菅野沖彦
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
このメーカーのコントロールアンプこそ真の意味でのコントロールアンプで、中点でオフになる5ポイントのトーンコントロールや豊富な入出力とモード切替えなど、一度使うとやめられない多機能で使いやすい製品だ。フォノイコライザーも標準装備している。例のグラスパネルのイルミネーションは最高の視認性を持つ。
菅野沖彦
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
このメーカーのコントロールアンプこそ真の意味でのコントロールアンプで、中点でオフになる5ポイントのトーンコントロールや豊富な入出力とモード切替えなど、一度使うとやめられない多機能で使いやすい製品だ。フォノイコライザーも標準装備している。例のグラスパネルのイルミネーションは最高の視認性を持つ。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
「エキサイティングコンポーネント」より
オルトフォンといえば、まずSPUを想像しないオーディオファイルはいないであろう。
ステレオLPが登場した翌年の’59年にステレオ・ピックアップの頭文字をモデルナンバーとして開発されたこのカートリッジは、正方形の鉄心に井桁状にコイルを巻いた発電系と、この巻枠の中心に完全な振動系支点を設け、ゴムダンパーと金属線で支持系とする構造である。これは現在においても、いわゆるオルトフォン型として数多くのカートリッジメーカーに採用されているように、ステレオMC型の究極の発電機構といっても過言ではない。オーディオの歴史に残る素晴らしい大発明であろう。
以後、37年を経過した現在のディジタル・プログラムソース時代になっても、SPUの王座はいささかの揺るぎもなく、初期のSPUを現在聴いても、その音は歳月を超えて実に素晴らしいものなのである。
現在に至るSPUの歴史は、その後SPUなるモデルナンバーが付けられた各種の製品が続々と開発されたため、オルトフォン・ファンにとっても確実にモデルナンバーと、その音を整理して認識している人は、さほど多くないであろう。
今回発表されたSPUの新製品、マイスター・シルヴァーは、SPUの開発者ロバート・グッドマンセンが在籍50年の表彰と、デンマーク王国文化功労賞の受賞を機に原点に戻り、SPUを超えるSPUとして開発した’92年のマイスターをさらに超える、SPUの究極モデルとして作られた製品である。
最大のポイントは、同和鉱業・中央研究所が世界で初めて開発した純度99・9999%以上の超高純度銀線をコイルに採用したことで、オルトフォンとしては昨年のMCローマンに次ぐ超高純度銀線採用のモデルだ。ちなみに銀というと、JISの2種銀地金で99・95%、1種で主に感光材料に使用する銀で99・99%であり、銅線ではタフピッチ銅と同程度の純度しかない、とのことだ。
コイル線以外にも磁気回路、振動系は全面的に見直され、1・5Ωで0・32mVという高効率を得ている。
R・グッドマンセンが、「これこそ我が生涯最高のSPUと躊躇なく言える」と自ら語った、と云われるマイスター・シルヴァーは、SPUの雰囲気を残しながら前人未到のMC型の音を実感させられる絶妙な音である。
菅野沖彦
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
X64・4の系統に属する64倍リサンプリング型だが、リアル24ビットの入力と変換能力を持つ最高級機である。この未来型DACに相応しくリアパネル・アッセンブリーはモジュール化され機能拡張に備えている。エネルギッシュで緻密なサウンドは、従来のワディアをさらに超える次元を感じさせるものである。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
「エキサイティングコンポーネント」より
JBLの超ロングセラーを誇るプロフェッショナルモニターの4344が、同社最新の技術が投入された新ユニットを採用し、4344MkIIとして発売された。
基本的に、ホーン型とコーン型を組み合わせた2ウェイ構成システムをプロフェッショナルモニターとして開発するJBLのラインナップのなかで、4344のような4ウェイ構成のシステムは例外的な存在のようだ。かつては38cm口径ダブルウーファー仕様の4350/4355、46cmウーファー採用の4345も存在はしたが、現在残っている4ウェイ構成のモデルは、この4344MkIIのみである。
4344の系譜は、プロフェッショナルモニター・シリーズの初期の4341に始まり、ユニット構成はそのままにエンクロージュアを大型化した名作4343が第2世代の製品である。本機は、ハイエンドオーディオのリファレンススピーカーとして最高の評価が与えられ、これほど数多くの愛用者を獲得したスピーカーシステムはないといっても過言ではない。内容の濃い製品であった。
