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ダイヤトーン DS-40C

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきがまろやかでいい。木管の音色もいい。
❷もう少し力があってもいいように思うがすっきりしたよさがある。
❸フラジオレットの特徴的なひびきがよくでている。
❹もう少しひびきにつやがほしいが弦の響きの美しさはでている。
❺ひびきのゆたかさと力が充分でない。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像は小さめでこのましいが、ピアノの音に力がほしい。
❷音色的な対比は示せている。薄味のひびきにとどまる。
❸ひびきがもう少し軽やかでいいだろう。
❹きめこまかく示すが、幾分しめりがち。
❺かなりオンでとっているようにきこえる。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶子音がいつくひびく。音像はふくらみがちだ。
❷接近感は示すが、定位が鮮明ではない。
❸クラリネットの音色はよく示すが、声とのバランスはよくない。
❹はった声は硬くなり、声のしなやかさがなくなる。
❺とがったひびきが強調ぎみになる。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶ひびきの目がつまりすぎているので、定位がすっきりしない。
❷まろやかなひびののよさはあるが、鮮明さがたりない。
❸残響をぴっぱりすぎるためか、すっきりしない。
❹とけあってはきこえるが、各声部の動きは不鮮明だ。
❺ポツンときれずに、ある程度の余韻を感じさせる。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶暖色系のひびきのためか、音色対比は充分でない。
❷ひびきの後へのひきがかならずしも充分でない。
❸ひびきに浮遊感がたりず、ひきずりぎみにきこえる。
❹前後のへだたりがあまりなく、空間がせまくきこえる。
❺ピークでは、ひびきが金属的になる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひろがりは一応感じられるが、ひびきに透明感が不足している。
❷これと❶での音との、サウンドの性格のちがいがはっきりしない。
❸他のひびきにうめこまれがちで、ひきたたない。
❹かなりめだってききとれる。ひびきに輝きがある。
❺一応ききとれるが、かならずしも効果的といえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきから角がとれすぎている。
❷サウンドの厚みは充分に示されているとはいえない。
❸かなり積極的に前にでてくるが、さわやかさがたりない。
❹切れがにぶいので、アタックの鋭さがでない。声はまずまず。
❺言葉のたち方は弱い。声とのとけあい方はよくわかる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶スケールの大きさは示すが、迫力ではたりないところがある。
❷指の動きの示し方は、かなり鮮明だ。
❸かならずしも余裕をもって示すとはいいがたい。
❹こまかい音の動きに対応するのは得意ではないようだ。
❺サム・ジョーンズの音色の示し方に問題がある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスに力が不足しているので、にぶい。
❷ブラスのつっこみはそれなりの効果をあげる。
❸せりだしてくるが、ひびきは幾分刺激的になる。
❹個々のサウンドを分離して示すより、とけあう傾向にかたむく。
❺幾分ふやけぎみで、めりはりがつきにくい。

座鬼太鼓座
❶尺八はかなり奥の方にひいた感じできこえる。
❷尺八の音色の特徴を、よく示した。
❸一応ききとれるものの、ごくかすかにきこえるだけだ。
❹スケールのゆたかさは示すが、力強さがたりない。
❺かならずしも充分にはきこえない。

テクニクス SB-5500

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートの音に力がない。オーボエよりフルートがめだつ。
❷あいまいにならないが、ひびきが腰高になっている。
❸フラジオレットの感じが十分にでているとはいえない。
❹ふくれてはいないが、ゆたかにひびいているとはいえない。
❺クライマックスでひびきがヒステリックになる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像は大きくないが、ピアノの音にまろやかさがたりない。
❷音色対比はついているが、とけあっていない。
❸ひびきにもう少しキメこまかさがほしい。
❹幾分これみよがしになって、せりだす。
❺各楽器のひびきを誇張ぎみにしめす。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶全体的に前にでたままになる。子音を強調ぎみである。
❷接近感はあまりない。もともと前にですぎるためか。
❸クラリネットの音色は伝えるが、声や他の楽器の音ととけあわない。
❹はった声は硬くなり、表情のコントラストを強くつける。
❺きこえることはきこえるが、効果的とはいいがたい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶横一列にならんだ感じは伝わりにくい。
❷ブレス等をきわだたせるが、言葉は鮮明とはいえない。
❸音がひとかたまりになる傾向があるのでききとりにくい。
❹各声部のからみ方は不鮮明にしか示されない。
❺ポツンと切れてはいないが、のびやかとはいいがたい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色対比はかなりくっきりついている。
❷後へのひきがたりない。ひびきが平面的になりがちだ。
❸音に重量がかかりすぎていて、浮遊しているとはいえない。
❹前後のひびきのへだたりが感じとりにくい。
❺ピークでは、力づくでおしてくるようなところがある。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのかすかなひびきは、もう少ししなやかでもいいだろう。
❷ギターの音は、くっきりと、中央に定位する。
❸他の楽器によるひびきの中にうめこまれがちだ。
❹きわだってきこえるが、そのひびきにもう少し輝きがあるといい。
❺かなりめだってきこえるが、他の音とのバランスに問題がある。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ここでの12弦ギターの音の特徴が充分に示されてはいない。
❷ひびきが薄いので、かならずしも効果的とはいえない。
❸ハットシンバルの音はぬけだしてくるが、さわやかさがほしい。
❹ドラムスのアタックはとがった感じになる。声の乾きぐあいはいい。
❺言葉はたってくるが、バックコーラスのとけあい方がよくない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力強くはあるが、ひびきのひろがりがたりない。
❷指の音だけでなく、奏者の息づかいまできかせる。
❸音の消え方がもう少し精妙に示されてもいいだろう。
❹力強いひびきをきかせるが、音の動きのこまかさは示されない。
❺サム・ジョーンズによるかげったひびきがききとりにくい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶一応の迫力は示すが、切れ味はにぶい。
❷充分につっこんでくるが、他の音がひっこみすぎる。
❸クローズアップの効果は充分に示される。
❹ひびきの目が,つんでいるので、わかりにくい。
❺ふやけてはいないが、切れが充分とはいえない。

