Category Archives: アナログプレーヤー関係 - Page 21

ゴールドバグ Medusa

井上卓也

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ユニークなMC型カートリッジメーカー、ゴールドバグから、最初の製品クレメントにつづき、第2弾製品としてメデューサが発売された。テーパー型アルミ合金パイプと鉄芯にコイルを巻く振動系をもち重量が5・6gと軽量な特長はクレメントと同じだが、インピーダンスが10Ω強と約60%低くなり、出力電圧が0・2mVと2倍になっていることがメデューサの特長だ。
 粒子が細やかで、滑らかな音をもつクレメントにくらべると、メデューサは、音に活気があり、フレッシュさが特長だろう。聴感上の帯域はストレートに伸び、ローレベルでの切込みがクリアーであるためにMC型ならではの繊細さと、独特なデリケートさのあるグラデーションの豊かさがこの製品の魅力であろう。

オーディオテクニカ AT24

井上卓也

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 AT25/23に代表されるオーディオテクニカのVM型のトップモデルは、シェル一体型の構造を採用している点に特長があるが、今回、発売されたAT24は、AT25を単体化した新製品だ。
 カートリッジボディは、シンプルにデザインされた剛性が高い金属製で、小型な外見ではあるが8・2gの重量がある。振動系は、直径0・3mmのペリリウムパイプと2本のマグネットを使うVM型で、パーマロイ薄板をラミネートしたリングコアに直接無酸素銅線を巻き、左右チャンネルのセパレーションを向上するセンターシールドプレートをもつ、トロイダル発電系ともども、AT25とまったく同様である。交換針は、ネジで確実にボディにクランプする方式で、これも、AT25と共通のATN25を使用する。

テクニクス EPC-207C

井上卓也

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 比較的に入手しやすい価格帯を対象として開発されたMM型の新製品である。振動系は実効質量が小さく、コンプライアンスが大きい設計で、カンチレバーには高強度アルミ合金パイプを使用し、マグネットは棒型で、ダンパーはリング状のスタビライザーを採用した新しい支持構造が使われている。針先はダエン針で、針圧は1・75gとやや大きく、フルオートプレーヤーを含めた広範囲の使用を目的とした製品である。

テクニクス EPC-205CMK3

井上卓也

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 テクニクスカートリッジの中心モデルともいえる205CIIシリーズは、従来からも広い周波数帯城と低歪なカートリッジとして高い評価を得ているが、今回、新素材と新技術が導入されて、一段と高性能化されたMK3となって発売された。
 EPC205MK3は、シェル一体構造のモデルであり、EPC−U205CMK3はカートリッジ単体のモデルである。
 発電方式はMM型であるが、構造的には、205CIIシリーズとはまったく異なった新方式が採用されている。カンチレバー材質は純ボロンパイプを採用し、微小化、軽量化がおこなわれ、振動子実効質量は0・149mgで、80kHzにおよぶ超広帯域を得ている。磁気回路は、HPFコア使用の新しいブリッジ・ヨーク構造で、振動系にヨーク部をもつ特長がある。なお、ダンパーには温度変化による特性変化を抑えたTTDD、振動子磁石にはサマリウムコバルトの円板型磁石、ワンポイント支持方式などは従来型を受継いでいる。

テクニクス SL-Q3, SL-Q2

井上卓也

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 テクニクスのプレーヤーシステムは、幅広い価格帯にわたり、ベーシックモデルを中心として、これに各種のオート機能を加えた数多くのバリエーションモデルがあり、ほぼ、すべての需要に対応できる。いわば、フルチョイスの製品群をもつことに特長がある。
 今回、発売されたクォーツQシリーズの2機種は、4万円台のもっとも多くの需要者層をもつ価格帯におかれた新製品だ。
 基本的な構成は2機種とも共通であるが、機能面で、SL−Q3がメモリーリピート付フルオート型、SL−Q2がオートリターン型の違いがある。
 デザイン面では、このところプレーヤーシステムの主流となっている前面操作型がこのシリーズにも採用され、テクニクスのプレーヤーシステムの特長ともいえる長方形のジンバル支持型軸受をもつトーンアームにテクニクス製品らしい雰囲気がある。
 ターンテーブルは直径31・2cmのアルミダイキャスト製で、ローターが組み込まれた独特の構造をもつブラシレスDCモーターで、ダイレクトに駆動される。このモーターの制御方式は、2個の専用ICを使った水晶発振器を基準とするフェイズロック方式で、モーターには全周検出FGが組み込まれており、回転偏差は、±0・002%以内におきまり、起動トルク1kg・cm、起動時間は33回転時に0・9秒という値を得ている。
 トーンアームはS字型パイプをもったスタティックバランス型で、アーム実効長230mm、付属シェル使用時のカートリッジ自重範囲は、6〜9・5g、針圧調整範囲は0〜2・5g針圧直読型である。アームの軸受は、水平回転軸と垂直回転軸の軸心が一点で交差するジンバル型サスペンション構造が採用され、回転部分はピボットとボールベアリングにより4点で支持され、水平と垂直方向の感度が高く、摩擦抵抗が少ないため水平、垂直ともに初動感度は7mgという値を得ている。
 付属のカートリッジは、テクニクスを代表するMM型カートリッジ、205CIIシリーズと同様な発電ユニットを採用した新開発の207Cで、トレース能力が高く、コンプライアンスの大きい設計で、新しいダンパー支持構造、ダエンダイヤ針採用などに特長がある。
 プレーヤーベースはアルミダイキャスト製で、底板部分は防振効果が高いTNRC(テクニクス・ノン・レゾナンス・コンパウンド)を採用し、この材料はアルミダイキャスト上面部にも使われ2重構造となっている。インシュレーターは、バネと粘弾性体を組み合わせたタイプで、アルミダイキャストのベースに直接取付けてある。
 操作系は、電子コントロールのソフトタッチスイッチによる前面コントロール方式で、メカニズムの作動音は十分に抑えられている。なお、ストロボスコープは水晶発振器と同期したLED照明である。

サンスイ FR-Q5, FR-D4K

井上卓也

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 サンスイのプレーヤーシステムは、伝統的に機械的な構造がリジッドであり、つねに、オート機構をもつモデルも用意されていることに特長がある。
 今回、新しく発売された2機種のプレーヤーシステムは、ともにフルオート機能を備えたモデルで、FR−Q5は、駆動用のモーターが水晶発振器を基準とするPLLサーボ・ブラシレスDC型、FR−D4Kが、ブラシレスDC型を使用するという違いがある。
 ターンテーブルは、直径30cmのアルミダイキャスト製で、バイアス方式過飽和磁芯型位置検出機構を内蔵した20極・30スロットのブラシレスDCモーターで駆動される。FR−Q5では、これにターンテーブル外周部の内側に磁性体を吹付けて着磁した高密度磁気信号を検出用磁気ヘッドから得て周波数(FG)信号として使う磁気記録検出方式とクォーツロックPLL方式が組み合わされ、FR−D4Kでは、ステーターに組み込まれた速度検出コイルにより速度比例電圧をとりだし、基準電圧と比較するサーボ方式が採用されている。とくに、FR−Q5に採用された磁気記録検出方式は、定速回転時の過渡応答性、負荷変動に対しての回転偏差、回転偏差が生じた場合の再安定に要する時間の短縮などですでに定評が高く、中級機以上の製品には数多く採用されているが、従来のSR838に採用されていたような光学式に替わりサンスイ製品では、最初の採用であろう。
 トーンアームは、1978年11月の第61回AESで発表されたダイナオプティマムバランス方式を採用したS字型パイプをもつスタティックバランス型である。この方式は、カートリッジの針先が受けたレコードからの信号や振動が、アーム全体あるいは軸受部分を振動させ、この歪んだ振動が再び針先に影響を与え、カートリッジの出力に振動信号が混入することを防止するためのもので、針先に対してアームの動的な最適支持点を求めることで解決している。
 また、このアームは、アームベース下部にオート動作用の駆動DCモーター、クラッチが組み込まれ、マイクロコンピューターを採用した電子ブロックからの信号によりトーンアームを上下、左右に駆動する。電子ブロックは、基本動作を記憶し、スムーズで確実に動作させるプログラムと数々の異常動作のプログラムをも記憶して各センサーからの情報を整理し、判断をする。
 オート機構は、ストップを最優先としたプログラムで動作をし、演奏中を含め全ての動作中にストップボタンを押したり、動作中にアームに触れたり、スタートボタンを押してもアームはレストに戻り動作はストップするなど、多重動作の電子的安全機構を備えている。
 付属カートリッジは、米エンパイア社製MI型。2機種ともにオート動作は電子制御らしい確実さと応答速度をもち、活気のある伸びやかなサウンドが特長だ。

