パイオニア T-5000

菅野沖彦

スイングジャーナル 6月号(1968年5月発行)
「新製品試聴記」より

 パイオニアT5000。4トラック・ステレオ・テープ・デッキとして同社が初めて開発した意欲作である。音響専門メーカーとしてパイオニアがこれで完全に全製品を網羅することになった。もともとスピーカーの専門メーカーとしてスタートした同社は今や音響機器の綜合メーカーとして名実共に横綱格。数年前からターンテーブルが好評で回転機器の分野でも信頼度を高めた。マニアが、パイオニアのテレコを期待したのも無理はない。
 そうした大方の期待の中で登場したのが、このデビュー作T5000であるが、さすがに数々の独創的なアイデア、機構をもったオリジナリティに溢れた製品だと思う。この製品の出現で、従来、とかく面倒くさがられたオーブン・リール式のテープ演奏が、ずっと楽になり手軽に扱えるようになったといってもよい。つまり、オープン・リール式のテープは、あのペラペラしたものを狭い間隔(キャプスタンとピンチローラーの間やヘッド・ハウジング)を通して引張り回し、片方のリールに巻き込むのにずい分厄介であったが、T5000では大巾に簡略化されている。その仕組みは、テープを両脇からはさんで駆動するキャプスタンとピンチローラーのうち、後者はパネル内に納っていて、テープをかけてスタートする際にハネ上ってはさむ仕掛になっている。だから、狭いギャップなどというものはなく実に扱い易い。そして、4トラックの往復再生と録音が自動逆転機構(手動も可)で安定した動作が得られるという至れり尽せりの機構を備えている。ピンチローラーが中央にあって駆動すると書いたが、その両側にそれぞれの方向専用の消去ヘッドと録再ヘッドが2個づつ、計4個配置されていて完全なシンメトリック・アレンジメントで住復作動のデッキとして大変よく練られた設計だ。自動逆転機構は今やこの種のテープデッキの必須条件といってもよく、このT5000では、テープの両端にセンシング・テープをはっておこなう。長いプログラムの録音など、テープをかけかえたり、ひっくりかえしたりしないで往復録音可能というのは大変便利で、この機構を持たないテレコを使っていた方にはその有がたさのほどが分るだろう。そして逆転の際の立上りスピードが実によく、実用上ほとんど瞬間的に規定スピードとなる。もしこの立上りが悪いと、その間まことに不快だし、録音ソースが連続していると穴があくことになるから、これは大切な問題なのである。ワン・モーターでよくここまでの性能をだしたものだ。
 再生操作面と録音のそれとをステップで処理した鮮やかさ、VU計内のパイロット・ランプが、再生時は白、録音時は赤に切り換るところなどはなかなかの冴えを感じさせる。左右リールの円形と巧みなバランスを見せるヘッド・ハウジングの扇形デザインも美しい。
 実際に使ってみると動作は大変スムースで確実である。欲をいうとプレイ、ストップ、そして早送りのレバーがややかたいこと、録音レベル調節ボリュームのツマミの左右の位置や形態にもう一工夫ほしい気もするが、その他の点では大変すばらしいテープ・デッキである。音響専門メーカーとして、音マニアの気質を知り尽した心増いばかりの商品。そして肝心の音は実に明解でシャープな切れ味である。他の同種のテレコと多数比較できなかったが、このクラスのものとして最高の音質だと思う。録音のいいテープだと、レコードからは得られない安定した豊かな肉づきをもった音が魅力的。レコードという便利で、すばらしい音のプログラム・ソースが、がっちりと網を張っているにもかかわらず、4トラックのレコーデッド・テープが着実に愛好層を獲得していることは何を物語っているか。本誌でも再三テープ音楽のすばらしさについては取り上げられている。
 昔はレコードと同じ程度のクォリティの得られるテープレコーダーは大変高額で手が出なかった。このテレコは5万円台だが、同価格のレコード・プレーアーと比較してそのクォリティを考えるとまるで夢のようである。

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