Category Archives: 海外ブランド - Page 60

スペンドール SA-1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 B&WのDM4/II、それにJRの149とくらべるとほんのわずかに価格が張るが、ユーザーサイドからみれば、やはり比較の対象としたい興味のある製品だろう。まして兄貴分のBCIIの出来栄えのよさが先例としてあるのだから、このSA1にある種の期待を抱いて試聴にのぞむのはとうぜんだ。まず総体のバランスだが、いかにも「ミニモニター」の愛称を持つだけに、帯域の両端の存在を意識させるような誇張がなくごく自然だ。つまりトゥイーターによくあるハイエンドのピーク性の共振音や、エンクロージュアまたはウーファーの設計不良によるこもりのような欠点は全く耳につかない。どちらかといえば(イギリスのスピーカーにはめずらしく)中音域に密度を持たせてあって、内声部の音域、ことにフィッシャー=ディスカウやキングズ・シンガーズのような男声の音域でも、薄手にならず実体感をよく出すところがみごとだ。ただし、バルバラのような女声の場合に、声の表情がやや硬くなるような傾向があって、BCIIよりも少々生真面目さを感じさせる。また、パワーを上げると中〜高域で多少硬い音がしたり、低域でのこもりがわずかに感じられ、どちらかといえばおさえかげんの音量で楽しむスピーカーだと思った。台はあまり低くせず(約50センチ)、背面を壁につける方がバランスが良い。

アルテック Model 19

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 従来のアルテックからみると、まず二つの点で大きく変っている。第一に、中〜高域のドライバーに、「タンジェリン・タイプ」と名づけられた新型を採用して、2ウェイでありながらハイエンドのレンジを延ばしていること。第二に、ネットワークをくふうして、中域、高域のバランスを独立にコントロールして細かくバランスの調整ができるようにしてあること。レベルコントロールには、HIGH、MIDそれぞれにOPTIMUMの表示をしてある幅を持たせてあるが、今回の試聴ではMID、HIGHともOPTIMUMの文字の〝O〟のあたりに合わせた。MIDをこれ以上上げると中音がやかましくなるし、HIGHも上げればレンジは広がるがややキャンつく傾向も出るので、右のポジションがよかった。置き方では、フロアーにじかに置くと低音がわずかにこもるので、ほんの数センチの低い台で持ち上げると、音の抜けがよくなった。左右にはあまりひろげると中央の音が抜ける傾向があった。総体にJBLのような緻密な質感とは違っていくらかラフな鳴り方だが、アンプの方でいろいろいコントロールしてみると、結局、ハイもローも適度におさえてナロウレインジに徹してしまう方が、中域のたっぷりして暖かく楽しい、アルテックの良さが生かされると感じた。アルテックはワイドレインジにしない方がいいと思った。

ボリバー Model 18

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶あかるくすっきりきこえるピッチカート。
❷奥の方でくっきりと示される。力強いとはいえないが。
❸個々のひびきに一応対応するが、積極的とはいいがたい。
❹低音弦のピッチカートはふくらみすぎる。
❺クライマックスでは、ひびきが空虚になり、刺激的になる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像が大きめで、響きにまろやかさがたりない。
❷ファゴットが、どういうわけか、ひっこみがちである。
❸響きが、ふくらみずき、重くなる傾向がある。
❹ひっこんで、はえない。さわやかさがほしい。
❺音色的な対比が、さらにすっきりついてもいいだろう。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声の自然なのびは示す。表情は幾分濃くなる。
❷接近感は示すが、音像が大きいので、充分な効果をあげるとはいえない。
❸声がひっこみ、クラリネットがふくらんで、バランスに問題がある。
❹はった声が硬くならないのはいいが、艶をなくす傾向がある。
❺響きはよくブレンドしているが、効果的とはいえない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶低い方のパートが、きわだつ傾向がある。
❷声量をおとしたことが、強調されるように感じる。
❸残響がまといついているとでもいうべきか。
❹鮮明さが不足するために、響きの綾がはっきりしない。
❺のびてはいるが、必ずしも効果的とはいえない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的な対比はついているが、音場的にいかにも狭い。
❷後へのひきが充分でないために、効果があがらない。
❸ひびきが充分に浮いているとはいいがたい。
❹横へのひろがりは示すが、前後のへだたりはつまりぎみである。
❺ひびきの力のないことが、マイナスに働いている。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ここでのひびきにしては湿度は高すぎるようだ。
❷ギターの音像は大きめなために、せりだしの効果がいきない。
❸もう少しくっきり示されないと、あいまいになる。
❹きこえるものの、ひびきに輝きがたりない。
❺一応きこえはするが、うめこまれがちで、はえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ベースの響きが強調されて、12弦ギターの響きの特徴がいきない。
❷響きの重心が低い方にかかりがちで、さわやかさにかける。
❸響きの乾き方が不足だ。全体に重くひきずりがちである。
❹ベース・ドラムは重くひびいて、充分な効果をあげえない。
❺言葉のたち方が、不充分である。バック・コーラスの効果は稀薄だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶入れものの中でのように響いて、力感が感じられない。
❷もうひとつ鮮明に、くっきり示してもいいだろう。
❸音の消える尻尾は、不鮮明で、はっきりしない。
❹鋭く反応できているとはいいがたい。下にいくほどひきずりがちだ。
❺音像的に差がありすぎるので、不自然である。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶響きは、切れが鈍く、重い。もっとシャープでもいいだろう。
❷どういうわけか、細く、弱々しくなる。
❸響きに本来の力が不足しているので、効果がいきない。
❹さまざまな響きがいりまじって、音の見通しがつきにくい。
❺もう少しめりはりがくっきりついてもいいだろう。

座鬼太鼓座
❶奥へのひきがとれないためか、かなり前の方にでてくる。
❷尺八の音は、もう少し乾いて、脂っ気のない方が望ましい。
❸きこえることはきこえるが、くっきりととはいいがたい。
❹一応の響きの広がりは示すが、スケールゆたかにとはいいがたい。
❺この響きの特徴である硬質さが充分に示せているとはいえない。

JR JR149

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 B&WのDM4/IIと価格もほとんど同じ、そして同じくイギリス生まれとなると、とうぜん両者の比較に興味が湧く。まず総体に、DM4/IIがあくまでモニター的に真面目に音を聴かせるのと全く対照的に、JR149の音は響きが豊かで、暖かみのあるアットホームな雰囲気を持っている。このいかにもくつろいだ響きの豊かさは、他のスピーカーとくらべてもJRの最大の特徴で、ことにオーケストラ録音のレコードの場合など、目の前にいっぱいに音をひろげて展開する感じで、いわゆるアンビエンス効果(周囲を音にとり囲まれたような感じ)がよく出るスピーカーだ。DM4/IIのところでも書いたように、楽器の構造を正確に聴き分けようとすると、B&Wよりも細かな声部がやや正確さを欠くようで、いわばB&Wよりも不正直にはちがいない。その点はバルバラのシャンソンでも、伴奏のアコーディオンの音がDM4/IIより細かく聴こえ、それらのことからおそらく帯域ないでどこか薄手の部分があることが想像できるが、反面、すべてのレコードで、音のひろがり、奥行き、音の溶け合いの豊かさを含めて柔らかく耳当りよく響かせる所が特徴といえる。やや雰囲気重視型だが、楽しめるという点では随一かもしれない。置き方や組合せにあまり神経質でなく使いやすい。ただし能率はB&Wよりも聴感上で6dB近く低かった。

