアデーレの方の声が硬くはって、耳ざわりだ。
❷接近感を誇張ぎみに示す。声に反響がついている。
❸声が硬くなってはりだす。木管にひびきの丸やかさがたりない。
❹かなり硬い。声のしなやかさがききとりにくい。
❺さまざまなひびきがもう少しとけあってきこえてもいいだろう。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶凹凸がなく横一列に並んでいるのがわかるのはこのましい。
❷声量をおとした分だけ言葉が不明瞭になる。
❸残響をひきずりがちなため、もうひとつくっきりしない。
❹重くひきずりはしないが、声本来のしなやかさがたりない。
❺もう少し自然に、やわらかいひびきでのびてもいい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的な対比は一応つくが、硬軟の差が示されにくい。
❷後方からしのびこむひびきのキメが粗い。
❸横にはひろがるが、奥へのひきはたりない。
❹横長の音場だ。そのために音の飛びかい方が充分でない。
❺積極的に前にはりだしてくるものの、ピークのひびきは硬い。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひびきがもう少しキメこまかいと、さらにはえるだろうが。
❷ギターの音像がもともと横に大きくひろがっている。
❸積極的にひびくが、そのひびきの実在感が不足する。
❹ひびきの光り方がさらに積極的でもいいだろう。
❺他のひびきにうめこまれがちで、はえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきだったら、もう少し輝いてもいい。
❷ひびきがとけあって厚みを感じさせるようになっていない。
❸ハットシンバルのひびきはもう少し乾いていてもいいだろう。
❹ひきずらないのはいいが、きりっとした力がほしい。
❺バック・コーラスの効果はさほどでもない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像はかなり大きい。入れものの中でひびいているかのようだ。
❷クローズアップ感を強調する傾向がある。
❸消える音の尻尾をゆたかにひびかせる。
❹細かい音に対しての反応は、もう少し敏捷であってほしい。
❺音像的な対比の面で少なからず不自然なところがある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ある種のはなやかさはあるが、アタックは甘い。
❷積極性はあるが、ひびきが刺激的になりがちだ。
❸横へのひろがりは充分だが、前へのせりだし方がたりない。
❹前後のへだたりが不足しているので、ここでの効果は不充分だ。
❺一応のめりはりはつけるものの、ひびきははずみがほしい。

座鬼太鼓座
❶尺八の位置はかなり近い。へだたりがない。
❷尺八の音色的な特徴の提示ということではもう一歩だ。
❸かすかな音できこえるものの、輪郭はさだかでない。
❹スケール感は示すが、ひびきに力がほしい。
❺かなり効果的にきこえる。ひびきのアクセントたりえている。

