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ビクター SX-11

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートの音にかすみがかかっている。音色対比はついている。
❷あいまいにらなず、奥の方にひけてもいるが、鮮明さははもう一歩だ。
❸フラジオレットの効果は、他のひびきにうめこまれて、はっきりしない。
❹ピッチカートのひびきが過度にふくらみすぎている。
❺たっぷりと腰のすわったひびきだが、もう少し鮮明でもいい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像はかなり大きい。表情を強調しがちだ。
❷ファゴットの響きがあいまいになる傾向がある。
❸総体的に響きが重くなりすぎて、「室内オーケストラ」らしさが不足だ。
❹表情がどうしてもわざとらしくなってしまう。
❺くっきり示しはするが、とってつけたようなところがある。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶響きは風呂場の中でのようにきこえる。
❷接近感をいくぶん誇張気味に示す。わざとらしい。
❸声が前にたって、オーケストラの響きがひっこみすぎる。
❹はった声が、どうしてもメタリックなものとなる。
❺きこえはするものの、音色的に多少異質だ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶右からの響きがふくらみ、左がひっこむ。
❷声量の差がもう少しはっきり示されてもいいだろう。
❸残響をひきずりすぎるためか、言葉がたちにくい。
❹響きそのものに、もう少し軽みがほしい。
❺のびることはのびるが、とってつけたようなところがある。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色対比は、かなりくっきり、わかりやすくつく。
❷後方からくるが、響きは重く、しめりがちである。
❸響きは、浮遊せずに、しめりがちである。
❹音色的に、いくぶんかげりがちで、はれやかさが不足している。
❺力づくで前にでてくる。ピークは刺激的だ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶広々とした気配が不足している。透明感もたりない。
❷くまどりがきつすぎないか。せりだし方は積極的だが。
❸響きがまとまりすぎていて、広がりがたりない。
❹きこえるが、誇張感がないとはいいがたい。
❺他の響きの中にうめこまれがちで、効果が示されにくい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ベースの響きが強調されすぎているというべきだろう。
❷響きの厚みは示されるものの、イーグルスのサウンドとしては異色だ。
❸響きは、乾ききらず、重く、力をもっている。
❹ひきずりがちだ。シャープな反応がほしい。
❺言葉がたちにくい。いくぶんごりおし気味になる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力はあるものの、迫力を誇張気味である。
❷この部分の響きの特徴は、必ずしもきわだたせない。
❸響きの骨だけを示しているとでもいうべきか。
❹一応の動きは示すものの、反応はシャープとはいえない。
❺音像的に差がありすぎて、多少不自然だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶重く、切れが鈍いところがあり、はえない。
❷力は十全に示すものの、音の見通しがつきにくい。
❸はなはだ積極的にはりだすものの、効果的とはいえない。
❹へだたりがもう少し感じられればいいのだろうか。
❺リズムが重く、印象として鈍いものとなる。

座鬼太鼓座
❶かなり前の方にでてきて、距離感がほとんどない。
❷尺八らしい響きの特徴がでにくい。
❸ごくかすかにしかきこえず、ものたりない。
❹力はあるものの、響きに広がりが不足している。
❺ききとれるが、対比感は稀薄というべきだろう。

オットー SX-P1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 まず大掴みに言って、国産スピーカーの中では音のバランスはかなり良い方に属する。概して中〜高域を張りぎみに作る傾向のある国産の中で、たとえばオーケストラのトゥッティでも弦が金属的になるようなことがなく声部のバランスも悪くないし、キングズ・シンガーズのコーラスの、Fa、ra、ra……の声も、ハスキイになったり耳ざわりにやかましく張ったりするようなことがない。そういう意味で、かなり慎重に時間をかけて練り上げられた、真面目な作り方のスピーカーであることはわかる。ただ、音域全体に、ことに中域以下の低域にかけて、かなり重さが感じられ、たとえばベースの音も、ブンとかドンとかいうよなにことばで形容できるような鳴り方をする。この鈍さを除きたいと思って、置き方をいろいろくふうしてみた。興味あることに、ふつうはブロックなどの台に乗せる方が音の軽さが出てくる筈だが、このスピーカーはそうするとかえって、低域のこもりが耳につくようになる。床に直接のまま、背面を壁からかなり離し、トリオLS707のときのように壁面にウレタンフォームをいっぱいに置いて部屋をデッドに調整する方がいいことがわかった。また、カートリッジは455Eよりは4000DIII、アンプもCA2000の傾向の方が、音の重さが救われて、反応のよさや明るさがいくぶん増すと感じられた。

マランツ Model 920

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 音は直接に関係のないことだが、このスピーカーの形は独特で、しいていえばブックシェルフ型のキャビネットとそれに最適のスタンドとを、はじめから一体に設計したともいえるデザインだ。市販されているブックシェルフ型のスピーカーのほとんど90%以上は、そのまま床に置いたのではどうにも音のバランスをくずしてしまう。そのためにユーザーがそれぞれにくふうしてスタンドを調達しなくてはならない現状で、このマランツの方法はひとつの興味ある解決策として拍手を送る。ところでかんじんの音質だが、総体に明るく、音離れがよく(音がスピーカーの箱のところに張りついたような感じがしないで、鳴った音が箱からパッと離れてこちらにやってくる)、そしていくらか乾いた傾向の鳴り方をする。その意味で明らかにアメリカの西海岸のスピーカーに共通の性格を持っている。アコースティカル・プラグという名で、バスレフの開孔部をふさいでいるスポンジを引き抜くと、低域がさらに明るくよく弾むが、部屋の特性によってはいくらかラフな感じになり、孔を閉じるといくらか重い低音になる。中〜高域の質感はこのクラスとしてはもう一息緻密さが欲しいが、、バランス的には優れている。壁からやや離して設置したが、その状態で、4000DIIIやCA2000のような明るい傾向の組合せがこのスピーカーをよく生かした。

サンスイ SP-G200

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 トリオのLS707もそうだったが、このスピーカーも、どちらかといえばリスニングルームがデッドなほうがいい。また、これはキャスターのついたフロアータイプだが、いろいろと設置条件をかえてみると、20センチほどの低めの台に乗せる方が、中域から低域の音離れがよくなるように思った。キャスターのままでは、中〜低域の固まりをもっと解きほぐしたくなる。ただ、ホーントゥイーターの2シェイのためにハイエンドをあまり伸ばしていないせいか、右の置き方をすると、ほんらいの中音域重視のいわゆるカマボコ型的な特性がいっそう強調されるので、低域と高域の両端を、それぞれトーンコントロールやイクォライザーで多少補正する方が楽しめる音になる。ヴォーカルで男声の場合には発声が明瞭で音が良く張り出すが、バルバラのような女声を中ぐらいの音量で鳴らすと、ウーファーとトゥイーターのつながりのあたりにもう少し密度が欲しいような気もする。ただし音量を上げてゆくとむしろ中域(おそらくトゥイーターのカットオフ附近)は張り出して、コントラストの強い傾向の音になる。アンプ、カートリッジは、CA2000+4000DIIIのような明るい傾向が合い、さらりとした適度な華やかさが出る。455EやKA7300Dのような系統は、スピーカーの持つ性格をおさえすぎるようだ。