この4343の後継機として’82年に登場したモデルが4344で、それ以後、すでに14年の歳月が経過したことになる。
4ウェイ構成のシステムは、ユニットが多いだけに、そのシステムプランにはほぼ無限の組合せが存在することになるが、平均的には3ウェイ構成のシステムをベースに、最低域を加えたサブウーファー型や、その逆に最高域を加えたスーパートゥイーター型の構想が多く採用されている。とくにプログラムソース──SPからLP、LPからステレオLP、そしてCD、さらには現在のようにハイサンプリングDATやDVDなど──の進化に伴って、高域再生周波数が改善されるようになると、その高域を再生可能とするために、高域レスポンスに優れたユニットを従来のシステムに追加するという、システムプランが考えられるようである。
4ウェイ構成は、100Hz〜10kHzを2ウェイ構成でカバーし、それに最低域と最高域を加えるシステムプランが理想的だが、指向周波数特性、歪率などを考えると、予想外にその実現はむずかしいものがある。
JBLの4ウェイ構成は、基本的には低域と中域のクロスオーバー周波数を、比較的近い周波数に設定可能な大口径を採用し、その高域にドライバーユニットとホーンを組み合わせたユニットを使い、これにスーパートゥイーターを加える、といったシステムプランによるものだ。
したがって、中域(結果としては中低域になる)にはコーン型が採用されており、かつての38cm口径ダブルウーファー仕様の4350/4355では30cmユニットが、38cm口径シングル仕様の4341/4343/4344では25cmユニットが、伝統的に用いられている。
ちなみに、同様な構想になるシステムのウェストレイクBBSM15(これは3ウェイ構成だが)では、低域が38cm口径のダブルウーファー仕様、中域が25cmコーン型、高域がトム・ヒドレーホーン採用のドライバーユニットで、すべてJBLユニットで構成されている。これに、スーパートゥイーターを加えれば4ウェイ構成となるが、エネルギーバランス的には、中域(中低域)を30cm口径ユニットにサイズアップしなければならないだろう、というのがスピーカーの面白いところである。
最新の4344MkIIは、前作の開発以来14年を経ているだけに、外観上印象や外形寸法こそ前作を受け継いではいるが、その内容は完全に基本からの新設計によるもので、前作を受け継ぐのは高域の2405Hだけといってもよいほどの全面的な改良が施されている。
バッフル面のユニットレイアウトの基本はほぼ同一で、JBLのいうミラーイメージ構成によるものだが、低域用のバスレフ円筒型ポートの位置が、4343のように再び左右に振り分けられ、上下方向の位置も低域と中低域ユニットの間になった。この変更に伴って、ウーファー取付け用金具MA15が、前作の4個から5個に増加している。
中高域ユニットのスラント型ディフューザーは、型名の2308に変更はないようだが、フィンが11枚から12枚となり、取付け方法もマジッククロスから、ディフューザーに取り付けられた4個のダボをエンクロージュアのキャッチで受けるタイプに変更された。これにより、使用中に脱落することはなくなったが、注意しながら脱着しないとダボが破損しやすいようである。また、ディフューザーを取り外してみると、エンクロージュア側に八方ウレタンCとが取り付けてあり、振動の防止と、エンクロージュアのバッフル面からの2次放射を防ぐキメ細かな設計が見受けられる。
アッテネーターパネルは、外観上ではさほど変化はないが、中低域・中高域・高域の各レベル調整はすべて+側が1・5dBと、同じ変化量に変更されている。とくに感度の高い中高域では20dB程度のアッテネーションが必要なだけに、プリアッテネーターとしてのネットワーク内での減衰方法は不明だが、連続可変型アッテネーターでの減衰量が少なくなったと考えれば、音質改善効果が期待できるかもしれない。
使用ユニットは、低域が従来の2235HからS3100システムに搭載されている大入力対応VGC(ヴェンテッド・ギャップ・クーリング)機構採用のME150HSに、中低域が2122Hから振動系が強化された2133Hに、それぞれ変更されている。また、中高域のドライバーユニットは、S5500システムに使われている、ダイアモンドエッジをはじめ、0・05mm厚50mm口径のチタンダイアフラム、25mm径スロート、ネオジウムマグネット搭載磁気回路などを採用した、275Ndに替えられている。
さらに、外観上ではわかりにくいが、4344MkIIで最も大きく変更された点は、創業以来貫いてきたシステムのアブソリュートフェイズが、一般のスピーカーシステムと同様、正相となったことである。これは、JBLではK2システム以来の仕様変更だ。つまり、従来のほとんどのJBLシステムは、+側を意味する赤マーク付端子に電池の+側を接続したときにコーンが引っ込む、逆相仕様が標準だったのだが、本機では端子の+側に電池の+側を接続したときにコーンが前に出る、他者のほとんどのスピーカーと同じ正相仕様に変更されたのである。
