Category Archives: CDプレーヤー関係 - Page 5

メリオワ Digital Center, CD-DECK, Bitstream Converter

早瀬文雄

ステレオサウンド 97号(1990年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 メリオアは、カナダ製のお洒落なコンポーネントとして世界的にも認知された感のあるミージアテックス社のブランドで、同社には他にマイトナー・シリーズがある。
 今回シリーズに加わったのはコンパクトな筐体をもつ1ビット、ビットストリーム方式採用のその名もビットストリームコンバーターと、19ビット8倍オーバーサンプリングの D/Aコンバーターを内蔵したデジタルコントロールセンター、そしてDACレスCDプレーヤーであるCDデッキの3機種である。
カエデ材の、やや赤味のさした美しいウッドケースに、ブラックのシンプルでグラフィカルなデザインをもつパネルフェイスが組み合わされている。当初、やや見慣れないせいか違和感があったが、かつて取材のために何日か手元に置いて使用してるうちに、不思議に部屋の空気にも溶け込んでくれたことを思い出す。
 そう、これはそういう製品なのだ。ある種の個性的な存在感を持っているのに、部屋の空気をかき乱すことがない。その装置がそこにあるだけで、部屋全体の雰囲気が損なわれてしまうようなオーディオ機器とは違うのだ。
 デンマークのB&Oのように、できればワンブランドで統一して使いたいと思う。
 ビットストリームコンバーターは、フィリップスのSAA7350チップを使用し、入力はコアキシャルとオプティカルを各1系統ずつもっている。実に穏やかでマイルドな響きをつくってくれるD/Aコンバーターだ。
 メカニズムにフィリップス製CDM3を採用したCDドライブユニットのCDデッキは、オーソドックスで真面目な表現をする製品で、当たり前とはいえ、ビットスリームコンバーターと素直なマッチングをみせる。スケール感やダイナミックなコントラストは弱まるが、耳障りな付帯音やノイズ成分を丁寧に取り除いたような聴きやすさをもっている。言ってみればとても落ち着いた、大人っぽい響きということもできるだろう。
 デジタルセンターはデジタルのみ4系統の入力を持つプリアンプである。サンプリング周波数は自動選択で、コアキシャルまたはオプティカルの入力が一つ、オプティカルのみの入力が二つ、そして同軸のみの入力が一つという構成だ。当然のことながら、アナログ出力しか持たない機器は接続できない。また、オプティカルによるデジタル出力をもち、昨今、話題が集中しているDATとのダイレクトな接続が可能である。
 ボリュウムをはじめ、すべてのコントロールをデジタルで処理するDAC内蔵のデジタルセンターにCDデッキをダイレクトにつないでみると、響きは一転して、輪郭がくっきりしたコントラストの強い音になった。

マイクロメガ TRIO.CD., TRIO.BS.

早瀬文雄

ステレオサウンド 97号(1990年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 フランスのCDプレーヤー。ヨーロッパ圏で唯一のCDプレーヤー専用メーカーである同社の製品は、すでにCDF1プレミアムが紹介されていた。そのアナログプレーヤー的な使い勝手や音質、特に色彩感やニュアンスの豊かさはADファンからも関心を集めていた。
 ちなみに、同社のサーキット・エンジニアであるダニエル・シャー氏は、過去米国のハイエンドアンプメーカーとして知られる某社に籍を置いていたという逸材だ。
 今回発売されるモデルはソロと呼ばれる一体型、およびセパレート型のデュオCD+デュオBS(D/Aコンバーター)、そしてトップモデルであるトリオCD+トリオBSである。
 どの機種も画一的なデザインの多い国産CDプレーヤーに比べ、コンパクトながら個性と機能をうまくまとめた魅力的な製品に仕上がっていると思う。
 D/Aコンバーターには、いわゆる1ビットタイプのフィリップス・ビットストリーム方式のSAA7323チップを採用しているところも注目に値する。
 電源のオン・オフにかかわらず、コンセントを差し込んだ状態で常に通電されるアナログ回路は、デジタル部から完全に分離した電源部をもつ。出力段は低インピーダンス化が徹底して図られたディスクリート構成で、無帰還ピュアAクラス動作としている。
 ドライブメカニズムは従来通り、フィリップスである。
 各モデル共通のディスク・スタビライザーは、ケブラー繊維とカーボンファイバーディスクからなり、これに120gの真鍮製ウェイトを組み合わせたものである。
 セパレート型のトリオCD+トリオBSは、写真でご覧いただけるように3つの筐体で構成されている。一番上がディスクドライブにあたるトリオCDで、下位モデルのデュオCDから電源を取り除きシャーシ底部を強化したもので、全体のS/Nの向上を図っている。二番目と三番目がD/Aコンバーターと電源部からなるトリオBSである。トリオCDを含め、各筐体は3つの脚部のうち、手前左側がピンポイントになっており、明確なメカニカルアースがとれるように配慮されている。このピンポイントはシャーシを貫通して、天板上にその頭を出しており、コイン状にフラットになったその部分で、重ねて使用したときに上の筐体のピンポイントを受けるようになっている。したがって3つのシャーシを重ねて使用しても、メカニカルアースがとれることになる。
 セパレートタイプのトリオCD+トリオBSの組合せは国産高級機との比較で、圧倒的ともいえるディティールのニュアンスや色彩化の豊かさを誇示し、感心させられた。

