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テクニクス EPA-100

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 おそろしくこったトーンアームである。少々こり過ぎて、ダンピングコントロールなどは、一般にどこまで使いこなせるかが不安でもある。しかし、ここまで精巧に作られたトーンアームを持ち、使う喜びは、また格別であろう。デザイン的には私個人の好みとはいえないが、見るからにエンジニアの情熱と、仕上げの緻密さが納得できるであろう。ユーザーのほうも、作者と同じようなこり性の人であるべき製品。

テクニクス SP-10MK2

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 ダイレクトドライヴ・ターンテーブルの元祖テクニクスが、従来のSP10をリファインし、クォーツロック式の駆動を採用。78rpmを加え、きわめて強大なトルクと、瞬時ロックのブレーキングを施した最高機種である。絶対の信頼性と高性能は、もはやいうところのないまでに完成度を高めた。

テクニクス SU-8080 (80A)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 42号(1977年3月発行)
特集・「プリメインアンプは何を選ぶか最新35機種の総テスト」より

 とても滑らかで優しい感じの柔らかな音が鳴ってくる。これはテクニクスの最近までの一連のアンプに共通の性格だが、80Aはその特徴に一そうの磨きがかかったように、見事といいたいほど濁りのないきれいな音を聴かせる。音量を上げていっても、粗野とか派手といった感じが少しもなく、どこかひっそりした、控えめで品の良い音が一貫している。ただ、その表情にはどこかとり澄ました冷たさも感じさせる。音自体の肌ざわりもクールなタイプだ。そういう鳴り方は、音楽の表情の大きな起伏をやや抑えるように聴かせる傾向があって、たとえていえば日本風美人の感情をおさえた印象がある。日本風……といえばこのアンプの音のバランスも、中低域以下のいわゆる音楽の土台の領域で、いくぶん柳腰のプロポーションに思える。TVのCMに出てくるような、この日本風美人を、腹の底から笑いころげさせてみたら、きっと別の生きた表情が出てくるのだろうと思うが。

テクニクス SU-8080 (80A)

菅野沖彦

ステレオサウンド 42号(1977年3月発行)
特集・「プリメインアンプは何を選ぶか最新35機種の総テスト」より

 高い技術レベルに支えられたアンプだということが聴いてもよくわかる。プリメインアンプとしてユニークな構成で、インプットのイコライザーからダイレクトにパワーに入れるトーンディフィートなどの発想は新しい。音は、いかにも端正で立派である。品位が高く、色づけのない素直なもので好感がもてるけれど、豊潤なソノリティを出し切れないのが、もう一つ、このアンプの魅力に欠けるところだと感じられた。クヮルテート・イタリアーノのベートーヴェンの初期の弦楽四重奏など、フィリップスの華麗な音色をコントロールして格調の高い響きで聴かせてくれるが、オーケストラの中低域のニュアンスや、ピアノの巻線領域の豊かさなどの抑揚に、もう一つ血が通わない再生音になる。自分の作ったレコードにしか自信を持っていえないが、試聴に使った一枚では、明らかに意図したリズムの豊かな躍動に不足を感じた。客観的に素晴らしいアンプだと思うのだが……。

テクニクス SP-10MK2 + EPA-100 + SH-10B3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 モーターが回転すればメカニカルな振動を発生する。それがターンテーブルに伝われば、ピックアップがそれを拾ってスピーカーからゴロゴロと雑音が出る……。古いフォノモーターではそれが常識だったから、駆動モーターのシャフトとターンテーブルのあいだにゴムタイヤのような緩衝材を介していわゆるリムドライブにしたり、弾力のあるベルトによってベルトドライブしたりして、モーターの振動がターンテーブルに伝わらないような工夫をした。松下電器が、駆動モーターをターンテーブルに直結させるダイレクトドライブの構想を発表したころは、まだそういう古いフォノモーターの概念が支配していた時代だった。
 しかし実際に市販されたSP10は、そんな心配を吹き飛ばしたばかりでなく、回転を正確に保ち回転ムラを極減させることが、いかに音質を向上させるかを教えてくれた。それ以後、日本の発明になるDDターンテーブルが世界のプレーヤー界を席巻していったいきさつは周知のとおり。
 SP10は、たしかに性能は優れていたが、デザインや仕上げや操作性という面からは、必ずしも良い点をつけられなかった。アルミニウムダイキャストを研磨したフレームは、非常に手間のかかる工作をしているにもかかわらず製品の品位にブレーキをかけている。ON−OFFのスイッチの形状や感触がよくない。速度微調ツマミの形状や位置やフリクションが不適当で知らないうちに動いていしまう。ゴムシートのパターンがよくない……。
 改良型のSP10MkIIで、クォーツロックのおかげで微調ツマミは姿を消した。ON−OFFのスイッチの形は変らないが感触や信頼性が向上した。ターンテーブルやゴムシートの形がよくなった。性能については問題ないし、トルクが強く、スタート、ストップの歯切れの良い点もうれしい。少なくとも特性面では一流品の名を冠するのに少しも危げがない。
 ただ、MKIIになってもダイキャストフレームの形をそのまま受け継いだことは、個人的には賛成しかねる。レコードというオーガニックな感じのする素材と、この角ばってメタリックなフレームの形状にも質感にも、心理的に、いや実際に手のひらで触れてみても、馴染みにくい。
 この点は、あとから発売された専用のキャビネットSH10B3の、やわらかな肌ざわりのおかげでいくらかは救われた。このケースは素材も仕上げもなかなかのものだ。
 新型アームEPA100。制動量を可変型にしたアイデア、軸受部分の精度と各部の素材の選び方などすべてユニークだが、それにも増して仕上げの良さと、むろん性能の良さを評価したい。部分的にはデザインの未消化なところがないとはいえないが、ユニバーサルタイプの精密アームとして、SMEの影響から脱して独自の構想をみごとに有機的にまとめあげた優れたアームといえる。このアームがMKIIになり、SP10がMKIIIになるころには、どこからも文句のつけようのない真の一流品に成長するのではないだろうか。

