Category Archives: アンプ関係 - Page 71

マランツ Model 150

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 今もってマランツ10Bの名は、高級オーディオ・ファンの間でしばしば口にされる。この幻を絶つことは今回のマランツにとっての最大の課題のひとつであった。モデル150がデビューしたときの米誌の評はこの辺の事情を思わずして語っており、しかもその上で10Bを越える性能と、その音の誕生に両手を挙げて喜んでいる、というのが目に見えるほどだった。
 事実、モデル150は、10Bの時代より一層過密なFM電波を望み通り選び、楽しむことのできる性能と特性とを具えた数少ない高級かつ低歪チューナーの最大の傑作だ。今回、多くの製品があふれる中で「オーソドックスな機構による真の低歪チューナー」を選ぶとすれば、このモデル150のみだ。

デンオン POA-1001

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 デンオンは、76年暮にソリッドステート・アンプのコントロールアンプとパワーアンプのペアをデビューさせた。その一年前に、同じくセパレート・アンプでも真空管方式を発表した。管球式にくらべて、価格的に半分だがソリッド・ステート型の新製品の水準は真空管式に優るとも劣らないと思える。
 管球アンプを出して一年後にソリッド・ステートを出したという点にこのかくされた秘訣がありそうだ。つまり管球式の良さを十分に確めた上で、その上にトランジスターにする最新技術を積み重ねて行った点だ。ソリッドステート・アンプもV−FETあるいはA級アンプとさまざまな技術が投入され試みられてその良さを競った製品が多く市場にあふれる。
 その中でデンオンがセパレートアンプを遅ればせながらデビューするに当っての開発テクニック、あるいはその方法として狙ったものは仲々のものであるようだ。真空管ならざるアンプのソリッド・ステートならざる音は忘れ得ぬ大いなる魅力だ。

ダイヤトーン DA-A100

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 ダイヤトーンの歴史は、日本のオーディオの歴史そのものといってもよい。日本におけるハイファイ創成期ともいうべき昭和20年代以後から早くもダイヤトーンの16センチのスピーカーの活躍はスタジオ、放送局で始められていた。というわけで、必ず出てくるのはスピーカーだけだった。ダイヤトーンがこのDA−A100をデビューさせるまで、ダイヤトーンのアンプの存在は、スピーカーの影にかすんで、すっかり薄くなってしまっていた、といわざるを得ない。ところが電機メーカーとしての三菱の技術は、当然、アンプの分野でも三菱ののれんにかけて、おそらくそれなりの指向をもっていたろうし、それはスタジオ用の大型スピーカー・システムを作ったときに早くも、地道ながら成果を挙げて「システム・ドライブ用出力増幅器」として存在していたわけだ。こう語れば判る通り、ダイヤトーンアンプはデビューするはるか以前から、その独自の技術をつくした成果を遂げていたわけである。だからDA−A100が出たとき、始めて知ったその技術は驚くべき水準にあったとしても少しも不思議ではない。ハイファイの歴史の、陽の当らざる所にあったアンプの技術は、かくてDA−A100のデビューによって力強く見事に芽吹いたのである。DA−A100の実力は、デビュー以来三年経た今日といえども少しも影ることはない。中音の充実したイメージのまま、全体に無駄のない透明感に加え、冷たさのないサウンドの完成度は実に高い。

ダイナコ Mark VI

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 マークIIIとして永く愛用される60ワットアンプをもって、数少ない管球アンプの伝統を持つダイナコのもっともハイパワーかつ強力なるアンプが、このモノラル・パワーアンプMKVIだ。おそらくMKIIIの倍の出力を持つためにMKVIとなったのだろう。
 120ワットの出力はソリッドステートパワーアンプなみで、もしMKVIにくらぶべきソリッドステートとなると300W級だから、驚くべきハイパワーだ。
 ダイナコ製品の、もうひとつの大きな特徴は、米国のコンシュマーレポートの常連といえるほどに、しょっちゅうその名が「お買得ベスト」の中に名を連らね、それも年を追っても型番が変らないという点だ。つまり、ひとたび製品化するとこれを中止することはめったにせず、幾星霜たつといえど同じ製品がずっと永く市場をにぎわす主要製品として続く点だ。寿命の驚くほどの永さこそダイナコの製品の最大の強味でもある。MKVIおそらく10年後もそのまま続くだろう。