座鬼太鼓座
❶尺八が比較的近くできこえる。距離感がでない。
❷脂っぽいとはいえないが、尺八の特徴をよく示してはいない。
❸一応きこえるが、かろうじてきこえる程度だ。
❹力強さは示されるが、ひびきのひろがりは示されない。
❺むしろ強調ぎみにきかせて、それなりの効果をあげる。

ビクター SX-55N

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、あかるく、くっきり示される。
❷ひろがりが感じられる。スタッカートを強調ぎみ。
❸フラジオレットの音色を積極的に示す。
❹ピッチカートに力があり、音の動きをくっきり示す。
❺迫力はあるが、ひびきとして幾分硬質にすぎる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は、くっきりと示される。音に力もある。
❷音色的な対比をよく示すが、多少わざとらしさがある。
❸全体にひびきがはりだしすぎるので、キメこまかさが不足する。
❹ひびきに肉がつきすぎているとでもいうべきか。
❺音色の特徴は示すが、はりだしぎみである。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶近づいてくる感じは示すが、誇張感がある。
❷残響が強調されている。声が幾分硬い。音像が大きい。
❸もう少しまろやかにひびいてもいいだろう。
❹はった声は硬い。声のまろやかさが感じとりにくい。
❺一応オーケストラの各楽器の特徴は示す。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像が大きいので、メンバーの並び方が不鮮明だ。
❷残響が誇張されるので、言葉は不鮮明だ。
❸子音が充分にたっているとはいえない。ひびきが重い。
❹きわめてかりにくい。音がひきずりがちのためか。
❺のびてはいるが、ひびきに軽やかさがたりない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色対比は充分についていて、しかも音に力がある。
❷クレッシェンドするのはわかるが、しのびこみ方がわざとらしい。
❸音に重みがあるので、軽やかな飛遊にはならない。
❹ひろがりが不充分。前後のへだたりも充分とはいいがたい。
❺力強い音をきくことができるが、ピークで硬くなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶充分な透明感とはいいがたい。ひろがりもたりない。
❷ギターは、もともと、かなりはりだしてきこえる。
❸くっきり、きわめて積極的にひびく。
❹充分に効果的にひびいて、アクセントをつける。
❺他のひびきの中にうめこまれる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音が、一種のまるみをおびて、力強くひびく。
❷充分に効果的だ。積極的に音は前におしだされる。
❸もう少し乾いてもいいが、一応の成果はおさめる。
❹つっこみは、充分に力感をともなっている。声は乾きがたりない。
❺言葉のたち方、声のとけあい方には、多少問題がある。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力にみちた音だ。スケール感も一応示す。
❷弦の上を走る指の音もききとれる。
❸音の尻尾をききとることができる。
❹こまかい音の動きは、多少あいまいになる。
❺音色の差は充分に示すが、音像の面で多少ひっかかる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶力強くはあるが、シャープとはいいがたい。
❷ブラスのつっこみは、力の輝きがある。かなり派手だ。
❸前に大きくはりだして、まことに積極的だ。
❹へだたりはかならずしも充分には示さない。
❺むしろふやけぎみだ。もう少しきりっとひびいてもいいだろう。

座鬼太鼓座
❶近くからきこえるわけではないが、距離感を示さない。
❷枯れたひびきからは遠い。かなり脂っぽい。
❸一応ききとれるが、十全にとはいいがたい。
❹スケールより迫力がきわだつ。消え方は示す。
❺ききとりにくい。雰囲気にものたりなさを感じる。

パイオニア CS-955

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 専用のスタンドが別売されているので、それに乗せたまま、左右への拡げ方と背面との距離とで最適一をいろいろ調整してみた。背面は、壁から50cm以上離す方が音離れがよく、左右に大きく開いた方がいい。レベルコントロールは、低・中・高各ユニットのつながりは指定のままがよかったが、音のバランスという面では(国産とはいえかなり高価な部類だから要求水準も自ずら高くなるが)、ベートーヴェンの序曲やセプテット、またブラームスのP協などで、たとえばラックスのアンプについているリニア・イクォライザーをダウン・ティルト(1kHzを中心に、低域をやや上げ、高域をやや抑える)にした方が、クラシックでも十分に納得のゆく(海外製品に全く劣らない)バランスが得られる。ただ、低音域で、一ヵ所、どうしても少々ドロンとした感じの残る点、そして中低域全体にもう少し肉づきや脂気が欲しいと思われる点が今後の課題だ。音色の傾向はややウェット型だが、そのためかヴァイオリンや木管の質感のよさは、国産としては極上の部類。バルバラの声もオヤ? と思うほどしっとりした味わいで、やさしさもほどよい色気も出る。パーカッションでのハイパワーにも、音のくずれが全くなく、十分に楽しめる音がする。総じてハイエンドでクセのないよく延びた鳴り方が、音のデリケートな味わいや雰囲気をとてもよく再現する。カートリッジはMC20より455Eの方が楽しめた。