テクニクス EPC-100C

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 振動系のミクロ化と高精度化、発電系の再検討とローインピーダンス化、交換針ブロックを単純な差し込みでなくネジ止めすること、そしてカートリッジとヘッドシェルの一体化……。テクニクス100Cが製品化したこれらは、はからずも私自身の数年来の主張でもあった。MMもここまで鳴るのか、と驚きを新たにせずにいられない磨き抜かれた美しい音。いくぶん薄味ながら素直な音質でトレーシングもすばらしく安定している。200C以来の永年の積み重ねの上に見事に花が開いたという実感が湧く。

テクニクス EPC-100C

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 アクティブに振動系の軽量化と新素材の導入に取り組んでいるテクニクスからカートリッジの原器をめざした高級MM型の製品が発売された。EPC100Cは、カートリッジとヘッドシェルが一体化した、いわばピックアップヘッドといった構造を採用している。振動系は、チタンと元素中もっとも非弾性係数が大きいボロンを高周波スパッタリングにより反応させたチタニウム・ボライドのテーパードカンチレバーを採用し、マグネットは円板状のサマリュウムコバルトである。なお、針先は0.1mm角ブロックダイヤチップである。
 磁気回路は、超高域までフラットな特性を得るために、初めてオールフェライト化され、さらにコイル配列は左右チャンネル完全分離対称配列である。また、このEPC100Cで際立った特長となっているは、コイルのインピーダンスとインダクタンスが驚異的に小さいことだ。発表値としては、それぞれ210Ω・33mHでMC型カートリッジと同等といってもよく、接続する負荷抵抗、負荷容量の影響をほとんど受けない。ちなみに、テクニクス205CIISは、3600Ω・560mH、同じく205CIILが250Ω・40mHである。ヘッドコネクター部分にオーバーハング調整と傾斜調整があり、大型プロテクターは、ワンタッチで上に跳ね上がるタイプである。

テクニクス SU-8080

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 機能的に整理されたパネルフェイスは、類型的なパネルをもつ例が多いプリメインアンプとしては際立った印象を受けるが、本機は、内容としてもハイレベルインプット以後は、完全にDCアンプ化が可能という、いわば挑戦的な新しさがある。
 回路構成上のポイントとなっているのは、DCアンプ構成のパワーアンプ部である。通例とは異なって、初段の差動増幅用にFETではなく、デュアルトランジスターを採用したパワーアンプ部は、フロントパネルのメインアンプ・インプットスイッチをダイレクトにすると利得が42dBというハイゲインアンプとなり、AUXなどのハイレベル入力は直接パワー部に入り、結合コンデンサーレスのDCアンプとなる。セレクターがヴィア・トーンコントロールの場合には、ハイレベル入力は、トーンコントロール回路を通りパワー部に入るが、このときには、パワーアンプゲインは28dBとなり、トーンコントロール段の利得は14dBと加算してトータルで42dBとなる。また、オーディオミューティングも、パワー部のNF量を14dB変化していっていることも特長である。この構成が、テクニクスでプリメインアンプならではのDC化といっている理由である。
 機能面では、イコライザー段に内蔵されたサブソニックフィルター、カートリッジ負荷抵抗と容量の各2段切替、DCアンプ構成時に、ハイレベル入力に接続された機器からの直流成分の洩れからスピーカーを保護する、カットオフ2Hzの直流カットスイッチなどがある。
 SU8080は、色付けが感じられないストレートな音をもっている。従来のテクニクスアンプよりも粒立ちが明確で、聴感上で、力強さが加わっている。

テクニクス ST-8080

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 プリメインアンプSU8080のペアチューナーである。FMフロントエンドは、4連バリコン使用であり、IF段は、4共振素子型セラミックフィルター4個(1個は狭帯域型)とIC2個の組合せ、MPX部は、波形伝送特性を向上させる独自のパイロット信号キャンセル回路がある。また、シグナルメーターは、65・2dBfまで直線指示をする電解強度比例型である。付属機能には録音レベル設定用の440Hz50%変調に相当する発振器を内蔵している。

テクニクス RS-1500U

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 テクニクスというブランドは、日本の大電機メーカー松下電器のオーディオ製品につけられるものだ。最近でこそ同社の普及クラスにまで付けられてはいるけれども、本来は高級オーディオ・コンポーネントにのみ採り入れられていた名称である。したがって、このブランド名は、同社の最高技術を象徴するものだと考えてもいいだろう。
 一流品としてリストアップしたRS1500Uは、まさにテクニクスのテープレコーダー部門の技術の結集が見られる、最高級2トラックマシーンである。このマシーンの性能からすると値段は安い。これは、私は大メーカーの良さとしてまず評価したいと思う。内容は非常に充実したテープレコーダーで、オリジナリティも豊かに持ち、そしてそれが高いテクノロジーに裏づけられているのである。
 テクニクスではアイソレートループと呼んでいる、独特のテープのヘッドハウジングに、何といってもこのオープンリール・テープレコーダーの象徴が見られるわけだが、このハウジングの左側に4トラック再生用と2トラック消去用、右側に2トラック録音用と2トラック再生用のそれぞれのヘッドが取り付けられている。このアイデアは必ずしもオリジナルとはいえないが秀逸といえるだろう。また、モーターは、ダイレクトドライブ方式の老舗だけに、すべてDD方式で、キャプスタン駆動用にはクォーツロックが導入されている。このように、現在の水準からいっても最高度のメカニズム、エレクトロニクスの性能をもつマシーンとして一流品に推したいと思う。

