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パイオニア PC-20

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 低域から中域にかけての音域がやや弱く、高域端が上がっているようなバランスで、腰が弱いがあたりはやわらかく、耳あたりのよい音質である。繊細感も適度にあってひずみも少なく美しい。ピアノのタッチはやわらかすぎるきらいがあるが、こまかい音もよく出る。ただ、中音域の力が弱いせいか音が平面的で、ややこもり気味のところがある。弦合奏はよく溶け合うが、躍動感に欠けてきれいごとの感じ。ロスアンヘレスは多少ふくらみ声で、おもしろ味に欠けるが、耳あたりがやわらかい。ヴェルディでは、さすがに内声部の厚みに掛けて、特に男声の美しさが感じられない。総じて柔らかすぎる印象だが、バッググラウンド的に聴き流すには好適の音のように思う。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:70
コストパフォーマンス:80

パイオニア SX-100TD

岩崎千明

スイングジャーナル 9月号(1969年8月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より

 米国でハイ・ファイ・ショーと並ぶコンシューマー・エレクトロニクス・ショー略してCEショーがこの6月下旬にニューヨークで盛大に開かれた。今年の特長はハイ・ファイ・ショー的な色彩がかなり濃く、大規模な電気メーカーの参加がなかったかわり、各メーカーの強い意欲が強烈に出ていたという。そして特に注目されたのは日本のハイ・ファイ・メーカーの著しい進出ぶりである。
 その中心はなんといってもハイ・ファイ・アンプである。この数年間、各メーカーによる米国ハイ・ファイ市場のすざましい攻勢はすでに何度も語ってきたが、その猛烈ぶりと成果が今度のCEショーでもはっきりと出てきたのである。ハイ・ファイ・ステレオ・アンプはごく一部の超高級品を除き、日本製品が市場をおさえてしまったのである。
 この猛烈なアンプの進出は、しかし一朝一夕に築かれたものではない。トランジスタの回路技術、生産性の高い、しかもクォリティと信頼性の点からも米国製品を上まわる量産技術の蓄積が今日の国産アンプを創り上げたのである。
 コンシューマー・レポート誌のテストにおいての報告によると、米市場における主力製品20種をテストした結果、性能も優れ、コスト・パーフォーマンスの点で推薦された製品の中の4種は日本製であった。
 そのひとつの詳細なテスト表をみると多くの点で圧倒的に他をしのぎオーディオ全般にわたる優れた性
能、特に歪の少なさと120ワットの大出力特性を持っていた。その名はパイオニアSX1000TAで国内向けSX100TAと諸性能は全然変ることのない輸出用製品である。これがSX100TAの名声を、国内でも一挙に高めるきっかけとなったことは間違いない。SX100TAは、その後日本においてもチューナーつきアンプのベストセラーにのし上った。
 高価な高級品に多くの魅力をおりこんでまず新シリーズを発表し、次第に普及型にその範囲をひろげていくという。いつもの方法がトランジスタ・アンプではとられなかった。それは多くの点で出おくれたが、しかし賢明な着実な戦略であった。トランジスタにつきものの、多くのトラブルや技術的難点は、まず普及型から始めることにより容易なレベルから次第に高度な技術水準に無理なく達することが可能であり、そのため製品に対するクレームは避けることができたと見られる。
 トランジスタ化によって失敗した例は限りなく、そのすべては製品の不完全さによるクレームが原因であり、パイオニアはそれをもっとも安全にさけたのである。そして、パイオニアが自信をもって世に送ったトランジスタ・アンプの豪華型こそSX100TAであった。すでにあった他社の製品をもしのぐ性能は決して隅然でもなく幸運でもない。パイオニアの技術力を示したのだ。
 今まで、トランジスタによるといわれたスティーリーな音は、探しても聞き出すことが出来ない。ウォーム・トーンといわれた管球アンプ特有の音と共通のサウンドが、片側50ワットという強烈な迫力を秘めて発揮されたのである。その音の秘密は従来のこのクラスのアンプをひとケタ下まわる歪の少なさが大きな力となっているように思われる。
 SX100TAのパネル・デザインを改め、スイッチをまとめたのがSX100TDである。米国市場にはさらにパワーアップしたSXT1500Tもあるが、チューナーつきアンプのロング・ベスト・セラーとして、世界の市場に君臨してすでに2年、この級のアンプの新型はおそらく必要ないだろう。まぎれもなく世界一のチューナー・アンプなのだから。

オーディオテクニカ AT-VM3

菅野沖彦

スイングジャーナル 9月号(1969年8月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 カートリッジは手軽に差変えて使えるので、ちょっとオーディオにこった人なら2〜3個はもっているものだろう。というよりは、お金が貯って、良いカートリッジが発売されたと聞くと、つい買ってきて使ってみたくなるのが人情。事実、カートリッジを変えると良悪は別にしても音が変るからついつい、これで駄目ならあっちでは……ということになるものだ。もっとも、カートリッジというものは、それを取付けるトーンアームと一体で設計されるべきもので、うるさくいえば、先ッチョだけを変えるというのは問題がないわけではない。だから、同じアームにAとBのカートリッジをつけ変えて、Aがよかったからといって一概にAのほうが優れたカートリッジだと断定できない場合もあるのである。アームを変えたらBのほう力くよくな
る可能性もあるのだ。そこで、カートリッジを差変えて使うことのできるトーンアーム、いわゆるユニバーサル・アームは勢い高級な万能型でなければ回るわけであるが、今回のテストには英国製のSME3009を使用した。国産にも優れたアームが多数あるが、このSMEのアームは精度の高い加工とスムースな動作、ユニバーサル型としての妥当な設計、そして外国製ということで国産アームよりも客観性があると考えられるためか、研究所の測定などにも、現在ではこのアームを使うことが常識となっている。
 アームの条件について前書きが長くなってしまったが、この試聴記はSJの試聴室で実際にじっくリテストした結果なのでその条件について書いておくことも必要だと考えた。アンプやスピーカーは別掲の通り。使用レコードは新譜として各社から発売されたものの中から録音のよいものを数枚選び、さらに私自身の録音したものを何枚か聴いた。これは私にとってもっとも耳馴れたプログラム・ソースなので、その出来不出来はともかくテスターとしての私の耳には最高のプログラム・ソースだからである。
 さて肝心のオーディオ・テクニカの新製品AT−VM3だが、この製品は同社がすでに発売しているAT3というロング・ベスト・セラーに変るものとして登場させたもの。そして構造的には同社の開発したVM式という独特なムービング・マグネット型である。これは、AT35という同社の高級カートリッジで初めて実現した方式で、AT35そのものはかなり長期にわたって改良が重ねられたものだ。音の本質的なよさを認められながら帯域バランスの点でいろいろ問題があったものをコントロールして現時点ではバランスのよいカートリッジに成長した。このAT35を普及タイプとして設計しなおしたのが、このAT−VM3と考えられ、価格的にも求めやすいものになった。VM型の特長は、左右チャンネルに独立した発電機構をもつことと、振動系がワイヤーで支持され支点が明確になっていることだが、この2点は従来のMM型が指摘された問題点を独創的に改良したものである。そのためと断言してよいかどうかはわからないが、音の根本的な体質とてもいうものがVM型共通のクォリティを得ていることがわかる。つまり、きわめて明解な締った音質がその特長で、冷いとも思えぬほどソリッドなダンピングのきいた音がVMシリーズの特長である。硬質で現代的なスマートな音がする。比較試聴に使ったシュアーV15IIやエンパイヤー999、ADC10EMKIIなど世界の一級品に悟して立派な再生音が得られた。ベースの音程の分解能は特に注目に価いするものだった。ブラスの高域やシンバルが、冷いのが特長でもあり難点であるが、対価格という立場で考えれば、優秀製品として推したい。ただし、本誌では蛇足かもしれないが、弦のアンサンブルやクラシックのヴォーカルやコーラスにおいてはもうひとつ不満があることをつけ加えておこう。音響機器にハードでドライな客観性を求めるか、ソフトでウェットな個性を容認するかというオーディオの興味の焦点の一つがそれであろう。

テクニクス SU-50A (Technics50A)

菅野沖彦

スイングジャーナル 9月号(1969年8月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 すばらしいスピーカーであるはずなのになんとなく音が残らない。一体どうしたんだろう。カートリッジを変えてみよう。たしかに音はよくなった。しかし、いつかよそできいたこのスピーカーはもっとしまった音で、明るく音がのびのびしていた。そうだ部屋のせいかもしれない。部屋の改造はそう簡単にはいかないから、しょうがない締らめるか……。アンプというものは純粋に電気的な動作をするもので、音響機器のパーツの中ではもっとも進歩したものだというから、アンプのせいではあるまい? なんでも、周波数特性は10Hzから100KHzまで±1dbなどというアンプが珍らしくないというし、この周波数範囲は我々の耳に聴える範囲をはるかに上廻っている。しかも±1dbということは、どの周波数ポイントでもほとんど凸凹はないということだから、特定の音の強めたり弱めたりする心配はないわけだ。出力だって、このアンプはミュージックパワー50ワットということだし、50ワットといえば大変な出力で、事実今ツマミの位置を90度ぐらい廻したところで、音量は十分だ。つまり出力にはまだまだ余裕があるっていうことだろう。そうそう、音質に害を与える最大の敵は歪だそうだが、その点でも、このアンプのカタログをみると高調波歪率0・5%以下とある。なんでも1%以下の歪ならあまり問題にならないとか本に書いてあったっけ。そうだ、ダンピング・ファクターとかいうものがあるんだっけな。どれどれ、8Ωで15以上とか書いてあるぞ。他のアンプはどうだろう。あれ? こっちのは50とある。ダンピング・ファクターは大きいほどよいとか、奴がいっていたな……? いや待てよ。本にはそうは書いてなかったぞ、ダンピング・ファクターのちがいで音が変ることは事実だが、大きいからそれだけ音がいいとは限らないと書いてあった。しかも、10以上になると20〜30になってもほとんど変化はないと書いてあったから、15あれば十分だろう。しかし、それならどうして普及品から高級品まで値段の開きが10倍にもおよぶいろいろなアンプがあるんだろう? 高いアンプは大出力のものが多いけど、ただ大きい音を出せるというだけなのだろうか? 大きい音はこれ以上必要ないんだが、音質がよくなるというのなら高いのを使ってみたいなあ……。
 こんな悩みは、オーディオに関心をもつ人の多くが経験されることだろう。アンプの値段は果して音質に大きな影響をもつものだろうか。論より証拠に、このナショナル・テクニクス50Aを使ってみたまえ。アンプがいかに音質に大きな影響を与えるものかが明瞭になるはずだ。このアンプは、ナショナル・テクニクス・シリーズ初のトランジスタ・アンプで、その回路構成は理論的によしとされている各種新回路を積極的にとり入れた最新鋭機である。トランジスタ・アンプのほとんどがOTLといって出力変成器を省いたものだが、このアンプはさらに出力段コンデンサーも取りはずしている。そのためには2電源方式を採用してバランスの安定を計るというこった方法をとっている。また増巾段の結合コンデンサーもとりのぞき全段直結回路にして多量のNFBをかけ、その安定化は2段差動増巾回路という方式によっている。その結果、低域まで非常に安定したNFBがかかり、しかも5Hzまで素直にのびたという。
 先程の疑問の中に、アンプの出力、ダンピング・ファクター、周波数特性、歪率などのスペックが出てきたけれど、たしかに、こうした物理特性は欠かすことの出来ない大切な要素で、特性はよいほどよい。しかし、特性要素というのは測定の条件によってかなりちがったものになるし、これを完全に理解することは一般には無理なことだろう。専門の技術者だって、カタログ・データからそのアンプの性能を推しはかることは不可能なのである。だからこそ、試聴室でこれを借りてきて、いろいろとテストしてみたわけだ。実に締った豊かな音のするアンプであった。アルテックのA7という大型スピーカーも、一般のブックシェルク・タイプのスピーカーも持前の本領を発揮して朗々と鳴る。それにデザインも実によい。イルミネイション式のブラック・パネルもジャズを聴く雰囲気にはピッタリ。95、000円とかなり高いが、それだけの値打はある。外国製の数十万のアンプと匹敵できる。テクニクス・シリーズの徹底した物を創るについての熱意とクラフトマンシップが伺える作品だ。レイ・ブラウンのベースののび。エルビンのドラムスのパルシヴなアタック、日野皓正のペットのハイノートの破れるような音がピリッと締って小気味よい限りであった。