JBL L200B

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 L200もBタイプになって格段に音質が向上して、JBLはこのところ乗りに乗っていると実感できる。実に音の質が高く緻密で、これが鳴り始めると、これ以前に聴いた数多くのスピーカーとは格が違う、と思わせる。もちろん、タンノイのARDENやKEFの105や、ルヴォックスのBX350など、イギリスやドイツのスピーカーの鳴らすあのしっとりと潤いのある、渋く地味な音、しかしそこにえもいわれぬ底光りのするような光沢を感じさせるような音とくらべると、JBLの音は良くも悪くも直接的だ。ことにL200Bのようにスーパートゥイーターのついていな、ハイエンドを延ばしていないスピーカーの音は、骨太で、よくいえば男性的なたくましさのある反面、クラシックなどでは図太さあるいは音の構築の細部に対して見通しの利かない部分がある。いわば本当のデリカシーやニュアンスを欠いている。しかし、音量を絞ってもまた逆にどこまで上げていっても、少しも危なげのない、ピアノの打鍵音で全くくずれずに安心して身をまかせられる良さは、ヨーロッパ系のスピーカーにはとうてい望めない。ことにポップス系では、最高域をあえて伸ばさない良さがはっきり聴きとれる。床に直接置いても低音が重くなったりこもったりすることが全くない。ただし、アンプにはグレイドの高いセパレート型が欲しくなる。

タンノイ Arden

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 タンノイの新シリーズが、アルファベットのABCDEでそれぞれ始まるニックネームでランク分けしてあることはよく知られているが、ARDENはその中の最高クラスだけのことはあって、音のスケールの大きなこと、響きの豊かなこと、とうぜん表現力の大きいこと、やはりさすがといえる。この上のGRFやオートグラフがオリジナル製品でなくなってしまったので、不満はいくらかあってもアーデンがタンノイの代表機種ということになるが、以前からの音像の芯のしっかりした、鮮度の高いしかしやかましさのない独特の味わいのあるタンノイ・トーンは相変らず残っていて、そこにいっそうのバランスの良さとレンジの広さが加わっている。たとえばKEFの105のあとでこれを鳴らすと、全域での音の自然さで105に一歩譲る反面、中低域の腰の強い、音像のしっかりした表現は、タンノイの音を「実」とすればkEFは「虚」とでも口走りたくなるような味の濃さで満足させる。いわゆる誇張のない自然さでなく、作られた自然さ、とでもいうべきなのだろうが、その完成度の高さゆえに音に説得力が生じる。ブロック程度の台に乗せた方が、そして背面を壁からやや離した方が、低域の解像力がよくなる。かなりグレイドの高いしっとりした音のアンプと、ヨーロッパ系の優秀なカートリッジが必要だ。

JR JR149

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきはあかるい。音色の対比は充分についている。
❷力強さに不足するところがあるが、ひびきのくまどりはたしかだ。
❸それぞれの特徴的な音色をすっきりと提示する。
❹低音弦のピッチカートが幾分ふやけがちなのがおしい。
❺迫力の点でもう一歩だが、鮮明なよさがある。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像が大きくならないが、ひびきのゆたかさに欠ける。
❷音色的対比は充分についていて、鮮明だ。
❸ひびきがふやけないので、「室内オーケストラ」の感じをよく示す。
❹これみよがしにならず、しかもすっきりと示されていて好ましい。
❺鮮明であり、さわやかで、よく対応できている。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶余分な音がまといつかず、すっきりときこえるよさがある。
❷さわやかに提示されて、声のなまなましさを感じさせる。
❸声と各楽器の音色的なバランスは、このましい。艶に不足するが。
❹声が幾分細くきこえて、はった声はかんだかく感じられる。
❺オーケストラのひびきの細部をさわやかに示す。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶すっきりしているが、ひびきが乾きすぎていないのがいい。
❷声量をおとした感じが、くっきりと示される。
❸残響をほどよくたち切って、言葉をたたせている。
❹個々のパートの音のからみをかなり鮮明に示す。
❺自然なのびやかさがあり、しかもしなやかだ。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的な対比は充分についている。音場的にもまあまあだ。
❷クレッシェンドも自然で、きれいにまとまる。
❸すっきりとしていて、しかも乾きすぎていないのがいい。
❹前後のへだたりが充分にとれているのでひろびろと感じられる。
❺しのびこみ方はひっそりとしていて美しい。ピークも一応こなす。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶にごり、しめりけのないひびきが、後方で、心地よくひろがる。
❷❶の音との対比が充分についていて、せりだし方は実に効果的だ。
❸音の輪郭がはっきりしているので、流れの上でのアクセントたりうる。
❹このひびきの特徴である輝きがきれいに示される。
❺すっきりきこえる。わざとらしくならないのがいい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ベースとのバランスがいい。12弦ギターの特徴をよく示す。
❷ここで求められている効果をつつがなく示す。
❸すっきり、ぬめりのないひびきで、示されている。
❹ひびきに力があり、言葉のたち方にも問題がない。
❺バック・コーラスの効果もよくいかされている。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶迫力は誇示しないが、一応の力は伝える。
❷過度にならないよさというべきか。ほどほどのなまなましさだ。
❸消える音の尻尾の提示は充分とはいえない。
❹シャープに反応して、充分な効果をあげている。
❺対比は、実に自然で、無理がなく、好ましい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶鋭さは特徴的だ。もう少し力強くてもいいが。
❷輝きは申し分ないが、力の提示はもう一歩だ。
❸いくぶんつつましげではあるが、一応有効だ。
❹後方へのひきがとれていて、見通しはいい。
❺あいまいになることなく、めりはりをつける。

座鬼太鼓座
❶自然な距離感を示し、したがってひろがりも感じられる。
❷尺八の音色的特徴をさわやかなひびきで示す。
❸きこえるものの、ことさら誇張はしない。
❹スケールゆたかなひびきとはいいがたい。
❺かすかであり、しかも自然で、アクセントたりえている。

JBL 4343

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 いまや日本でも最も注目されているスピーカーのひとつになって、おそらくマニアを自称されるほどの愛好家のほとんどの方は一度は耳にしておられるはずなので、音質をこまかく言うよりもそれ以外で気づいた点を書く。まず第一に、いまでもこの♯4343が、ポピュラー系には良いがクラシックの弦やヴォーカルには音が硬いと言われる人が少なくないのに驚いている。もしほんとうにそういう音で聴いたとすれば、それは、置き方の調整、アンプやカートリッジや、プレーヤーシステムや、プログラムソースの選定、そして音を出すまでの数多くの細かな調整の、いずれかの不備によって正しく鳴っていないのだ。ただ、輸送の際の不手際か、トゥイーターの特性が狂っているのではないかと思えるものを聴いたこともある。また、店頭やショールームでというよりもこれはいくつかの試聴室での体験だが、もしも4343をこんなひどい音で鳴らして、これが本当に4343の音だと信じているのだとしたら、そういう試聴条件で自社のスピーカー開発し仕上げをしてゆくそのこと自体に問題があるのではないか、と感じたことも二度や三度ではなかった。それは4343が唯一最上のスピーカーなどという意味ではない。弱点や欠点はいくつもある。けれど、それならこれを除いてもっといい製品がが、現実にどれほどあるのか……。