パイオニア Exclusive Model 3301

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 たいへん独特な形をしたスピーカーで、総体にややハードな音色だが、バランスはかなりいいし、べとつきのない音離れの良い明るい鳴り方はひとつの特徴だ。専用(別売)のスタンドに乗せて聴いたが、おそらくそのせいばかりではなく本質的に、軽く反応のよい低音は、概してもたつくことの多い国産の低音の中では特筆ものだ。重低音の量感がもう少し欲しく思われて、背面を壁に近づけてみたが、量感的にはもうひと息というところ。ただそうしても低音が重くなったり粘ったりしない点は良い。クラシックのオーケストラや弦合奏でも、いくらか硬質な、そして中〜高域にエネルギーの片寄る傾向がいくらかあるものの、一応不自然でない程度までよくコントロールされている。音量を上げても音のくずれがなく、よくパワーが入るし音のバランスもくずれない。ただ、ヴォーカルを聴くと、中〜高域に一ヵ所、ヒス性のイズをやや強調するところがあって、子音に火吹竹を吹くようなクセがわずかにつく。MIDのレベルを絞るとそれがなくなることから中域のユニットの弱点だと思うが、しかしMIDレベルを0から−1でも絞るとバランスが明らかにくずれるので絞れない。この辺にもうひと息、改善の余地がありそうで、ぜひそうしてほしい佳作だと思う。アンプやカートリッジをあまり選り好みせず、それぞれの音色をよく鳴らし分けた。

ヤマハ FX-1

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶すっきり、さわやかに提示する。ひびきとしてのまとまりはいい。
❷低音弦のスタッカートが過度にせりださないのがいい。
❸誇張感がまるでなく、鮮明にひびきの特徴を示して、見事だ。
❹第1ヴァイオリンのフレーズのキメこまかさはすばらしい。
❺しなやかなひびきで、力をもって充分にもりあげる。力強く鮮明だ。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノは、力をもって、ゆたかにひびく。音像もほどほどだ。
❷さわやかなひびきでそれぞれ音色を鮮明に示す。
❸ひびきが大きくふくらみすぎないのはいい。
❹ここで感じられるキメ細かさはさわやかだ。
❺とりわけフルートの音色はこのましい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶すっきりした無駄のない声の提示は大変になまなましい。
❷接近感の示し方にも無理や誇張がない。
❸声とオーケストラの位置関係、音色対比等、見事だ。
❹声のなまなましさは特徴的だが、はった声は幾分硬くなる。
❺オーケストラと声のバランスはいとも自然だ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶声のまろやかさをたもちつつ、鮮明だ。
❷声量の変化を不自然にならずに示してこのましい。
❸余分なひびきをひきずっていないので、言葉の細部をくっきり示す。
❹各声部のからみあいは、あいまいになることなく、明瞭に示されている。
❺自然なのびやかさがあり、誇張感は皆無だ。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶透明感のあるひびきで、すっきりと対比される。
❷奥の方からのシンセサイザーのひびきは、実にすっきりしている。
❸浮遊感の点で申し分ない。飛びかい方もまず十全だ。
❹前後のへだたりを充分に示し、広々とした空間を提示する。
❺ピークへのもりあげは確実で、圧倒的な迫力を感じさせる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶充分に透明なひびきが前後左右にすっきりとひろがり、すばらしい。
❷❶との対比の上でのこのひびきの特徴を十全に示している。
❸くっきり、輪郭明らかに提示して、効果的だ。
❹透明度の高いひびきで、輝きをすっきり示す。
❺ギターのはりだし方も自然で、対比の面でも有効だ。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶さわやかなサウンドは、ここできける音楽によくあっている。
❷ひびきがいささかも重くなることがなく、充分に厚みを示す。
❸ハットシンバルのひびきのすっきりしたぬけはすばらしい。
❹ドラムスの切れ味鋭いつっこみがみごとだ。
❺バック・コーラスの声の重なり具合を鮮明に示す。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶くっきり提示され、ひびきがふくらまないのがいい。
❷ひびきの中味がぎっしりつまっているので、なまなましい。
❸消える音を誇張はしないが、すっきり示している。
❹細かい音の動きに対しての反応は、実にシャープだ。
❺さまざまな面での対比ではほとんど不自然さは感じられない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ひびきにあいまいさがなくくっきりしているのがいい。
❷ブラスのひびきは、それ本来の輝きをもって、つっこんでくる。
❸拡散しすぎず、積極的に前にでてきて、効果的だ。
❹後へのひびきは充分にとれていて、広々と感じられる。
❺ひびきが明るく、はずみがあるので、くっきりめりはりがつく。

座鬼太鼓座
❶充分に奥の方にひけていて、しかも鮮明だ。
❷音色的に問題がないばかりではなく、吹き方までわかるかのようだ。
❸必要充分なきこえ方をして、まずいうことはない。
❹ことさらスケール感を強調はしないが、迫力にとむ。
❺ふちをたたいていると思える音の性格をよく伝えている。

オンキョー Scepter 500

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶あかるくすっきりとしたピッチカートだが、もう少し力がほしい。
❷くまどりたしかな低音弦のスタッカートで、強調感のないのがいい。
❸音色の特徴をわざとらしくなく示してさわやかだ。
❹第1ヴァイオリンのびびきはキメこまやかだ。
❺しなやかさをたもったまま迫力のあるクライマックスをきずく。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は、いくぶん大きめだ。ピアノならではの力を示してほしい。
❷音色的な対比をキメ細かく、しなやかに示す。
❸「室内オーケストラ」らしいひびきのまとまりがあるとなおいい。
❹この第1ヴァイオリンのひびきへの対応はみごとだ。
❺木管楽器の音色を細やかに、さわやかに示す。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声のキメ細かいのはいいが、音像は大きめだ。
❷かなりオンでとっている感じがする。子音がめだちがちだ。
❸声とクラリネットのコントラストは、自然でいい。
❹はった声もまろやかさをたもってこのましい。
❺三者三様の声とオーケストラとのバランスがいい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶ひびきに過度の肉がついていないので、凹凸はない。
❷声量をおとしたからといって、言葉の細部があいまいになっていない。
❸ひびきに軽やかさがたもたれているので、さわやかだ。
❹低い方のパートがいくぶんふくらみがちだが、明瞭さはたもたれている。
❺「ラー」は、自然にのびて、しなやかでいい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンという高い音の硬質な性格が、さらに徹底して示されるべきだろう。
❷シンセサイザーによるひびきは、いくぶん湿りけをおびてきこえる。
❸充分にひびきが浮きあがっているとはいいがたい。
❹前後のへだたりはとれ、個々のひびきはかなり質的に高い。
❺キメ細かさ優先だが、ピークでは迫力を示す。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひびきのひろがり方は、実に微妙だ。キメもこまかい。
❷もう少し積極的にはりだしてきてもいいように思う。
❸まろやかなひびきで、輪郭をあきらかにする。
❹キメ細かなひびきにより、輝きを明らかにする。
❺ことさら輝きを主張することはないが、うめこまれてはいない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶低い方のひびきがふくらみぎみだ。もう少しこりっとしてもいいだろう。
❷厚みを示すより、ひびきは横にひろがりがちだ。
❸ひびきの乾き方ということでは、もう一歩だ。
❹ドラムスは、重めのひびきにより、切れが鈍い。
❺声は、総じて、楽器のひびきにおされがちだ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像は大きく、ひびきの中味が空洞化しているかのようにきこえる。
❷オンでとったことを強調するが、なまなましさにはつながりにくい。
❸消える音の尻尾を拡大して示す傾向がある。
❹細かい音に対しての反応ということでは、いま一歩だ。
❺両ベーシストの、音色的対比はよく示すが、音像的対比では不充分だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶切れ味鈍く、アタックの強さが示しきれていない。
❷ブラスのつっこみ方がやはり甘くなる。
❸フルートによるひびきは、拡散しがちだ。
❹奥行きはとれているが、ひびきはかげりがちだ。
❺充分な反応は示すが、リズムの刻みに鋭さがほしい。

