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ロバートソンオーディオ 2020

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 パワーリニアリティの卓越したパワーアンプとして、注目のうちに国内に登場した2モデルのパワーアンプ6010、4010に続く、シンガポールのロバートソンオーディオ社の新製品が、このコントロールアンプ、2020である。
 基本的な設計ポリシーは、伝統的なアナログディスクをハイクォリティで再生するために、機能面を必要最少限に簡潔化した、フォノ重視型プリアンプといった性格が、このモデルの特徴である。
 剛性感のあるコンストラクションをもつ筐体は、高性能コントロールアンプのひとつの典型ともいえる専用電源部をもつセパレート型で、視覚的にもその内容に相応しく、簡潔さが本機の個性だ。
 回路構成は、MC型カートリッジ用ヘッドアンプ、フォノイコライザーとトーンコントロールやフィルター類のないシンプルな23dBのゲインをもつフラットアンプの3ブロック型である。MC入力は、負荷抵抗が100?Ωと500Ωの2段切替、入力セレクターはCD、チューナー、AUX、AVと、独立した1系統のテープ入出力端子を備える。その他、出力端子の直前に、スタンバイスイッチと名付けられた送り出しスイッチがあり、プリアンプ出力をカットアウトすることができる。
 試聴には、本来のベアである、4010か6010パワーアンプが望まれるが、都合により用意されていなかったため、とりあえず、数種の国産パワーアンプと組み合わせてヒアリングをすることにした。
 基本的には、適度にレスポンスをコントロールした、安定感のある帯域バランスをもち、音色はやや明るく一種独得のエッジの効いた、硬質な魅力をもつ音が特徴である。そのため、とかく薄く表面的な音となりやすいCDもプログラムソースとしても、比較的に音の彫りが深く、アナログディスク的なイメージのサウンドになり、この音ならデジタル嫌いのファンでも安心して音楽が楽しめるだろう。
 フォノ入力系は、低インピーダンス型MCでも、聴感上でのSN比は充分にあり、比較的に生じやすい、フォノ系の信号のCDやAUXなどのハイレベル入力系へのクロストークが少ないのが特徴である。
 力−トリッジは、AKG・P100LE、デンオンDL304、オルトフォンSPUを用意したが、安定感のある低域をベースとしたSPUの、いかにもレコードを聴いている、という実感あふれた音が、このアンプには好適の組合せである。
 CD入力は、ソ二−CDP552を使ったが、アバド/シカゴの幻想のアナログ的なまとまり、パブロの’88ベイシー・ストリートのライブホール的なプレゼンスのある力強いサウンドなど、独特の硬質な魅力は、やはり国内製品にないものだ。

パイオニア S-9500DV

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 パイオニアから新製品として登場したスピーカーシステムS9500DVは、そのモデルナンバーが示すように、従来のS9500をベースに大幅な改良が加えられ、内容を一新したシステムである。
 改良のポイントは、低域磁気回路の防磁化と、エンクロージュアでのラウンドバッフル採用と、形式がバスレフ型から密閉型に変更されたことがあげられる。
 磁気回路の防磁化は、単にTVなどへのフラックスによる色ずれを避ける目的に留まらず、エンクロージュア内部に位置するネットワーク用コイル、配線材料、アッテネーターなどへの磁束の影響がなくなり、歪が減少するメリットは非常に大きい。
 また、エンクロージュアのラウンドバッフル採用は、現在のスピーカーの大きな動向であり、情報量が非常に大きいCDの普及も、プレゼンスに優れたこのタイプに移行する背景となっていると思う。次に、エンクロージュア形式のバスレフ型から密閉型への変更は、現在のバスレフ型を中心としたパイオニアのスピーカーシステムとしては異例なことであるが、伝統的には、ブックシェルフ初期の完全密閉型として定評の高いCS10以後の密閉型システムの技術は現在でも保たれているはずである。
 ユニット構成の基本は前作を受け継いでおり、ウーファーは2重ボイスコイル採用のEBD型で、駆動力の直線性を向上するリニア・ドライブ・マグネティック・サーキットの新採用と、二重綾織りダンパー採用のダイナミック・レスポンス・サスペンション方式、フレームの強度向上などが特徴。スコーカーは、イコライザーの2重ダンプ処理、新開発ケミカルエッジ・ウーファーと共通の低抵抗リード線採用などが改良点だ。トゥイーターは、低磁気漏洩設計と防磁カバーの防振処理が特徴である。
 ネットワークは、中域と高域用で基板を廃した低損失化と高域でのバランス回路化が改良点であり、エンクロージュアは、黒檀調リアルウッド仕上げで、重量は4kg増しの37・5kgである。
 試聴は、同時発売のウッドブロックスピーカーペースCP200を使って始める。基本設置は、左右の幅は側板とブロック外側が合った位置、前後はブロックの中央とされているために、これを基準とする。聴感上の帯域バランスは、異例ともいえるほど伸びた、柔らかく豊かな低域をベースに、穏やかだが安度感もあり安定した中域と、いわゆる、リボン型的なキャラクターが感じられないスッキリとしたナチュラルな高域が、スムーズなワイドレンジ型のバランスを保っている。音色は、ほぼニュートラルで、聴感上のSN比は、前作より格段に向上しており、音場感的情報はタップリとあり、見通しがよく、ディフィニッションに優れ、定位は安定感がある。ウッドブロックの対向する面に反射防止のため、フェルトをあてると、中高域から高域の鮮明さが一段と向上し、高級機ならではの質的な高さが際立ってくる。使用上のポイントは、良く伸びた低域を活かすために、中高域から高域の鮮度感を高く維持する設置方法や使いこなしをし、広いスペースを確保する必要があるだろう。

コーラル DX-ELEVEN

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 コーラルのスピーカーシステムは、伝統あるユニット専業メーカーとしての独自の技術を活かしたユニットを基盤にシステムアップされている特徴があるが、今回、発売されたDX−ELEVENは、同社初の4ウェイ構成、完全密閉型ブックシェルフシステムである。
 ユニット構成は、低域が項角の異なった2枚のカーボングラファイトを重ねたモノコックコーンで、ネック部分に円型のクボミ型メカ二カルフィルター付で高域をカットする構造を採用し、ボイスコイルはOFCエッジワイズ巻き。磁気回路はバランス型で、直径160mmのマグネットと銅キャップによる低歪設計が特徴。中低域は口径10cmの超大口径ハードドーム型で、商品化されたユニットとしては、世界的に見ても最大口径であり、このシステムの注目すべき部分だ。振動板は新開発の特殊な軽合金といわれ、詳細は不明。磁気回路は、低域同様のバランス型で銅キャップ付。銅クラッドアルミ線エッジワイズ巻きボイスコイル使用で、97dBの高能率を誇る。中高域は、中低域と類似した構造と振動板採用の口径60mmハードドーム型高域は、同じく新開発振動板採用の口径22mmハードドーム型である。
 クロスオーバーは、280Hz、4kHz、8kHzと発表されており、中低域と中高域のクロスオーバーが、使用ユニットの口径から予想される数値より大幅に高い周波数4kHzであることが特筆に値する。
 エンクロージュアは、前後バッフルが15mm厚パーチクルボードの2枚貼合せ使用。側板、天板、底板は、25mm厚パーチクルボード採用で、前後ともラウンドバッフル構造の完全密閉型。ネットワークは、低域が独立した2分割型で、音帯域にマッチした素材を投入した高性能設計で、高域と中高域共用の連続可変型アッテネーター採用。
 木製のスタンド上に置き、システムのあらましを聴いてみる。タイトで、少し抑え気味の低域をベースに、穏やかで安定した中低域、輝かしく明るい中高域とシャープな高域が、やや高域に偏った帯域バランスを聴かせる。使いこなしの第一歩は床に近付けて低域の量感を豊かにすることだ。コーラルのBS8木製ブロックに似た高さ20cmほどの木型ブロックに置き直してみる。かなり、安定型になるが、基本的な傾向は変らない。そこで、10cm角ほどの木製キューブの3点支持を試してみる。バランス的にはナチュラルであるが、中高域ユニットのエージング不足のせいか、表情が硬く、アコースティックなジャズなどでは抜けが良く聴こえるが、クラシックの弦楽器では、線が硬く、しなやかさが少し不足気味である。そこで、かなり大きくトータルバランスが変化する高域と中高域連動のアッテネーターを絞ってみる。
 変化は、かなりクリティカルではあるが、最適位置での音は、引締まった低域をベースとした、明るく抜けの良さが特徴である。
 使用上のポイントは、壁やガラスなどの部屋の反射の影響を受けやすいタイプと思われるため、カーテンなどで響きを抑え気味にコントロールした部屋で使えば、4ウェイらしい音が楽しめるだろう。