ビクター FB-7

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、遠くで、鈍くひびく。
❷低音弦のスタッカートはもう少しシャープであってほしい。
❸フラジオレットの効果は示し、各楽器の音色も明らかだ。
❹主旋律はたっぷりうたわれている。
❺クライマックスで力はしめされるが、鮮明さがたりない。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は大きいが、ピアノのひびきそのものは薄い。
❷音色の特徴は、一種絵解き風に示される。
❸ひびきが総じてふくらみがちなので、さわやかさが不足する。
❹この第1ヴァイオリンのフレーズの特徴は示す。
❺ひびきに軽やかさがもうひとつほしい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像は大きく、残響をかなりひっぱっている。
❷子音が強調されて、表情は大きくなる。
❸音色の特徴をかなり拡大して示す。
❹はった声はかたくなりがちで、きわだつ。
❺一体になって前の方に押しだしてくる傾向がある。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像が大きいためだろう、横一列の並び方がききとりにくい。
❷声量をおとすと、ひびきの重み故か、不鮮明になる。
❸ひびきがふとりぎみで、明瞭さが薄れる。
❹各声部のからみがはっきりするためには、響きが重すぎる。
❺一応のびてはいるが、好ましい効果をあげているとはいえない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ポンという低い音の方が大きくひびく。
❷後方へのひきは充分にとれている。
❸音に軽さがないので、浮遊感はでにくい。
❹ひびきの質に関係してのことだろう、ひろがりが感じられない。
❺ピークでは、迫力を示すが、とげとげしくなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後へのひびきはとれているが、ひびきの透明感がほしい。
❷ギターのびひきは、中央からきこえるが、音像は大きい。
❸多少ふやけすぎているためだろう、効果的ではない。
❹充分にききとれるものの、音色的なアクセントをつけてはいない。
❺ほとんど他ののひびきの中にうめこまれている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ギターの弦があたかも太いかのようにきこえる。
❷サウンドの厚みは示すものの、過渡にせりだしすぎる。
❸ハットシンバルのひびきはもう少しすっきりしてほしい。
❹ドラムスの音像は大きく、重くひびく。
❺声は、きわだってくっきりきこえる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶あたかも大きな箱の中でひびいているかのようだ。
❷指の動きは部分拡大的にきかせる。
❸音の尻尾は横にひろがってきこえる。
❹音のこまかい動きがくっきり示されているとはいえない。
❺音像的な面で両者の差が極端すぎる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスのひびきは、重く、せりだしてくる。
❷ブラスのひびきは、かがやきに不足するものの、派手にきこえる。
❸大きくはりだしてきて、一応の効果をあげる。
❹ひびきの目がつみすぎているために、トランペットはいきない。
❺リズムの刻みが重く、めりはりがつきにくい。

座鬼太鼓座
❶尺八は大きく、なにか入れものの中でのごとくにひびく。
❷音色的には、大きな問題はなく、尺八らしさを示す。
❸かすかな音が、低い方にひろがってきこえる。
❹一応のスケール感は示されるが、力強さがほしい。
❺きこえるが、消える音との対比がないのでいきない。

ヤマハ NS-1000M

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 生産上難しい面の多かったベリリウム振動板という素材の製造技術が、次第に手馴れてきたのだろうか、初期の製品にくらべると、以前の製品のような角ばった音がそれほど気にならず、馴らしこまなくてもわりあいにおとなしい音がする。ことに高域端(ハイエンド)での共振性の音が、以前の製品よりよく抑えられていると感じた。この音をかつては〝鮮烈〟とも表現したが、こういう傾向の音が次第に増えてきたせいなのか、こちらが少々馴らされたのか、あるいは製品自体が以前よりおとなしくなっているのか、それともプログラムソースやアンプなどの歪がさらに減ってきているせいか──たぶんそのいずれもが少しずつの理由だろうが、それほど異質の音ではなくなっている。
 今回はやや低め(約20cm)の台に乗せ、背面を壁から30cmほど離して置いたときのバランスの良さは一種絶妙だった。ただ、中低音域にやや抑制が利きすぎるように思える点は従前どおりだし、重低音息にもう少し明るい弾みが欲しくもある。中~高音域では、音自体の繊細な切れ込みの良さは抜群だが、空間のひろがりの感じがもうひと息再現されるとさらに好ましいと思う。
 しかし弱音から強音に至るダイナミックレンジの広さと、やや色気不足だが音のバランスと解像力の確かさは、やはり国産スピーカーの中でも抜きん出た優秀製品のひとつだと再認識した。

デンオン SC-107

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 ちょっと国産らしからぬ艶の乗った、一種気品のある響きの美しさが、あきらかにSC104の兄貴分であることを思わせる。極上とまではゆかないが、国産のこの価格帯では相当に上質な音のスピーカーといえる。えてして国産の中で、音楽を楽しませるよりも音を分析する気にさせるような鳴り方をするのが少ないとは言えない中で、つい聴き惚れさせるといってオーバーなら、ともかくいつまでも聴いていて気になる音のしない気持の良い音で楽しませてくれる、といっても良いだろう。ただ、クラシック系にはレベルコントロール(高音のみ)を-1ぐらいまでほんの少し絞った方がいっそうバランスが良くなると感じたが。
 いわゆる輪郭鮮明型でなく、耳あたりのソフトなタイプだが、しかし不必要に角を丸めるようなことはなく、プログラムソースやアンプやカートリッジの音のちがいを素直に反映し(言いかえれば好みのカートリッジやアンプを自由に組み合わせることができる)ながら、適度に暖かく出しゃばらず、音楽のカンどころを確かにとらえて聴き手に伝えるという点が、やはり残念ながらヨーロッパ製のユニットの良さだろう。
 台は低め(約20cm)で、背面は壁からやや離す方がバランスがよかった。あえていえば、もうひと息の音の彫りの深さ、音場の奥行きと空間のひろがり、音の品位、などの点が、わずかとはいえ純欧州製との違いといえる。

パイオニア CS-755

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 最近のこのメーカーの一連のアンプの音にもいえることだが(本誌42号参照)、どういう種類の音楽に対しても、良い意味での中庸をゆく一種絶妙なバランスポイントを作ることがうまい。ただしそのことは、これといった欠点も指摘しにくいかわりに、際立った特徴もないといういわば無難そのものの音になりかねない。CS755でことにクラシックを鳴らすときに、たとえばオーケストラのトゥッティでもバランスをくずすようなことのない反面、やや魅力に乏しい傾向を示す。またポピュラーでは、パワーを上げてゆくとピアノなどややカン高くなる傾向もあって、決して完全無欠な製品ではなく、あくまでもまとめのうまさで聴かせるスピーカーだということは、この価格ならとうぜんのことで、しかしそのまとめ方のうまさが、少し前のパイオニアのスピーカーには欠けていたせいもあって、ようやく安心して聴ける音が出現してきたというような感じがする。
 レベルコントロールは指定位置のままがいちばん無難。低音がやや抑えぎみ。ことに重低音の豊かさがもっと欲しいので、低め(約20cm)の台に乗せた。ただし壁に近づけると中低域で少しこもる傾向があるので、背面は30cmほどあけて、アンプのトーンコントロールで(約150Hzあたり以下だけを)やや増強するのがよかった。