座鬼太鼓座
❶尺八までの距離感は充分に提示できている。
❷音色的にも尺八の尺八ならではの特徴を明らかにしている。
❸輪郭をぼかすことなく、このひびきをききとらせる。
❹スケールゆたかにきかせはするが、消える音を明示するとはいいがたい。
❺ここでのひびきの硬質な性格をよく示している。

ビクター S-3000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 スタジオモニター用として徹底的にスタジオマンの意見がとり入れられているということで、とうぜん、一般民生用とは多少異なった作り方が随所にみられる。まず総体に、かなりハードな音色だ。中音域にエネルギーを凝縮させたようなバランスで、おそろしく明瞭度が高い。歪を極力おさえたというが、そのせいか、音のクリアーなことは相当なもので、しかもそれがかなりのハイパワーでも一貫してくずれをみせない点は見事なものだ。おそらくディスク再生よりも、こういう性格はテープの再生ないしはスタジオモニターのようにマイクからの直接の再生の際に、より一層の偉力を発揮するのにちがいない。こういうスピーカーを家庭に持ちこんでディスク再生する場合を想定して、置き方や組合せの可能性をいろいろ試みた。別売のスタンドがアルで一応それに乗せ、背面は壁にかなり近づける。低音を引締めてあるため、こうしても音がダブついたりしない。レベルコントロールは、ノーマルよりも-3ぐらいまで絞った方がいい。部屋はやデッドぎみに調整した。カートリッジもたとえばピカリング4500Qのように、ややハイ上りの音で、アンプもCA2000の系統で徹底させてしまう方が、メリハリの利いたくっきり型、鮮明型として、つまりなまじ変な情緒を求めない方が統一がとれると感じた。

ソニー SS-G7

ソニーのスピーカーシステムSS-G7の広告
(スイングジャーナル 1977年12月号掲載)

SS-G7

既製スピーカーシステムをマルチアンプでドライブする(テクニクス SB-10000)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 テクニクスのSB10000は、現在までに発売されたフロアー型システムのなかでは、国内製品でもっとも大型なシステムである。低音用に46cm型ウーファーを採用し、中音と高音に開口角度の広いラジアルホーンを採用したホーン型ユニットを使用している。
 同社からは低音用の46cm型ウーファーとしては、すでにEAS46PL80NAが発売されているが、この単売ユニットとSB10000に採用されたユニットの関係は不明である。しかし、世界的にみても46cm型ウーファーは、製品数も少なく、国内製品で現在発売されているのはテクニクスだけということになる。
 このシステムの中音用、高音用ユニットは、ラジアルホーンとドライバーユニットを結合する部分のスロートが極めて短縮された、特長のある方式を採用しているのが従来に見られなかった方法である。中音用のドライバーユニット部分のダイアフラムは、直径100mmと非常に大口径型で、受持帯域の下側、つまり中音から低音にクロスオーバーするあたりのエネルギーが、より直径の小さいダイアフラムより一段と強く、ウーファーとのつながりが大変にスムーズである。
 高音用は、中音用が磁気回路の後部にダイアフラムをセットした、いわゆるリアドライブ方式であることにくらべ、一般的にトゥイーターに採用されることが多い、磁気回路の前部にダイアフラムをセットしたタイプだ。このダイアフラムは直径35mmで、材料にはチタン箔の両面に軽量で非常に硬度が高いボロンを真空蒸着させた新材料を使っているが、これは世界最初の試みである。
 ウーファー用のエンクロージュアは、バッフル盤の両側にスリット状のポートをもつバスレフ型である。この上に、中音用と高音用のユニットが前後方向に、リニアフェイズ方式に従って、スタガーしてレイアウトされている。
 このシステムは、LC型ネットワークにも位相補正方式が採用されているとのことであるから、マルチアンプでドライブするプランは単純に各ユニットを直接パワーアンプにつないでドライブして、LC型ネットワーク以上の音質が得られるかどうかがポイントになる。
 しかし、現実的に、マルチアンプドライブ化したシステムを調整する場合には、各ユニットの位置的な関係を移動できるタイプでは、相対的なユニット一のコントロールで、最良の音に追込むプロセスは、いわば、マルチアンプの実施面での定石である。したがって、SB10000でも、少なくとも、聴取位置を原点として聴きながら、中音と高音ユニットを前後させてベストポイントを探すべきであろう。アンプには、一連のテクニクス製品を選んだが、低音用には、左右それぞれにモノ接続としたパワーアンプを使用することにしたい。このシリーズのアンプは、性能、価格などからマルチアンプ方式には好適な製品だ。

●スピーカーシステム
 テクニクス SB-10000
●コントロールアンプ
 テクニクス SU-9070II (70AII)
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 テクニクス SH-9015C (15C)
●パワーアンプ
 低音域:テクニクス SE-9060II (60AII)×2
 中音域:テクニクス SE-9060II (60AII)
 高音域:テクニクス SE-9060II (60AII)

ソニー SS-G7

ソニーのスピーカーシステムSS-G7の広告
(スイングジャーナル 1977年10月号掲載)

SS-G7

Lo-D HS-530

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは湿りがちだが、木管のまろやかさはいい。
❷奥の方にひろがるが、スタッカートのシャープさはたりない。
❸フラジオレットの特徴は一応はこのましく示されている。
❹第1ヴァイオリンのひびきはかなり魅力的。
❺クライマックスでひびきが硬くなるが、つぶれない。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は幾分大きめだが、音色的にはこのましい。
❷音色的な対比はついているものの、もう少しすっきりしてもいい。
❸軽やかさは不足ぎみ。こまやかな反応とはいいがたい。
❹ヴァイオリンの音色は、硬くならずこのましい。
❺音色的には、音像が大きくなりがちだ。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声にまろやかさがある。近づいてくる感じもつかめる。
❷声についている残響が強調される傾向がある。
❸クラリネットの音色も、オーケストラと声のコントラストも良。
❹はった声が硬くなっている。ひびきにのびやかさが不足のためか。
❺オーケストラの各楽器のきこえ方に無理がない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶メンバーの並び方は、ほとんどわからない。
❷声に残響がつきすぎているので、言葉はかなり不鮮明だ。
❸子音のたち方が弱いために、言葉がききとりにくい。
❹ひびきに軽みがないので、各声部の動きはききとりにくい。
❺充分に残響をともなって、まろやかだ。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的なコントラストはついている。奥ゆきもとれている。
❷クレッシェンドは自然だが、透明感に不足している。
❸ひびきに重さがあり、そのために浮遊感は感じとりにくい。
❹一応のへだたりは感じさせるが、ひろびろとはしない。
❺ふくれあがり方は自然だが、ピークで金属的な音になる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶なめらかにひびくところはいいが、ひろがりはたりない。
❷ギターの音像がふくれがちだ。せりだしてくるのはわかる。
❸ひびきの特徴をきわだたせないために、アクセントがつかない。
❹きこえるが、他のひびきの中にうめこまれがちだ。
❺ききとりにくい。なめらかさが優勢のためか。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶とげとげしないのはいいが、もう少しシャープでもいいだろう。
❷厚みは感じとれる。ベースのひびき方はこのましい。
❸乾いているとはいいがたいが、一応の成果はおさめている。
❹つっこみの鋭さは示す。ひきずってはいない。声も良好だ。
❺言葉のたち方もよく、バックコーラスの効果もでている。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力感があり、スケール感も、十全とはいえぬが、まずまずだ。
❷鮮明にききとれる。なまなましさもある。
❸誇張駆んなく消え方を示しているところがいい。
❹こまかい動きが、ほんの少しあいまいになる。
❺音量的にペデルセンのものの方が大きいようにきこえる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶シャープとはいいがたいが、一応の効果はあげる。
❷もう少し鋭くてもいい。力は感じさせる。
❸音像的に大きくなりすぎているので、おしつけがましくなる。
❹距離感はある。接近も感じとれるが、もうひとつすっきりしない。
❺幾分ふくれぎみのため、メリハリがつきにくい。