ロジャース LS7

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 英国ロジャース社のスピーカーシステムには、BBCモニターシステムとして有名なLS5/8、LS5/9、LS3/5Aなどのシステムの他に、一般のコンシュマー用として開発されたスピーカーシステムが数多く存在するが、今回、新製品として試聴をしたモデルは、ドメスティックシリーズとして登場したLS1、LS5、LS7の3モデル中のトップモデルLS7である。
 LS7は、独自のポリプロピレンコーンと超高耐熱ボイスコイルを採用した205mm口径ウーファー、R205ユニットと25mmソフトドーム型セレッション製T1001を組み合わせた2ウェイシステムで、最大入力300Wを誇るシステムである。エンクロージュアは、バスレフ型が採用され、仕上げはチークとブラックがあるが、構造上の特徴として、STUDIO−ONEシステムで開発された特殊ファイバーレジン材が、前後のバッフルに採用してある。
 スピーカーの試聴でつねにポイントになるのが、スピーカーを置く台であるが、ロジャースにはSTUDIO−ONEとLS7用に、スピーカースタンドSS40が別売で用意されているため、ここではこのスタンドを使い聴くことにする。
 使用機器は、このところリファレンス的に使っているデンオン2000Zと3000Zのペアとソニー552ESである。
 SS40は、台の底の部分に鋭い針のような突起部があり、これでカーペットなどを貫通して床に直接スタンドを設置できる構造が特徴である。まず、基本的な間隔と聴取位置からの距離だが、平均的な置き方よりはやや間隔を広く、距離もとったほうが、英国系のシステムでは音場感的にも拡がり定位もクリアーで、いわゆる、見通しのよいサウンドになるようだ。
 LS7は、しなやかで適度に明るく弾む低音と、スッキリと細部を聴かせる爽やかな高音が巧みにバランスした、気持ちよく音楽が聴けるタイプで、物理的特性の高さを基盤としたトランスデューサーとして完成度の高い国内スピーカーシステムとは明確に一線を画した、異なった出発点をもつ、フィデイリティの高いサウンドである。
 左右のスピーカーの聴取者に対する角度は、音場感、定位感をはじめ、音像の立つ位置に直接関係するポイントであるが、わずかに内側に向けた程度が、音場感がキレイに拡がり、見通しもよいようだ。音像定位は小さく、かなり輪郭がクッキリとした特徴があるが、このあたりはSS40のもつキャラクターが適度にLS7の音にコントラストを与えているようで、この種のシステムとしては、中域のエネルギー感がそれなりに感じられるのが好ましい。
 スピーカーケーブルは、同軸、平行線、スタッカートなどの構造およびOFCなどの材料の違いを含め、各種試みてみたが、純銅線採用というISORAのスピーカーケーブルが、トータルバランスが良く緻密さもあり、粒立ちの良い音が楽しめる最終的なバランスは、SS40上での前後方向の位置移動で整えるとよい。中央やや後ろで、表情豊かな雰囲気のよい音になる。

ハイフォニック MC-A5B + HPA-6B

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ハイフォニツクのカートリッジは、最新の力−トリッジ技術を象徴する軽量振動系を採用した、軽針圧、広帯域、高SN比の設計が特徴であり、創業以来短期間ですでに高い評価を受けているが、今回、新製品として登場したモデルは、既発売のMC−A3、A5、A6、D10という一連の空芯高インピーダンスMC型をベースに、左右チャンネルのコイルの中点を引出して、通常のアンバランス4端子型から、業務用機器などで採用されているバランス型6端子構造を採用したMC−A3B、A5B、A6B、D10Bの4モデルで、型番末尾のBは当然のことながらバランス型の頭文字を表わしている。
 このカートリッジのバランス化に伴ない、昇圧トランスもバランス入力をもつ専用タイプが開発され、従来のRCAピンプラグ型に変わりDIN4ピン型の入力コネクターが採用されている。
 また、バランス型を採用すると最大のネックになるのはトーンアームである。この解決方法としては、デンマークのメルク研究所とハイフォニツクで共同開発したといわれる、低重心型の支点が高い位置にある一点支持オイルダンプ方式トーンアームHPA4を6端子型に改良したHPA6Bが用意されている。このアームは、一般のいわゆるオルトフォン型ヘッドシェル交換方式ではなく、回転軸受部近くにあるコネクターを含み、アームのパイプ部分を交換するタイプで、一点支持型で不可欠なラテラルバランスは、偏芯構造となっているバランスウエイトを回転させて行なうタイプである。
 今回試聴したモデルは、MC−A5Bで、原型は特集のカートリッジテストに取上げたMC−A5である。発電コイルの構造は、非磁性体の十字型コイル巷枠を使ったMC型で、センタータップは右チャンネル橙色、左チャンネル空色がピンにマーキングしてあるため、通常の左chが自/青、右chが赤/緑の端子のみを使えば、4端子型のMC−A5とほぼ同等に使えるわけだ。
 業務用機器関係でも一部では、信号系が一般オーディオ機器と同じくアンバランス化の傾向があるのに、何故オーディオ用のカートリッジのバランス化が必要なのであろうか。この疑問への簡単な解答は、バランス型の最大の特徴である『SN比が優れている』の一言につきるだろう。
 つまり、SN比が向上すれば、ローレベルでのノイズのマスキングが減少し、音に汚れが少なく、透明感、織細さが向上し、音場感的には、ノイズが少なくなっただけモヤが晴れたかのように、見通しのよいプレゼンスが得られる、ということになる。
 プレーヤーにトーレンスTD126を選び、HPA6BをセットしてMC−A5Bを聴いてみる。広帯域型の典型的なレスポンスをもつ、やや中域を抑えた爽やかな音と、ナチュラルだがコントラストが薄い傾向のMC−A5に比べて、本機は一段と表現がダイナミックになり、さして中域の薄さも感じられず、一段とナチュラルでリッチな音を聴かせる。試みに6端子中点を外しセミバランス型として比較をしたが、この差は誰にでも明瞭に判かる差だ。

