Category Archives: アナログプレーヤー関係 - Page 24

デンオン DP-7700

黒田恭一

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か クォーツロック・DDターンテーブル18機種をテストする」より

 ひびきそものに、一種の品位とでもいうべきものがある。決して粗野にはならない。それぞれのカートリッジのよさを無理なくひきだしているという印象である。その意味で、実にまとまりのいいプレーヤーシステムだ。あぶなげがまるでない。
 今回の試聴で用いたようなレコードには、よくフィットして、はなはだ好印象をいだいたのだが、さらにエネルギー感を求められるような音楽の場合には、このプレーヤーシステムの品位が、幾分マイナスに働くということもなくはないようだ。それは、このプレーヤーシステムの音が、ひびきを前に押しだすようなタイプのものではないことと、関係があるかもしれない。
 折目正しさ、破目をはずさない──というのは、たしかに、なににもかえがたい美点で、その美点は、このプレーヤーシステムのものだ。したがって、ききては、そこで安心して、きこえてくる音に対応できる。そういうききてを安心させるというのは、実は、なかなかむずかしいことだということを、ここで思いだすべきかもしれない。

マイクロ DQX-1000 + MA-505S

黒田恭一

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か クォーツロック・DDターンテーブル18機種をテストする」より

 恰幅がいいというべきか、全体的にたっぷりひびく。だからといって、さまざまなひびきが押し出されてくるというわけではない。そのために、まろやかなひびきは、まろやかに、なめらかに示されて、このましい。その点にこのプレーヤーシステムのチャーミング・ポイントがあると考えるべきだろう。
そのひびきのまろやかさが、シャープなひびきと十全に対比されたときに、まろやかさの魅力をつつがなく示しうるということも、どうやらいえるように思う。とりわけ、低域のひびきが、もう少し筋肉質になるというか、ひきしまるというか、くっきりすると、恰幅のよさがさらにはえるのではないか。メロウなひびきと、骨っぽいひびきとの対比が、もう一歩という印象だ。
 全体にまろやかに傾くというのは、それはそれで、ききやすさにつながるということもいえなくもないが、細部の音の動きのすべてをききとろうとするときに、多少のむずかしさがある。おっとり、ふっくらしたひびきが、ときには、きりりとひきしまったら、さぞや立派なひびきになるのだろうが。

ラックス PD441 + フィデリティ・リサーチ FR-64S

黒田恭一

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か クォーツロック・DDターンテーブル18機種をテストする」より

 シュアーV15タイプIVで感じられるひろびろとした音場感は、なかなか特徴的だった。それに、3つのカートリッジで共通して感じられた、ひびきがついに脂っぽくならないところも、このプレーヤーシステムのこのましい点としてあげられるだろう。したがって、ここできけるひびきは、決してごりおしにならず、さわやかだ。
 それにさらに、腰のすわった、とりわけ低域での力感のあるひびきが加われば、全体としてのひびきの説得力は、一層ましたと思われるが、その点では幾分ものたりなさを感じた。
 おそらく、そのことと無関係ではないはずだが、「ナチュラルなバランス)がたもたれているにもかかわらず、ひっそりとした印象をぬぐいさりがたかった。もっともそれは、かならずしも弱点とはいいがたい。積極的すぎて、きいての印象が騒がしくなるより、よほどこのましいということも、いえるにちがいない。まとまりのいいプレーヤーシステムだが、もう一歩ふみこんできてものをいってほしいなというのが、率直な感想だった。

「ブラインドテストを終えて」

井上卓也

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「ブラインドテストで探る〝音の良いプレーヤーシステム〟」より