テクニクス EPA-100

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 テクニクスの新しいユニバーサル型トーンアームは、可変ダイナミックダンピング方式という大変にユニークなメソッドを採用した、精密級の精度と仕上げをもつ高性能アームである。
 軸受構造は、ほぼ矩形の内輪と外輪を組み合わせたジンバル方式が採用され、高感度化を実現する目的で、摩擦係数が小さい、スーパーフィニッシュ・ルビーボールを5個使うベアリングを4個組み込み、共振制御式としては初動感度5mgという値を誇っている。
 パイプ部は、チタンで、アルミとくらべて質量を85%減少でき、内部損失が大きく共振が少ないメリットがある。さらに、この材料は特殊窒化法により硬化処理がおこなわれ、機械的強度を約1・6倍に高めて、軽実効質量トーンアームとしている。なお、ヘッドシェルは、粘弾性剤で防振し、無共振化したタイプで、オーバーバング調整のカーソル機構を備えている。
 本機の最大の特徴である制動可変型ダイナミックダンピング機構は、従来不可能であった使用カートリッジのコンプライアンスの変化による、トーンアームの低域共振周波数の変化に対応する制動を、任意にコントロールすることができる。これにより、各種の高性能カートリッジを、もっとも適した条件で使用することができる。つまり、ユニバーサルアームの本来の意味での発展型ということができる。実際のメカニズムは、後部のウェイトの内部に組み込まれた可動ウェイトをシリコンオイルダンプのスプリングと2個のマグネットという2組のダンピング機構で浮動保持し、アームの低域共振を制動するタイプで、共振制動周波数はセレクターにより選択可能である。なお、セレクター目盛は使用カートリッジのコンプライアンスにより決まることになる。

テクニクス SP-20

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 テクニクスの新しいフォノモーターは、同社のトップモデルであるSP10MK2を基本として、その高性能を維持しながらコストダウンをはかったコストパフォーマンスが高いモデルである。
 外観上からは、SP10MK2の本体と変わりはないが、色は黒い特殊な熱処理によるリンクル仕上げになった。
 ターンテーブルは、直径32cm、重量2・4kg、慣性質量320kg・㎠の重量級で、クォーツ・フェイズドロック方式の新開発全周積分型プッシュプルFGサーボモーターによってダイレクトにドライブされる。このモーターには、純電子式ブレーキが備わり、スタート時1/4開店で定速に達し、ロジックコントロールでワンタッチで滑らかに停止をする。負荷変動は1・5kg・cmの制動トルクに対して変化が生じないというから、針圧2gで150本のアームを同時に使っても速度変化がないことを意味しているといってよい。なお、別売のプレーヤーベースSH10B4があり、SP10MK2とSP20に使用可能である。

テクニクス SL-01

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このプレーヤーシステムは、ダイレクトドライブ型フォノモーターを最初に開発し、商品化をしたテクニクスが、数多くのダイレクトドライブ方式のプレーヤーシステムを送り出した経験をベースとして、再び、ダイレクトドライブ方式の原点にもどってプレーヤーシステムを見直して、つくり出したともいうべき製品で、このことは、新しい型番からもうかがい知ることができると思う。
 プレーヤーシステムとしては、色調がブラックとなり、デザインもスリムになったために、外観から受ける印象は、引き締まって、実際外形寸法よりは、かなり小型に感じられる。
 プレーヤーベースは、不要な空間を可能な限り減らす目的と、不要振動をカットするハイマス設計アルミダイキャストのキャビネットと防振構造をもつ亜鉛ダイキャストによる剛体設計のベースを粘弾性材を介し、三重構造とした、複合防振構造とし、インシュレーターには、粘弾性定数を充分に検討して決められた、大型の防振効果が高いタイプを採用して、トータルなシステムとしての耐ハウリング性、音質の向上が計られている。
 フォノモーターユニットは、基本的には、新発売のSP20と同等のものである。ターンテーブルは、直径30・1cm、重量2・7kgと、SP20よりも、直径がやや小さく、重量がやや大きく、慣性質量は330kg・㎠で、これは、少し大きな値となっているが、まず同じと考えてよいだろう。このターンテーブルの内側には、テクニクス独自のモーターのローター部分が組み込まれ、一体構造としている。サーボ系は、水晶振動子を使う基準発振器とプッシュプルFGとの組合せによる位相制御方式で、駆動電子回路には、新開発のDDモーター用ワンチップIC、AN640を使用し、全波両方向駆動により効率を高めている。なお、ブレーキ機構は、純電子式で、スムーズに働くタイプである。
 トーンアームは、亜鉛ダイキャスト製のしっかりとしたアームベースにセットされている。このアームの軸受部分は、EPA100アームに似たジンバル型で、専用ピボットベアリングの使用により、水平、垂直ともに初動感度7mgという高感度を得ている。ヘッドシェルは、オーバーハング調整付の複合防振構造である。アームのアクセサリーとしては、アンチスケートコントロールとオイルダンプ型リフターがある。
 SL01は、外観からは非常にシンプルな印象を受けるが、内容は、もっとも現代型のプレーヤーシステムらしい最新の技術をもりこんだ密度の高いものがある。実際の使用でも、アームの下側にコントロールが無いために、操作性が優れ、一条一列シマ目のストロボはLED照明で見やすい。また、音的にも、まさしくナチュラルなバランスと適度な質感の再現性があって、非常に好ましい印象の製品である。