オーラの悲しみ

早瀬文雄

ステレオサウンド 96号(1990年9月発行)
「Music Consolette 偶然の結晶を求めて」より

 彼女の流暢な英語をFM放送で聴いている人はいっぱいいるはずだ。
 いわゆる、バイリン・ギャルの彼女は、超堅物のイギリス人のお父さんと、シックな大和撫子の間にうまれた。
 今は仕事の関係上、港区の一画にあるマンションで独り暮らし。それも初めての経験なのでとても淋しいという。
「大袈裟だけど、ホームシックになるのよ」と英語っぽい日本語で言う。
 まあ、そういうものなのかもしれない。
     ☆
 その夜、僕たちは五人のグループで、とあるカフェバーで飲んでいた。ちょっとしたカタカナ職業の飲み友達のグループである。僕がちょっとした事情からこのグループの一人と親しくなり、ときおり誘われて輪に加わっていたのだ。
 彼女は、FMでDJをやっているくらいだから、当然のこととして大変な音楽愛好家である。
「オーディオにも興味あるわ。パパがエンスーしてるし」
 そういう彼女は本誌の読者でもあるという。ありがとうございます。
「いろいろ考えて、やっと自分のセットが揃ったの」
 そういう彼女の話を、僕は黙って聞いていた。
「ハヤセさんはオーディオ・ジャーナリスト?」と彼女が訊いた。
 まあ、そんなところだと僕は答えておいた。僕は彼女がどんな装置を組み合わせたのかとても興味があった。けれど、その場で質問するのも、妙なものだったからどうしようかと思案していた。その時、彼女の友人の一人が、これからその新しいステレオを聴かせて貰いましょうよ、とちょっとばかり酔いのまわった黄色い声で言った。そのおかげで、僕は彼女のオーディオの音を聴くチャンスに恵まれたというわけだ。
 今年二十三歳になる彼女は童顔のせいでどう見ても十八、九にしか見えない。
「よく未成年だと思われて苦労するの」と言う。
 彼女の部屋は無駄な装飾のないこざっぱりしたインテリアでまとめられ、ある意味ではあまり女の子らしくない空間を作っていた。
 まっしろな壁にかけられた、ゴールドのプレーンな額縁。そこに嵌め込まれたグスタフ・クリムトの油彩、ユーディットII・サロメ、のポスターがひときわ目についた。
 そして、そこに、やけにストイックな顔をして佇むJBL4312XPの白いウーファーが音を出す前からあたりの空気をぐっと引き締めてるように見えた。
 彼女はオープンキッチンにたち、僕たちのために水割りを作ってくれている。
 スモークガラス製のサイドテーブルには英国のニューブランド、オーラデザインのシンプルなプリメインアンプがそのクロームのパネルのクールな輝きに、ひっそりとあたりの光景を写しこんでいる。
 そして、ケンウッドのコンパクトなCDプレーヤー。軽くさわやかな音のするプレーヤーだ。
「かわいいアンプだね」とメンバーの一人が言った。
「おしゃれよね」と女の子の友人が言う。そう言って、みんな僕の顔を一瞬みた。僕が肩をすくめると、みんなどっと笑った。
 僕は水割りを飲みながら、彼女がいったいどんな曲をかけるのだろうかと、会話に花をさかせながらも、そのことばかりが気になっていた。
 彼女が最初にかけたのは、ジョン・アバークロンビーの最新アルバム『アニマート』に入っているシングル・ムーンと言う曲だった。アニマート……、生命を吹き込むっていう意味だ、たしか。
 そして次にかかったのはアジタート。ファースト・ライト、フォー・ホープ・オブ・ホープと続いていった。リモコンで彼女が選曲したのだ。グループの面々は会話に花を咲かせていたし、彼女も適当にそれに対応してるようにみえた。
 僕は、ときおり飛んでくる質問に短く答えながら、その場の空気から隔絶したような、おそろしく澄んだ音を出しているBGMに耳をそばだてていた。彼らは皆とても紳士的だったし、僕にたいしてもとても親切に気を使ってくれていた。
 やがて、同じジョン・アバークロンビーが二年前に出したアルバム『ゲッティン・ゼア』から五曲目のタリアが鳴り始めた時、僕はふと思いついて彼女に訊いた。
「ねえ、ひょっとして、ヴィンス・メンドーサが好きなんじゃない?」と。
 彼女が選曲したのはすべて彼の曲だったのだ。
「そう。わかった?」
 そう言って彼女は淡く微笑む。
「クロンビーの曲の中だと何が好きなんですか?」と逆に訊ねられた。
「ゲッティン・ゼアなら、リメンバー・ヒムとチャンス。アニマートなら……」
 一瞬考えてから「ブライト・レイン」と言った。
「ふうん」と彼女は言ったきり黙った。
 なんとなくシリアスな沈黙がほんの一瞬あたりを支配した。
 でも、誰かが、もっと明るい曲をかけようよ、と提案し、同時に部屋の空気も明るくシンプルになった。
 僕は壁のクリムトを見た。一見華麗なのに、ひどく空虚で頽廃的な空気と、残酷に断裂するような官能といったものがまじりあっている画だ。性と死が装飾的な画風の中に浮き上がっている。
 4312XPとオーラデザインVA40の組合せが、こんなにも悲しげに澄んだ響きを出してくれたのは、けして偶然なんかじゃないだろう。おそらくはJBLのどこか醒めて遠のいていくような響きの情感と、オーラデザインの可憐で穏やかな透明感がうまくまじりあってくれたのだろう。ケンウッドP-D90の軽くて淡い音の質感だってうまく作用しているに違いないのだ。
 偶然の結晶、それはあまりにも美しい結晶だった。
     *
FMでDJをしているキュートな彼女が使用していたスピーカーはJBL4312XP。白いコーティング剤が塗布された30cmウーファーの2213Hは新しい、アクション・モールデッド・フォームと呼ばれる特殊な樹脂によるフロントバッフルを得て、全体のデザインの中で新鮮な印象を放っている。4311が原型になっているがロングセラーを更新し、地道な改良が加えられ、今回JBLの最近のフューチュアである前記リアクション・モールデッド・フォームだけでなく、バッフルの不要な反射を軽減するネオプレーン・フォーム等も採用されている。スコーカー、トゥイーターとも信頼性の高いユニットが配されている。アンプは英国のオーラデザイン社のデビュー作、VA40プリメインアンプだ。CDプレーヤーはケンウッド製、P-D90である。コンパクトな同社のシステムコンポーネントシリーズに含まれるCDプレーヤーだが、単売もされている。コンパクトに凝縮され、かつ無駄のないデザインは、下手な高級コンポ顔負けの雰囲気をもち、液晶表示のインデックスの色合いや照度も含め、全体に大人っぽいまとまりを見せている。筆者自身この組合せにはいたく感動、サブシステムとしてそっくりそのまま採用してしまった。