スペンドール SA-1

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ひびきはあるかいが、薄く、細すぎるということもできるだろう。
❷くまどりはついているが、やはりもう少し力がほしい。
❸特徴的なひびきの対応のしかたにはかなり敏感なところがある。
❹第1ヴァイオリンのフレーズにたっぷりしたところが不足している。
❺本来の迫力を示しえず、クライマックスでヒステリックになる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像がふくらまないのはいいが、ひびきがやせている。
❷音色的な対比を、薄味なひびきだが、充分に示す。
❸細やかなあじわいはあるものの、しなやかさが不足している。
❹すっきりさわやかで、大変に好ましい。
❺さらにしなやかなところがあればいいのだが。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶余分なひびきがついていないなまなましさがある。
❷接近感をくっきり示すこのましさがある。定位はきわめていい。
❸クラリネットのひびきはもう少しまろやかでたっぷりしていてもいい。
❹はった声が硬くならないのは大変にいい。ただ、細めだ。
❺バランスがいいので、ききやすい。鮮明なよさもある。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶並び方に凹凸がなく、すっきりしていて、定位に問題はない。
❷声量を落としたのがわざとらしくならずに、その効果がいきている。
❸言葉のたち方は十全で、あいまいさはない。
❹各パートのからみを、すっきりと、あいまいにならずに示す。
❺自然なのびがある。無理のないところがいい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的にも、音場的にも充分にコントラストがついている。
❷クレッシェンドにとってつけたような不自然さのないのがいい。
❸ひびきの浮遊感は充分だ。せまくるしくなっていない。
❹前へのせりだしはいくぶん不足するが、奥へのひきは充分だ。
❺ピークになると、とたんにひびきがとげとげしくなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶白っぽいひびきでの後方でのしろがりは美しい。
❷もう少しくっきりひびいてもいいだろう。音に力がほしい。
❸ききとれるが、低い方のひびき方に空虚さがある。
❹輝きという点で、いくぶんものたりないところがある。
❺きこえなくはないが、うめこまれがちである。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶音にもうひとつ力がないので、軽くなりすぎている。
❷ここで求められている効果が充分に発揮されていない。
❸ひびきがいかにも薄く、力不足なのがおしい。
❹ベース・ドラムの音が乾きすぎていて、パサパサしている。
❺言葉のたち方は一応だが、楽器とのバランスがよくない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶あたかも何かの入れものの中でひびいているようだ。
❷一応示しはするものの、本来のなまなましさはない。
❸消える音の尻尾は、ほとんどききとれないといってもいいほどだ。
❹ひびきそのものに力がないためだろう、あいまいになりがちだ。
❺音像対比の点で、少なからず問題がある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶アタックの強さの提示が充分でないために、めりはりがつきにくい。
❷ブラスのきこえ方が、ヒステリックになっている。
❸一応前の方にはりだすことははりだすが、空騒ぎめく。
❹へだたりはとれているものの、トランペットのひびきはかん高い。
❺あいまいではないが、反応は甘くて、しまらない。

座鬼太鼓座
❶一応の距離感は示せて、ひろがりは感じられる。
❷脂っぽさはないが、尺八らしさが充分とはいえない。
❸きこえることはきこえるものの、何の音かさだかでない。
❹さらにスケールゆたかにひびいてほしい。
❺いくぶんここで音は、くすんできこえる。

アコースティックリサーチ AR-17

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶自然にひびくピッチカート。強調感のないのがいい。
❷あいまいにならず、力を感じさせる低音弦のひびきがきける。
❸フラジオレットの音色はきわだたず、ひかめにしかきこえない。
❹たっぷりしたひびきの第1ヴァイオリン。ピッチカートはふくらむ。
❺クライマックスにいたるクレッシェンドは自然で、無理がない。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音のまろやかさが、特徴的であり好ましい。
❷音色対比がきわめて自然で、しかも鮮明である。
❸響きのとけあいが、よく示されて、ききやすい。
❹響きに自然なのびやかさがあり、好ましい。
❺木管楽器のしなやかな響きをよく示す。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声のまろやかさを、誇張感なく自然に示す。
❷強調感なく、しかも広がりが感じられる。
❸各楽器の響きのとけあい方がいい。声とのバランスもこのましい。
❹はった声が硬くならず、はなはだききやすい。
❺バランスが自然で、無理なく、さまざまな響きがとけあう。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶凹凸の感じられないのはいいが、響きは重い。
❷言葉はあいまいにならないものの、全体に重い。
❸残響の誇張はなく、声のまろやかさをよく示す。
❹鮮明さということで、ものたりないところがある。
❺のびやかで、しなやかで自然なのびを示す。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的な対比をくっきり示すが、音場的にはせまくるしい。
❷音のしびこみは、きわめてしなやかでいい。
❸浮遊感があり、スタティックにならないよさがある。
❹もう少しへだたりが示されてもいいだろう。
❺ピークは、力をもって、おしだしてくる音によっている。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶響きに軽みがたりない。広がりの点でももう一歩だ。
❷もともとの音像は大きめだが、せりだしてきかたはない。
❸響きが自然なふくらみを示し、効果的である。
❹すっきりときわだってきこえて、成果をあげる。
❺これみよがしにではないが、きこえる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶響きがまろやかではあるが、ここで特徴的な音色を示す。
❷腰のすわった音で、響きの厚みと、力とを明らかにする。
❸響きは決して湿っていない。効果的である。
❹力のある音がいい。言葉もたって、ききやすい。
❺声と他の楽器のバランスが自然でこのましい。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶筋肉質の音で、力感ゆたかに示される。
❷部分拡大になりすぎていないところがいい。
❸響きの消え方は、充分とはいえず、ものたりない。
❹細かい音の動きには充分に対応できている。
❺音色的対比は充分だが、音像対比の点でものたりない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶アタックの強さは示すが、響きは重い。
❷力感のあるブラスで、かなりの効果をあげる。
❸きわだたせるものの、刺激的にはならない。
❹響きのめがつみすぎているために、はれやかさが不足する。
❺ぼてついてはいないが、さらにシャープでもいいだろう。

座鬼太鼓座
❶一応の距離感はとれて、広がりが感じられる。
❷響きがキメ細かく、しかも尺八らしさを示して好ましい。
❸特にきわだってはいないが、一応ききとれる。
❹このスケールゆたかな響きには、対応しきれていない。
❺充分にきこえる。しかもエフェクティブである。

KEF Model 105

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 一年以上まえから試作品を耳にしてきたが、さすがに長い時間をかけて練り上げられた製品だけのことはある。どんなプログラムソースに対しても、実に破綻のない、ほとんど完璧といいたいみごとなバランスを保っていて、全音域に亘って出しゃばったり引っこんだりというような気になる部分はほとんど皆無といっていい。いわゆるリニアフェイズ型なので、設置および聴取位置についてはかなり慎重に調整する必要がある。まずできるかぎり左右に大きくひろげる方がいい。少なくとも3メートル以上。スピーカーエンクロージュアは正面を向けたままでも、中音と高音のユニットをリスナーの耳の方に向けることができるユニークな作り方だが、やはりウーファーごとリスナーの方に向ける方がいいと思う。中〜高域ユニットの垂直方向の角度も慎重に調整したい。調整がうまくゆけば、本当のリスニングポジションはは、ピンポイントの一点に決まる。するとたとえば、バルバラのレコードで、バルバラがまさにスピーカーの中央に、そこに手を伸ばせば触れることができるのではないかと錯覚させるほど確かに定位する。かなり真面目な作り方なので、組合せの方で例えばEMTとかマークレビンソン等のように艶や味つけをしてやらないと、おもしろみに欠ける傾向がある。ラフな使い方では真価の聴きとりにくいスピーカーだ。