 ディスクの再生では、プレーヤーシステム、アンプ、スピーカーシステムがシリーズに接続され、それぞれのコンポーネントの置かれた位置と機能の違いが、各コンポーネント固有の音の変わり方をすることになる。
 一般には、システムのもっとも出口の位置にあるスピーカーシステムが、その扱うエネルギー量も多く、メカニズムを利用した電気エネルギーを音響エネルギーに変換するというトランスデューサーでもあるために、それをセットする部屋の条件も加わって、各コンポーネントのなかでは結果としての音をもっとも大きく左右する部分とされている。
 また、中間に位置するアンプは、入力として加えられた微弱な電気信号を増幅し、スピーカーシステムをドライブするだけの電気エネルギーとして出力に出す純粋な電気の増幅器であるために、物理的な計測データを基としての解析がメカニズムをもつトランスデューサーよりも容易であり、本来はエレクトロニクスの技術が進歩すればするほど製品化されたモデル間の音違いが少なくなるはずである。しかし、現実には、入力、出力ともにトランスデューサーであるカートリッジやスピーカーシステムと結合されるとなると、計測時のように入出力に定抵抗が接続された状態とは異なった動作をなすことになり、これが音の違いとなっている。また、エレクトロニクスの技術の製品であるだけに、回路を構成する部品の改良、それを使った新しい素材にマッチした回路設計という反応が、非常に短いインターバルで繰返される結果、ほぼ半年毎により計測データの優れた新製品が開発され、聴感上でも音の変化がいちじるしいため、現実には話題が絶えず、もっとも注目される部分だ。プレーヤーシステムは、コンポーネントのもっとも入口の部分に位置している。そのため、ディスクにカッティングされている情報量の50%しか電気信号に変換できないとすれば、アンプ、スピーカーシステムにどのような高性能のコンポーネントを使ったとしても、結果として聴かれる音は最大限50%にしか過ぎないことになる。このように非常に重要な位置にありながら、アンプ、スピーカーシステムにくらべて、なぜかさほど重要視されない傾向が強いようだ。
 それというのも、プレーヤーシステムが、それぞれ独立したコンポーネントと考えてもよいカートリッジ、トーンアーム、フォノモーターと、それを取り付けるプレーヤーベースで構成されているからだろう。そのため、単体のカートリッジ、トーンアーム、フォノモーターの性能、音の違いは問題にされることはあっても、トータルなシステムとしての音の変わり方についてはあまり問題にされず、それが問題にされだしたのはつい最近のことといってもよい。
 簡単に考えれば、スピーカーシステムやアンプの分野では、相当に高度なアマチュアがどのように努力しても、メーカー製品以上の性能、音質をもつものを作ることは不可能といってもよいが、ことプレーヤーシステムにおいては、優れたカートリッジ、トーンアーム、フォノモーターを選択すれば、強固なプレーヤーベースを作るノウハウさえ持てば、メーカー製品を凌ぐ性能と音質をもったシステムをアマチュアが自作できる、唯一のジャンルであるためだろう。
 ちなみに、ステレオサウンド別冊「ハイファイ・ステレオガイド」を見ても、プレーヤーベースの頁には、オーディオメーカー以外の会社から異例に多くの製品が発売されており、プレーヤーシステムの特異性を示している。
 プレーヤーシステムのジャンルでも、最近では、トータルなシステムプランから開発された、メーカでなくては作れない製品がその数を増し、次第にスピーカーシステムと同様にプレーヤーシステムとして完成されたものが主流となってきつつある。たとえば、オートマチックプレーヤーシステムは、メーカーならではできないプレーヤーシステムである。
 今回の特集はプレーヤーシステムであり、プレーヤーシステムの重要性を確認する目的から、本誌では珍しくブラインドテストが行われることになった。この方法には、当然長所短所があるが、ある部分では、平均的な試聴とは異なった製品の実体に触れることができるのは事実である。実際に、スピーカーシステムやアンプでブラインドテストをしたために、ひとつの印象として捉えていた製品に、より多くの新しい可能性を見出すことはよく経験することである。
 ブラインドテストは、出てきた音に聴き手がどのように反応するかである。つまり、単純に考えれば、モルモットそのものにいかになりきるかということができる。したがって、モルモットの置かれる条件が結果を大きく左右することになる。たとえば、傾いた机の上に置かれれば、それを基準として反応するほかはない。
 今回のブラインドテストは、聴く人数の面から、試聴室の長手方向にスピーカーシステムをセットして行なったが、それにしても左右のスピーカーとテスターとの相対位置は、中央付近を除いて相当に異なるため、このあたりが結果としての発言内容の差と密接に結びついている。私の位置は左端で、左チャンネルのスピーカーのやや外側である。この位置では、リファレンスとしたEMTのプレーヤーシステムも、ややバランスを崩した状態であり、現在のコンポーネントでもっとも重要視される、ステレオフォニックな音場感の広がりと定位、音像の問題はチェックポイントとはなりえず、聴感上でのバランス、音色、音楽の表現能力などが判断基準となっている点に注意されたい。
 結果としては、テスト機種のなかには、つねに試聴室で、また個人用として使用している製品が含まれていたが、それらの製品名を試聴結果から当てることはできなかった。たとえば、現在のフォノモーターの水準からはかなり劣るはずのガラード301・SME3012のシステムすら判別不可能で、モルモットとしては正しく反応していたつもりだけに残念という感が強いが、この反応で正しかったと思っている。
 各テスト機種は、先入感がないだけに、かなり大幅に結果としての音、音楽を変えて聴かせてくれた。それは、低域、中域、高域といった、いわば聴感上での周波数特性的なバランス、帯域の広い狭いをはじめ音色的にも当然違いがある。また、カートリッジのMC型、MM型による差が少ないものの、差を大きく出すものといった違い方もある。さらに、音楽そのものが相当に変わってしまうこと、これは大変に重要なことである。これに、ステレオフォニックな音場感、定位、音像などの要素を加えれば、各テスト機種の違いはさらに拡大されるはずである。やや表現を変えれば、プレーヤーシステムでの音の変わり方を情報量的に捉えると、テープデッキでの、カセットデッキ、4トラックオープンリールデッキ、2トラックオープンリールデッキに対比させることができる。結果として製品がわかったプレーヤーシステムとメモを突合わせてみると、一般的な傾向として、大型で重量級の製品ほど2トラックオープンリール的な音をもっているように思われる。たしかに、物理的にも感覚的にも、ディスクにカッティングされている音溝の凹凸は非常に細かいものと思われやすいが、実際にカートリッジを手に持って、直接ディスクの音溝に触れさせてみると、指に感じる反応の激しさで音溝の凹凸による抵抗がどのように大きいかを知ることができるが、これからもフレーヤーシステムは予想以上に機械的な強度を要求されていることがわかるはずだ。これは、当然のことながらフォノモーターのトルクについても同じことがいえる。測定データからも音溝の抵抗でサーボ系がどのように反応しているかを知ることができるであろう。
 このように音が大幅に変わること自体が、プレーヤーシステムの選択の尺度をさらに厳格にしなければならないことを物語っていることになる。かつて、プレーヤーシステムをもっとも優先的に考えるべき論旨があったが、これは現在でも変わることはなく、他のコンポーネントが優れているだけに、プレーヤーシステムでの音の変化がクローズアップされるべきだと感じた。