テクニクス SB-007

黒田恭一

ジャズランド 8月号(1976年7月発行)
「音と音楽・音楽と音──ピストルを持たない007」より

 小さい方がいい。小さい方が、おおむね、美しい。アンプにしても、プレーヤーにしても、ましてカセットデッキにおいておやだ。タバコの箱ぐらいのスピーカーがあればいいのに──といって、笑われたことがある。笑われながら、釈然としなかった。今のところは、やはりどうしても、ゆったりとした、底力のある低音がききたかったら、俗にフロア型といわれるどでかいスピーカーが必要のようだ。スピーカーの原理から説明されれば、なるほどと納得せぎるをえない。しかし、不可能を可能にするのが技術だろうなどと、にくまれ口のひとつもたたいてみたくをる。
 大きい方が、立派にみえるからいいというのは、なんとなく、さもしい。やけに図体ばかり大きい、そのくせにのぞいてみると中がすかすかのアンプなどをみると、音をきく前から、さむざむとした気特になってしまう。その種の手合が、これで結構多いから、困る。そしてメーカーは、ふたことめには、「ユーザーのニーズ」などという。もし柄を大きくしてもらうことが、本当にユーザーのニーズなら、そのユーザーの根性は、なんともさもしい。
 本当にそんな、メーカーのいう「ユーザー」がいるのかと、思う。そこでいわれている「ユーザー」とは、所詮、メーカーが、ユーザーとはこんなものさと思った、その「ユーザー」ではないのか。そこには、一種の、たかくくりの精神が、ちらつく。そういうメーカーが悲しい。そんな風に甘くみられたユーザーも悲しい。
 マニア訪問とか、あるいはオーディオ装置のある部屋とかいったページが、オーディオ雑誌等には、かならずといっていいほどある。そして、いわゆる名器といわれるアンプやプレーヤーがみがきあげられて棚に並んでいる写真がのっている。しかもごていねいに、カラーであることさえすくなくない。ぼくもこれまでに、そういう写真を何度か、とられたことがある。恥しかった。それに、なんとなく、無駄をことをしているように思えてしかたがなかった。その写真をうつす人の腕が、いかにすぐれていても、この部屋でなっている音はうつせないのだから、うつされていて、申しわけなかった。
 その雑誌の編集者だって、本当は、音そのものをうつしたかったのだろうが、それができないので、やむをえず、再生装置というものとか、それをつかっている人間といういきものをうつさざるをえなかったのだろう。音はみえないので、あくまでもやむをえずの処置だったにちがいない。
 たのしもうとしているのが音楽であるかぎり、目は、あくまでも二義的を感覚器官でしかない。肝心なのは耳だ。だとすれば、オーディオ機器は、大きくて目ざわりなのより、小さくて目だたない方がいい。小さいアンプやカセットデッキが美しく感じられるのと、そのこととは、関係があるのではないか。
 小さなスピーカーをきかせてもらった。試作品なので、市販はされていないということだった。そういう特殊な機器について書くのは、なんとなく気がひける。自分だけきけたので、いいきになって、自慢ばなしをしているように思われるのではないかと思うからだ。しかし、その小さくて、粋な姿が気に入ったので、そのスピーカーのことを書いてみることにした。
 テクニクスのスピーカーで、俗称は007というのだそうだ。例の、テクニクス7の、ミニアチュアだ。すべての部分が10分の6の大きさになっている。むろん、あの特徴的な頭の部分もついている。
 普段つかっているJBLのスピーカーの横において、コードをつなぎ、ならしてみた。その姿にふさわしい、かわいい音がした。かわいい音──といういい方には、多分、説明が必要だろう。
 こういう時に、かっこうをつけてもしょうがない、正直に書こう。ターンテーブルの上にのっていたのは、山崎ハコの二枚目のアルバム「綱渡り」だった。すでにそのレコードは、JBLのスピーカーで、一度ならずきいていたから、どんな音がするかは、知っていた。必然的に、あれとこれとでは──といったきき方になってしまった。ちびの007と大きなJBL四三二〇とでは、勝負になるはずもない。007の表面面積は、ざっとみて四三二〇のほぼ三分の一といったところだ。
 そのうちに、段々、007の音になれてきた。それと同時に、山崎ハコの歌をなにかとても懐しい歌をきいているようを気持できいている自分に、気づいた。ぼくは、なんとなく、くつろいでいた。部屋にはひどくインティメイトな雰囲気があった。しんみりときいた。
 音楽の途中で音量つまみをちょこちょこうごかすのが嫌いだ。よく、レコードをかけてしまってから、途中で、大きくしたり、小さくしたりする人がいるが、あれはどうなんだろう、あまり好ましいこととは思えない。よほ大きすぎた時とか、逆に小さすぎた時ならともかく、よほどのことがないと、ぼくは音量のつまみを途中でいじらない。このレコードならこの程度といったことは、あらかじめわかっている。昨日今日レコードをききはじめたわけではないからそのぐらいのことはわかる。
 その、007をはじめてきいた時も、そうだった。その直前にきいたからこそ、山崎ハコのレコードが、ターンテーブルの上にのっていたわけで、そのまま、007できいたことになる。その間に、音量つまみには、一切手をふれていなかった。
 007は、JBL四三二〇より、小型だから当然というべきか、能率がわるい。この辺がちょっと困ったところで、小さなスピーカーをつかおうと思えば、ハイパワーの、したがって大きいアンプをつかわなければならなくなる。具体的にいうと、パイオニアの、C二一+M二二のくみあわせなど、値段を考えると、本当にすてきなアンプだと思うけれど、つかっているスピーカーがフロアタイプならいいが、ブックシェルフだと、30W+30Wということで、充分な結果は得られないのではないか。小さなスピーカーをつかおうとすれば、大きなアンプが必要になり、大きなスピーカーをつかっていればアンプは小さくてもいいというのは、どうしようもないパラドックスのようだ。