オーディオリサーチ D-76A

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 米国にきら星の如く数多く出てきた新進アンプメーカー中、もっともユニークな存在がこのオーディオリサーチだ。その作るアンプはすべて管球式。注目すべきなのはすでにソリッド・ステート万能の時期である数年前からのスタートでありながら、管球式アンプにこだわるといえる姿勢だ。たしかに真空管アンプの音の良さはオールドファンを中心にベテラン達の堅く永く口にする点だ。ソリッドステートに技術的性能では遠く及ばずとも、音の良さは明らかな差を感じさせる。オーディオリサーチ社のアンプが高級ファンに愛される理由は、高水準のマニアほど十分に納得できるだろう。プリアンプに対する評価よりもパワーアンプに対する評価が高いのは「スピーカー・ドライブの点での管球アンプの有利性」のためではなかろうか。デュアル75でスタートして、トランスを含むパーツや機構を大幅に変えて76年にデュアル76となっている。

スチューダー A68

スチューダーのパワーアンプA68のサービスマニュアル
A68 _Serv

マランツ Model P3600, Model P510M

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 この四半世紀アメリカの高級アンプリファイヤーの部門を、マッキントッシュとともに二分する一方の最高級メーカーとして、マランツのブランドは不動の地位を確立してきた。ソウル・B・マランツによってニューヨークのロングアイランドに工場を設立されたマランツ社は、それ以来きわめて優れたテクノロジーとオリジナリティをもった最高級アンプリファイヤーづくりに徹し、#7や#9など数々の名器を生んだのである。それらの数々のアンプリファイヤーが、世界中のほとんどのアンプメーカーの行き方に与えた影響は、デザイン面あるいはサーキットの面において大なり小なりといえども計り知れないものがある。したがって、マランツの名前が、今日世界最高のブランドとして光輝いているのも当然のことだろう。
 しかし、残念ながら現在のマランツは、スーパースコープ社の傘下に入り、ソウル・B・マランツが退いて同社の体質は変化し、普及機までもつくるようになったが、ただ単にブランド名だけが受け継がれたのではないことは、現在のトップランクのアンプリファイヤーを見れば理解できる。アメリカのメーカーの良いところは、ある会社を受け継ぐ、あるいは吸収するときに、そのメーカーが本質的に持っていた良さを生かす方向に進むということだ。マランツもそういう意味で、ソウル・マランツ時代のイメージが消えてはいない。特に、このP3600とP510Mという、同社の現在の最高級アンプリファイヤーは、やはり一流品としての素晴らしさを維持し、マランツの歴史に輝くオリジナリティと物理特性の良さを持っているのである。そして、デザインも明らかに昔からのマランツの血統を受け継いだものといえるし、クォリティも昔のマランツの名を恥ずかしめない実力を持つアンプリファイヤーである。パネル・フィニッシュなどには昔日のようなクラフツマンシップの成果を偲ぶことが出来ないのが残念だ。
 コントロールアンプのP3600、パワーアンプのP510Mは、同社のコンシュマーユースの最高峰に位置するMODEL3600、MODEL510Mの特に優れた物理特性を示すモデルに〝プロフェッショナル〟の名を冠した機種である。フロントパネルは、厚さ8mmのアルミのムク材をシャンペンゴールドに仕上げ、プロフェッショナル・ユースとしての19型ラックマウントサイズになっている。この二つのセパレートアンプは、マランツのステータスシンボルだけに、最新のエレクトロニクス技術の粋を結集し、シンプルな回路と高級なパーツで、オーソドックスなアンプの基本を守り、音質も、マランツらしい力感と、厚みを感じさせる堂々たるもの。中高音の艶やかな輝やきは、まさにマランツ・サウンドと呼ぶにふさわしい魅力をもっている。パネル仕上などには昔日のような繊密さがないと書いたが、現時点で求め得る最高のフィニッシュであることを特筆しておこう。ソウル・マランツ時代の血統が脈々と生きていることは心強い限りである。