座鬼太鼓座
❶尺八の比較的近くでひびいているように感じられる。
❷ひびきは、幾分脂っぽく、尺八らしさが希薄だ。
❸ききとれるが、かならずしも充分ではない。
❹スケール感がたりない。力強さは感じさせるが、消え方はきこえない。
❺ききとれなくはないが、きわめて弱い。

パイオニア CS-955

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきに力があり、木管は積極的に示される。
❷低音弦のスタッカートにはたっぷりと力がついている。
❸フラジオレットの音色を積極的に示す。
❹主旋律は、たっぷりと、表情ゆたかにひびく。
❺クライマックスでの堂々たるもりあがりはなかなかのものだ。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は大きくない。ひびきの点でも確実さがある。
❷音色の対比をしなやかに示している。
❸室内オーケストラのキメ細かいひびきへの対応も充分だ。
❹第1ヴァイオリンのフレーズは、誇張感なく提示できている。
❺個々のひびきの特徴は描きだし方に無理がない。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶セリフの声にまろやかさが感じられていい。
❷接近感をゆとりをもって示す。表現に余裕がある。
❸声とオーケストラのからみ方が自然でいい。
❹はった声でもまろやかさを保ち、声の艶を失わない。
❺とけあい方がよく、しかも各々を鮮明に示す。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶定位は、鮮明とはいえないが、一応ききとれる。
❷前半と後半とで、鮮明さにおいて、さほど差がない。
❸残響はむしろ多めだが、細部も一応ききとれる。
❹横へのひろがりが充分なので、各声部のからみも明瞭だ。
❺無理なく、しなやかに、ひびきののびているのがいい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的対比は充分に示されていて効果的だ。
❷後方でのシンプルなメロディは、ひろがりを示す。
❸暖色系のひびきながら、浮遊感は獲得できている。
❹ひびきに自在さがあり、提示される空間が広々としている。
❺ひびきは、大きくひろがり、圧倒的な力でせめてくる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶奥の方でのひびきのひろがりは充分だ。
❷ギターの音像は大きいが、ここでの効果は明らかにしている。
❸ほどほどのひびき方だが、まずは充分というべきだろう。
❹すっきりときこえるが、明度の点でいま一歩だ。
❺一応きこえるが、必ずしも効果的とはいえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶たっぷりとひびく。もう少し硬度があってもいい。
❷サウンドの厚みとひろがりをたっぷりと示す。
❸ハットシンバルのひびきは、かなりひろがってきこえる。
❹ドラムスは大きくひびくが、鋭さもある。
❺声とほかの楽器とのバランスも充分だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像は大きいが、充分に力強いので、はえる。
❷指の動きは、鮮明に示すが、部分拡大にはなっていない。
❸消えていく音は、スケールゆたかな再生に有効な働きをしている。
❹力強く、しかもこまかい音の動きにも対応できている。
❺音像的な対比の点で、多少ものたりなさがなくもない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスは、重く、迫力充分で、効果的だ。
❷ブラスのつっこみは、力があり、輝きもある。
❸申し分なく前方にはりだして効果をあげる。
❹トランペットの後方へのひき方も示せている。
❺リズムは幾分重めに感じられるが、めりはりはつけている。

座鬼太鼓座
❶尺八は、大きく、前の方できこえる。
❷ひびきとしては、脂がのりすぎている。
❸かすかな音が、あいまいにならず、きこえる。
❹迫力、音の消え方、両者において、かなり好ましい。
❺きこえて、ひろがりを暗示しえている。

ヤマハ NS-1000M

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは力があっていきている。木管との対比も充分だ。
❷スタッカートはくっきりひびいて、ひろがりを感じさせる。
❸特徴的なひびきをわざとらしくならずによく示す。
❹第1ヴァイオリンによる旋律がたっぷりひびく。
❺クライマックスでのまとまりがいい。一応の迫力もある。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は中くらいだ。ピアノの音に力があるのがいい。
❷音色的な対比ができている。ひびきのとけあい方もいい。
❸室内オーケストラのこまやかなあじわいが感じとりにくい。
❹模し少し柔らかで、しなやかであってもいいだろう。
❺個々の楽器のキャラクターはよく示す。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像は大きめで、息づかいなどを誇張する。
❷接近感は示すがセリフの声のなまなましさは不足している。
❸楽器の音色を示しはするが充分とけあっているとはいいがたい。
❹はった声は、ききにくいという程ではないが、かたい。
❺ひびきにコントラストをつけすぎる。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像はかなり大きく、バリトンやバスが強調される。
❷ひびきに軽みがなく、敏捷さに欠けるため、不鮮明になりやすい。
❸残響をひっぱってきすぎるので、言葉の細部はききとりにくい。
❹各声部のバランスが必ずしもよくはないので、明瞭さがたりない。
❺余韻をきかせはするが、響きが重いので効果はでない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的にも音場的にもコントラストがついている。
❷後方からのひびきは、力をもってクレッシェンドする。
❸音のとびかいは感じられるが、ひびきがばらばらになっている。
❹前後のへだたりは示されるが、ひろがりは感じとりにくい。
❺ピークでかたくなる。力があるのはいいが、おしだしすぎか。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でひろがるが、ひびきに透明感がとぼしい。
❷ギターの音像は大きめである。せりだし方がつかみにくい。
❸このひびき本来の効果をうみだしえない。
❹このひびきは、金属的になって強調される。
❺ききとれることはききとれるが、効果的とはいえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきの特徴をきわだたせる。
❷サウンドの厚みを示して、効果的である。
❸ハットシンバルの音はさらに乾いてきこえてもいいだろう。
❹ドラムスは力はあるが、鋭くはない。
❺声はごりおし風に前にでる。重なった時にまろやかさがほしい。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像はかなり大きく、部分拡大的なひびきになる。
❷指の動きはききとれるが、誇張感がある。
❸音の消え方を示すものの、不自然さがある。
❹力強さは示すが、こまかい音の反応は鈍い。
❺サム・ジョーンズの音像が極端に小さく感じられる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスのひびきは、重く、アタックの鋭さがでない。
❷ブラスは力をもってつっこんでくるが、輝きは不足ぎみだ。
❸フルートは大きくふくらんで、せりだす。
❹音の見通しがよくないので、トランペットの効果はいきない。
❺ふやけてはいないが、切れが鈍い。

座鬼太鼓座
❶かなり近くできこえて、距離感がでない。
❷ひびきに脂がのりすぎていて、尺八らしさがとぼしい。
❸かなりくっきり、力をもってきこえてくる。
❹力は感じさせるが、消え方をとらえているとはいいがたい。
❺きこえるものの、雰囲気を高めてはいない。