パイオニア Exclusive Model 3301

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきに、さわやかな力がある。
❷くっきりと、くまどりたしかな低音弦のひびきはなかなかいい。
❸誇張感なく、それぞれのひびきの特徴を示す。
❹第1ヴァイオリンは、たっぷりと、ゆたかにひびく。
❺力をもってのもりあがりはいいが、高音弦が少し硬い。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音は、ゆたかでまろやかだが、音楽的にはふくらみすぎない。
❷積極的に、あかるく、音色の対比をあきらかにする。
❸腰が重い音ながら、「室内オーケストラ」らしいひびきを示す。
❹わざとらしくなることなく、このひびきの特徴を伝える。
❺ひびきのキメ細かさがいい。わざとらしくなっていない。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声のなまなましさを粒の細かいひびきであきらかにする。
❷誇張感のない接近感はいい。定位もわるくない。
❸クラリネットと声との対比に不自然さがない。
❹声のまろやかさと艶やかさがもう少し感じられてもいいだろう。
❺バランスよく、わざとらしくないのがいい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶凹凸のないのはいいが、定位の点でもうひとつくっきりしてほしい。
❷腰のすわったひびきがここではマイナスに作用している。
❸残響の強調はないが、鮮明さの点でもう一歩だ。
❹吸う息がかなりなまなましくきこえる。
❺のびは自然でわざとらしさがなく、ひろがりを感じさせる。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的対比も、音場的対比も、充分についている。
❷後方からのしのびこみは自然で、クレッシェンドも確実だ。
❸ひびきそのものがもう少し軽くてもいいだろう。
❹前後のへだたりが充分なので、広々と感じられる。
❺ひっそりとしのびこんで、たくましくクレッシェンドする。音が前に出る。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶横へのひろがりは、確実だ。あやふやさがない。音質的にはこのましい。
❷❶との音色的対比は充分について、積極的に前にせりだしている。
❸わざとらしくならず、確実にその存在を主張する。
❹他のひびきとのバランスがいいので、効果的だ。
❺不自然にきわだつことなく、充分に効果をあげる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶高い音と低い音とのバランスがとてもいい。
❷ひびきに力が感じられるので、厚みをよく示す。
❸ひびきに確実さがあり、あやふやにならないのがいい。
❹ベース・ドラムが示す力感は、大変にいい。言葉のたち方も充分だ。
❺バック・コーラスの効果がよく示されている。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力強くひかれたダブルベースならではの迫力を感じさせる。
❷オンでとったなまなましさがあるが、誇張感はない。
❸音の尻尾をきわだたせはしないが、充分だ。
❹シャープに、力強く反応していて、このましい。
❺音色的、音像的、音場的対比の点で充分だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶歯切れのいい、はずみをもった、明るいひびきだ。
❷充分な力感をもって、中央をきりひらいてくる。
❸積極的で、力をもって、前にはりだしてくる。
❹前後のへだたりは充分にとれていて、見通しもいい。
❺ひびきに確実さがあり、めりはりがついている。

座鬼太鼓座
❶距離感も充分で、しかもすっきりきこえる。
❷音色的な点での問題点はほとんどない。
❸不自然にならずきこえて、ひびきの輪郭もわかる。
❹大太鼓ならではのスケール感をつつがなく示す。
❺ほどよくきこえて,わざとらしさがない。

パイオニア Exclusive Model 2301

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶あかるく、くっきりピッチカートが示される。あいまいでないよさがある。
❷力をもった、低音弦のスタッカートならではのひびきがきかれる。
❸自然な、無理のないバランスで、それぞれのひびき特徴を示す。
❹たっぷりひびく第1ヴァイオリンはなかなかいい。
❺次第に迫力をましていく音楽の流れにうまく対応できている。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノのたっぷりしたひびきがこのましい。音像もほどほどだ。
❷音色的な対比は自然で、誇張感がまったくない。
❸ひびきに力があり、しかもまとまりもいい。
❹しなやかに対応できていて、充分に効果的だ。
❺木管楽器のキャラクターをよく示している。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶アデーレを呼ぶ声の強さを、硬くならずによく示している。
❷表情のくまどりをたしかに、しかし誇張感なく、よく示す。
❸手前のクラリネットと声の対比があざやかだ。
❹はった声が、もう少しまろやかでもいいように思う。
❺オーケストラと声とのバランスははなはだいい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶低い方の声がふくれがちだ。もっとこりっとしてもいいだろう。
❷声に肉がつきすぎて、言葉のたち方が弱くなる。
❸残響をひきずっているというわけではないが、言葉はたちにくい。
❹特にソット・ヴォーチェでは、ひびきの軽さの不足が気になる。
❺のびていて、ポツンと切れるようなことはない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶特にピンという音の硬質な性格をよく示している。
❷後方からのひびきは、しゃっきりたって、その後クレッシェンドする。
❸浮き方に力がある。もうひとつ軽くてもいいだろう。
❹前後のへだたりは充分で、ひびきの飛びかい方もいい。
❺ピークで示される力にみちたひびきは圧倒的といっていい。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひびきそのものの性格は暖色系だが、粒はこまかく、さわやかだ。
❷くっきり、力をもったひびきで、中央から前に進んでくる。
❸このましいバランスで、実在感たしかに示される。
❹ことさらきわだつわけではないが、充分に光って有効だ。
❺うめこまれることなく、キラリと光って、ひびきのアクセントたりうる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶低い音がせりだしすぎないよさがある。
❷ひびきの厚みを腰のすわった音でよく示す。
❸ハットシンバルの金属的なひびきの提示はみごとだ。
❹ドラムスのアタックは、シャープで、力があってこのましい。
❺バック・コーラスによる言葉のたち方も申し分ない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像的にまとまりがよく、力にみちたひびきがいい。
❷オンのなまなましさが顕著で、誇張した嫌味はない。
❸消え方の提示もあぶなげがなく、効果的だ。
❹シャープな反応はこのましく、迫力にとんでいる。
❺音色的、音像的、音量的対比に不自然さはない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶横へのひろがりもあり、アタックは強い。
❷金管ならではの輝きのあるひびきをよく示す。
❸力にみたちひびきで、積極的に前にはりだす。
❹後方からきこえるトランペットがひろがりを暗示する。
❺鋭く刻まれるリズムは、めりはりをつけて、有効だ。