ダイヤトーン DP-EC1MKII

黒田恭一

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か クォーツロック・DDターンテーブル18機種をテストする」より

 いずれのカートリッジにおいても、不鮮明になることから用心深く遠ざかりえているのは、このプレーヤーシステムが基本的なところでしっかりしているからだろう。オルトフォンMC20で、音像が過剰に大きくなっていないことは、注目すべきだ。ひびきがきめこまかくなると、それにつれて音像が肥大してしまうということが、このカートリッジでは起こりかねないが、ここでは、そういうことがない。
 それに、シュアーV15タイプIVできけたひびきが、きわだってきめこまかだったということも、興味深かった。つまり、このプレーヤーシステムは、それぞれのカートリッジのキャラクターに素直に反応するので、ききては、自分で使おうとしているカートリッジのマイナス方向の働きも計算に入れて使うといった、めんどうなことをしなくてもすむ。このましいと思ったカートリッジのそのこのましさが、このプレーヤーシステムでは、そのままいかされるということだ。全体のひびきの印象は、すっきりしていて、さわやかだが、ここに弱々しさは感じとれない。

テクニクス SL-1300MK2

黒田恭一

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か クォーツロック・DDターンテーブル18機種をテストする」より

 しっかりした、ごまかしのないプレーヤーシステム──というのが、三つのカートリッジをつけてきいたこのプレーヤーシステムの第一印象だ。そのために、三つのカートリッジのそれぞれのチャーミング・ポイントを、よく示している。たしかに、深いひびき、あるいは力強いひびきといったものに対しての反応では、いずれのカートリッジでも、さらに望むところがなくもなかったが、だからといって、その点で特にものたりなさを感じたということではない。
 三つのカートリッジで共通していえたのは、誇張感がないということだった。いずれかの部分が誇張されるということは、その逆の性格の部分がないがしろにされるということで、必然的に、誇張感があれば、レコードにおさめられている音楽を自然なバランスできくことがむずかしくなる。その意味で、このプレーヤーシステムは、音楽をたのしむための条件をみたしていたと考えることができる。
 ただ、さらに望むことが許されるなら、それぞれのひびきが、さらに一層生気にみちた、つまりいきいきとしたものであったらと思わなくもない。

ビクター QL-A7

黒田恭一

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か クォーツロック・DDターンテーブル18機種をテストする」より

 とりわけデンオンDL103Sでの結果がいい。そこでこのプレーヤーシステムのたしかさがあきらかになったと考えることができそうだ。すっきりとしたひびきで、ききてに、細部への見通しを可能にする。オルトフォンMC20というカートリッジには、むろんすばらしいところは多々あるが、プレーヤーシステムによっては、その美点より欠点をあきらかにしてしまい、音像を大きくし、低域のひびきを過度にふくれさせてしまいかねないのだが、ここでは、そういうことがない。たしかに、ほかのふたつのカートリッジに較べて、音像は大きくなりがちだが、むしろこのカートリッジの美点の方が、勝っている。
 音のおさえがいいというか、あいまいにならないというか、つまり、性格としては、積極的だが、はりだしすぎたりしないところに、このプレーヤーシステムのよさがある。さらに望めば、定位のエネルギー感の提示といった点で、いま一歩と思わなくもないが、きこえ方のバランスがいいので、すくわれている。なかなか魅力的なプレーヤーシステムというべきだろう。

トリオ KP-7700

黒田恭一

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か クォーツロック・DDターンテーブル18機種をテストする」より

 ひかえめにすぎるかなと思わなくもない。ただ、デンオンDL103Sで、積極性を示したということは、注目すべきだろう。三つのカートリッジで共通して強調感がなかったのはいい。一種のきめこまかさもある。総じて、薄味だし、ひびきそのものは細身だが、表現がごりおしにならないのはいい。ただ、スタティックにすぎるという印象は、ぬぐいさりがたい。
 シュアーV15タイプIVでは、このプレーヤーシステムの弱点がでてしまっているように思われるので、試聴した三つのカートリッジからひとつ選ぶとなれば、やはりデンオンDL103Sということになるだろう。そこでは、ほかのふたつのカートリッジより力にみちた音がきける。部分的にひびきの表情が過剰になるとしても、そこでのくっきりさをめざした音は、わるくない。
 それにしても、このプレーヤーシステムは、ダイナミックな音楽をおさめたレコードのためのものというより、静かな音楽をおさめたレコードを、耳をすましてきくためのものといえるように思われる。