ダイヤトーン LT-5V

井上卓也

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ダイヤトーンのプレーヤーシステムは、昭和51年に電子制御のECフルオートプレーヤーを開発して以来その性能、機能、操作性の優れたメリットが認識され、国内はもとより、海外でも高い評価をえて、オートプレーヤーのひとつの方向を示しているが、今回は、このECプレーヤーの技術をベースとして、いわば、プレーヤーのコペルニクス的転換ともいえる、レコードを垂直に保持して使うユニークな方式を開発し、世界に先駆けて発売することになった。LT5Vはカートリッジレスで、LT5VCはカートリッジ付である。
 垂直型を採用したメリットは、設置場所の制約が少なくなったことをはじめ、トーンアームにリニアトラッキング方式を必要とすることによって得られるアームの慣性質量の低減、水平トラッキングエラーによる歪率の改善などの他に、床からの振動に対してカートリッジの感度がなく耐ハウリング性が非常に強い。また、カートリッジの自重による針圧変化が少なく、気軽にカートリッジ交換が可能など数多くの、このタイプならではの特長をもつ。
 フォノモーターは、現在のDD型が横位置では軸受が焼付くため使用不能で、PLL・DCサーボモーターによるベルトドライブ方式が採用されている。モーターからの動力は、キャビネット内部に軸受をはさんでターンテーブルと相対的に位置し、バランスをとった大型フライホイールにベルトで導かれる。このダブルフライホイール構造により、総重量は2kgを超す。レコードの保持は、特殊カーブに凹んだゴムマットと腕木状に移動するステーの中央に取付けてあるホルダー兼スタビライザー内部のスプリングで安定に支持することが可能。
 トーンアームは、ステンレスパイプ使用の垂直、前後、左右方向のバランスをとったユニバーサル型のスタティックバランス方式で、アームベースは、2組の光センサーによるサーボシステムにより、専用モーターで精密仕上げのステンレス棒上を、0・05mm×49本のステンレスワイヤーで駆動される。トラッキングエラーは0・1度以内に収まり、一般のタンジュンシャル型の約2・5度と比較すれば格段にトラッキングエラーによる歪は少ない。
 オート機能は、専用LSIを使う光学式無接触型のレコードサイズ検出、オートスタート、オートストップ、回転数の自動選択などの数多くの特長をもつECフルオート方式で、動作は節度があり、しかも、確実に、敏速に動作をする特長がある。操作は、ソフトタッチのスイッチで振動の発生が抑えられ、トラッキング誤差表示、回転数、リピートなどはオプティカルディスプレイに表示される。脚部を外して本体奥行15cmと薄く壁掛け可能なLT5Vは、各種カートリッジの音色を素直に引出し、リニア型特有の広い音場感とシャープな音像定位が聴かれ、その基本性能は同価格帯の在来型以上に高い。

マランツ Tt1000, Tt-7

井上卓也

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このところ、プレーヤーシステムの分野では高価格帯の重量級プレーヤーシステムが各社で開発され、次々に発売されることが目立った傾向となっている。
 今回、マランツから発売されたTt1000は、昨年秋の全日本オーディオフェアに出品された、プレーヤーベースやターンテーブルマットに高密度ガラスを採用した高性能マニュアルモデルであり、Tt7は、Tt1000に採用されたトーンアームと共通なストレート型アームを備えたクォーツロックPLLサーボ方式のダイレクトドライブ型フルオートモデルである。
 Tt1000は、マランツのプレスティッジシリーズの製品に新しくつけられた、ESOTECの名称をもつ最初の超高級マニュアルプレーヤーシステムである。
 まず、最大の特長は、プレーヤーベースの構造材に硬質ガラスが極めて高密度であることに着目をし、質量が異なる物質をサンドイッチ構造とし、振動エネルギーを熱エネルギーに変換し、振動の伝達を速断するという理論のもとに、ガラス(15mm)+アルミ(8mm)+ガラス(15mm)を3重構造サンドイッチに積層したソリッドベースを採用している点にある。
 ターンテーブルは、重量2・7kgのゴールドに着色されたアルミダイキャスト製で、ターンテーブルマットには、厚さ5mm、重量500gの硬質ガラス板を採用している。これは、従来のターンテーブルマットが内部損失が大きいゴムに代表される材料を使い、振動を吸収する目的であったことに対して、マットは振動を吸収するものではなく、振動そのものを受けつけない構造にするという構想によるものとされている。この考え方は、むしろ、振動を伝達しやすくし、まずマットとターンテーブルのマスで熱エネルギーとし、次に軸受を経てモーターを含めた重量が大きいプレーヤーベースで吸収するといったらよいだろう。
 モーターは、起動トルク1・66kg・cmクォーツロックPLLブラシレスDC型で、0・5秒で定速に達し、電磁ブレーキ内蔵である。なお、電源部は、電磁誘導を防止するために外部に独立したパワーサプライユニットをもつタイプである。
 トーンアームは、専用の挿入式面接触型のシェルを採用したストレートパイプのダイナミックバランス型で、カートリッジのコンプライアンスに応じてアーム実効質量をコントロールする付加ウェイトがストレートパイプ部分に取付可能である。アームベースは重量級のアルミ削り出しで、偏芯したアーム取付穴をもつため、これを回転すれば実効長230mmまでの他のアームを取付けできる。この場合にはプレーヤーベース左奥の45回転アダプター設置場所の加工済みの穴に付属アームを取付け、2本のアームが使用可能となる。スタート、ストップ、回転数切替はベース前面のフェザータッチスイッチで操作をする。なお、電源スイッチは電源部にある。

ジュエルトーン MP-50J, No103J

ジュエルトーンのカートリッジMP50J、アクセサリーNo103Jの広告
(スイングジャーナル 1979年7月号掲載)

MP50J

ゴールドバグ Clement

井上卓也

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このところ、カートリッジの分野では、各メーカーから続々とMC型の製品が登場してくることが目立った傾向となっている。ゴールドバグは小規模なメーカーらしいが、クレメントの完成にはアンプ設計者として著名なJ・ボンジョルノ氏が関与していることに特長がある。発電方式は巻枠に鉄芯を使うタイプで、コイルは15ミクロンの銅線で16Ωの抵抗値をもつ。カンチレバーはテーパー型アルミ合金パイプ製で高域共振周波数は40kHz。自重が5・6gと軽いことが特長である。

ソニー XL-44(B), XL-40, HA-50

井上卓也

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ソニーのカートリッジは新発足のソニーサウンドテック株式会社に移管されたが、その第一弾製品として7種類の新製品が発売された。今回は、そのうちMC型とMM型のカートリッジとMC型用ヘッドアンプを試聴することができた。
 MC型カートリッジXL44は、ブラック仕上げのXL44Bも用意されるというユニークなモデルである。発電方式は独自の8の字型空芯コイルを2個組み合わせたプッシュプル動作によるもので、巻枠となるアーマチュアは、どの方向にも動きがスムーズな円形であり電気的、機械的にバランスの優れた振動子としている。発電部は箱型構造の共振が少ないアルミダイキャスト製のヘッドシェルにダンプして組込んだシェル一体型を採用し、レコード盤面側のモールドが鮮やかなバイオレットに採色されているのがユニークである。
 XL44は、腰が強くソリッドな低域をベースとした安定感のある音が特長である。レスポンスは滑らかにコントロールされ、中域のエネルギー感も十分にある。
 MM型カートリッジXL40は、既発のXL45IIに最新の技術とノウハウを盛込み、大幅にコストダウンを計った新製品である。振動系は独自のカップ型ダンパーとテンションワイヤーの採用で振動支点を明確化し、ヘッドシェルは、XL44同様の箱型構造のアルミダイキャストシェルに組込む一体化防振構造であり、スタイラスホルダーは本体にネジ止め構造、本体のコイルには無酸素銅線採用。また、シェル内部配線はウレタン被覆リッツ線を使用するなど超高域まで伝送特性を伸した設計となっている。
 XL40の音は、音色が暖かく明るいタイプで、厚みがあり安定した豊かさが特長である。
 MC型カートリッジ用ヘッドアンプHA50は、既発売のHA55を受継いだ新製品である。入力はコンデンサーのない直結方式で、低域の位相回転がない。ゲインは26dB、周波数特性は6Hz〜1MHzと広帯域型であり、最大許容入力は100mVと高い。信号系は一切配線がなく、すべてプリント基板上で処理され、電源は定電圧型。スイッチ切替時のポップノイズ防止用のグランドショートタイプのミューティング回路を内蔵している。

アントレー EC-15

井上卓也

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 MC型専業メーカーとしてユニークな存在のアントレーから第3弾製品としてEC15が発売された。2重パイプ使用のステップドテーパーカンチレバー、高精度な粉末冶金法によるEU材の成型ヨーク、カーボンファイバー強化のボディなど新技術が応用され、高性能でローコスト化を実現している。昇圧トランスET100と組み合わせたEC15は、音の輪郭がシャープで活気があり、クリアーで、透明感があるハイクォリティな音を聴かせる。

オーディオテクニカ AT-30E/G

井上卓也

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 カッターヘッドと相似形の動作をする独特なVM型カートリッジで定評があるオーディオテクニカには、デュアルムービングコイル型と名付けられたMC型カートリッジのシリーズがあるが、今回、新しくAT30E/Gが加えられた。
 新モデルは、従来のタイプとはV字型のコイル配置が逆になり、VM型と同様にレコード盤面と反対方向に取付けてあるのが特長で、これによりスタイラスノブをVM型同様に抜き挿しして針交換を可能としている。コイルは低損失銀銅線、磁気回路はサマリウムコバルト磁石使用で出力電圧は0・4mVと高い。また、オーバーハング微調整可能なアルミブロックQダンプシェルに取付けてあるのも特長。AT30E/Gは、MC型としてはダイナミックで力強い音をもちフレッシュな音が魅力である。

サテン M-117G, M-18G

井上卓也

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 空芯スパイラルコイルとゴムダンパーを使用しない独創的な発電方式と超精密工作で定評が高い、ユニークなMC型カートリッジをつくるサテンから新しくGシリーズの新製品が発売された。
 Gシリーズは、サテンで開発された 『音をこわさないステレオ』創りの技術に基づいて完成された製品で、サテンのトーンアームAR1、プリアンプPA1、メインアンプMA1、スピーカーシステムSP1など一連の製品と組合せて本来の性能を100%発揮するように作られているとのことだ。新シリーズは現在、M117G、M18G、M18GBなど5モデルがあり、外見上ではM117やM18と同様に見えるが、サテンのトーンアームからスピーカーシステムまでの一連の製品の完成によって、一段と音をこわす箇所を厳密に取除くことが、可能になったようで、この原因は一般におこなわれている動的歪やスルーレイト等を含め、非常にレベルが低く測定不能の領域のものと発表されている。
 今回は、M117GとM18Gを従来どおりのステレオサウンド試聴室のシステムを使って聴いたが、ともにローレベルの再生が明瞭であり、直線的に伸びる音の立上がりがシャープな見事な音をもっている。とくに、M18Gは一段とリアリティが豊かで格調が高く、昇圧トランスなどを必要としない高出力型MCカートリッジならではのダイレクトな音である。