マイクロ BL-99VFII

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 エアベアリング、バキュウム吸着方式のターンテーブルなどに代表されるユニークなベルトドライブプレーヤーでレコードファンの熱い支持を集めているマイクロのベーシックシステムがBL99Vであり、これに、それぞれトーンアームでは実績のある、FRとSAECのアームを組み合せたシステムが、BL99VFとBL99VWの2モデルだが、今回、このうちBL99VFに改良が加えられて、BL99VFIIに発展した。
 モデルナンバーからも推測できるように、改良のポイントはFR製のトーンアームにある。このトーンアームは、基本形は従来のFR64fxであるが、その仕上げと内部配線材、出力コードの線材を変更したタイプである。
 まず、大きく変わったのは仕上げで、従来のブラックからシルバー梨地仕上げとなり、内部の配線材は注目のLC−OFC使用になった。この点では、FRの新製品であるFR64fxProが各種の線材を試作検討した結果、LC−OFCではなく、線径を太くしたオーソドックスな軟銅線を採用した、と発表されているのと好対象で、マイクロでは独自の判断によってLC−OFC線材を選んだということになるわけだ。
 この線材の材料が、軟銅線、OFC線、LC−OFC線、それに構造面で異なるリッツ綾などの違いによって現われる、結果としての帯域バランス、音場感、スクラッチノイズの質と量の変化など、音質にかなりの影響があるだけに、この両者のアームを各種のカートリッジで比較試聴したら、さぞ面白いことであろう。
 なお、アームからの出力コードは、内部配線材と共通なLC−OFCのシールド線で、試聴用セットにはアーム部のコネクターがL型のタイプが附属していたが、正規の製品はストレートなタイプであるとのことである。
 試聴には、特集ページのカートリッジテストに使った、アキュフェーズC200LとP500のセパレート型アンプとJBL4344を組み合せ、試聴用力−トリッジはデンオンDL304、その他を使うことにした。
 試聴に先だって、BL99VFIIの4個所のインシュレーター高さ調整スクリューで水平度を調整する。最近では、この調整はあまり行なわれていないが、プレーヤーではこの調整がもっとも重要なポイントであり、ラテラルバランス、インサイドフォースキャンセラーに影響がある。
 続いて、アーム高さ調整、バランス調整を経て、針圧、インサイドフォースキャンセラー調整、これだけの調整が必要であるわけだ。次は、モーターと吸着用ポンプのACポラリティチェックだ。とくに、ポンプは無視しがちだが、これが、予想外に大きく音質に影響する。簡単にチェックポイントを述べれば、音場感がきれいに拡がり、とくに奥行きの見通しがよく、スッキリとした音を選ぶのがポイントだ。
 BL99VFIIは、ベルト駆動型独特なリッチな低域ベースの安定感のある音と抜けの良い高域がバランスした好製品である。

京セラ A-710

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 京セラのセパレート型アンプは、独自の振動解析に基づいた筐体構造を採用して登場した、オリジナリティ豊かな特徴があるが、今回発売されたA710は、プリメインアンプとして同社初の国内発売モデルである。ちなみに、一昨年度のオーディオフェアで発表されたプリメインアンプは、基本構造が共通のため見誤りやすいが、あのモデルはセパレート型アンプなどと同じ910のモデルナンバーを持つ本機の上級モデルA910であり、既に輸出モデルとして海外では発売されており、本機に続いて国内でも発売されるようだ。
 A710は、A910のジュニアタイプとして開発されたモデルで、外観上では、筐体両サイドがアルミパネルから木製に変わっているのが特徴である。基本的に共通の筐体を採用しているため、回路構成にも共通点が多いが、単なるジュニアモデル的な開発ではなく、シンプル・イズ・ベストのセオリーに基づいて、思い切りの良い簡略化が実行されている点に注目したい。
 それはこのクラスのプリメインアンプには機能面で必須の要素とされていた、バランスコントロールとモードセレクターを省略し、信号系路でのスイッチ、ボリュウムなどの接点数を少なくし、配線材の短略化などにより信号系の純度を保つ基本ポリシーに見受けられる。つまり、一般的な最近の機能であるラインストレートスイッチとかラインダイレクトスイッチと呼ばれるスイッチを動作させたときと、本機の標準信号経路が同じということだ。
 さらに同じ構想を一歩進めたダイレクトイン機能が備わる。この端子からの入力は、ボリュウム直前のスイッチに導かれており、0dBゲインのトーンアンプをバイパスさせれば、信号はダイレクトにパワーアンプに入る。簡単に考えれば、ボリュウム付のパワーアンプという非常に単純な使用方法が可能というわけだ。
 出力系も同じ思想で、パワーアンプは出力部に保護用、ミュート用のリレーがなく、回路で両方の機能を補っており、信号はリレー等の接点を通らずダイレクト出力端子に行き、その後にスピーカーAB切替をもつ設計だ。
 その他、MC型昇圧にはトランスを使用、左右対称レイアウトの採用、信号系配線にLC−OFCケーブル採用などが特徴。
 試聴アンプは、検査後のエージング不足のようで、通電直後はソフトフォーカスの音だったが、次第に目覚めるように音に生彩が加わり、比較的にキャラクターが少ない安定した正統派のサウンドになってくる。帯域は素直な伸びとバランスを保ち、低域の安定感も十分だろう。このあたりは独特の筐体構造の明らかなメリットだ。また、信号の色づけが少ないのは、簡潔な信号系の効果だ。華やかさはないが内容は濃い。

パイオニア PD-7010

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 CDプレーヤーとしては、パイオニアの第3世代に相当する一連のシリーズ製品のうち、まず、PD5010とPD7010が発売されたが、本誌が書店に並ぶころには、トップモデルのPD9010も発売されていることであろう。
 今回の新製品は、外形寸法的に、いわゆる標準コンポーネントサイズであり、上の2モデルはサイドに木製の側板が付属し、横幅は456mmとなっている。
 今回試聴したモデルは、中間機種のPD7010である。ベーシックモデルらしくディスプレイ関係や機能を簡潔にしたPD5010に比べ、本磯は非常に充実した機能が特徴だ。
 付属機能は、そのポイントが、カセットデッキでのコピーに重点が絞られている。付属のワイヤレスリモコンと本体のパネル面の両方にある10キーによる32曲プログラム機能、プログラム曲番が点灯するトラックディスプレイ、プログラム積算時間表示、プログラム曲をテープA面とB面に分けてコピーしたり、カラオケで歌う人が交替する間をとるときなどに役立つポーズ・プログラム機能をはじめ、全曲、プログラム、1曲のリピート機能、最初の数秒は5倍速以後は20倍速の2速正逆マニュアルサーチ、ディスクローディング後、約4秒、総曲数総演奏時間を表示、以後、演奏曲番、インデックス番号、演奏時間を表示し、タイムリメイン、トータルの時間表示切替可能な集中マルチディスプレイ、ヘッドフォン端子など、実に多彩な機能を備えている。
 技術面では、LDでの技衛を活かした独自のフォーカスパラドライブ機構、クロスパラレル支持方式などを導入した自社開発のピックアップ系、ディスクのキズや汚れによる音飛びを抑える3ビーム方式ならではのリニアサーボ方式と、万一のトラック飛びにも元のトラックに自動復帰するラストアドレスメモリーなどがあり、なかでも特徴的なものは、CDディスクの不要振動を抑えるために振動解析されたクランパーを積極的に利用したディスクスタビライザー採用があげられる。
 このスタビライザーにより、低域大振幅の不要振動が中域に移り、振幅も大幅に減少し、非常に効果的に働いているようだ。その他、サーボ系とオーディオ系別巻線の強力電源、アンプでの成果を活かしたシンプル&ストレート回路採用なども特徴だ。
 CD装着、演奏開始での音の立上がりは比較的穏やかなタイプで、自然な立上がりだ。帯域バランスは、柔らかな低域、豊かな中低域に特徴がある素直なタイプで、高域は派手さはなくナチュラルだ。音色は少し暖色系で表情も適度に活気があり、基本性能に裏付けされたクォリティと、楽しく音楽を聴かせる魅力が巧みに両立した成果は見事。CD嫌いには必聴の注目製品だ。

