Category Archives: コントロールアンプ - Page 3

JBL S5500(組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「Project K2 S5500 ベストアンプセレクション」より

 旧来のJBLを象徴する製品が43、44のモニターシリーズならば、現代の同社を象徴するのは、コンシューマーモデルであるプロジェクトK2シリーズだ。S5500は、このプロジェクトK2シリーズの最新作で、4ピース構造の上級機S9500の設計思想を受け継ぎワンピース構造とした製品である。この結果、セッティングやハンドリングがよりしやすくなったのは当然だが、使用機器の特徴をあかちさまに出すという点では、本機も決して扱いやすい製品ではない。エンクロージュアや使用ユニットこそ小型化されたものの、S9500の魅力を継承しながらも、より音楽に寄り添った、音楽を楽しむ方向で開発された本機の魅力は大きい。
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 JBLが’92年の末に発表したプロジェクトK2シリーズの最新作が、S5500である。プロジェクトK2とは、’89年にセンセーショナルなデビューを飾ったS9500 (7500)に始まる同社のコンシューマー向けの最高峰シリーズで、本機は、上級機S9500の設計思想を受け継いだワンピース構造のシステムである。S9500が35cmウーファーと4インチダイアフラム・ドライバーを搭載していたのに対し、本機は30cmウーファーと1・75インチドライバーを搭載しているのが特徴である。また、S9500で同一だったウーファーボックスの内容積が、本機では、下部のそれの内容積がやや大きい。ここに、IETと呼ばれる新方式を採用することで、反応の速い位相特性の優れた低域再生を実現している。また、チャージドカップルド・リニア・デフィニションと呼ばれる新開発のネットワークの採用にも注目したい。ネットワークのコンデンサーには、9Vバッテリーでバイアス電圧を与え、過渡特性の改善を図っている。
 本機は、S9500譲りの姿形はしているものの、実際に聴かせる音の傾向はかなり異なり、アンプによって送りこまれたエネルギーをすべて音に変換するのではなく、どちらかというと気持ち良く鳴らすという方向のスピーカーである。
 こうした音質傾向を踏まえたうえで、ここでは、ホーン型スピーカーならではのダイナミックな表現と仮想同軸型ならではの解像度の高い音場再現をスポイルせずに最大限引き出すためのアンプを3ペア選択した。

マッキントッシュ C40+MC7300
 まず最初に聴いたのは、マッキントッシュのC40+MC7300の組合せである。C40は、C34Vの後継機として発売されたマッキントッシュの最新プリアンプで、C34VのAV対応機能を廃したピュアオーディオ機である。サイズもフルサイズとなり、同社のプリアンプとしては初のバランス端子を装備している。これとMC7300といういわばスタンダードな組合せで、S5500のキャラクターを探りながら、可能性を見出すのが狙いだ。
 可能性を見出すというのは、C40に付属する5バンド・イコライザーやラウドネス、エキスパンダー、コンプレッサー機能などを使用して、スピーカーのパワーハンドリングの力量を知ることである(現在、マッキントッシュのプリアンプほどコントロール機能を装備したモデルはきわめて少ない)。また、マッキントッシュの音は、いわゆるハイファイサウンドとは異なる次元で、音楽を楽しく聴かせようという傾向があるが、この傾向はS5500と共通のものに感じられたためこのアンプを選択した。
 S5500+マッキントッシュの音は、安定感のある、非常に明るく伸びやかなものである。古い録音はあまり古く感じさせず、最新録音に多い無機的な響きをそれなりに再現するのは、マッキントッシュならではの魅力だ。これは、ピュアオーディオ路線からは若干ずれるが、多彩なコントロール機能を自分なりに使いこなせば、その世界はさらに広がる。
 その意味で、このアンプが聴かせてくれた音は、ユーザーがいかようにもコントロール可能な中庸を得たものである。ウォームアップには比較的左右されずに、いつでも安心して音楽が楽しめ、オーディオをオーディオ・オーディオしないで楽しませてくれる点では、私自身も非常に好きなアンプである。