座鬼太鼓座
❶充分な距離感を示す。しかもなまなましさを失わない。
❷くっきり示されるが、尺八の音色的特徴をあいまいにしない。
❸きこえて、しかもひびきの輪郭をぼかさない。
❹大太鼓のスケール豊かなひびきによく対応できている。
❺有効な働きをしている。しかしわざとらしくなっていない。

アコースティックリサーチ AR-17

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 質感は必ずしも上等とはいえないが、つまり本来しっとりと艶やかに鳴って欲しいドイツ・グラモフォンやEMI録音のオーケストラや弦合奏の音でも、いささか乾いた傾向のそっけない音で鳴らしてしまう性質がある。がそれを別として、クラシックからポップスに至るどのテストソースを鳴らしても、ことにかなりの音量で鳴らしても、国産の一部のスピーカーにありがちの、ことさら中〜高域を張り出さしたためにヒステリックな音に聴こえたり、あるいはこれみよがしの店頭効果を狙ったり、または中域から低域にかけてのどこか箱の中にこもるような、要するに音域のどこかに不自然さを感じさせるような要素がほとんど感じられず、すべてのプログラムソースを、ひととおり気持よく聴けるという点は、やはりさすがだと思わせる。とはいっても、アメリカの東海岸で作られるスピーカーの大半がそうであるように、聴感上は高域をおさえこんで丸めてあり(それが聴きやすさの一因でもあるが)、また小型であるだけに低域の量感も十分とはいえない。台はやや高め(約50センチ)で、背面を壁につけるのがよかった。音の艶を補うにはSTS455Eがいいかと思ったが、逆にピカリングXSV3000などのように中域の密度の濃い音でドライブする方が、ことにシェフィールドのダイレクトカットなどのソースで一種説得力のある音が得られた。