ダイヤトーン DS-50CS

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートはまろやかにひびくが、前にでる。
❷奥ゆきがとれていてひろがる。スタッカートに力がほしい。
❸フラジオレットの特徴はよく示されている。
❹多少ふくれぎみだが、切れはよい。
❺クライマックスでかたくならないよさがある。迫力を示す。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像は大きめで、たっぷりひびくが、定位はいい。
❷音色的な対比は充分についている。
❸もう少しすっきりひびいてもいいだろうが、こまやかさがある。
❹このフレーズの特徴は、充分にいきている。音色は暖色系だ。
❺各楽器の特徴は、キメこまかに示される。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声にまろやかさがあり、息づかいなども自然に感じられる。
❷接近感を無理なく示し、強調感がない。音像はいくぶん大きい。
❸クラリネットの音色はよく伝える。声とのバランスもいい。
❹はった声もかたくならず、なまなましさを失わない。
❺各楽器のひびきを、ほどよく、自然にきかせる。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像が大きめのため、定位はよくない。
❷声量をおとすと、言葉は不鮮明になる傾向がある。
❸残響をひっぱるため、言葉の細部はききとりにくい。
❹バリトンが強調されがちなため不鮮明になりがちだ。
❺一応の余韻は伝えるが、効果的とはいえない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、音像的対比は充分について、効果的である。
❷クレッシェンドは、無理なく示される。
❸ひびきに浮遊感があり、重くひきずらない。
❹前後のへだたりが充分に示されて、ひろびろと感じられる。
❺幾分ピークでひびきがかたくなるが、一応の迫力を示す。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひびきが暖色系のため、透明感が幾分うすれる。
❷ギターの音像が大きめのため、せりだしが感じとりにくい。
❸軽く、浮いてひびく。充分な効果をあげられない。
❹ひびきに輝きがなく、他のひびきにうめこまれがちだ。
❺耳をかたむけて、どうやらきける程度だ。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきが幾分甘くなっている。
❷サウンドの厚みはでているが、さらにくっきり示されてもいい。
❸ハットシンバルのひびきが幾分湿っている。
❹ドラムスの音像が大きい。声はまずまずた。
❺バックコーラスの効果はでているが、言葉はたちにくい。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶ペデルセンのベースがエネルギー充分にひびく。
❷指の動きを明らかにし、オンでとったよさを示す。
❸音が尾をひいて消えていく感じを一応は伝える。
❹こまかい音の動きに対しての対応は充分とはいえない。
❺音像的な面でのサム・ジョーンズとの対比が不自然だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスは、重くひびいて、アタックの鋭さはない。
❷ブラスは、本来の輝きに不足しているものの、効果はあげる。
❸フルートは、前にせりだしてきて、有効な働きをする。
❹全体に音像が大きめなので、音の見通しがよくない。
❺幾分ふやけぎみだ。もう少しすっりしてもいい。

座鬼太鼓座
❶尺八との距離感がさほどついているとはいいがたい。
❷尺八の響きが、幾分脂っぽくなっている。
❸あいまいにならず、かなりくっきりききとれる。
❹スケール感ゆたかに示される。エネルギーも感じられる。
❺大太鼓の音の消え方とのバランスがよく、雰囲気をだしている。

デンオン SC-107

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートが軽くひびく。木管も音色の特徴を示すが、軽い。
❷スタッカートは鮮明だが、ひびきにもう少し力がほしい。
❸フラジオレットの音色はわかるが、効果的とはいえない。
❹きれいにまとまるが、フランスのオーケストラのようにひびく。
❺迫力はとぼしいが、バランスよくまとまっている。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像が小さめで、オーケストラとのバランスがいい。
❷音色対比は充分にできている。それぞれの特徴をよく示す。
❸ひひきにさわやかさがあり、こまやかなあじわいを示す。
❹このフレーズの特徴はよく示していて、このましい。
❺木管楽器の特徴は示すが、ピアノの音は軽くなりすぎている。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像がふくれすぎないよさがある。すっきりした定位もいい。
❷接近感を示す。声もなまなましい。
❸クラリネットの音色もよく示されている。
❹はった声も硬くなることなく、オーケストラとのバランスもいい。
❺それぞれの楽器が、きれいに、くっきりとうかびあがる。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶すっきりした音できこえるので、定位ははなはだいい。
❷声量をおとしても、言葉は不鮮明にならない。
❸残響をほどよくおさえているので、細部があいまいにならない。
❹ひびきにみがるなところがあるので、明瞭にききとれる。
❺ほどよくひびきがのびているので、ポツンとは切れない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的にも、音場的にも、コントラストがついている。
❷ひびきが軽いので、しのびこみは自然で、のびもいい。
❸ひびきが浮遊するので、ひろがりがある。
❹前後のへだたりはとれているが、もう少しひびきに力がほしい。
❺ピークで刺激的なひびきになり、迫力の点で不足を感じる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひびきに透明感があり、さわやかでいい。
❷ギターのひびきがたたない。せりだし方も不足している。
❸しずみこんでしまって、充分な効果をあげえない。
❹さわやかに、輝きのあるひびきで、はえる。
❺ききとることはできるが、決して充分とはいえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音色は、多少薄味になっているが、いきている。
❷サウンドの厚みは感じとりにくい。
❸この部分についてはこのましいが、一面的なひびきになりがちだ。
❹つっこみはシャープだが、軽くひびきすぎる。声はまずまずだ。
❺言葉もたち、バックコーラスの効果もいきている。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶スケール感が示されず、しかも音像が大きくふくれがちだ。
❷指の動きは示すが、それがなまなましさにはつながらない。
❸一応示すものの、その際のひびきに力がない。
❹力強さは充分とはいえないが、音の動きはわかる。
❺ペデルセンがとびだしすぎて、いささか不自然だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶シャープに切りこむが、ひびきに力がほしい。
❷ブラスに輝きはあるが、力感にとぼしい。
❸音色的には充分な成果をあげているが、さらに強くてもいい。
❹音の見通しがつくために、後からきこえるトランペットがいきる。
❺リズムはシャープにきざまれているが、力がほしい。

座鬼太鼓座
❶尺八のひびきはこのましい。ひびきのひろがりも感じられる。
❷脂っぽさはまったくなく、このましいひびきになっている。
❸ぼんやりとひろがってだが、ききとることができる。
❹乾いた音になり、大きさも迫力も、示されない。
❺かなりくっきりききとれるものの、幾分わざとらしい。