意識の曲率

早瀬文雄

ステレオサウンド 96号(1990年9月発行)
「Music Consolette 偶然の結晶を求めて」より

 それは、残暑がささやかに尾をひいていた夕方のことだ。
 僕と友人のKは堤防の上をだらだらと歩いていて、沖合にはゆっくりと航行する大型のクルーザーや可愛らしいヨットが見えた。
「夏も終りだね」と彼は淋しそうに言い、僕はただ黙って頷くだけだった。
 心なしか風もすこし乾き始め、時々すれちがう人も皆うつむきがちで、何かしら考えこんでいるような表情をしていた。
 人影もまばらな砂浜には無人のライフガードの塔がもの悲しくて取り残され、夏の盛りにはまるで朝の満員電車みたいに人々を繋ぎとめていた熱い季節は音もなくどこかに吸い込まれてるように消えていた。
 まあ、仕方のないことではある。
「そろそろ戻ろう」と彼は言った。
 彼は実に無口な男なのだ。いつだって無駄を削ぎ落とした、必要最小限の言葉のやりとりしかしない。そして、そのことになじめない人はたいていあからさな反発を示した。
     ☆
 そこが海の近くであるということを忘れてしまうような、シックな洋館の一部に部屋を借り、彼は作曲の仕事をしていた。
 仕事部屋には電子ピアノやシンセサイザーがあり、ミディ制御されるいくつかの電子機器もセットされていた。
 コンピューターを駆使して生み出される曲はおおむね優しい旋律をもち、透明な悲しみがクールに漂っていた。彼の作品は昔からそういうタイプの曲が多かった。
 出来上がった曲はテープからおたまじゃくしが踊る譜面に記号化され、ファックスで『受注先』に送られる。まあ、いってみればかなり量産される音楽、大量に消費される音楽が手際よく作られているわけだ。
「でもね、一つ一つに思い入れがないわけじゃない。売るための『商品』ばっかりじゃないんだ」
「知っている」と僕は言った。
 彼は肩をすくめると「ぼちぼちセットしてくれる?」と言った。
 僕は彼に頼まれて選んだアンプとスピーカーを車に積んで持参していた。
 仕事部屋の隣に十畳ほどの板の間があった。漆喰の白い壁高い天井、響きは悪くなさそうである。
 僕たちは手分けして、てきぱきと新しい装置をセットした。
「なんだか、新しくても古いというか、古くて新しいというか……」
 ビアードのアンプを見た彼はそう言って目を輝かせた。
「きっと気に入ってもらえるはずなんだ」彼は心身ともに疲れきっているはずだった。しかし、その時ばかりは期待にわくわくする単純な子供みたいにしか見えなかった。やがてセットが完了し、とりあえずアンプに火を入れる。
「ちょっと部屋の明かりを落としてみよう」と言って、彼はパチンと電気のスイッチを切った。
「いやぁ、暖かな、懐かしい光だ……」真空管がほんのりと赤熱したようすを見つめ、彼は嬉しそうに言った。実に無邪気な笑顔だった。
 ウォームアップが済む前に、乾杯しようということになって、キッチンに置いてあった旧式の丸っこい冷蔵庫から出してきた缶ビールを飲んだ。
「もう、音を出してもいいかな?」と彼が訊いた。僕は黙って頷く。
 彼はラックから一枚のCDを取り出して僕に手渡した。エマーソン・ストリング・カルテットのディスクだ。彼の指定でその中から、ボロディンの弦楽四重奏曲、第二番をかけた。
「ボリュームは自分で上げてくれよ」と僕は一応言ってみることにした。
「そうだな」
 そう言うと、彼は初めて恋人と手をつなぐシャイな男の子みたいな手つきで、ボリューウムのノブに触れた。
「いや、なんて柔らかな音なんだろう」茫然として、彼はそう言った。
「本当に温かい、人のぬくもりを感じる音だね……」
 僕は黙ったままビールを飲み、彼はしきりに独りごとを言っている。次々にディスクをかけ替え、そのたびに感嘆の声を上げた。
 温かく包みこむような音を彼は求めていたのだ。僕にはそのことがよくわかっていた。彼の曲を聴き、彼の愚痴を聞いていればたいていのことはわかる。よほど鈍感な人間じゃないかぎり、彼が消耗し、すっかり精神的に萎えていることは誰にだってわかるのだ。
 そんな時、研ぎ澄まされた緊張度の高い音はかえって彼に物事を分析的に考えさせてしまうに違いなかった。
 こういう風に、文句なく人の心をなごませてくれるおだやかで上品なテイストをもった響きに出会うと、ほんとうにほっとする。僕は装置によってこれほどまでに違った音を出すという事実を不思議さを改めて考え直していた。
「発生した次の瞬間から消退していく音、その音からなる音楽をデジタルと言う記号で複製し、無限に繰り返して聴けるCDの魔力、それはひょっとすると現実の中に隠された根深い不在感をさらに分厚いヴェールで覆い隠すのかもしれないね」と彼は言った。でも、そのことの意味は今は誰にもわからないのだ。
「こうしてみると、オーディオは音楽のたんなるシミュレーション、あるいは人工的な復元以上のものだってことがよくわかる」
 そういう彼の横顔に、僕は久し振りに彼らしさが回復されているのを確認した。
     *
作曲家のK氏が使用していたのは、スピーカーが英国ワーフデール社製コーリッジで、これは20cm口径のウーファーをベースに2.5cmドームトゥイーターを組み合わせたバスレフ型2ウェイシステムであり、ここでは別売の専用スタンドを使用。アンプはビル・ビアード設計になる英国B.B.A.P.社製の管球式プリメインアンプ、BB100だ。パワーアンプ部はE L84のトリプルプッシュプルで、35WまではA級動作、それ以上50WまではB級動作させている。各真空管にはLEDによる異常動作警告灯が配され、これが赤く点灯することによって真空管の寿命を知らせるという、英国の家庭用オーディオ機器らしい配慮がなされている。CDプレーヤーはエソテリックのP10が用いられているが、D/Aコンバーターにはあえてその音色やコンパクトなデザイン、トータルのコンセプトを評価して、英国DPA社製、1ビット・ビットストリーム方式採用のPDM1シリーズ2を組み合わせている。潜在的に柔らかな音を求める思考がここにも隠されているようで、興味深い選択である。

ワディア System 2000(WT2000 + 2000SH)