ソニー PS-X700

黒田恭一

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か クォーツロック・DDターンテーブル18機種をテストする」より

 きわだったくせのないのがこのプレーヤーシステムの特徴というのが、きいての、まず第一に感じることだ。それはむろん美点のひとつとしてあげられることだ。きわだったくせがないということは、それぞれのカートリッジのキャラクターによく順応するということだが、ひとつまちがうと、順応しすぎるというか、つまりカートリッジの弱点におし流されるということも、起こりかねない。しかし、このプレーヤーシステムは、その一歩手前で、とどまっている。すなわち、プレーヤーシステムとして、自己の音をもっているということだ。
 たとえば、DL103Sできいたときなど、かなりこまかいところまで、耳をすべりこませることができて、このましいのだが、そこで不足しているもののひとつに、腰のすわった力強いひびきに対しての反応がある。それがさらにこのましくみたされれば、そこで可能なすっきりしたところも、よりはえるのではないか。それに、ここできける音が、総じて明るいことも、このプレーヤーシステムのこのましさとしてあげておくべきかもしれない。

パイオニア XL-A800

黒田恭一

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か クォーツロック・DDターンテーブル18機種をテストする」より

 細い筆でこまかいところを書きこんでいくというより、太い筆にたっぷりと絵具をふくませて書きあげるとでもいうべきか。細部にこだわってきくと、幾分ものたりなさを感じなくもないが、これはこれでひとつの性格と考えるべきではないかと思ったりもする。だからといって、カートリッジの個性を無視して一色でぬりつぶすというわけでもない。それぞれのカートリッジの持味には、それなりに順応する。
 ききながらとったメモの中に、「すっきり」という言葉がまったくなく、「くっきり」という言葉が数多く認められるのが、特徴的だ。このプレーヤーシステムできける音は、敢ていえば寒色系の、そして細身の、つまり「すっきり」という言葉で表現できるものから、遠いところにある。しかし、ここで評価すべきは、ひびきの輪郭をあいまいにしないことだろう。
 太くなったり、重くなったりするものの、あいまいにならない。その点で、ききてを安心させるということはあるのだが、もう少し「すっきり」の要素がほしいと思う。

ダイヤトーン DP-EC3

黒田恭一

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か クォーツロック・DDターンテーブル18機種をテストする」より

 個々のカートリッジに対してよく順応する。ということは、それぞれのカートリッジのよさをひきだす場合もあれば、逆にそれぞれのカートリッジの弱点を露呈することもあるということだ。しかし、いずれの方角をむいているプレーヤーシステムかということになれば、これはあきらかに、すっきりしたひびきをもたらす方角をむいていると考えるべきだ。
 デンオンDL103Sでの結果が、もっともこのましかった。弦楽器のひびきが幾分浅くなるが、ここできけるすっきりしたひびきは、このプレーヤーシステムのよさを示したものといえる。ただ、そこに力強さとか、濃厚なひびきとかを求めることはできない。
 オルトフォンMC20は、おそらく、このプレーヤーシステムがむかう方向とは逆の方向にむかおうとしているカートリッジで、そのために、結果は、思わしくなかった。すっきり、ことさらのこだわりなくきこうとするならシュアーV15タイプIV、少しつっこんできこうとするならデンオンDL103Sということになるのではないか。嫌味のない音をきかせるプレーヤーシステムだった。

ヤマハ YP-D9

黒田恭一

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か クォーツロック・DDターンテーブル18機種をテストする」より

 ヤマハの製品に共通して感じられるものと、このプレーヤーシステムから感じられるものとは、かならずしも一致しない。とりわけ、シュアーV15対VIVとオルトフォンMC20で、それがいえるようだ。なるほど、これはヤマハのプレーヤーシステムだと思えるのは、デンオンDL103Sにおいてだ。しかし、できることなら、デンオンDL103Sと、オルトフォンMC20の中間の音がほしい。デンオンDL103Sでは、スギタルハオヨバザルガゴトシだ。ひびきがかさつきすぎているし、オルトフォンMC20では、ひびきに脂がつきすぎている。
 しかし、さまざまなひびきをブレンドさせるより、分解して示す傾向は、共通してうかがえる。それをこのプレーヤーシステムのキャラクターといっていいのかどうかわからぬが、このプレーヤーシステムを考えるポイントのひとつにはなるだろう。そして、多分、その方向でさらに追いこんで使えば、それなりの魅力を発揮するにちがいない。ここで選んだカートリッジは、このプレーヤーシステムにとって、不運だったかもしれない。

デンオン DP-50L

黒田恭一

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か クォーツロック・DDターンテーブル18機種をテストする」より