パイオニア CS-755

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきがかげりがちだが、木管の音色はよく示す。
❷ひろがりはあるが、スタッカートの音に力がほしい。
❸フラジオレットの特徴をよく示して、ひびきのとけあいもいい。
❹ピッチカートはふくれない。主旋律のひびきもふくよかだ。
❺幾分硬めになるが、一応のスケール感は示す。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像の大きさはほどほどだが、かなり前にでてくる。
❷音色のちがいをくっきり示す。多少くっきりしすぎているようだ。
❸室内オーケストラの性格をよく示すが、なめらかさがたりない。
❹少しきつくでるが、すっきりはしている。
❺個々の楽器のひびきの性格をよく示す。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声がひろびろとひびく。息づかいもなまなましい。
❷接近感をよく示す。小声ではなす時の微妙さがいい。
❸幾分まろやかさに欠けるが、声とオーケストラの対比はいい。
❹はった声は、幾分硬めになる。しかし気になるほどではない。
❺オーケストラのひびきはバランスよくきこえる。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶声に脂がのりすぎているかのようだ。定位はよくない。
❷ひびきが重いために、鮮明さはもう一歩だ。
❸残響をひっぱりすぎるので、言葉はわかりにくい。
❹ひびきに軽やかさがないので、明瞭さは不足している。
❺一応余韻を示すが、雰囲気ゆたかとはいいがたい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶暖色系の音で再現されるが、音色対比はいい。
❷奥にも充分にひけている。クレッシェンドも自然に示せている。
❸浮遊感はたたない。ひびきが点にならずひろがるのはいい。
❹前後のへだたりがとれているので、ひろがりを感じさせる。
❺自然なのびやかさは不足するが、迫力は示す。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶やわらかく、しなやかにひびくのがいい。
❷ギターは、少し前にせりだしすぎる。
❸くっきりとその存在をあきらかにして、効果をあげる。
❹かなりめだってきこえる。しかしきらびやかとはいえない。
❺一応きこえるが、効果的とはいいがたい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶幾分12弦ギターの音色を強調しすぎる傾向がある。
❷サウンドの厚みも示して、まとまりがいい。
❸乾いたひびきで、さわやかにひびく。効果的だ。
❹アタックもかなりシャープだ。声は少し乾きすぎている。
❺声のかさなり方は自然でこのましく、言葉もよくたつ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶ひびきに力があっていい。スケール感もまずまずだ。
❷指の動きをよく示すが、誇張感はない。
❸音の尻尾がよくでるので、迫力がでる。
❹力感を示し、こまかい音の動きも示す。
❺サム・ジョーンズの音像が小さくなる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶つっこみは、特に鋭いとはいえないが、力感はある。
❷ブラスのつっこみは、はなやかで、効果的だ。
❸フルートの音は、強く示されて、幾分刺激的になる。
❹トランペットの音はめだたない。したがって接近感も不足している。
❺ふやけてはいないが、音色的な特徴は幾分あいまいになる。

座鬼太鼓座
❶尺八は遠くからきこえて、距離感はある。
❷尺八ならではのひびきの特徴は示す。
❸ききとれるが、充分とはいいがたい。
❹大きさは感じとりにくい。きりっとひびいて、力強さはある。
❺ききとれる。雰囲気的にもかなり満足すべきものだ。

トリオ LS-505

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートがよわい。オーボエの音がしめっている。
❷スタッカートがひきずりがちだ。もう少しすっきりしてもいい。
❸フラジオレットの特徴がききとりにくい。
❹ヴァイオリンの音にもう少しつやがほしい。
❺クライマックスでは、硬くなり、刺激的になる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像はほどほどだが、ピアノの音にもう少し力がほしい。
❷音色的対比は充分だが、ひびきにもう少しキメこまかさがほしい。
❸ひびきの柄が大きくなりすぎないのはいいが、さわやかさは不足。
❹くっきり示すが、ひびきが粗くなっている。
❺ひびきの特徴はよく示すが、魅力にとぼしい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像はほどほどだが、表情を部分拡大的に示す。
❷接近感は示す。ただ、子音がめだちすぎる。
❸クラリネットの音はまろやかだが、とけあい方に問題がある。
❹はった声は、極端に硬くなり、かなりききにくい。
❺ひびきが平面になるので、効果的にはならない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶残響を多くとりすぎているので、定位はあいまいになる。
❷声量をおとすと、さらに言葉がききとりにくくなる。
❸鮮明さということで、かなり問題がある。
❹ひびきに敏捷さが不足しているために明瞭にならない。
❺ひびきはかなりのびるが、雰囲気をたかめてはいない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的対比がもうひとつはっきりしない。
❷クレッシェンドの効果は一応示されている。
❸音は浮いてきこえるが、もう少し透明でもいいだろう。
❹空間がせまく感じられる。前後のへだたりはあまりない。
❺ピークで音が硬くなり、刺激音になる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶かなり前の方できこえる。ひろがりも充分とはいえない。
❷ギターも、中央に定位するが、前の方にせりだしている。
❸きこえるが、他の楽器によるひびきにうめこまれている。
❹弱くしかひびかない。もう少しすっきりきこえてもいいだろう。
❺ききとるのが、大変にむずかしい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきと特徴をききとりにくい。
❷ツイン・ギターによるひびきの厚みが希薄だ。
❸きこえてはくるが、本来のさわやかさに不足している。
❹ドラムスのひびきはいいが、つっこみが弱い。
❺言葉のたち方がもうひとつすっきりするといいのだが。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像はかなり大きい。大きな箱の中でひびいているかのようだ。
❷指の動きをきわだたせて示すようなことはない。
❸音が尾をひいて消えていく感じが伝わりにくい。
❹音の反応にシャープさがないので、こまかい動きがでにくい。
❺ふたりの奏者の音像的な差がありすぎる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶一応の力は感じさせるが、切れがにぶい。
❷ブラスのひびきがはなやかなのはいい。
❸この部分のひびきの特徴をきわだたせる。
❹トランペットは、かなり前の方からきこえる。
❺もう一歩ふみこんだ強いアタックがほしい。

座鬼太鼓座
❶尺八はかなり前の方からきこえる。
❷脂っぽくなっているわけではないが、ひびきの特徴がでにくい。
❸耳をすましても、ききとりにくい。
❹きわめて消極的にしか、大太鼓の迫力を示さない。
❺一応示すが、必ずしも効果的とはいえない。

ダイヤトーン DS-40C

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきがまろやかでいい。木管の音色もいい。
❷もう少し力があってもいいように思うがすっきりしたよさがある。
❸フラジオレットの特徴的なひびきがよくでている。
❹もう少しひびきにつやがほしいが弦の響きの美しさはでている。
❺ひびきのゆたかさと力が充分でない。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像は小さめでこのましいが、ピアノの音に力がほしい。
❷音色的な対比は示せている。薄味のひびきにとどまる。
❸ひびきがもう少し軽やかでいいだろう。
❹きめこまかく示すが、幾分しめりがち。
❺かなりオンでとっているようにきこえる。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶子音がいつくひびく。音像はふくらみがちだ。
❷接近感は示すが、定位が鮮明ではない。
❸クラリネットの音色はよく示すが、声とのバランスはよくない。
❹はった声は硬くなり、声のしなやかさがなくなる。
❺とがったひびきが強調ぎみになる。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶ひびきの目がつまりすぎているので、定位がすっきりしない。
❷まろやかなひびののよさはあるが、鮮明さがたりない。
❸残響をぴっぱりすぎるためか、すっきりしない。
❹とけあってはきこえるが、各声部の動きは不鮮明だ。
❺ポツンときれずに、ある程度の余韻を感じさせる。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶暖色系のひびきのためか、音色対比は充分でない。
❷ひびきの後へのひきがかならずしも充分でない。
❸ひびきに浮遊感がたりず、ひきずりぎみにきこえる。
❹前後のへだたりがあまりなく、空間がせまくきこえる。
❺ピークでは、ひびきが金属的になる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひろがりは一応感じられるが、ひびきに透明感が不足している。
❷これと❶での音との、サウンドの性格のちがいがはっきりしない。
❸他のひびきにうめこまれがちで、ひきたたない。
❹かなりめだってききとれる。ひびきに輝きがある。
❺一応ききとれるが、かならずしも効果的といえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきから角がとれすぎている。
❷サウンドの厚みは充分に示されているとはいえない。
❸かなり積極的に前にでてくるが、さわやかさがたりない。
❹切れがにぶいので、アタックの鋭さがでない。声はまずまず。
❺言葉のたち方は弱い。声とのとけあい方はよくわかる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶スケールの大きさは示すが、迫力ではたりないところがある。
❷指の動きの示し方は、かなり鮮明だ。
❸かならずしも余裕をもって示すとはいいがたい。
❹こまかい音の動きに対応するのは得意ではないようだ。
❺サム・ジョーンズの音色の示し方に問題がある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスに力が不足しているので、にぶい。
❷ブラスのつっこみはそれなりの効果をあげる。
❸せりだしてくるが、ひびきは幾分刺激的になる。
❹個々のサウンドを分離して示すより、とけあう傾向にかたむく。
❺幾分ふやけぎみで、めりはりがつきにくい。

