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マランツ PM-90

井上卓也

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 このところ、ヨーロッパ系を中心に米国系を加えた、音質、デザインともに大変に魅力的で使いやすい小型スピーカーが数多く輸入されている。一方、国内のスピーカーにおいても充実した内容を備えた本格派の製品が、ステレオペアで20〜50万円の価格帯で確実にファンを増しているが、いざ、これらをドライブするアンプとなるとセパレート型、プリメインを問わず、候補となる製品は非常に少ないことに驚かされることだろう。特にプリメイン型は、気軽に各スピーカーの魅力を楽しむために好適な存在であるが、かなり優れたアンプが要求される小型海外モデルや、本格派の普及機とは明らかにひと味異なった国内中級システムを確実に駆動し、かつニュートラルで、聴感上で高SN比な音をもつモデルとなると、選択対象は五指に満たないようである。
 現在までに発表された今年秋の新製品としては、このPM90が唯一のモデルであり、伝統的なマランツのポリシーを受け継いだ、いわゆる音づくりのイメージが皆無に近いニュートラルな音であり、余裕をもってスピーカーを鳴らす実力をもっていることは、大変に心強い思いである。
 また、現代のアンプとしては、測定上の高SN比ではなく、実用状態での聴感上のSN比が高いことがアンプの備えるべき必須条件となる。回路構成上でもプリアンプとパワーアンプによる本格的2段構成であり、プリアンプ部の利得制御をも含めた4連アクティヴボリュウムをはじめ、傑出した筐体構造と洩れ磁束を打ち消すツイン電源トランスの採用、純A級動作を可能とした特徴は魅力的である。る。さらに、内部配線が見事に処理されており、シールド板の多用など高SN比化の手段にも注目したい。
 音質は、ほどよい帯域バランスとニュートラルで色づけのない音が特徴だ。聴感上のSN比は十分に高く、音像定位の確かさや音場感情報の豊かさは、AVアンプなどとは完全に異次元の世界である。

アクースティックラボ Bolero Grande, Bolero Piccolo

井上卓也

ステレオサウンド 100号(1991年9月発行)
「注目の新製品を聴く」より

 スイスのアクースティックラボのスピーカーシステムは、昨年に輸入されたボレロがわが国における第一弾製品であったが、発売されるとともに、その精緻な仕上げと美しく機能的なデザインをはじめ、透明感のある美しく、音楽的に優れた音により、一躍注目を集めたことは記憶に新しい。今回、そのボレロのジュニアモデルとして開発された、小型2ウェイシステム、ボレロピッコロと、ボレロの高級モデルに当たり、従来からヨーロッパでは発売されていたスリムなトールボーイ型フロアーシステム、ボレログランデに改良を加えた新ボレログランデの2モデルが新たに輸入販売されることになった。
 ボレロピッコロは、開発の初期構想では、エンクロージュアの仕上げを簡略化した、ごくふつうの小型ブックシェルフ型システムであったが、輸入元のアブサートロンの要請により、エンクロージュア竹上げはボレロと同じくピアノブラックと、非常にユニークで、インテリアとしても大変に興味深いエラブルブルーの2種類の塗装仕上げ、そしてウォールナットとオークのツキ板仕上げの計4種類のヴァリエーションモデルが用意されることになった。これらすべてのモデルは、視覚的にも楽しいばかりでなく、音響的にも優れた音質をもつシステムとして完成されている。
 ユニット構成は、12・5cmウーファーと1・9cmポリアミドドーム型の2ウェイ方式であり、エンクロージュアは、ボレロ同様に、バスレフ型を採用しているが、ポート形状は、ボレロがエンクロージュア底板を使った横幅の広いスリット型であったが、本機では一般的な紙パイプを使うコンベンショナルな設計に変っている。
 低域ユニットは、ボレロと同じく、フランスのフォーカル社製で、特徴のあるコーン表面のドープ材の処理方法で、一見してフォーカル製と識別できるユニットである。ただし、ボレロではダブルボイスコイルを使い、小型システムながら豊かな低域再生を可能とする、インフィニティのワトキンスボイスコイルに相当する設計であったが、本機は一般的なボイスコイルを採用したタイプとなっている。
 高域ユニットは、デンマークのユニットメーカーとして定評の高いヴィーファ社製ポリアミドドーム型で、磁気回路のギャップは、磁性流体で満たされ、ダンピングと冷却を兼ねた欧州系ユニットで常用される設計である。なお、磁気回路は非防磁型であり、スピーカー端子は2端子型の標準タイプである。
 ボレログランデは、既発売のボレロに、サブウーファーを加えた設計のスリムなトールボーイ型のフロアー型システムである。エンクロージュアは、ボレロとは異なった円形開口部をもつバスレフ型であるが、内部構造は、中間に隔壁を設け2分割されており、ミッドバスユニットと思われる中域ユニットとサブウーファーは、それぞれに専用の独立したキャビティをもっている。
 エンクロージュア材料は、欧州系スピーカーシステムで常用のMDF(ミディアム・デンシティ・ファイバー)が採用されているが、この材料は、微粒子状に砕いた木粉を固めて作ったもので、剛性はチップボードに比べて高いが、振動率としては共振のQが高く、エンクロージュアに採用する場合には、この材料独自の使いこなしが必要と思われ、各社各様の手法を見ることができ大変に興味深いものである。なお、エンクロージュア仕上げは、ボレロ、ボレロピッコロと同様に、4種類が選択可能であるが、ちなみにヨーロッパ仕様にはより豊富なヴァリエーションモデルがある。
 使用ユニットは、ボレロと同じく、すべてフランスのフォーカル社製で、低域と中域は同じネオフレックスコーンと米デュポン社で開発され、耐熱性材料として定評の高いノーメックスをボイスコイルボビンとし、これに、2組のボイスコイルを巻いたボレロ用ユニットと同様なコーン型ユニットである。旧ボレログランデは低域ユニットと中域ユニットには異なった仕様のユニットが採用されていた。
 高域ユニットは、表面をコーティング材で処理をしたチタン製逆ドーム型で、このユニットもフォーカル社を代表する個性的な音質の優れたユニットである。
 グランデは、高級モデルであるだけに使用部品は厳選されており、ユニットもペア選別で管理され、ステレオペアとして左右が揃うようにコントロールされている。
 ボレロピッコロは、繊細で分解能が高く爽やかで反応の速い音だ。低音感も十分にあり、程よく可愛く吹き抜けるような伸びやかな音は質的にも高く、この音は聴いていて実に楽しい。
 グランデは、さすがに大人の音で、ゆったりと豊かに響き溶け合う、プレゼンスの良さが見事だ。聴き手を引き込むような一種ソフィスティケートされた音は実に魅力的といえる。