 プレーヤーシステムとしての性格を、積極的か消極的かといったようなわけ方をするとすれば、このデンオンDP50Lは、消極的なプレーヤーシステムということができるだろう。しかし、むろん、消極的ということは、よくないということではない。この場合の消極的というのは、ごりおしにならない、音がはしゃぎすぎない、音像が肥大しない──ということで、それは、すっきりした音を望む人にとって、はなはだ望ましいことだと思う。
 とりわけ、シュアーV15タイプIVでの反応は、注目すべきものだったといえるのではないか。たしかにひびきそのものは薄味だったが、音像のひきしまり方など、このましかった。もしこのプレーヤーシステムでつかうカートリッジを、この三つの中から選ぶとなれば、必然的にシュアーV15タイプIVということになるだろう。
 そこでききてに与える印象が、たとえスタティックだとしても、ききてにかなりの音の見通しを可能にするということは、このプレーヤーシステムの美点といっていいように思う。

テクニクス SL-3300

井上卓也

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 基本的には5300シリーズからクォーツフェイズロック方式を省いた製品群が3000シリーズと考えてよい。シリーズ製品は4機種あり、その区別は5000シリーズに準じる。SL3300はフルオートモデルで、モーターに駆動巻線の逆起電力周波数を利用した特殊なB・FGサーボ全周検出方式を採用している点が5000シリーズと異なっている。
 プレーヤーベース、トーンアーム、機能、付属カートリッジは5000シリーズと同等。

パイオニア XL-1650

黒田恭一

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か クォーツロック・DDターンテーブル18機種をテストする」より

 全体的な傾向としては、音をマクロ的にとらえる──ということがいえるだろう。どうやらオルトフォンMC20は、このプレーヤーシステムにあわないようだからはずして考えると、シュアーV15タイプIVでも、デンオンDL103Sでも、共通して、すっきりした音がきけたということが、このプレーヤーシステムのチャーミング・ポイントになるだろう。
 そして、そのいずれにおいても、きつくなりすぎる音が用心深くさけられているということも、注目する必要がある。ただ、音場が、奥にひくより、むしろ横にひろがりがちな傾向があり、それがきいての印象を、平面的、ないしは表面的にするということが、いえなくもないようだ。もっとも、そういうことは、レコードにおさめられている音楽の性格によっては、効果的にもなるわけで、いちがいにはいいがたい。
 音のとらえ方が消極的になりすぎないところがいいが、ひびきの中味がもう少しつまれば、力強い音に対しての反応もさらに充実するだろうし、そうすれば、このプレーヤーシステムの魅力はさらに一層ますにちがいない。

テクニクス SL-5300

井上卓也

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 テクニクスのプレーヤーシステムの特長は、ターンテーブルの駆動方式、モーターの形式、プレーヤーベースの構造などから数多くのシリーズ製品があり、各シリーズのなかに、マニュアル、セミオート、フルオートさらにチェンジャーといった基本メカニズムを共通にしたバリエーションを置いて、非常に広範囲に及ぶ製品を有していることがあげられる。現実にカタログを眺めると製品数が大変に多く、その選択に迷うことがあるが、一度分類の基本がわかれば細かな使用目的を条件にしても好適な機種が得られるメリットがある。
 新しい5000シリーズのプレーヤーシステムは、従来のSL1700/1600/1650にかわるシリーズ製品で、5100がマニュアル、5200がオートリターン・オートストップ、5300がメモリピート付フルオート、5350がチェンジャーで、全てクォーツDD方式である。
 5300は、現代ではすでに標準モデルと考えられるフルオートプレーヤーシステムである。プレーヤーベースは、新音響素材TNRC(テクニクス・ノンレゾナンス・コンパウンド)採用、底ベースも同じ材料を使った2重構造で防振効果が高く、振動の減衰特性が優れている。モーターは、テクニクス独特のターンテーブルと一体構造DD型で、3種の専用ICで構成した電子回路と全周検出FGをもとに水晶発振器を基準としたクォーツフェイズロック方式を採用している。
 トーンアームは、初動感度7mgの軽質量シンバルサスペンション型で、高コンプライアンスカートリッジ使用時にも低域共振は10Hz近くに設定してあ
る。
 機能面では、1〜6回と無限に連続演奏できるメモリピート、プリズム型針先照明、中央のシマ目が正規回転を示す独特の3列ストロボがある。なお、操作は前面操作型で、MM型テクニクス270C付。

サンスイ SR-838

黒田恭一

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か クォーツロック・DDターンテーブル18機種をテストする」より

 よくいえば、カートリッジの性格に順応するというべきだろうが、音を、くっきり、正確に提示するという点で、わずかながら弱いところがあるようだ。プレーヤーシステムとして、妙なくせのないのはいい。ただ、リズムのかった部分で、どうしてもひきずりがちになる。
 ききながらとったメモは、それぞれのカートリッジにつき500字程度ずつ、全体で1500字ほどあるが、それを読みかえしても、共通点をみつけだしにくい。たとえば、木管楽器のきわだつ部分で、シュアーやオルトフォンでは、クラリネットが強調され、デンオンでは、オーボエが強調されるといったようにだ。それはむろん、カートリッジのキャラクターによってのものだが、本来なら、そこにおのずとプレーヤーシステムとしての性格が浮びあがるはずなのに、それがみさだめにくい。
 カートリッジの性格に順応する──というのは、そういうことがあるからだが、しかし、そこでこのプレーヤーシステムなりの一本の筋を通せば、プレーヤーシステムとしての魅力をさらにあきらかにできるのではないか。