JBL 4343

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ひびきにあかるさがあり、鮮明で、あいまいさがない。
❷奥の方で力をもって、輪郭たしかに提示される。
❸個々のひびきへの対応のしかたがしなやかで、無理がない。
❹たっぷり、余裕をもったひびきで、細部の鮮明さはとびぬけている。
❺ひびきに余裕があり、クライマックスへのもっていき方はすばらしい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像はくっきりしていてい、しかもピアノのまろやかなひびきをよく示す。
❷木管のひびきのキメ細かさをあますところなく示す。
❸ひびきはさわやかにひろがるが、柄が大きくなりすぎることはない。
❹しなやかで、さわやかで、実にすっきりしている。
❺ひびきの特徴を誇張しない。鮮明である。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶アデーレとロザリンデの位置関係から、ひろがりが感じられる。
❷声のなまなましさは他にあまり例がないほどだ。
❸声のつややかさが絶妙なバランスでオーケストラのひびきと対比される。
❹はった声もしなやかにのびていく。こまかいニュアンスをよく伝える。
❺オーケストラの個々のひびきを鮮明に提示する。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶ひびきに妙な癖がないので、すっきりと鮮明だ。
❷声量差をデリケートに示し、言葉はあくまでも鮮明だ。
❸残響をすべてそぎおとしているわけではないが、言葉の細部は明瞭だ。
❹ソット・ヴォーチェによる軽やかさを十全に示す。
❺声のまろやかさとしなやかさ、それにここでの軽やかさを明らかにする。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ポンという低い音の音色的特徴を誇張するようなことは、まったくない。
❷シンセサイザーのひびきのひそやかなしのびこみはすばらしい。
❸ひびきはこのましく浮びあがり、飛びかう。
❹前後のへだたりが充分にとれ、ひろがりが感じられる。
❺もりあがり方に不自然さはまったくなく、ピークは力にみちてみごとだ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひそやかな音のしのびこみ方が絶妙だ。透明なひびきのよさがきわだつ。
❷ギターの進入と前進、途中での音色のきりかえが鮮明。
❸このひびき特徴をあますところなく伝える。
❹わざとらしさがない。ひびきはきらりと光る。
❺ギターとのコントラストの点でも充分だ。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶反応の鋭さによってさわやかなサウンドがもたらされる。
❷充分なひびきの厚みが示され、効果的だ。
❸ハットシンバルが金属でできていることをひびきの上で明快に示す。
❹ドラムスによるアタックは鋭く、声との対比もいい。
❺言葉のたち方は自然で、楽器によるひびきとのコントラストも充分だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像はふくれすぎず、くっきりしている。
❷不自然な拡大・誇張はないが、充分になまなましい。
❸消え方をすっきりと示す。しかしこれみよがしにはならない。
❹反応は、シャープであり、しかも力強い。
❺音像的な対比にはいささかの無理もない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶アタックの強さを示し、しかもひろがりも感じさせる。
❷ブラスは、輝きと力のある音で示され、中央をきりひらいていくる。
❸横に拡散しすぎることはないが、力のあるひびきでききてをおそう。
❹後へのへだたりはすばらしい。見通しも抜群だ。
❺リズムの提示は、力感にみちていて、このましい。

座鬼太鼓座
❶ほどよい位置から、しかし鮮明にきこえてくる。
❷尺八の特徴的な音色をよく示し、独特のなまなましさを感じさせる。
❸きこえて、輪郭もあるが、これみよがしではない。
❹充分にスケールゆたかだ。この大太鼓のただならぬ大きさを感じさせる。
❺充分に効果的にきこえて、雰囲気ゆたかなものとしている。

インフィニティ Quantum 4

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 非常に独特の軽やかでキメのこまかくよくひろがる音がする。音像が空間によく浮かび、奥行きも十分に感じられる。イギリス製のスピーカーにはよくこういう傾向の音が聴かれるが、イギリス系のそれが概して誇張のない自然な音に支えられて、スピーカーの向う側に、いささかミニチュアライズされた、しかしいかにもほんものの原音場が展開したかのような錯覚を感じさせるのにくらべると、インフィニティの展開する音場は、それよりもスケールが大きいかわりにどこか人工的な匂いがあって、しかしこの人工的なひろがり感はこれなりに楽しませる。トゥイーターの特殊な構造のせいか、コンデンサー・ヘッドフォンで聴くような一種キメの細かい音がするが、反面、トゥイーターがつねにピチピチという感じのノイズを空間にちりばめているうよで、たとえばルボックスのあのひっそり、かつしっとりした感じが得にくい。中域あたりの力がもう少し欲しく思われて連続可変型ののレベルコントロール(ノーマルの指定がない)を調整してみたが、いろいろなレコードの平均をとると、結局中点あたりに落ちつく。台に乗せずにインシュレーターを介して床に直接置き、背面を適度にあけると、音のひろがりと奥行きがよく出て、リズムが軽く浮き上る。組合せは4000DIIIやCA2000の傾向が、やはりこのスピーカーをよく生かす。

スペンドール BCII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 ロジャースのLS3/5Aと同じく数ヵ月前に自家用に加えたので、素性はかなりよく掴んでいるつもりだが、テストサンプルと比較しても、特性がよくコントロールされているし、バラつきは感じられない。音のバランスがとてもよく、やや甘口の鳴り方ながら、あまり音を引締め過ぎるようなところがなくことにオーケストラや室内楽やヴォーカルを、それほど大きな音量にしないで鳴らすかぎりは誇張のないとても美しく自然な響きで聴き手を心からくつろがせる。パワーにはあまり強くない。すべての音を、良いステージで聴くようなやや遠い感じで鳴らすので、ピアノの打鍵音を眼前で……というような要求には無理だ。かなり以前の──というより初期の──製品には、ハイエンドの冴えがもう少しあったような気もするが、この点は比較したわけではなく、以前ほど印象が強くなくなったせいかもしれない。専用の(別売)スタンドが最もよく、前後左右になるべくひろげて、ただしスピーカーからあまり遠くない位置で聴く方がいい。離れるにつれて音像が甘くなり、評価の悪くなるスピーカーだと思う。カートリッジは455Eがとてもよく合う。価格のバランスをくずせばEMTもいい。アンプはやさしい表情と音像のくっきりしたクォリティの高いものを組み合わせたい。

KEF Model 105(組合せ)

瀬川冬樹

世界のステレオ No.3(朝日新聞社・1977年冬発行)
「 ’78のために10人のキャラクターが創る私が選んだベスト・コンポーネント10」より

 聴き手(リスナー)の前方、左右2ヶ所に設置された1対のスピーカーから、もしも理想的にステレオの音の再生されるのを聴けば、ただの2点から音が出ているとはとうてい信じ難いほど、あたかも歌手はそこに立って唱っているようだし、ピアノトリオはおのおのの楽器が実際に、右、左、中央と並んでいるかのよう。オーケストラを鳴らせば、広いホールに管弦楽団が奥行きさえともなって並び、前方の空間いっぱいにひろがり、満ちあふれ、まるでスピーカーの背面の壁がくずれ落ちて、その向う側にほんとうに演奏会場が現出したかと錯覚するくらいにリアルなプレゼンス(臨場感=あたかも聴き手が実演の場に臨んでいるかのような感じ)が得られる。
 ただし、そういう感じを体験するには、かなり理想的に作られたスピーカーを用意し、そのスピーカーをよく生かすアンプリファイアーやレコードプレーヤーを慎重に組合せ調整し、そして前後左右に少なくとも2.5メートル以上ひろげたスピーカーから、同じ間隔ほど離れて中央(左右のスピーカーから等距離)のところに座って聴く、という条件を守ることが最少限必要になる。むろんレコードも、音楽的に優れていると共にステレオの音場再現に気を配って録音されたものを選ぶ必要もある。
 KEF105は、上記の聴き手(リスナー)との関係位置の配慮されたスピーカーで、グリルクロスを取ると、中〜高音用のハウジング中央に、聴き手との関係位置調整用のインジケーターランプが点灯するようになっていて、スピーカーを正しく耳の方向に調整できるようになっている。このスピーカーの指定する聴き方を守るかぎり、従来聴き馴れたレコードのすべてを、もういちど全部聴き直してみなくてはならないと思うほど、レコード音楽の新しい世界を聴かせてくれる。「’78のために」というテーマに推すゆえんである。