 パワーをいれたら、007は、その愛らしい姿に似あわず、張りのある音をだしたが、それはどうやら彼の(007だから、やはり、彼というべきだろう)本領ではないようだった。
 自分のきく位置を、普段より前に、つまりスピーカーの近くにしてみた。音がかなりなまなましくなった。007の横腹は、ローズウッドというのか、小し赤っぽい木でできている。ともかく、その木の材質は、ぼくのつかっている机と同じで、そのことから思いついて、ぼくの机の幅は一七五センチあるが、机の両すみにおいてみた。スピーカーの横腹の材質と机のそれとが同じだから違和感は、まったくなかった。それに、音も、さらにチャーミングなものとをった。
 結局、その夜は、レコードをあれこれとりかえながら、机にむかって、007をきいてすごした。楽しい夜だった。ごく親しい、気のおけない友だちと、のんぴりすごした後のようをここちよさが、残った。
 しかしぼくは、次の日の朝、机の上の007をおろしてしまった。理由はふたつあった。ひとつは、しごく単純なことだった。仕事をする時、ぼくは机の上にさまざまな資料をひろげてする習慣で、その際、スピーカーがふたつも場所をとっていてはじゃまだったからだ。もうひとつの理由は、少し複雑だった。ごく親しい、気のおけない友だちと、のんびり時をすごす──ことに対しての、不安を感じたからだった。それはむろん、わるいことじゃない。大変に楽しいことというべきだろう。できることなら、くる日もくる日も、そうやってすごしたいと思うほどだ。
 しかしぼくは、同時に、音楽をきくことを、精神の冒険たらしめたいとも思っている。せっかくレコードをきくのだったら、あそび半分にはききたくないと思う気持がある。そう思っているききてにとって、ききてをくつろがせる007の音は、危険きわまりない。この007は、ききてをおびやかさない。ピストルを持たない、つまり凶器をもたない007だ。007に対決すべきスペクターは、けっこうのんびりできてしまう。007は、やはり、安全装置をはずしたピストルの銃口を、こっちにむけていてほしいと思ったりした。
 ぼくは、自分でもあきれるほど、ケチだ。せっかく買ってきたレコードだから、そのレコードに入っている音は全部ききたいと思う。もしそのレコードがライヴレコーディングされたものなら、聴衆のひとりのしわぶきひとつききのがしたくないと思う気持がある。なんのはずみでかポケットからころげおちた十円玉をひろおうとしてタクシーにひかれそうになるのがぼくだとすれば、テクニクス007には、そんなぼくを、お前はなんてケチなんだ、もっとおっとりしていたらどうなんだといさめるところがある。007のいうことは、もっともだと思う。もっともだと思いつつ、腰を丸めて十円玉をおいかける自分が悲しい。そこで気どっていられないところに俺の、俺だけの栄光があるんだなどと、見栄をはったって、誰も相手をしてくれるわけではない。
 プレーヤーやアンプのつんである台には車がついているから、それを机のそばまでひっぱってきて、「RCAジャズ栄光の遺産シリーズ」のうちのあれこれを、つまみぎきした。話はそれるが、その全百枚の「遺産シリーズ」は、きいて本当に勉強になるし、おもしろい。特に、ジェリー・ロール・モートンの巻などは、傑作だ。最近は、朝がはやい。きがついたら、東の空がぼんやりと白くなっていた。結局ぼくは、ピストルを持たない007と、朝まで、レコードをききつづけたことになる。
 山椒は小粒でもぴりりと辛い──という言葉を思いだしたのは、翌日、目をさましてからだった。ききては、いずれにしろ、ぴりりと刺されることを期待しているのではないか。甘やかされると、甘やかされたことを不満に思うようなところが、ききて一般にあるといえるかもしれない。
「山椒」の「ぴりり」が、007にほしいと思った。望みすぎになるのだろうか。たっぶりとした、底力のある低音は、でればそれにこしたことはないが、それは多分、フライ級のボクサーにアリみたいをボクシングをしろということになるだろう。もしそんな音がでてきたら、それはそれですばらしいことにちがいないが、ぼくはその時、007のチャーミングを容姿を、いぶかしみの目で見るにちがいない。
 蜂が尻からチロチロっとだす針のような高音がここからきこえた時、007の前のスペクターは、音楽をよりヴィヴィットにうけとめられるようになるだろう。指でつままれて、蜂は、チロチロと尻から針をだす。針先に夏の太陽が光って美しい。蜂の針は、蜂がいきていることの、なによりのあかしだろう。そういうきらめき、かがやき、生気がほしい。小柄な女の子がきらっと瞳を光らせると、とってもチャーミングだ。なのに、この007は、なんとなく伏目がち。
 三〇畳も四〇畳もある広い部屋に住んでいれば、どうということもないのだろうが、そうではないものだから、山のようなスピーカー、岩のようをアンプを、敬遠したくなる。そのためのスペースがあるなら、レコードや本をおいておきたい。おそらくこういう考え方は、おそらく非オーディオ・マニア的発想ということになるだろうが、ぼくはそう思う。当然、小さい方が好ましいということになる。しかしその一方で、再生装置は道具でもあるから、性能ということが問題になる。小さければ小さいほどいいといいきれないところにむずかしさがある。それともうひとつ、使い勝手のことも考えないといけない。いろいろのことを考えあわせないといけないからむずかしい。
 今、普段は、壁につけた大きをスピーカーできき、夜中になって、よほど大音量でききたくなったらヘッドフォンをつかうという方法をとっているが、007を机の上にのせてつかって気がついたことがある。ヘッドフォンとスピーカーの中間のもの、つまりごく近くできいてはえるもの、たとえば面とむかってきくからフェイスフォンとでもいうようなもの、そんなものは考えられないのだろうか。むろんそのフェイスフォンにも、蜂の針のチロチロがほしい。
 どうも今のオーディオ機器全般は、こうあるべきものというところにとどまっていて、つかいてに対しての歩みよりにかけるところがあるように思えてならない。