リン KARMA

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧で、イコライザー付ヘッドアンプを試してみる。かなりダイレクトな印象の音になるが、TVやFM電波が非常に強い東京・六本木では、バズを含んだハムレベルが実用限度を超え、試聴には問題があり、C200Lダイレクトに切替える。
 帯域バランスはナチュラルで、低域は安定し、中高域に独特な輝きがある音だ。音場感、音像定位もナチュラルで、平均的な要求にはこれで十分であろう。
 試みに針圧を1・6gに上げる。音色が曇って重くなり、高域は抑え気味で、安定感はあるが、反応が鈍く、中域に輝きが移り、少し古典的なバランスである。針圧1・5gでは、程よく伸びた帯域バランスで、低域は軟調だが、全体に滑らかさがあり、彫りは浅いが、中高域の輝きも適度に魅力的で、聴きやすく雰囲気型の音だ。
 針圧を標準にもどし、IFCを調整する。IFC約1・65ほどで、音に焦点がピタッと合った、抜けの良い音に変わる。低域は厚みがあり、質感に優れ、音溝を正確に拾うイメージの安心感がある音だ。中域は適度にあり、中高域に少し硬質さがあるが、これは一種独特の魅力であり、プレゼンスもよい。また、音像定位はクリアーに立つタイプだ。個人的には、この中高域の輝きは個性として残したいが、この傾向を抑えるためには、テクニカ製スタビライザーAT618を使ってみる。天然ゴムに覆われた特徴が、音を適度に抑え、メタリックな輝きを柔らかくしてくれる。なお、スピーカーは標準セッティングである。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ヘンデル:木管のためのソナタ]
大村 いかにもイギリスのカートリッジという気がします。イギリスのオーケストラはドイツのそれに比べて、色彩感はありますが、ゆとり、重厚さにかける。まさに、そんな感じの音です。線の硬質なクリアーな音。オーケストラを聴く場合は、もう少しゆとりが欲しいと思います。
井上 英国系らしい、中域から高域にかけての硬質な部分を、いかにコントロールするかが使いこなしのポイントです。相性のいいトランスを選んでやれば、硬さがとれて力が出てくると思いますが、ちょうどいいのが手元になかった。そこで、ゴムでダンプされたオーディオテクニカのAT618で、中域のメタリックさを殺した上で、プリアンプの位置を動かしてみました。
大村 最初のアンプの位置ですと、リズミックな表現がやや単調になっていたのが、前に引き出したところ、反応が速くなり、反対に後ろにすると、穏やかになる。また、ヒンジパネルを開けると、音がすっきりするんですね。
井上 注意してほしいのは、開けたパネルが台に触れないようにすること。台との間にフェルトを敷けば、よりすっきりします。アンプの位置ひとつで、音が変わることを頭にとどめておいていただきたい。

イケダ Ikeda 9

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧では、ナチュラルな帯域バランスと穏やかで安定した音を聴かせるが、一次試聴時のような安定感、重厚さが感じられない。垂直系でダイレクトにスタイラスがコイルを駆動する独自のメカニズムをもつだけに、リジッドな構造であう、かつ十分な質量があるターンテーブルとダイナミックバランス型のトーンアームがこの製品には必要であろう。フローティング構造と平均的な慣性モーメントをもつTD226とSM3012Rの組合せは、あまり好ましくない例であろう。
 針圧を増し、本来のダイレクトさを追いかけてみる。針圧2・8g、IFC2・8では、反応が鈍く、針圧2・75g、IFC2・5でかなり密度感が出てくる。針圧2・65g、IFC量2・3が、このプレーヤーでのベストサウンドだ。厚みある充実した低域をベースに、密度感のある中域、素直な高域が程よくバランスし、安定したリッチな音を聴かせる。反応は基本的に穏やかなタイプで、重量級MC型独特の彫りの探さと、このタイプ独自の音溝を忠実に拾う印象の音が個性的である。
 なお、垂直系振動子をもつカートリッジは、一般的なタイプに比べ、アームの水平度は正確に調整する必要がある点を注意したい。また、振動系がフリーな構造をもつために、ヘッドシェルの傾きにも敏感だ。
 簡単に誰でも使えるカートリッジではないが、針圧とIFC量を細かく組み合せて追込めば、これならではの音の魅力が判かるだろう。個性的な手造りの味だ。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
大村 いかにもダイレクトな感じの音ですね。強勒で、音が生き生きしている。小編成のものを非常にリアルに聴いてみたい気もしますが、ブラームスの第4番の三楽章の、魂の乱舞が、どれだけの表現の幅をもって鳴ってくれるかに興味が向いてしまった。ただし、ややミスマッチな感じで、重厚で、陰影の濃い音というより、きつい音です。もう少し穏やかになれば、ものすごくよくなる気もします。
井上 針圧とインサイドフォースはすでに、ベストのところに合わせてあるので、トランスの置きかたで調整します。トランスは置き台の影響と同じくらい、その向きで音が変わる。地磁気の影響のせいだと思いますが、ひどく音が濁ることもあるのです。トランスをいろいろ動かしいいポジションを見つけたところで、XF1の下に2枚折りした厚手のフェルトをひいてみました。
大村 フェルトも、1枚よりも2枚の方が穏やかで、非常に音が静かに聴こえます。
井上 このくらいのカートリッジになると、アームはダイナミックバランスを使いたいところです。3012Rならオイルダンプを併用してみるのもひとつの手です。全体に音が穏やかになり、針圧、インサイドフォースの調整も少しは楽になるでしょう。

オルトフォン MC2000

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧では、柔らかい低域にやや硬質な中高域がバランスした、いかにもアナログディスク的な好ましさがある音だ。音場感はほぼ妥当な線だろう。
 針圧を1・7gに増すと、安定感は増すが、音の角が少し丸くなり、音源が遠く感じられ、雰囲気型のまとまりとなる。1・6g程度で、適度な密度感がある、いわゆるオルトフォンらしさが出てくるが、やや反応が抑制気味であり、伸びやかさ、リッチさが欲しい感じも残る。ここで、IFC量を1・5に下げると、このあたりは改善されるが、まだ追込めそうだ。
 逆に、針圧を軽くしてみる。1・3gで低域は少し軟調傾向となるが、スッキリとしたイメージが出てくるのが好ましい。そこでさらに、IFC量を1・2に下げてみる。音場感的なプレゼンスがサラッと拡がり、鮮明な音の魅力もあり、爽やかで抜けの良い音を狙ったときには、このあたりがひとつのポイントとなるだろう。
 さらに、オルトフォンらしいイメージを追ってみよう。再び、1・6gとし、IFCを調整する。1・5で、音場感情報が増し、一応の満足すべき結果となるが、中高域の輝かしさをもう少し抑え、一段と内容の濃い、リッチな音を目指して、木製ブロック上に乗せてあるT2000昇圧トランスの下に、柔らかいポリッシングクロス状の布を敷いてみる。キャラクターが少し抑えられ、一段と音場感的な奥行き方向のパースペクティブや音像のまとまりがナチュラルに浮び上がり、これは見事な音。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[シェエラザード/コンドラシン]
大村 『幻想』のときは、音の密度感が高く、音の抜け、拡がりもあり、かなり満足のいく音でしたが、『シェエラザード』になると、色彩感が欲しくなりますし、ソロ・
ヴァイオリンが耽美的なまでに、華やかになってくれたら、とも思います。
井上 その不満は、ふたつの曲の違いからくるものでしょう。『幻想』は華やかさはあるものの、全体にはマッシブな音楽なのに対して、『シュエラザード』は非常に絢爛豪華な音楽ですから。
 そこで、針圧とインサイドフォースを0・1gずつ軽くして、音の抜けをよくして、それから、T2000を置く位置を変えてみたわけです。
大村 針圧の変化よりも、トランスの置きかたの違いの方が大きいですね。音の鮮度感と色彩感が出てきて、ソロ・ヴァイオリンが艶やかでしっとり鳴ってくれ、これで充分という感じです。
井上 普通、トランスはいいかげんなところに置きがちですが、必ず水平に、プレーヤーの置き台と同等の安定なところに置いてください。その差は予想以上です。堅いウッドブロックの場合、くっきりしすぎたときは、フェルトを敷いて台の固有の音を殺してみるのもひとつの手です。