スピーカーシステム:KEF Model 105 ¥195,000×2
コントロールアンプ:ラックス 5C50 ¥160,000
パワーアンプ:ラックス 5M20 ¥210,000
トーンコントロールアンプ:ラックス 5F70 ¥86,000
ターンテーブル:ラックス PD-121 ¥135.000
トーンアーム:SME 3009/S3 ¥65,000
カートリッジ:エレクトロ・アクースティック STS455E ¥29,800
計¥1,075,900

JBL 4343(組合せ)

菅野沖彦

世界のステレオ No.3(朝日新聞社・1977年冬発行)
「 ’78のために10人のキャラクターが創る私が選んだベスト・コンポーネント10」より

 JBLのスピーカーは大きな可能性をもっている。高級機機というのはみんなそうだが、それを持てばそれでいいというものではなく、それを使いこなしていく可能性が大きいと理解すべきだろう。この4343は、JBLの本格的な4ウェイ・4スピーカー・システムで、使いこなしの如何によっていかようにも、使用者の感性と嗜好を反映した音を出してくれるだろう。そして、このホーン・ドライバー・システムは特に、ある程度の期間、鳴らし込まないと、本当の音が出てこない事も知っておくべきである。いわゆるエイジングといわれるものだが、この影響は大きい。新品スピーカーは、どこか硬く、ぎこちのない鳴り方をするが、使い込むにしたがって、しっとりと、高らかに鳴るようになるものなのである。これをドライブするアンプは、ケンソニック社のプリ・アンプ……というよりは、同社でもいっているようにフォノ・イクォライザー・アンプC220とモノーラル・パワー・アンプM60×2を用意する。片チャンネル300Wものアンプが果して必要なのだろうかと思われる向きもあるかもしれないが無駄ではない。そして、もしトーン・コントロールを必要とする場合には、別に、グラフィック・イクォライザーを(例えばビクターのSEA7070)をそろえるといいだろう。今年の新製品から、ソニーの超弩級プレイヤーシステムPS−X9を選んだが、たしかにマニアを惹きつける魅力をもったプレイヤーだ。その重量級のメカニズムから生れる音は、まさにソリッドで堂々とした風格がある。しかし、あまりに、抑制が利いていて、戸惑うほどである。このぐらいのシステムになれば、テープデッキも、カセットというのでは少々アンバランス。勿論、日常の便利に、カセット・デッキも1台は欲しいが、ここでは、スカーリーの2TR38cm/secのマスター・レコーダーを組合せ、次元のちがう圧倒的なサウンドの世界を味わっていただこうというわけだ。

スピーカーシステム:JBL 4343WX ¥730,000×2
コントロールアンプ:アキュフェーズ C-220 ¥220,000
パワーアンプ:アキュフェーズ M-60 ¥280,000×2
チューナー:テクニクス Technics 38T ¥65,000
プレーヤーシステム:ソニー PS-X9 ¥380,000
オープンリールデッキ:スカーリー 280B2 ¥2,700,000
計¥5,385,000

既製スピーカーシステムにユニットを加えてマルチアンプでドライブする(その3)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 第2の中音用ユニットを加えるプランは、ベースとなるシステムが2ウェイ構成であるときに使いやすい。実際に、現在シリーズ製品としてメーカーから発売されているブックシェルフ型システムのなかには、同じウーファーとトゥイーターを使用し、上級モデルにはコーン型スコーカーを加えて3ウェイ構成としている例が多い。エンクロージュアの外形寸法では、2ウェイにくらべて3ウェイ構成のほうが、コーン型スコーカーのバックキャビティを必要とするために1サイズ大きくなるが、ウーファー用としてのエンクロージュア内容積では変わらず、低音の性能はほぼ同じと考えてよい。
 かつて、JBLのシステムにあったL88PAには、中音用のコーン型ユニットとLCネットワークが、M12ステップアップキットとして用意され、これを追加して88+12とすれば、現在も発売されている上級モデルのL100センチュリーにグレイドアップできる。実用的でユーモアのある方法が採用されていたことがある。
 ブックシェルフ型をベースとして、スコーカーを加えるプランには、JBLの例のように、むしろLCネットワークを使いたい。マルチアンプ方式を採用するためには、もう少し基本性能が高い2ウェイシステムが必要である。例えば、同軸2ウェイシステムとして定評が高いアルテック620Aモニターや、専用ユニットを使う2ウェイシステムであるエレクトロボイス セントリーVなどが、マルチアンプ方式で3ウェイ化したい既製スピーカーシステムである。この2機種は、前者には中音用として802−8Dドライバーユニットと511B、811Bの2種類のホーンがあり、後者には1823Mドライバーユニットと8HDホーンがあり、このプランには好適である。
 また、アルテックの場合には、511BホーンならN501−8A、811BならN801−8AというLCネットワークが低音と中音の間に使用可能であり、中音と高音の間も他社のLC型ネットワークを使用できる可能性がある。エレクトロボイスの場合には、X36とX8、2種類のネットワークとAT38アッテネーターで使えそうだ。
 マルチアンプ方式では、クロスオーバー周波数の選択、ユニットの出力音圧レベルやボイスコイルインピーダンスの制約がないために、スコーカーユニットの追加は大変に容易である。つまり音色の傾向さえ選択を誤らねば、他社のユニットホーンの採用も可能であり、実は、このように他社のユニットが自由に選べるのがマルチアンプ方式の本当の魅力だ。中音ユニットの音色傾向は、構造にも関係するが、ドライバーユニットなら主に振動板であるダイアフラム材質により左右される。アルテックが現在の主流である軽金属のダイアフラムであることにくらべて、エレクトロボイスは伝統的に硬質フェノール樹脂製のダイアフラムを採用している特長があり、これが、エレクトロボイスのサウンドの特徴になっている。このタイプのダイアフラムは、よくPA用と誤解されやすいが誤りであり、ナチュラルで軽金属ダイアフラムの苦手な弦やボーカルに優れた再生能力をもつ。
 その他のバリエーションには、3ウェイ構成のシステムの低音と中音の間に、主にコーン型の中低音ユニとを加える方法がある。この場合には、追加したユニットを置く位置がポイントになる。この方法は、クロスオーバー周波数が低くなるため、マルチアンプ方式のほうにメリットは大きいものがある。

●スピーカーシステム
 アルテック 620A Monitor
 エレクトロボイス SentryV
●ドライバー
 アルテック 802-8D
 エレクトロボイス 1823M
●ホーン
 アルテック 511B
 エレクトロボイス 8HD
●コントロールアンプ
 GAS Thoebe
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 サンスイ CD-10
●パワーアンプ
 低音域:GAS Son of Ampzilla
 中音域:GAS Grandson
 高音域:GAS Grandson