パイオニア EXCLUSIVE C7

井上卓也

ステレオサウンド 100号(1991年9月発行)
「エキサイティングコンポーネント」より

 パイオニアの最高級オーディオコンポーネントEXCLUSIVEシリーズは、昭和49年に市場に導入されて以来、アナログプレーヤー、チューナー、コントロールアンプ、パワーアンプ、そしてスピーカーシステムなどのラインナップを揃え、それぞれのモデルが各時代のトップモデルとして話題を呼び注目を集めてきた、いわばパイオニア・オーディオの象徴であり、マイルストーシともいうべきシリーズである。その最新モデルとして、昨年の『全日本オーディオフェア』で、その存在が明らかになったコントロールアンプEXCLUSIVE・C7がついに発売されることになった。
 設計の基本構想は、左右2チャンネルの信号系で成り立つステレオアンプのステレオ伝送誤差をゼロとすることである。この考え方は、ステレオアンプとしては常識的なものと考えられやすいが、各種の条件を交えて現実の商品として実現することは、予想外に至難な技である。
 左右が独立したステレオ信号を入力し、そのままの姿・形で増幅し出力することができれば、左右の信号に伝送差がないことになるが、この簡単明瞭なことを実現するための条件は数多く存在する。左右チャンネルの条件の対称性が重要な要素となるが、電気的、機械的な対称性をはじめ、磁気的、熱的な対称性などの視覚的には確認し難い条件までクリアーしなければならない。
 まず、コントロールアンプのベースとなる筐体構造は、いわゆるデュアルモノーラルコンストラクションと呼ばれている設計であるが、一般的に採用されているデュアルモノ風な設計ではなく、本機はかなり本格的な徹底したデュアルモノーラルコンストラクション設計で、左右チャンネルの対称性は限界的なレベルに到達している。
 従来の木製ケースに収めたクラシカルなEXCLUSIVEのデザインイメージは完全に一新され、現代のオーディオアンプに相応しい装いを備えた新EXCLUSIVEのデザインは、視覚的にも対称性のあるシンプルなパネルレイアウトを特徴とする。中でも、重量級パワーアンプに匹敵する14mm板厚のアルミ製フロントパネルは、重量級コントロールアンプともいえる独特の迫力を備えている。
 アンプの基盤であるシャーシは、筐体を上下に2分割したアルミダイキャスト製の重量級ベースであり、下側はボリュウムコントロールや入力切替スイッチなどをリモートコントロールする各種の制御回路用スペースで、上側は基本的に厚いアルミ材で左右に2分割された左右チャンネル用アンプと電源部用スペースにあてられている。
 ここで基本的にと表現した理由は、フロントパネルの近くに3個配置されている電源トランスの中央の1個が、ボリュウムや切替スイッチをコントロールする制御系用電源トランスであるからである。ちなみに、この制御系用トランスも当然のことながら左右チャンネル独立の巻線を備えており、左右感の干渉を避けた設計だ。
 左右チャンネルのアンプ、電源系のレイアウトは、基板上のアンプの部品配置、内部配線に至るまで対称性が追求されており、レイアウト的に左右の対称性を欠く部分は、フロントパネルのボリュウムコントロールと入力切替スイッチ関係の部品のみであろう。
 C7で新しくテーマとなった磁気フラックス分布の対称性の確保は、発生源となる電源トランスに新開発の低漏洩磁束電源トランス採用で、フラックス分布を左右均一にすると共に、予想以上に問題となる電源用電解コンデンサーに+側と−側で巻方向を逆にし、ケースを絶縁しグラウンド電位に落とすコンプリメンタリーペアコンデンサーを開発した点に注目すべきである。
 アンプ系の構成は、必要最少限の構成とし、MM専用の利得35・5dBのフォノイコライザー段の出力と、CD、チューナーなどのハイレベル入力を受ける利得0dBのバッファー段の出力にボリュウムコントロールがあり、さらに利得0dBのバッファー段と、利得16・5dBの低出力インピーダンス設計のフラットアンプがあり、この段のバランス入力部の+と−を使いアブソリュートフェイズ切替としている。
 アンプとしての基本構成は、不平衡設計であるが、平衡入出力には、トランスが入力系と出力系に設けられスイッチ切替で対応する設計である。なおキャノン端子の接続は、3番ホットの仕様である。
 バッファーを含むアンプは、新開発のアルミベースの基板に集積化されているハイブリッドICで、熟的な安定度の向上と外部ノイズに対するシールド効果に優れた特徴がある。
 振動モードの対称性では、音圧や床振動などの外部振動に対してはアルミダイキャストシャーシで対処し、電源トランスやコンデンサーなどの内部振動には、基板支持部分のダンピング材でフローティング構造とし、加わった振動を適度に減衰させ左右チャンネルのモードを揃えている。
 ボリュウムコントロールは、信号が直接通る経路であるため、アンプの死活を分ける最も重要なポイントとして、その選択にはさまざまな配慮がなされるが、C7ではフロントパネルのボリュウムコントロール用ツマミの位置を検出し、ステッピングモーターと電気的に絶縁されたカップラーで駆動するステップ型アッテネーターで音量調整を行なっている。ステッピングモーター用ジェネレーターは、ボリュウム位置が固定している場合には出力が止まる設計で、この部分の音質への影響を避けている。
 入力切替スイッチも、リモートコントロール動作で、PHONO、チューナー、5系統のAUX入力、2系統のテープ入出力および2系統のバランス入力は、ホット側をノンショートステップ型、グラウンド側をショートステップ型のモータードライブによるロータリースイッチで切替えており、多系統の入力を接続して使うステレオコントロールアンプで問題となる、接続機器からのグラウンドを経由するノイズや、空間からの外来ノイズの混入を防ぐ設計である。
 その他、アンプ内部の配線の引き回しによる相互干渉や数多くのノイズ発生源は、厳重な内部シールドが施されており、ハンドメイドを特徴とするEXCLUSIVEならではの入念な作り込みが見受けられ、その徹底したノイズ対策は世界的なレベルで見ても従来の概念を超えたオーバーリファレンス的な領域に到達している点は特筆に値する見事な成果である。
 まず、平衡入力で使う。力強く、密度が濃く質感に優れた低域ベースの安定感のある音と、やや奥に広がるプレゼンスが特徴である。帯域バランスは程よく両エンドを整えた長時間聴いているのに相応しいタイプといえる。
 入力を不平衡に替えるとナチュラルに伸びたレスポンスとなり、鮮度感が向上し、音場感も一段と広がり、音像定位も前に出るようになる。
 出力も不平衡とすると低域レスポンスは一段と伸び、柔らかく十分に伸びた深々と鳴る低音に支えられた素直な音は素晴らしい。音場感情報は豊かで音像は小さくまとまり、浮き上がったような定位感だ。プログラムソースには的確に反応を示し、録音の違いをサラッと引き出して聴かせる。素直なアンプではあるが、パワーアンプに対する働きかけは予想以上に積極的で、スピーカーはパワーアンプの駆動力が向上したように鳴り万が一変する。これは数少ない異例な経験である。