グラド Laboratory Tone-Arm

瀬川冬樹

ステレオサウンド 50号(1979年3月発行)
特集・「栄光のコンポーネントに贈るステート・オブ・ジ・アート賞」より

 古いカタログを探し出してみると GRADO LABORATORIES, INC. 4614 Seventh Ave. Brooklyn 20, N.Y. 価格は$39.50. とある。
 LP以後のアメリカのオーディオ機器のいわば第一期黄金時代というべき一九五〇年代。そのピークを飾ったマランツのアンプの全盛の頃、グラドは、ピックアップの分野でいわばマランツ級の超一流の評価を得ていた。それば単に性能の優れていたばかりでなく、デザインや仕上げが、複雑で洗練されていて、製作者の教養を感じさせる品位の高さがある。
 グラドは、モノ時代から主材に銃床(ガンストック)用のきわめて堅固なよく枯れたウォルナットを削り出した、流麗なスタイルのアームを作って、我々をびっくりさせた。無理のない美しい曲線が、極上のウォルナットの質感をよく生かして、見ただけで欲しくなるアームだった。ステレオ時代に入って、ラボラトリー・トーンアームと名づけて軽質量化したのが写真のアームで、モノ用よりもスリムになって、いっそう洗練の度を加えた。ウォルナットの地肌に、地色のままのアルミニウムの艶をおさえた白。メインウェイトの支持部とラテラルウェイトは支持部とラテラルウェイトは真鍮にブラッククロームメッキ。アーム根元のベースは、硬質ゴムを機械加工しているが、わざと平面でなく厚みをかえていて、取付後に回転させながらアームの水平を調整するという素晴らしい着想。アームレストにはマグネットキャッチが仕込んである。
 構造はダイナミックバランス型で、針圧は付属の針圧計による点は、当時の他の大半のアームと同様だ。カートリッジはテフロン製のスライドにとりつけて、先端部のネジでしめつける交換式。
 ステレオ初期の設計なので、針圧2グラム以下ではやや感度が鈍るが、たとえばオルトフォンSPUなど、3グラム以上かけてよいカートリッジなら、こんにちでも、上質のウッドアームのよく制動の利いた緻密な音質を楽しむことができる。

SME 3012

瀬川冬樹

ステレオサウンド 50号(1979年3月発行)
特集・「栄光のコンポーネントに贈るステート・オブ・ジ・アート賞」より

 SME3012は、いわゆる16インチLP用のロングサイズアームだが、これが同社の最初の作品で、一九五九年に発売された。当時はナイフエッジを支える軸受部が、のちにSMEの形を特長づけた例のオムスビ型の成型品ではなく、おそらく適当なサイズの金属パイプを輪切りにしただけで、いかにも生産量の少なさを思わせる。ヘッドシェルには、MADE IN DENMARK の刻印の入ったオルトフォンG型シェルを、ネームプレートだけSMEに貼りかえて流用していた。このオルトフォン型のプラグインコネクターを採用したことが、その後の、ことに日本のアームに大きな影響を与えたが、当初の製品はアルミニウムでなくステンレスパイプに制動材をつめていた。インサイドフォースキャンセラーもまだついていない。メインウェイト(バランス用)は、ヘッドシェル30グラム以上に対応できるよう大型で、ライダーウェイト(針圧加圧用オモリ)も、二分割できて、二個重ねると最大5グラムまでかけられる。G型シェルはカートリッジの取付位置を修整できないから、カートリッジ交換にともなって針先の位置の違いを修整するために、アームベースを前後にスライドさせる。軽針圧でのアームの操作の安全のために、油圧式のアームリフターが考案されている──というように、それ以前のいかなるアームよりも根本の動作原理を正しく解析し、正しいしかもユニークな解答を与えた点がSMEの大きな功績で、このことが、やがて軽針圧時代を迎えた世界じゅうのピックアップに、どれほど大きな影響を及ぼしたか測り知れない。
 いま考えてもふしぎなことは、オルトフォンがSPUを発売した一九五九年に、いち早くエイクマン(SME社長)が殆どそのSPUのための精密アームを仕上げている点だ。だが、その後シュアに転向して、徹底的に軽針圧を追求するようになるのもおもしろい。それにしてもSMEは、ふつう言われているユニバーサルアームではなく、一個のカートリッジに対して、特性を徹底的に合わせこんでゆくというのが、本来の思想であることを、蛇足ながら申し添えたい。

EMT 927Dst

瀬川冬樹

ステレオサウンド 50号(1979年3月発行)
特集・「栄光のコンポーネントに贈るステート・オブ・ジ・アート賞」より

 原形はR80と呼ばれ、なんと一九五三年に完成している。すでにフレーム(シャーシ)やターンテーブルの構造は、927と殆ど同じもので、少量(50台といわれる)が供給されたが、これをもとにEMT927シリーズは出来上った。
 ♯927は大別して三つのパートから構成される。第一に、直径16インチの超重量級ターンテーブル。これを支えるシャフトは、直径約20ミリ、長さは軸受部に入っている部分だけでも約160ミリ。材質は吟味され、高い精度の加工と入念な焼入れによって、数千時間を経ても摩耗を生じない。軸受中央部には、容量約23ccの油槽があって、シャフトの一部に油漬けになっている。
 ターンテーブルを駆動するのは、スタジオ用テープデッキのキャプスタンモーターとほぼ同等の大形シンクロナスモーター。回転中に手を触れても、僅かの振動も感知できないほどダイナミックバランスが完璧だ。この静粛かつ強力なモーターで、慣性モーメントの大きなメインターンテーブルにリムドライブで、強力な回転エネルギーを与える。
 メインターンテーブル上には、プレクシグラス(硬質プラスチック)または硬質ガラスのサブターンテーブルが載る。ガラスの載ったものが927D(ステレオ用は927Dst)。いま日本で流行のガラスターンテーブルは、EMTがとうの昔にやっている。
 プレクシグラス製のほうは、930シリーズ同様、ブレーキによってサブターンテーブルの外周をおさえてスリップさせ、クイックスタート/ストップができる。これはリモートコントロールもできる。Dタイプは、ガラスのためこのメカニズムは使えない。
 ただしDタイプは、センタースピンドルにわずかなテーパーがついている。このスピンドルはバネで支えられていて、付属のセンターウェイトを載せると、ゆるく沈み、レコードをあいだにはさむ形──というよりターンテーブル上に貼りつけたように固定する。ガラスターンテーブルとエラスティック・スピンドルはD型だけの特徴だ。
 第二の部分は、TSD15に代表されるEMTカートリッジと専用のアーム。アームをコントロールするリフターがたいへん素晴らしいメカニズムで、オイル又は空気でダンプなどしていない直結型だが、手前のレバーを上下させる指の感触と、アーム(針先)の上下動の速さとが感覚的にみごとに一致していて、あたかも針先をじかに指でつかんで操作するかのような一体感がある。
 もうすとつはオプティカル・グルーヴ・インジケーター。右手前の細いすりガラスの窓に、ミリメートルスケールの精密目盛が刻まれている。スケール上にはタテに一条の細いライトビームが焦点を結ぶ。アームに移動にともなって、この光条は右から左に移動して、針先(音溝)の位置を知らせる。このスケールはオプションで、とりつけたものを927Aと呼ぶが、後述の927Dになると、スケールは四倍に拡大され、レコードの芯ブレや溝の送りの荒さまでが精確なミリメートル値で読みとれる。この部分だけでも、ちょっとした精密光学機器だ。
 第三は、スタジオ用ターンテーブルの常識として、ライン出力まで増幅するイコライザーアンプと、その電源が内蔵されていること。電源部には、リモートコントロール用のリレーも含まれる。
 927シリーズは元来モノフォニック時代の製品だったが、のちにステレオアンプが組込まれ、927st、927Ast、927Dstの3機種が追加された。
 この927シリーズを原形として、12インチLP専用にモディファイされたのが930シリーズだが、こちらにはガラスターンテーブルはつかない。また、フレームは(一見しただけではよくわからないが)927のような金属の鋳物ではなく、ガラス繊維入りの強化プラスチックになっている。アームもちがう。これらの相違のせいか、同じTSD15をつけても、まるで格の違う音がする。私はいまだ927以上の音のするプレーヤーを知らない。

T.T.O. R-12

瀬川冬樹

ステレオサウンド 50号(1979年3月発行)
特集・「栄光のコンポーネントに贈るステート・オブ・ジ・アート賞」より

 東京テレビ音響──といっても秋葉原のテレオンとまちがえられそうなほど、このメーカーを知る人はもはや少ないが、ティアックの前身、といえばわかりが早い。いまやテープレコーダーの専業メーカーとして名高いこのメーカーの最初の作品は、しかしディスク・ターンテーブルであった。型名をR12というリムドライブ型2スピードで、78/33がR12A、45/33がR12B。駆動モーターをインダクションでなくヒステリシスシンクロナスにしたものが、それぞれR12HA、HB。発表は昭和28年末だが、一般への発売は翌年に入ってからだった。当時、不二家の電蓄用リムドライブか、アカイのC3,C5ぐらいしかまともなモーターのなかったところへ、このプロフェッショナルタッチの本格的ターンテーブルの出現はショッキングで、私は吉祥の外れにある工場までこれを買いに行った。二年ほど後にこのターンテーブルはヤマハに買収され、GKデザイン研究所の手でリファインされて、KT1,KT1Hの名に変るが、ともかく、日本のLP初期にこのターンテーブルの果した役割は大きい。かつて日本電気音響KK(現DENON三鷹工場)で、NHK納入用はじめ本格的なプロ用機器の設計技術陣の中心人物であった、谷勝馬、阿部美春、井上丘氏らの作品なのだから、設計が良いのは当り前。