カウンターポイント SA5000+SA220
 S5500のみならずJBLのスピーカーが本来目指しているのは、重厚な音ではなく一種のさわやかな響きと軽くて反応の速い音だと思う。この線をS5500から引き出すのが、このカウンターポイントSA5000+SA220である。
 結果は、音楽に対して非常にフレキシビリティのある、小気味よい再生音だった。カウンターポイントの良さは、それらの良さをあからさまに出さずに、品良く聴かせてくれることで、音場感的には、先のマッキントッシュに比べて、やや引きを伴った佇まいである。美化された音楽でありながら、機敏さもあり、非常に魅力的である。たとえるなら、マッキントッシュの濃厚な響きは、秋向きで、このカウンターポイントのさわやかな響きは、春から夏にかけて付き合いたい。

ゴールドムンド ミメイシス2a+ミメイシス8・2
 次は、S5500をオーディオ的に突きつめて、そのポテンシャルを最大限引き出すためには、このあたりのアンプが最低限必要であるという考えの基に選択したのが、ゴールドムンドのミメイシス2a+ミメイシス8・2である。
 結果は、ゴールドムンドならではの品位の高い響きのなかで、ある種の硬質な音の魅力を聴かせる見事なものであった。
 モノーラルアンプならではの拡がりあるプレゼンス感も、圧倒的である。オーディオ的快感の味わえるきわめて心地の良い音ではあるが、反面、アンプなどのセッティングで、音は千変万化するため使いこなしの高度なテクニックを要するであろう。ここをつめていく過程は、まさにオーディオの醍醐味だろう。

 S5500がバッシヴで穏やかな性格をもった、音楽を気持ちよく鳴らそうという方向の製品であることは、前記した通りである。しかし、これは、本機が決して〝取り組みがい〟のない製品であることを示すものではない。一言〝取り組みがい〟といってもランクがあり、手に負えないほどのものと、比較的扱いやすい程度のものと2タイプあるのだ。本機は、後者のタイプで、そのポテンシャルをどう引き出すかは、使い手の腕次第であることを意味している

マークレビンソン No.26SL + No.20.6L(JBL S9500との組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する」より

 現在のハイエンドマーケットで、良くも悪くもリファレンスアンプとして常用されている、マークレビンソンの組合せである。
 No.26Lは、ステレオサウンドのリファレンスアンプの一部で、設置位置は十分に吟味して決めてあるため、テフロン基板タイプとなったNo.26SLもまったく同じ条件に置くことにした。一般に、電源部が独立したプリアンプでは、電源部はどこにどのような状態で置いても音は変らないと思われているようであるが、電源部の感度は相当に高く、置き場所の条件で、音質、音色ともにコロコロと変るものであることを是非とも覚えておく必要がある。パワーアンプは標準位置、結線は平衡型である。
 アウトフォーカスの写真が、徐々にクリアーなピントとなるようなウォームアップをするタイプで、アンプのウォームアップの典型的なパターンといえよう。帯域バランス的な変化は少ないため、ほぼ10分間も経過すれば、一応この組合せとおぼしき音にはなるが、音場感情報量は抑えられ、音の内容も新聞の写真のように粗粒子型のラフさが残っている。低域は軟調気味で、質感が甘く、高域も伸びきっていないため、ゆったりおおらかな魅力はあるが、やや締まらない制御不足の音ともいえるだろう。時間経過に伴い、内容が次第に充実し、音場感情報が豊かになると音の表情にも余裕が感じられるようになり、高級アンプならではの独自の世界が展開されるようになる。
 S9500は、いわゆるアブソリュートフェイズも、一般的スピーカーと同様に正相に変っているため、よく知られているJBLのモニター系(こちらは逆相である)の音質音色に比べ、かなり柔らかくしなやかで、マイルドな方向の音に変っているが、独特のプロポーションをもつエンクロージュアの特徴から、奥行き方向のパースペクティヴの再現能力や音像が浮かび上がって定位する魅力は、従来にない新しい魅力だ。
 No.26SLは、従来のLタイプから、滑らかに、艶やかに、の方向に音色が変り、独特の陰影が音につくようになった。このため、ここでの音はかなり柔らかく豊かで、色彩感を少し抑えた淡彩な音で鳴り、低域は量感はあるが軟調で甘く、全体に見事にコントロールされた、非常に巧みな、味わい深い、とてもオイシイ音として聴かせるパフォーマンスは、マークレビンソンならではの魅力であり、安心感、信頼感である。この程度、時間も経過すれば、スピーカーも部屋に馴じみ、当初のマットな表情から目覚めだしたようで、このアンプ用にセッティングを修正すれば、かなりの幅で自分の音とすることは容易であろう。