マッキントッシュ MC2300

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 マッキントッシュ・ラボラトリー・インクは、すでにご承知のとおり、アメリカ合衆国のニューヨーク州ビンガムトンに本拠を置く、高級アンプリファイヤー・メーカーとして広く知られている。創設以来ほぼ30年という歴史は、他の分野からみれば決して長いとはいえないが、創立当時の会社組織と首脳陣に変更がないという点では唯一のメーカーともいえ、アンプリファイヤー・メーカーのみならず、他の部門を見渡してみても最古の歴史をもつメーカーといえるだろう。
 有名なマッキントッシュ・サーキットという、独特のユニティ・カップルと称する特殊巻線方式によるアウトプットトランスを中心とする回路を、かたくななまでに守り続ける商品づくりの強固な姿勢で一貫している。現代のエレクトロニクス技術の最先端をいくものと比較すれば、いまや古い回路技術だという見方ももちろんできる。私もそれを否定はしない。しかし、自分たちが信ずる方向を全く妥協せずに、一つの商品としての主張を通し、長年の間に磨きに磨きをかけて生かしきってきたマッキントッシュの姿勢は、まさに私は一流メーカーの名に恥じないものがあると思う。そして、その製品はきわめてグレードが高く、あたかもメルセデス・ベンツのごとく、マッキントッシュと名前の付けられたアンプリファイヤーは、最も安価な製品といえども高級アンプであるという、確固たる地位を築いてきているのである。
 多くのマッキントッシュ・アンプリファイヤーの中で、特にこのMC2300というパワーアンプは、同社のソリッドステート・パワーアンプ中、最大のパワー(300W+300W)を誇り、しかも、同社の長年の間に培われた技術の蓄積がフルに生かされた製品である。そういう意味において、私はこのMC2300をパワーアンプの一流品とし躊躇なく挙げたい。このMC2300は、同社の管球式アンプのステータスシンボルともなっていた、350Wというとてつもない大出力のモノーラルパワーアンプMC3500のシャーシをそのまま継承したソリッドステート・モデルで、現在のマッキントッシュの象徴として、パワーといい、重量といい、このガッチリとした堅牢なつくりといい、まさに王座に君臨しているのである。また、このパワーアンプは、モノーラル切替スイッチによって、600Wのシングルチャンネル・アンプとして使用できるという、驚異的なマシーンでもある。
 先に述べたような、マッキントッシュ社が目ざす姿勢は、外観にもはっきりとオリジナリティを持ったデザインとして表われているが、性能面でも独自のマッキントッシュ・サーキットが再現する、非常に重厚な、マッキントッシュならではの安定したバランスのよい音が聴ける。そして、このチャンネル当り300Wというハイパワーに支えられた、次元を異にする充実した立体音は、まさにアンプリファイヤーの一流品として、堂々たる風格を備えているのである。

マッキントッシュ C26

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 マッキントッシュ・アンプリファイヤーのパネルデザインはゴージャスな雰囲気をたたえた、じつにユニークなオリジナリティを持っている。そして、仕上げにも緻密な神経が行き届いている。特にコントロールアンプは、ガラスのパネルを使い、イルミネーションによって、ゴールドの文字をグリーンに変えるというアイデアは透逸である。そのデザインにはアンプとしての機能の必然性があり、音楽を聴くために使う道具としての、同社のミスター・ガウがいうところの〝エモーショナル・レスポンス・フォー・ミュージック〟ということまでを考えた、アンプのパネルデザインのもつ一つの究極の姿を完成させたことは、やはり高く評価されるべきものだと思う。
 どちらかというと、マッキントッシュの得意とする部門はパワーアンプリファイヤーであり、コントロールアンプに関して、同社の製品を世界一とするにはいささか抵抗がなきにしもあらずだが、しかし、さすがにテクノロジーを高い水準で維持しているマッキントッシュらしく、このC26というコントロールアンプは、トランジスターライズドされた初期の頃の製品でありながら、より新しい機種であるC28や、近々発表されるであろうC30に比べて、スペックの面ではいろいろと問題はあるかもしれないけれども、いかにもマッキントッシュらしい、重厚な、落ち着いた、線の太い堂々とした音を再現してくれるという点において、そして、先ほども触れたガラスのパネルデザインの、完成した最初の製品だという意味において、私は一流品に値するコントロールアンプとして推選したい。

アムクロン DC300A

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 今、日本のアンプが、さかんにハイパワー、DCアンプ化への血道を上げている。アムクロンDC300は今を去る10年近くも前にこの2点「ハイパワー」「DCアンプ」として米国にデビューし、米国でのハイパワー時代のトリガーとなった製品である。150/150Wのこのアンプの出現によってすべての高級メーカーは100ワット以上の出力を目指すことに踏み切らざるを得なくなったといってもよい。ところがアムクロンDC300、決してこうしたオーディオ高級アンプとしての目的で作られたものではない、あくまでラボラトリーユースの産業用アンプであり、そのためのDCアンプであったわけだ。アムクロンというメーカーが当時超高級デッキのシェアーでもっともよく知られた点でオーディオ用としても使われたとみるべきだろう。さてDC300、今日純粋なオーディオ用として300Aに生まれ変り、その内容の大要は変ることなく、もっとも伝統ある誇り高きハイパワーアンプとして今日も存在するが、その存在は色あせることなくまだ続こう。