トーレンス MCH-II

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧では、穏やかで安定した音だ。全体に線が太く、低域は軟調で、高域は抑え気味、音源が遠くホール後席の音だ。針圧上限は、重厚さは魅力だが、反応が遅く、音場感も狭く、中高域は硬質である。やや軽い針圧で探すと、針圧2・3gでひとつのポイントが得られる。低域の質感も適度で、ゴリッとした印象があり、高域は抑え気味だが、一応のバランスだろう。
 ここで、新製品として登場以来のMCHIIの変遷を簡単に記す。最初のサンプル的製品は、位相は正相で、EMT/XSD15とは位相のみ異なり、これがCOTYに選出された。次に、高域補正が施され、位相は逆相、補正用に並列にコンデンサーが入ったタイプとなる。これが、一次試聴とこの頁の前半でリポートした製品である。
 次に、最新の製品はこの高域補正用コンデンサーが除かれ、結果としてEMT/XSD15と同等の基本設計となったが、ブランドが異なるため、振動系設計の変更が予測され、サウンドバランスもやや穏やかな印象がある。
 最新型は、針圧2・75g、IFC量2・5でベストポイントがあり、柔らかで豊かな低域をベースに、引締まった中域から高域が特徴的な音だ。基本的に、MC型としては高出力型であるだけに、昇圧トランス使用では、場合によってはイコライザーアンプでの過入力が気になる。試みに、オルトフォンT2000を組み合わせてみたが、適度な帯域コントロールの効果があり、質的にも緻密で充実した音が得られた。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ/シェリング、ヘブラー]
大村 ベートーヴェンの曲のもつ力強さと、ヴァイオリンのしなやかさがストレートに出てきてますし、歪の少ないフィリップスの録音のよさを、針先が違うせいでしょうか、EMTよりもよく出してくれる感じを受けました。
井上 輪郭をくっきり出す、コントラスト型のカートリッジです。それほど神経質になることはありませんが、使いこなしで注意してほしいのは、出力電圧がMC型としては高いことです。場合によっては、ヘッドアンプやイコライザーアンプが飽和してしまうことがありますから。MMポジションでも十分鳴るくらいですから、昇圧手段は注意して選択してください。今回はデンオン、トーレンス、オルトフォンの三つを試しましたが、その中で、いい結果を示してくれたのは、ローインピーダンス専用のT2000でした。
大村 T2000との音はいいんですが、味という形容が使いにくい音に思えます。もとが深情け型のEMTですから、ぼく個人としては、オーディオニックスのTK2220を使ってみたいです。ちょっと過剰気味に思えるくらい、音の艶を出して、楽器のまわりにただよう雰囲気みたいなものを、積極的に出してみたいのです。

デンオン DL-1000A

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 使用アームは、SME3009SIIIである。標準針圧では、素直な帯域バランスをもつ、柔らかく細やかで、滑らかな音だ。スクラッチノイズは安定しているが、表情が表面的に流れ、奥に拡がる音場感だ。
 0・9gで音に焦点が合ってくる。粒立ちが細やかで、軽く柔らかい低域と少しメタリックな中高域がバランスした、デジタル的なイメージをも持つ近代的な音だ。
 0・7gにする。スクラッチは少し浮くが、予想よりも爽やかで0・9gと対照的なバランスだ。フワッと奥に拡がる音場感は独特で面白いが、実用的ではない音。
 0・85gで、0・8gよりも僅かに穏やかで安定した一応のバランスが得られる。音場感も標準的で針圧はこれに決める。
 IFC量を変え1・0とすると、音が少し硬質となり、レコードらしい印象にはなるが、少し古い音に聴こえる。0・9に減らすと、穏やかさが加わり、好ましいが、IFCを調整する糸吊りの錘のフラツキが定位感、音場感に悪影響を与えることが確認できる。これは、いわゆるSME型で、軽針圧動作時に気になる点である。
 逆に、IFC量を0・7に下げる。スクラッチノイズの質、量ともにかなり優れた水準にあり、広帯域型で、やや中高域にメタリックさがある。軽量級ならではのクリアーさ、プレゼンスの良さが活かされた極めて水準の高い音である。
 このメタリックさは、トーンアーム側のヘッドシェル部、指かけ、パイプ材料とも関係があるが、現状ではこれがベスト。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ハイドン:六つの三重奏曲/クイケン]
大村 軽くて、細身で、すっきりと見通しのいい音ですが、この曲だと、ちょっと軽すぎるように思います。イタリアン・バロックといえるくらいに軽い。少しひなびた感じが欲しいです。
井上 スタビライザーを試してみたわけですが、その効果がPL7Lの場合と多少異なります。スタビライザーをのせることでフローティングベースの重量が変わるため、スタビライザーの材質の音の他にスタビライザーの重量が大きく効いてきます。
大村 いろいろと試した中では、いちばん重量のあるマイクロがよかった。安定感がぐっと増して、軽すぎるところが気にならなくなりました。ただ、マイクロのメタリックな音がやや気になりますけど……。
井上 メタリックな感じは、カートリッジとシェルの間にブチルゴムをひとかけらはさんでやれば、消えるでしょう。TD226で注意してほしいのは、フローティング型だからといっていいかげんな台に置かないでください。フローティングの効果はすべての周波数に対してあるわけではありませんから。今回は、試してみませんでしたが、ヤマハの台の上に3mm厚くらいのフェルトや5mm厚くらいのコルクを敷いてやれば、相当効果はあるはずです。

ゴールドリング Electro IILZ

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧では、一次試聴とは異なり、適度にメタリックな魅力のある、シャキッとした雰囲気のある個性型の音である。この爽やかさを一段と引出すために、針圧を軽く1・6gとするが、低域の質感が曖昧な軟調傾向を示し、中高域も浮き気味で、ソフトフォーカスの軽い音となり、これは好ましくないバランスだ。
 逆に、針圧を増し1・9gとすると、反応が鈍い傾向を示し、押しつけられたような重い表情が気になる音だ。このカートリッジは、組み合せるトーンアームやターンテーブルのキャラクターを素直に引出すのが特徴で、当然のことながら、最適針圧とIFC量もそれぞれ異なる点に注意してほしい。
 1・8gに針圧を下げる。標準針圧時の音に少し安定度を増した低域が好ましい。ここでIFC量を変えて、音場感的な情報量を引出してみる。変化量は穏やかなタイプで、針圧対応の1・8でもさして問題はないが、ややIFC量を減らした1・7でサラッとしたプレゼンスのある良い音が得られた。
 次に、プレーヤー置台上でプレーヤーの位置を移動してみる。置台の中央、前端で、しなやかさのある音場感的なプレゼンス豊かなバランスとなる。これでもう少し、反応の速さ、音の鮮度感があれば、かなりの水準の音になるはずだ。そこで、コントロールアンプC200Lを置台上の中央から一番手前に引出す。これで、音に軽快さが加わり、これがベストだ。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ファリャ:三角帽子/デュトワ]
大村 最初の音は、乾いていて、音のしなやかさ、拡がりの不足した、とてもロンドンの録音とは思えない鳴りかたでした。ところが、レコードをターンテーブル上で回転させただけで、まったく別もののように聴こえました。
 乾いた音から、聴きやすい、雰囲気のある音になりました。これだけで、充分という感じです。
井上 『幻想』のときとくらべると、あまりにもひどすぎるので、カートリッジの以外の要因があるとにらんで、レコードを回転させてみたわけです。原因はレコードのオフセンターです。オフセンター量が多いと、カンチレバーが左右に振られ音場感情報が出にくくなる。20度ほどズラしただけで、ものすごく音が変わる。必ずしも、よくなる方向に行くとは限りませんが、ベストポジションの音は、音楽の躍動感が出て、音場の拡がりもひときわ見事です。実際、これだけで、見違えるように雰囲気が出てきましたし、前後の楽器の配置もホールの感じも実によく出てきました。
 同じレコードで、音が違うのはブレスのせいにされてきましたが、むしろオフセンターのせいだと思います。このことは、CDにも言えます。