トリオ LS-505

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 トリオはスピーカーずいぶん古くから市販しているが、ふりかえってみると、その音は二つの極を往ったりきたりして、音の方向づけには多少の迷いがあるようにみえる。ある時期には思い切り手綱をゆるめてよく弾みよく響く音を作るかと思うと、今回のLS505のように、抑制の利いた音を作る。低音から高音までの音の質やバランスは、かなり周到に検討されたように思えて、レベルコントロールの指定の位置のままで、クラシックからポピュラーまで、破綻なくよくつながっている。しかし音の表情をかなり抑えていて、総体につや消しのマットな質感を感じさせる。ただ、ハイパワーを加えると中音域がやや硬く張る傾向がわずかに聴きとれる。ホーン型トゥイーターの質がきわめてよいせいか、スクラッチノイズやヒス性のノイズがとても静かで耳につきにくい。むしろもう少しレベルを上げてもいいくらいだが、3段切替のスイッチで+3では少し上げすぎのようでその中間が欲しく思われる。総体に音の豊かさや弾みがもっと欲しいので、台は低め(約20cm)にして、背面を壁に近づけて左右に大きく広げて置くと、かなり量感も出て渋いながら良い感じが出てくる。アンプやカートリッジは、あまりまじめな音は避けて、455Eや4500Q、それにKA7300Dなどのような、表情の豊かでやや味の濃い組合せの方がいいだろう。

ビクター SX-55N

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 ビクターの口ぐせの音の「立上り」と「響き」という、その「響き」の方をより多く感じさせる音だ。国産にありがちの押し殺したように表情の固いスピーカーのあとでこれを聴くと、どこかほっとして、音楽にはこういう弾んだ表情があるのがほんとうだと思える。その意味で音楽の本質の一面をたしかにとらえた、手馴れた作り方といえる。しかしその「響き」も、ときとして少々響きすぎるというか、総体に音を重く引きずるような粘った鳴り方をする面を持っている。そういう音は本来は暗い傾向になりがちだが、おそらく聴かせないためだろう、中~高域に明るく華やぐような色あいが加えてあって、音の重さを救っている。こうした華やぎは、ポップス系のにぎやかなリズム楽器には一種楽しい彩りを添えるが、クラシックのオーケストラの斉奏などでは、多少はしゃぎすぎる傾向を示す。
 そこでレベルコントロールをHIGH、MIDともメーカー指定の位置(最大位置=ここが時計の針で12時の位置になっている)から少しずつ(10時ぐらいまで)絞ってみた。この方が音に落ち着きが出て良いように思う。低音に関しては、台を高さ(約50cm)にした方が、粘りがとれて音が軽やかになる。アンプやカートリッジの差には敏感な方だから、本来の性格の良い面を生かすにはシュアーやエンパイア系のカートリッジや、ヤマハのアンプのような明るい音の組合せがいい。

Lo-D HS-530

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 このメーカーの製品は、置き方(台や壁面)にこまかな注意が必要で、へたな置き方をして評価すると、このメーカーからは編集部を通じてキツーイお叱りがくるので、それがコワいから、できるかぎり慎重に時間をかけてセッティングした……というのは冗談で、どのスピーカーも差別することなく、入念にセッティングを調整していることは、ほかのところをお読み下さればわかっていただけるはず。
 さてHS530は、本誌で標準に使っている約50cmの台では、少々高すぎのようで背面を壁にぴったりつけても、もう少し低音の量感が欲しく思われたので、約20cmの低い台に代えて、背面はやはり壁につける形に設置した。もう少し台を低くして低音をいっそう補いたかったが、そうすると中~高音のバランスがくずれるので20cm台であとはアンプのトーンコントロールで、ほんの少し低音を増強ぎみにセッティングした。こういう形で低音を補強しても、低音がブーミングを生じたりせずに、パワーを上げても全音域でよくバランスを保って、にごりのないきれいな質の高い音を鳴らす。まじめな性格の音なので、アンプもCA2000のようなタイプの方が統一がとれる。
 空間的な広がりや響きを表現しにくいが、しかし直接音成分自体は、相当にきちんと鳴らすタイプで、そういうせいかカートリッジもシュアーのV15/IIIをよく生かした。

ヤマハ NS-L325

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 ヤマハの作るスピーカーの音には、作る側でどの程度それを意識しているのか知らないが結果的にみると、大別して二つの流れがある。そのひとつは、NS1000MとNS500に代表される、音の輪郭の鮮明でいかにも現代的にややクールな表現をするグループと、もうひとつはNS690IIに代表される上品で行儀のよい、どこか優雅だがしかし聴きようによってはもうひとつ色気が欲しいと思わせるような製品の流れと、である。L325は、NS690の系列に属している。私のようにハメを外した人間には、このヤマハ独特の品の良さが、とてもうらやましい(自分にはとてもこういう品の良さがないというあきらめ)とともに、その反面、もう少し音の弾みや脂気や艶っぽさが、出てきて欲しいようなもどかしさをも感じる。
 そう思うような人間にとっては、アンプがCA2000ではかえって相乗効果が過剰に思えて、KA7300Dのような、そしてカートリッジもSTS455Eのような、少々味の濃い音を組み合わせてやった方が私の欲しい音に近づいてくる。SQ38FD/IIでは、アンプの音に古めかしさの面をかえって出してしまうの避けたい。
 置き方は、約20cmの低めの台で、背面は壁から20cmほど離した方がよかった。出力の大小に対する反応はとても良く、ハイパワーでも音がくずれない。優等生という表現の似合う製品だ。