サンスイ CD-5

岩崎千明

スイングジャーナル 9月号(1969年8月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

「マルチ・アンプにしたいのだがまず手始めにどうしたらよいか」という質問が、やたらに多い。本誌の技術相談はもとより、時々顔を出しているメーカーや専門店のオーディオ相談などで、今までのマニア達に加えて、近頃は、これからステレオを買おうとする程度のごく若いオーディオ・ファンやジャズ・ファンなどの熱心な問合せが、マルチ・アンプに集まる。
 マルチ・アンプ方式では、プリアンプの出力を高音・中音・低音と分けるためのディバイダー・アンプが必要だが、この製品は意外と市販品に多くはない。古くからあるL社のFL15、これはクロスオーバー周波数の選び万に限度がある。現在市場にあるビクター200、ソニー4300、山水のCD3と今回発売されたCD5の4種である。あとはマイナーレーベルの局地的な製品しかない。T社は最近発売し予告されているが市場にはまだ出ていない。
 マルチ・アンプ時代としては意外に、ディバイダー・アンプの製品は少ないのである。そしてかなり初級とみられるオーディオ・マニアにも求めることができ、使いこなせることができるディバイダー・アンプは、今までは皆無であった。そして、その穴を埋めたのが今日の山水CD5である。、
 1万円台という今までの製品の1/2〜1/3の価格がまずうれしい。ディバイダー・アンプは本来、量産がむつかしいので、どうしてもコスト高になるが、山水のこの価格は、アマチュアがこれを自作する場合のパーツ代にプラスα程度の驚くべき価格なのである。おそらく、メーカー側としての狙いはマルチ・アンプ推進のためのサービス製品としてディバイダー・アンプが企画されたためではないかと思える。
 安いから普及型なのかと思うと決してそうではない。本格的なかなりのレベルを狙った製品だ。それはマルチ・アンプ方式自体が、非常に高いグレードを狙ったシステムであるだけに、文字通りそのかなめともなるべきディバイダー・アンプなのだから相当なクオリティーは絶対だ。
 まず、クロスオーバー周波数、3チャンネルのときは低音と中音の分割周波数が200、340、560、900ヘルツ、高音と中音の分割周波数が2・5K、3・6K、5K、7K各ヘルツとそれぞれ4ポイントを自由に選ぶことができる。そして2チャンネルのときは、不要側を2CHポジションにして必要周波数の1点を選んでおけば、低音がその周波数で分割される2チャンネルとなる。つまり上記のどの周波数でもひとつを自由に選び得るわけである。さらにシャーシー下部の切換スイッチで分割周波数の減衰特性をオクターブ6デシベルにも、12デシベルにも選ぶことができるというのもこまかい配慮である。使用スピーカーさえ十分広いfレンジを持っていれば、オクターブ6デジベルの方が「位相歪の点で有利」という説があり、ごく高級なマニアではそれを希望することもあるからだ。
 CD5の親切な行届いた設計はこの切換を不用意に違うポジションに切換えたりして、スピーカーを破損させたりすることのないようにロックがついていて、一度セットしたクロスオーバー周波数切換スイッチはロックを外さなければ切換えられない。音量レベルには一般の中高音にくらべて能率の低い低音スピーカー用を考慮して低音レベルは最大のままでついていないが、中音・高音が前面パネル左右別々についている。
 一般にマルチ・アンプのレベル調節はむつかしいがこのCD5には超ハイ・ファイ録音のジャズ的な、チェック・レコードが付属してアナウンスの声、ベース、ドラム、シンバルなど楽器の音を聞きながらレベル調節ができるのは嬉しい。
 SJ試聴室のアルテック・A7もCD5によるマルチ・アンプで重低音は一層迫力を増し、アーチー・シェップのファイア・ミュージックにおいて「マルコム」のデイビッド・アイゼンソンのベースに緊張感と迫真力が一段と加わるのを意識させられたのであった。

JBL SG520, SE400

瀬川冬樹

ステレオ 9月号(1969年8月発行)
「世界の名器」より

 カートリッジやテープヘッド、マイクロフォンやスピーカー等のトランスデューサー(transducer)に対して、アンプが取り扱うのは純粋に電流の増減だけで、従って、オーディオ・パーツの中でアンプは解析が最も容易な部分といわれる。たとえば、A、B二つのスピーカーを聴きくらべて音質が違うと判っても、現在の理論では、その違いが何によって生じるのかを十二分に解明することができないが、アンプの方は、たとえばAというアンプの電気特性を測定すれば、それとほとんど変らない音のアンプを再現することができる。再現はできるがしかし、アンプとはほんらいそれほど個性的な音色を持つ筈がなく、持つべきでもない。アンプの中を通って増幅されてくる音には、できるだけ色がつかないことがよい。……とおろかにもわれわれは承知してきた。たとえばマランツのアンプなどは、いかにもそういう理解が誤りではなさそうだと思わせる音質で鳴る。
 JBLとマッキントッシュのアンプの音が、そのことに疑いを抱かせた。たとえばマッキントッシュの底力のある肉づきの豊かな、JBLとくらべたらやや大味ながらグラマラスな量感を持った音質は、ほかの多くのアンプからは聴くことができない。
 そしてJBL──。小味でピリッと胡椒が利いて、いささか細身だがシャープによく切れこみ、まるで幕一枚取除いたように音量を絞ってもディテールの失われないその音質は、スコアのどんな片隅までも照し出すような、演奏会場とリスニング・ルームが直結したような錯覚をおぼえさせる。はじめてこの音に接したときの驚きといったらなかった。
     *
 アンプの特性は九分通り解析できる。JBLのその類のない音質も、電気特性でいえば、主として可聴周波数の上端をわずかに盛り上げた意識的な音作りの結果だと、エンジニアはしたり顔でいうが、マッキントッシュ以前に、JBL以前に、誰がこれほど魅惑的な音を作りえたか。アンプで音をこしらえてはいけないというが、それならアンプ以外のどのパートで、こういう音が作れるのか。
 作る、といっては誤解が生じるかもしれない。JBLのこの独特の切れこみは、しかし原音のイメージを損なうといったたちのものでは絶対になく、これ以上胡椒が利いたら鼻もちならないだろうといった、ギリギリのところで危うく踏み止まっている。これ以上は度が過ぎるという微妙な一線を嗅ぎ分け、その崖っ渕まで大胆に踏み出すことが、いわば「奥義」といわれる性質のものであることはいうまでもないが、そういう音質をアンプに於て、あえて作りあげたという点が、第一級のスピーカーを生み育ててきた彼等の知恵であったのだろう。JBLの中を吹き抜けてきた音には、だから不思議な清涼剤が微妙に利いて、爽やかな高原のオゾンを漂わせる。
     *
 もともとスピーカー・メーカーであったJBLが、アンプの市販に手を染めたのはそんなに古い話ではなく、一九六三年の秋に、いまのSE408Sの前身であるSE402が、エナージャイザー(Energizer)の名で発表されたのが最初のことだ。マランツやマッキントッシュが、まだトランジスターに踏み切りかねていた時に、JBLは最初の製品からTRアンプをひっさげて登場したわけだが、一九六五年、JBL・T回路と称する全直結のユニークな回路を採用したSE400Sの出現によって、JBLのアンプに対する評価は決定的なものとなった。さらに翌66年、プリメインのSA600が市販されて以来、JBLのすばらしい音質が広く知られるようになったわけである。
 SE400S、SE408Sは、80ワット×2の出力時にも歪(高調波歪、混変調歪とも)が0・15%という驚異的な特性が公表されているが、実測データではこれよりさらに歪が少ないと報告され、その少しの濁りもない澄んだ音質が裏づけられている。そして一般のパワーアンプと最も変っている点は、指定のイコライザー(特性の補整回路)をとりつけると、JBLの各スピーカーシステムに対して、周波数特性やダンピング・ファクターをそれぞれ最適値に調整して、スピーカーを理想的なトランスデューサーとしてドライブする。これがエナージャイザーの名称のゆえんである。
 SG520は、一九六四年に発売されたプリアンプで、ストレート・ライン型のボリュームや、イルミネーティング・プッシュボタンによって操作を視覚的に整理した、いわゆる「グラフィック・コントローラー」である。450ドルという、家庭用としては最も高価なプリアンプで、音量バランス調整用の1kHzのテスト・トーン発振器を内蔵していることはよく知られているが、SE400S(又は408S)と組み合わせ際に、リレー・コントロールF22を追加すると、aural nuL(オーラル ナル)バランシングとJBLが名付けるところの、スピーカーからの音が最少になるようセットすると音量バランスの最良点が調整できるという合理的な動作をするようになる。なお、各モデルの型番のうしろにEがつく(例=SE400SE)ものはエクスポート・モデルの意で、電源電圧が220Vと117Vに切換えられること以外、何ら変らない。
 SG520の卓抜したデザインに対して、一九六五年度のWESCON工業デザイン・コンペテーションから、最優秀賞が授与されていることも附記しておこう。