菅野沖彦

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 DSPによるデコーディングコンピューターでCD再生に大きな反響を呼んでいるワディア・デジタル・コーポレーション。ウィスコンシン州ハドソン市にあるこのコンピュータ技術集団は、現在までに俗にD/Aコンバーターと呼ばれるデジタルプロセッサーだけを作ってきた。同じDSPによるデジタル/アナログのプロセッサーを作るクレルが、CDプレーヤーとしてディスクトランスポートも同時に発売したのとは対照的だ。それは、クレルがオーディオメーカーを母体としてスタートしたのに対して、ワディアの方はコンピューター技術集団を母体としていることによる。デジタルテクノロジーというハイテクノロジーの産物であるCDプレーヤーだが、その実、プレーヤーのメカニズムの音への影響は大きく、ディスクトランスポートの諸々の機械特性は年々重要視されている。つまり、ある意味では、ローテクといってもよいオーソドックスなメカニズムをおろそかにしてハイテクのエレクトロニクスだけに頼っていては高品位な音の再生は難しいことがわかってきたわけだ。したがって、エレクトロニクスに並はずれた高度な技術をもって臨んだワディアとしては、それにバランスしたクォリティのメカニズムを作る体質が自社に備わっていないことを十分知っての上の慎重さであったと私は見ていた。ワディアのハイテクは今さら説明するまでもないが、〝フレンチカーブ〟と称する独特のデコーディングアルゴリズムのソフトウェアで駆動される高精度コンピューターによる信号処理に加え、昨年末にはさらに、これにラグラジアンとスプライン、ポリノミアルという2つの多項式を重畳したプログラムを実現し、ソフトウェアのヴァージョンアップを果し〝デジマスター〟という商標で発売している。その高い演算速度のDSP処理はただ単に数学理論に優れた技術成果だけではなく、多くの困難な機構設計技術の成果の結果でもある。
 また今回さらに、アナログ回路の出力バッファーアンプに〝スレッジハンマー〟と称されるモジュールがグレードアップ用に用意され、試聴に際してはこのモジュールが組み込まれた、現在のところトップに位置する状態のものを聴くこととなった。
 ワディアの製品が、その一つ一つのパーツ、ディバイス、基板、シャーシ構造に桁はずれの高品位ぶりを見せるのは、決して高級品のための高級指向ではないのであって、材料、機械加工の全ては性能を得るための必然なのである。
 2000SHの筐体は、アルミのムク材から削り出した航空機用コンピューター規格と同級のハイグレードなものだが、これを見ても、同社が安易にプレーヤーメカニズムに自ら手を出すはずがない……というのが私の観測であった。
 ワディアWT2000は、このような状況の中で登場したわけであるが、実は、このメカニズムをエソテリックのP2を原器とするものである。例の大型テーパードクランパーでCDを圧着して回転する高安定度を誇るメカニズムで、レゾナンスや耐振性に配慮のいき届いた好設計であり、精度の高い仕上がりでもある。P1をオリジナルとするP2は、すでに本誌でも度々紹介され、現在最も優れたCDプレーヤーメカニズムの一つとして定評のあるものだ。コンピューター技術集団にとって、この開発はリスキーだし一朝一夕にいくものではない。ティアックからこれを買うことにしたのは、(一般のOEM供給のメカからすると目の玉が飛び出るほど高価なはずだが……)卓見である。
 P2を元に、さらに機械的制動を施し、ワディア仕様のエレクトロニクス設計を加えたものだが、最大の特徴は次の二点といえるだろう。まずはドライブ系と制御系の独立した二電源トランスを外に出しセパレート仕様としたこと。そして、これが最大の特徴だが、ワディア独自のプロ規格STターミナルによってAT&T社製の高精度高効率の50Mbits/S、850nm波長グラスファイバー出力素子の光出力を取り出せることである。従来は、この光入力専用に作られたデコーディングコンピューター/2000側に通常のEIAJ光出力を変換するトランスミッター(デジリンク30)を必要としたが、WT2000を使う場合は直接、2000SHに入力できることになる。試聴はこの状態でおこなった。
 そのサウンドの素晴らしさは、圧倒的であったというほかはない。広がりと奥行きが一回りスケールを増し、細部のディテールは一段と明晰さを増した。楽音の感触の自然なことは、同社のDACの魅力であったが、このプレーヤーの使用で、さらに緻密で繊細になる。かつてこんなに肌ざわりのよいCDの音を聴いたことがない。ウィーンフィルのしなやかで艶と輝きに満ちたあの音が、こまやかな音のひだの陰までもが聴けるかのようで、まるで宝石箱をひっくり返したような美音の饗宴に呆然とさせられた。この空間感の透明さと深々とした暖かいプールエフェクトを明らかに並のCDプレーヤーとは、異次元の音響的境地であり、音楽世界であった。

デンオン DCD-3500RG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 適度に緻密で安定感のある中域を中心に、ナチュラルな帯域バランスと標準的な音場感の再現能力、明快な音像定位が聴かれるリファレンスモデル的な内容の音は、昨年発表された時点とは格段の差のグレードアップである。聴取位置は中央の標準的位置である。ロッシーニは柔らかい雰囲気型の音で、音像は奥に定位する。安定度は充分にあるが密度感が不足気味で、ウォームアップ不足だ。Pトリオは、安定感のある帯域バランスと芯のしっかりした音で、 一種の重厚さめいた印象が特徴。ブルックナーは厚みのある安定した、いわば立派な音だが、斉奏では混濁気味。平衡出力ではホールトーンはたっぷりとあるが表現が甘く、コントラスト不足の音で、かなり音量を変え、セッティングを少し変えた程度では変化がなく、再生系との相性の問題がありそうだ。ジャズは、低域が腰高で安定せず、全体にモコモコとした一種の濁りのある音とプレゼンスでまとまらない音だ。

マイクロ CD-M2 + DC-M2

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 穏やかで、一種独特の重さ、暗さがある渋い音を持つ個性型の音である。CDとしては再生する情報量は多く、演奏会場の空気の動きや椅子などのキシミ、楽器のノイズなどを聴かせる。試聴位置は、中央の標準位置。ロッシーニは、基本的にはウォームトーン系のまとまりだが、角がとれたクッキリとした音はアナログディスク的なイメージがある。各パートの声は少し伸びが抑えられ、音像はフワッと大きく定位する。Pトリオは、低域が重く粘りがあり反応は遅いが、中低域以上はほどよく立上りの良い素直な音であるため、低域のコントロールをすれば個性的な良い音になるだろう。ブルックナーは、音楽的な意味でのブルックナーらしさがあるが、オーディオ的には見通しが悪く、晴々としない音である。平衡接続ではプレゼンスが良くなるが、Dレンジが抑えられ、表情も鈍くなる。ジャズは、狭帯域型バランスと閉鎖空間的プレゼンスが特徴だが、安定度、力感が欲しい。