RCF MYTHO 3

井上卓也

ステレオサウンド 100号(1991年9月発行)
「注目の新製品を聴く」より

 イタリアのスピーカーシステムがこのところ注目を集めエポックメイキングな存在となっているが、今回、成川商会により輸入されることになったRCF社のコンシュマーモデルMYTHO(ミッソ)3は、業務用音響機器メーカーで開発されたシステムという意味で注目したい製品である。
 RCF SpA社は、イタリア中部ReggigoOEmiliaで1984年に設立された業務用音響機器メーカーで、本社は、6000㎡の敷地内に工場をもち、ホーン型を含む業務用スピーカー、PA/SRスピーカー、HiFiスピーカー、カーオーディオ、およびスクリーンとプロジェクターを生産する計5セクションの部門をもち、英、仏にもプラントをもつヨーロッパ最大規模のメーカーである、とのことだ。
 MYTHO3は、繊維の粗いカーボン織りの楕円型ウーファーとチタンドーム型トゥイーターを組み合せた、スリムなプロポーションの2ウェイフロアー型だ。
 エンクロージュアは、バッフル面の横幅を限界に抑え、奥行きを十分にとった独自の設計に特徴がある。楕円形のウーファー採用もこの目的のためであり、同社の主任技師G・ジャンカーロ氏の構想に基づいたヴァーチカル・オリエンテッド方式である。外観からはわからないが、エンクロージュア内部は、ウーファー下側でキャビティが2分割されており、この隔壁部分にウーファー同様の振動系をもつ楕円型ドロンコーンユニットが取り付けてあり、下側キャビティには、さらに2本のバスレフ用パイプダクトをもつユニークな構成が、このシステムの最大の特徴である。これはバンドパス・ノンシンメトリック方式と名付けられたエンクロージュアである。2つの共鳴系をもつため、チューンにもよるが、2個所にインピーダンス上のディップがあるため、アンプからのパワーを受けると低域の再生能力が通常より向上する。このようにドロンコーンとパイプダクトという異なった共鳴系のチューンをスタガーした意味が、この方式の名称の由来である。
 この種の構想は、ドロンコーンを一般的なアクティヴ型ユニットとしたものや、隔壁部分にさらにパイプダクトを付けたものなど各種のヴァリエーションが考えられている。この種のパテントも出ているが、要するにダクト部分からの不要輻射が少なく、バンドパス特性が実現でき、超低域をカットし、聴感上での豊かな低音感が得られる点がメリットと思われる。
 エンクロージュア材料は、最近よく使われるメダイト製で、脚部は金属製スパイクが付属し、高域には保護回路を備えている。
 MYTHO3は、間接音成分がタップリとした、濃やかで、柔らかく、しなやかな表情の音だ。低域は少し軟調傾向があるが、高レベルから低レベルにかけてのグラデーションは豊かで、そのしなやかな音はかなり魅力的といえる。

インフィニティ Renaissance 80

井上卓也

ステレオサウンド 100号(1991年9月発行)
「注目の新製品を聴く」より

 かねてからインフィニティのカッパシリーズの改良モデルの開発が行なわれているとの噂があったが、今回、インフィニティの23年にわたるスピーカー開発の技術とノウハウを活かしスピーカーのルネッサンスの意味をこめて、ルネッサンスシリーズの新名称が与えられた3ウェイシステム/ルネッサンス80と4ウェイシステム/ルネッサンス90の2モデルが発売された。
 試聴モデルは、ルネッサンス80であるが、このシステムは、独自の射出成型法によるIMGの20cm口径ウーファーをベースに、インフィニティならではのダイナミック平面振動板を採用したEMI型を中域と高域に採用したトールボーイフロアー型システムだ。
 新シリーズは従来のカッパシリーズに比べ、〝スピーカーの永遠の理想像である小型システムながら如何に伸びやかな低音再生ができるか〟を開発テーマとしているため、かなりスリムで、スペースファクターに優れたコンパクトなシステムにまとめられている。
 低域ユニットは、直径方向に射出成型の独自のシマ模様のあるわずかにカーヴ形状をしたコーンを採用しており、同社のモジュラスに低域で初採用されたメタル系材料による凹型のコンケーブキャップに特徴が見受けられる。
 中域と高域ユニットは、完全に設計が一新された新ユニットであり、この辺りも〝ルネッサンス〟の意味合いが込められた、新世代のEMI型として注目したい。中域ユニットは外観上からも従来ユニットとの違いが明瞭に識別でき、その進歩の様が見られる。
 磁気プレート面の長方形スリットは、コーナーが丸い長楕円形になり、プレート前面にあった成型品フランジが省かれ、プレートは直接エンクロージュアに取付け可能となった。こうした取付け方法の改善と振動板材料の向上により、テンションが均等化され、いわゆるシワが皆無となり精度が大幅にアップしていろ点は見逃せない。
 高域は基本構造は中域に準じるが、磁気プレート上のスリット配列は変った。これはおそらく従来型の水平に広く、垂直に狭い指向性を均等化する目的の改良であろう。
 ネットワークは、低域ユニットに同社独自の開発で低域再生能力を向上させるダブルボイスコイルによるワトキンス型を復活させた。これにより従来のLCチューンによるインピーダンスの落込みがなく、アンプにとっては駆動しやすくなったが、低域をコントロールしなくてはならないためLC素子は物量が必要だ。
 変形6角断面のエンクロージュアは、後部脚でバッフル面角度が変る3点接地型が新採用された。また、中域バックチャンバー開口部が背面に音響抵抗をかけて開口している点が新しい。
 本機はEMI型ユニットの改良により平面型独特のキャラクターは完全に抑えられ、非常に精度感の高い反応の速い音と見事なプレゼンスを楽しむことができる。