セレッション Ditton 33

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ひびきが薄い。ピッチカートは音が糸の上をわたっているかのようだ。
❷ひびきはふくらみがちで、本来の力に不足する。
❸フラジオレットのひびきがその特徴を強調する。
❹多少これみよがしに第1ヴァイオリンがひびく。表情を誇張ぎみだ。
❺高音弦が幾分メタリックにひびき、迫力に欠ける。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は、かなり大きくふくらむ。
❷音色的特徴を拡大して示す傾向がなくもない。
❸ひびきがふくらみすぎる。もう少しキメ細かさがほしい。
❹ひびきの特徴を示しはするが、これみよがしになりがちだ。
❺ソロをとる楽器がきわだって前にでる。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声は風呂場の中のようにきこえて自然でない。
❷接近感をこれみよがしに示すが、音像は大きい。
❸うたった声も風呂場の中のようだ。クラリネットは音色を誇張する。
❹声のなめらかさがなく、はった声はメタリックになる。
❺ひびきをばらばらに示して、とけあう感じが不足する。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶低い方の音がふくらみがちで、鮮明さに欠ける。
❷あたかも声が余分なひびきをひきずってきているかのようだ。
❸言葉のたち方が充分でないところがある。
❹ひびきに軽やかさがたりないので、明瞭とはいいがたい。
❺のびてはいるが、自然なのびとはいいがたい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色対比を、これみよがしに示すにとどまる。
❷奥へのひきはとれるが、クレッシェンドに自然さが欠ける。
❸浮遊感は一応示すが、提示される空間は、むしろ横にひろがりがちだ。
❹前の音と後の音との間で質的に違うところがある。
❺ピークでは硬く、メタリックなひびきになりがちだ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのひびきは、かすかとはいいがたく、かなり積極的だ。
❷ギターの音像が大きいので、せりだしてくる効果がいきない。
❸ひびきに力がないので、空虚さがついてまわる。
❹きわめて特徴的なひびき方をする。このひびきがきわだつのは事実だが。
❺くっきり、きわめて特徴的にくっきり示される。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶バスが強調されがちで、そのためにさわやかさに欠ける。
❷ここで求められる効果は示すが、いかにもひびきが重い。
❸ひびきが充分に乾いているとはいいがたい。
❹ドラムスのひびきは、ひきずりがちでシャープさがたりない。
❺言葉がもう少しすっきりたってくれた方がいい。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像が極端に大きい。ひびきに力がほしい。
❷いくぶん拡大気味に示すが、なまなましいとはいいがたい。
❸音の尻尾は充分に示すものの、それがスケール感の提示にはならない。
❹反応がさらにシャープなら、より一層の迫力をうみだせるのだろうが。
❺音像的な対比の点で少なからぬ問題がある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ひびきのひろがりは示すが、ドラムスのつっこみに鋭く反応してほしい。
❷太くひろがってきこえてくるので、本来の効果から遠い。
❸大きく横にひろがるものの、はりだすわけではない。
❹もうひとつひきが充分でない。ひびきの目がかなりつんでいる。
❺ひびきがさらにこりっとするといいのだろうが。

座鬼太鼓座
❶尺八は比較的近いところにいる。音像も大きい。
❷脂っぽくなっているわけではないが、かなりふくれている。
❸きこえる。音の輪郭はさだかでなく、ぼやけがちだ。
❹ひびきはひろがるものの、力感の提示で不足する。
❺このひびきに硬質なところがあるとさらに効果的なのだろうが。

サンスイ SP-L150

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 DS30Bと同じ価格なので、どうしても比較の対象になる。全体の鳴り方は、ダイヤトーンよりも軽快で、入力に対する反応が敏捷だ。中〜高域が張り出し気味のところはDS30Bとかなり似ている。というよりもこの作り方が、国産のスピーカーには一般的だ。ダイヤトーンの場合には本誌標準の、約50センチの高めの台で、背面を壁からかなり離す方がよかったが、サンスイの場合には、まず標準台では低域が不足して、そのまま背面を壁につけてもまだ少々物足りなかったので、20センチほどの低い台で背面を壁につけるようにしてちょうどよかった。このことからも低域の特性はDS30Bとかなり違うことがわかるが、たとえばキングズ・シンガーズのコーラスのバランスの音域で、DS30Bがブレストの音がやや人工的に重く聴こえたのに対して、L150の音は自然で軽やかによく動く。高域は、30Bのところでももうひと息ハイエンドの延びが欲しいと書いたが、L150のハイエンドはよく延びて爽やかで自然によくひろがり、したがって楽器のデリケートなニュアンスをよく再現する。アンプの組合せでは、トリオ7300Dのような味の濃い音よりも、ヤマハCA2000のようなさらりとした音の方がよく生かすと感じた。カートリッジはしたがって455EやVMS20E/IIよりはエンパイア系統の方がよく合った。