メリディアン 206

早瀬文雄

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 英国、ブースロイド・スチュワート社よりすでに発表されている200シリーズコンポーネントは、201プリアンプを核として204FMチューナータイマー、205モノーラルパワーアンプ、209リモートコントロールユニットから構成され、そのデザインや機能のユニークさで話題を集めていた。
 今回同シリーズ中の、プリアンプ機能をあわせ持つCDプレーヤー/207MKIIの派生モデルとして、このプリアンプ機能を排し、よりコンプリートな単体CDプレーヤーシステムとして、音質や機能の細部をリファインしたCDプレーヤー/206が登場した。
 従来通り、エレクトロニクス部とCDトランスポート部を独立した筐体に納めているが、使い勝手の向上を期して、ジョイントバーで結合された一体化構造をとる。
 従来通り、D/Aコンバーターは16ビット4倍オーバーサンプリングを採っているが、ディスクユニット部は最新のフィリップス製CDM4を採用している。
 メカニズムおよびサーボ部は、3ポイントサスペンション(ゴム系緩衝材のソルボーテン)によってフローティングされ、振動による悪影響を排除している。
 出力は3系統あり、固定アナログ、同軸デジタル、および光デジタル出力を備え、より組合せの自由度を増している。
 見慣れたとはいえ、やはりこのデザインの美しさは、単に個性的と言うレベルをつきぬけ、メカニカルの機能美と趣味線の高さを高いレベルで融合させている。
 過度にコスメティックな要素でゴテゴテと飾りたてるのではなく、洗練と簡素化を究めたより純粋な意味でのインダストリアルデザインのあるべき姿の良い見本となっていると思う。
 これは、北欧のB&Oと並び、究めて貴重な存在であり、わが国にも、そろそろこういったコンセプトの瀟洒なシステムが登場してもよいような気がする。
 音質についても同様なことがいえる。そこには、あざといメリハリ強調型の紋切り的音作りは皆無で、落ち着いた穏やかな表現がまず印象に残る。
 従来の弾力性のあるやや暖色系の暖かさは引き継いでいるが、よりニュートラルで中立的といえる大人っぽさを仕上げの要素に含んでいるように聴けた。
 中庸を得た破綻のなさが、どんな装置に組み入れても、全体のバランスを掻き乱すことなく、安心して使用できる汎用性を高めたといえよう。
 プリアンプ機能を省略したために回路がシンプルになり、電気的に洗練された結果だろうが、明らかに響きの透明感や音場の再現性の向上が聴き取れた。

ソニー CDP-R3

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 音の粒子が細かく、滑らかに磨き込まれた低域から中域と、聴感上で高域がゆるやかに下降したかのように聴きとれる、柔らかく、穏やかな帯域バランスをもつが、基本クォリティが高く、際立ちはしないが、聴き込むとナチュラルに切れ込む音の分離は相当なものだ。ロッシーニは、中高域に輝きのある硬質さが、時折顔を出すが、空間の拡がり感もあり、やはり価格に見合うだけのクォリティの高さは感じられる。Pトリオは、全体に低軟・高硬の2ウェイスピーカー的なまとまりとなり、一種のアンバランスの魅力があるまとまりといえるだろう。ブルックナーは、演奏会場の暗騒音もよく聴きとれ、一応の水準を保つ音だ。平衡出力は、全帯域にゆとりがあり、しなやかさが加わって、弦楽器系の硬質な音が解消され、見かけ上でのDレンジも大きく聴かれるが、高域は抑え気味。ジャズは、ライヴハウス的イメージの音で、音源が少し遠くなるが、適度なノリで、かなり楽しめる。

ソニー CDP-X77ES

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 聴感上での帯域バランスを重視し、あまり広帯域のfレンジとせず巧みに総合的な音をまとめた印象が強い手堅いモデルだ。ロッシーニは、音の細部にこだわらず、素直なバランスの音を聴かせる。表情は真面目型で少し抑える傾向があるが、ややウォームアップ不足気味の音と思われる。Pトリオは、柔らかく線の細いピアノと硬質なヴァイオリン、線が太く硬さのあるチェロのバランスとなるが、金属的に響かないのが好ましい点だ。しかし、響きが薄く、厚みがいま一歩不足気味である。ブルックナーは、線が太く硬い鉛筆で描いたような一種の粗さがあり、演奏会場のかなり後ろの席で聴いたような音の遠さがある。平衡出力にすると、バランスは広帯域型に変り、全体に薄いが独特のクリアーさ、シャープさがある音になり、高域はむしろ透明感がかげりがちだ。ジャズは薄味の軽快指向型のまとまりで、表情が表面的になりやすく、低域の質感をどうまとめるかがポイントだ。

メリディアン 206

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 全体に各種プログラムソースを、ややクラシカルな個性的な自分の音として消化して聴かせる独特のキャラクターに注目したい製品。ロッシーニは、全体にナローオレンジで硬質な音にまとまり、情報量は少ないが、古いアナログディスク的な一面のある音とでも表現したい印象がある。Pトリオは、206の硬質な個性がよく出た明快なピアノとチェロがオーディオ的にわかりやすいコントラストを聴かせる。音場感は少し狭いタイプだ。ブルックナーは、音の輪郭をクッキリと聴かせる、かなり個性的なまとまりとなるが、一種の思い切りの良さが感じられるポイントを押えた音楽の聴かせ方は、再生音楽としてオーディオ的にこれならではの魅力を感じる向きもありそうだ。ジャズは、明快なクッキリとした音を描くまとまりである。聴き込めばブラスは薄く、ベースが小さく硬調となるが、余分な音を整理し、分離よく聴かせどころを巧みに残したような独特の個性は興味深い。