このアブソリュートフェイズの正相/逆相は、とくに音色面と音場感に違いが出てくるが、古くからカートリッジやスピーカー等の変換器で、よく使われている設計手法である
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
独自の音像定位と音場感再生の技術を一段と発展させ聴取位置を中心に360度方向のプレゼンスを聴かせる非常に興味深いシステム。CDはもとよりビデオ、TVなどをプログラムソースとして2チャンネルステレオの枠を超えた5スピーカー+サブウーファーで再生される独自の空間再現は、聴けば、もはや引き返せぬ世界。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
形状的にはミニ・キャノン型だが、内容はアクースティックマス方式2重ボイスコイル採用のサブウーファー。とかく低音感風であっても本来の低音再生が不可能な小型システムと併用したときの効果は、単に低音再生能力の向上に限らず、ヴォーカルのマイクの吹かれなどのリアリティ向上が最大の魅力。汎用度の高い注目作。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
非常に個性的なデザインで、純A級シングル動作らしい清澄にして程よく音の輪郭をつけて聴かせるSimply Two/Four専用のフォノEQ。電源はプリメインから供給を受けるが、DC点火のヒーター電源はEQ内に設けてあることが興味深い。活き活きとしたアナログならではの音は安心して音楽が聴ける。
菅野沖彦
ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より
私の好きなスピーカーひとつでありながら、いまだかつて、自分のものにしたことのない憧れの存在がタンノイのシステムである。その最高峰が昨年発売されたキングダムだ。その時々のメディアが持っている録音帯域特性を備えることが私の再生オーディオの理想的条件のひとつであるのだが、キングダムは、この要求にたいするタンノイの回答といっていい製品だろう。デュアルコンセントリックユニットを広帯域で使い、上下にスーパー・ユニットをプラスしたものであることがそれを明瞭に物語っている。タンノイのなかでもっとも広域なシステムであり、タンノイらしさと現代的なワイドレンジを見事に両立させた成功作であると思う。ステレオイメージは同軸型らしい明確さであり、自然な音色と音触に、長年のキャリアによる風格さえが溢れている。説得力のある楽音のリアリティだ。中低域から中域にかけての高密度で厚い質感は得難いものであり、音楽表現の豊かさに寄与していることを強く感じる。したがって高域と低域をここまでワイドに伸ばしても、しっかりとした音の造形感や表現の豊かさは微塵も損なわれていない。伝統的なダイナミック型ダイレクトラジエーターとして高い完成度を持ったシステムで、むかしのタンノイのようにジャズやピアノに不満が残るといったことはもはやない。しかし、音と形の持つ、この品位と堂々の威容は、古典から浪漫にかけての、もっとも実り多きヨーロッパ音楽芸術の再生機として理想的と感じられる気品と豊麗さに満ち溢れている。こういうシステムと共存して、居住まいを正して音楽を鑑賞するという真面目さこそが、いま、レコード音楽とオーディオ文化が失いかけているものだ。イギリスでも、いまや数少ない重厚長大なスピーカーシステムであろう。いま、私ももっとも気になっているシステムの一つであるプラチナム/エアーパルス3・1もイギリス人の作品だが……。軽薄短小オーディオとは別次元の世界である。
菅野沖彦
ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より
GRFメモリーは、もっとも代表的な現代タンノイである。15インチ口径のデュアルコンセントリックユニットを、無理なく余裕ある変形バスレフ型エンクロージュアに納めていてユニットの音の特徴が素直に生きている。このモデルは現在の充実したプレスティッジ・シリーズの基礎を開拓した製品であることは、GRFメモリーの名称にも表れている。アンプは同じ英国の新進メーカー、アルケミストのプリアンプAPD21ASS、そしてパワーアンプも同社のAPD20ASSを使う。じつに魅力的なセパレートアンプのコンビネーションで、陰影と彫琢が深く音楽が躍動する。CDプレーヤーはクォード77CD。音色が人肌に温かい音だが、繊細感や精緻感にも優れている。トータルとして味わい深く雰囲気が豊かな音に大きな満足感が得られるはずである。レコード音楽が立派な音楽的実体験のできる世界であることの可能性を実感できるであろう。
菅野沖彦
ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より