B&O MMC1

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧からスタートする。素直に伸びた帯域感と、適度にしなやかで伸びやかさのある表情が好ましい音だが、全体に少し抑えられた印象があり、低域の質感も今一歩、軟調気味であり、中高域も少し華やかである。針圧1・1gに増してみる。低域のクォリティが高まり、安定度が増し、中高域とのバランスもナチュラルになる。IFC量を1・0とすると、音場感がスッと拡がり、見通しの良さが出てくる。
 ここで、ヘッドシェルの指かけの共振が気になり、少量のガムテープで制動してみる。中高域のキャラクターが少し抑えられる。安定度を重視したバランスを狙えば、針圧1・2g、IFC量1・1あたりが広範囲なプログラムソースに対応できる音。
 B&Oらしいイメージを追い、再び針圧を調整する。当然、軽い方を狙い、再び標準の1gにもどす。中高域の附帯音が減ったため、全体にスッキリとしたサウンドになるが、低域の質感は相変わらず軟調傾向で、悪くいえばモゴモゴとしたイメージがあり、オーケストラのスケール感やホールの残響の豊かさの点では問題が残る。
 低域を少し引締め、MMC1独特の中高域のキャラクターとバランスさせれば、一応の水準で、この問題はクリアーできるだろう。それには、スピーカーのセッティングを変えるのがベターである。JBL4344を3点支持しているキューブの中で後側の1個を半分内側に入れた状態から3/4入れた位置に変えて低域をコントロールする。低域の質感が向上し問題は解消する。

●照準を一枚に絞ったチュンアップ
[モーツァルト:ピアノソナタ/内田光子]
大村 MMC1の、細身の音はいいんですが、ややヒステリックなところは、このレコードには合わない気がします。モーツァルトらしく、柔らかで透明に鳴ってほしい。
井上 この録音は、ちょっと距離をとることでホール感を出し、モーツァルトらしい透明なイメージをつくっていますので、スタビライザーで附帯音をのせることはやらないほうがいい。そこで、プレーヤーのつぼと言えるアームの根元にスタビライザーを置いてみたわけです。
大村 かなり音が変わります。マイクロのように重たいものは、音がしっかりして、力強くなる。見通しもよくなりますし、輪郭がはっきりしてくる。オーディオ的には非常にいい音だと思いますが、内田光子のモーツァルトのイメージとは違う。女性らしさから遠ざかります。そこでデンオンを試したところ、ほどよい柔らかさと女性ピアニストらしい感じはそのままに、ヒステリックなところがなくなり、ゆったりと音楽が響いてくれます。もし、レコードがグールドだったら、迷うことなくマイクロにしますが、内田光子の場合は、デンオンのカです。このクラスのカートリッジになってくるとプレーヤー自体の透明度を要求したくなります。

デッカ Mark 7

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧では、バランスは良いが、伸びやかさ、拡がりに欠け、硬い音だ。針圧を増して傾向を試すと、次第に音場感情報が減り、高域も抑え気味で、反応が鈍くなり、一次テストのときとは異なった傾向を示す。逆に、軽い方の針圧での変化を調べると、針圧1・3g、IFC1・2でひとつのポイントがあり、少しスクラッチノイズが浮いた印象はあるが、かなり広帯域型のレスポンスと、スッキリと音の抜けが良く、硬質でクリアーな音を聴かせる。
 1・4gでは安定して穏やかなバランスだが、低域が少し軟調傾向だ。1・5gでは、低域の質感が1・4gよりも向上し、弦の浮いた印象もなく、適度に帯域も伸びたスタンダードな音となるが、音場感的な前後方向のパースペクティブな表現に不足があり、IFCを変化させて追込んでみることにする。結果は、針圧対応値より少し減らした1・4。音場感がスッキリと伸びた好ましい音になるが、いわゆるデッカらしいサウンドイメージには今一歩、不足感がある。
 プレーヤー置台上の位置を変えて音の変化を試すと、右奥でクリアーに抜けが良くなり、中央、前端でしなやかさがある音になるが、音像は少しソフトで、大きくなる。位置を右奥にし、金属製重量級のスタビライザー、マイクロST10を使い、エッジの張った、クッキリとした音を狙う。結果は、適度に金属的な響きが加わり、輪郭がクッキリと描き出され、独自の垂直振動系の魅力が感じられる音になった。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[孤独のスケッチ/バルバラ]
大村 このパルバラのレコードは、ヴォーカルとピアノ、アコーディオンだけの小編成ですから、できるだけ生々しく聴きたいのですが、ちょっとソフトフォーカスぎみに感じます。
井上 デッカの、シャープで鋭利な音のイメージが穏やかになって、スタジオ録音がライブ録音のように聴こえ、もう少しすっきりした感じが欲しく、スタビライザーを試してみました。それからプレーヤーの置きかたも変えてみました。
大村 ST10の金属的で重量感のある音がうまい具合に作用してすっきりしてきましたし、プレーヤーを前にもってきたことで、反応が速くなったように感じます。定位もセンターにヴォーカルが浮かび上がってきて、その後ろにピアノとアコーディオンがいる。けれども、もうひとつ満足できないといいますか、デッカのカートリッジならば、というところに不満があります。
井上 確かにデッカのカートリッジらしくないところがあります。これは、アマチュアライクなやり方ですが、ボディの弱さを補強するために、取り付け台座にブチルゴムを米粒ほど貼りますと、音がはっきりしてきて、デッカらしいイメージが出てきます。

ハイフォニック MC-A5

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧1・2gから試聴を始める。音の粒子は細かく、スッキリと磨き込まれており、音の分解能も十分に高く、いかにも軽量振動系を採用したカートリッジらしいディフィニッションの優れた音である。聴感上での帯域バランスはほぼフラットな広帯域型で、マイクロのプレーヤーでの試聴時と比べ、クリアーな抜けの良さが目立ち、音が遠く、スピーカーの奥に引込んで聴かれたことや、表面的になりやすい表現とならないのは、カートリッジに相応しい軽量級アームとの組み合せのメリットであろう。
 針圧を1・1gに下げてみる。爽やかで伸びやかなプレゼンスは好ましいが、全体にオーケストラが軽量級となり、楽器の数が少なく、整理された音になる。そこで、逆に1・25gに針圧を上げてみる。標準針圧時に比べ、低域の厚みは加わるが、ホールの天井が低くなったような印象があり、少し重さが気になる。
 IFCを1・25から1・2程度に軽くしてみる。重い印象が薄らぎ、音も少しスッキリとする。そこで、置台上でプレーヤーを少し寄せ、反応の早さを求める。少し低域軟調傾向が残るが、これがベターだ。
 ヘッドアンプから昇圧トランスとする。音に安定度が加わり、密度感が一段と向上して質的に高い音に変わる。トランスのメリットを活かした音だ。再び、針圧とIFCを細かく振ってみると、変化は穏やかでスムーズであり、本来の軽さを活かした音場感型から、輪郭型まで、それぞれの音の変化は楽しい。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ロッシーニ:弦楽のためのソナタ集]
大村 これみよがしなところがない音で、好感のもてるカートリッジですが、ロッシーニを聴くとチェロとコントラバスの、特に低域での音の違いがもう少し鮮明に出てきてほしいように思います。
井上 そこで、ブリアンプ内蔵のヘッドアンプで聴いていたのを、専用トランスHP−T7で昇圧してみます。トランスはナロウレンジではありませんが、極端なまでには低域と高域が伸びてません。一種のバンドパスフィルター的な働きをするため、トランスを使うと中域が充実してきます。
大村 トランスにしますと、チェロ、コントラバスの、器の重量が感じられるようになり、落ちついて聴けるようになりましたが、ヘッドアンプの時に比べ、ちょっと音の見通しが悪くなったような気もします。
井上 昇圧手段をトランスに変えましたので、再度針圧とインサイドフォースを調整してみますと、針圧はそのままで、インサイドフォースを1・25にすると、音の拡がりが出て、見通しがよくなりました。
大村 この状態で、ロッシーニの音楽に不可欠なかろやかさと華やかさが、素直に出てきてくれます。もうすこし、重量感がほしい気もしますが、雰囲気的にまとまった印象で、これはこれでいいと思います。