ダイヤトーン DS-30B

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 たとえばシェフィールドのダイレクトカッティングのシリーズを、思い切ってハイパワーでドライブしたときにも、音がくずれたり腰くだけになったりせずに、男性的とでもいいたいような、いくらかハードながら力強い緻密さで鳴る。表面的な小細工を感じさせずに、全音域に亘って正攻法で押してくるような音はまさにダイヤトーンの面目躍如たるものがある。ただそれでいて、クラシックのオーケストラを聴いても、従来の製品のどこか強情な感じか抑えられて、硬質の傾向ながらバランス的には一応納得のゆく音で聴かせるところが、いくらか変ったように思える。とくに本誌標準台のような(約50センチの)高めの台に乗せて左右にかなり開いて置くと、空間への広がりの感じもよく出るようになるが、弦合奏のデリケートなニュアンスを聴きとるには、ハイエンドの延びが(以前の製品よりもかなり延びてはきたもののまだ)もうひと息という感じだ。また、高い台ではクラシックの場合に低音の量感がやや物足りないが、といって台を低くするとごく低い周波数でどこか一ヵ所、重く鈍くひきずるような共鳴音が出てくるので、やはり台は高くしたままターンオーバーを低くとったトーンコントロール等で重低音を補いたい。総体にいくらか人工的な味わいのある音色なで、本質的にはポップス系が得意なスピーカーだと思う。

ダイヤトーン DS-90C

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶幾分しめりけのある音ながら、ピッチカートはすっきりとこえる。
❷もうすこしくまどりがついてもいいだろうが、力のあるひびきでいい。
❸誇張感のないひびきで、しなやかにそれぞれの音色の特徴を示す。
❹第1ヴァイオリンのフレーズは艶があってこのましい。
❺もりあがりには、余裕がある。たっぷりひびくクライマックスはいい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノはたっぷりひびくが、音像的には多少大きい。
❷暖色系のひびき故に、木管楽器のひびきの特徴をよく示す。
❸キメ駒かなひびきはこのましいが、いくぶんふくれすぎている。
❹しなやかだが、もう少しすっきりしてもいいだろう。
❺木管のひびきへの対応がよく、ここでも効果的だ。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声のしなやかさ、まろやかさをよく示す。
❷アイゼンシュタインの近づく感じを誇張感なく示す。
❸オーケストラと声との、ひびき方の点でのバランスは大変いい。
❹はった声が幾分硬くなって、ニュアンスに欠ける。
❺オーケストラのひびきの特徴を鮮明に示している。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶低い方の声がふくらみがちで、定位の点が問題がある。
❷声量をおとした分だけ、言葉のたち方が鈍くなる。
❸残響をひきずりがちで、言葉の角がみえにくい。
❹ソット・ヴォーチェの声は、さらに軽やかでもいいだろう。
❺声のまろやかさは示すが、さらに敏捷であってほしい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、音場的対比は充分についている。
❷シンセサイザーのひびきが独特の湿りけをおびている。
❸ひびきの湿りが歩く働いてはいないが、もう少し浮遊感がほしい。
❹前後のへだたりは充分で、提示される音場はかなり広い。
❺音に力があるので、ピークでのもりあげは圧倒的だ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶クォリティの高い音の後方でのひろがりは魅力的だ。
❷❶との対比の上でのここでのひびきの質がよく示されている。
❸実在感たしかに、くっきりとした音で提示される。
❹キメ細かいひびきで、効果的に輝いている。
❺うめこまれることなく、充分に自己主張しえている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ベースの音のはりだし方が特徴的だが、12弦ギターのひびきをよく示す。
❷ツイン・ギターによるひびきの厚みは、このましく示される。
❸すっきりしたひびきで、しかも薄味にならず示される。
❹ドラムスによる力感あるひびきはいい。
❺バック・コーラスでの声の重なりをよく示す。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像はかなり大きい。低い方の音にエネルギーがかたよりすぎていないか。
❷オンでとられた音のなまなましさを伝えきれていない。
❹細かい音に対しての反応は、さらにシャープであってほしい。
❺両ベーシストの音像的な差のないのが、このスピーカーのよさだろう。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ひびき全体に切れ味が不足し、重くなっている。
❷ブラスの中央からのつっこみは、力があっていい。
❸申し分なくひろがるが、さらに前にはりだすべきだろう。
❹前後のへだたりはとれているが、音の見通しということでいま一歩だ。
❺めりはりは一応つけているが、音のつきはなしが弱い。