アキュフェーズ M-60, T-100

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 アキュフェーズのブランド名でケンソニックからスタートして、もはや数年の月日がたつ。ケンソニックの名は伝統の深からざるオーディオ業界にあってもなおもっとも日が浅い。それだけに、一流ブランドとしての成り立ち、あるいは信頼を勝ちとるための努力はなみのものではなかったろう。
 それにしても僅かな期間に世界的に高い製品評価と高級メーカーとしての信頼とを得たのは十分にうなずける根拠を容易に求められる。そのひとつは高級機種のみを限定して製造することであり、その二は一応発表した製品は決して競合すべき新型を出さず、また中止もしないということだ。
 この一流品たる資格の基本条件たる二つの点を当事者たるメーカーが製品発表の事前にはっきりと明言しているというケースは、めったにあるものではないがアキュフェーズの場合がこれだ。高級製品メーカーとしての見識と誇りの高さとを知らされ、それが信頼への深いきずなとしてユーザーとメーカーとを結びつけている。
 プリアンプC200と共に最初に発表したパワーアンプP300こそケンソニックの名を世界に知らしめた最初のアンプであり、その時にペアーとなるべきチューナーとして出たのがT100である。
 この三機種こそ、アキュフェーズブランドの名を代表するべき3つの象徴といってもさしつかえなかろう。しかしこの後のハイパワー時代の急激な拡大に伴ってパワーアンプはさらに、2倍のパワーアップを図った国産初と思われる300Wの大出力を秘めたモノーラルパワーアンプ、M60となった。そこでP300に代ってM60がアキュフェーズ・ブランドの旗頭となったのだ。M60は、300Wのハイパワーながら、その価格28万円を考えると、今日はっきり国際的な市場を視点としてもなお価格的に妥当なものであろう。
 日本製アンプが、日本国内市場でごく割高なる価格をつけられた海外製アンプと競争でき得るとても、当事国では日本製アンプが、あまりに高価になり過ぎる例が多い中でアキュフェーズ製品はすべて価格的に国際市場のどこにおいても十分に納得でき得る価格であるという点は、見逃せない大きな特徴であり、この点こそがアキュフェーズ製品が国際的な意味からも優秀製品であることの、もっとも大きな理由だ。
 ケンソニックの中核がかつてはトリオの主脳陣であったことはよく知られており、さればチューナーの文字通り開発者としてアキュフェーズのチューナーもまた大いに期待できる製品だ。その期待は海外の評価が早くも、T100デビュー早々に、「FMチューナーのロールス・ロイス」という賛辞で示された。アンプ同様、豪華な仕様と風格とはその底知れぬ深い完成度を感じさせ、そのまま製品の高い品質への信頼感へもっとも大きな支えとなっているからだ。

SAE Mark IB, Mark 2400

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より
 この7年間、70年代に入って米国市場のオーディオメーカーに新しい名が目立って多くなった。
 その中でSAEはもっとも早くからいち早く成功を伝えられたメーカーで、アンプ・メーカーとして今ではもっとも生産数を誇る実績を確立している。この成功は、SAEが、いかにも現代的な技術の優秀さで裏付けされた技術的集団であることを、初期の製品から一貫してはっきりと示しているからだ。SAEの製品は、一見して今までのそれらとは一線を画する飛躍した電子技術を内に秘めていることを、受け手がよく技術的知識を蓄えていればいるほど感じるであろう。しかもこうした新進メーカーによくみられる未熟さが全然なく、その初の製品からでさえ、きわめつくされた完成度を、あらゆる点で知らされるのも例がない。
 どこをとっても一分の隙もないパネル・デザイン、しかも一本のライン、つまみのいちカットにさえ細心の誠意と合理性とをつめ込んだ技術的なセンスの高さ。技術が芸術に昇華するほどの、高いレベルだ。
 MK2400も、決してプラックフェイスという外観だけに止まらず、技術的な内容もさらにその音にも、はっきりと感じられる。きわめてスッキリして、透明そのもの、無駄を廃した端正の極地といったような音だ。使い方により機能をどこまでまとめ上げ、どこで妥協するか、という点のむずかしいコントロールアンプでのSAEの腕前がこのMKIBにぞんぶんに発揮されて、いかにもSAEオリジナルらしい、すばらしい傑作となった。