ビクター MC-T100

井上卓也

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 インピーダンス30ΩのMC型専用ステップアップトランスである。トランス一次巻線は性能向上のためにタップのない専用設計で、磁気歪を低減する純アルミ製ケースの内部には、2個のトランスを左右独立してフローティングし、配線も左右分離し、機械的振動による混変調歪、クロストークを減らす構造が採用してある。付属のPASSスイッチは、可動片、固定片ともに銅接点を使用し特性変化とロスが少ない。ケース内部の配線材は、音質チェックで好結果が得られた無メッキ銅線、出力コードはトランス側は固定され、先端のプラグ、本体の入力ジャックは金メッキだ。

ビクター MC-2E

井上卓也

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 最近注目を集めているMC型カートリッジのなかでも、発現のメカニズムが大変ユニークな製品として高い評価を得ているMC1に続く、ビクター第2弾のMC型カートリッジの新モデルである。
 発電方式は、タテ型の磁気回路を採用し、カンチレバー先端のスタイラスに近接した位置に取付けられたマイクロコイルを使って発電するビクター独自のダイレクトカップル方式で、MC1で開発されたものだ。
 マイクロコイルは、IC製造技術を応用し、ウエハー(基板)上に蒸着された導体をフォトエッチングしコイル状としたもので、重量も200μgと巻線型コイルにくらべ数十分の一以下と超軽量であり、かつ空芯コイルであるため磁気歪とは関係がなくなる利点をもつ。この超軽量コイルの開発で、カンチレバー先端部にコイルを置くダイレクトカップル方式の採用が可能となったわけだ。この方式は、針先とコイルが近接しているため一体で振動し、特性がフラットで位相遅れが少なく、コイルが針先に近いため、カンチレバー、ダンパーの温度変化の影響が少なく安定した性能が得られる特長がある。
 磁気回路には、サマリュウムコバルト磁石と鉄・コバルト合金のパーメンジュールを使用し、高磁束密度を得ている。
 MC2Eは、周波数帯域を10〜25、000Hzに設定してあるため、針先は特殊ダ円針となっている。出力は0・2mV、針圧は1・5g。

テクニクス EPC-101C

井上卓也

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 同社のトップランクカートリッジ100Cをベースに業務用の使用に耐える高安定型としたタイプが、この101Cである。業務用の過酷な使用条件に対応すべく、ダンパー材には温度変化に極めて強い新材料TTDDを採用。カンチレバーはチタニュウムナイトライドのテーパード型だ。100Cと相互の針先交換が可能であり、本体構造は同等と考えられる。

アルテック A7-X, スレッショルド NS10 Custom, 400A Custom, CAS1 Custom, m1 Custom

アルテックのスピーカーシステムA7XスレッショルドのコントロールアンプNS10 Custom、パワーアンプ400A CustomCAS1 Custom、ヘッドアンプm1 Customの広告(輸入元:エレクトリ)
(スイングジャーナル 1978年8月号掲載)

ALTEC-A7

フィデリティ・リサーチ FR-7

菅野沖彦

最新ステレオ・プラン ’78(スイングジャーナル増刊・1978年7月発行)
「タイプ別本誌特選スピーカー42機種紹介・MMカートリッジ特選3機種4万8千円以上」より

 フィデリティ・リサーチが、MCカートリッジを作ってデビューしたメーカーであることを知らない人はいない。FR1という製品がそれで、その当時、これを聴いた時の感動をいまだに思い出す。その繊細緻密な高音の再生能力と、ふくよかに息づくような豊潤な中低域に、聴き馴れたレコードが一際生彩を加え、愛聴盤のほとんどを聴きなおしたほどだった。その後、このFR1は、幾度かのリファインを重ねて、現在まで、ほぼ10年に近い年月を同社の代表製品として支えてきた。併売されていたMM型には、もう一つ説得力に欠け、作る側自身の情熱の欠如を感じとったのは私だけではあるまい。FRは、やはりMCカートリッジに、ディスク変換器としての理想を求める技術集団だったのではあるまいか……。この事は、今度発売された、このFR7を見て、聴いて、よりー層はっきりした形で、同社の、こうした体質への推理を認識させられたように感じられる。おそらく、このFR7は、FR1の開発とリファインのプロセスの中で育て上げられたMCカートリッジに関するテクノロジーとノウハウの蓄積を成果として現われたもので、その意味では、きわめて長い開発期間を経て来たものであろう。
 FR社の特質は、メカニズムやマシンに対するマニアックな感覚がいつも、その製品に息づいているが、いわゆる通好みの材質感や加工精度のもたらす美が生きている。最近の製品ては、トーンアームのFR64Sがそうで、ステンレス加工の、このアームの魅力は、FRならではのものだ。こうした、機械系の信頼性と、多分、業界随一の長く豊かなカートリッジ作りの経験をもつ同社の社長の情熱が結びついて出来てくる製品には、当然、並のものとは一味も二味も異る風格が滲み出る。
 ところで、このFR7は、昔、FR1を聴いた時のような、ショックを再び味わうことになったもので、その鋭く深い彫像の確かさは、まさにベールをはいだという表現がぴったりのクリアーな再生音である。レコードに刻み込まれた音は、いかなる微細なものも、ことごとく拾い上げる。濁りがなく、僅かな位相差も忠実に再現してくれるので、録音時のマイクの置き方が明確に判別出来るのには驚ろいた。定位のよさと、空間感(フェイズの忠実な変換能力による)の再現は全く素晴しいの一語に尽きる。また、全体に、音の基本的な質感が、きわめてエネルギッシュでたくましい。底力のある低音の迫力は、多くのカートリッジと歴然とした違いを感じるのである。
 それだけにレコードのムードを生かしてくれるという性格を期待するわけにはいかない。録音再生全体のプロセスの相関関係に頼ってムードをかもし出してきたレコード音楽の長年の歴史は、この辺でピリオドを打たれてしまうのであろうか……。見るからに充実感に溢れたこのFR7を前に圧倒されながら、昔によき時代を感じる郷愁の念も否定できずにいるこの頃である。