組み合わせ型プレイヤー

瀬川冬樹

別冊FM fan No.21(1979年3月発行)
「メーカーメイドプレイヤーに満足できない読者のために組み合わせ型プレイヤーを考える」より

メーカーメイドプレイヤーに満足できない読者のために
組み合わせ型プレイヤーを考える

 DDプレイヤーの出現で、ディスク・プレイヤーの性能に疑いを抱かなくなってしまってから久しい。多くの人たちがあの軽い30センチ径のLPを、1・5グラム前後といった超軽量の針圧でトレースするのだから、ダイレクトドライブ、クオーツロックのフォノモーター(ターンテーブル)の性能は、レコードを定速で円滑に回転させという目的からは、もう十分以上であると、大多数の人々が思い込んだのも無理もない。
 ところが誰いうとなく、いまのDDモーターの性能はほんとうにこれでよいのか、現在のディスク・プレイヤーは、レコードに刻まれた音の忠実な再現という面からみて、ほんとうにももう十分なのか、といった疑問がここ数年来投げかけられはじめた。
 たとえば、ターンテーブルとレコードのあいだにあるゴムのシート(マット)を、別のものに交換してみると音色が変わる。ヘッドシェルやアームを交換しても音が変わる。いやヘッドシェルやアームはそのままでも、接続してあるコードを交換してみるとそれでも音が変わる。フォノモーターをとりつけてあるベース(キャビネット)を補強すると音質が良くなる……。要するに、メーカーサイドであまり重視してなかった(あるいはメーカー自身では知っていても、本格的に対策を講じれば非常に高価になるため、できなかった)ような部分に、アマチュアたちが気づいてしまった。
 そして、かんじんのターンテーブルも、レコードの溝に刻まれた音のエネルギーは、想像をはるかに越えるほど強大なもので、実際に針先がレコードをトレースする状態では、力の弱いモーターでは問題が生じるらしいことも、少しずつわかりかけてきた。
 このことは、アンプやスピーカーやチューナーや、レコードの録音といった周辺の性能の向上にともなって、いっそう問題視されはじめ、昨年秋の全日本オーディオ・フェアあたりをきっかけにいくつかのメーカーが、それまではアマチュアがいわばバカげた道楽でしか作らなかったような、超ド級のプレイヤーの試作品を、それぞれに発表しはじめた。
 たまたま今回の規格で、それらの試作品あるいは製品のうちのいくつかを実際に聴いてみようということになった。中でもかなり興味を持ったのは、トリオが〝原器〟と(いささか大げさに)名づけた試作機で、これは、いまのところたった一台。重量が約150kgというものすごい作品で、同社の中野会長のお宅にあるということなので、拝聴に参上した。会長邸には、私も使って最も信頼している西独EMTのプロ用プレイヤー927Dstがあるので、比較もしやすい。そして、このほかにマイクロ、エクスクルーシヴ(パイオニア)、及びサエクを、それぞれ自宅に借りて試聴した。
 中でも、トリオの試作機とマイクロの糸ドライブ(これは市販する製品)は、音質の良さでは印象に残った。各社とも、サンプルがまだわずかしかないため、試聴の翌日にもうわが家から引き上げて行ったが、マイクロは、返すのが惜しいくらいだった。
 これらの試作品は、アンプやスピーカーの発展の影に埋もれていたプレイヤーの音質向上にいろいろな角度から光りをあてて、問題提起をしているといえる。その、プレイヤーの音質上の問題とは、どういう部分にあるのか、それを、十分とはいえないが以下に考えてみようというわけである。

PART1
試聴編
国産、海外最高級プレイヤー・システムを試聴して、プレイヤーの問題点を探る

 今回のこの話をするに当たって、ひとつの参考という形で、幾つかのメーカーがかなり実験的な意味も含めてトライしている、何て言ったらいいのかこういうものを一括する言葉がないが、パイオニア・エクスクルーシヴのP3、マイクロのRX5000、サエクのスチール製のターンテーブルデッキ・システム、それとトリオが原器と今のところ呼んでいる、実験的な超ど級のプレイヤーと、そして私の常用しているEMTの927といったプレイヤー・システムでいろいろなレコードを聴いてみた。とにかく同じカートリッジでも、それぞれのプレイヤー・システムに付け換えてみることによって、なんと同じレコードが非常に違ったニュアンスに聴こえたことか!……。
 ステレオサウンド48号のブラインドテストでも体験していたことではあるが、今回のようにオーディオ専業メーカーがベストを尽くしたと思われるプレイヤー・システムでも、やはり音の差が大きく出るのだということを改めて再確認した。参考という形で、たまたま家にあったパイオニアのごく標準的なセミオートのプレイヤーシステム、これは非常にコストパーフォーマンスのいい、一般愛好家用としては、非常に取り扱いのやさしい、便利のいいプレイヤーだが、これに対して、それの大体十倍前後の価格の開きがあるプレイヤーが同じカートリッジを取り付けて、本当にそれだけのことがあるのか、という興味もあったのだが、確かに出てきた音が、十倍払うだけの値打ちがあるかどうかということは、僕は個人個人の価値観の問題だと思ったが、けれども一人一人の主観だなんていうこと言うと、何か逃げてるみたいに思われるので、僕がかなり主観的な言い方をあえてここでさせていただければ……同じカートリッジをパイオニアの普及品に付けたときと、それからたとえばマイクロRX5000に付けた場合とでは、同じレコードから受ける音楽的な感銘はもう根本的に違った……。
 普通のローコスト普及型のプレイヤー、たまたまパイオニアを例に出したが、パイオニアが悪いという意味ではなしに、市販のプレイヤーというのは、みなこの水準だということをはっきりここで言っておいた方がいいと思う。そういう五万円近辺の、ごく普通のプレイヤーというのは数年前のプレイヤーからみたらモーターはきちんとしているし、回転ムラなども全くない。モーターのゴロが出るわけでもない。非常に安定にトレースする。全く見事で、これだけ聴いてればちっとも疑問は持たないだろう。ところがやはり、例えばマイクロの、これはもうアームなしで四十三万円というような、豪華なプレイヤーだけれども、これでパイオニアに付けたのと同じカートリッジ(EMT XSD15)を付け換えて、同じアンプの音量を、少しも変えずに、そのまま聴いてみると音量感が違う、それから音楽のダイナミックスが全然違う。音楽がとにかく躍動してくる。非常にやはり聴き手にインパクトを与える。それから音がとても立体的に聴こえてくる。例えば歌を聴けば、歌い手がスピーカーの間にふわっと浮び上がり、また歌い手とバンドとの距離感がよく感じとれる。いやそういう細かなことをいう前に、まず音楽がとても聴き手を楽しませて、何かもっと聴いていたい、一枚のレコードを途中でポリュームを絞るのが惜しいような、そして一枚聴き終わると、このレコードはどうだろうと、また次のレコードをどんどん間髪を入れずかけ換えたくなるという、これは実は僕の長いオーディオ体験からいって、いいオーディオ機器とそうでないものとを判別する、大切なカギにしているのだが……。
 レコードをひとつの音楽として楽しんじゃおうと、もうテストなんてやめちゃおう!。とにかくレコードを後から後から聴いてみたい、という装置があるのだ。逆に何かレコードをしばらく聴いていると、ボリュームを絞りたくなってしまう音というのがある。絞りたくならないまでも何か気持ちが弾んでこない、白けた気持ちで、耳がやれ音のバランスだとか、定位だとか、歪み感とか、ついそっちの方で聴いてしまうというような、こういう機械は決して本当の意味で優れたオーディオ装置ではないと僕は思っている。
 このことはプレイヤー以外のアンプやスピーカーにもいえて、いい音響機器というものは、レコードのボリュームを絞りたくならない、何となくもっと先を聴いてしまう、つい長い時間聴いてしまう、一枚ターンテーブルから下ろすと、またすぐ次のレコードを乗せたくなる。全然違ったレコードを後から後から思い出して、そうだあのレコードはどうだろう、あんなレコードがあった。あのレコードはどう聴こえるだろうなんて興味を尽きさせないものだ。

マイクロ RX5000
 僕は今までに長いこと、マイクロの製品をいいと思ったことは実際なかったのだが、特にこのシステムのアームのMA505は多少二、三改良されて今までの505と違うという話だったが、505というアームは、全体に何か音が軽々しく、かん高くなる傾向で、この事はアマチュアからも同じことを言われたので、僕だけの偏見ではないはずだ。
 ところがこのアームも含めて、少なくともこのプレイヤー・システム全体としては、きょう聴いたプレイヤーの中では一番音が楽しかった。音のバランスがきちんと整っているし、それからこれは今までのマイクロと違って、ターンテーブルシートを使わず、ターンテーブルの金属にじかにレコードを乗せるということになって、このやり方というのはえてしてターンテーブルの共振で弊害が出るという体験を僕はしているのだが、このプレイヤーではそんなことは感じなかった。音の彫りが深く躍動感があって、ダイナミックスが感じられて立体感が出て、何よりも音が楽しく、聴き手が引き込まれてしまうという、その意味で、僕はいいプレイヤーだなと思った。これは発表されているデータからもターンテーブルそのものの機械的な精度と強度に着目したということになっているが、やはりターンテーブルのシャフトというものは、重いターンテーブルを支える、いわば土台なので、そのシャフトをきちんとするためには、ダイレクトドライブでは絶対にだめだという信念をもって、ナント糸でドライブするという、これは本誌17号で紹介された高城さんも昔からおやりになっているが、これは高城さんだけに限らず、以前からわれわれの仲間も一時はやっていた方法なのだが。この古いというよりか、おそらく今まではメーカーだったら製品化するのをためらったような方式にトライしている。この点でも面白い。僕は見本製品を見たときに、その形はなかなかきちんとしてると思ったけれども、実際に物を手にとって聴くまでは一抹の不安を持っていたのだが、実物を見ても、なかなかこなれた形をしている。このマイクロのプレイヤーはちょっと話題になっていい製品だ。
 僕はマイクロの製品、初めていいなあという気がした。細かいことをいえば、ストロボの入れ方とか、全体のもっていき方、あるいはアームとか、いろいろな細かい部分にいくらでも注文をつけたくなるけれども、やはり注文つけたくなるというのはその製品がある程度水準に達しているから、自分としてはそれが気に入ったから、それがもっと気にいるためには、こうして欲しいみたいな注文だと思ってほしい。とにかくいいプレイヤーだ。