タンノイのプレスティッジ・シリーズの最下位を担い、きわめて好評なのがこのスターリングである。本誌でこれにサブウーファーとスーパートゥイーターを付加してキングダムに挑戦したことがあるが、勝るとも劣らぬ好結果を得たものであった。したがって、キングダムのミニマムコスト版として、これ以外にない。価格はキングダムの1/8である! 本当はアンプを驕りたいところだが、そこを抑えてプリメインアンプで鳴らそう。ラックスマンのL507sはよく練れた音であり、ドライブ能力も高い。スターリングの感度なら十分なパワーであるし、この艶のある音は美しく楽しい。CDプレーヤーもラックスの新製品D700sでデザインと音の統一感を求めたい。アンプとCDプレーヤーのトータルが43万円とスピーカーシステムの44万円にほぼ等しい理想的な価格配分となった。バランスのよい本格派の入門システムとして広くお勧めしたいシステムだ。
井上卓也
ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より
小口径フルレンジ型ユニットを9個シリーズ接続として小型エンクロージュアに納め、コンサートホールの直接音対間接音の配分どおりに、前面に1個/背面に8個を取り付けたシステムがボーズ901で、高域と低域は専用イコライザーで補整をする独自のシステムである。現在は度々の改良を重ね901WBに発展し、鮮明な音に進化を遂げている。本来の性能を音として引き出すためには、相当に優れたシステムが必要であり、ここではバランスを崩した組合せにならざるをえない。CDプレーヤーは、一体型として個性派の、ワディアとティアックの合作、X10Wの音楽性豊かな表現力がぜひとも必要だ。アンプは、パワフルでスピーカー駆動濃緑に優れ、必要帯域内のエネルギーバランスが見事なマランツPM15がベストマッチである。反応が速く、活き活きとした、フルレンジ型の魅力を再認識させる組合せだ。
菅野沖彦
ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より
いかにミニマム・コストといわれても、オーディオの醍醐味、しかもユニークなXRT26システムと同質の魅力が味わえるシステムとなると、XRT25を使う以外には考えられない。「音は人なり」だが、この企画では「音は物なり」ということになる。事実、オーディオは物がなければ始まらない世界であるから、この両面は明確に認識しておかなければいけない。したがって、ここではCDプレーヤーとアンプの価格でコストを削るという結論になった。CDプレーヤーはマランツCD16D、プリメインアンプはアキュフェーズのE406Vという、どちらも最新の製品の組合せによる本格派だ。これで前者より80万円以上のコストダウンである。この組合せでXRTの世界が実現するはずで、最低3年は楽しめると思う。自身のサウンドイメージが明確に定まり、より高い要求が生まれたらクォリティとセンスのアンプグレードへと進むべきであろう。
菅野沖彦
ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より
XRTシリーズの頂点が26で、そのジュニアモデルがこのXRT25である。一回り小さいモデルであり、XRTシリーズの大きな特徴であるセパレート・トゥイーターコラムが短縮されて、ウーファー/スコーカーとインラインでエンクロージュア中央に装備されている。音や空間イメージはまったく同系統のものだが価格は半額近い。CDプレーヤーとアンプの合計をスピーカーのペア価格とほぼ同額になっているのであるが、どうしてもボウ・テクノロジーのZZエイトを使いたく、バランスとしては悪いかもしれない。しかし、この組合せを薦めたい。アンプはマッキントッシュのOPTでインターフェイスをとるのがベスト。プリメインのMA6800を使う。予算がなければOPTなしのMA6400でいいだろう。部屋への設置の気配りと、MQ109の調整でしっかり攻め込みバランスをとれば、レコード音楽芸術の至福を堪能することができるであろう。
菅野沖彦
ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より
私の流儀によるスピーカーを挙げろといわれれば、現在の自分の再生装置そのものということになるわけで、JBLのユニットを中心とした変則的5ウェイ・マルチアンプ・システムか、マッキントッシュXRT20システムということになる。この似ても似つかない2組が自分にとってもっとも違和感のない音で音楽を再生してくれるのだから、物より流儀といえるかもしれない。2組のシステムは音楽や録音の違いで使い分けることもあるが、無意識にどちらかで演奏していることもある。他人が聴いてもあまり違いがわからないほどバランスが似ているので、つくづく、音は人次第だと自分で納得してしまった。JBLのほうはあまりにも個性的で自己流であるから、一般に手にはいるスピーカーシステムということでマッキントッシュXRT20を私流の道具の代表とする。