(註)トランスデューサー
エネルギー変換器のことで、たとえばオーディオでは、空気の振動(音響エネルギー)を電流(電気エネルギー)に変換(トランスデュース)するマイクロフォンとか、その逆のスピーカーなどのパーツを総称している。アンプは電流というひとつのエネルギーの増減を行うだけで、トランスデュースは行わない。

トリオ KA-6000

菅野沖彦

スイングジャーナル 8月号(1969年7月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より

 市販アンプのほとんどがソリッド・ステート化された今日だが、その全製品をトランジスタ一本化にもっとも早くふみ切ったのがトリオである。現在でこそ、トランジスタそのものの特性もよくなり、回路的にも安定したものが珍らしくなくなったが、トリオがそれにふみきった時点での勇気は大変なものだった。つまり同社はトランジスタ・アンプには最も豊富な経験をもったメーカーといえるのである。このKA6000は同社のアンプ群の中での代表的な高級品だが、昨年秋の発売以来、高い信頼性と万能の機能、ユニークで美しいデザインが好評で、今や国産プリ・メイン・アンプの代表といってもよい地位を確保している。
 KA6000の特長は片チャンネルの実効出力70Wという力強さに支えられた圧倒的な信頼感と細かい配慮にもとずく使いよさにある。
 アンプにはプレイヤーやテープ・デッキ、そしてチューナーなどというプログラムを接続するわけだが、そうした入力回路の設計はユティリティの豊富なほど使いよい。
 2系統のフォノ入力端子は、1つが低インピーダンス(低出力)のMC系カートリッジ用に設計され、専用トランスやヘッドアンプを必要としない便利なものだし、そのほかのライン入力端子も3回路あって十分な活用ができる。プリ・アンプ部とメイン・アンプ部の切離しも可能で今はやりのチャンネル・アンプ・システムへの発展も可能であるが、欲をいうと、この部分のメイン・アンプの入力感度がやや低い。しかし、一般のアンプと混用して使っても決定的な欠陥とはならないし、同社の製品同志でまとめる限りは全く問題はない。
 フロント・パネルはポイントになるボリューム・コントロールを大胆に大きくし、デザイン上のアクセントとすると同時に使いよさの点でも意味をもっている。高、低のトーンコントロールはステップ式でdB目盛の確度の高いものがトーン・デフィート・スイッチと同じブロックに並べられてあり、このスイッチによってトーン・キャンセル、高、低それぞれを独立させて働かせるようにも配慮されている。この辺はいかにマニア好みだし、使いこめば大変便利なものだ。スピーカー端子は2回路あり、2組のシステムを単独に、あるいは同時に鳴らすことができる。ラウドネス・コントロール、高域、低域のカット・フィルター、−20dBのミューティング・スイッチがパネルの右上部に鍵盤型のスイッチでまとめられ使いやすく、また見た目にもスマートである。入力切換のパイロットがブルーに輝やきフォーン・ジャックを中心に左右にシンメトリックに3つずつ並び、使い手の楽しさを助長してくれているのも魅力。
 このような外面的な特徴はともかくとして、肝心の音だが、私は、この製品を初めにも書いたように、安定した大出カドライヴ・アンプの最右翼に置くことをためらわない。国産同機種アンプを同時比較した結果でもそれは確認できた。ジャズのように、きわめて強力な衝撃的な入力には絶対腰くだけのしない堂々たる再生が可能であるし、ソリッドで輝やきのある音質もジャズ・ファンの期待に十分応えるものと思う。出力の点でも、また、価格的にも、相当パワーに余裕のあるスピーカー・システムとの共用が望ましく、本格的ジャズ・オーディオ・マニアの間で好評なもの当然のことだと思う。デザイン的に統一された同社のKT7000チューナーとのコンビでは最高のFM受信再生が可能であり、相当な高額商品だが、その支出に十分見合った結果は保証してよいと思う。

パイオニア PAX-A30

岩崎千明

スイングジャーナル 8月号(1969年7月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 日本でのロング・ベスト・セラーはトヨタの「コロナ」シリーズと、パイオニアの「PAX」シリーズだといったやつがいた。カー・マニアでオーディア・マニアだった。
 どちらも若者の心を捉えるベスト・セラーという点で共通点がある。しかし、PAXシリーズには欠陥があるわけではない。今度、Aシリーズとして全面的に改良された。PAX30Aはその新シリーズの中で最大口径の、最高級製品である。
 PAXシリーズは、ステレオ以前の昔に端を発する。バイオニアのトゥイーターをウーファーの軸上に配したコアキシャル・タイプということでPAXと名付けられた。PAXシリーズが、もっともポピュラーとなったのは30センチのPAX30Bという傑作のあと、20cmのPAX20Aの出現によってであった。PAX20Aはステレオ期に突入した時期にあって、比較的小さい箱で、十分な低音が出せることで当時のベスト・セラーだった。その後、国産スピーカーはこのPAX20Aをイミッた製品が多く出たことが、いかに売れたかを意味しよう。Aという字がついているが、今度のAシリーズとは違う製品だ。PAXシリーズはその後、Fシリーズとして大幅な改良をされた。このFシリーズの改良点は、特に低音特性をさらに低域にのばすことを自的としていた。その効果は実に明瞭で従来のいかなるスピーカーの低音よりも重低音の迫力がものすごかった。
 そして、またまた、このFシリーズの成功はスピーカー・メーカーの各社を刺激しこれと似たスピーカーがはんらんした。現在のスピーカー・ユニットは大半がこのFシリーズのウーファーとほぼ同じ狙いである。
 今回の新シリーズAタイプはどんな点を狙って改良されたのであろうか。ひと口にいうのはむつかしいが、音のアタックが一段と冴えたことからその多くを判断できる。
 最初にこのスピーカーに接した時は日本製のスピーカーから出てる音とは思えなかった。それほどに国産の今までのスピーカーとは音の鮮かさの点でひらきがあった。それはレコードの音とマスター・テープの音との差ほどに違った印象を受けた。それは、私のいつも使っているJBL・C40オリジナル・ホーンに組み込まれたD130の中低域から低域にかけての鮮かさとあまりにも酷似していたのであった。
 PAX新シリーズの30cm口径のPAX−A30を筆頭に、PAX−A25、PAX−A20、PAX−A16とあるが特にこのA30はスケールの大きさでも、38cm級の外国製とくらべて、ひけをとらない。A25の方が全体のバランスがよいという声も聞くが、スケールの大きさ、圧倒的な迫力という点では口径の大きなA30の方に一段と優る点が認められる。従来の低f0型の重低音本位のスピーカーが、中低音域にやや物足りなさを覚えるのに対し、新Aシリーズでは、音域がきわめて充実しており、その鮮列なアタックこそ最も優れている点といえるのである。これは米国のコーン製造技術を導入して得た新たしいコーンによるところが大であったことも付加えておこう。
 それに加えて、このAシリーズのもうひとつの特長は高音の指向特性の優れている点である。事実このスピーカーとマルチ・スピーカー・システムとを切換えると音場の定位が、きりりとひきしまって、くっきりした楽器の定位が認められるのである。数少ない国産のステレオ・モニター用スピーカーといわれるのはこの高域のずばぬけた指向特性による所が大きい。
 PAXシリーズの真価は、今後ますます広く認められ、新しいスピーカーの路線として注目されることは間違いないであろう。

デュアル 1019

岩崎千明

スイングジャーナル 6月号(1969年5月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より

 つや消しみがきの白く光る金属肌と黒のつや消しのツートーンのガッチリしたメカニックなデザインで仕上げられたやや小ぶりのオートマチック・チェンジャー。それが、この3年間、米国ハイ・ファイ市場のプレイヤー分野をわがもの顔に独占しているDUAL1019である。
 小型回転機器はキャリアに優る欧州製品が、常に米国市場を席巻していた。永い間、英国ガラードの製品が、そうであったし、最近では、ARXAという簡易型プレイヤー以外は、このデュアルの製品だ。
 67年も68年にも込めコンシューマー・レポート誌ではレコード・チェンジャーを採り上げているが、その65年以来続けて A Best Buy に選ばれているのはDUAL1019だけである。
 デュアルの良さは、ひとくちにいって、そのメカニズムの完全さと、ユーザーの立場ですべてを考えられた扱いやすさである。メカニズムの完全さ、口でいうとやさしいが、量産製品にとってこんな大へんな話はない。ひとつだけを精密に作ることはできても同じ精密さをそろえるのはすごく高くついてしまう。
 アームのスタート点、カット点は0・1mm以下精度を要求され、量産オートチェンジャーの難点のひとつが、デュアルにはこの点でもむらは全然見当たらない。
 デュアルならではの扱いやすさ、これは圧倒的なメリットだ。米国人に受けているのも、その実質的な扱いやすさからだ。扱いやすさというのは、プレイヤーとしてチェンジャーとしての根本的なメーカーサイドの姿勢によるものだ。今までの考え方、見方からは生れてこない。そして、それを実現するためには高い精度によって裏付けされた優れた機械工作技術が条件となっている。
 その実例をコンシューマー・レポート誌は、68年8月号でこう述べている。振動回転むら、回転数の偏差はごくわずかで問題にならない……。米国の数多くのプレイヤーの中でこう評価を受けているのはARXAとDUAL1019だけである。
 その使い良さの端的な例を上げてみよう。アンプのボリュームを、しぼらずに、アームをアームレスト(受け台)に落とすとき、普通はカタンとかカチとかスピーカーから、ショック音が出るものである。アームを指でなでると、スピーカーからサーサーと雑音が出る。これは市販の最近のアームのすべてにいえる程度の差こそあれそうでないアームはまずない。ところがデュアルにはこれがない。カートリッジ・シェルをさわる、たたく、こんなことはアンプのボリュームをしぼらずには禁物だった。デュアルは雑音はほんの僅かで気になるほどではない。一見チャチな感じさえするストレート・パイプ・アームは何の変哲もないようにみえていて、ここまで考えて作られている。
 デュアルにはオートチェンジャーであるのにそこまで扱いやすさを考えている。ケースに装備されたままケースをたたいてみる。……なんていうことは、針飛びして国産品はおろか、舶来品でも禁物だ。ところがデュアルでは所ックにもびくともせずトレースも安定だ。しかもおどろくのはそのとき針圧1g。3箇所のピラミッド型の3回捲いた支えスプリングがショックを吸収している。
 ベンツを生みワーゲンを創った西独の機械工業技術が、プレイヤーに結晶した。といえそうなのがこのデュアルなのである。
 オートチェンジャーでありながら0・7gまでの針圧でトレースが可能という高級プレイヤーとしての高性能にプロ用を思わすメカニックなデザインで今後ますます愛用者も増すことであろうと思われるデュアル1019である。