既製スピーカーシステムをマルチアンプでドライブする(アルテック A5)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 アルテックA5システムは、一般によく知られているA7−500−8システムを内容的に一段とグレイドアップしたタイプで、ザ・ボイス・オブ・ザ・シアターシリーズ業務用スピーカーシステムのなかでは、A7とならび、実用上、家庭内に持込んでコンシュマー用として使用できるもっとも小型な製品である。
 現在、国内でA5システムと呼ばれているタイプは、A5Xシステムといわれるタイプをベースとして、ハイフレケンシーユニットと組み合わせるホーンを、マルチセルラ型から大型セクトラルホーン311−90に置換え、コンシュマー用に相応しい指向性を得ようとしたシステムである。
 もともとA5システムは、開発された時点においては、現在のタイプとはまったく異なったより大型のエンクロージュアを採用しており、システムとしては、ウーファーと高音用のドライバーユニットの基本的な構造や規格で同じであることに類似点があるのみであるから、このA5システムも、A5シリーズのヴァリエーションのひとつとして考えてもよいと思われる。
 エンクロージュアは、A7−500−8システムと共通のフロントホーンとバスレフ型を複合した独特の828Bで、ウーファーは、416−8Bの強力型ユニットである515Bを組み合わせている。このユニットは、コーン紙を含む振動系は、ほぼ416−8Bと同等だが、磁気回路はアルニコ系の鋳造マグネットを採用した強力なタイプで、出力音圧レベルは105dBと発表されている。
 高音用には、振動系が改良され、モデルナンバーが異なる291−16Aが指定されていたこともあったが、現在では、オリジナルともいうべき288−16Gドライバーユニットと311−90セクトラルホーンを組み合わせて使用している。
 クロスオーバー周波数は、より大型のドライバーユニットとホーンの組合せにもかかわらず、より小型なA7−500−8システムと同じ500Hzが指定されている。LC型ネットワークは、超大型のN500F−Aがマッチする。この場合の聴感上の特長は、A7−500−8にくらべ中音のエネルギー感と密度が格段に優り、低音も引締まった充実した響きで、いかにも業務用システムらしい堂々とした音が得られる点である。
 また、A5システムは、フロントホーン付の828Bエンクロージュアを採用し、高音ユニットとのエネルギー的、音色的つながりが意図されていると同時に、低音と高音の両ユニット間の位相が調整されている特長があることも見落とせない重要なポイントとしてあげることができる。
 マルチアンプ化のプランには、GASのアンプをベースにDBシステムズのエレクトロニック・クロスオーバーを使う。家庭用としての使用では、クロスオーバー周波数を指定より下げてみるのも大変に興味深い。

●スピーカーシステム
 アルテック A5
●コントロールアンプ
 GAS Thaedra
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 DBシステムズ DB-3+DB-2
●パワーアンプ
 低音域:GAS Ampzilla II
 中高音域:GAS Son of Ampzilla

既製スピーカーシステムをマルチアンプでドライブする(ヴァイタヴォックス CN191 Corner Horn)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 ヴァイタヴォックスCN191コーナーホーンシステムは、英国をふくめたヨーロッパ製品のなかで、コンシュマーユースのスピーカーシステムとしてはもっとも大型なフロアーシステムである。
 エンクロージュアにはクリプッシュKタイプといわれるフロントロードホーン型の一種が採用されている。フロントロードホーンでは、その名称のように、ウーファーコーンの前面の音だけをホーンを使って放射しているが、バックローディングホーン型では、ウーファーコーンの前面の音は直接放射され、後面の音がホーンを使って、低音の一部だけをホーン効果により補うタイプである点が異なる。このクリプッシュKタイプでは、ウーファー前面からの音が、特殊な形状に折り曲げられたホーンから一度エンクロージュア背面に導かれ、さらに部屋のコーナーを低音ホーンの延長として利用し、エンクロージュア両側の開口部から前面に放射される。
 クリプッシュKタイプホーンは、ホーン型エンクロージュアらしい、厚みがあり緻密な堂々とした低音が得られる大きなメリットがある。しかし、折曲げ型ホーンのためにウーファーコーンからの中音は減衰しやすく組み合わせる中音用や中音から高音用のスピーカーユニットには、十分に低い周波数から使用できるタイプが必要である。
 ウーファーは、CN191システム用に指定されているAK157、中音から高音用には、直径76・2mmという大型軽金属製ダイアフラムと16、000ガウスの磁束密度をもつドライバーユニットS2と、アルミ合金製のセクトラルホーンCN157を組み合わせ使用する。なお最近のCN157ホーンは、ホーンのカーブが設計変更されて改良されているようで、一段と音質面でのグレイドアップが期待できる。指定LC型ネットワークは、クロスオーバー周波数500Hzの典型的な12dB型NW500である。
 しーぁぬ191は、部屋の壁面を低音ホーンの一部として利用することが前提として設計されているために、強度が十分にある、レンガやコンクリートなどの壁が相応しい。そうでない場合には、少なくとも、30mm以上の厚さの良質な板で、エンクロージュア後側の壁と接する面に使う衝立をつくり使用することが望ましい。
 マルチアンプ化のプランは、CN191がトラディショナルな英国の音をもつことを考えれば、少なくとも、スピーカーとダイレクトに結合するパワーアンプには,英国系の製品を使用したい。ここでは、QUADの2機種のパワーアンプを選んでいるが、低音用の303Jは、モノーラル構成で、出力部分にインピーダンスマッチング用のトランスをもつ特長があり、適度に最低域がカットされるため、ホーン型ウーファーには好適である。コントロールアンプその他は、管球タイプで音色的なバランスを重視して選んである。

●スピーカーシステム
 ヴァイタヴォックス CN191 Corner Horn
●コントロールアンプ
 ウエスギ U-BROS-1
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 ウエスギ U-BROS-2
●パワーアンプ
 低音域:QUAD 303J(×2)
 高音域:QUAD 303

既製スピーカーシステムをマルチアンプでドライブする(JBL 4350A)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 JBLのプロフェッショナルモニターシリーズのモニタースピーカーには、現在、30cmウーファーをベースにした4311から、38cmウーファーをパラレルドライブする大型の4350まで多くの機種がある。そのなかでは、スタジオモニターとして多く使用されている中型の4331A、4333Aは、マルチアンプ化のプランの対象として十分なクォリティの高さを備えた、優れたユニットを採用したシステムといえよう。しかし、2ウェイ構成の4331Aは、そのままマルチアンプ化することよりも、高音用に2405トゥイーターを追加して、3ウェイ化することのほうがグレイドアップの効果が高い。3ウェイ構成の4333Aでは、中音用ユニットのほうが高音用ユニットよりも高能率であり、低音を一台、中音と高音を一台のパワーアンプで駆動する2チャンネルのマルチアンプ方式には好ましくなく、完全にスピーカーユニットに対応したパワーアンプを使う3チャンネルのマルチアンプ化が必要である。むしろ、この場合は、コンシュマーユースとしての使用を前提とすれば単なるマルチアンプ化よりも、グレイドアップにおける投じた経費と結果での効率の高さにポイントをおくべきだ。マルチアンプ化は、2チャンネルとして、中音と低音の間に中低音用のコーン型ユニットを追加するか、超低音を補うために46cm型以上の専用ウーファーの追加や、3D方式なら、さらに大口径の60cm型や76cm型のウーファーを採用するプランが考えられる。
 それに対して、さらにマルチウェイ化され、4ウェイ構成になっている4343や4350は、ともに中低音用のコーン型ウーファーが採用されているのが大きな特徴だ。このため、これをベースとして中音用、高音用の能率的なバランスが保たれ、マルチアンプ方式の基本型である2チャンネル方式のために最適な条件を備えている。
 4343は、これらの条件が備わっているため、システムとして最初からスイッチ切替で2チャンネルのマルチアンプ使用が考えられており、4350では、全帯域をLC型ネットワークで使用することは考えられてなく、中低音以上と低音は、2チャンネルのマルチアンプで分割して使用することを前提とした設計である。そのために、ボイスコイルインピーダンスは、中低音以上は8Ω、低音は、ソリッドステートパワーアンプでは8Ωよりもパワーが得やすい4Ωになっている点は、見逃せないポイントである。
 マルチアンプ化は、各使用ユニットの数に応じたパワーアンプを使う本来の意味でのマルチアンプのプランを採用するのが、これらのシステムのもつ性能をさらに一段と飛躍させるためには好ましいことになる。しかし、ここでは、性能が高い、ハイパワーアンプによる2チャンネルの例をあげておく。これを使い、さらにマルチアンプ化していくことが、アプローチとしてはオーソドックスと思う。

●スピーカーシステム
 JBL 4350A
●コントロールアンプ
 マークレビンソン ML-1L
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 マークレビンソン LNC-2L
●パワーアンプ
 低音域:マランツ 510M
 中/高音域:マランツ 510M