アキュフェーズ DP-11

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 柔らかく、軽く、爽やか指向の音を持つモデルであるが、音場感はフワッと柔らかい雰囲気にまとまる傾向があり、見通しの良さは平均的程度である。ロッシーニは爽やかで軽い音にまとまるが、中高域に独特の輝く個性があり、声の伸びやかさを抑え気味として聴かせ、空間の拡がりも不足気味。Pトリオは音色が暗く、暖色系となり、中域の表情が硬く、息つぎの音が少し誇張気味に感じられ、プレゼンスもあまり出ない。
 ブルックナーは予想よりも大掴みで、大味なまとまりとなり、低域に強調感がある。全体に力がなく、低域の輪郭の明瞭な特徴が活かせない。平衡出力は、空間の再現能力が高く、ホールの広さが感じられるようになる。低域の軟調描写傾向は残り、大太鼓はボケ気味で、弦楽器が全体に硬くなるが、全体のバランスは保たれている。プログラムソース全般に同一傾向があるが、再生システムとの、いわゆる相性のようでもある。

フィリップス LHH500

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 柔らかく角のとれた、しなやかで雰囲気のよい音を持つモデルである。プログラムソースとの対応の幅は広く、あまりハイファイ調とせず聴きやすいが、音楽的に内容のある音をもつ点は、大変に好ましい。ロッシーニは、ほどよくプレゼンスのあるナチュラルな音だ。ほどよく明るい音色と、中域から中高域にかけての素直な音は魅力的でさえある。低域の質感が甘い面もあるが、まとまりの良さはフィリップスらしい特徴である。Pトリオは、サロン風なまとまりとなり、予想よりも音の厚み、音場感情報が不足気味で、中高域に強調感があり、息つぎの音の自然さがなく、気になる。ブルックナーは、全体にコントラスト不足で音が遠いが、平衡出力にすると、音場感はたっぷりとあり、音の芯も明快で一段と高級機の音になる。Dレンジ的伸びと鮮度感が不足気味で、fレンジは少し狭くなり、中域の量感がむしろ減る傾向となる。ジャズは実体感がいま一歩で分離もいま一歩。

クレル MD-1 + SBP-64X

早瀬文雄

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 アンプメーカーとしてその名を馳せた米国クレル社から、デジタル機器専門メーカーとして独立して創立されたクレル・デジタル社より、既発表のCDターンテーブル/クレル・デジタルMD1と、シグナルプロセッサー/SBP64Xがついに正式発売となった。
 昨今アメリカ国内では、ハイエンドメーカーのデジタル機器への参入が活発化しているが、これは、先に発表されて話題を独占している感のあるワディアに続く存在として期待されていた。
 ワディアが単体のD/Aコンバーターのみであったのに対して、こちらはシステムとして完成した、いわゆるセパレート型CDプレーヤーシステムの形態をとっている点にマニアの関心が集中しているのだろう。
 元来、アナログディスクの信者として自他ともに認めるクレルの創始者、ダニエル・ダゴスティーノ氏の作品であるだけに、まずCDターンテーブル/MD1は、ディスク再生時に、アナログ再生に等しい儀式を要求する。
 分厚いアクリル製ダストカバーをゆっくりと持ち上げ、おもむろにCDをセットしたあと、クランパーの代りともなるディスクスタビライザーを乗せる。
 ダストカバーを閉める時、途中で手を離しても、重いカバーはゆっくりと自動的に下降するようになっており、一切のショックはない。
 ディスクトランスポート部はフィリップスのCDM3を使用しており、これをスチューダーのA730と同じものだが、その固定方法などを含め、きわめて対照的なアプローチがみられ、ここではアナログプレイヤー的剛性を追求しているようである。
 本体四隅の丸いカバーはサスペンションタワーと呼ばれ、中には多重構造のインシュレーターが隠されている。
 内部の詳細は明らかにされていないが、周辺機器に対する高周波ラジエーションの問題なども充分考慮されているとのことだ。
 一方SBP64X/ソフトウェアベース・デジタルプロセッサーは、デジタルフィルターに56ビットアキュムレーターを備えるモトローラ製DSP56001をチャンネルあたり2個の計4個使用しており、これまでにない演算精度を獲得しているという。
 SBP64Xではワディア/2000同様、DSPを用い毎秒6000万回余りの速さで独自のソフトウェアアルゴリズムを実行するのに必要な演算を行う。DSP56001の24ビット幅データパスと56ビットアキュムレーターが、デジタルデータの入力に厳密な18ビット64倍オーバーサンプリングで信号を補完し、バーブラウン製PCM64、18ビットD/AコンバーターでD/A変換を行う。さらに、完全ディスクリート構成の電流・電圧変換器からデグリッチ回路を経て、ディスクリートバランス型出力段に至る構成である。
 DSPにより、一般のデジタルフィルターとして用いられるFIR(Finite Impulse Response=有限インパルス応答)フィルターでは克服できなかった過渡特性的な欠点をクリアしている。
 電源部は3個のトロイダルトランスを独立させ、デジタル回路、DAC回路、アナログ回路に独立して電源供給を行なう。
 電源部から本体へのパワーケーブルも2本あり、1本がアナログ部とDAC部へ、もう1本がデジタル回路へと分かれており、デジタルノイズの混入を防いでいる。
 聴き慣れたディスクを国産最新のセパレートCDプレーヤーと比較しつつ聴いた。その上で、これは物凄い情報処理能力をもった画期的な製品であることが、じわりと実感できる。音の密度、音場の空間再現性において、まるで同じソースを聴いていると思えないほどの圧倒的なクォリティ差を一聴して感じさせ、まさによく出来たアナログディスクを極上の状態で聴くに近似した心地良さを提供してくれるものだった。
 複雑にからみあう楽音を精緻に分解して聴かせながら、響きの有機的なつながりが緻密で、弦楽器群のオーバートーンの重なりやローレベルでの透明感、情報量がすばらしく、余韻の消え方は圧巻だった。
 パルシヴなソースでも、叩きつけるようなエネルギー感がありながら、響きに高い品位が維持されるあたり、ただものではないという印象を強くした。