トリオ KT-7000

岩崎千明

スイングジャーナル 6月号(1969年5月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 本放送をきっかけに「絢爛たるFM放送時代」がやってくる。
 音楽ファンにとってFM放送はレコード以上のミュージック・ソースですらある。ある意味というのは、レコードのように金を出してそれを買う必要がない点と放送局用の標準仕様のレコード・プレイヤーや高級テープメカニズムによって演奏される点できわめて品位の高い「音」をそなえているところにある。
 FM放送の高水準の音質をそのまま再現することは多くの点でたいへんむずかしい問題を含んでいる。ただ従来はメーカーがそれをほおかぶりしてきたに過ぎない。それというのもFMの音が本質的にすぐれていたため、多くの点でイージーに妥協して設計された受信回路によってもかなり優れた再生を期待できえたのであり、それがFM放送の良い音だと思われていたすべてであった。
 たとえば高域のfレンジの広さを考えてみよう。放送で聞いたローチのシンバルとくらべ、同じレコードの音の方がずっと鮮かであるのが常であった。そして、これは局側て放送波になるまでの多くの過程をへたことに起因するのと思いこまれていた。これはなにも技術を知らない者だけでなく、高い技術的知識を持ったオーディオ・マニアでさえそう信じていたのてある。
 トリオからKT7000の予告があったとき、私はその技術的すべてが信じられなかった。その実物をみるまで、予告されたクリスタル・フィルター+ICという回路は、あくまでも宣伝のメリットであるにすぎないだろうとたかをくっていた。’68年代に入ってから米国のレシーバーの多くにICが採用されてきたが、それはICの良さを発揮するというよりも、あくまて宣伝上のうたい文句であったことからそう思っていたのである。ICによってトランジスターと比べものにならぬほど高い増幅度を得ることができるのは確かだが、それはいままでの回路常識によっては本当の良さを発揮できず、集中同調回路、または理想的なクリスタ・ルフィルターと併用してこそ本当にすぐれた回路構成ができることを私は知っていたのである。そして、その通りの理想的構成をKT7000はそなえていた。KT7000を初めて見たのは内輪の発表会ではあったが、その後メーカーを訪ずれた際、その全貌をじっくりみせてもらうことができた。
 その技術的レベルの高さ! ここにはまぎれもなく世界最高水準のFM受信回路が秘められていた。それもクリスタル・フィルター+ICのIF回路だけでなく、いたるところ、チューナー・フロント・エンドにもマルチアダプター回路にも新しい技術が、周到な準備を棟重ねた上でのきめこまかい配慮によってびっしリと織りこまれていることを確かめたのであった。
 この高い技術に支えられたKT7000の優秀さは、ほどなく行なわれたオーディオ各誌の市販チューナー鳴き合せでもいかんなく発揮された。国産中はおろか、はるかに高価な海外製品とくらべても一歩も譲るところなく、それに上まわる結果を示し、米国市場において、もっとも多量のFMチューナーを提供してきた実績を持つトリオの真価を発揮したのである。
 私の耳によって確かめた優秀さの実際をひとつだけ記しておこう。
 ステレオ放送の初め片チャンネルからのみ音を出す準備の音だしの際、音のでていないはずのもう一方のチャンネルの音量だけあげて聞いてみる。KT7000の以外のチューナーの多くは、もれた音が歪っぼく聞けるのに、KT7000ては優れたセパレーションがもれを極端に少なく押え、その音はいささかも歪ぽい感じを受けない。これはIF特性、マルチ回路全体の優れた位相特性のたまものであり、KT7000によってそれが初めて実現されたといえるのである。
 6万円近い高価な価格も、技術とその音を聞けば、お買徳品てあることは間達いなく、ベスト・セラーになるだろう。

フィデリティ・リサーチ FR-5

菅野沖彦

スイングジャーナル 6月号(1969年5月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 カートリッジが再生装置の入口として大切なことは今さらいうまでもない。確実にレコードの音溝に刻まれた振動を検出して、素直に電気エネルギーに変換するのが役目である溝を針がたどって、そのふれを発電素子に伝えるという点ではどのカートリッジも同じ方法によっている。つまりカンチレパーといわれるパイプの棒の先に針がついていて、その反対側にマグネットなりコイルなりあるいはその他のエネルギ一変換に必要な物体がついているわけだ。その材質や形状には各設計者の意図や技術が反影していて千差万別だが、基本構造には変りがない。この振動体を弾性体て支えて、針先が常に所定の位置を保つようになっているがこれをダンパーといっている。これらを総称して振動系というが、この振動系の設計製造がカートリッジの特性をほぼ決定するのである。これを電気エネルギ一に変換する変換系にはいろいろな方式があるが、まず振動系が正しく働かなければ、そのあとにいかなる忠実な変換系を用意してもまったく無意味である。MMとかMCとか、あるいは光電子式とかいったカートリッジの種類はすべて変換系についての分類であるが、こうしたタイプの差だけをもってどれがよいか悪いかを決めこむことは出来ないという理由がここにある。
 フィデリティ・リサーチというピックアップ専門メーカーは従来その代表作FR1シリーズで高い信頼を得てきたメーカーである。FR1は改良型MK2になってますます力を発揮し、最高級カートリッジとして広く認められている。このFR1系はMC型であったから、FRといえばMCカートリッジという印象をもっておられる方もあるだろう。同社は古くからMM型の開発もしていたらしいが、製品として市場に登場するのはこのFR5が初めてである。MM、MCというタイプの違いこそあれ、FRの専門メーカーとしてのキメの細い設計製造技術は、まず振動系の完成度の高さに特徴があると思われ、このMM型の出現には大きな期待が寄せられた。
 MM型はMC型に対して使用上いくつかの利点をもっている。まず、出力電圧が高く、そのまま普通のアンプに接続できること、次に針先の交換が容易であることなどである。商品として大量生産向きであることもひとつのメリットだが、これはメーカー・サイドの問題である。そして、このFR5はMM型とはいえ、本体内のコイルのターンニングが特殊で、あまり量産向きではない。このMM型はいかにもFRらしい、こった設計でマニア向けの高級品といえる。磁性体の歪については、すでにFRT3という整合トランスで立証済の高い技術力をもつFRだから低歪率のMM型カートリッジの出現となったのも不思議ではない。ここへくると話は変換系の問題になるのだが、水準以上の振動系が出来上ると変換系の直線性も問題になってくるのである。ひらたくいえば、正確に楽器をたたくテクニックが完成してこそ次に音楽性の問題がでてくるようなものだ。もっとも音楽性のない奴はテクニックも完成しにくいように、カートリッジも変換系と振動系は密接な関係があって実際には2つを分けて考えるのが難しい。ある種の変換系では振動系を理想的にもっていけないという制約もある。その点、MC、MMといった方式では非常に高度なものを実現化できるのである。FR1の追求によって生れた高い機械的技術と磁性歪に関する豊富な資料が生んだこのFR5はMMカートリッジに新風を吹きこむものだ。
 音質は非常にクリアーで歪が少ない。これはジャズのプログラム・ソースに対してはパンチの欠けた弱々しい印象につながる場合もあるかもしれない。特にある種のルディ・ヴァン・ゲルダーの録音のように、どす黒い凄みのある音には品がよすぎるようだ。しかし、物理的に歪の少い高度な録音、たとえばボブ・シンプソンのO・ピーターソンの録音とかコンテンポラリーのロイ・デュナンのものなどには真価を発揮する。のびきった高域特性が保証するシンバルのハーモニックスの美しさ、デリケートな息使いの手にとるような再現が見事であった。

パイオニア SA-70

菅野沖彦

スイングジャーナル 5月号(1969年4月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 プリ・メイン・アンプSA70はパイオニアが新しく発売した一連のアンプの中の一つで、求めやすい価格で高級アンプの機能をそなえた注目の製品である。アンプの形式として、プリ・メイン型は最も人気のあるものだし、事実、使いやすさの点でもセパレート型や一体型の綜合アンプよりも好ましい。プリとメインの独立したセパレート型は、それなりに設計上の理由があるはずだが、市販製品のすべてがそうした必然性から生れてきたものばかりともいえない。プリとメインが一体になっていて感じる不都合さはないといってもよいほどなのである。ただし、それにはプリ部とパワー部とが切離すことができるというのが条件であるが、この点でも最近のプリとメイン型は考慮がされているし、このSA70は後で述べるが、特にこの点には細かい気の配ばられた設計である。一方、チューナーつきの綜合アンプ、いわゆるレシーバーと称されるものも、ほとんどの場合、別に不都合はないのだが、チューナーを使わない時にも電源が入っていて働いているといったことや、配置の変化や機能的な制約などで不満がでることもある。また、なんといっても、各種単体パーツを自由に選択し使いこなすといったマニア心理からすれば綜合型は向かないだろう。そんなわけで、アンプの主力がプリ・メイン型となったわけだろうが、ここ当分はこのタイプの全盛時代が続きそうである。当然のことだが、このタイプのアンプには各社が最も力を入れていて種類も豊富だし、性能のよいものが多いのである。そうした状況下で発売されたのが、SA70とSA90だが、共にパイオニアとしては初の本格的なTRプリ・メイン・アンプなのである。同社がこの製品にかける熱意がよくうかがえる力作だ。まず音質についてだが、大変好ましいバランスをもっていて、高域の癖がなく自然な再現が得られ、中低域の量感が豊かで暖い。切れこみのよい解像力は音像がくっきりと浮彫りにされて快い。パワーも十分余裕があって、能率のよくないブックシェルフ・タイプのスピーカー・システムでも思う存分ドライヴすることができる。この価格として考えると大変プライス・パフォーマンスの優れた、まさにお買徳品といった印象が強い。
 このアンプの機能的特長としては最高級アンプと同等の、ないしは、かつてのアンプにはない、豊富なユティリティを持ち、アイディア豊かな、そしてユーザーの立場に立った親切な設計が感じられる。その最たる点はプリ・アンプ部とメイン・アンプ部とのジャンクションである。最近のプリ・メイン型はすでに書いたようにプリとメインを切り離して独立させて使えるようにジャンパー・ターミナルのついたものが多くなったが、特にこの製品では、プリ・アンプの出力を大きくとって単体として使いやすいように工夫されている。スイッチによって、結合状態と分離状態とで入出力のゲイン・コントロールをバランスさせているのが興味深い。これは、後日チャンネル・アンプ・システムなどに発展させるにあたって便利である。プリ・アンプの出力とメイン・アンプの入力レベルの規格が各メーカーによって異る場合にも心配がない。さらに、フォノの入力は2系統で、フォノ2は前面パネルに設けられたプッシュ・ボタンでMCカートリッジ用の入力回路に切り換えられるし、−20dbのミューティング、2組のスピーカーの切換と同時駆動スイッチなど万全のアクセサリーだ。トーン・コントロールは3dbステップのスイッチ式というように、なかなかこっていて、いかにもマニアの心理を知りつくしたサービス精神にあふれている。
 短時間ではあったが使ってみて感じたことは、最近の製品の共通した特長であるパワー・スイッチとスピーカー切換スイッチの共通は必らずしも便利とは云い切れないこと、モード切換スイッチのST、L、R、L+Rの順序は
ST、L+R、L、Rのほうが使いよいと思ったぐらいで、非常に使いよく、デザインも美しく、コンパクトなサイズとよくバランスして愛着を感じるに十分な雰囲気をもったまとまりである。全予算を10〜15万円位にとった時のアンプとして最適のものだし、将来のグレード・アップにも立派にフォローできる。