アインシュタイン Integrated Amplifier

井上卓也

ステレオサウンド 100号(1991年9月発行)
「注目の新製品を聴く」より

 国内でオーディオメーカーといえば、世界的規模で活動をする巨大産業という印象が強いが、海外では、従業員が数名程度の小規模なオーディオメーカーが、想像以上に存在する。このことは、欧米で開催されるオーディオショウを見るたびに、一種の驚きとして感じられることであるが、ドイツのアインシュタイン社も、そのようなメーカーのひとつであるようだ。
 アインシュタイン社は、1988年に当時の西ドイツ・ルール地方で、エレクトロニクスのエンジニア、ロルフ・ハイファー氏を中心にして設立されたオーディオメーカーであり、現在も数人のメンバーにより活動をしている。ユニークなことに同社はアインシュタイン・ブランドのみならず、真空管アンプを専業とするオレンジ・オーディオ、高級アナログカートリッジを開発するチューバフォン、そしてレコード部門のRIFFレコードという計4つのセクションを合せもっている。
 今回輸入されたアインシュタインのインテグレーテッドアンプをモデルナンバーとするプリメインアンプは、1988年に前記ロルフ・ハイファー氏により設計されたアインシュタイン社の第1弾製品であり、同社のオーディオ理念を知るためには好適なモデルのようだ。
 外観から受ける第一印象は、シンプルなレイアウトのブラックパネルとクロームに輝く筐体から、いかにもドイツ的な感覚に基づいたパワーアンプを思わせる個性の強いデザインに目を奪われる。しかし、目を転じてリアパネル側から眺めると、このアンプが非常にユニークな構造をもつブリメインアンプであることがわかる。
 ベースとなる筐体はやや薄型のコントロールアンプ的なイメージの作りであるが、比較的に背の高いフロントパネルは、下側3分の1は筐体部分がなく、フロントパネルを下側に伸ばし、その両側に脚部を設けた単なるフートなのである。したがって横および後から見れば、筐体は高床住宅的に後側1点、前側2点の計3点で支持され中空に浮いた状態になっている。この特殊構造の説明は特にないが、考えられることは、冷却用空気の流通面でのメリットをはじめ、アンプを設置した場合の設置面と筐体底板面におけるスピーカーの音圧によって生じる定在波のコントロール、設置面の下側からの磁気的な影響を避けるため、などをあげることができるだろう。
 内部構造や部品配置は、同社ではピュア・デュアル・モノコンストラクションを標榜しているが、内部の写真でもわかるように、入力から出力に至る信号内経路の短縮化が最大の目的のようで、本機の場合、信号経路長は20cm以下と発表されている。
 アンプとしてのブロックダイアグラムは3ブロック構成である。まずフォノイコライザー段は、20個の低雑音トランジスターで構成されるディスクリートタイプと資料にはあるが、RIAA素子がバッシヴ型とのことであるため、2段構成のアンプ段間にCR型イコ一アイザーを置くタイプなのであろう。
 信号系にOPアンプやコンデンサーがないという資料の記述は、やや理解に苦しむところである。
 MM/MC切替は、リアパネルのスイッチで対応し、MC負荷抵抗は、標準100Ω、背面プラグで各種の対応が可能である。ラインアンプは、利得10dB程のオペアンプ構成で、CD入力部には特殊回路が開発されアナログを凌ぐ音質を確保している。
 パワー段は、モトローラ社製バイポーラトランジスターの採用で8Ω時60W+60W、1Ω時400W+400Wの出力とのことだ。
 機能面は、最低限の機能を残す音質重視設計で、入力切替はリレーによるリモート操作型、ボリュウムも、パネル面のロータリースイッチで基板部にあるリレーを操作し基板上の抵抗を切替える方式である。このボリュウムは通常使用ではやや低利得に感じるが、筐体底板の右前部にある切替スイッチにより、ボリュウム最大値の1ステップ上のレベルを通常の0位置として本来の最大レベルまで利得が上がるという、非常にユニークな仕様になっている。ただしスイッチ切替を誤れば、0位置でもかなりの音量となるなど、過大レベルの危険もあるため厳重な注意が操作上は必要である。
 電源部も非常に特徴的で、広帯域にわたり電源インピーダンスを低く保つため小型コンデンサーを約50個並列使用している。
 フロントパネルは25mm厚のアルミブロックを削り出し、ピアノ塗装仕上げとしている。筐体はステンレスを採用し、不思議な魅力を備えている。
 音も実に個性的だ。油絵を想わせるポッテリと色あいの濃い音は、陰影豊かで、程よい実体感があり、音場感にも優れている。また、一種の管球アンプ的な大人っぼい雰囲気がある。本機はプリメインアンプとしてはかなり高額であるが、それに見合ったクォリティは今後注目に値するだろう。

マランツ PH-1, MA-7A

井上卓也

ステレオサウンド 100号(1991年9月発行)
「注目の新製品を聴く」より

 マランツのデジタルプログラムソース時代のコントロールアンプを目指して開発された、DAC1に始まるコンパクトで高級モジュラーシステムともいえるシリーズの製品は、とかく類型的になりがちなコンポーネントアンプのなかにあっては、大変にユニークな存在である。同シリーズのコントロールアンプ、モノーラルパワーアンプ、AC電源のフィルター兼ディストリビューターに続き、フォノイコライザーアンプPH1と、DAC1を組み合せるに相応しいモノーラルパワーアンプMA7の改良モデルが、純A級動作30Wの定格をもつたMA7Aとして同時に発売された。
 フォノイモフィザーアンプPH1は、DAC1と同じ筐体を利用して開発されたモデルだが、世界的にCDがプログラムソースの主流となり、アナログディスクの生産も減少している現在の状況下で開発される、いわば最後のフォノイコライザーアンプであるだけに、非常にユニークな内容をもった新製品である。機能面では、MC型対応に昇圧トランスを採用し、高・低インピーダンス型対応はトランスの一次巻線のタップで対応する設計であり、高純度MC再生を可能とするために、MMとMCは、個別の専用入力端子を備えている。
 フォノイコライザーアンプとしての構成は、レベルの低い低域側をNF型でイコライゼーションを行ない、レベルの高い高域側をCRバッシヴ素子で処理をする構成のNF・CR型設計である。NFイコライザーアンプと送り出しのフラットアンプには、FETパラレルプッシュプルのディスクリートDCサーボアンプを採用している。本機の機能で最大の特徴は、かつてのSPレコードの各種のイコライザー特性に対応可能なSP用イコライザーを3ポジション備えていることで、かろうじてSP用カートリッジが入手可能な現時点においては、非常に適切なコンセプトといえるだろう。
 いっぼうMA7Aは、筐体構造の原型を遠くMA5に置く歴史の長いモノーラルパワーアンプであるが、一時はMA5を2台一つのフロントパネルで結合しSM10として発売していたことを記憶しているファンもあることであろう。ちなみに、このモノーラルアンプを機械的に結合してステレオ構成とする手法は、ソリッドステート初期のマランツ・モデル15/16で採用されたものだ。MA7Aは音質を重視し純A級動作専用の設計であり、30Wの出力は、音質に関係をもつ保護回路が簡単となる利点をもつものだ。
 試聴はPH1、DAC1+MA7Aのラインナップで、カートリッジにオルトフォンのSPU−GOLDを使ったが、まず、印象的なことは実装時のS/Nが大変に高いことである。程よい帯域バランスをもったアナログならではの安堵感とリアリティのある立派な音は駆動力も十分で、聴いていて本当に楽しめるものだ。

エアータイト ATM-3

井上卓也

ステレオサウンド 100号(1991年9月発行)
「注目の新製品を聴く」より

 エアータイトは日本の管球アンプメーカーだが、国内よりむしろヨーロッパ、アメリカなどの海外で知名度が高いユニークな存在である。この度、同社が創立5周年を迎えたことを記念して、同社初のモノーラル管球アンプATM3が発売されることになった。
 同社のパワーアンプは、6CA7をプッシュプルで使うステレオパワーアンプATM1を第1弾製品としてスタートし、続く、第2弾製品ATM2の成果でメーカーとしての基盤を固めた。今回のATM3は、デザイン、内容ともに従来モデルとは一線を画した意欲的なモデルである。
 まず、デザインは、従来のシャーシをベースに出力トランス、電源トランス、コンデンサーや真空管を配置した機能優先の単純明解なタイプから、フロントパネルをもつキュービックなデザインに変った。内部のエレクトロニクスもハイパワー化が図られて、6CA7を3本並列使用するトリプルプッシュプル構成の出力段により100Wのパワーを獲得している。
 この出力段は、出力トランスに中間タップを設け6CA7の2番目の電極であるスクリーングリッドに接続し、NFをかけ出力段の内部抵抗を3極管的に下げながらもパワー的には5極管動作に匹敵する出力が得られる特徴があるUL(ウルトラ・リニア)接続で100Wのパワーを得ている。単純なプッシュプル構成で35〜40Wの出力が得られる6CA7の定格から考えれば、1ペア当たり33・3Wに相当するため余裕のあるオペレーションといえるだろう。
 なお、本機はスイッチ切替でスクリーングリッドをプレートに接続し、3極管接続とすることが可能であるが、この場合はクォリティは上がるが、反面、パワーは低減するため、トリプルプッシュプル構成で55Wが得られることになる。
 この出力段のトリプルプッシュプル構成は、マッキントッシュの管球パワーアンプとして異例の存在であったMC3500に採用されていた設計である。現在、入手可能なパワーチューブとしてスタンダードである6CA7を使って100Wのパワーを得ようとすれば、当然の帰結であり、大出力を得ようとすれば高域特性が劣化しがちな出力トランスにとっては、負荷インピーダンスが、トリプルプッシュプル構成で3分の1と低くなり、一次巻線と二次巻線の巻線比を低くすることが実現でき、一段と高域特性の改善が可能となるメリットをもっているようである。
 3並列使用の出力段の特性はバイアス調整に依存するが、当然、本機は専用メーターにより常時チェックと調整が可能である。
 本機は、ザックリとした線の太い豪放磊落な力強い音を聴かせる。色彩感は薄いが濃淡の鮮やかな音は非常に個性的である。