ティアック P-500 + D-500

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 全体にプログラムソースの音を軽く、柔らかい傾向の音として聴かせる、いわば個性の強い製品ではあるが、音色が暗くならず、表情に鈍さがないことが好ましい。ロッシーニは、かなり広帯域型のfレンジと、軽く滑らかな雰囲気のよい音だが、少し実体感が欲しいまとまりだ。Pトリオは、楽器の低音成分が多く、やや中域を抑えたバランスの、線が細く柔らかな音だ。音場は引っ込み奥に拡がり、響きはきれいだが音源は遠く、細部は不明の音。ブルックナーは、音源は遠いが、空間を描く音場感のプレゼンスはナチュラルでフワッとした雰囲気があり、これでよい。トゥッティでは、予想外に中高域に輝く個性があり硬質な面が顔を出すが、それなりのバランスで聴かせるあたりは、ターンテーブル方式の利点であるのかもしれない。ジャズは、低域はブーミーでエネルギー感が抑え気味となり、いまひとつ弾んだリズム感が不足気味で、見通しもやや不足気味だ。

マイクロメガ CDf1 Premium

早瀬文雄

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 フランス・マイクロメガ社製CDプレーヤー/CDF1プレミアムが本邦でも発売されることになった。
 同社はヨーロッパ圏で唯一のCDプレーヤー専業メーカーであり、CDF1プレミアムはその代表的な位置を占める製品である。
 写真からもわかるようにトップローディングタイプであるため、分厚く丁寧な作りのアクリル製ダストカバー(という表現がしたくなるような)をまず開けるところから〝儀式〟は始まる。
 ディスクを乗せ、さらに専用スタビライザーを装着し、ゆっくりとカバーを閉めるという一連の動作が必要なのだ。
 コンパクトですっきりとしたデザインから、軽くて可愛らしい音を想像していたのだが、実際に音が鳴り始めるや、そうしたあらぬ先入観は直ちに吹き飛んだ。
 さすがフランス製というだけあって、響きには、絵画的な色彩感や艶がのり、つぼを押えた音の隈取りの明快さにまず驚かされた。弾力のある暖かい響きには、味わいの豊かな個性的な面もあり、聴きごたえ十分だ。さらに適度な重量感もあり、ほどよく広がる音場にはどこか大人っぽい雰囲気があった。
 決して個性だけで聴かせる製品ではなく、現代的な情報処理能力も十分にもっていて、すっきりしたデザインに精度感が音の面からも感じることができた。したがって、現代的な録音の透明感や繊細感も十分に表現可能だ。
 注目のドライブメカは、すでに高い信頼性を獲得しているフィリップス製アルミダイキャストベースのCDM1IIにCDM4ピックアップを搭載している。
 フローティングには、同社のオリジナル機構が採用され、徹底した防振対策がとられているという。
 ディスクスタビライザーは、内部損失の大きいケブラー繊維とカーボンファイバー、そして直径がおよそ30mm、重さ約120gの真鍮製ウェイトから構成されている。
 D/Aコンバーターには、フィリップス製クラウンマーク付ヴァージョンS1仕様を採用し、アナログ回路はディスクリート構成クラスAオペレーションアンプとし、左右独立の大型トロイダルトランスを定電圧回路に採用している。
 またアナログアンプ部は、電源プラグをコンセントに差し込むと常に通電され、フロントパネルの電源スイッチのオン/オフによらず、ヒートアップが準備された状態で聴くことができるようになっており、短時間のウォームアップで所期の性能が得られるよさばかりでなく、動作の安定性も高めているという。

パイオニア PD-5000

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 響きの豊かさがあり、基本的なクォリティが高く、各プログラムソースの特徴を引き出しながら、安定感のある立派な音が聴ける製品だ。ロッシーニでは、自然な拡がりのあるホールトーンと安定した音を聴かせ、音像の立ち方もやや立体的なイメージがある。中域の一部には少し硬質な面があり、楽器の分離がよくリアリティのある音で描く効果があり、柔らかく質感のよい低域と巧みなバランスを保つ。Pトリオは響きが豊かで、ディティールをサラッと聴かせる素直な再現能力と実体感のある音像定位が好ましいが、再生システムのキャラクターか、やや硬調な描写となりやすく、アタック音が少しなまり気味だ。ブルックナーも共通で金管が硬く聴かれ、トゥッティの分離がいま一歩であるが、安定した質感のよい音と自然なプレゼンスは相当によい。低域の伸び、ゆとりに少し不満が残るが、価格からは無理な注文だろう。ジャズは、低域腰高で軟調傾向だが、よくまとまる。

ソニー CDP-R1a + DAS-R1a

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 温和で、しなやかな充分に磨き込まれた音を持った、雰囲気のよい音を聴かせるプレーヤーである。
 ロッシーニは、しなやかではあるが、スッキリとした音を指向した音を聴かせる。各楽器はひととおり分離するが、各パートの声は少し伸び切らない印象となる。音場感情報量、柔らかく定位する小さな音像など、平均を超すレベルだ。ピアノトリオは、ホールの響きをたっぷりと聴かせるサロン風なまとまりである。中高域には硬質な面があり、音の輪郭を聴かせる効果はあるが、ヴァイオリン、チェロの高域成分は少し硬い。ブルックナーは、一応のレベルの音だが全体にちぐはぐな面があり、再生系との相性の悪さが出た音だ。平衡出力では、コントラストが下がり、フレキシビリティは出るが、三万二してまとまらない。ジャズは集中力が不足し、力がいま一歩の印象でまとまらない。もう少し低域のリズム感が支えれば、一応の水準になる印象が強い。

マイクロ CD-M2DC + DC-M2

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 穏やかで、一種独特の重さ、暗さがある渋い音を持つ個性的な音である。CDとしては再生する情報量は多く、演奏会場の空気の動きや椅子などのキシミ、楽器のノイズなどを聴かせる。試聴位置は中央の標準位置。ロッシーニは、基本的にはウォームトーン系のまとまりだが、角がとれたクッキリとした音はアナログディスク的なイメージがある。各パートの声は少し伸びが抑えられ、音像はフワッと大きく定位する。ピアノトリオは、低域が重く粘りがあり反応は遅いが、中低域以上はほどよく立上りの良い素直な音であるため、低域のコントロールをすれば個性的な良い音になるだろう。ブルックナーは、音楽的な意味でのブルックナーらしさがあるが、オーディオ的には見通しが悪く、晴々としない音である。平衡接続ではプレゼンスは良くなるが、ダイナミックレンジは抑えられ、表情も鈍くなる。ジャズは、狭帯域型バランスと閉鎖空間的プレゼンスが特徴だが、安定度、力感が欲しい。