ティアック LS-360

岩崎千明

スイングジャーナル 5月号(1969年4月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 ティアックが最初にスピーカー・システムを発表したのはもう一年も前であった。かなり好評をもってむかえられたこの大型ブックシェルフ型スピーカーの音に、初めて接したとき、私はそれほど感じなかったがまた同時にテープレコーダー・メーカーとしてトップ・クォリティをうたわれるティアックの音に対する独特なポリシーないしは立場のむつかしさというものの一面をかい間みた思いがした。テープレコーダーというものはレコードと一律にして判断でき得ないきわめて優れた再生品位を持っている。これはまぎれもない事実である。そして、これと表裏一体のマイナスの面も無視はできないこのマイナス面にはヒスを主体とするSNがあり、あるいは位相の問題もあろう。このマイナス面を意識しすぎた音作りが最初のスピーカー・システムの音にあったといえるのである。
 具体的にいうならば声や歌が生々しいプレゼンスを持っているのにかかわらず器楽曲における類をみない独得の音色的バランスである。ヒスに対しての心使いから生れたのであろうが、少し高域が足りないようである。
 TEACというブランドの知名度は、日本においてよりも米国マニアの間での方がより高い。それもずっと以前、ステレオ初期から、超高級テープレコーダー・コンサートン・ブランドのメーカーということで伝説的でさえあった。
 そして、このトップ・レベルののれんがスピーカー・システムという音作り一本の商品に気おいこみすぎた結果といえそうだ。さてこのところテープレコーダーのティアックがマニアの間でますます地盤を固めてきた結果プレイヤー、アンプなど商品の範囲を広げるのは当然である。プレイヤーはマグネフロートを吸収してティアック独特の精密仕上げにより性能を一新した傑作であり、また当初海外向けに出されたアンプはとかく、ユニークな設計と企画のインテグレイト・タイプAS200は、これまた高品位の再生に期待通りの真価を発揮する優秀製品である。JBLのアンプを思わせるAS200の出現は、引き続きティアックが本格的なスピーカー・システムにも力を入れてくることを予想させた。
 今回発表された新型システムLS360は、まぎれもなく「ティアック」ブランドにふさわしいスピーカー・システムということができる。
 30cmウーハーを使用した3ウェイという常識的な構成をうんぬんすることは、ここでは必要ないだろう。注目したいのは、単にハイ・ファイ・テープレコーダー・メーカーというせまい立場で、この音は企画され設計されたのではないといえる点だ。AS200の回路構成にみられるコンピュータ技術に立脚した回路、たとえば差動アンプ回路やその安定性、またこのハイ・レベルの音から知ることのできるハイ・ファイ的センス、これは単にテープレコーダーの高級品メカニズムだけを作っていた頃のティアックのものではない。
 ハイ・ファイ総合メーカーに大きく飛躍していこうという姿勢から生み出された音作りを新型スピーカーにも見出すことができるのである。
 きわめてクリアーな歪の少なさを感じさせる中音。かつてのシステムから一段とレベル・アップしたすぐれたバランスの上に成り立っている音は分解能力の点でもずばぬけ、手元にあったヴォルテックス・レーベルの前衛派の数枚は、定位よくマッシヴに再現され、ひときわ鮮烈さを増したことを伝えよう。中音域に起因すると思われるいま少しのブラスの輝きがほしいが、このスケールの大きな音がこの価格で得られるというのもティアックならではのことだ。

JBL Lancer 77

岩崎千明

スイングジャーナル 5月号(1969年4月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より

 アメリカ人は、JBLとかジムランといういい方をしない。ランシングと呼んでいる。James B Lansingの略だから当然で、このランシングスピーカーは米国の相当なマニアにとっても「高価な豪華品」を意味している。
 さてこのJ・B・ランシング社にランサーという名をつけたシステムが出たのは確か5年前である。
 ランサーという名からは、本来の語意の槍騎兵にふさわしいマスートなセンスをうかがわれるが、さらにこの名からシリーズに賭けた意欲をも知ることができよう。
 この時期を境にしてJBLはスピーカー・メーカーから規模も狙いもぐんと拡大した大型メーカーとして生れ変ったようだ。ランサーには、おなじみLE8Tを主体にし、パッシブ・ラジエター(ドローン・コーン)で低域を素直にのばした比較的普及価格のランサー44があるが、その一段とハイ・クォリティーの製品がランサー77である。
 さらにその上にパワー・アンプつきのランサー99や、このシリーズ最高級のランサー101がある。
 ARスピーカーの爆発的人気を意識して作られたこのランサーのシリーズの特長は「広い帯域特性と、素直な音色バランス」にある。ハイファイ技術のきわめて高度に達した今日では、広帯域特性はひとつの最低条件ともなっている。しかし、ランシング・スピーカーの最大の特長は、あくまでもその高能率と分解能のずばぬけた優秀性とにあり、これがいかなる楽器の音をも鮮やかに再現する基本的な底力としてこの社のスピーカーの他にない特長であり、ポイントでもあった。そして、この優秀性を基本的には損なうことなく、広いレンジを得たのが、ランサー・シリーズなのである。
 こういう点を考えると、ランサー・シリーズの中でも、もっともランサーらしい優秀性をそなえている製品はランサー77である。
 ランサー77は、JBLだけでなく米国製としても珍らしい10インチ25センチ・ウーファーが主力となっているが、この10インチ・ウーファーLE10Aはブックシェルフ型ランサー77のために設計されたのに相違ない。つまり本来のシステムとしての優秀性を確保すべく、広帯域ウーファーとして作られたものだ。当初はLE30Aという口径3インチのドーム・ラジエター・タイプのトゥイーターと組み合せて発表されたが、高域の鮮かさと指向特性とを改善する意味もあってか、いまは小口径のLE20Aとの組合せでランサー77として発表されている。
 この一見なんの変哲もないLE20Aからたたき出されるシンバルの音はまったく紙質のコーンから出てるとは思えない。このシンバルのブラッシの余韻やすみきった超高音はいわゆる周波数域だけでなく、優れた指向特性の所産でもある。
 そして、この超高音特性に加えてLE10Aにパッシブ・ラジエターを加えて超低域特性をスッキリと素直に伸ばしている点で、ランサー・シリーズ中でも広帯域特性という点でずばぬけた製品だ。加えて、中音域のややおとなしいひかえめなバランスはJBLスピーカーには珍らしいほどである。しかもひとたびブラスのソロに接するや輝かしいタッチをくっきりと再現しフルバンドの咆哮にはスケールの大きな音場を鮮烈に再現してくれる点は、JBLならではといえよう。
 93、500円という価格はブックシェルフタイプとしてたしかにかなり高価なものには違いない。しかしこの音に接したなら多くの市場製品の中でも抜群のコスト/パーフォーマンスを得るに違いない優秀システムがこのランサー77なのである。