座鬼太鼓座
❶尺八はかなり奥の方にひいた感じできこえる。
❷尺八の音色の特徴を、よく示した。
❸一応ききとれるものの、ごくかすかにきこえるだけだ。
❹スケールのゆたかさは示すが、力強さがたりない。
❺かならずしも充分にはきこえない。

テクニクス SB-5500

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートの音に力がない。オーボエよりフルートがめだつ。
❷あいまいにならないが、ひびきが腰高になっている。
❸フラジオレットの感じが十分にでているとはいえない。
❹ふくれてはいないが、ゆたかにひびいているとはいえない。
❺クライマックスでひびきがヒステリックになる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像は大きくないが、ピアノの音にまろやかさがたりない。
❷音色対比はついているが、とけあっていない。
❸ひびきにもう少しキメこまかさがほしい。
❹幾分これみよがしになって、せりだす。
❺各楽器のひびきを誇張ぎみにしめす。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶全体的に前にでたままになる。子音を強調ぎみである。
❷接近感はあまりない。もともと前にですぎるためか。
❸クラリネットの音色は伝えるが、声や他の楽器の音ととけあわない。
❹はった声は硬くなり、表情のコントラストを強くつける。
❺きこえることはきこえるが、効果的とはいいがたい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶横一列にならんだ感じは伝わりにくい。
❷ブレス等をきわだたせるが、言葉は鮮明とはいえない。
❸音がひとかたまりになる傾向があるのでききとりにくい。
❹各声部のからみ方は不鮮明にしか示されない。
❺ポツンと切れてはいないが、のびやかとはいいがたい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色対比はかなりくっきりついている。
❷後へのひきがたりない。ひびきが平面的になりがちだ。
❸音に重量がかかりすぎていて、浮遊しているとはいえない。
❹前後のひびきのへだたりが感じとりにくい。
❺ピークでは、力づくでおしてくるようなところがある。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのかすかなひびきは、もう少ししなやかでもいいだろう。
❷ギターの音は、くっきりと、中央に定位する。
❸他の楽器によるひびきの中にうめこまれがちだ。
❹きわだってきこえるが、そのひびきにもう少し輝きがあるといい。
❺かなりめだってきこえるが、他の音とのバランスに問題がある。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ここでの12弦ギターの音の特徴が充分に示されてはいない。
❷ひびきが薄いので、かならずしも効果的とはいえない。
❸ハットシンバルの音はぬけだしてくるが、さわやかさがほしい。
❹ドラムスのアタックはとがった感じになる。声の乾きぐあいはいい。
❺言葉はたってくるが、バックコーラスのとけあい方がよくない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力強くはあるが、ひびきのひろがりがたりない。
❷指の音だけでなく、奏者の息づかいまできかせる。
❸音の消え方がもう少し精妙に示されてもいいだろう。
❹力強いひびきをきかせるが、音の動きのこまかさは示されない。
❺サム・ジョーンズによるかげったひびきがききとりにくい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶一応の迫力は示すが、切れ味はにぶい。
❷充分につっこんでくるが、他の音がひっこみすぎる。
❸クローズアップの効果は充分に示される。
❹ひびきの目が,つんでいるので、わかりにくい。
❺ふやけてはいないが、切れが充分とはいえない。

座鬼太鼓座
❶尺八が比較的近くできこえる。距離感がでない。
❷脂っぽいとはいえないが、尺八の特徴をよく示してはいない。
❸一応きこえるが、かろうじてきこえる程度だ。
❹力強さは示されるが、ひびきのひろがりは示されない。
❺むしろ強調ぎみにきかせて、それなりの効果をあげる。

ビクター SX-55N

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、あかるく、くっきり示される。
❷ひろがりが感じられる。スタッカートを強調ぎみ。
❸フラジオレットの音色を積極的に示す。
❹ピッチカートに力があり、音の動きをくっきり示す。
❺迫力はあるが、ひびきとして幾分硬質にすぎる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は、くっきりと示される。音に力もある。
❷音色的な対比をよく示すが、多少わざとらしさがある。
❸全体にひびきがはりだしすぎるので、キメこまかさが不足する。
❹ひびきに肉がつきすぎているとでもいうべきか。
❺音色の特徴は示すが、はりだしぎみである。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶近づいてくる感じは示すが、誇張感がある。
❷残響が強調されている。声が幾分硬い。音像が大きい。
❸もう少しまろやかにひびいてもいいだろう。
❹はった声は硬い。声のまろやかさが感じとりにくい。
❺一応オーケストラの各楽器の特徴は示す。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像が大きいので、メンバーの並び方が不鮮明だ。
❷残響が誇張されるので、言葉は不鮮明だ。
❸子音が充分にたっているとはいえない。ひびきが重い。
❹きわめてかりにくい。音がひきずりがちのためか。
❺のびてはいるが、ひびきに軽やかさがたりない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色対比は充分についていて、しかも音に力がある。
❷クレッシェンドするのはわかるが、しのびこみ方がわざとらしい。
❸音に重みがあるので、軽やかな飛遊にはならない。
❹ひろがりが不充分。前後のへだたりも充分とはいいがたい。
❺力強い音をきくことができるが、ピークで硬くなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶充分な透明感とはいいがたい。ひろがりもたりない。
❷ギターは、もともと、かなりはりだしてきこえる。
❸くっきり、きわめて積極的にひびく。
❹充分に効果的にひびいて、アクセントをつける。
❺他のひびきの中にうめこまれる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音が、一種のまるみをおびて、力強くひびく。
❷充分に効果的だ。積極的に音は前におしだされる。
❸もう少し乾いてもいいが、一応の成果はおさめる。
❹つっこみは、充分に力感をともなっている。声は乾きがたりない。
❺言葉のたち方、声のとけあい方には、多少問題がある。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力にみちた音だ。スケール感も一応示す。
❷弦の上を走る指の音もききとれる。
❸音の尻尾をききとることができる。
❹こまかい音の動きは、多少あいまいになる。
❺音色の差は充分に示すが、音像の面で多少ひっかかる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶力強くはあるが、シャープとはいいがたい。
❷ブラスのつっこみは、力の輝きがある。かなり派手だ。
❸前に大きくはりだして、まことに積極的だ。
❹へだたりはかならずしも充分には示さない。
❺むしろふやけぎみだ。もう少しきりっとひびいてもいいだろう。

座鬼太鼓座
❶近くからきこえるわけではないが、距離感を示さない。
❷枯れたひびきからは遠い。かなり脂っぽい。
❸一応ききとれるが、十全にとはいいがたい。
❹スケールより迫力がきわだつ。消え方は示す。
❺ききとりにくい。雰囲気にものたりなさを感じる。