エクスクルーシヴ P3
 次がパイオニアというよりエクスクルーシヴのP3だが、これは今のマイクロがもちろん製品として、発表しているけれども、駆動モーターとターンテーブルも別々になっていて、しかも糸の長さによって位置を変えなくてはならないとか、かなり実験機的な様相を多分にもっているのに対して、こちらは製品として完全にこなれたものにしようという意図がうかがえた。
 エクスクルーシヴのアンプや、スピーカーと同じように非常に上質のローズウッドでキャビネットができていて、中の仕掛けはいろいろ凝っているにもかかわらず、それを表にあまり出さないである程度デザイナーの手が入って全体をできる限りこなれた形に仕上げ、そして品位を保とうという意図が十分うかがえる。それからプレイヤーのふたもかなり重いふたが付いている。全体が非常にしっかりとして大変重くできてる。
 モーターとアーム部は一体化してそれをサスペンションしているとか、インシュレーターの方法が今までと全然違うとか、とにかく非常にぜいを尽くした作り方だ。操作してみても、ながめてみてもかなりこなれている。音はマイクロとはずいぶん違ったニュアンス、というよりも僕は非常に面白いと思うのは、エクスクルーシヴのアンプ、C3とM4の組み合わせ、またはC3とM3の組み合わせなどが聴かせる一種の重厚なそして危げのない、ちょっとハラハラするような音は絶対に出さないで何となく音が一粒一粒がウェットに重い感じで、何か音一つひとつうまく湿めらせて重みをつけた……。これはエクスクルーシヴのアンプの特徴だが、このプレイヤーにもその音がある。だからその点で、僕はやはりエクスクルーシヴのアンプを作った人と同じ耳が、この音決めに参加しているのではないか、というふうに思った。特にアームがオイルダンプでダンプ量を調整できるので、ダンプをオーバーにかけると、ちょっと音に生気が失くなるがダンプ量をクリティカルに調整したときに、すばらしい音がする。でマイクロの場合は非常に音のダイナミックレンジを広げて聴かせる感じがしたのに対して、これはちょうど逆で、ダイナミックレンジをむしろ少し抑えるような、ピークがパァーッと伸びるのではなくて、そこはうまく何かリミッターを非常に上手にかけたような感じと……そういう印象を受けた。
 別な言い方すると、オーディオファンがひとつひとつの細かな、よく解像力という言葉使うが、そういう解像力というような聴き方とは逆に、音の細かなところまでも見通すというよりも、そういう聴き手の耳をそばだたせない、むしろそばだたせないところがこのプレイヤーの意図ではないか。全部音をくるみ込んで、きわどい音を出さない。だからオーディオファンよりもこれはやはり音楽ファンが何かハラハラしないで聴きたいプレイヤーが欲しいといった場合には、これは確かになかなか特徴のある製品ではないかなという気がする。ただ僕の主観を言わせていただけば、マイクロを聴いてるときは、いまも言ったように、レコード一枚一枚もっと聴きたい、もっと聴きたいという気持ちになるけれどもエクスクルーシヴだとそこまでは面白くはさせてくれない。何か聴いていてとにかくこっちが、何というか、でれっとくつろいでしまってあんまり神経質にならない、そこがこのプレイヤーのよさでもあるし、またややシビアな聴き方をしたときの物足りなさにもなるのではないか。
 しかしこのクラスのプレイヤーで、こういう見た目も含めて、きちんとまとまったプレイヤーというのはあまりない。

サエク ターンテーブルデッキ
 さて、このサエクの考え方というのは、エクスクルーシヴとは対極にあって、エクスクルーシヴができるだけ音を全体に抑えていこう、例えばアームの作り方ひとつみても、P3のアームがオイルダンプで、それからアームの後ろのウエイトを非常に柔かいサスペンションで、ダンピングをして、とにかく共振を全部ダンプしようという意図が構造にも出ているし、音にも明らかにそういうところが出ているのに対して、サエクの場合には、アーム自体の考え方が、もうサエク社の当初のアームから一貫して、ゴムのようなあいまいな材料を使わないという基本方針があって、それがついにこのターンテーブルシステムというか、これは何と呼んだらいいのか。やはりデッキか? その方向にもきちんと表われてきて鉄のブロックという非常に重く密度の高い材料をとにかくできる限りの、まあこれは機械工場で使う定盤に、ほとんど近い感じのものを真っ平らな面に仕上げて、それにモーターとアームをできるだけがっちり取り付けて、それをこの重量で支えてしまおうという考え方だ。
 サエクのアームは機械工学の専門家が設計しているアームだが、このターンテーブルデッキにもその機械屋さんの感覚というのを僕は非常に強く感じる。少なくともエクスクルーシヴが家具としても、ある程度の部屋の中に溶け込ませようという配慮があるのに対して、このサエクの方はそういうことは一切考えないで、とにかく機械設計家の感覚からいってやれるだけのことはやっていくという発想のように思えた。とにかくあいまいな共振のダンプをしないということらしい。
 あいまいな共振ではなくて、共振のあいまいなダンプをしないということ、つまり共振をダンプするのではなくて、共振が出ないようにとにかく各部をきちんと作っていって、その結果として各部はきちんとサスペンションされているというのがこのプレイヤーだ。確かにこのシステムから出てきた音というのは音の輪郭をきちんと正直に出してくれるという感じだった。ただひとつちょっと難点といえるのは、インシュレーターが上下方向の振動も十分、よく吸収するのだけれども左右方向に割に無防備なインシュレーターなので、この辺は僕はちょっと研究していただきたいなぁという注文はつけさせてもらいたい。とにかくひとつのはっきりしたポリシーが打ち立てられているのは立派だ。アーム単体は、このターンテーブルデッキに付けたのとは別に、ごく僕らが耳になじんだプレイヤーでこのアームだけ付けて聴いたことがあるが、これは僕は大変いいアームの一つだと思うし、実際いい音のするアームだ。音の輪郭ひとつひとつをあいまいなくきちんと出す、いかにも、設計方針がそのまま音になっている感じだ。とにかくサエク社の初期のアームに比べて、形が随分こなれていて、初期のものは、ちょうどこのターンテーブルデッキを見るみたいに、材質とその構造が、もうそのままむき出しになったという感じで、それはそれでひとつの機械加工ぎりぎりまで突き詰めきたというすご味を僕は感じていたが、半面ちょっときわどくてもう少しこなれた形にならないかというような面があった。しかし、この新しいアームは僕は随分形もこなれているし、とにかく初期のアームが少し共振性の音を出したのに対して、これはほとんどダンプしないで共振をきちんと抑えて、しかもダンプしたアームとは、明らかに違う、輪郭のきちんとした音を出す。ダンプ型のアームの対極にあるけれどもかなりいいアームの一つだ。ただ今回のこのプレイヤーシステムでデッキという格好で組み上がったものは、たまたまモーターにテクニクスのSP10MK2が付いてるので、聴いた感じはSP10MK2の音を、かなり僕としては感じた。やはりSP10の音というのは非常に真面目な音がする。ひとつひとつの音をとにかくきちん、きちんと出していこうという傾向があってそこをSP10を非常に好きだという人と、それから少し音が真面目すぎるのが難点で、もっと何かニュアンスとか、味があってもいいんじゃないか、という人もいる。けれどもターンテーブルにニュアンスとか味というのを求めるというのは、おそらくテクニクス側からいえば、おかしいというだろう。そういう性質のものがターンテーブルなのだから……これはこれでいいのだ。つまりその音がきちんと正直に出ていた。