デンオン DP-4500

岩崎千明

スイングジャーナル 4月号(1969年3月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より

 音楽ファンが、レコードから音楽だけでなく、音そのもののよしあしに気付いてくると、機械の方にもこり出してくる。そして装置がステレオ・セットから、アンプ、スピーカー、プレイヤーと、独立したコンポーネントになり、さらにそれが高級化の道をたどるようになって、オーディオ・マニアと呼ばれるようになる。その辺で妥協してしまえばよいのにこのあとも時間と金をつぎこみ、泥沼に入るようになると、呼ばれているだけでなく、本当の「マニア」になってしまう。そういうマニアが極点として、放送局仕様のコンポーネントを揃えるというのはしばしばみられる行き方である。海外製の高級パーツを揃える場合と似て、ひとつの標準として、自分自身に納得させ、安心させるに足るよりどころをそなえている点が、魅力となっているのだろう。たしかに、放送というぼう大な聴き手のマスコミにおいて使われる機器であるだけに、それは最大公約数的な意味の「標準」として、またさらに信頼度と安定度とを要求される。この「標準」によって音楽を聞くことにより、ひとつの安心感のもとに音楽を楽しむことができるというものだ。
 またさらにオーディオ一辺倒の音キチでなく、本当の音楽ファンが音の良さに気付いた場合の機械に対する手段としても、放送局仕様のパーツで装置を形成するケースも少なくない。どちらの場合でも、局用仕様という点が「標準」として誰をも納得させるからであり、そういう点では正しい結論といい得る。
 オーディオ技術が進み、しだいに優れた製品が多くなり、どれを選んだらよいかという嬉しい迷いが多くなったこの頃、放送局用仕様という「スタンダード」は、かくて大きな意味を持ってきたようである。
 特にNHKにおいて使われている音楽再生装置に最近は著しくマニアの眼が向けられるようになった。三菱のダイヤトーンのスピーカーがそうであり、コロムビア・デンオンのテープ・デッキや、ここに紹介するデンオン・プレイヤーがそうである。
 デンオンは本来、NHKのスタジオ演奏用機器の設計製作だけを目的としたメーカーであった。NHKの他、官公庁の装置をわずか作るだけで、全然といってよいほど一般市販品を作っていなかった。
 ところが、コロムビアがデンオンを吸収したことが、マニアの福音となって、待ちこがれた局用仕様がマニアの手に入ることになった。
 その中でも、特に注目されているのが、DL103カートリッジである。
 ステレオ・レコード演奏用としてNHK技術研究所と、デンオンが協同開発したカートリッジである。昔モノーラル・レコード用として同様に協同開発したPUC3が米国の最高級と絶賛されたフェアチャイルドなどと互角に張り合った高性能を知る者にとって、このDL103は大きな期待を抱かせた。そしてDL103のこの上ない素直な音はどんなマニアをも納得させずにはおかなかった。装置の他の部分がよければよいほどDL103はそれにこたえて新らしい音の世界を開いてくれたのである。
 コロムビア・デンオンが、高級マニアのために企画したプレイヤーDP4500に、このDL103がつくのは当然すぎる企画だろう。そしてこのカートリッジの高性能を引出すシンプルな、しかし高精度で仕上げられたアームと、マグネフロート機構でロング・ベスト・セラーのベルト・ドライブ・ターンテーブルを組み合せたプレイヤーが、このDP4500だ。もし、予算に制限をつけず、安心して使えるプレイヤーを選ぶことを望まれたら、少しの迷いもなく薦められる、価値あるプレイヤーだろう。

マルチ・チャンネル・ステレオとは

菅野沖彦

スイングジャーナル 4月号(1969年3月発行)
「オーディオ・コーナー ’69ステレオの新傾向」より

マルチ・チャンネル・アンプ・システムとは何か
 オーディオに関心のある人は、近頃この言葉を見たり聞いたりすることだろう。これは最近流行のきざしをみせているアンプのシステムで、高音、中音、低音にそれぞれ独立したアンプを使うものである。従来、スピーカーはマルチウェイ・システムといって3つあるいは4つ、またはそれ以上を音域別に使う方法は珍しくなかった。しかしこれをアンプでおこなうというのは耳馴れないことかもしれない。かといって、この方式は昔からなかったわけではなく一部高級マニアの間では使われていた。もともと1台のアンプですむ(ステレオなら左右各1台)ものを、2台も3台も使うのであるから費用もかさむし使い方もやさしくはないということで一般には敬遠されていたのだが、最近になってアンプがトランジスタ化されて小さくまとめられるようになったり、再生装置の水準が高くなって、ある程度の域まで達成されてさらに質的向上を追求する結果、一般にも普及のきざしを見せてきたわけだ。
 図をみていただけばおわかりのように、チャンネル・アンプ・システムは、ブリ・アンプの出力をチャンネル・フィルター(フィルター・アンプとかデバイディング・フィルターとも呼ぶ)によって周波数帯域別に分割し、それぞれの帯域に専用のパワー・アンプを使う。その結果、従来のマルチ・ウェイ・スピーカーシステムに使われていたネットワークは不必要になり、アンプとスピーカーは直結される。この分割する帯域の数によって2チャンネルとか3チャンネル、あるいは4チャンネルなどと呼ぶ。それでは、なぜこんなことをするのか、どういう利点があるのかということについて考えてみることにしよう。チャンネル・アンプのメリットについて説明するためには従来のネットワーク式の欠点について述べなければならないだろう。ネットワーク式に欠点がないとすればわざわざこんな面倒でお金のかかることをしなくてもよいと思われるからである。しかし、ネットワークの欠点などというと、ネットワーク式ではよい音が得られないというように早飲み込みされる危険がありそうだ。実際にはネットワーク式でも最高の音を求めることも不可能ではなく、チャンネル・アンプ式は理論的な根拠をもったよりよき音へのアドヴェンチャーであると解していただきたい。したがって、チャンネル・アンプなら必らずネットワーク式より音がよいとは限らず、優れた設計と高度な製造技術による高性能の製品と、高い感覚と豊かな音楽的体験による使いこなしがともなわければその真価は発揮されないと思う。チャンネル・アンプのメリットを述べるにあたっての前置きが長くなってしまったが、この辺をよく理解していただいかないと、いろいろ誤解を生じると思う。
 低音用のスピーカーには高い音を切って低音だけ、中音用には低い音と高い音の両方を切り、高音用には低いほうを切って高い音だけを供給するという必要があることはおわかり願えると思う。そのためには、スピーカーの前でそういう分割作用をおこなわなければならず、その役目を果すのがネットワークやチャンネル・フィルターである。ネットワークはアンプとスピーカーの間に挿入され、チャンネル・フィルターはアンプの前段に近いところに挿入されるネットワークに使われているLC素子には、アンプの性能を多少劣化させるものがあり、これを取り除きたいためにチャンネル・アンプが生まれた。チャンネル・アンプではRC素子回路で周波数分割をおこなえるものでこの害がない。ここでのLはチョークコイル、Cはコンデンサー、Rは抵抗である。この中でLはよほど巧みな設計とぜいたくな作り方をしないとアンプとスピーカーの間に入って音質を害するとされている。また、帯域別にパワー・アンプを使うと、ひとつのアンプが分担する周波数範囲が限定されるためにアンプそれぞれの負担が軽くなり働きやすくなる。音質を悪くする最大の要因にIM歪(混変調歪)というものがあるが、これは、高い周波数がエネルギーの大きな低い周波数に邪魔されて起る歪でチャンネル・アンプにすればアンプにおけるIM歪の発生が大きく減るものと考えられる。これはスピーカーについてもいえることで、ひとつのスピーカーで全域を受け持たせるより2~3分割したマルチ・ウェイ・スピーカー・システムのほうが有利である。ネットワーク式ではアンプのIM歪はどうにもならないが、チャンネル・アンプ式では、これを軽減できるわけだ。このIM歪はカートリッジやプリ・アンプでも問題となるが、少なくともパワー・アンプ以後では従来のネットワーク式より有利になると考えてよいだろう。この他、それぞれの帯域のレベル・コントロール(音量調節)をするために、ネットワーク式で使われるアッテネーターもよほどのものを使わないと音質に影響があり、調節範囲を限定したタップ式で3段切換で増減するのが普通だが、フィルター・アンプなら、これをボリュームで自由にコントロールできるという利点もある。さらに、高中低それぞれの周波数範囲が交叉する点(クロス・オーバー・ポイント)を正確にとるには、ネットワーク式では使うスピーカーの特性によって変るのだが、チャンネル・フィルターでは問題ない。つまり、ネットワークはそれぞれのスピーカ一専門のものしか使えないが、チャンネル・アンプならどんなスピーカーをつないでも正確な分割ができる。これらの利点のために得られる音は抜けのよい透明な音質、歯切れのよい明解な音質といった印象に連なることになるのだが、それにはそれ相応の知識と経験を必要とする。以上でごく大ざっばにそのメリットの可能性については理解していただけたと思うので、次にその使い方や正しい考え方について述べよう。

チャンネル・アンプ・システムには何が必要か
 全帯域を3分割する3チャンネルが最も一般的なので、それを例にとって話しを進めよう。
 まず必要なのは独立したブリ・アンプである。ないしは、プリとパワー部を分離することのできるプリ・メイン・アンプが必要。最近の新製品(チューナー組込みの総合アンプは除く)にはこの分離ができるものが多い。アンプの後面端子板にジャンパー・ターミナルが出ていて、これを切り離すことによってそれぞれ独立したアンプとして使えるようになっている。
 次に必要なのがチャンネル・フィルターである。
 3分割するのだからパワー・アンプが3台必要。片チャンネル3台ずつだからステレオでは実に6台のアンプということになる。この場合、先述のプリ・メイン・アンプを使えば買いたすパワー・アンプは2台である。もう察しがついたことと思うが、ジャンパー・ターミナルのついたプリ・メイン・アンプを買っておけば、当初はネットワーク式で使っておいて、後にフィルターとパワー・アンプ2台を買い足してチャンネル・アンプ式にスムースにグレード・アップできるわけだ。
 最後に当り前の話だがスピーカー・システムが必要。3チャンネルのアンプでドライブするのだから3ウェイのシステムがいるわけ。大抵のシステムはスピーカーのターミナルとして+-1組が出ていて、箱の中でネットワークを通してそれぞれのスピーカーに結線されている。しかし、チャンネル・アンプでドライブするには、高、中、低、それぞれのスピーカーへ直接結線する必要があるから+-3組のターミナルがなければならない。したがって多少スピーカー・システムに手を加えなければならないが、そのぐらいはだれにでも出来る。最近のシステムでは、ネットワーク、チャンネル両方のターミナルが設けられスイッチで切りかえるようになっているものが多くなった。しかし、ここで少々脱線するが、チャンネル・アンプ・システムの究極の姿というのはスピーカーを単体で組み合わせて高度なシステムを完成するというほどの高い水準にあるといってよく、このシステムに取組むにはその程度の覚悟が必要だ。さもなくば、メーカーの完成品に、このシステムが利用されたものがあるから、それを買ったほうが得策だと思う。
 さて、これだけのユニット・コンポーネントがそろえばチャンネル・アンプ・システム構成の準備は整ったわけで、次にこれを正しく組み合わせて使う段になる。