JMラボ Utopia

井上卓也

ステレオサウンド 99号(1991年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 このところヨーロッパ系のスピーカーシステムで、フランスのフォーカル社のユニットを採用したモデルが数多く見受けられるようになっている。ゴールドムンドのスーパーダイアローグやアクースティックラボのボレロなどがその例である。フォーカル社は1980年にフランスのサンテチエンヌ市に、現在もオーナーであるジャック・マエール氏が2人のメンバーと創立した会社であり、現在は75名の人員を擁するフランス最大のユニットメーカーである。
 現在フォーカル社は、車載用や他社に供給するユニットを「フォーカル」のブランドで、また、1985年頃よりスタートしたスピーカーシステムを「JMラボ」のブランドとして生産をしているという。
 JMラボのスピーカーシステムは、現在15モデルがラインナップされており、フランス国内の市場専有率では、ボーズ、JMラボ、キャバスの順位でナンバー2の位置にある。今回輸入されたユートピアは、JMラボのトップレンジのモデルで、今年の初めにラスベガスのウィンターCES(コンシュマー・エレクトロニクス・ショウ)の会場で発表された最新作である。
 JMラボのシステムは、数年前に独特のダブルボイスコイルを採用したウーファーにトゥイーターを組み合せた小型システムがサンプルとして輸入されたことがあるが、正式に製品が発売されるのは今回が初めてのことである。
 ユートピアは、海外製品としては比較的に珍しい、いわゆるハイテク材料を振動板に全面的に採用したシステムである。
 低域と2個並列動作で使われている中低域ユニットは、振動板材料に、フォーカル社が世界的に特許をもつといわれている発泡樹脂の両面にケブラー(アラミッド)シートをサンドイッチ構造とした、3層構造のポリケブラー振動板を採用している。このポリケブラーコーンは軽く、剛性が高く、適度な内部損失をもつ理想的な振動板であり、実際にユートピアの低域ユニットに触れてみれば、実感としてこの特徴が理解できるだろう。
 基本的なシステムの構成は、高域ユニットの上下に2個の低域ユニットを振り分けた仮想同軸型のシステムに、サブウーファーを加えてフロアー型とした設計である。このモデルで重要なポイントは、サブウーファーユニットの特殊な発想であろう。磁気回路は、一般的なフェライト磁石を採用した外磁型であるが、その後側に独立したもう一つのボイスコイルを備えた磁気回路がリジッドに取り付けてある。この後部磁気回路に取り付けてあるボイスコイルは、前後2重ダンパーで支持されているが、振動板としてのコーンはなく、コーンと同様の質量のバランスウェイトをもっており、この振動系は、ボイスコイルの延長方向に丸孔が開けられたハウジング内に納まっている。この独特な機構は、一般のユニットではボイスコイルを駆動する反動がスピーカーフレームを通り、エンクロージュアを駆動することになるが、この反動を機械的に打ち消すために、アクティヴなボイスコルと等価的に等しい振動系をもつ後部磁気回路を使うという設計で、これはMVF(メカニカル・ヴァイブレーション・フリー)方式と名付けられている。
 これにより、フレームやエンクロージュアの不要共振は相殺され、混濁感のない純度の高い再生音が得られることになるというが、この部分でウーファー同様のエネルギーが消耗し能率は半減するので、かなり高能率なウーファーの採用がこの方式の大前提になるようだ。
 中域ユニットは準低域的動作で、特殊イコライザー付き。高域はチタン箔表面にダイアモンドコーティングを施した逆ドーム型。エンクロージュアは、非常に木組みが美しい家具的な精度、仕上げをもつ見事な出来であるが、遠くで見るとむしろ大人しく目立たない独特の雰囲気がある。
、ネットワークは裏板部分に高グレードの空芯コイルと大型ポリプロピレンコンデンサーを組み合せているが、カバー部分が透明であるため内部構造を見ることができる。
 本機の第一印象は、広帯域型のスッキリと伸びた帯域バランスと反応の速い軽快な音である。音の傾向は、原音再生というよりも、かなりハイファイな音ではあるが、このシステムで聴く再生音楽ならではの魅力的な音楽の実体感は、まさにオーディオの醍醐味である。反応の速い、軽くて明るい低音は、本機ならではの持ち味であり、とくに各種の楽器がいっせいに鳴るパートでも、まったく音崩れしない分解能の高い低音を保つあたりは、他のシステムでは望むことができない。このサウンドは、本機ならではのかけがえのない魅力である。

ポークオーディオ RTA15TL

井上卓也

ステレオサウンド 99号(1991年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 米国では大変にポピュラーな存在であるポークオーディオのスピーカーシステムは、独自のStereo Dimentional Array方式と呼ばれるユニット配置と特殊な位相特性コントロールにより、優れたステレオイメージを得る技術の採用がよく知られている。今回新製品としてご紹介するRTA15TLは、前記SDA方式を採用していないコンベンショナルなスピーカーで、RTAシリーズのトップモデルに位置づけられるトールボーイ型のフロアーシステムである。
 現在RTAシリーズには既発売のRTA8t、同11tがあるが、それらが2本のウーファーを搭載しているのに対し、本機ではウーファーが4本に強化されるとともに、同社の大型システムに常用されているパッシヴラジエーターをエンクロージュア前後に1本ずつ搭載している点が新しい。
 横幅対高さが約1対3とバランスの良いプロポーションをもつエンクロージュアは、トッププレートがブラック鏡面仕上げで美しく、側面はオーク調に仕上げられている。とかく安手な印象になりがちな海外製品の中級スピーカーの中にあっては、その巧みなデザインとフィニッシュは見逃せない魅力といえそうだ。
 低域は同社の標準ユニットである16・5cm口径の6500シリーズのユニットを高域を挟む格好で上下に振り分けて配置した垂直方向の仮想同軸型である。高域は2・5cm口径のシルバーコイルドーム型と呼ばれるSL3000で、上側にディフューザーを取り付けたタイプだ。注目のパッシヴラジエーターはともに30cm口径で、共振周波数は上下に分けたスタガー的な使用に特徴がある。
 本機は柔らかく豊かな低域と、やや硬質な輝きのある高域がほどよくバランスした安定感のある音が印象的である。柔らかい低域は反応の速い小口径ウーファーと重量級パッシヴラジエーターの組合せによるもので、駆動源であるウーファーとそれを受けるパッシヴラジエーターの相互関係は、さすがに長い経験を誇るボークオーディオ社だけのことはある、まったく違和感の感じられない巧みなコントロールぶりである。このパッシヴラジエーターをはじめとして、各ユニット構成、そしてエンクロージュアの作りといった総合的なバランスのよさは、結果として音に過不足なく調和しており、このあたりはさすがに見事である。
 試聴機は高域がまだエージング不足であり、若干ダイアフラムの固有音が気になることもあったが、これはしばらく使い込めばクリアーできるレベルだ。かなり大型のトールボーイ型ではあるが、大音量時よりも小音量時の再生に重点を置いたチューニングがなされているようで、小音量時も決してバランスが崩れず、高域も素直に感じられる。本機は、ややライヴな部屋で使用すれば、かなり価格対満足度の高い結果の得られるスピーカーである。