座鬼太鼓座
❶尺八の位置までのへだたりが聴感上感じとれるのがいい。
❷キメ細かいひびきで、尺八の音色をよく示す。
❸きこえるが、ひびきの輪郭を充分に示すとはいいがたい。
❹大太鼓のスケールゆたかなひびきはすばらしい。
❺ここで求められるひびきの特徴を十全に示しえている。

ビクター SX-11

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 NS10Mを聴いたあとでこれが鳴りはじめると、やはり音のスケールがぐんと違ってきて、そのことから逆にNS10Mが、ああやっぱり小さなスピーカーだったのだと思えてくる。ただ、ヤマハの全域に抑制の利いた音の音のあとでこれを聴くせいばかりでなく、ビクターのスピーカーが概して持っている(ことに、これと兄弟のSX55N=前号283ページ参照)音をことさらよく響かせるという傾向を、このSX11も持っていて、まず、とても良くなるスピーカー、という感じを抱かせるが、反面、箱の共鳴音のような響きが、長く聴くにつれて少々耳につく傾向がある。中〜高域でややハスキーな音になるが、しかしテストソースのすべてを通じて、レベルコントロールを修整する必要はそれほど感じられない。というよりも、トゥイーターのレベルを絞ると、高域が曇ってしまうので、このままのバランスで聴くべきスピーカーだと思う。ただ、SX55Nのところでもふれたと同じようにこのスピーカーも、低域でどこか粘るような音と、その反面中〜高域ではときとしてはしゃぐ傾向の声質をあわせ持っている。アンプやカートリッジを替えてみると、ラックスやトリオの系統より、ヤマハの淡泊な傾向が合うようで、とうぜんカートリッジもシュアーやアンパイアの系統がよかった。置き方は本誌標準台のままでよかった。

B&W DM4/II

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶あかるい、すっきりしたピッチカート。ひびきに力がある。
❷くっきりと、力がある音をきかせて効果的だ。
❸各楽器の特徴あるひびきを鮮明に示す。
❹第1ヴァイオリンのひびきにもうひとつキメこまかさがほしい。
❺クライマックスへのもりあげ方にはあまり無理を感じさせない。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音に力は感じられるが、音像は大きめである。
❷音色的な対比、あるいはバランスといった点で好ましい。
❸いくぶん響きが、拡大しがちで、さわやかにかける。
❹きわだつが、わざとしらさがついてまわる。
❺はりだし気味であり、多少誇張感がある。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶表情を強調ぎみに示す傾向があるが、鮮明ではある。
❷接近感をよく示しはするが、オン・マイク的である。
❸クラリネットの音色の特徴は強調して示される。
❹はった声は、硬くならないが、声本来の艶がなくなる。
❺個々の響きを分解して示す傾向がある。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶凹凸はないが、響きがぼってりしがちである。
❷声量をおとしたことに呼応して、言葉のたち方が弱くなる。
❸残響の強調がマイナスに働いて、言葉の細部があいまいになりがちだ。
❹各声部のからみが鮮明に示せているとはいえない。
❺のびてはいるものの、いくぶん不自然なところがある。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的なへだたりを特にきわだたせる。
❷クレッシェンドのしかたが、多少わざとらしい。
❸響きは横にひろがるが、奥行きが不充分で、浮遊感もたりない。
❹前後のへだたりはかならずしも充分とはいえない。
❺階段を一段ずつあがるようにふくらむ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶横に力をもってひろがったひびきには一種のたくましさがある。
❷ギターの音像は、さらに小さくすっきり、中央に定位するのが望ましい。
❸ひびきの輪郭があいまいになりがちなので、はえない。
❹かなりはりだす。このひびきの特徴を拡大して示す。
❺きこえることはきこえるが、めだつとはいえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶響きの重心が低い方にかたよっている。
❷必ずしも厚みを示すことにはならず、ばらばらになりがちだ。
❸べとつかないのはいいが、さわやかとはいえない。
❹響きに力が不足しているので、十全な効果をあげえない。
❺言葉のたち方が弱く、バック・コーラスの効果も不充分だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶大きな箱の中でひびいているかのようにきこえる。
❷必ずしも強調感があるとはいえないが、もう少しなまなましさがほしい。
❸消えていく音をきわだたせる傾向がある。
❹反応がシャープでないために、あいまいになる。
❺特に音像的なバランスに自然さがたりない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶響きの切れが鈍いためか、もったりとする。
❷積極的ではあるが、響きに力がたりないので、刺激的になる。
❸かなり前の方にはりだすが、もう少しくっきりしてほしい。
❹奥行きが充分にはとれず、音の見通しがあまりよくない。
❺響きがぼやけ気味のためか、めりはりの点でもうひとつだ。