チャンネル・アンプ・システムは次のことに注意する
 正しい配線と、バランスのとれたレベル・コントロールの2つがチャンネル・アンプ・システムを完成させる必要十分条件である。正しい配線をするためには少なくとも以下に述べることを知っておくこと、またバランスのとれたレベル・コントロールをするには日頃の音楽的体験と全般的なオーディオの知識が必要である。毎号本誌を熟読していれば、それは自然に養われているはずだと思うが……。
 正しい配線をするためには、チャンネル・フィルターについて理解する必要がある。製品によっても異るが、普通、チャンネル・フィルターには、レベル・コントロールが3組(高中低が左右一組ずつ)とグロスオーバー周波数切換スイッチの2つがついている。この他、遮断特性切換とか低音増強ツマミなどのついたものもあるが、ここで大切なのは、クロスオーバー周波数切換スイッチである。クロスオーバー周波数とはすでに述べたように、分割する周波数帯域の交差点であり、使うスピーカーによって最適なポイントを選べるように何種類かに切換えられるようなスイッチがついている。低音と中音の間を150Hz、300Hz、600Hzの3点、中音と高音の間を2、000Hz、4、000Hz、6、000Hzの3点といった具合に切換えられるわけで、この周波数ポイントの選び方が、音質に大きな影響を及ぼす。最適値を決めるためには、使用スピーカーの特性をよく理解し、メーカーの指定があればそれを参考に、なければ、特性表などから推測して、それぞれのスピーカーの無理のない範囲を有効に選ぶ必要がある。普通、スピーカーにはf0といって最低共振周波数がある。そして、それ以下の低域は使えない。例えば、30cmスピーカーでfoが50Hzとあればそのスピーカーの再生できる低音の限界は 50Hzだと思ってよい。これが中音に使う12cm~20cmのスピーカーでも同じことで、そのf0以下にクロスオーバーをとることは論外である。かといって、低音に大口径スピーカーを使った場合、あまり高いほうまでこのスピーカーに受け持たせると歪が多くなるし音質的に好ましくない。その兼ね合いがむずかしくクロスオーバーの決定の秘術が生まれることになる。またホーン・スピーカーではそのホーンのカットオフ周波数が再生できる低限であり、普通それより高い所でつなぐのが常識だ。中音用にホーン・スコーカーを使う場合など、クロスオーバーはあまり低くとれないのでウーハーの高域特性のよいものが要求される。こういう点を一応理解した上で、データがあればそれに従ってクロスオーバー周波数を選び(厳密に考える必要はなく、±10Hz~15Hzは問題ない)、さらにいろいろ切換えて音を聴くべきであろう。メーカーの指定より100~200Hz高い(低い)ところでつないだほうがよい音になったというようなケースも珍しくなく、スピーカー・ボックスや部屋の条件で変るから、かなりフレキシブルに考えてよい。
 プリ・アンプの出力端子とチャンネル・フィルターの入力端子をピン・ジャックでつなぎ、チャンネル・フィルターの高中低それぞれの出力端子を3台のパワー・アンプの入力端子に同じようにつなぐわけだが、パワー・アンプと各スピーカーのつなぎ方に注意する点がある。ご存知のことと思うが、ステレオの場合、左右スピーカーの+-の接続が狂っていると再生音はよくない。これを位相が狂っているというが、チャンネル・アンプの場合は、左右それぞれ片側だけで高中低と3台のスピーカーにつなぐわけで、その間の位相が問題となる。高音用スピーカーに対して中音用の+-がひっくり返っていたり、高音、中音はそろっていても低音だけでひっくり返っていたというようなトラブルが非常に多い。左右で12本の配線ともなると実際にゴチャゴチャになるもので、余程注意して配線しなければ、あとでなんとなく音が悪くても気がつかず、よけいな心配をするものだ。すべてのスピーカーの+-がアンプの+-と正しくつながっていることが原則として必要だから念には念を入れてチェックすることである。原則としてと、ことわったけど、これには理由があって、クロスオーバー周波数の減衰特性(遮断特性)によって位相が変化するので、場合によってはスコーカー(中音域)だけを+-をひっくり返してつなぐ必要がある場合が起る。しかし大抵の場合は、フィルター内で処理されているから、アンプとスピーカーの指示を合わせればよいと考えるべきだろう。この減衰特性は、ゆるやかに下るもの、急激に下るものというようにいろいろな考え方から設計されており、通常、6db/oct、12db/oct、18db/oct、の3種がある。これは1オクターブで6db下るという意味で、12db、18dbとなるにつれ急激なカーブを描くわけだ。シャープに交叉させるほうがよいか、ブロードな曲線で交叉させるほうがよいかについては諸説があるが、正しく設計製作されていれば12dbか18db/octがよい。切換えスイッチがある場合は試聴で決定することになる。
 さて、正しい配線が終ったら、いよいよ各帯域のレベル・コントロールということになるが、私たちが一般におこなっている方法をお教えしよう。
 聴きなれたレコードを用意する。プリ・アンプのモード・セレクターをモノーラルにする。バランス・コントロールをどちらか一杯に廻して左か右だけのシステムを生かす。レコードをかけて、中、高はしぼりこみ、低音だけ一杯にあげる。次第に中音を上げていき、低音との調和のよいと思える点でとめる。次に高音のボリュームを同じ要領でコントロールする。もしこの過程で、中音を一杯にあげても足りない場合には低音を、高音を一杯にあげても足りない場合には中音と、それにともなって低音それぞれ下げることになる。バランス・コントロールを逆に廻して、もう一方のシステムだけを生かす。先に調節したツマミの位置にならって調節し、あとは、左右のシステムの音をそろえる。ついでに、バランス・コントロールの中点で音が中央から出てくるようにする。ここで初めてモードをステレオに切り換えるとすばらしい立体音が得られるという仕掛け。言葉でいうとこうなるのだが、実際にはこの調整は大変難しいし、やりがいのあるものだ。ありとあらゆるレコードで、長時間かけて、腹の減っている時、ふくれている時、天気のよい日、悪い日といったあんばいに、なにしろ微妙に変化する音のコントロールであるから、じっくり落ち着いてやりたいもの。1か月や2か月はかかってもなんの不思議はないだろう。ご健闘を祈る。

市販されているマルチ・チャンネル用のコンポーネント
 プリ・アンプ、パワー・アンプ、プリ・メイン・アンプ、そしてチャンネル・フィルターなどで構成することはすでに述べたが、現在市場にある製品で代表的なものについてご参考までに紹介しておこう。まず、とりあえず、ネットワーク式で使えて、さきへいってからチャンネル・アンプに発展させるという目的から、プリ・メイン型を見ることにする。
〈トリオ〉
 KA4000、KA6000、そして新しく発表されたKA2600など、すべてのプリ・メイン型はプリとパワーのジャンパー・ターミナルによりグレード・アップが容易である。
〈パイオニア〉
 SA70、SA90という新製品がプリとパワーのジャンパー・ターミナルに独特のアイディアが盛り込まれて使いよい製品。プライス・パーフォーマンスの優れた高性能アンプである。
〈サンスイ〉
 AU555、AU777が中心となってこの社のポリシーであるグレード・アップのスタート・ラインをつくっている。コンポーネント・システムによるチャンネル・アンプ化への積極的な姿勢で一貫していて頼もしい。
〈ソニー〉
 TA1120Aが代表製品で、高級プリ・メイン・アンプとしてのすべての機能を備えている。同社の一連の製品でチャンネル・アンプ・システム化が可能である。
〈ラックス〉
 新製品SQ505、SQ606でソリッド・ステート・アンプを完全に消化したラックスはもともとこうしたコンポーネント専門のメーカーである。
〈コーラル]
 A550が中級品のプリ・メイン型としてグレード・アップに適している。
〈ナショナル〉
 テクニクス50Aが発表されており期待される。
〈ティアック〉
 AS200が現時点での代表製品で、もちろん、プリとパワーの切り離しが可能で将来の発展に差支えない。

 ところで初めからプリとパワーを独立で構成させていく方法も考えられる。セパレート・アンプとしての代表製品を同じように展望して見よう。
〈パイオニア〉
 SC100という高級プリ・アンプとSM100というパワー・アンプがコンビとして考えられる。さらに新製品で価格的に求めやすいSC70(プリ)、SM70(パワー)も発展的なコンポーネントとしての典型的なものといえるだろう。
〈サンスイ〉
 プリ・アンプはCA303がユニークな高級品。これは中にチャンネル・フィルターが組込めるようになってあり、マルチ化のためのプリ・アンブといってよい。パワー・アンプとしてはBA60、BA90が主力製品だ。
〈トリオ〉
 新しく発売したM6000というパワー・アンプを使って、同社のプリ・メイン型へ加えてのグレード・アップが可能である。独立のプリ・アンプはまだそのライン・アップにはない。
〈ビクター〉
 プリ・アンプとしてロー・コストのMCP200、高級品PST1000、パワー・アンプとしてMCP200に対するMCM200、PST1000に対するMST1000と優秀製品がそろっている。
〈ソニー〉
 プリ・アンプはTA2000、パワー・アンプは TA3120という高級品がある。価格も性能も最高の製品で信頼度も高い。
〈ナショナル〉
 テクニクス・シリーズの機器はぜいたくな高級製品で、ブリ・アンプは管球式のテクニクス30A、パワー・アンプも同じ管球式の40Aが堂々たる風格。
〈ラックス〉
 PL45という高級ユニバーサル・プリ・アンプがある。管球式で同社の高い技術水準を反映した優秀製品。パワー・アンプはMQ36という大型なマニア向きのものがある。
〈マランツ〉
 アメリカ製の最高級アンプで、プリが7T、パワーが15という魅力的な製品がそろっている。
〈JBL〉
 スピーカー・メーカーとして有名なアメリカのメーカーだがそのアンプも非常に高度な回路技術を駆使した優秀品で、プリはSg520、パワーはSE400S。
〈マッキントッシュ〉
 アメリカの最高級品として前2者と共に有名。管球式のプリC22とパワー・アンプMC240、MC275がアンプの王者といわれている。

 このように、ちょっと代表的なものを眺めただけでも枚挙にいとまのないほどであるが、最後にチャンネル・フィルターをあげておくことにする。市販の全製品といってよいほど大部分が3チャンネルで、中には2チャンネルにも使えるものが多い
 ソニーのTA4300はロー・ブーストやブースト立上り周波数の切換スイッチまでついたぜいたくな製品でやや大型だが同社のシリーズと一貫したデザインでまとめられている。
 ビクターのMCF200はMCP200、MCM200とのシリーズで小型で使いやすく機能的にも完備した優秀品。
 サンスイではCD3が主力製品だったが近く廉価品のCD5が発売される。
 トリオは高級品F6000を発表しているが市場に出るのは6月の予定
 YL音響にCH401という4チャンネルまで可能なフィルターがあり同社のプリ・アンプSCU33、パワー・アンプTM40とシリーズをつくっている。
 以上きわめて概観的にマルチ・チャンネル・アンプ・システムについて眺めてみた。我と思わん方は、是非このシステムに挑戦していただきたい。インパルシヴなジャズのミュージック・ソースを混濁なく、大出力で安定して再生するためには、こうした高級システムが大いに威力を揮するものである。