オーディオテクニカ AT33ML

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧1・5gから、上限の1・8g下限の1・2gの範囲で、0・1gステップで丹念に追込んでみる。結果としては、安定感のある低域をベースに適度なクリアーさと、音場感のある音を求めれば、針圧1・8gがベストサウンドである。サラッとした、軽快さのある、反応の速い音と、キレイに拡がるプレゼンスや抜けの良さを求めれば、針圧1・3gが良いという、解答は2つに分かれた結果である。
 基本的に、試聴に使った2種類のプレーヤーと、同じSMEながら内容の違ったアームとのマッチングの問題があるのだろう。
 ここでは、プレーヤーの性質から、安定型よりも、音場感型を目指して、針圧1・3gを採りたい。このプレゼンスを活かしながら質感を向上させ、緻密さが出てくれば最高である。まず、プレーヤー置台上にジュウタンの残りを敷いてみるが、材質が悪くNGだ。では、ヘッドシェルまわりを調べよう。取付け、ネジをアルミ製から真チュウ製に変え、しっかりと絡めつけてみる。これで低域の質感が向上し、弦の浮きが収まる。次に置台上での移動で追込む。中央でもかなり鮮度感があり、柔らかさもある良い音だが、右側に寄せ、前から20mmあたりが反応も速く良い。ここで、再びIFCを僅かに減らし1・25とする。これで、音場感的な、左右の拡がり前後方向の奥行きも十分な良い雰囲気となるが、やや低域の質感が軟調となり、表現が甘くなるため、4344の後側のキューブを約20mm押込み低域を締めて完了とする。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ウィズ・ラブ/ローズマリー・クルーニー]
大村 しっとりした女性ヴォーカルですと、低域がやややわらかめで、穏やかな感じの、この音でもいいと思いますが、このレコードは4ビートのジャズですから、もっとスイングしてほしい。ローズマリー・クルーニーも年増の女性ですから、すこし音に鮮度感をもたせないと必要以上にダレるような気もします。
井上 今度もスタビライザーを試してみました。使用したのは、ソニーのときと同じ、オーディオクラフトのSD45、デンオンのDL1000Aに付属のもの、マイクロのST10の三つです。
大村 三つのスタビライザーの基本的な音の傾向は、先ほどと同じで、デンオン、オーディオクラフトはリズムがダレるところがあります。ST10はメタリックなところが、音の芯をくっきりさせる方向にうまく働き、ダイナミックなリズムの表現がすっきりと聴けるようになりました。そして、この状態で右奥に置いてみると、ほどほどの音の伸びが出てきて、ダイナミックな感じがさらに増したようです。やや4344をモニターライクに聴くには線が太いかもしれないけど、決してダレることのないこの音は、ローズマリー・クルーニーの年齢に相応しいかと思います。

ソニー XL-MC7

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧1・5g、インサイドフォースキャンセラー(IFC)1・5でスタートする。中途半端な表情があるため、1・6g(針圧のみ記した場合は、IFCも同量)に増すと、安定感は増すが、重く、反応が鈍くなるため、逆に針圧1・4gに下げる。反応に富み、プレゼンスの良さが目立つ音で、これはかなり良い音だ。
 試みに、針圧はこれに決め、IFCを変えてみる。IFC1・3に減らすと、音の輪郭がクッキリとしたアナログディスクらしい音になるが、音場感的には少し拡がり不足だ。そこで逆に、IFCを1・5にふやす。音場感的な拡がりはグンと拡がり、少しコントラストは薄くなるが、カートリッジのキャラクターから考えればこれがベターだと思う。
 では、音の輪郭をクッキリさせるためにスピーカーのセッティングで追込んでみよう。木製キューブを3個使った置き方が標準のため、まず、前の2個を45度方向内側に10mm入れてみる。穏やかさが出てくる。これは逆効果でダメだ。次に、後の1個を10mm内側に入れる。低域が引締まり、全体に音がクッキリして、これで決まりだ。
 アル・ジャロウを試す。まだ、反応が遅いため、スタビライザーを使うが、クラフトSD45は、柔らかく雰囲気型の響きとなり、マイクロST10は輪郭強調型で、クッキリとはするが、少しメタリックで結果はNG。次に、置台上でプレーヤーを移動してみる。右奥に置くと、反応が早く、適度に弾む楽しい音になる。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ハイ・クライム/アルジャロウ]
大村 切れ味のいい音ですが、線が細く、アル・ジャロウの声が子供っぼく聴こえる。もう少し力強さが欲しい気もします。
井上 そこでスタビライザーを試してみることにしましたが、スタビライザーを使うことは、レコードの音にスタビライザーの材質の音をつけ加えることですから、必ずしもプラスの方向に作用するとは限らない。
大村 三種のスタビライザーを聴いたわけですが、暖色系の音になり、湿っぽいものや、表情が抑えられた感じで、メリハリがきかなくなるもの、メリハリはありますが、音ののびやかさを抑えたりで、結局外した状態が、晴々としているようです。
井上 そこでプレーヤーを置く位置を変え音の傾向をコントロールしてみます。ラックのセンターにあったのを、一番強度のとれている右奥に置いてみると、全体にソリッドになって、音の反応が速くなり、ほぼ満足すべき音になりました。
大村 試しに左手前に置いてみると、柔らかくてソフトで、反応が遅くなり、アル・ジャロウの音楽にはマッチしないようです。右奥に置くことで、音の押し出しの強さといったものはないけども、反応の速さが出て、ソリッドで引き締まって、このカートリッジでの妥協線でしょう。