QUAD 33, 303, 405, FM3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 創設者のP・ウォーカーは英国のオーディオ界でも最も古い世代の穏厚な紳士で、かつて著名なフェランティの協力を得てオーディオの開拓期から優秀な製品を世に送り出していた。ロンドンから一時間ほど車で走った郊外にあるアコースティカル社は、現在でもほんとうに小さなメーカーで、QUADブランドのアンプ、チューナーとコンデンサースピーカーだけを作り続けている。
 QUADは、なぜ、もっと大がかりでハイグレイドのアンプを作らないのか、という質問に対してP・ウォーカーは次のように答えている。
「もちろん当社にそれを作る技術はあります。しかし家庭で良質のレコード音楽を楽しむとき、これ以上のアンプを要求すればコストは急激にかさむし、形態も大きくなりすぎる。いまのこの一連の製品は、一般のレコード鑑賞には必要かつ十分すぎるくらいだと私は思っています。音だけを追求するマニアは別ですが……」
 こうした姿勢がQUADの製品の性格を物語っている。
 管球アンプ時代から、QUADはアンプをできるかぎり小型に作る努力をしている。ステレオプリアンプの#22は、それ以前のモノーラル・プリアンプと全く同じ外形のままステレオ用2チャンネルを組み込むという離れわざで我々をびっくりさせた。必要かつ十分な性能を、可能なかぎりコンパクトに組み上げるというのがQUADのアンプのポリシーといえる。
 この小さなアンプたちはデザインもじつにエレガントだ。ブラウン系の渋いメタリック塗装を中心にして、暖いオレンジイエローがアクセントにあしらわれる、というしゃれた感覚は、QUAD以外の製品には見当らない。このデザインは、どんなインテリアの部屋にも溶け込んでしまう。ことに、プリアンプとFMチューナーを一緒に収容するウッドキャビネットは楽しいアイデアだと思う。
 必要にして十分、と言っていたQUADも、一年前にパワーアンプの新型#405を発表した。100W×2というパワーをこれほど小さくまとめたアンプはほかにないし、そのユニークなコンストラクションは実に魅力的でしかも機能美に溢れている。
 アメリカや日本のアンプのような贅を尽した凄みはQUADの世界にはないが、33、303のシリーズの音質は、どこか箱庭的な、魅力的だがいかにも小づくりな音であった。405はその意味でいままでのQUADの枠を一歩ひろげた音といえる。この小柄なシャーシから想像できないような、力のある新鮮な音が鳴ってくる。クリアーで、いくらか冷たい肌ざわりの現代ふうの音質だ。アメリカのハイパワーアンプと比較すると、ぜい肉を除いた感じのやややせぎすの音に聴こえる。そして、405の音を聴くと、QUADはおそらく33よりも一段階グレイドの高いプリアンプと、やがてはチューナーも用意するのではないかと想像する。しかしそれはあくまでも良識の枠をはみ出すことのない、QUADらしいコンパクトな製品になるにちがいない。

デンオン PMA-701, PMA-501

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 デザインを変えてイメージチェンジをした2機種の新製品は、デザイン以上に大変にユニークな機能を備えていることが特長である。この機能は、カートリッジのクロストーク特性をアンプ側で電気的にコントロールするためのPCC(フォノ・クロストーク・キャンセラー)と名付けられたものである。
 一般にカートリッジのクロストークは、中域の条件が良い状態でも、−20dB〜−30dB程度で、アンプ側のフォノ入力からスピーカー端子までのクロストークにくらべて大幅に劣っていることは、よく知られていることである。カートリッジのクロストークの位相特性を調べると位相差が0°付近と180°付近にあることから、左チャンネルから右チャンネルへのクロストークを例にとると、第一に左チャンネルの信号を適当な値で取り出し、極性を反転して右チャンネルに加えれば打消しにより数dB以上の改善が期待できる。第二に、第一の方法により打消すことができないクロストーク分は、信号分との位相差が±90°の成分であり、このためには移相器が有効であろう。
 以上の予想を基本として実験の結果は、周波数によっては10dB以上の改善が見られたとのことで、実際のPCCは、L→R、R→Lの両方でキャンセラーを動作させる必要があり、各チャンネルを2個のツマミで調整することになる。なお、カートリッジのクロストークは、アームへの取付条件までを含めれば、1個毎に異なるために個別の調整が必要で、その目的のために、調整用レコードがアンプに付属している。
 回路構成上の特長は、フォノ入力回路は切替スイッチやシールド線を使用せずイコライザー段に直結とし、入力インピータンス特性を向上させ、併せてそれらによるSN比の低下を防いでいる。また、電源部はデンオンのプリメインアンプとしては、はじめてのパワーアンプのB級増幅部分での左右独立トランスの採用の電圧増幅段、プリアンプ部専用の電源トランスをもつ、3電源トランス方式が使われている。
 PMA701と501の違いは、出力が70W+70Wと50W+50W、機能的には後者には、ハイフィルターがない。
 PCCによ、カートリッジのクロストーク調整は、付属している17cm盤のテストトーンのバンドを使っておこなう。片チャンネルについて、2個のコントロールを交互に調整して、信号が最小になる位置を探せば、調整は完了する。この調整は、割合いに容易であり、PCCスイッチのON・OFFで、クロストークの改善度が確認できる。効果は、かなり大きくPCCのONで、ワーブルトーンの調整信号音は、大幅に減少することが判るはずだ。音質的な変化は、音が全体にスッキリとして、間接音成分的な、あいまいな感じがなくなり、音像の輪郭が、一段とクッキリとして浮かび上がるようになる。このような効果は、ベースとなるアンプのクォリティが充分に高くないと望めないことだけに、新しい2機種のプリメインアンプは、アンプとして、デンオンらしいクォリティの高さがあることを裏付けているわけだ。この結果から予想すれば、もし単体ユニットでPCCが発売されるとしたら、より高級機との組合せで効果がありそうだ。