テクニクス SB-4500

岩崎千明

スイングジャーナル 8月号(1976年7月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 テクニクスにおけるオーディオの姿勢は、その着手の当初からひじょうに明確であって、オーディオをあくまで技術的、理論的視点から正しくとらえ、推進してきたといってよかろう。いわゆる電気的請特性、調査と計測によるあらゆるデーターを土台にし、開発が進められてきたのだろう。その時期その時期において発表された製品は、非常に長い期間諸特性の優秀さという点で.他社製品に一歩優先してきたものが少なくない。ロングセラーの優秀品がテクニクス・ブランドには指おり数えるほどに多いのも、こうした技術的裏付けがあってのことというべきだろう。
 永い間、低迷し、初期のモノーラル時代における輝やかしいキャリアが途絶えていたスピーカーが、この一年間驚くべき成功をなしとげた。その源は単に計測一辺倒だったスピーカー開発テクニックを、新たなる実際的な手段によって音楽的完成度を得たからだ。SB7000を筆頭とするシリーズの質の高さについてはすでに多く述べられ、いまさらここにいうまでもないが、比較試聴を最終的な決め手として今までになく重要視した成果といえよう。
 マルチ・ウェイの各スピーカー・ユニットを、聴き手から正確に等距離におき、ボイス・コイルを同一平面上に配置するという具体的な手法を採用して、各ユニットからの音波の位相をそろえるという国産スピーカーでは始めての特徴をアピールして、それが、過去の不評を根絶するのに大きく役立ったことも効果的だった。
 テクニクスのスピーカー・システムは、国内市場の数ある製品の中で、最も注目され、関心をそそられる製品として今や位置づけられることになったのである。SB7000を筆頚に、6000、5000とシリーズの陣容が整ったところで、このシリーズをたたき台とした新しいスピーカーのシリーズが誕生した。SB4500である。
 今までのシリーズに比べて、外観的にも、それははっきり特徴づけられる。ウーファーのエンクロージャーの上に、まったく独立して、ドーム型高音ユニットが箱の上にのせてあるという感じで設けられていた今までのシリーズに比べ、今度のSB4500は、コーン型に変更された高音ユニットは、25cmウーファーのエンクロージャーの上部を一段後退させた部分に取付けられている。従ってスピーカー・システムとしては、上端をへこませたブックシュルフ型といってもよかろう。
 少なくとも、今までのシリーズの一般のブックシェルフ型より不便をかこつ欠点は、新しいシリーズにおいては、解消されたといえる。これは、小さいことのようだが、実用上非常に大きなプラスであり、商品としての完成度を高めている。ところで、SB4500が登場した本当の意義、ないし狙いは、その音と、26、000円台という価格に接する時、始めて判断できよう。今までのテクニクスのスピーカーのもつ共通的特徴から明らかに別の方向に大きく一歩踏み出すという姿勢と、更にその成果とをはっきりと知らされる。今までの、ともすると「品がよくて、耳当りのよい素直な音」というイメージではない、「力」をまず感じさせる。その「力」も、この言葉を使うときに、例外なしにいわれる低音のそれではない。いわゆる中音域、中声部、あるいは、歌とか、ソロとかいわれる音楽のなかの最も情報量の多い、従ってエネルギー積分値の大きい音域で、力強さをはっきりと感じさせてくれる。今までのテクニクスのスピーカーにはなかった音だ。あるいは、今までが優等生なら、今度のSSB4500は少々駄々っ子だが、魅力的個性を発揮するタイプといったらよかろうか。だからその音は、いきいきして、躍動的で、新鮮だ。深く豊かな低音と、澄んだ高音が、この力ある鮮度の高い中音を支えて、スペクトラム・バランスもいい。さらにテクニクスの伝統的な技術的裏付けもデータから、はっきりとうかがうことができ、うるさ型のマニアも納得させることだろう。こうした新路線のサウンド志向は、今日的な音楽に対向するものであることはいうまでもないが、これを受け入れる層の若い年令を考慮して2万円台の価格となったに違いない。しかし、このサウンドを獲得するのに必要なユニットへのマグネットなど物的投資を確めると、この価格は驚くほど安いといえるだろう。

テクニクス EPC-270C-II, EPC-405C, EPC-205C-IIS, EPC-205C-IIL, EPC-205C-IIH

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 205CIILは、低域のダンプが適度であり、音の粒子も滑らかで細かいタイプである。全体に、汚れがなく耳あたりがよいソフトで爽やかな音をもった、素直な性質のカートリッジという印象である。聴感上の帯域バランスは、ナチュラルさがあるワイドレンジ型で、低域はやや甘口、中低域あたりに柔らかく響く間接音成分が感じられて、トータルな音の表情をおだやかなものとしている。ヴォーカルは、声量が下がった感じとなり、おとなしく、子音を強調せずスッキリとしている。ピアノはクリアーだが甘い感じがあり、やや広いスタジオ録音的に響く。性質はおとなし素直で控えめである。
 205CIIHは、Lとくらべると全体に音がソリッドであり、温度が下がったような爽やかな感じとなる。ヴォーカルは、力があり線が少し太くなるが、音像はクッキリと前に立ち、子音を少し強調するが、実体感につながる良さと受け取ることができる。ブラスの輝き、ピアノの明快さ、スケール感も充分にあり、安定した音として聴かせる。音場感はLにくらべスタジオ的に明確に拡がり、定位する。細やかで柔らかいニュアンスを聴きとるためにはLがよいが、力強さをとればHの方が上だ。
 205CIISは、低域のダンプが少し甘いタイプである。帯域バランスは、やや中域が薄く、ソフトで豊かな中低域と、ややソリッドな中高域がバランスしている。ヴォーカルは、ハスキー調でやや硬く、オンマイク的な感じとなり、ピアノはスケールはあるが力がなく、ソフトな低音とカッチリとした中高音といったバランスになる。CD−4システムに使用するカートリッジとしては、中高域の音の芯が強いメリットがあるが、低域が甘く、反応が遅いのが気になる。このままでも、中域に厚味があれば、全体の音がクリアーに締り良い音になるのだろうが、ここがやや残念なところである。
 405Cは、歪感がなく、粒立ちが細かい滑らかな音をもっている。音の性質は、おとなしく、クォリティが高いが、やや音楽への働きかけがパッシブであり、控え目で美しいが、ヒッソリとした感じで活気に乏しいのが気になるようだ。聴感上の帯域バランスは、中域がやや薄く、低域もスンナリとして甘口であり、ちょっと聴きには、さしてワイドレンジ型とはわからない。ヴォーカルは、オンマイクにかなり細部を引き出して聴かせるキレイさがあるが、声量がない感じがあり、ピアノもスッキリとしているが実体感が薄れる。基本的には、汚れがなく美しい音をもつために、音量を上げて聴いたときのほうが、音に力がつき活気が出るタイプだ。
 270CIIは、低域のダンプがソフト型で甘口である。音の粒子は、他のテクニクスのカートリッジにくらべると粗く、SN比が気になることもある。低域が甘く、中域から中高域に輝きがあり、ヴォーカルはハスキー調となり、音像が前にセリ出してくる効果はあるが、力感が伴わないために、表面的な押し出しのよさになっている。