既製スピーカーシステムをマルチアンプでドライブする(JBL D44000 Paragon)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 JBLのD44000パラゴンは、現在の大型スピーカーシステムとしては異例な性格をもった、極めてユニークな製品である。
 ステレオのスピーカーシステムは、一般的には左右チャンネルそれぞれ専用のスピーカーシステムを使う方法が標準であるが、パラゴンでは、左右チャンネル用のスピーカーシステムを一体化して使う構想で設計されている。構造上では、独立した左右対称型のフロントロードホーン型エンクロージュアを金具を使用して中央部分で結合し、デザイン的には、中央から左右に円弧状のカーブをもつ反射板で連続して、このまま家具として置いても素晴らしいオブジェとして眺められるユニークな完成度の高さが感じられる。しかも、エンクロージュアは、床面の影響を避けられるように、脚で床から離れているため、音楽的な面での処理も完全である。
 JBLには、かつて、このパラゴンのシリーズ製品として、同じ構想に基いた小型のミニゴンシステム、各種のユニットによりバリエーション豊かなシステムができるメトロゴンがあった。このシリーズのもうひとつの特長として、2チャンネルステレオでは、とくに左右スピーカー中心の音が弱くなり、実体感が薄れる点を補うために、エンクロージュア前面にある円弧状の反射板に主に中音ユニットの音を当て、その反射を左右のスピーカーに対して第3の音源として利用していることがあげられる。
 2チャンネルステレオでは、中央の音が弱く感じられない程度に左右のスピーカーシステムの間隔を調整することが、ステレオフォニックな音場感を再生する基本である。しかし、左右スピーカーの位置にある音源は、直接スピーカーからの音を聴くために、仮りにこれを実像とすれば、スピーカーの内中央の音源は、そこに定位をしたとしても、虚像にたとえることができる。パラゴンに採用された反射板を利用して第3の音源をつくる方式は、中央の音もスピーカーからの反射音を聴く実像である点が大きな特長である。
 パラゴンは、このように音響的に特殊な方式を採用しているため、最適リスニングポイントの範囲は一般のスピーカーシステムよりも狭く、制約がある。おおよその位置は、両側のトゥイーターの軸上を延長した線の交点あたりで、かなりスピーカーシステムと最適リスニングポイントの距離は近い。
 パラゴンを巧みに鳴らすキーポイントは低音にあるが、特にパワーアンプが重要である。ここではかつて故岩崎千明氏が愛用され、とかくホーン型のキャラクターが出がちなパラゴンを見事にコントロールし、素晴らしい低音として響かせていた実例をベースとして、マルチアンプ化のプランとしている。このプランにより、パラゴンを時間をかけて調整し、追込んでいけば、独得の魅力をさらに一段と聴かせてくれるだろう。

●スピーカーシステム
 JBL D44000 Paragon
●コントロールアンプ
 クワドエイト LM6200R
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 JBL 5234(×2)
●パワーアンプ
 低音域:パイオニア Exclusive M4
 中音域:パイオニア Exclusive M4
 高音域:パイオニア Exclusive M4

ゲイル GS-401A

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきは、はれやかで効果的だ。
❷低音弦のひびきは、しっかりしていて、充分にひろがる。
❸木管と弦楽器のとけあいもよく示している。
❹響きが重くひきずりがちにならないのがいい。
❺クライマックスの力と鋭さをよく示す。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像が小さくまとまり、すっきり提示されるのがいい。
❷音色的な対比を軽やかに、さわやかに示す。
❸室内オーケストラ特有のひびきのさわやかさがある。
❹第1ヴァイオリンのフレーズは、実にすっきりしている。
❺特に木管楽器の音色の示し方がいい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像がしっかりしていて、セリフの声に誇張感のないのがいい。
❷接近感を鮮明に示す。子音のひびき方も自然だ。
❸声とオーケストラとのバランスはよくとれている。
❹はった声はかたくならない。もう少し力が感じられてもいい。
❺さまざまなひびきがよくとけあっている。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶ひびきの性格としてはたっぷりしたものだが、定位は確かだ。
❷声量をおとしても言葉が不鮮明になったりしない。
❸残響は感じられるが言葉の細部もききとれる。
❹ひびきに敏捷さがあり、誇張感のないのがいい。
❺自然にしめくくりのひびきがのびている。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、音場的対比は、はなはだ鮮明である。
❷後方へのひきが充分でひろがりが感じられる。
❸ひびきの飛びかうさまが無理なく感じられる。
❹ひびきはさわやかにひろがり、前後のへだたりも充分に示す。
❺ピークでの圧倒的なもりあがりがすばらしい。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのかすかなひびきがすっきりと示されている。
❷ギターの音像がふくれていないのがいい。
❸ことさらめだつわけではないが、一応の効果はあげる。
❹軽やかにひびいて、音色的なアクセントをつけている。
❺はなはだ望ましい感じで示されている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶幾分かためのハイコードが効果的に示されている。
❷この部分で求められる効果を提示しえている。
❸ハットシンバルのひびきのぬけでてき方がいい。
❹重低音をそぎおとしたドラムスの感じがよくわかる。
❺言葉のたち方、声の重なり具合、いずれも好ましい。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶特に迫力を強調するわけではないが、鮮明な提示がいい。
❷指の動きをくっきり示すが、部分拡大にはなっていない。
❸必要最少限には音の消え方を示している。
❹こまかい音の動きをあいまいにならずに示している。
❺サム・ジョーンズとの対比が不自然でなくていい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスのアタックの鋭さがよくわかる。
❷ブラスのひびきにもうひとつ力がほしいが輝きは充分だ。
❸求められる効果はあげているが、もう少しワイルドでもいいだろう。
❹音の見通しがいいために、トランペットの参加は効果的だ。
❺ここでのリズムは切れが鋭くすばらしい。

座鬼太鼓座
❶充分に距離がとれているために、ひろがりが感じられる。
❷尺八のひびきは、脂っぽくならず、のびのびときこえる。
❸ことさらではないが、一応ききとれる。
❹大きさは提示しないが、力強さは示す。
❺きこえる。効果的なひびきのまとまりがある。

アルテック Model 15

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、うすく、多少のへだたりをもってひびく。
❷低音弦のひびきは、重く、ねばりぎみである。
❸フラジオレットの音色を伝えるものの、充分とはいえない。
❹ここでのピッチカートは、大きくふくらみがちだ。
❺迫力があり、力も感じさせるが、鮮明とはいいがたい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像はふくれぎみで、音の質としてはたくましい。
❷音色的な特徴を拡大ぎみに示し、大柄だ。
❸室内オーケストラのものとしては、たっぷりひびきすぎる。
❹第1ヴァイオリンのフレーズは、肉がつきすぎている。
❺個々の楽器の音色を示すが、鮮明にとはいいがたい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像が大きく、表情をきわだたせる傾向がある。
❷残響をかなりひっぱり、接近感を誇張する。
❸クラリネットをクローズアップぎみに示す。
❹はった声は、かたくなって、のびない。
❺オーケストラと声とのバランスがいいとはいえない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像はかなり大きい。定位ははっきりしない。
❷ひびきに多少のねばりがあるために、不鮮明になりがちだ。
❸残響をひっぱりすぎているために、細部があいまいになる。
❹バリトン、バスが強調されぎみなので、各声部のバランスが悪い。
❺のびてはいるが、軽やかさがない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ポンという低い音の方が大きくひびく。
❷奥へのひきはいいが、クレッシェンドが自然でない。
❸一応の浮遊感を示すものの、ひびきはねばりきみだ。
❹前後のへだたりは示せているが、広々とはひびかない。
❺ピークでの、ひびきのふくらみは圧倒的で、迫力も充分だ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのひびきに力がつきすぎていて、透明感が不足だ。
❷ギターの音像は大きく、そのひびきは力強い。
❸きわめて積極的に自己主張して、前にはりだす。
❹このひびきの輝きがききとりにくい。
❺他のひびきの中にうめこまれて、ききとりにくい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音が、ふくらみ、重くきこえる。
❷重厚にきこえるが、音の重なり具合はよくわからない。
❸ハットシンバルの音が湿ってきこえる。
❹ドラムスの音像が大きく、鋭くつっこんでこない。
❺バックコーラスの効果は一応示せている。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像が大きく、入れものの中でひびいているかのようだ。
❷指の動きを、なまなましくきわだたせる。
❸弦をはじいた後の音の消え方をくっきり示す。
❹ある種の力感は伝えるものの、シャープな反応に不足する。
❺サム・ジョーンズとの音像的対比が不自然だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶迫力はあるが、リズムが重く感じられる。
❷ブラスのひびきに力があり、効果的だ。
❸積極的に大きく前にはりだしている。
❹へだたったところからきこえるが、効果的とはいえない。
❺ふやけてはいないが、重くリズムが刻まれている。