ソニー STR-6500

岩崎千明

スイングジャーナル 4月号(1969年3月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 ソニーのこのSTR6500を私が知ったのは、秋の大阪のオーディオ・フェアであった。私はその価格を知ったとき本当に驚ろいた。
 国産はおろか全世界のハイ・ファイ市場においてその高品質が抜群のTA1120をはじめとして、SJ誌増刊でも私が選んだチューナーつき6060も、ソニー・ブランドのアンプはきわめて高品質だが、高価格と相場がきまっていた。もっとも高価格といっても、このずばぬけた性能と、内部の金のかかったパーツ群をみれば、コスト・パフォーマンスという点では、あるいは一番のお買徳かも知れない。もし他のメーカーでこれだけのものを作ったら、おそらく倍近い価格をつけるのではないか? と思うくらいである。
 このソニーが新製品に4万円台という価格をつけた! 安いことに驚いたのではなく、このクラスのアンプにソニーが乗りだしたという事実についてである。
 4万円台ながら、前面パネルのデザインやつまみ、パネルの仕上げは今までの路線上にあるもので、一見6万円台を思わせる豪華さである。手を抜かない仕上げがソニーのハイ・ファイ・メーカーとしての貫禄をにじませている。しかし、私は編集部が持参したソニーのアンプのパッケージを手にしたとき、ふと懸念を覚えた4万円台という価格からか少し軽すぎるような気がした……。スピーカーをつなぎ、音を出したとき一聴して従来のソニーとは違うものを意識させられた。今までの音が、ソニーが宣伝文句によく使っていたように冷たさを思わすほど「透明度の高い音」を感じきせるのに対し、この新型アンプは、冷たさは少しもなかった。むしろ暖かくソフトな音である。もっともこれは従来の代表製品1120の音が高いレベルにあるのでこれとくらべてはじめて感じられるのだが。
 この音は4万円台の価格と共に購売層を意識して創られたものだろうと思う。音キチやオーディオ・マニアのすべてを納得させることはできなくても、音楽を愛する人には共感と、賛辞をもって迎えられるに違いない。
 ソニーはいまや、全世界の市場をトランジスタ・ラジオとテープレコーダーで占めてしまうほどの大メーカーである。この大メーカーの優秀な技術力をハイ・ファイに傾けて1120という傑作を世に送った。この企画はいかなるアンプよりも優れた製品という当初の目的がほぼ完全な形で達せられているといえよう。高度の音楽マニアやハイ・ファイ・マニアを納得させてしまうハイ・クォリティの音が実現されたのであった。
 同じメーカーが今度は一般的な音楽ファンのための音作りがなされたアンプをひっさげて、市場のもっとも大きな需要層にのりこんでくるということ。このメーカーの新しい姿勢に、私は驚きと脅威を感じたのである。
 おそらくこのアンプは、高い人気を持って売れるであろう。歪の少ない、ウォーム・トーンが若い音楽ファンを良い方向に導いて、優れたハイ・ファイ・マニアを多く育ててくれることを期待しよう。
 そして、それゆえに私はひとこと付け加わえたいことがある。それはこのアンプが、あくまでも日本の小住宅用のものであることを……。大音量を必要とする12畳以上の部屋で使用する場合にはものたりないかも知れない。理論的なものを述るとむづかしくながくなるので、終りに私はここでこのアンプを生かした組合せの方法をひとことつけくわえたい。リスニング・ルームであるがこれは、できれば6~8畳までの部屋で、さらに組み合わすスピーカー・システムは、高能率なものを推めたい。

サンスイ SP-1001

菅野沖彦

スイングジャーナル 4月号(1969年3月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 サンスイの新製品スピーカー・システムSP1001を聴いた。同社はSPシリーズのシステムでスピーカーの音まとめを完全にマスターし、SP100以来、200、50、30、といずれも水準以上のシステムとして好評だった。SP100の当りぶりは業界でも伝説化するほどで、これほどの成果を収めた(営業的に)スピーカー・システムは後にも先にも珍しい。スピーカー・システムというものは、すべてのオーディオ製品の中で、耳によるまとめのもっとも難しいものだ。いい方をかえれば、製品の性能を決するファクターの中で、耳によるコントロールの占める部分がもっとも大きい。つまり理論的に解明されていない部分が多く、どうしても実際に聴いて仕上げていかなければならない。つまり、スピーカー・システムはそのメーカーの音への感性を雄辨に物語るわけであるから、メーカーにとっては大変こわい商品でもあるわけだ。現在のオーディオのかかえている問題の典型的なパターンがスピーカー・システムであるといっても過言ではない。もちろん理論的に裏づけられた正しい設計と、科学的に体系化され整理集積されたデータがなければ、同じオリジナリティーの製品を大量に生産することは不可能であるし、スピーカーに対して適用される現在の測定方法によるデータも満足すべきものでなくてはならない。現在の測定データは不十分ではあるが絶対に必要な条件でもある。このような実状のもとでサンスイのSPシリーズは実にみごとに物理特性と感覚性の両面をバランスさせ、それを巧みに生産システムに結びつけて量産化したものであるといえる。
 このSP1001のシステムは、低音に25cmウーハー、中音に16cmスコーカーのそれぞれコーン・スピーカーを使い、高域は25mmのドーム型という構成である。エンクロージュアはサンスイお得意のパイプ・タクトによる位相反転型で、SPシリーズ特有の豊かなソノリティーの一因となっているように思う。このSP1001は、従来のSP100と同級品だからSP100のMKIIのような商品といえるだろうが音は透明感と解像力の点で一新され大変明解な清新な音色となった。ユニットをみれば、SP100とはまったく異なった系列のシステムてあることがわかり、SP100のウォーム・トーンからこれはクリアー・トーンという印象になった。しかし、従来一貫して感じられていたSPシリーズの暖かさと艶麗さをもっていることは感心させられる点だ。音には必らず個性がでるということを改めて感じさせられた。低域はよくのびて弾力的だし、中域の明るい抜けのよさは特にジャズの再生には向いている。そして高音域がやや甘くしなやかすぎるのが私としては、ひとつ気になるところなのだが、これは高音域用に1個数万円もするトゥイーターを使っても満足のいかない問題だから欲張り過ぎかもしれない。また高域はパワー・アンプによってもずい分その質が変わるものだし、これは簡単に片づけられないことだと思う。シンバルの音色にはドラマーなみの悩みを感じるのがマニア共通の問題であろう。スティック・ワークの鋭いアタックとブラッシュ・ワークの繊細な音色を共に満足に再生することは、その両方を満足に録音することと同様にむずかしいと思う。
 背面の端子板は、2〜3チャンネルのチャンネル・アンプ・システムで駆動できるダイレクト・コネクターとネット・ワークによる3ウェイのコネクター、高中それぞれを3段階にレベル変化できるスイッチが設けられた本格派であるし、とかくやっかいな結線ターミナルもワン・タッチの操作が簡単で安全性の高いものであり、商品に対する誠意を感じた。

クライスラー CE-1a

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 悪口が先になるが、ベルリン・フィルが明るく軽く、アメリカのハリウッドのオーケストラのように響く。これがこのスピーカーの音色的不満。しかし、バランスはよくとれているし、プログラム・ソースの選り好みも少なく、大変よくできた万能型のシステムだと感じた。この明るく軽やかな音色は、ジャズにはちょうど視聴に使ったシェリー・マンなどウエスト・コースト派の連中のサウンドにはぴったり来る。華やいだソプラノも魅力的。

ラックス 25C44

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 明るく明解な音で好感がもてる。バランス的には中音域がやや出過ぎの気もするが、これが決してマイナスにはなっていない。むしろ中域の充実感として受け取れるといってもよい。全体の音質は決して品位の高いものではなく、軽く、迫力不足だが、そうしたユニットを巧みに使いこなしてまとめた音づくりがうまい。どちらかといえばクラシック、ポピュラーに向き、ジャズには向かない。質感と力量感が物足りないからである。

オンキョー F-500

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 ベルリン・フィルが明るく軽くなり過ぎる。中低域の繋がりに、やや不連続感があり、高域に一種の響きが感じられるが、全体のまとめは美しく均整がとれている。ジャズでは、ベースの上音がやせ気味で、解像力をもう一つ要求したい気がするし、力量感が不足する。しかし、声楽の明るい抜けや、ムード音楽の甘美な雰囲気はなかなか魅力がある。深刻型の音を求める向きには不適当だが、明るいムード派にはよくまとまった好ましいシステム。

デンオン VS-220

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 音の品位が悪く、中音の下のほうに不自然な鳴きがあるし、高音域も制動不足のようなトランジェントの悪さが感じられる。音の印象は派手だが、ジャズを聴くと平板で、奥行き厚みがなくて物足りない。ポピュラー・ヴォーカルのかなり音づくりのきいたソースやムードものでは華やかさがプラスとなって効果的な響きがするが、価格的にも、もう一息オーソドックスな品位の高い音を要求したくなる。

ダイヤトーン DS-33B

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 まず、水準以上のシステムだと思う。しかし、最高水準という点からものをいえば、質がやや安っぽく、高域のざらつきが気になる。低域のダンピングも充分とはいいにくい。ベルリン・フィルの重厚なソノリティは生きてこなかった。ジャズでは高域がとげとげしく、シンバルの厚味や、豊かさが不足し、中域の迫力も今一歩という感じだった。全体によくまとまっているだけに、質的な点で不満が残るシステムだ。豊かさ、柔らかさ、重厚味がほしい。

サンスイ SP-1001

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 中低域に適度な脹らみをもたせた充実した音は、誰の耳にも快感として感じられるだろう。バランスづくりが大変効果的である。カラヤン、ベルリン・フィルの音がやや、甘味が加わるが、分厚いソノリティがよく再現された。シンバルのスティックによる打音、ブラッシングによるハーモニックも実にリアルで、高域の質がよい。欲をいうと、中低域にもっとソリッドでしまりのある品位の高い音がほしいところだが、総じてすばらしいまとまり。

コーラル BX-610

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 ベルリン・フィルの音が他のオーケストラのように品位のない音になった。全域にわたって制動がきかず、歯切れの悪い、また、高低域のバランスも悪い再生音である。音像がよく立たず、軽く平板な音となり、厚みや深さの再現がまったくなく不十分である。シュワルツコップやアンナ・モッフォのヴォーカルもキャラキャラと上が響くだけで、声の丸味や陰影が不思議にどこかへ消えてなくなる。価格バランスの点でも大きな不満が残る。