0.1グラムの針圧変化を聴き分ける使いこなしの世界──その実践と結果報告について

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 リファレンスシステムを使っての全機種の試聴テスト終了後、各カートリッジを特別なプレーヤーシステムではなく、平均的と思われるプレーヤーと組み合せて、相互の結果の差をリポートすることにした。また、この第2次試聴では読者代表を一人、実際の試聴に参加してもらい、各カートリッジを使いこなし追込んだ結果から、特定のディスクを1枚選択してもらい、好みの音に少しでも近づけようという、2ステップの試聴テストを基本としている。
●10万円以下はパイオニアPL7Lで聴く
 テスト対象とした製品は、全般的な前書きで述べたように、価格が10万円以下の製品では、適宜6機種を選び、プレーヤーにパイオニアPL7Lを使い、試聴をすることにした。このプレーヤーを選択した理由は、トータルバランスが優れ、とくにユニークな防振構造の脚部を備えること、演奏状態で調整可能なインサイドフォースキャンセラーの機構をもつことなどがあげられる。なお、他の試聴用コンポーネントは、第1次試聴と同じであり、試聴レコードは、ベルリオーズの幻想交響曲をメインとした。
●10万円以上はトーレンス+SMEで
 10万円以上の第2次試聴は、プレーヤーにトーレンスTD226、トーンアームにSME3012Rと軽量級カートリッジ用として、同じくSME3009SIIIの2本を用意した。選択の理由は、趣味的な意味を含めての、需要のありかたと、実績を考えてのことであり、基本性能の高さやメカニズムとしての優位性、及び個人的な趣好とは無関係な選択である。なお、この試聴のみ、パワーアンプはアキエフエーズのP500に変更した。
●試聴条件について
 使用機器の問題は、基本に忠実に設置し、AC関係の給電、機器間の結線を行なっているが、第1次試聴でも同様な条件であったため、その概要を記しておく。
 機器を設置する置台は、比較的にスピーーカーに近く、音圧で加振されやすい条件にあるために、試聴結果を大きく左右する要素として重要な部分だ。使用した置台は、ヤマハのGTR1Bを3個使い、コントロールアンプ用に1個、PL7LとTD226用にそれぞれ1個使った。この台は、板厚50mmとリジッドで安定しているのが特徴である。なお、棚板は振動を受ける要因となるため取外してあり、置台内部には何も置いていない。また、置台の前後左右とも平均的な中央に、コントロールアンプとプレーヤーを置くことを標準にした。
 パワーアンプは、平均的には、重量があるために床に直接置くが、堅木で作ったブロック上にセットしてある。また、スピーカーは、ダイヤトーンDK5000サウンドキューブを各3個使う、3点セッティングで、前両側は1/4、後中央の1個は1/2が、JBL4344の底板で支えている状態が規準である。
 各機器の結線は、スピーカーコードは、日立電線製LC−OFC同軸コードSSX102の芯線側を−にして使用、アンプ間はアキュフェーズ製バランス型専用コード。アームコードは、PL7Lは付属コード、トーレンスに組み合せた2本のSME用には、SMEの銅線使用の標準品である。なお、第1次試聴用のSME3012R PROは、内部配線が銀線使用が特徴で、アームコードはSME製のLC−OFC型を組み合せている。
 AC電源関係の給電は、壁コンセントから直接が好しいが、実際は大容量テーブルタップから直接給電で電源をとることとし、これを異なった壁のコンセントから2系統用意し、アンプ関係とプレーヤーを分離してある。なお、AC極性は、プレーヤー・エアーポンプを含みチェックしてあるのは当然のことだ。
●チューニングテストの手順はこうだ
 カートリッジの基本調整は、まず、プレーヤーの水平度調整、アームの高さ調整、簡易的なラテラルバランスチェック、各カートリッジのオーバーハングと、SME独自の調整であるヘッドシェルの傾き調整や、インサイドフォースキャンセラーのステイの調整などの他、接点関係、コード類のクリーニングなど、かなりの量である。
 続いて針圧調整から始めるが、基本的に、針圧は音質に関係し、振動系に針圧に対応するバイアスとしてかかっている力を打消し、振動系を磁界内で最適の位置決めをする働きをする。また、インサイドフォースキャンセル量は、磁界内の左右方向の位置決めと、それぞれスタティックに関係があると考えてほしい。ともに、予想を超えた微少な変化で音は決定的に変化を示す。
 その他、置台もひとつの共振系、共鳴器であり、アンプ、プレーヤーともに位置の移動で音のバランス、表情が大きく変化をするものだ。また、平均的に使われるスタビライザー頼も、すべて固有音を持ち、功罪相なかばするもので、安易な常用は問題であり、実例を参照していただきたい。

リン KARMA

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)

特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧では低域が少しモゴっとするが、中高域に独特の爽やかなキラメキがあり、巧みにバランスを形成する。キメ細やかで線は細く、スッキリと音は抜けるが、音場感はやや不足気味。レコードらしい音である。
 針圧上限では、暖色系の安定した個性型の音で、中域に穏やかさ、安定感があり、0・05gの変化としては大きい。雰囲気よく、巧みにコントロールされた音である。
 針圧下限では、軽く、華やかさがある。適度に輝きのある音となり、プレゼンスが程よく保たれ、これはレコードとして聴いて楽しい音だ。音場感は少し平面的である。
 針圧を下限に決め、ファンタジアを聴く。低域は少し軟調だが、細かくきらめくピアノはかなり魅力的で、雰囲気がよく、きれいにまとまった音だ。リアリティよりも再生音的な魅力をもつ音だ。
 アル・ジャロウは音色が暖色系に偏り、リズムの切れが甘く、力不足な音楽になる。

AKG P100LE v.d.h. II

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)

特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧ではナチュラルに伸びた広帯域型のレスポンスと、薄味な面はあるが、十分に熟成して追込んだ製品のみが持つ、まろやかで品位の高い音が特徴。フレッシュで若い音とは対照的な大人の味わいをもつ。
 針圧上限では音の芯がクッキリとし、低域も質感が向上し、全体に活気がありながら、サロン風の独特の落着いた優雅な音が魅力的だ。音場感はナチュラルで、やや奥に拡がる傾向をもつ。スクラッチノイズの質量ともに水準を超えた安定さがある。
 針圧下限は軽快で、スムーズな音が特徴。全体に少しコントラスト不足気味の音だが、表面的な表現にはなり難く、質的にも標準の水準を保つのは、高級品らしいところ。
 1・2gでファンタジアを聴く。まろやかで、サロン風な雰囲気で軽く鳴るピアノが独特の世界を展げる。リアルさはないが、魅力的な響きだ。アル・ジャロウは、かろうじて聴ける水準で、これは不適。

イケダ Ikeda 9

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)

特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧では、骨組みのシッカリとした安定で重厚さのある音だ。反応は穏やかで、拡がりはまあ標準的だろう。
 針圧上限は、安定ではあるが反応が鈍く、ダイレクトな魅力に欠ける音だ。針圧下限では、少し音が浮く印象があるが、軽い感じもあり、IFCを2・0とすると一応の水準となり、雰囲気もあり良い。標準針圧プラスでダイレクト型ならではの音を追う。針圧で低域をベースとした質感と反応の速さをさがし、IFCで音場感的プレゼンスを狙う。特殊なメカニズムをもつだけに、変化は激しいが、判定は容易である。針圧2・5g、IFC量2・25でまとまる。音溝を正確に拾う音で、音場感もあり、これは他では求められない種類の音。
 ファンタジアは、針圧2・65g、IFC量2・5がベスト。抜けが良く、爽やかでスケールも大きい。アル・ジャロウは、上記の値で、やや抑えた印象が音にあるが、力感もあり、一応の水準を保つ。

オルトフォン MC2000

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)

特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧ではスクラッチノイズが少し浮き気味で、ナチュラルな帯域バランスと音楽を気持ちよく聴かせる特徴があるが、全体に淡いベール感があり、やや見通しが問題。
 針圧上限では、穏やかで安定感のある低域と、ややメタリックな輝きのある高域が巧みにバランスし、音場感情報も豊かで、レコードらしい音だ。針圧下限は、低域軟調、音場感不足でNG。SMEの針圧目盛で1・5gと1・75gの中間がベストポイントである。帯域も素直に伸び、伸びやかで、少し薄味だが、楽しめる雰囲気が魅力だ。音場感的な奥行きも十分にあり、音像は小さく、クッキリとまとまる。中高域の適度な華やかさが活きた良い音だ。
 ファンタジアは、線が細く、滑らかなピアノが特徴。力感はさほどないが、響きはタップリあり、やや距離をおいて聴くライブハウスの音だ。アル・ジャロウは、ボーカルは、少し力感不足で響きが多く、今ひとつリズムにのらぬ。

トーレンス MCH-II

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)

特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧では、柔らかく豊かな低域ベースの穏やかな音で、高域は抑え気味。線は太く粗い音で、大柄な印象があり、おっとりとした大人っぽさが特徴で、初期製品とは、イメージの異なった音である。
 針圧上限では、音の焦点が合い、線は太いが力感も加わる。中域から中高域は程よい華やかさがあり、低域は軟調傾向が残り、適度にマッチした昇圧トランスで少し引締めたい印象の音だ。
 針圧下限では、やや薄味な面が出てくるが、スッキリとした感じが好ましい。しかし表情は少し表面的で、低域は少し軽い印象となり、これはメリットだが、リズミックな反応は今一歩不足。ここでは、針圧上限をとる。
 ファンタジアは、ライブハウス的な響きが特徴で、ピアノはスケールもあり、迫力もあるが、少しソフトフォーカス気味。ベースは過大だ。
 アル・ジャロウは、ボーカルが予想よりも口先型となり、リズムが重く反応は遅い。