EMT 927
 EMT927に関しては、何しろ僕は初めてこのプレイヤーと会って以来、ほれっ放しなものであまりあれこれと言わない方がいいのではないかと思う。それは冗談半分として、このプレイヤーというのはやはり、いま聴いたようなプレイヤーを含めて、おそらくこれから出てくるであろうプレイヤーにまで、相当その陰の影響を与えているのではないか、と思う。つまりいま頃われわれがやっと気が付いてきたターンテーブルの重さの問題、そのターンテーブルを支える軸受の問題、あるいはターンテーブルシートの問題、それからプレイヤー・システムとしての全体のバランスというか、重さのバランス、組み上げ方のバラン、操作上のバランス、そういうことが音質に影響することを、恐ろしく古い時期に気がついていて、それらをすべてやっていたプレイヤーだ。しかも現在のダイナミックレンジの広いレコードをかけてもちっとも聴感上おかしいと思わない。なにしろ音に底力が感じられる。底力というと、これは誤解されそうだが、つまり非常にエレガントな、静かな音楽をかけているとき、このプレイヤーは何にも自己主張しない、もう実にエレガントなのだが、そこに例えば急激に立ち上がる力のある打楽器の音とか、力強い楽器の音が入ってくると、ほかのプレイヤーよりも一回りも二回りも音がグンと伸び切る感じがして、それが明らかなエネルギーとして聴こえてくる。それは今聴いたこの三つと比べても十分あった。
 これは本当に不思議なのだけれども、結局いろいろ想像するに、やはりレコードを回す土台の頑丈さと、回転力の強さだろう。まずターンテーブルが非常に重くて慣性能率が大きい。メーカーではそんなことは何も発表してはいないが、本当にターンテーブルを計量して計算すれば出てくるのだろうけれども、僕はそんなことやる気は全くない。とにかく大きな重いターンテーブル、そしてけたはずれに長くて丈夫なシャフト、そしてその軸受け、それをまたけたはずれに強力な、しかもけたはずれに精密で静かなモーターで、ものすごい力でドライブしている。従って、レコードのどんな強力な音のところでも、ターンテーブルの回転が妨げられることは少しもない。それからプレイヤー・システム自体の重さも相当強力なので、インシュレーターなしで床の上にじかに置いてるのにハウリングなどは起こさない。そのことからも、これがいかに頑丈なものかわかるわけで、それとアームとカートリッジと内蔵のトランス、及びイコライザーアンプといったもののトータルの性能がいかんなく発揮されてるということで、とにかくレコードに入っている音のすご味を感じさせる。レコードってこんなすごい音が入ってるのか! と。これを聴く限りまだまだ国産の実験的なプレイヤーというのはまだやることがいっぱいあるのではないか、またそしてやることによって、またいっぱい出てくるのではないかと、思わせるほどだ。

トリオ〝原器〟
 これはトリオの実験機なのだそうだが、アームを研究中に、アーム本来の音を聴きとるプレイヤーを追究していったら、このようなものが出来上がったらしい。とにかく中野会長のお宅にうかがって、EMT TSD15カートリッジをこの原器とEMT927で聴いてみた。
 いままではEMT927がTSD15の情報量を最大限に引き出すと信じていたが、このトリオの原器からは、927からは聴こえなかった音が出てきたのには、びっくりした。
 僕はいままでTSD15がこんな風に鳴ったのを、聴いたことはないし、それはたとえば、927にチューニングされているTSD15が、トリオの原器と称されているプレイヤーに付けられたために、その弱点が補正されずに出てきた、あるいはバランスが変わって、このように聴こえた……といった種類のものでないことはたしかだ。とにかくプレイヤーとは何かを考えざるをえないシステムだった。

聴き終わって
 以上五機種のプレイヤー・システムを聴いて、ではローコストの四、五万クラスのプレイヤーと、どこが違うんだ! といわれた時に、僕はうまくいえないが……。
 要するにローコストのプレイヤーでかけたレコードが、例えば明らかになくなっちゃう音があるわけではない。低音も出てくるし、高音も出てくる、そんな素朴な問題は起きない。ただ、このローコストプレイヤーでかけたレコードをそのままEMTに乗せてプレイバックしてみると、具体的にひとつひとつの音がどうってことはないのだけれども、ローコストプレイヤーでは出なかった音が出てきたような気がしてくる。何かそのレコードの情報量が何倍にも増えたような気がする。聴こえるということは明らかに何か、言葉でうまくいえない音が確かに出てきているのだ。しかしそういう説明では説明しきれないところがあって、それは何かというと、僕がよくオーディオのビギナーの人に、オーディオの楽しみを説明するときに、レコードというものは中途半端な形で聴くと、何年か聴いてる間にレコードというのは大体こんなもんだ、オーディオというのはこんなもんだという、気持ちになることがあるのだが、ところがきょう聴いたなかでも、例えばマイクロ、あるいはEMTのプレイヤーで聴いていると、これはプレイヤーに限らず、アンプでもスピーカーでも、僕がさっきマイクロのところでちょっと言ったように、もっと聴きたい、もっと聴きたいというぐらいの気にさせるような音がしてきて、レコードの世界というのは恐ろしく底が深いなぁと思わざるをえない時がある。一枚のビニールの円盤で、人間を何か魂の底から揺すって感動させるようなオーディオ・システムが存在し、そこにオーディオの楽しみがあるのだということを僕はいってきている。
 魂の入った音楽が一枚のビニールの円盤になって、それをエレクトロニクスで復元していくと、そんなものは消えてしまうはずなのに! 大体ある時期まではレコードってのはやっばりそういうものだってあきらめがあったかもしれない。ただ要するにうんと古い時代の人はレコードをそう思ってない。SPレコードでやはり魂揺すぶられている人がいた。レコードをまともに再生すると、それは音の歪みがそんなふうに思われてたとか、歪みをちゃんとなくすとレコードってのはこんな程度の音しか出ないとか、少しさめた言い方になってくる。しかし現在のレコードには音楽の感動が絶対はいっている。しかし現在のプレイヤーの研究段階では、それがプレイヤーのどこをいじるとどうして再現できるのかということはつかめていない。またレコードに、そういう音が入っているのだということを本気で信じる人がすべてかというと、プレイヤーを作っている当事者のなかにも、そんなことを信じてない人も少なからずいる。しかしやはりレコードを聴いて、一瞬背筋にあわが立ったり、あるいは一瞬涙をこぼしてみたり、一瞬どころかそれで一晩考え込んでみたりというような体験を何度かしてみると、やはりそういう音が出るプレイヤーが本当だと思うし、あるいは本当に嘘ではなくて、そういう音が出ないプレイヤーはおれはいやだ、というようになってくる。本当でなくてもいい、つまり、例えばマイクロが出した音とEMTが出した音が、これはそれぞれの機械が作った音ですよと言われても、それは理屈家さんの話で、やはりレコード聴いてどちらがうれしくなるかといえば、やはりマイクロの音、EMTの音、がうれしくなって、もっとレコードを聴きたいという気にさせられる。僕はそういう音でなければオーディオではないと思う。オーディオであるかないかではない、どちらが正しいか、正しくないかでもない。一方にそういう音を出すプレイヤーがあり、一方にそういう音を出さないプレイヤーがあるとしたらどちらを選ぶだろうか。
 それではPART2で、そんな音をレコードに求めて、メーカーメイドのプレイヤーに飽き足らない読者のために、組み合わせ型プレイヤーを組み上げる際の考え方を、僕のつたない経験から話してみよう。

PART2
試聴の結果と、今までの経験をもとにして、組み合わせ型プレイヤーのノウハウを考える

 レコードプレイヤーを自作しよう、あるいはパーツを買ってきて組み上げよう、または既製品にいろいろ工夫を凝らして手を加えようといった傾向が、近ごろ盛んになってきた。振りかえってみると、これはなかなか面白い。現在のように既製品の比較的性能のいいレコードプレイヤーが出そろったのは、大体DDモーターが出てきて以来、ここ四、五年だ。それ以前はいいプレイヤーが欲しくても、既製品になかったので、音質を重視する愛好家は、いいパーツを買ってきて、自分で納得のいくように組み上げるしか方法がなかった。そこへDDモーターが出現し、従来プレイヤーを全く手がけていなかったオーディオメーカーまでが、DDモーターを応用して、かなり性能の優れたプレイヤーを容易に作れるようになって、自作派は影をひそめてしまった。
 ところがいつの間にか、誰いうとなく、どうもDDのモーターは、音に潤いがないとか、味わいがないとか、余韻がスパッと切れてしまうとか、聴いていてしらけるとか、いわれはじめた。その理由は未だに完全に解明されているわけではない。しかしプレイヤーというのは、何もモーターだけでできているものではなく、ほかの部分──軸受け、キャビネットの重さ、構造、アームの取り付け、全体のバランスなどに見落としがあるのではないかということで、昨年のオーディオ・フェアあたりから、いくつかの専業メーカーから従来ではとても考えられなかった、アマチュアライクな、プリミティプな実験機の形で発表されはじめた。それがマイクロのRX5000であり、P3であり、サエクのターンテーブルデッキなのだが、我々アマチュアもメーカーメイドプレイヤーに満足することなく、音の良いプレイヤー・システムに挑戦してみたらどうだろうか。以下はPARTIの試聴もふまえての、組み合わせ型プレイヤーに対する私のノウハウ集である。