デンオン SC-104

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 本誌43号で「ややポピュラー志向的に音を作っている」と書いた点をまず訂正したい。初期の製品はその傾向が強かったが、今回のサンプルは、以前にくらべてよくこなれてきたのか、クラシックからポピュラーまで、破綻の内バランスで気持よく楽しませてくれた。
 すべての音にどことなく脂の乗った照りを感じさせ、音がとてもみずみずしくよく弾むところが、国産としてはひと味ちがう良さ。どちらかといえば弦や木管やヴォーカルの暖かい丸みがよく出るタイプだが、たとえば4000D/IIIとCA2000で、メーターが振り切るまでパワーを上げてみても、パーカッシヴな音でもくずれたり濁ったりせずに音がよく延びる。またバルバラのシャンソンでは、STS455EとKA7300Dでのしっとりした情感、そして音像定位やプレゼンスの表現も、なかなか見事だし、F=ディスカウでSQ38FD/IIにしてみると、独特の声の滑らかさが生かされる……というように、カートリッジやアンプの選り好みもせずに、それぞれの良さをうまく鳴らし分ける。
 ユニットの配置は非対称だがR・Lの区別はない。約50cmの台で背面を壁につける置き方が、音の分離やシャープネスも適度に保って良好だが、そのまま台を約20cmと低くすると、低音の量感が出て総体に落ちつきを増して、私にはこの方が好ましく思えた。この価格帯では出色の佳作。

サンスイ SP-L100

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 新製品発表会当日の、新宿ショールームでのデモンストレーションでは、小粒ながら際立った新鮮な音で魅力的な印象を残した。そのあとすぐに、自宅に借りて試聴させてもらったサンプルも、基本的な印象が変らなかったので、本誌前号(第43号、161ページ)にも、ベストバイ・パーツのひとつとして推選した。
 ところが今回はどうもイメージが違う。試聴会当日のサンプルでは、周波数レンジ、とくに高音域が非常にスムーズによく延びていると感じたが、今回のものは、とりたててハイエンドが延びているというようには聴きとれない。音楽の表情を生き生きと彫り込んでゆく感じだったのがどこか表情が固い。たとえば弦や木管や女性ヴォーカルがやや骨細に聴こえる。言いかえると音の響きあるいは空間にひろがってゆくような鳴り方がもう少し欲しく思われる。
 置き方等をくふうしてみた。まず台はやや低め(約20cm)で背面は壁にぴったりつける方がよい。ポピュラー系ではレベルコントロールを指定の幅いっぱいまで上げた方がかえって音に冴えが出てくる(ただしクラシックの弦ではやかましくなる)。カートリッジは455EやオルトフォンよりシュアーのV15/IIIの方が総体にバランスがよくなるタイプ。アンプではSQ38FD/IIが非常に相性が悪く音が古めかしくこもるので、新しい傾向のTRアンプに限るように思った。

テクニクス SB-10000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 調整の焦点があって鳴りはじめると、どのレコードをかけてもこれまでのどのスピーカーからも聴こえてこなかった(あるいは聴こえなかったような気にさせる)ような、ディテールの明瞭で繊細な音が聴き手をびっくりさせる。レコードに入っている音なら、このスピーカーで聴こえない音はひとつもないのじゃないか、という気になってくる。この一種すがすがしい清潔な、脂気のあまりない音は、これまでJBLやイギリス系の良いスピーカーで聴いてきた音と、全く世界が違う。興味深いことは、マーク・レビンソン、SAE、オルトフォン、EMT……といった欧米のパーツがここに混じると、それは逆に異分子がまぎれ込んだような、明らかに違った血が入りこんだような違和感で鳴って、たとえばEPC100CやCA2000のような、もう明らかに日本の音で徹底させてしまわないと、かえってこのスピーカー本来の良さが生かされにくいことだ。しかしこの音は、ヴァイオリンひとつを例にとっても、E線やA線はいかにも本もののように鳴らす反面、D線やG線になるともうひとつ胴の響きや太さが出にくかったり、あるいはオーボエやクラリネットの微妙な色あいがややモノトーン的に聴こえたり、実のところ私には、もっと時間をかけて(これだけは例外的に二時間あまりかけて聴いたのだが)さらに聴き込んでみたい。そして多くのことを考えさせられるスピーカーだった。

ビクター FB-7

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 低音が非常に締っている、と思ったがよく聴くと重低音がまるで出てこない。できるだけ低音を補うために、床に直接置くのはむろんのこと、背面を壁にはほとんどぴったりつけて置いてみた。さらにアンプのトーンコントロールで重低音を増強してみる。バックロードホーンの低音の難しさを久々に思い知ったが、ただ、こうして低音を補強する使い方をしてもホーン特有の共鳴音がほとんど耳ざわりにならないほどよく抑えられている点はみごとだ。が、その「抑えた」印象は低域ばかりでなく全帯域をぎゅっと引締めたようで、聴感上のレンジが必ずしも広く思われない点とあいまって、総体にあまりにも音楽の情感を拒んだ素気ない作り方のように思える。以前、ビクター大和工場で聴いた試作品とはずいぶん違う印象で、前のはもっと開放的で、高音域にももっと鮮かさがあったが、その反面のややにぎやかというか派手な鳴り方をおさえたつもりなのか、しかしこれでは少しおさえすぎのようで、たとえばシェフィールドやオーディオラボのポップス、ジャズでも、リズムに乗りにくい硬い表情が先に立ちすぎる。能率がおそろしく高いのでアンプのパワーの点で楽なこと、また、国産のある種の製品にありがちの暗く、重く、粘った鳴り方の欠点がなく、さっぱりした鳴り方は良い面といえるが、それにしてももう少し表情を柔らかく、反応をシャープにしたい感じだ。