オンキョー Integra A-7, Integra A-5

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 新しいインテグラは、型番がシンプルな1桁に変わり、デザイン面でもまったく従来のイメージを一新している。
 このシリーズは、開発当初からアンプ動特性を重視し、音楽的な完成度の高さが追求されてきたが、今回一歩進んで、〝ローインピーダンス化4ポイント方式による強力電源回路と給配電ライン〟を中心とした設計により、音楽の感動、興奮といった物理上のハイファイ再生とは次元を異にした芸術領域の音楽成分を充分に再現できる、豊かな芸術性を秘めた新インテグラに発展しているとのことである。
 ローインピーダンス化4ポイント方式とは、①等価直列抵抗を特に小さくした大容量電解コンデンサー ②極太のローインピーダンスケーブル ③大型パワートランス ④徹底したブス(母線)アースラインの採用でアースを含めた給配電ラインと電源部との総合インピーダンスを可能な限り低く設計し、これにより、左右チャンネル間および同一チャンネル内における相互干渉を排除するとともに、強力なエネルギー供給体制をとり、とくに大振幅時の立上がり特性の改善とピークパワーの確保を計ろうとするものである。
 回路構成は、差動1段A級プッシュプルのイコライザー段、差動1段3石構成のオペレーショナルアンプ型のトーンコントロール段、ドライブ段にA級プッシュプル方式を採用したパワーアンプである。
 A7とA5の違いは、パワーが60W+60Wと45W+45W、イコライザー許容入力が230mVと170mVをはじめ、パネル面の機能では、A5でボリュウムコントロールのdB表示、セレクターでのAUX入力、トーンコントロールのターンオーバー切替、ハイカットフィルター、スピーカー切替スイッチのA+Bが、それぞれ省かれている。

ソニー ST-A7B

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 現在の高級チューナーとして、とくに驚異的な内容を誇る製品ではないが、デザイン、性能、機能などの総合的なバランスが大変に優れたモデルである。
 デザインは、ソニー製品の特徴である機能美をもったもので、仕上げも入念であり、各コントロールのフィーリングも一流品らしくコントロールされている。最近の高級チューナーといえば、シンセサイザー方式の導入や、水晶発振器の信号を基準として局部発振回路を100kHzおきにロックする、クリスタルロック方式が採用されることが多いが、シンセサイザー方式の重心周波数がディジタル表示される未来志向型といった感じはかなり面白いが、スイッチを使っておこなう選局は実感が薄く、どうも選局をしたという感覚的な確認が乏しい。
 ST−A7Bでは、クリスタルロック方式を採用し一般的な走り幅が広いダイアルをもちながら、シンセサイザーチューナー的な、ディジタル周波数ディスプレーをもっているのが大変に楽しいところである。たしかに、選局ということだけでは不要かもしれないが、チューニングツマミを回して選局するという、かなり人間的な感覚と、新しい世代のチューナーを象徴するようなディジタルディスプレイと共存は、まさしく趣味としてのオーディオならではのものといった印象である。また、とかく高級チューナーは、FM専用とする傾向があるなかに、完全に独立したAMチューナー部があり、FMダイアルの片隅みに小型のダイアルが目立たず付いているのも好ましい。

ラックス M-6000

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 200Wをこすハイパワーアンプは、オーディオコンポーネントというよりは、マシーンを思わせる業務用機器として開発されたモデルが、そのすべてといってもよい。これらのパワーアンプは、一般的に19インチ・ラックサイズのパネルをもち、デザイン、重量、外形寸法のいずれをとっても、実際に家庭内で使用してみると、予想外にその存在を誇示し、ある種の違和感はまぬがれないようである。
 M6000は、そのなかにあって300W+300Wという、現時点でのこの種のアンプの上限ともいえる巨大なパワーを備えながら、当初からコンシュマーユースとして企画され、製品化された異例なパワーアンプである。
 たしかに、実質的な外形寸法、重量は、いわゆるコンシュマーユースの枠をこしてはいるが、デザイン的に考慮されているために、感覚としては大きく感じられず、家庭内に置いて、さして違和感が生じないメリットは大きい。機能面でのメーターとLEDを使ったピークインジケーターの組合せによるパワー表示、リモートコントロールでリレー制御によっておこなう電源のON・OFFなど、高級パワーアンプに応わしいものが備わり、音質的にもハイパワーアンプにありがちな粗い面がなく、平均的な音量では柔らかく、細やかな音を聴かせながら、ピーク時には並のアンプでは想像できない穏やかながら底力のあるエネルギー感を再現する。趣味としてのオーディオに徹したラックスならではのハイパワーアンプだ。