ソニー CDP-R3

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 音の粒子が細かく、滑らかに磨き込まれた低域から中域と、聴感上で高域がゆるやかに下降したかのように聴きとれる、柔らかく穏やかな帯域バランスをもつが、基本クォリティが高く、際立ちはしないが、聴き込むとナチュラルに切れ込む音の分離は相当なものだ。ロッシーニは、中高域に輝きのある硬質さが時折顔を出すが、空間の拡がり感もあり、やはり価格に見合うだけのクォリティの高さが感じられる。ピアノトリオは、全体に低軟・高硬の2ウェイスピーカー的なまとまりとなり、一種のアンバランスの魅力があるまとまりといえるだろう。ブルックナーは、演奏会場の暗騒音もよく聴きとれ、一応の水準を保つ音だ。平衡出力は、全体域にゆとりがあり、しなやかさが加わって弦楽器系の硬質な音が解消され、見かけ上でのダイナミックレンジも大きく聴かれるが、高域は抑え気味。ジャズは、ライヴハウス的イメージの音で、音源が少し遠くなるが、適度なノリで、かなり楽しめる。

メリディアン 206

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 全体に各種プログラムソースを、ややクラシカルな個性的な自分の音として消化して聴かせる独特のキャラクターに注目したい製品。ロッシーニは、全体にナローレンジで硬質な音にまとまり、情報量は少ないが、古いアナログディスク的な一面のある音とでも表現したい印象がある。ピアノトリオは、206の硬質な個性がよく出た明快なピアノとチェロがオーディオ的にわかりやすいコントラストを聴かせる。音場感は少し狭いタイプだ。ブルックナーは、音の輪郭をクッキリと聴かせる、かなり個性的なまとまりとなるが、一種の思い切りの良さが感じられるポイントを押えた音楽の聴かせ方は、再生音楽としてオーディオ的にこれならではの魅力を感じる向きもありそうだ。ジャズは、明快なクッキリとした音を描くまとまりである。聴き込めばブラスは薄く、ベースが小さく硬調となるが、余分な音を整理し、分離よく聴かせどころを巧みに残したような独特の個性は興味深い。

アキュフェーズ DP-11

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 柔らかく、軽く、爽やか指向の音をもつデルであるが、音情感はフワッと柔らかい雰囲気にまとまる傾向があり、見通しの良さは平均的程度である。ロッシーニは爽やかで軽い音にまとまるが、中高域に独特の輝く個性があり、声の伸びやかさを抑え気味として聴かせ、空間の拡がりも不足気味。ピアノトリオは音色が暗く、暖色系となり、中域の表情が硬く、息つぎの音が少し誇張気味に感じられ、プレゼンスもあまり出ない。
 ブルックナーは予想よりも大掴みで、大味なまとまりとなり、低域に誇張感がある。全体に力がなく、低域の輪郭の明瞭な特徴が活かせない。平衡出力は、空間の再現能力が高く、ホールの広さが感じられるようになる。低域の軟調描写傾向は残り、大太鼓はボケ気味で、弦楽器が全体に硬くなるが、全体のバランスは保たれている。プログラムソース全般に同一傾向があり、再生システムとの、いわゆる相性のようでもある。

EMT 981

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 整然とした硬質の音を、適度な力感を伴って聴かせる個性型のプレーヤーだ。ロッシーニでは、弦、木管などのハーモニクスが個性的な輝きを持ち、コリっとした硬めのテノールは本機の特徴を物語る。音場感は特に広くはなく、ある限定された空間にピシッと拡がり、輪郭がクッキリとした音像定位はクリアーで見事である。Pトリオは間接音成分が抑えられ、スタジオ録音的まとまりとなるが、硬質で実体感のある音は楽器が身近に見える一種の生々しさがあり楽しい。ブルックナーは、トゥッティで少しメタリックな強調感があるが、音源が予想より遠くスケール不足の音だ。No.26Lの不平衡入力から平衡入力に替えると、音場感、各パートの楽器の音がかなり自然になり、このクラス水準の音になるが、編成の大きなオーケストラのエネルギー感は不足気味だ。それにしても、ブルックナーが見通しよく整然と聴こえたら、それが優れたオーディオ機器なのだろうか。

フィリップス LHH500

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 柔らかく角のとれた、しやかで雰囲気のよい音をもつモデルである。プログラムソースとの対応の幅は広く、あまりハイファイ調とせず聴きやすいが、音楽的に内容のある音をもつ点は、大変に好ましい。ロッシーニは、ほどよくプレゼンスのあるナチュラルな音だ。ほどよく明るい音色と、中域から中高域にかけての素直な音は魅力的でさえある。低域の質感が甘い面もあるが、まとまりの良さはフィリップスらしい特徴である。ピアノトリオは、サロン風なまとまりとなり、予想より音の厚み、音場感情報が不足気味で、中高域に強調感があり、息つぎの音の自然さがなく、気になる。ブルックナーは、全体にコントラスト不足で音が遠いが、平衡出力にすると音情感はたっぷりとあり、音の芯も明快で一段と高級機の音になる。ダイナミックレンジ的伸びと鮮度感が不足気味で、fレンジは少し狭くなり、中域の量感がむしろ減る傾向となる。ジャズは実在感がいま一歩で分離もいま一歩。

テクニクス SL-Z1000 + SH-X1000

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 柔らかくフワッとした、温和な音を聴かせるモデルであるが、ローレベルのこまやかさが描けるようになり、音の消えた空間の存在がわかること、帯域バランス的には中域の質感が改善され、硬さの表現ができるようになったことが、従来と変った点だ。なお、聴取位置は中央の標準位置である。ロッシーニでは、空間の広がりを感じさせる暗騒音も充分に聴かれ、柔らかい雰囲気を持ちながらこまやかさがある素直な音である。音像は小さくソフトに立つ。Pトリオはプレゼンスよく、光沢を感じさせる、ほどよく硬質な各楽器のイメージは、かなり聴き込めるが、低域はいまひとつ分離しない。ブルックナーは、ややこもった音場感でスケール感もあるが、アタックの音が軟らかく、抑揚が抑え気味となり単調に感じられる。平衡出力では、ベールが一枚なくなったようなスッキリとした音場感、各パートの楽器の分離などでは優れるが、鈍い低域が問題で、再生系と相性が悪い。