アンサンブル PA1, Reference

井上卓也

ステレオサウンド 99号(1991年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 このところ、イタリアやスイスの小型スピーカーシステムが輸入され、それぞれの個性的なサウンドとデザイン、仕上げにより注目を集めているのは大変に喜ばしいところである。そして今回、初めて輸入されたアンサンブルという小型スピーカーも、個性的なシステムの多い海外製品の中にあって、なお強烈な個性を備えた非常に興味深いシステムである。
 このアンサンブルというのはディストリビュートを行なっているスイスの販売会社の名前で、実際にスピーカーを製造しているのはパウエルアコースティック社というこれまたスイスのメーカーである。このメーカーの詳細については今のところ不明だが、会社はハリーとマーカスのパウエル兄弟によって1981年に創立されたようだ。
 試聴したシステムは、同サイズのエンクロージュアを採用したPA1とリファレンスという、ともに2ウェイ構成の2モデルであるが、まずはじめに相互の価格差がかなり大きいことに驚かされる。
 PA1は、スイス・チェリーウッドとサテンブラック仕上げの2種類が用意されている。エンクロージュアは、フロントパネルが傾斜したタイムアラインメント型と呼ばれる方式で、高・低2個のユニットの発音源の位置を合せる目的の設計である。型式としては密閉型に見えるが、裏板部分のほとんどが、英国KEF社製と思われるパッシヴラジエーターで占められており、背面にパッシヴラジエーターを使用したバスレフ型ということができるだろう。
 このタイプは、エンクロージュア背面に向かって低域がかなり放射され、しかもパッシヴラジエーターの振動板の固有音も加わっているため、背面にバスレフ用ポートをもつバスレフ型以上にセッティング場所の背後の条件を考慮に入れなければならない。つまり壁面に近い場合と、部屋の中央あたりにセッティングした場合の、総合的な音質、音色がかなり変化することを頭に入れておかなければならないのだ。
 低域ユニットは、ベース材料は不明だが、表面にアルミ箔を貼り合せたストレートコーンを採用している。また、高域ユニットは口径1・9cmのドーム型と小口径ダイアフラムの採用に特徴があり、ダイアフラムの前には、ホーンロードがかけてあるため、受け持ち帯域の下側はホーン型の動作をする。クロスオーバーポイントは、小口径2ウェイシステムとしては通常より低い2・5kHzと発表されているが、フィルター特性が6dB/octとスロープがゆるやかなこともあり、組み合せるアンプの出力は、最大100Wとスペックに明示してある。
 いっぽうリファレンスは、型名が示すようにスピーカーの理想像を追求して開発された製品である。本機のエンクロージュアもPA1と同様、サンドイッチ構造の材料を使用しているが、より密度の高い特殊材料を採用しており、仕上げはサテンブラックとピアノブラックの2種類が選択できる。使用ユニットは、外見上では低域ユニットがいわゆるコーン中央部のキャップのない、完全に円錐形のストレートコーン型の一体構造になっているのが目立つ点だ。このタイプは、ボイスコイル、支持系のダンパー、磁気回路との組合せなどかなり手間がかかるが、振動板の単純化や一体性をはじめ、高域での指向性のコントロールなどが優れており、このメリットを活かす方向での採用と考えられる。なお、磁気回路は高域、低域ともに防磁型構造と発表されているが、キャンセルマグネットを使う簡易防磁型と思われる。
 このモデルでPA1にない特徴は、裏板部分に業務用マルチ端子があり、専用の極太特殊構造のスピーカーケーブル(長さ2m)が付属していることである。なお、ネットワークは定数的にはPA1と同じだが、素子のグレードは変っているうだ。
 PA1は、素直な2ウェイらしいクリアーな音と量感のある個性的な低音が、サイズを超えたスケール感でゆったりと鳴る。そして、リファレンスは、全体に非常に一体感のある全体域型的なバランスと、丹念に磨き込まれた光沢を有した独特の密度感のある音が特徴だ。この音は、PA1に格差をつけた見事さである。
 セッティングは壁からの距離を十分にとり、リスニングポイントにかなり近い位置にして聴くと、見通しのよい、プレゼンスの優れた音が聴ける。この両スピーカーシステムは、かなり趣味的な世界を味わわせてくれるので、オーディオファイルのサブシステムとして、また、この独特の世界に魅力を感じる人にとってはかけがえのないものとなるだろう。