オルトフォン MC20

菅野沖彦

最新ステレオ・プラン ’78(スイングジャーナル増刊・1978年7月発行)
「タイプ別本誌特選スピーカー42機種紹介・MCカートリッジ特選4機種2万〜3万5千円」より

 同社の最も得意とするムービング・コイル型の最新モデルである。いわゆるSPUシリーズを現代のカートリッジの、ムービング・マスやコンプライアンスを含めて、技術水準でもう一度洗い直し、新設計でつくり上げたものだ。根本的に確かにSPUのもっていたような重厚でエネルギッシュな音とはややかけ離れてはいるが、しかし、さすがに同じメーカーがつくっているだけあって、音のバランスや音の彫琢という点で、やはりオルトフォンのカートリッジだなと思わせるものをもっている。非常に重厚な低音にすばらしい中高域がバランスし、そして、高域の伸びはなんといっても、SPUを超えている。そしてまた、トレーシング能力のよさもSPUの比ではない。それだけに、SPUのもっている骨太のエネルギッシュな質からすると、少々現代カートリッジ的な少々やせぎすな、あるいは、ややつめたいという質感を伴ってくるのは、やむを得ないことかもしれない。だからといってMCくさい音というわけではない。MCとしてよくバランスがとれていると思う。
 SPUから見ると、高域が非常に伸びているため、ハイがサッとさわやかに出てきたという感じがするが、しかし、再生バランスとして決して高域が妙に上がってヒステリックになるというカートリッジではない。ある意味でハイ・コンプライアンスMCカートリッジとしてのブームをつくつたカートリッジではないかと、私は思う。SPUを未だつくり続けている中でオルトフォンとしては現代のカートリッジの製造技術をそこに新たに取入れ、新しいMC型をつくりたかったんだろうと思う。だから、この新シリーズができたのもだいぶあとになってのことだ。今までの
新シリーズはほんとどVMSタイプに代表され、そのラインアップが完成したあとにこのMC20が出てきたのだ。それまてのMCとしてはSPUシリーズのみをずっとつくり続けてきたわけで、その辺にも同社のメーカーの体質が現われていると思う。
 このカートリッジはその意味からも、オルトフォンとしてはかなり検討に検討を重ねて、出してきたMCカートリッジといえる。
 実際に使って、MC20は明らかにMC独特の豊かなプレゼンスを感じることができる。トレーシンク能力やハイコンプライアンスという点では、現代のすぐれたMM型から見ると、多少問題もなくはない。しかし、このカートリッジのもっているムービンク・コイル独特の一種の音のねばり、こういうものはやはりかけがえのないものだと感じる。その意味で、このMC20の存在の必然性ははっきりしていると思うし、現代の高級カートリッジの代表格と言ってもいい製品ではないかと思う。

エレクトロ・アクースティック STS455E

菅野沖彦

最新ステレオ・プラン ’78(スイングジャーナル増刊・1978年7月発行)
「タイプ別本誌特選スピーカー42機種紹介・MMカートリッジ特選3機種2万5千〜3万円」より