オーレックス SC-77

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 SC55と同寸法のシャーシに収まったものパワーアンプで、出力は120Wである。回路構成は、初段カスケード接続差動2段、3段ダーリントン全段直結順コンプリメンタリーOCLで、電源分は、トロイダルトランスと低倍率電解コンデンサーのコンビ。ゲイン切替、メーター端子のほか、サブソニックフィルターがある。

ヤマハ CR-1000

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 国内では、レシーバー、とくに高級レシーバーの需要は皆無に等しいとされているが、逆にいえば高級ファンの要求を満たすにたる製品がないことも、ひとつの重要なポイントであることは、意味はやや異なるが、4トラック・オープンリールデッキのジャンルと共通性があるといえよう。
 CR1000は、デザイン、性能、音質などの総合的な面で、高級レシーバーと呼べる稀な存在である。ヤマハ独得なシルバーパネルと白い栓の木を使ったキャビネットは、巧みに調和がとれ、仕上げも高級モデルに応わしい精度の高さがある。内容面では、CT800というチューナー異常の性能をもつFM受信部と、CA1000プリメインアンプと同等のオーディオアンプ部を組合せているが、音質面では、構造面の違いだろうか、いかにも高級レシーバーともいえる安定した密度の高い音で、必要にして充分の聴感上の帯域、力感、粒立ちのよさなどをもっている。かなりの高級スピーカーシステムをドライブしても、それぞれの、らしい個性を引出して聴かせる内容の高さと安定感は、むしろ専用チューナーとプリメインアンプの組合せをしのぐものがある。わかる人が使う高級レシーバーとしては、まさしく第一級の製品だ。

オーレックス SC-55

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 薄型デザインの60W+60Wの出力をもつステレオパワーアンプである。構成は、初段カスケード接続、差動2段全段直結OCL型で、電源分は左右チャンネル独立したトランスを使用している。機能面では、左右チャンネル独立の入力調整のほか、NF量可変によるゲイン切替をもっている。また、スピーカー端子と並列にメーター端子があり、別売のピークレベルメーターで出力レベルのチェックが可能である。

オーレックス SY-77

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

〝回路設計から音質設計へ〟をポリシーとして開発されたオーレックスのセパレート型アンプは、物理データが目標に達した時点を音質設計の出発奠都し、物理データ以外の項目で、構造、部品の検討がこの段階で行われ、、2段階の設計でつくられている。
オーディオアンフスの構造・配置は、物理データでの歪率、チャンネルセパレーションと密接な関係があり、これらは当然のこと音質とかかわりあいがある。また、部品の選択は、部品の変更で物理特性が変わらなくても音質が変わる事実から、とくに、コンデンサーの物理特性をスペクトラムアナライザーで測定するとともに、音質評価を加えながら部品選択がされているとのことである。使用するコンデンサーによって音が変わることは、古く管球アンプ時代からわかっていたことだけに、物理性能と音の関連性を、現代の技術で解明してほしいものだと思う。
 SY77は、最近の傾向を反映した薄型のデザインを採用した製品である。パネルフェイスは、主なコントロール類だけを表面に出し、トーンコントロールなどの諸機能は、ヒンジ付きパネル内のシーリングポケットに収めた簡潔なまとめ方である。また、このパネルは、サイドにオプションのハンドルを付ければ、JIS、BTS等の規格ラックにマウントすることができる。
 回路構成は、イコライザー段が、差動2段、3段直結A級動作で1kHzの許容入力は600mV、RIAA偏差は±0・2dBであり、フラットアンプは、初段化スコード接続2段純コンプリメンタリー・パラレルプッシュプルA級出力段で、出力インピーダンスは600Ωである。トーンコントロール段は、差動1段、2段直結型で使用時のみアンプ系に入り、完全にバイパスする設計である。電源分は、左右チャンネルのトランス巻線が独立したセパレートタイプである。