オンキョー Scepter 10

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 置き方あるいは置き場所にやや神経質な面のあるスピーカーだ。まず定石どおりにフロアーにじかに置いたが、壁からの距離をいろいろ調整しても、どうも低音のどろどろとこもる感じが抜けきらない。約7~8cmほどの低い台に乗せてみると、やや救われる方向が聴きとれたので、さらにその台とスピーカーとのあいだに、ゴム製のインシュレーターを挿入してみた。これで背面を壁から約30cmほど離して置いたところで、低音のこもりがかなり除かれた。レベルコントロールはオンキョー独特の3段切換で、単にトゥイーターのレベルを変えるだけでなくウーファーとの音のバランスのモードを三様にセレクトするという方式だが、いろいろのプログラムソースに対してはやはり中点(NORMAL)が妥当だった。低域が前述のようにやや重い傾向があるが、中~高域も(国産に概して多いが)クラシックのオーケストラでは、たぶん1~2kHzあたりと思うがやや硬い芯を感じる。F=ディスカウの声では、やはりホーン特有の音色が感じられる(サンスイG300もこの点は同じだった)。ホップス系では、パーカッションの音などもう少し音離れをよくしたいが、試みに前面の音響レンズを取り外してみると(指向性やバランスは多少くずれるが、そしてかえって低域の重さを意識してしまうが、高域に関しては)曇りがとれて抜けの良い鮮度の高い音が楽しめた。

サンスイ SP-G300

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 同じサンスイでも、SP-L100と逆に、試作当初の製品よりずっとこなれてきて、以前はもう少し派手な音、あるいはやや華やかすぎのところがあって、クラシックよりはポップス系に焦点を合わせたスピーカーのように感じていたのが、今回聴いた製品では、ベートーヴェンの序曲(概して国産のニガ手なソース)でも、意外といっては失礼かもしれないが一応納得のゆくバランスで鳴った。背面を壁にやや近づけぎみの方が低域端(ローエンド)の豊かさがよく出る。クラシックではトーンコントロールで更に低域をわずかに補った方がいいが、それでもソニー、ヤマハ、ダイヤトーン等では多少感じられた箱っぽい低音がG300にはあまりなく、明るく音離れのいい、よく弾む音で聴いていて楽しいし不自然さが少ない。さすがにブラームスのP協等でパワーを上げてくると、中~高域にやや硬さが出てくるし、F=ディスカウの声も必ずしも十分滑らかとはいい難いが、国産スピーカーの鳴らすクラシックとしてはかなり良い方だ。バルバラのシャンソンや、ジャズ、ポップスになると、がぜん精彩を発揮して、新鮮で音像がクリアーで、ハイパワーでもよく伸びて音がくずれない。アンプやカートリッジは、ハード型ドライ型を避けて、しっとりした音の、グレイドの高い製品を組み合わせたい。ゆかの上にじかに置いても音がこもったり音離れの悪さなどの欠点が出ないので、台は不要だ。

ソニー SS-G7

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 周波数レンジは十分に広い。帯域内での目立った凹凸もなくよくコントロールされている。指向性も悪くない。音の濁りや歪みは感じられない。大音量でもくずれたりせず、小音量でも細かな音がよく聴きとれる。……こうして耳をいわば測定器のように働かせて聴くかぎり、平均点以上の点数をとる。しかし少なくとも私には、音楽的にいって聴きどころのよく掴めないスピーカーだ。たとえばクラシック。ベートーヴェンの序曲やブラームスのP協では、ダイヤトーンほどではないにしても中~高域に硬質の芯があって、弦のしなやかなトゥッティが聴こえてこない。高域端に爽やかさがないのが一層その感じを強める。低音域の一部で、こもるといっては言いすぎだが箱の中で音の鳴る感じがわずかだがあって自然さを損ねる。F=ディスカウでは、MIDレベルをやや絞ると一応彼の声らしくなるが、バルバラのシャンソンでバックの伴奏とのあいだに奥行きが感じられず同一平面で鳴る感じが強い。ジャズやポップスでは、どうも音が濁って重い感じで、スウィングしない。聴き手の心が弾んでこない。4500Qのようなクセの強いカートリッジで強引にドライブしてやると、多少のおもしろみは出てくるが……。置き方はいろいろ試みたが、ごく低い(約8cm)台に乗せ、背面は壁から離す方がよかった。

ダイヤトーン DS-50CS

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 ダイヤトーンの音は、つねに中音域の密度に最も重点を置いた作り方が特徴だ。スピーカー作りの方法論的にいえば、中音域(ごく大まかにいえば500Hz近辺から2kHzあたりまで)に密度を感じさせるためには、いわゆる手抜きのない正攻法の設計が要求される。人間の耳に最も敏感な帯域であるだけに、張りすぎればやかましくなるし、おさえすぎると迫力や緻密さが失われる。プログラムソース別にみると、ポップス系にはやや張り気味に、そしてクラシック等にはやや抑え気味に作る方がいい。ダイヤトーンの音は、その意味でポップス系に焦点を合わせてあると聴きとれる。言いかえれば、オーケストラのトゥッティ等では、もう少し中域のかたまりを解きほぐして音の表情をやわらげ、空間のひろがりを出したいと感じる。またこれもDS40Cと共通のことだが、たとえばソロに対するバックが同じ平面状で鳴るように聴こえる傾向がある。つまり音像がよく張り出す反面、奥行きの表現に弱点がある。40Cよりも明らかにグレイドの高い音質だが、部分的には中域をもう少しおさえたいし(この点はレベルコントロールを一段絞ることでやや改善される)、低域端(ローエンド)でももう少し開放的な弾みが、そして高域端(ハイエンド)のもっとよく延びて繊細な感じが、それぞれ欲しい。置き方についてはフロアーに直接、そして背面を壁からやや離すのがよい。