テクニクス EPC-270C-II, EPC-405C, EPC-205C-IIS, EPC-205C-IIL, EPC-205C-IIH

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 日本のダイレクトドライブターンテーブルのパイオニアとして、テクニクスの海外での人気は、非常に高く、国内においてもSP10MkIIの発表以来、他のDDターンテーブルにまた一段と差をつけた感がある。こうした技術指向の非常に高いテクニクスは、カートリッジにおいても、新素材・新技術に積極的にとり組んだ製品が数多く、他社との製品の差もそこにあるのが大きな特徴だ。
 テクニクスのカートリッジは、昭和43年に発表されたテクニクス200C以来、独特の円盤状マグネットとワンポイント・サスペンション方式が採用されている。マグネットはエネルギー積の大きいサマリウムコバルトが使われている。テクニクスのカートリッジといえば、205C/IIシリーズに代表されるといってもよいかもしれない。205C/IIシリーズは、最近ローインピーダンス型(250Ω・1kHz)の205C/IILと、高出力型(7mV・1kHz、5cm/sec)の205C/IIHとが加わった。さらに、205C/IIもマイナーチェンジされて205C/IISに発展している。
 270Cは、テクニクスカートリッジの中でも、もっとも普及型といえる価格で、耳あたりの良い好ましいバランスをもったものだ。高域での微妙な音のニュアンスは、普及型とはいえ充分に再現してくれる点が魅力といえる。ただし、低域の量感やエネルギー感は残念ながら今ひとつ物足りなさを感じてしまう。
 405Cは、チタンカンチレバーを採用したテクニクスの高級仕様を狙った意欲作といえるものだ。全体に強く抑え込んだフラットレスポンスの特性が頭に浮かぶような、ワイドレンジ感をもたせる音だ。ただし高域にいくにしたがってエネルギー感が増し、結果として低域の量感の乏しさを感じさせてしまう。こうした印象は、どうもテクニクスのカートリッジ全般について感じられてしまう大きな特徴のようだ。この405Cのもっているそうした音の印象は、音楽を無機的な表現にしてしまい、聴き手との間に距離感をもたせることになってしまう。音楽の中に飛び込んでいくような音というよりも、融け込むことを拒否するような印象を受けてしまう傾向がありはしないだろうか。
 205C/IISは、405の実用機種ともいうべき性質で出されたカートリッジ。実用的な意味での使いやすさから出力も標準的なもので405Cに比べて、その音はいくらかおとなしいといえる。405Cが音質チェック向きとすれば、こちらの方が一般的といえそうだ。
 205C/IILは、テクニクスの中でも405Cともっとも似た性質をもち、フラットな広帯域感が強く感じられる。405Cよりもいくらかナチュラルで無機的な印象は多少是正されている。205C/IIHは、本質的な音は、これまでのテクニクスと変らないが、中域から低域にかけての音が充実し、ソロ楽器も比較的よく出る。ステレオ感も充分だ。

テクニクス SE-9060 (60A), SU-9070 (70A)

岩崎千明

サウンド No.7(1976年発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(アンプ編)」より

 2年ほど前から、米国の新しい小さな電子メーカー、マークレビンソンのプリアンプの優秀性が話題となっている。プリアンプといっても、フォノイコライザー回路を独立させて、それに左右独立の音量調整用ボリュームをつけた形の、純粋にディスク再生のための文字通りのプリ(補助)アンプであって、トーンコントロールやフィルターさえ付いていないが、雑音発生量が極度に抑えられていて、いわゆるSN比は今までの常識よりはるかによい。そのために小さなレベルでの再生がきわだってクリアーでスッキリしている。こまやかなニュアンスもよく出る。こうした点が、高級マニアの注目するところとなった。ただ、あまりに高価で、VUメーターのついたのが90万円を軽く越し、メーターなしの超薄型のでも50万円を越すという驚くほどの価格だ。誰にでも買えるものではないが、この高価格なのが又、新たな話題となって、ますます注目されるという2重のプラス(?)を生んでいる。ただし、うまい商品であるし、商売でもあろう。
 商品としての巧妙さは、また逆にその裏をかかれることにもなるが、持ち前の電子技術を誇る日本のメーカーが黙ってみているはずがない。この半年に、マークレビンソンのフォノイコライザー・アンプを狙った製品がいくつか出てきた。その一番バッターがテクニクスの70Aだ。外観的にはよく似たアンプで、SNもかなりよく、性能的にはテープモニターを2系統プラスしている。音の方も、より暖か味ある日本のマニア好みの音だ。肝腎のSNの点で、もう一歩という所だが、7万円という価格からは止むを得ないのだろう。プリント回路の質的な面で、もう少し良ければなあと望むのは欲ばりすぎかも知れないが、パワーアンプ60Aの出来具合のすばらしさにくらべて、プリの内側はちょっと淋しい。パワーアンプ60Aは、8万円という価格の中で外観、内容とももっともユニークかつ魅力を持ったアイディアと個性にあふれた製品だ。組合わせて聴くと、おとなしい音は大人のマニア向けという感じで生々しく、自然な響きが質の高さを示す。