①フォノモーターは……
 どうせプレイヤーシステムを組み合わせるのなら、フォノモーターはDD以外にしたらどうだろうか、なにもDDが悪いというほどの証拠があるわけではないが、最近のDDの音質に問題がある、と指摘する人は、必ずしもDDまたはクオーツロックという方式そのものが悪いのではなくDDターンテーブルの機械的、物理的強度、構造、あるいは精度が問題なのだと言っているようだ。
 つまり、ちょっと簡単な実験をしてみるとわかるが、ターンテーブルのフチのところを垂直に軽く下へ押し下げるような力を加えてみると、DDモーターのほとんどがガタガタする。というのは、DDはターンテーブルシャフトそのものがモーターのシャフトで、そのモーターも動力用のモートルではなく、非常にデリケートな精密モーターなので、しかもそれを電子制御するために特殊な構造になり、どうしてもシャフトの長さが短かく、細くなる。したがってそれを支える軸受けもガッチリ作りにくいというDDの泣きどころを指摘している。そういうところがもしかするとDDモーターの音がつまらない理由なのかもしれない。
 というわけで、DDでない方向に目を向けると、リンソンディック、アメリカのQRK(アイドラー・ドライブ)。完成品だがエンパイア、それからもう市販されていないで、中古マーケットでだんだん値が上がっているガラードのモデル301、あるいはその後に出て改悪ともいわれたモデル401、国産では最近出てきて話題になっているマイクロのRX5000、同じくBL91、そういったものが頭に浮かぶ製品だ。
②フォノモーターのトルク
 モーターの第二のポイントはトルクだ。すなわち回転する力の強さは、レコードをターンテーブルにのせて回転し、そこに針が下りてトレースする時に、再生音に微妙に影響する。レコードの溝は、音の強いところでは、大きくうねる。そこを針がたどっていく時にはレコードの回転に針がブレーキをかける形になる。したがって力の弱いモーターだと実際にブレーキをかけられた形になって、楽音に変化が起きる……といわれているが、はっきりしたことはわからない。しかしトルクの強いモーターはトルクの弱いモーターよりきちんとした音を出すことは間違いのない事実である。
③プレイヤー・キャビネットの役目
 プレイヤー・キャビネットに要求されることは、まず全体が非常に丈夫で重いこと、密度の高い重い材料で構成されていることが必要である。プレイヤーを自作した人なら経験していると思うが、同じターンテーブル、同じアームを付けても、薄い板でガランドウの箱に組んだ場合と、非常に密度の高いキャビネットに取りつけた時とでは、音が全然別ものといっていいくらい違ってしまう。
 プレイヤーのキャビネットというものは、とにかく回転しているターンテーブルを、できるだけ微動だにせず支えて、しかも、アームの先端についたカートリッジの針先がレコードの溝をたどった時に、カートリッジの振動が、アームの根元まで伝わってくるので、その振動もがっちり受けとめてあげなければならない使命がある。以上の理由から、プレイヤーのキャビネットはできるだけ重く、密度の高い材料が望ましい。
④メーカー製のキャビネット
 レッドコンソールのように鉛という非常に共振しにくい粘った材料と、木材の積層材の張り合わせもある。レッドコンソールのキャビネットは一部に非常に強い支持がある。またテクニクスのSP10MK2用のキャビネットのSH10B3とか、SP15用のSH5B1といったものは、天然石を細かく砕いて、改めて再構成したのもある。
⑤スチールを傭ったプレイヤー・キャビネット
 非常にユニークなアームを作っているサエクが昨年のオーディオ・フェアで発表した、鉄のブロックに機械加工して、アームも三本ないし四本取り付け可能なターンテーブルデッキと称するのがあるが、材料の持っている重さと密度で、何が何でも振動させまいとする、普通のメーカーでは二の足を踏むであろうアマチュア的発想を勇敢に製品化している。
 マイクロのRX5000のベースもかなり密度の高い金属を使っている。鉄の固まり、鉛の固まりといった金属の重さと密度をプレイヤー・キャビネットに応用するのも面白い。
⑥キャビネットの自作
 アマチュアがキャビネットを自作する場合は、やはり木材を主に使うのが実用的である。木材の中でも一般的なものは、合板とパーティクルボードだろう。ただし合板でも、それだけで考えないで、間に厚味のある鉛のシートをサンドイッチしたり、さらに固めのゴムもサンドイッチにして、木材、鉛、木材、ゴムシート、木材といった構造にして、とにかくきつく締め上げて、一つの固まりとするのが、特定の共振からのがれられるという点からも、重さからも理想的といえる。
⑦インシュレーター
 インシュレーターの役目は、プレイヤーのキャビネットから、床から伝わってくるスピーカーの振動をシャットアウトして、ハウリングを防ぐこと。そして、もう一つ、スピーカーから出た音が空気を振動させ、それがひいては、プレイヤー、アーム、カートリッジを振動させてハウルのを防ぐ。インシュレーターで巧妙にフロートされたプレイヤーは、その両方をうまくしゃ断できるのだが、ただフワフワ浮いていればいいというものではない。またもう一つのインシュレーターの考え方として、モーターが一方向に回転する場合、モーターを支えているすべての部分が反作用で、反対方向に振られるので、少なくとも、インシュレーターは垂直方向のみの振動の吸収を考え、水平方向は微動だにしないのが理想といえる。このことはトリオの技術者が最初に言いだしたが、私ももっともだと思う。そういう観点からみると、いまのインシュレーターは、水平方向にあまりにも無防備だという気がする。ラックスのプレイヤーシステムもこの点に留意してある。
⑧ターンテーブルシート
 いわゆるターンテーブルとレコードの間にあるシートだが、いままでは、ほとんどゴムが使われてきた。ところが最近、このターンテーブルシートが、音質にかなり大きな影響があると言われはじめ、ただいま暗中模索の段階といえる。現在販売されているシートの材質をあげても、ゴム、皮、ガラス、金属、コルクなど諸説ふんぷん。このことは、条件を一定にしてシートだけ変えれば、確かに異なった音がするが、ただし客観的にどれが一番いいかということは、まだはっきりしていないということだ。自分のシステムでは、あるいは自分のリスニング・ルームのコンディションではこれが良かったということは言えるが、万人に共通の最大公約数的な結論がないのだ。したがって情熱と興味のある人は全部自分で試してほしいし、それ以外にない。
⑨スタビライザー
 プレイヤーのダストカバーでさえ共振が問題になるのだから、レコード演奏中に、ターンテーブルのシャフトに小さなオモリを乗せることを一部のメーカーで提唱している。これはEMTのスタジオプレイヤーは昔からやっている方法で、レコードのセンターに、軽いオモリを乗せてシャフトにピッタリ押しつけることはいいことだと思う。
⑩ダストカバー
 プレイヤーのダストカバーは音質本位に考えた場合には多少問題がある。というのは、ダストカバーは、スピーカーからの音で簡単に共振してしまう。この現象は開けていても、閉じていても起こる。
 では振動を防ぐためには……二つの方法がある。一つはカバーをしないこと。もう一つは、きわめて重量のあるカバーをすることである。
⑪アーム
 まずアームの選び方ということになると、本誌17号でも言ったように、アームとはどんなものがいいかという問いに対しては、アーム単独で言えない。アームというものは、カートリッジをベストに生かすパーツなので、カートリッジの性能に見合ったものを選ぶ必要がある。またカートリッジの性能に見合った調整が必要だ。
 そしてアームの目のつけどころとしては、アームの重さと、機械的な強度の問題がある。アームを大ざっぱに二つに分けると 重いアームと軽いアームに分けられる。
⑫力-トリッジのコンプライアンス
 カートリッジを選ぶときに、カタログを見ると、コンプライアンスという項目があるが、これはカートリッジの針先がレコードの溝の中をたどっていくときの針先の硬さの度合いをいう。
 これが非常に柔らかく、弱い力でも針先が敏感に動くのはハイ・コンプライアンス型といい、硬くて動かすのにやや力が必要なのをロー・コンプライアンス型といっている。この両極の間にミディアム・コンプライアンスといわれるタイプが存在している。そしてほとんどのカートリッジはミディアム・コンプライアンスに属する。
 それでロー・コンプライアンス型、つまり針圧をやや重くかけないと性能が発揮しにくいタイプのカートリッジには、軽いアームを選んではいけない。またハイ・コンプライアンス型、つまり針先が非常に柔らかく、軽い針圧で動作させなくてはいけないカートリッジには、重いアームを選んではいけない。
 大まかな目やすとして、コンプライアンスを表す数字に20×10のマイナス6乗cm/dyneという数字が出てくるが、この頭に出てくる数字が5から10くらいをロー・コンプライアンス型。10から30くらいをミディアム・コンプライアンス型。30から50くらいをハイ・コンプライアンス型と思えばよろしい。
⑬アームのいろいろ
 アームの選び方を整理すると、まず一本のアームを選ぶ場合には、自分が一番主力にしたいカートリッジのコンプライアンスに応じてアームの重量を選ぶ。
 もしアームを二本つける場合には、軽量級と重量級の両極端を選ぶのが一番いい。三本つける場合には、その中間を加える。
 ただし同じ軽量アームでも、アームのタイプが違うと音質が大幅に変わることがある。たとえばSMEのS3などは軽量化されたアームだがオイルダンプされている。一方その正反対にADCのアームLMF1あるいは2は、極度に軽量化され、感度も高くしたアームといえる。したがって、ハイ・コンプライアンス型のカートリッジを使う場合でも、SMEのS3と、AADCとでは音が違う。
 それから比較的軽量級であっても、ダイナミック・バランスになっているアーム、たとえばマイクロのMA505は、決して重量級ではないが、ダイナミック・バランスという別な構造のために、独特の音が楽しめる。
 このへんがアームを選ぶもうひとつの難しさになるので、その時には経験者の意見を聴くとか、お店の人によく相談した方がいい。
⑭オイルダンプアーム
 近ごろでは、昔行なわれていた、アームをシリコンオイルなどで共振を制動しようという傾向がチラホラ見えてきた。
 ただし、本来の重量級オイルダンプとそれからSMEのS3というニュータイプのアームが提唱し始めたアームの外側にオイルのタブ、漕を取り付けて、そこでアームの動きを制動しょうといったアイデアもある。
 軽くダンプしたオイルダンプのアームというのは、なかなかいいものだなあというのが私の実感だ。
⑮スタティック型とダイナミック型
 アームは大別して、スタティック・バランス型とダイナミック・バランス型とに分けられる。
 スタティック・バランスというのは、天びんばかりのようにオモリでバランスをとり、針圧を加えるアーム。ダイナミック・バランスというのは、オモリでまず平衡状態を作っておいて、針圧をゼロにして、バネで針圧を加える。概してスタティック型アームは軽針圧カートリッジに対して非常に長所を発揮する。ダイナミック型アームはMCカートリッジを中心としたコンプライアンスのやや低めのカートリッジに最適といえる。
⑯ラテラルバランサー
 ラテラルバランサーは、どうもひところ、アームの働きをよく理解しない状態で、少し騒がれ過ぎたようだ。
 少なくともスタティック・バランス型のアームに関しては、あまり大きな意味はないと思う。ラテラルバランサーの必要なアームは、第一に一点支持型つまりワンポイントサポート型のオイルダンプ。第二にSMEなどに代表されるナイフエッジ型のアーム。この二つには必要不可欠。第三にはこれは必要不可欠とまでは言い切れないが、ダイナミック・バランス型のアームには、あった方がいいと思う。
⑰インサイドフォースキャンセラー
 インサイドフォースとは、レコードの回転と、それに対してアームが、先端が内側に曲がっていることから、ベクトルの和で、アームが内側に引き込まれる力で、それをキャンセルするために、アームを外側に引っ張る力をインサイドフォースキャンセラーという。ただインサイドフォースキャンセラーという言葉が、何か必要以上に誇大解釈されている。たとえば、インサイドフォースで片チャンネルの音が歪むとかいわれたが、最近では、インサイドフォースを打ち消すというよりも、むしろ従来から欧米で言われていたアンチスケーティングという意味合いに考えた方がいいと思う。
 アンチスケーティングというのは、要するに、レコードの外側のガイドグループに針を落とした時に、針がスーッと中に引き込まれて、曲の頭が飛んでしまうのを防止する意味で、インサイドフォースキャンセラーというようにシビアな考え方をしないで、横滑りをいくらか押えるというぐらいに考えた方がいい。僕自身、自分のアームの調整で、インサイドフォトスキャンセラーをほんの少し変えたことで歪みがガタッと減ったという体験はない……。
⑱アームの高さ調整
 僕はアームの上下方向の高さというのは、あまり神経質になる必要はないと思う。理論的に言うと、高さを大幅に変えると、バーチカルアングルが変わるが、アームの長さ、たとえば国産のアームの平均値、アームの支点から針先までを240mmとすると、根元で、2mm高さが狂ったとして、針先の角度で何度狂うかと考えてみれば……、あまり神経質になる必要はない。もちろん、いろいろなシェルを混用した場合は、調整が必要だ。
⑲アームの長短
 以前のSMEのアームには3009と3012という二種類があったが、その型番の由来というのが、アームの回転中心から針先までが、およそ9インチと12インチだったからで、それは昔レコードに16インチ盤(40センチ盤)というプロ用のがあって、それをプレイバックするために必然的に長いアームが必要だったためだ。その名残りが、現在でもオルトフォンのRMG309とかEMTの長いアームである。
 ここでアームの長短を、性能の面からみると、アームを長くすればトラッキングエラーが少なくなり、一方レコードのそりを考えると、安定にトレースするためには、短いアームの方が追従性、トラッキングアビリティーが向上するはず。と両者がゆずらず、レコードの追従性を重視する人は短いアーム、トラッキングエラーを少なくしたい人は長いアームという使いわけをしていた。
 ところでトラッキングエラーは、アームを長くしたところで、せいぜい一度か一度半の差しか出ないんだ! と短いアーム派が強力になって、長いアームがいっせいに姿を消したことがあった。
 ところが、最近になって、アームの音質がいろいろ言われはじめて、私自身も、アームの音質という面に着目していろいろ実験してみると、長いアームと短いアームは、共振の現れ方が全然違うらしいことに気がついた、同じメーカーのアームでも、長さが変わると音質がガラッと変わる。
 これはトラッキングエラーとか、アームの追従性は抜きにして、レコードを安定にトレースしているときの音質の違いで言うと、私自身、今までの短いアーム派から長いアーム派に変わってきた。16インチ用の超ロングアームの方が音質がいい。
 その理由は、長いアームの方が共振の出方が、いまのアームの構造だと、いいところへいっているのではないかという気がする。
⑳アームの形状
 アームの形状は、オルトフォン、SME型のコネクターが普及して以来パイプアームが全盛をきわめているが、パイプを何らかの格好で曲げないと、トラッキングエラーの修整ができないので、S字型とかJ字型に曲げている。ただ曲げることによってアームの材質が一部分不均一の個所が生じたり、有害な共振を生じることもあるとして、なるべく曲げ加工をしない方がいいという考え方が一部でいわれている。S字型は二カ所、J字型は一カ所。例外的にEMTの927についているアームのようにアーム全体にアールをつけて、弓型というかアーチルッキング型もある、少なくともパイプをゴチャゴチャ曲げない方がいいみたいだ。そこで出てきたのが、最近のストレートアームだ。ただし、ストレート型にすると、オルトフォン・SMEのコネクターが使えなくなる。ストレートアームの音がいいといわれるのは、パイプを成形したままで、何ら加工を加えないために、パイプ本来の軽量かつ強度が高い性質が生かされているためだろう。
㉑パイプと交換可能なアーム
 アームの根元でパイプごと交換できるアームというのはスタックスが始めて、ごく最近になってSMEのS3、オーディオ・クラフトが追随。最近ではエクスクルーシヴのP3も交換可能のアームを装備している。
 SMEの場合は、あくまでアームの先端にマスを集めないようにということからきていると思うが、オーディオ・クラフトのアームはストレート、S字型、あるいはパイプ材質、直径、などいろいろなスペアパイプがあって、かなりマニアックな実験的なことが出来るアームだ。一種のシステムアームといっていいのではないか。
㉒自作プレイヤーのパーツ・レイアウト
 プレイヤーを自作する場合には、モーターの取り付け位置をかなり自由に選べるので、アームのレイアウトを紹介すると、
❶アームを比較的前方にレイアウトする方法
 この方法はアームのお尻があまり出っ張らなくて、プレイヤーの奥行きを浅くできる。(図一のB)
❷アームを思いきって後ろにレイアウトすると、プレイヤーの幅を狭くすることができる(A)。この二つを操作してみると、カートリッジが手前から引っ込んだ位置にある❷の方が針を乗せやすいことがわかる。❶のようにカートリッジがぐっと手前にあるレイアウトは、カートリッジを真横から見ることになり、針先を特定の音溝に乗せようとするとなかなか難しい。
 それからアームを二本取り付ける場合にも二つの方法がある。
❶従来の位置、すなわち右真横と、プレイヤーの奥に一本目と直角に
❷プレイヤーの奥行きを増やしたくない場合は、ターンテーブルをはさんで、右と左にアームをつける。(図二)
❸ところがアームの構造によっては図三のように、ターンテーブルをはさんで、二本のアームが平行にレイアウト出来る場合もある。ただし左側につけるアームはストッパーのないフリーなアームであることが条件となる。
 最後に、何もプレイヤーのキャビネットを四角形で考える必要はないとすれば、マイクロのDDX1000のように円型で考えてもよいと思う。
 それからキャビネットにターンテーブル、アームをマウントする場合には、とにかくできるだけしっかりと締めつけることに尽きる。いったん締めて、数カ月使っているうちにネジがゆるんでくるので時々締めてやれば、次第に落ち着いて、ゆるんでこなくなる。
㉓オーバーハング
 オーバーハングというのは、アームの支点と、ターンテーブルの中心、および針先が一直線上に並んだ状態で、ターンテーブルのセンター(スピンドル)から針先までの長さをいう。ところがオーバーハングを調整するときに、スピンドルというのは、かなり出っ張っていて、針先までの長さを測定することがたいへんむずかしい。
 そこで僕が昔からやっている方法を紹介する。本誌17号でも紹介したが、SMEがはじめた方法で、別掲のゲージを使ってもらうのが一番実用的な方法だ。
㉔アームコード
 アームからの引き出しコードについては、サエクとかオーディオ・クラフトから、三種類のコードが発売されているように、MM型、ミディアムインピーダンスのMC型用、ローインピーダンスのMC型用と、カートリッジの出力インピーダンスによって選ぶことが望ましい。MM型カートリッジに適したアームコードは、MC型には不適当だし、MC型用のコードはMM型にはまずい。
 つまりMM型のようにインピーダンスが高いカートリッジはコードの直流抵抗分より、コードの線間容量が少ないことの方が重要で、MC型の場合には内部抵抗と内部インピーダンスが低いために線間容量は増えてもあまり影響を受けず、むしろコードの抵抗分の極力少ない方が理想的なのである。一般的なプレイヤーシステムのアームコードはMM型にピントを合わせているのでMC型カートリッジを使用する場合は注意が必要だ。