ダイヤトーン DS-40C

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 このスピーカーにとくに向いているプログラムソースは、たとえばシェフィールドのダイレクトカッティング・レコード等の鳴らす一種鮮烈なポップス系の音楽だ。そして音量をあまり絞らずに、少なくとも平均85dB以上、できれば100dBぐらいの平均音量になるくらいのパワー(本誌試聴室での場合、おおよそ3ワットから30ワット以上)を放り込んで鳴らすと、ブラスの輝きや迫力、あるいはパーカッションの力強さや弾みがおもしろいように浮かび出て、聴き手を楽しませる。ところがクラシック系の音楽、あるいはポップス系でも、とくに弦楽器や女声あるいは木管のように、しなやかさ、しっとりした艶、あるいは暖かい息づかいなどを要求したい傾向の楽器を、音量を絞って楽しみたいという場合には、このスピーカーの本来内包している力の強さが逆にマイナスになりがちだ。もしもそういう音楽までこなそうとする場合には、中域の張ったカートリッジやアンプを避けて、できるだけ繊細な表情の出る組合せをくふうしたい。試みにトゥイーターのレベルを一段絞ってみたが、ウーファーの中高域の張り出すところが逆に強調されてつながりが悪くなる。むしろ一段上げてこの鮮明な迫力に徹してしまう方がおもしろいと感じた。フロアータイプなので台は不要。背面は壁からやや離す方がよかった。

テクニクス SB-5500

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 いろいろな台を試みたが、ゆかの上にそのまま置くのがいちばん良かった。フロアータイプなのだから当然と言われるかもしれないが、兄貴分のSB7000は、適当な台に乗せてやらないと低音がダブつく傾向がある。SB5500はその必要がなかったというわけ。ただ、背面は壁から適度に離して、できるだけ左右に大きくひらいて置く方が、このスピーカーの特長である、音像のひろがりと定位がいっそうよく出る。
 かなりウェットな感じの音に聴こえるが、それは、おそらく1~2kHzあたりの音の力がやや薄らいでいるせいかもしれない。そのもう少し上の中高音域では、逆にやや張り出し気味に聴こえるせいか、総体に線の細い、またプログラムソースによっては力の不足したややカン高い音で鳴ることがあるので、アンプやカートリッジでその面を補う組合せをくふうする必要がありそうだ。たとえばカートリッジでも、V15/IIIやXSV3000のように中音域の明るく張る音がいい。アンプはSQ38FD/IIはウェットになりすぎて、CA2000のやや素気ない音がかえってうまくゆく。どちらかというと、うまく鳴らすまでにやや時間のかかったスピーカーで、ということは、スピーカー自体が相当に個性の強い音色を持っているということになるのかもしれない。以前テストしたものの方がもう少しクセの少ない音がした。

オンキョー Scepter 10

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは幾分奥まったところからきこえてくる。
❷低音弦の動きにもうひとつきりっとしたところがほしい。
❸フラジオレットの特徴的な音色は示す。
❹ここでのピッチカートは幾分ふくれぎみだ。
❺たっぷりひびくが、ひびきに張りがほしい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は大きい。ブレンデルの音色は示しえている。
❷音色的な対比はついている。もう少しキメ細かでもいいだろう。
❸室内オーケストラのひびきとしては軽やかさが不足だ。
❹どうしたわけか多少きつめにひびく。
❺各楽器の音色はわかりやすく示してくれる。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像が大きく、息づかいを強調ぎみに示す。
❷接近感はあるが、表象が大きくなっている。
❸クラリネットの音色はいいが、とけあい方に問題がある。
❹はった声は、もう少しなめらかにひびいてほしい。
❺各楽器の特徴は示すものの、もう少しとけあってほしい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像は大きめである。そのために定位が感じとりにくい。
❷子音がたちにくいためか言葉の鮮明度が幾分不足している。
❸残響をひっぱりすぎているのか、細部をききとりにくい。
❹バリトン、バスが誇張されがちだ。
❺余韻を残しているが、必ずしも効果的とはいえない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶どちらかといえばポンという低い音の方がきわだってきこえる。
❷ひびきの後方へのひき方はうまくいっている。
❸ひびきが幾分湿りがちなのがおしい。
❹前後のへだたりはとれているが、ひろがりは感じにくい。
❺ピークでひびきにもう少し力がほしい。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのひびき方はよく感じとれる。
❷ギターの音像が大きめなため、せりだし方が感じとりにくい。
❸もう少しくっきり、輪郭さだかにひびいてもいいだろう。
❹幾分湿ったひびきになっているが、アクセントはつける。
❺ちょっとききとりにくい。他のひびきにうめこまれている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶暖色系の音のためか、シャープなひびきに不足ぎみだ。
❷サウンドの厚みは感じとれるものの、音像が大きい。
❸ハットシンバルのひびきは、もう少し乾いていた方がいい。
❹ドラムスはかなり大きく感じられる。
❺ヴォーカルがひっこみがちなのはなぜだろう。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像は大きい。スケール感は示すが、力強さがもうひとつだ。
❷指の動きをなまなましくきかせるが、幾分部分拡大的だ。
❸音の消え方は示す。そのためにスケール感が明らかだ。
❹こまかい音の動きに対しての反応は不十分といわざるをえない。
❺音色的には対比がついているが、音像的に問題がある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶左手からのドラムスのつっこみは重厚だ。
❷ブラスの切りこみははなやかだが、力強さがたりない。
❸極端なクローズアップが一応の効果をあげている。
❹音の見通しがよくないために、トランペットがいきない。
❺リズムがもう少しシャープに示されてもいいだろう。

座鬼太鼓座
❶尺八の像は大きく、しかもかなり前にでてくる。
❷音色的には、尺八の特徴をよく伝える。
❸これみよがしにではないが、そのひびきの存在を気づかせる。
❹スケールゆたかなひびきだが、力強さがほしい。
❺ききとれなくはないが、効果的とはいえない。