ヤマハ CT-7000

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 ヤマハは、新プリメインアンプのCA2000、1000IIIで、ソフィスティケートしたアンプという表現をPRに使っているが、この表現にもっとも応わしいものは、ヤマハならずともオーディオ製品のなかでCT7000をおいて他にないであろう。開発時点で、時代を先取りした高度な性能、機能を洗練されたデザインの内に収め、仕上げ、加工精度などの細部をみても別格のものがある。現在のヤマハのコンポーネントシステムのなかでも、このモデルは隔絶した位置にあるが趣味のオーディオ製品としてこれ以上いいしれぬ魅力を秘めたモデルはあるまい。

パイオニア F-73

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 パネルサイズは、一連の新製品と共通なラックマウントサイズの横幅と、77系より一段寸法が小さい高さになっている。リアパネル両側は、端子類やコードを保護するために一段飛出した保護ガードになっている。FMフロントエンドは、高周波増幅1段、4連バリコン使用であり、中間周波増幅段は帯域が2段に切り替わる。検波段はクォドラチュア方式、MPX分は、パイロット信号オートキャンセラー内蔵PLL・ダブルバランスNFB方式である。なお、レベルチェック用440Hz50%変調の発振器が内蔵されており、エアチェック時の録音レベルが設定できる。
 関連製品として、ラックサイズの4トラックオープンリールデッキRT701、カセットデッキCT97、キャスター付オーディオラックJA−R1Sがある。

ヤマハ C-I, B-I

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 海外製品、国内製品ともに、セパレート型アンプのジャンルでは、新製品が意欲的に開発され、発表されているが、高級セパレート型に限ってみれば、すでに最新モデルではなくなったとはいえ、ヤマハのセパレート型アンプのプレステージモデルである、コントロールアンプCIとパワーアンプBIは、大変にユニークな存在であることに変わりはない。
 ヤマハが、文字どおりに世界に先駆けて開発したオーディオ用のバーティカルタイプ・パワーFETをパワー段に、並列接続ではなく、いわゆるシングルプッシュプルとして使い、150Wのパワーを確保し、しかも、前段の信号増幅系はすべてFET構成という、パワーアンプのBIは、回路構成のユニークさ、機構設計のオーソドックスさなど、どの面をとっても本格的な高級セパレート型アンプらしい。
 基本的なデザインは、米アルテックの業務用アンプなどと共通性があって、フロントパネルを持たない、機能優先の単純な魅力があり、オプションのピーク指示型メーターをもつ、コントロールパネルを付ければ、一般的なこの種のパワーアンプのスタンダードなタイプとなり、加えて5系統のスピーカーシステムがレベル調整付で使用可能という2面性は、大変に興味深いところだ。また、メーター付のコントロールパネルUCIは、専用ケーブルを使用すれば、BIから離してリモートコントローラーとしても使用できる特長がある。
 BIは、いわゆるFETアンプらしい音が表面的に感じられず、充分にコントロールされたトランジスターアンプと、あまり音質的な隔りがないところが特長である。聴感上の帯域バランスはナチュラルで、音の粒立ちが明快であり、粒子の角が適度に磨かれており、力強く、音を整然と整理して聴かせるタイプである。低域に力感があり、硬さ、柔らかさを対比して表現できる質感の再現性に優れ、中域でも音像の輪郭をシャープに見せるクリアーさが好ましい。表情はやや硬く、聴く側にある種の緊張感を要求するが、格調の高さは一流品ならではのものがある。
 コントロールアンプCIは、BIにやや遅れて登場した、やはり全信号増幅段をFET構成とした特長のほかに、本格的なコントロールアンプとして、ほとんど要求を満たすことが可能な、驚くほどの多機能を備えた製品で、コントロールアンプとしてこれほど重量があるモデルは他にないといってよい。
 連動誤差を抑え、かつスムーズに音量をセットできるスイッチ型でない、連続可変型のボリュウムコントロール、高音、中音、低音にわかれたトーンコントロール、連続可変型ラウドネスコントロール、ピーク指示型で多用途なレベルメーター、さらに、ピンクイズとサインウェーブの発振器など、ある種の簡単な計測まで可能という機能の幅は大変に広い。
 CIは、デザイン、機能がメカニックなことにくらべると、予想に反して非常に透明度が高い、澄み切った音である。音の反応はかなり早く、BIよりも、音色が明るく、伸びやかさが魅力的である。

パイオニア M-73

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 いわゆる標準ラックサイズのパネルには、ピーク指示型で対数圧縮目盛をもつ2個の大型パワーメーターを備えている。表示は、8Ω負荷で0・01W〜200Wである。
 電源分は、ドライバー段以降の左右チャンネルを分離した2電源方式で、回路構成は、差動2段全段直結パラレルプッシュプル純コンプリメンタリーOCLで、出力は85W+85Wである。