パイオニア CS-955

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 専用のスタンドが別売されているので、それに乗せたまま、左右への拡げ方と背面との距離とで最適一をいろいろ調整してみた。背面は、壁から50cm以上離す方が音離れがよく、左右に大きく開いた方がいい。レベルコントロールは、低・中・高各ユニットのつながりは指定のままがよかったが、音のバランスという面では(国産とはいえかなり高価な部類だから要求水準も自ずら高くなるが)、ベートーヴェンの序曲やセプテット、またブラームスのP協などで、たとえばラックスのアンプについているリニア・イクォライザーをダウン・ティルト(1kHzを中心に、低域をやや上げ、高域をやや抑える)にした方が、クラシックでも十分に納得のゆく(海外製品に全く劣らない)バランスが得られる。ただ、低音域で、一ヵ所、どうしても少々ドロンとした感じの残る点、そして中低域全体にもう少し肉づきや脂気が欲しいと思われる点が今後の課題だ。音色の傾向はややウェット型だが、そのためかヴァイオリンや木管の質感のよさは、国産としては極上の部類。バルバラの声もオヤ? と思うほどしっとりした味わいで、やさしさもほどよい色気も出る。パーカッションでのハイパワーにも、音のくずれが全くなく、十分に楽しめる音がする。総じてハイエンドでクセのないよく延びた鳴り方が、音のデリケートな味わいや雰囲気をとてもよく再現する。カートリッジはMC20より455Eの方が楽しめた。

ビクター FB-7

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、遠くで、鈍くひびく。
❷低音弦のスタッカートはもう少しシャープであってほしい。
❸フラジオレットの効果は示し、各楽器の音色も明らかだ。
❹主旋律はたっぷりうたわれている。
❺クライマックスで力はしめされるが、鮮明さがたりない。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は大きいが、ピアノのひびきそのものは薄い。
❷音色の特徴は、一種絵解き風に示される。
❸ひびきが総じてふくらみがちなので、さわやかさが不足する。
❹この第1ヴァイオリンのフレーズの特徴は示す。
❺ひびきに軽やかさがもうひとつほしい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像は大きく、残響をかなりひっぱっている。
❷子音が強調されて、表情は大きくなる。
❸音色の特徴をかなり拡大して示す。
❹はった声はかたくなりがちで、きわだつ。
❺一体になって前の方に押しだしてくる傾向がある。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像が大きいためだろう、横一列の並び方がききとりにくい。
❷声量をおとすと、ひびきの重み故か、不鮮明になる。
❸ひびきがふとりぎみで、明瞭さが薄れる。
❹各声部のからみがはっきりするためには、響きが重すぎる。
❺一応のびてはいるが、好ましい効果をあげているとはいえない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ポンという低い音の方が大きくひびく。
❷後方へのひきは充分にとれている。
❸音に軽さがないので、浮遊感はでにくい。
❹ひびきの質に関係してのことだろう、ひろがりが感じられない。
❺ピークでは、迫力を示すが、とげとげしくなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後へのひびきはとれているが、ひびきの透明感がほしい。
❷ギターのびひきは、中央からきこえるが、音像は大きい。
❸多少ふやけすぎているためだろう、効果的ではない。
❹充分にききとれるものの、音色的なアクセントをつけてはいない。
❺ほとんど他ののひびきの中にうめこまれている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ギターの弦があたかも太いかのようにきこえる。
❷サウンドの厚みは示すものの、過渡にせりだしすぎる。
❸ハットシンバルのひびきはもう少しすっきりしてほしい。
❹ドラムスの音像は大きく、重くひびく。
❺声は、きわだってくっきりきこえる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶あたかも大きな箱の中でひびいているかのようだ。
❷指の動きは部分拡大的にきかせる。
❸音の尻尾は横にひろがってきこえる。
❹音のこまかい動きがくっきり示されているとはいえない。
❺音像的な面で両者の差が極端すぎる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスのひびきは、重く、せりだしてくる。
❷ブラスのひびきは、かがやきに不足するものの、派手にきこえる。
❸大きくはりだしてきて、一応の効果をあげる。
❹ひびきの目がつみすぎているために、トランペットはいきない。
❺リズムの刻みが重く、めりはりがつきにくい。

座鬼太鼓座
❶尺八は大きく、なにか入れものの中でのごとくにひびく。
❷音色的には、大きな問題はなく、尺八らしさを示す。
❸かすかな音が、低い方にひろがってきこえる。
❹一応のスケール感は示されるが、力強さがほしい。
❺きこえるが、消える音との対比がないのでいきない。

ヤマハ NS-1000M

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 生産上難しい面の多かったベリリウム振動板という素材の製造技術が、次第に手馴れてきたのだろうか、初期の製品にくらべると、以前の製品のような角ばった音がそれほど気にならず、馴らしこまなくてもわりあいにおとなしい音がする。ことに高域端(ハイエンド)での共振性の音が、以前の製品よりよく抑えられていると感じた。この音をかつては〝鮮烈〟とも表現したが、こういう傾向の音が次第に増えてきたせいなのか、こちらが少々馴らされたのか、あるいは製品自体が以前よりおとなしくなっているのか、それともプログラムソースやアンプなどの歪がさらに減ってきているせいか──たぶんそのいずれもが少しずつの理由だろうが、それほど異質の音ではなくなっている。
 今回はやや低め(約20cm)の台に乗せ、背面を壁から30cmほど離して置いたときのバランスの良さは一種絶妙だった。ただ、中低音域にやや抑制が利きすぎるように思える点は従前どおりだし、重低音息にもう少し明るい弾みが欲しくもある。中~高音域では、音自体の繊細な切れ込みの良さは抜群だが、空間のひろがりの感じがもうひと息再現されるとさらに好ましいと思う。
 しかし弱音から強音に至るダイナミックレンジの広さと、やや色気不足だが音のバランスと解像力の確かさは、やはり国産スピーカーの中でも抜きん出た優秀製品のひとつだと再認識した。

デンオン SC-107

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 ちょっと国産らしからぬ艶の乗った、一種気品のある響きの美しさが、あきらかにSC104の兄貴分であることを思わせる。極上とまではゆかないが、国産のこの価格帯では相当に上質な音のスピーカーといえる。えてして国産の中で、音楽を楽しませるよりも音を分析する気にさせるような鳴り方をするのが少ないとは言えない中で、つい聴き惚れさせるといってオーバーなら、ともかくいつまでも聴いていて気になる音のしない気持の良い音で楽しませてくれる、といっても良いだろう。ただ、クラシック系にはレベルコントロール(高音のみ)を-1ぐらいまでほんの少し絞った方がいっそうバランスが良くなると感じたが。
 いわゆる輪郭鮮明型でなく、耳あたりのソフトなタイプだが、しかし不必要に角を丸めるようなことはなく、プログラムソースやアンプやカートリッジの音のちがいを素直に反映し(言いかえれば好みのカートリッジやアンプを自由に組み合わせることができる)ながら、適度に暖かく出しゃばらず、音楽のカンどころを確かにとらえて聴き手に伝えるという点が、やはり残念ながらヨーロッパ製のユニットの良さだろう。
 台は低め(約20cm)で、背面は壁からやや離す方がバランスがよかった。あえていえば、もうひと息の音の彫りの深さ、音場の奥行きと空間のひろがり、音の品位、などの点が、わずかとはいえ純欧州製との違いといえる。