ただし現行モデルはXRT26で、ユニットもエンクロージュアも新型である。しかし基本的にはXRT20と変らないし、JBLの5チャンネル・システムと間違うほどの鳴り方も可能なフレキシビリティがあるのだから、XRT26で不足はない。もちろん、物理特性的には最新モデルだけあって勝っているのだから、むしろ可能性は高いかもしれない。後は一に使い手のセンスと努力である。演奏するCD、AD次第で豹変する鋭敏な反応と、自然な音色と音触が私流の鳴らし方のプライオリティだが、その第一条件は帯域バランスの整然とした美である。細かい山谷がフラットである必要は毛頭ないが、大きく全体的に、その基本を踏み外さないことが肝要である。スピーカーと部屋との相互関係でエネルギーバランスが整っていない音が最悪だ。演奏者の知性と感性までが別人のようになることがある事実を、体験感知し認知すべきである。サウンドに留まることなら、他愛はないが、演奏表現の印象が変るとなると重大である。XRTシリーズは素晴らしいスピーカーシステムだ。
井上卓也
ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より
ホーン型ユニット採用のスタジオモニターのなかで、比較的にコンパクトで内容の充実した製品を探してみると、価格を含め、英タンノイのシステム215MKIIは、ぜひとも使ってみたいシステムである。専用スタンドが用意されていることも非常に魅力的だ。同軸2ウェイとウーファーの組合せで、2ウェイ/3ウェイ兼用設計が最大の特徴。今回の組合せは、バランス感覚を重視しているが、CDトランスポートは、世界最高のメカニズムに基づいた、超高SN比を誇るCDP−R10が必須条件。これに高SN比で音楽性豊かなXP−DA1000Aを組み合わせる。実際に使って大変に好ましいペアだ。アンプは高SN比が条件で必然的に国内製品を選ぶ。アキュフェーズ、マランツ、パイオニア、ラックスマンが候補になるが、SS試聴室のリファレンス機として責任を果してくれたアキュフェーズC290と、ソリッドで充実した音のA50に、DG28を加えれば万全だ。
井上卓也
ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より
スピーカーシステムは、中口径フルレンジユニットをベースとするべきだとの考え方に立ったとしても、超低域から20kHzを超す広帯域のディジタルプログラムソースを再生するためには、フルレンジユニットの高域もしくは低域を、トゥイーターもしくはサブウーファーを組み合わせ、広帯域再生化を考えなければならないであろう。
静電型のフルレンジユニットをベースとすれば、サブウーファーを追加して比較的に容易にシステムプランが成り立つが、音量的な制約は基本的に残り、特性面では一歩を譲るが、やはり、ダイナミック型ユニットの魅力は捨てがたいものがあるようだ。
このタイプのフルレンジユニットは、基本的に設計時期が古く、アナログ時代に開発されたユニットの生き残ったものが主流で、少なくとも、現代の最新のテクノロジーにより開発されたものは非常に少ないのが現状だ。
非常に数の少ない最新設計のフルレンジ型ユニットのなかで注目したい製品が、静電型に匹敵する過渡応答に優れた特徴を持ちながら、ダイナミックレンジを一段と向上させ、柔らかい振動板により、振動の最初から全帯域を分割振動で動作させる、BWT(ベンディング・ウェイヴ・トランスデューサー)である。
基本構想は、かつてのヤマハ/NSスピーカーと共通性があるが、特殊な薄膜材料に直接ボイスコイルを取り付けた振動系は、人間の耳の構造を範として設計されたとのことで、約20cmの口径で80Hz〜32kHzをカバーするという異例の超広帯域ユニットだ。
この独マンガー研究所が30年の歳月をかけて完成させたユニットに、プロセッシング・プレッシャー・コントロールアンプが駆動するアクティヴ型ウーファーを加えたシステムが、スイスのアクースティックラボ/ステラ・エレガンスである。
ナチュラルで色付けがなく、ストレスフリーな音は、最新フルレンジ型ならではの独自の魅力がある。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
古くはTD150以来の伝統をもつ2重構造ターンテーブル採用のサーボベルト駆動ターンテーブルは、サスペンション系が横揺れに強いリーフスプリング型となり、防振性能はさすがに抜群。組み合わせるアームは、現在、最も安定し各種カートリッジとの対応性が広いSME3009オートリフター付で総合性能は抜群。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