ATC SCM50, SCM100

井上卓也

ステレオサウンド 99号(1991年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 英国、ラウドスピーカー・テクノロジ一社のスピーカーシステムは、74年に創立された同社の当時の社名であるアコースティック・トランスデューサー・カンパニーの頭文字ATCをブランド名として、昨年からわが国にも輸入され始めた製品である。このATCの製品は、従来の英国スピーカーの枠を超えた、新しいスピーカーの流れとして注目されている。
 昨年輸入されたモデルは、アンプ内蔵型の3ウェイシステムSCM100Aと、2ウェイシステムのパッシヴ型SCM20の2機種であるが、これに加えてLCネットワーク採用のSCM100と、3チャンネルアンプ内蔵型SCM50A、そしてLCネットワーク採用のSCM50が輸入されることになった。なおSCM50Aは前号の本誌で紹介済みなので、今回試聴をしたモデルは、ともにコンベンショナルなLCネットワークを採用したSCM100とSCM50である。
 同社のモデルナンバーの数字は、エンクロージュアの内容積を示しており、50は、50ℓの意味だ。SCM100は、3チャンネルアンプ内蔵のSCM100Aを一般的なLCネットワーク採用としたもので、単純明快に、リアパネルにあるアンプ収納部にパッシヴ型ネットワークを組み込んだタイプである。バスレフ型のエンクロージュアは、現在の製品としては珍しく、バッフルが取り外せる設計で、使用材料は、ロスの多い柔らかい木材で、制動をかけた使い方である。使用ユニットは、当然SCM100と変らず、低域がSB75-314コーン型、中域がSM75-150ソフトドーム型、高域がSH25-100ポリエ
スチルドーム型である。低域と中域の型名で、SB、SMに続く数字はボイスコイル口径であり、続く3桁数字は、いわゆる口径を表わすが、中域はホーン開口径である。
 ネットワークは、かなりグレードの高い素子を使った設計で、大型の空芯コイルと、これも大型のチューブラータイプのポリプロピレンコンデンサーの組合せである。これは3チャンネルのディバイダー組み込みのアンプを使うSCM100Aと同等のサウンドクォリティを保つための採用と思われるが、このネットワーク素子を重視する傾向は、タンノイの新スタジオシリーズにも近似したグレードのLC素子が採用されており、ヨーロッパ系スピーカーの新しい特徴として注目したいものである。
 SCM50系は、SCM100系の特徴をより小型化したシステムで実現させた小型高密度設計に最大の特徴がある。ユニット構成の基本は、上級機SCM100系を受け継いだ3ウェイ構成で、高域と中域のユニットは同じであるが、低域ユニットは口径31cmのSB75-314から1サイズ小さい口径24cmのSB75-241に変更され、バスレフ型エンクロージュアの内容積を50ℓと半減させたために、外観から受ける印象はかなり凝縮した密度感の高いものとなり、オーディオ的に十分に魅力あるモデルだ。
 最初の内は全体に軟調でコントラストの不足した反応の鈍い音であるが、約30分間ほど経過をすると、次第に目覚めたように音が立ちはじめ、それなりの反応を示しはじめる。基本的にはやや重く、力強い低域をベースとして、安定感のある中域に特徴がある重厚な音である。バランス的には、一体感がある低域と中域に比べると、高域に少し飽和感を感じるのは、SCM100Aと共通だが、聴感上でのSN比が高いのが、このモデルの最大の魅力のポイントである。かなり、ウォームアップが進むと、いかにも現代のモニターシステム的な情報量の多い音場感的な見通しの良さが聴かれるようになるが、音の表情は全体に抑制が効き、音離れが悪い面が若干あるため、ドライブアンプには駆動力が十分にあり反応の速いタイプが望まれる。最近のスピーカーシステムとしては、異例に密度感が高く、重厚で力強い音が聴けるこのシステムの魅力は非常に大きい。
 SCM50は、25cm口径の低域の特徴を出した、個性的なバランスの昔である。低音感は十分にあるが、中低域の量感がやや抑え気味で、音場感的なプレゼンスはミニマムの水準である。この傾向は特に小音量時に目立ち、音量を上げると本領が発揮されるタイプだ。
 弦楽器はしなやかで、パーカッシヴな音もナチュラルに再現し、ピアノの実体感も良く引き出す。安定しているSCM100に比べると、本機の場合はどうにかして思い通りに鳴らしてみたい、といった意欲にかられる挑戦し甲斐のあるモデルだ。

ビクター SX-700

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

小型2ウェイ方式に、低音専用のサブウーファーシステムを独立したキャビティ採用で組み合せ、トールボーイとしてまとめた手堅い手法の製品である。柔らかく量感があり、ほどよく反応が速いサブウーファーを加えた低域の豊かさは、この製品の特徴であり、この部分をどうこなすかがアンプの実力の問われるところ。

セレッション SL6Si

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

英国系の小型2ウェイシステムを代表する、適度に反応が速くプレゼンスの良い音と、メカニカルでわかりやすいデザインが巧みにマッチした製品である。Siに発展して中域の薄さが解消され、低軟、高硬の性質は残っているが、小型システムの、音離れが良くプレゼンスの良い特徴も併せて、総合的な完成度はかなり高い。

ダイヤトーン DS-77Z

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

口径30cmを超すウーファーベースの伝統的3ウェイブックシェルフ型の典型的存在であり、現在生き残っている数少ない機種だ。3ウェイらしく中域のエネルギーが充分にあり、情報量が多いため、使いこなしを誤れば圧倒感のあるアグレッシヴな音になりやすく、このあたりを使いこなせないようではオーディオは語れない。

ソニー CDP-R1a + DAS-R1a

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 温和で、しなやかな充分に磨き込まれた音を持った、雰囲気のよい音を聴かせるプレーヤーである。
 ロッシーニは、しなやかではあるが、スッキリとした音を指向した音を聴かせる。各楽器はひととおり分離するが、各パートの声は少し伸び切らない印象となる。音場感情報量、柔らかく定位する小さな音像など、平均を超すレベルだ。ピアノトリオは、ホールの響きをたっぷりと聴かせるサロン風なまとまりである。中高域には硬質な面があり、音の輪郭を聴かせる効果はあるが、ヴァイオリン、チェロの高域成分は少し硬い。ブルックナーは、一応のレベルの音だが全体にちぐはぐな面があり、再生系との相性の悪さが出た音だ。平衡出力では、コントラストが下がり、フレキシビリティは出るが、三万二してまとまらない。ジャズは集中力が不足し、力がいま一歩の印象でまとまらない。もう少し低域のリズム感が支えれば、一応の水準になる印象が強い。

マイクロ CD-M2DC + DC-M2

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 穏やかで、一種独特の重さ、暗さがある渋い音を持つ個性的な音である。CDとしては再生する情報量は多く、演奏会場の空気の動きや椅子などのキシミ、楽器のノイズなどを聴かせる。試聴位置は中央の標準位置。ロッシーニは、基本的にはウォームトーン系のまとまりだが、角がとれたクッキリとした音はアナログディスク的なイメージがある。各パートの声は少し伸びが抑えられ、音像はフワッと大きく定位する。ピアノトリオは、低域が重く粘りがあり反応は遅いが、中低域以上はほどよく立上りの良い素直な音であるため、低域のコントロールをすれば個性的な良い音になるだろう。ブルックナーは、音楽的な意味でのブルックナーらしさがあるが、オーディオ的には見通しが悪く、晴々としない音である。平衡接続ではプレゼンスは良くなるが、ダイナミックレンジは抑えられ、表情も鈍くなる。ジャズは、狭帯域型バランスと閉鎖空間的プレゼンスが特徴だが、安定度、力感が欲しい。

ソニー CDP-R3

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 音の粒子が細かく、滑らかに磨き込まれた低域から中域と、聴感上で高域がゆるやかに下降したかのように聴きとれる、柔らかく穏やかな帯域バランスをもつが、基本クォリティが高く、際立ちはしないが、聴き込むとナチュラルに切れ込む音の分離は相当なものだ。ロッシーニは、中高域に輝きのある硬質さが時折顔を出すが、空間の拡がり感もあり、やはり価格に見合うだけのクォリティの高さが感じられる。ピアノトリオは、全体に低軟・高硬の2ウェイスピーカー的なまとまりとなり、一種のアンバランスの魅力があるまとまりといえるだろう。ブルックナーは、演奏会場の暗騒音もよく聴きとれ、一応の水準を保つ音だ。平衡出力は、全体域にゆとりがあり、しなやかさが加わって弦楽器系の硬質な音が解消され、見かけ上でのダイナミックレンジも大きく聴かれるが、高域は抑え気味。ジャズは、ライヴハウス的イメージの音で、音源が少し遠くなるが、適度なノリで、かなり楽しめる。