テクニクス SU-8600, SU-8200

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 最近のアンプに目立つ傾向として、電源部分の音質に影響する点に着目して電源部の強化や、セパレート型のパワーアンプに採用されることが多い左右チャンネルの電源独立の手法が、プリメインアンプのパワーアンプにも採用されるようになっている。しかし、ことパワーアンプに関しては、かつてから経験豊かなファンはモノ構成のパワーアンプを使うことが音質を良くすることを熟知していたし、製品ではマランツの最初のソリッドステート・パワーアンプ♯15が、独立したモノアンプ2台でステレオアンプとしていたことは忘れられない。
 テクニクスのアンプは、従来から物理的な特性を重要視して、特性の優れたアンプが結果として音質の良いアンプをつくり出すというポリシーで開発されているように思われるが、今回の新しい2機種の8000シリーズのプリメインアンプも、とくに動的なトランジェント歪を追求して開発されたとのことである。
 音楽信号のように変化が激しい信号を増幅する場合には、安定度の悪い電源を使うと、無信号でにはアンプが最適動作点であったとしても、信号により電源が変動すると最適動作点からはずれて歪を発生することになり、これをトランジェント歪といっている。この解決は電源部の強化がもっとも有効で、SU−8600では3組の±電源をもつために±6電源方式をキャッチフレーズとし、さらにテクニクス独自のセルフトランジェント歪測定法により、一層の低歪化が図られている。
 フロントパネルは、2機種ともに横幅にくらべて高さが高く、両サイドにある大型のナットがメカニックな感じを出している。大型のボリュウムコントロールは、−30dB〜−40dBの間が2dBステップとなっている26接点のディテント型で、ラウドネス端子が設けられているために、小音量時には自動的に低域が増強されるタイプである。トーンコントロールは高音、低音ともにターンオーバー2段切替型で、SU−8600だけはトーンディフィートスイッチが付いている。フィルターは、SU−8600が12dB/oct.、SU−8200は6dB/oct.である。
 回路構成は、SU−8600の方がイコライザーに差動回路、変形SRPPの2段直結型、トーンコントロール段がカレントミラー負荷をもつ差動増幅を初段とした3段直結型、パワーアンプが差動増幅、エミッターフォロアー電圧増幅、出力段の構成で電源部の電解コンデンサーは15000μF×2となっている。
 一方SU−8200は、イコライザーがカレントミラー負荷差動回路と定電流負荷のエミッターフォロアーの2段直結型であり、パワーアンプは差動増幅、電圧増幅、出力段のシンプルな構成である。電源部は、プリアンプとパワーアンプが独立しており、イコライザーとトーンコントロールは定電圧化されている。

テクニクス EPA-101L, EPA-102L, EPA-121L, PLUSARM-101T, PLUSARM-102T, PLUSARM-121T, EPC-205C-II, EPC-205C-IIL, EPC-205C-IIH, EPC-405C, EPC-440C

テクニクスのトーンアームEPA101L、EPA102L、EPA121L、PLUSARM101T、PLUSARM102T、PLUSARM121T、カートリッジEPC205C-II、EPC205C-IIL、EPC205C-IIH、EPC405C、EPC440Cの広告
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

Technics

テクニクス SL-1100, SL-1200, SL-1300, SL-1350, SL-1500, SL-55, SL-110, SL-120, SP-10MKII, SP-12

テクニクスのアナログプレーヤーSL1100、SL1200、SL1300、SL1350、SL1500、SL55、ターンテーブルSL110、SL120、SP10MKII、SP12の広告
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

SP10MKII

テクニクス SB-6000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 左右に思い切り広げて設置して、適度に壁から離し、ブロック1~2個程度の頑丈な台に乗せる。そして、両スピーカーから等距離の正しい聴取位置で聴くと、眼前に、幕を一枚取り除いたような空間の広がりと奥行きが展開する。こういうエフェクトを楽しく聴かせるのが、今回のSB5000と7000を含むテクニクスの新シリーズの共通の特徴だ。この感じは、最近のヨーロッパ系の優秀なスピーカーシステムが聴かせてくれるエフェクトと同質だがSB6000の場合、この価格、ということを考えに置くと、音質の方に2~3注文をつけたくなる。第一二、SB5000のところでも書いたが音を隈どる輪郭の質感に、なんとなくザラつく感じ、この価格としてはもうひとつ磨きが不足しているような感じが残ること。もうひとつ、小音量のときは良いがパワーを上げると、弦や声で中域に多少きつい感じが出てくることだ。むろん、それらは水準以上のスピーカーシステムであることを認めた上での注文だが。

採点:88点

テクニクス SB-5000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 左右のスピーカーの置き方と聴取位置の関係を正しく選ぶと(36号96ページの図d)、ステレオのひろがりと定位と奥行きを、みごとに展開して聴かせる点、やはりSB7000の兄弟の良さだ。音のバランスは、低音から高音までの出っ張り引っこみをよくおさえて、やかましさの少ない、欠点の指摘しにくいところまで仕上っている。価格の割にキャビネットの大きいせいもあるためか、国産のローコストグループの中では、低音も豊かだし音にふくらみも適度の艶も一応あって、楽しめる製品といえる。ただ、オーケストラでもソロでも、ベースの低音域あたりにやや箱鳴り的な締りのない色がついて自然感を損ないがちで、フロアータイプだがブロック1~2個分高く上げた方がいい。背面もあまり壁に近づけない方がいい。もうひとつ、価格からみて仕方ないかもしれないが、音の輪郭がたとえばコンテかパステルで描いた線のようにケバ立ってクリアーさを欠く傾向があって、他の面が良いだけに音の質感がもう一息、といいたい。

採点:88点

テクニクス SB-7000 (Technics7)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 かなり複雑な構成のオーケストラ曲でも、パートごとの音の動きや和音の積み重なりや、一音一音のニュアンスに至るまで、みごとに解像して聴かせてくれる。当り前といいたいところだが、こういう鳴り方のスピーカーはそんなにザラにあるわけではない。ステレオのひろがりも音像定位もきわめて満足すべき結果を示した。ただ、この製品は、フロアータイプであるにもかかわらず、ブロックなど堅固な台を30センチ以上積んで、できればスピーカーとの間にインシュレーターを挿入して、キャビネットの振動を床に伝えないようにすることが望ましい。また、背面及びキャビネットの両サイドを左右の壁面から十分に離した方がいい。あらゆる面でヤマハ1000Mと対照される製品だが、ヤマハのクールな鳴り方に対して暖かい音。ただし低音の豊かさが楽器によってはやや締りの不足を感じさせたり、わずかながら箱鳴り的な鳴り方に聴こえる。9万円の製品には高望みかもしれないが、さらにここに極上の品位やつやがくわわれば最高水準に仕上がるはず。

テクニクス SU-9400

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 SU3500の音質にも、いかにもテクニクスの性格がよく出ているが、SU9400もそれをベースに、きれいさが少々物足りないほど、端正でよく整理された音を聴かせる。