ヤマハ MC-1X, MC-1S

ヤマハのカートリッジMC1X、MC1Sの広告
(ステレオ 1979年2月号掲載)

yamaha_MC1X

テクニクス SL-5300, SL-5100, SL-5200, SL-5350

テクニクスのアナログプレーヤーSL5300、SL5100、SL5200、SL5350の広告
(ステレオ 1979年2月号掲載)

SL5300

パイオニア PL-L1

パイオニアのアナログプレーヤーPL-L1の広告
(ステレオ 1979年2月号掲載)

PL-L1

オルトフォン M20FL Super, M20E Super, MC10, MC20, MC30, MCA10, MCA76, T-30, RF297

オルトフォンのカートリッジM20FL Super、M20E Super、MC10、MC20、MC30、ヘッドアンプMCA10、MCA76、昇圧トランスT30、トーンアームRF297の広告(輸入元:ハーマンインターナショナル)
(ステレオ 1979年2月号掲載)

T30

マイクロ DD-8, DQ-5, DQX-500, DQX-1000, DOL-120, DOL-150Z, BL-91, RX-5000+RY-5500

マイクロのアナログプレーヤーDD8、DQ5、DQX500、ターンテーブルDQX1000、DOL120、DOL150Z、BL91、RX5000+RY5500の広告
(ステレオ 1979年2月号掲載)

Micro

キャニオン・プロダクツ Disc Protec, Disc Protec-S

キャニオン・プロダクツの帯電防止クリーナーDisc Protec、Disc Protec-Sの広告(輸入元:東志)
(ステレオ 1979年2月号掲載)

Discprotec