メリディアン 206

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 全体に各種プログラムソースを、ややクラシカルな個性的な自分の音として消化して聴かせる独特のキャラクターに注目したい製品。ロッシーニは、全体にナローレンジで硬質な音にまとまり、情報量は少ないが、古いアナログディスク的な一面のある音とでも表現したい印象がある。ピアノトリオは、206の硬質な個性がよく出た明快なピアノとチェロがオーディオ的にわかりやすいコントラストを聴かせる。音場感は少し狭いタイプだ。ブルックナーは、音の輪郭をクッキリと聴かせる、かなり個性的なまとまりとなるが、一種の思い切りの良さが感じられるポイントを押えた音楽の聴かせ方は、再生音楽としてオーディオ的にこれならではの魅力を感じる向きもありそうだ。ジャズは、明快なクッキリとした音を描くまとまりである。聴き込めばブラスは薄く、ベースが小さく硬調となるが、余分な音を整理し、分離よく聴かせどころを巧みに残したような独特の個性は興味深い。

アキュフェーズ DP-11

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 柔らかく、軽く、爽やか指向の音をもつデルであるが、音情感はフワッと柔らかい雰囲気にまとまる傾向があり、見通しの良さは平均的程度である。ロッシーニは爽やかで軽い音にまとまるが、中高域に独特の輝く個性があり、声の伸びやかさを抑え気味として聴かせ、空間の拡がりも不足気味。ピアノトリオは音色が暗く、暖色系となり、中域の表情が硬く、息つぎの音が少し誇張気味に感じられ、プレゼンスもあまり出ない。
 ブルックナーは予想よりも大掴みで、大味なまとまりとなり、低域に誇張感がある。全体に力がなく、低域の輪郭の明瞭な特徴が活かせない。平衡出力は、空間の再現能力が高く、ホールの広さが感じられるようになる。低域の軟調描写傾向は残り、大太鼓はボケ気味で、弦楽器が全体に硬くなるが、全体のバランスは保たれている。プログラムソース全般に同一傾向があり、再生システムとの、いわゆる相性のようでもある。

フィリップス LHH500

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 柔らかく角のとれた、しやかで雰囲気のよい音をもつモデルである。プログラムソースとの対応の幅は広く、あまりハイファイ調とせず聴きやすいが、音楽的に内容のある音をもつ点は、大変に好ましい。ロッシーニは、ほどよくプレゼンスのあるナチュラルな音だ。ほどよく明るい音色と、中域から中高域にかけての素直な音は魅力的でさえある。低域の質感が甘い面もあるが、まとまりの良さはフィリップスらしい特徴である。ピアノトリオは、サロン風なまとまりとなり、予想より音の厚み、音場感情報が不足気味で、中高域に強調感があり、息つぎの音の自然さがなく、気になる。ブルックナーは、全体にコントラスト不足で音が遠いが、平衡出力にすると音情感はたっぷりとあり、音の芯も明快で一段と高級機の音になる。ダイナミックレンジ的伸びと鮮度感が不足気味で、fレンジは少し狭くなり、中域の量感がむしろ減る傾向となる。ジャズは実在感がいま一歩で分離もいま一歩。

ビクター XL-Z1000 + XP-DA1000

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 音場感情報が豊かで、音楽が演奏されている空間の拡がりを、ゆったりとした余裕のあるプレゼンスで聴かせる特徴がある。ロッシーニでは、予想より硬質な面と、音の分離にいまひとつの感があるが、木管楽器特有の高質さとふくらみや、コントラバスのピチカートなどはかなり実体感があり、見通しもよい。ピアノトリオは、中高域に少し硬質さがある薄味傾向のまとまり。楽器のメカニズムの出す固有のノイズをかなり聴かせるが、ピアノのリアリティは抑えられる。ヴァイオリン、チェロは少し硬質で、やや響き不足の音だ。ブルックナーは、奥行きの深い空間を感じさせる音場感の豊かさがあり、響きはたっぷりとあるが全体に力不足で、トゥッティで音の混濁感がある。平衡出力では、スッキリと見通しの良さが聴かれ、反応の軽さが出るが、再生系の持つ一種の重さ、暗さがある低域が全体のバランスを崩しているようで、これは聴取位置が左側に偏っていることも関係がある。

デンオン DCD-3500RG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より
 適度に緻密で安定感のある中域を中心に、ナチュラルな帯域バランスと標準的な音情感の再現能力、明快な音像定位が聴かれるリファレンスモデル的な内容の音は、昨年発表された時点とは格段の差のグレードアップである。聴取位置は中央の標準位置である。ロッシーニは柔らかい雰囲気型の音で、音像は奥に定位する。安定度は充分にあるが密度感が不足気味で、ウォームアップ不足だ。ピアノトリオは、安定感のある帯域バランスと芯のしっかりした音で、一種の重厚さめいた印象が特徴。ブルックナーは厚みのある安定した、いわば立派な音だが、トゥッティでは混濁気味。平衡出力では、ホールトーンはたっぷりとあるが表情が甘く、コントラスト不足の音で、かなり音量を変え、セッティングを少し変えた程度では変化がなく、再生系との相性の問題がありそうだ。ジャズは、低域が腰高で安定せず、全体にモコモコとした一種の濁りのある音とプレゼンスでまとまらない音だ。

EMT 981

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 整然とした硬質な音を、適度な力感を持って聴かせる個性型のプレーヤーだ。ロッシーニでは、弦、木管などのハーモニクスが個性的な輝きを持ち、コリッとした硬めのテノールは本機の特徴を物語る。音場感は特に広くはなく、ある限定された空間にピシッと拡がり、輪郭がクッキリとした音像定位はクリアーで見事である。ピアノトリオは間接音成分が抑えられ、スタジオ録音的まとまりとなるが、硬質で実体感のある音は楽器が身近に見える一種の生々しさがあり楽しい。ブルックナーは、トゥッティで少しメタリックな強調感があるが、音源が予想より遠くスケール不足の音だ。No.26Lの不平衡入力から平衡入力に替えると、音場感、各パートの楽器の音がかなり自然になり、このクラス水準の音になるが、編成の大きなオーケストラのエネルギー感は不足気味だ。それにしても、ブルックナーが見通しよく整然と聴こえたら、それが優れたオーディオ機器なのだろうか。

パイオニア PD-5000

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 響きの豊かさがあり、基本的なクォリティが高く、各プログラムソースの特徴を引き出しながら、安定感のある立派な音が聴ける製品だ。ロッシーニでは、自然な拡がりのあるホールトーンと安定した音を聴かせ、音像の立ち方もやや立体的なイメージがある。中域の一部には少し硬質な傾向があり、楽器の分離がよくリアリティのある音で描く効果があり、柔らかく質感のよい低域と巧みなバランスを保つ。ピアノトリオは響きが豊かで、ディテールをサラッと聴かせる素直な再現能力と実体感のある音像定位が好ましいが、再生システムのキャラクターか、やや硬調な描写となりやすく、アタック音が少しなまり気味だ。ブルックナーも共通で金管が硬く聴かれ、トゥッティの分離がいま一歩であるが、安定した質感のよい音と自然なプレゼンスは相当によい。低域の伸び、ゆとりに少し不満が残るが、価格からは無理な注文だろう。ジャズは、低域腰高で軟調傾向だが、よくまとまる。