座鬼太鼓座
❶尺八は左奥からきこえるが、距離感は足りない。
❷尺八のひびきに脂がつきすぎている。
❸かなりたっぷりと、力をもったひびきできこえる。
❹スケール感ゆたかなひびきをきかせる。
❺きこえることはきこえるが、効果的とはいえない。

KEF Cantata

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートはすっきりさわやかにひびく。木管の音色もいい。
❷スタッカートにはもう少し力がほしい。べとつかないよさがある。
❸フラジオレットの特徴的な音色を細身なひびきでだが示す。
❹美ッ血カートはふくらまない。ヴァイオリンの音色はさわやかだ。
❺スケールの点で充分とはいえないが、のびやかなひびきがいい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像が小さくすっきりまとまるのが好ましい。
❷音色対比は充分についていて、バランスもいい。
❸室内オーケストラのさわやかさを感じとれる。
❹第1ヴァイオリンのフレーズはまことにさわやかだ。
❺各楽器の音色をキメこまかに示す。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像はほどよい大きさで、定位もいい。
❷接近感をよく示す。セリフの部分の声のなまなましさを伝える。
❸クラリネットの音色に問題はない。声とのバランスもいい。
❹はった声がかたくもならず、自然にのびる。
❺ひびきにゆたかさはないが、すっとりきける。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶左から右へのメンバーの並び方を充分にききとることができる。
❷音にべとつきがないので、声量をおとしても不鮮明にならない。
❸残響を程よくおさえているために、言葉がよくたつ。
❹ひびきに軽やかさがあるため、音の響きに敏感に反応できている。
❺かすかな余韻を残しているので好ましい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、音場的対比が充分についている。
❷後方へのひきは申し分ない。ひびきに透明感がある。
❸熱をもたない青い音がさわやかに浮遊する。
❹充分にひろがりを感じられる。前後のへだたりも充分だ。
❺導入は自然だが、ピークでの迫力は示しきれない。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのかすかなひびきをわざとらしくならずにすっきりと示す。
❷ギターの音像は大きくならず好ましい。
❸多少消極的にすぎるひびき方でとどまる。
❹さわやかに、輝きをもって効果的にひびく。
❺ことさら耳を近づけなくともきくことができる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音色をシャープに伝える。
❷サウンドの厚みは十全とはいえない。
❸ひびきの乾き方は順当である。すっきりぬけてくる。
❹もう少し力強さがほしいが、つっこみはシャープだ。
❺声の特徴はよく伝える。言葉も鮮明だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶一応の力は示すが、迫力の点でいま一歩というべきだろう。
❷指の動きをきかせるものの、なまなましいとはいえない。
❸音の消え方を伝えるものの、それがスケール感にはつながらない。
❹力強いとはいいがたい。こまかい音の動きはよく示す。
❺音像的、音色的、音量的対比に不自然さがない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスはシャープだが、力強さに欠ける。
❷ブラスは輝きにみちているが、迫力の点で不足している。
❸多少上品にひびきすぎるきらいがなくもない。
❹音の見通しがいいために、トランペットの効果がいきる。
❺リズムが鋭くきざまれて、充分にめりはりをつける。

座鬼太鼓座
❶尺八との距離はとれているが、充分になまなましい。
❷奏者の息づかいまでわかるかのようだが、脂っぽくない。
❸きこえないことはないが、ほんのかすかにきこえるだけだ。
❹大太鼓の音の消え方をきかせるが、迫力にはとぼしい。
❺大太鼓のゆたかなひびきと対比されて効果をあげる。

スペンドール BCIII

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、軽やかに、鮮明にひびく。
❷低音弦のひびきは、幾分腰がたかいかのようだが、シャープでいい。
❸さまざまなひびきをくっきりさわやかに示す。
❹ここでのピッチカートはふくれず好ましい。
❺クライマックスでのひびきのもりあがり方は大変いい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は小さく、すっきりと示される。
❷寝ロイ対比も十全で、とけあい方もいい。
❸室内オーケストラならではのさわやかなひびきがきける。
❹第1ヴァイオリンのフレーズはほぼ理想的だ。
❺さまざまなひびきがさわやかさをもって鮮明に示される。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶セリフの声に誇張感がなく、なまなましい。音像は小さい。
❷接近感を自然に無理なくすっきり示す。
❸オーケストラと声とのバランスはきわめていい。
❹はった声はかたくならず、充分にのびる。
❺個々のひびきを鮮明に示しつつ、全体のまとまりをつける。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶左から右へ、6人のメンバーの並び方がよくわかる。
❷声量をおとしても、鮮明さが不足することはない。
❸残響をおさえぎみにきかせるため、言葉のたち方はいい。
❹ひびきに敏捷さがあるため、まことに明瞭にききとれる。
❺ポツンと切れてしまうことなく、余韻を残す。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶軽いひびきでピンとポンの差を明らかにする。
❷はるか後方からきこえてくる好ましさがある。
❸浮遊感が充分に示されているので、効果的だ。
❹音の遊泳が自然ですみやかなために、ひろびろと感じられる。
❺もりあがり方は自然だが、ピークではひびきがきつくなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶奥の方でのひびきの透明感はほぼ申し分ない。
❷ギターの音像は小さく、したがってせりだし方をくっきりと示す。
❸くっきりひびいて、あいまいさがなく、有効だ。
❹このひびきのきらめきをよく伝えている。
❺ここでもまたうめこまれることなくいきている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音色をくっきりと示している。
❷厚みという点ではものたりなさもあるが、重なり方をよく示す。
❸充分に乾いたひびきで、すっきりとぬけでてくる。
❹ドラムスのひびきも、声も、質的に充分だ。
❺音楽のたち方も、音の重なり方もよくわかる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力感を誇示するわけではないが、強いひびきをよく示す。
❷部分拡大にならず、なまなましさをもたらす。
❸元の音がしっかりしているので、消え方もあいまいにならない。
❹こまかい音に対しての対応も充分だ。
❺サム・ジョーンズによる音との対比の面でも秀れている。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶もう少し力強さがほしいが、シャープなつっこみはいい。
❷幾分ひかえめながら、一応の効果はあげる。
❸背後のひびきも明らかにしつつ、音色対比をくっきり示す。
❹空間が広くとれているので、トランペットの参加は有効だ。
❺リズムの刻みは、はなはだシャープである。

座鬼太鼓座
❶尺八は遠くからきこえて、その消え方も明らかだ。
❷尺八らしい音色ですっきりと示される。
❸ほとんどききとりがたいといっていいだろう。
❹大太鼓の大きさも強さも明らかになっていはいない。
❺ききとれるが、幾分とってつけたようだ。