ヤマハ NS-L325

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶弦のピッチカートも木管楽器のフレーズも細めにひびく。
❷あいまいにはならないが、さらにすっきりしてもいいだろう。
❸フラジオレットの効果は示せている。
❹ピッチカートがふくらまないのはいい。主旋律のひびきも豊かだ。
❺クライマックスでは、迫力はあるものの、少しきつくなる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像はほどほど。ただひびきにもう少し力がほしい。
❷各楽器の音色は、無理なく、示すので、対比はついている。
❸室内オーケストラならではのひびきのさわやかさがある。
❹本来はなにげないフレーズだが、少しきわだたせすぎるようだ。
❺鮮色だが、ひびきの特徴をかなりクローズアップする。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶残響を適度にひろっているが、音像は小さい。
❷子音を強調ぎみに示す。接近感はあきらかだ。
❸クラリネットの音色をよく示すが、ひびきのとけあいはよくない。
❹はった声は、硬くなりがちで、耳ざわりになる。
❺一応きこえるが、エフェクティヴとはいいがたい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶定位はかならずしもすっきりとは示さない。音像は大きめだ。
❷残響をひろいすぎているので、鮮明とはいえない。
❸ひびきに敏捷さがたりず、幾分不鮮明になる。
❹もう少しすっきりきこえてもいいだろう。
❺一応のびてはいるが、すっきりした気配にとぼしい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色対比は充分だが、音場的には、ひろがりがとれない。
❷奥へのひきがかならずしも充分でない。
❸音は、重くなって、ひきずりがちのために、浮遊しない。
❹前後のへだたりは充分とはいえない。
❺しのびこみ方がしぜんでなく、ピークで刺激的になる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶透明感はたりない。ひろがりもとれない。
❷音像は大きく、はりだしてきこえる。
❸他の楽器のひひきにうめこまれがちだ。
❹一応の成果をあげる。かなりめだってひびくからだ。
❺ことさら耳をすまさなくてもきこえてくる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶きりっとひびかず、幾分かげりがちになる。
❷ひびきの厚みがでにくい。薄味なひびきでとどまる。
❸さわやかにひびくとはいいがたい。
❹乾いた音ではきこえるが、シャープさが不足している。
❺言葉はききとれるが、ひびきにさわやかさがたりない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶大きな箱の中でひかれているかのようにきこえる。
❷指の動きはききとれるが、特にあざやかとはいえない。
❸消え方は充分とはいいがたく、余韻はとぼしい。
❹力強さは感じられるが、こまかい音の動きが鮮明とはいえない。
❺音色の差はあきらかだが、音像の面で問題がある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶つっこみが弱い。切りこんでくるとはいいがたい。
❷ひびきの目がつみすぎているためか、本来の成果が示されない。
❸おしだすようにして前の方できこえる。
❹後方からはきこえるが、接近感は充分ではない。
❺力強くひびくが、切れ味するどいとはいえない。

座鬼太鼓座
❶一応の距離的なへだたりは感じとれる。
❷脂っほいひびきになってしまっている。
❸きこえなくはないが、かなり耳をすますことが必要だ。
❹力強さは感じられる。しかし大きさは感じとりにくい。
❺ききとれる。かなりめだってききとれる。

サンスイ SP-G300

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは明るくひびく。木管との音色対比も充分だ。
❷低音弦のひびきに多少の鈍さがあるものの、積極的だ。
❸第1ヴァイオリンによる特徴的な音色は示されている。
❹ヴァイオリンのたっぷりしたひびきがいい。
❺クライマックスで多少ひびきがかたくなる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は大きめで、ひびきのキメは粗い。
❷音色的な対比は示されるものの、ひびきがかさかさしている。
❸室内オーケストラのひびきの軽やかさが示されない。
❹第1ヴァイオリンによるフレーズが大味になっている。
❺音色の特徴を強調ぎみに示す傾向がある。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像が大きく、残響を強調する傾向がある。
❷接近感は示すものの、子音が強く、表情を大きくする。
❸クラリネットの音色は示すが、もう少しとけあってもいい。
❹声は全般的にかためだが、はった声は特にかたい。
❺オーケストラのひびきはもう少しとけあってきこえてほしい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像は大きい。メンバーの並び方を感じとりにくい。
❷声量をおとすと、さらに言葉のたち方がよわくなる。
❸残響をひきずりすぎるので、言葉の細部がききとりにくい。
❹各声部のからみが明瞭になるためには、キメこまかさが必要だ。
❺ぽつんときれていないが、効果的ではない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、音場的対比は充分にとれている。
❷シンプルなメロディーの後へのひき方は好ましい。
❸ひびきに浮遊感はあるが、多少ばらばらになりがちだ。
❹前後のへだたりはかなりたっぷりとれている。
❺ピークでは幾分ごりおし風になって、ひびきが刺激的だ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひびきの後へのひき方はいいが、透明感に不足する。
❷ギターの音像がかなり大きいため、せりだす気配が希薄だ。
❸このひびきは力をもってのびないといけないが、それが不足している。
❹くっきりと浮びあがり、効果をあげる。
❺きこえるが、もう少しキメのこまかさがほしい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音が金属的になりすぎている。
❷サウンドの厚みはでるが、ニュアンスが伝わりにくい。
❸ハットシンバルのひびきの特徴は一応でている。
❹ドラムスはかなり大きく感じられる。シャープさがたりない。
❺バックコーラスはひっこみがちだ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像は大きい。スケール感は示すが、力強さはもう一歩だ。
❷部分拡大的に指の動きをきかせる。
❸音の消え方の示し方は、かなり積極的だ。
❹ひびきに本来の力がないためか、こまかい音の動きがわかりにくい。
❺音像的、音量的に差がありすぎる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスのひびきに鋭さがほしい。
❷派手な音色でブラスがつっこんでくる。
❸この場のフルートのひびき方を誇張ぎみに示す。
❹トランペットの接近感は一応示しえている。
❺ふやけていないが、もうひとつめりはりがつかない。

座鬼太鼓座
❶尺八が大きく感じられる。したがって距離感がとれない。
❷尺八独自のひびきが明らかになりにくい。
❸あやふやにではなく、力をもってきこえる。
❹たっぷりとひびき、消え方も示すが、力強さはいま一歩だ。
❺一応きこえて、雰囲気をもたらしえている。