座鬼太鼓座
❶かなり前の方にはりだしていて、距離感があいまいになる。
❷脂っぽさはないが、尺八の音色を十全に示しているとはいいがたい。
❸きこえることはきこえるが、いくぶんあいまいだ。
❹響きに、かさかさしたところがあり、力強さがたりない。
❺音色的な対比の点で必ずしも充分とはいえない。

ヤマハ FX-1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 プレス発表用の資料の中に「絢爛たるラグジュリアスなキャラクタ(原文のまま)」とあったが、なるほどまさにそういう感じの音。あるいは、かつてNS1000Mが登場したころの一種ショッキングな音をフロアータイプで表現した、とでもいう感じの、全く独特の音だ。鳴ってくる音のすべてに、人工的なまばゆいばかりの光線、それもストロボフラッシュでくまなく照らし出した印象の輝かしい光沢がついてくる。はじめフロアーにじかに、背面を壁に近づけて置いてみると、ベースは箱の中でぶんぶん唸るし、それをブロックに乗せたぐらいではまだ生彩を欠いて音離れがよくないので、壁からどんどん離して、左右に思い切り開き、ブロック二段ほど高く上げて右のような音になった。音像はこれですばらしくくっきりとよく浮かぶ。ただ少々くっきりしすぎのようなところもある。バルバラの声など、おそらくウーファー領域だろうが肉がこそげ落ちすぎて暖かさがない。オーケストラの弦の音もかなり金属的だ。トゥイーターのレベルをしぼるとバランスをくずすが、おそらくエイジング不足なのだろう。かなりチリチリした音が耳についた。どうも作りたてのホヤホヤといった感じだった。もう少しエイジングの進んだ製品を聴けば、あるいは印象が変るのかもしれないが、ともかくユニークなスピーカーだ。

ロジャース LS3/5A

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 いろいろの紹介記事ですでにご承知のようにイギリスBBC放送局が、出張録音や簡単なチェックのための超小型モニターとして開発した製品だが、今回はそういう背景は別として、JRやスペンドールと同じ条件で比較できるという点に興味があった。しかし同列に並べて聴きくらべてみると、価格が一ランク高いことを別にして、さすがに音の品位が違うとまず思わせる。このスピーカーはすでに自宅で半年以上使っているが、黒田恭一氏もどこかで書いておられたように、比較的近くに置いて正確に音像の中心に頭を持ってくると、あたかも眼前に精巧なミニチュアのステージが展開するかのように、音の定位やひろがりや奥行きが、すばらしく自然に正確に、しかも美しい響きをともなって聴こえるとても優秀な製品だ。今回の試聴では、設置条件をわざと違えて、JR149やSA1と同じ高さ(約50センチ)の台の上に並べて聴いたが、JRのアンビエンス効果も顔負けするほど音のひろがりもみごとだし、一音一音がいっそう磨きをかけられて底光りのする美しさに魅惑させられる。バランス的には中域をおさえてあって、大音量ではドンシャリ的に鳴る傾向があるので広い場所は避けたい。アンプ以前のクォリティをはっきり鳴らし分けるのは当然だから、十分に品位の高いカートリッジとアンプが必要。