シャーシ構造が金属とナチュラルな木材を組み合わせた個性的かつ実に見事なバランスを醸し出しているイタリア・ユニゾンリサーチのライン入力専用プリアンプ。増幅段の一部に2階建型のSRPP回路を採用する同社独自の設計が本機にも採用され、半導体アンプでは欠落しやすい音を素直に引き出す管球式の魅力は絶大だ。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
海外製品のプリアンプのなかでは、比較的に価格がこなれた製品であるが、基本的な音のクォリティが高く、アナログプリアンプとして重要な項目である音の鮮度感が失われていないことが、このモデルのもっと素敵なポイントである。単純な構成だけに使い勝手は簡潔で気持がよい。音楽性も充分に高く。好製品。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
何をもって大型3極管A級シングル動作の音とするかは、回路構成、出力トランス、電源回路、筐体構造により千変万化するため、現実には観念的な意味にすぎないと思うが、ユニゾンリサーチのSmt845の音は、いわゆる3極管シングルの音ではなく、現代的なクールさと程よく粘る弾力的な音で、類型的でない点が見事。
井上卓也
ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より
英国のヴァイタヴォックスは、1932年創業のスピーカーメーカーで、スタジオ、放送局、劇場などの主に業務用の分野で高い評価を受け、現在では軍需用を含め、本来の業務用スピーカーシステム分野で活躍しているようだ。ヘリコプターに搭載された超高感度、超強力な拡声装置はホーン型ドライバーの独壇場で、映画・TVなどの分野では米アルテック社のホーン型ドライバーユニットの活躍が知られているが、この英国版がヴァイタヴォックスということだ。
CN191コーナーホーンは、 同社の伝統的なトップモデルで、現在でもこのような人手のかかるエンクロージュアが作られていることは想像を絶する異例なことといえよう。エンクロージュアは、モノLP時代に最小の容積で最高の低音再生能力をもつフォールデッドホーンと絶賛された、米国のポール・クリプシュ氏が発明したクリプシュホーンで、米EVパトリシアン600にも採用されたコーナー型低音ホーンである。
スピーカーシステムは、壁面に付ければ低音再生能力は2倍となり、壁と床の交わる位置に置けばさらに2倍、2面の壁と床の交わる場所、つまり部屋のコーナーに置けばさらに2倍、というのが基本である。
低域ユニットは、現在ではフェライト磁石採用の7・5Ω仕様AK157、高域ユニットは、アルニコ磁石採用の伝統的な15Ω仕様で、7・62cm口径アルミ合金振動板のS2ドライバーユニットと、従来のCN157を改良し、4セル型ディスパーシヴ型としたCN481新型ホーンを採用。
NW500ネットワークで500Hzクロスオーバーとした2ウェイ方式で、インピーダンスは15Ω。感度は未公表だが100dB/1mほどはあるはずで、真空管アンプにはこれ以上のスピーカーシステムはないであろう。やや強度不足で音離れが悪かったホーンが一新され、本来の重厚さに新鮮さが加わった。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
力強く、ダイナミックで、躍動感のタップリとしたワディアならではの魅力が、一体型CDプレーヤーのなかに濃密に凝縮したような実感があるモデル。価格対満足度の高さでも同社製品中では抜群であり、それも一体型ならではの魅力を備えている点が素晴らしい。実感的に音楽を聴く人にベスト。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
優れたプリアンプとパワーアンプを一体化して高級プリメインアンプとする構想は、従来からマランツ、JBLにあったが、マッキントッシュがまとめるとこうなる、という解答がMA6800。母体となったセパレート型よりも濃縮され一体型ならではの絶妙なまとまりは驚くほどの見事さだ。円熟した大人のための製品。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
ATC製30cm低域を2個使った3ウェイモデル。マルチアンプ駆動方式であるため使いこなしには技術と感性が要求されるが、ソフトドーム型ならではのニュートラルなキャラクターが絶妙に活かされながら、弾みをつけてダイナミックに伸びるパワー感は、まさしくストレスフリーの異次元世界。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
38cmダブルウーファーとJBL2インチスロートドライバーと円型木製ホーンを組み合わせて2ウェイ構成とした大型スタジオモニター。ホーン方としては驚くほどホーン臭い固有音がなく、音離れがよい点に感激する。適度の粘りを残した伸びやかな低音は実に心地よく、音の陰影の色濃さは前人未到の世界を展開する。
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