 西ドイツのキールにある同社は、カートリッジのメーカーとして非常に古い歴史をもっている。隣の国デンマークのオルトフォンと非常に似た性格をもっていると言ってもいいかもしれない。この会社はMM型のカートリッジの特許をシュアーと二分してヨーロッパでもっているというメーカーで、カートリッジ・メーカーとしてはサラブレッドであるということになろう。このSTS455Eを含むこのシリーズには555、655というッパー・モデル、そしてその下に355、255、155というロアー・モデルがあるが、455はそのアッパー・ミドルという所に位置するカートリッジだ。
 この会社のカートリッジに共通して言えることは、オルトフォンの音にも共通することだが、さらに豊かな、美しいつやとまろやかな味をもっているところが、このカートリッジのよさだと思う。音の質感をわれわれ人間の感覚に快い触感で再現してくれる。決してハーシュな、耳に鋭くキンキンくるような音は再生しない。そういうところにエレクトロ・アクーステイックのカートリッジのよさがある。455は中でも帯域バランスが非常に穏かである。この上の555になると、さらにハイが伸びている。そのため、針圧も、455が1・5グラムに対して、555の場合コンプライアンスが高いために、1グラムというトラッキング・フォースになっている。そういった点からして、555も確かにすぐれたカートリッジではあるが、一般性という意味からすると455が最も使いやすく、しかもハイパフォーマンスの得られるカートリッジだと、自分では位置づけているわけだ。
 私自身が録音したレコードを聴いても、意図した音の質感が忠実に再現されているように思う。自分で録音したレコードがそう鳴るということは、もとの音を知るべくもないほかのレコードについても、おそらくそのレコードのもっている特質をよく再生してくれるであろうという信頼感、そうした物理的な信頼感と同時に、このカートリッジのもっている再生音の肌ざわりが、私の感覚には非常に好ましい状能で、楽器の生き生きした生命感をよく伝えてくれる。さらにプレゼンスというか、ステレオフォニックな立体録音の空気感とでもいうか、こういったものを非常によく再現してくれるし、トラッキングが非常に安定し、音楽表現に生きた血が通うなど、その魅力は沢山見出すことがてきる。
 ということを、引っくり返せば、ある程度鈍感だとも言えなくもないが、しかし、むしろ高度な実用性という点が、ある特定の条件の中でしか好ましい再生音を聴かせないようなものよりはいいと思う。こうした点から、エラック(エレクトロ・アクーステイック)のSTS455Eは現在のMM型カートリッジの中で、私が非常に好ましいと思うものの一つに入る。もう少しレコードその他の扱いで神経質になれるマニアの方なら、555をお使いになるのもたいへんにすばらしいと思うが、しかし、現実にはレコードをはれものにさわるように、ほこりが一つもつかないよ
うにという管理は、実験室内ですらなかなかできることではない。そういう点ではこの455の方が安定していると思うし、同シリーズ中のベスト・カートリッジと考えている。

オルトフォン FF15E MkII

菅野沖彦

最新ステレオ・プラン ’78(スイングジャーナル増刊・1978年7月発行)
「タイプ別本誌特選スピーカー42機種紹介・MMカートリッジ特選4機種2万円未満」より

 オルトフォンは確かにカートリッジの専門メーカーであることに間違いないが、実際にはレコードをつくるカッティング・マシン、メッキ・システムなど、すべてレコードのマニファクチァリングのファシリティーをつくっているメーカーである。従って、レコードのことについては非常によく知っているわけである。
 そういうメーカーであるから、そのメーカーが開発するカートリッジが非常にすばらしいということは充分納得のいくことでもある。また、オルトフォンのカートリッジはあらゆるカートリッジ・メーカーの一つのお手本になっていると言ってもいい。
 そのオルトフォンが、ステレオLPレコード時代に入り、MC型のSPUシリーズでたいへんな好評を得、そして、さらにワイドレンジに製品のバリエーションをつくった。従来のMC型は生産効率も悪く価格も高いということから、大きく言えばMM型の一部に含まれる、つまり、コイルを動かす方式ではなく、オルトフォン独自のVMS(バリアブル・マグネティック・シャント方式)という、インデュースト・マグネットに近い方式の製品も手がけるようになった。その中でFF15EMKII、もちろんMKIIになる前はただのFF15Eだったが、普及クラスの価格の中できわめて品質の安定したカートリッジとして登場したものだ。
 このシリーズの中には、F15、FF15、さらにその高級版にはVMS20Eといったバリエーションがあるが、これらは基本的にはほとんど違わず要するに、非常に効率よく生産的につくっているということで、F15、FF15の実力は、実際のところ高級品VMS20Eなどとそう大きくは違わない。ただ、つくりやすくしているために、多少ムービンク・マスなどが大きい。そのために高域の特性がVMS20Eに比べ、それほど高いところまで伸びていないが、しかし、実際に使って音を聴いてみると、そのバランスのよさと使いやすさという点では、全く何の不足もないと言っていい。
 実際、1万円を切る値段の輸入力ートリッジで、これだけの信頼性とすばらしい音を聴かせてくれるカートリッジは、そうざらにはないだろう。
 そういう点で、オルトフォンという一つのすばらしいカートリッジの専門メーカーのブランド・イメージが、使う間にプレステージとして働きかける満足感のみならず、その満足感と相まって、実用的なパフォーマンスも非常に高いということが言えると思う。
 オルトフォンのサウンドは従来から一貫したバランスをもっており、私たちはそれをよくピラミッド型の音のバランスと言っているが、非常にしかっかりした重厚な低音にささえられ、その上に三角形のバランスのとれた帯域バランスをもっている。このFF15Eもそうしたバランスをいささかも損ねていない。具体的に言うと、非常に鮮明な音のするカートリッジで、その点でウォームな音のするカートリッジのグループとはやや趣きを異にするというのが、このカートリッジの持ち味であり、MM系に属するカートリッジ・グループの中では、やはり非常にすばらしいカートリッジだと言わざるを得ない。
 不思議なことに、メーカーそのものは意識をしていなくても、デンマークのオルトフォンという会社の体質が明らかに残っているということは、やはりこのカートリッジの存在の必然性をわれわれに感じさせる。