ソニック・フロンティア SFL-1

井上卓也

ステレオサウンド 103号(1992年6月発行)
「注目の新製品を聴く」より

 カナダのオンタリオに本拠を置くソニックフロンティアは、管球式アンプを専門に製作しているブランドである。当初はキットのみを提供するメーカーであったようだが、その後完成品としてステレオパワーアンプSFS50、同80を発売。そして、今回ライン入力専用のプリアンプSFL1を発表した。
 なお、同社の製品はこれ以外にも今年のサマーCESで発表される予定の管球式モノーラルパワーアンプやフォノイコライザーアンプなどがある。
 やや色調を抑えたシルバーとゴールドの2トーンカラーのフロントパネルは、ボリュウム、バランス、セレクターの3個のツマミとレバースイッチをシンメトリカルに配置したシンプルなデザインにまとめられている。機能は4系統のライン入力とCD用のダイレクト入力および1系統のテープ入出力といった必要最少限に抑えられた設計で、その他にはミューティングスイッチがある程度だ。
 プリアンプとしての利得は20dBで、アナログ時代のラインアンプの標準的な値であるが、現在のプリアンプとしてはややハイゲイン型である。
 回路構成上の詳細は不明だが、アンプ構成はFETと6DJ8双3極管1本を使ったハイブリッド型で、当初のサンプルモデルでは12AT7が使われていたが、正式モデルには音質面から6DJ8が選ばれ標準仕様となっている。
 回路は当然のことながら基板上に組み込まれ、グラスエポキシ系の板厚3mmのやや厚い材料が使われているが、シンプルな構成のアンプであるだけに部品の選択が直接音質に関係をもつ。抵抗、コンデンサー、スイッチや配線材料はVishay、Cardasなどの銘柄を選択使用している。また、ボリュウムとバランスにはAPS製レーザートリムの可変抵抗を採用している。
 まずノーマルインプットからCD信号を入力してウォームアップを待つ。穏やかでウォームトーン系のやや音色が暗い音というのが最初の印象である。組合せたパワーアンプはアキュフェーズのA100である。試聴の際は、アンプの筐体が十分に熱くなるまでウォームアップはしてあるが、信号を入力してからの音の変化はかなりゆるや
かなタイプであり、15〜20分間ほどで次第にベール感が薄らぎ、音場感的な見通しも良くなり、柔らかい雰囲気のある音が聴かれるようになる。
 積極的に音を聴かせるタイプではないが、固有のキャラクターは少なく、ほどよい鮮度感を備えたしっとりとした音は、長時間にわたり音楽を聴くファンに好適なモデルといえる。惜しむらくは同社のパワーアンプSFS80との組合せが確認できなかったことである。

レステック Vector, Exponent

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 わが国には新しく紹介されるドイツの製品である。ドイツにはこのところきわめてエンスージァスティックなハイエンド・オーディオメーカーの台頭が目立っている。20年ぐらい前までは、プロ機器はともかく、一般用の再生オーディオ機器の分野にはテレフンケンやグルンディッヒのような大きなメーカーの一体型の製品が多く、いわゆるコンポーネントは目につかなかった。この理由として、ドイツ帰りの通と呼ばれる人たちは、どんな小都市にもオペラやコンサートホールがあるドイツではレコードやオーディオは趣味として成り立たないのだと説明してくれたものである。しかし、それは全くの誤りであって、当時ドイツはただ単にオーディオの後進国であっただけである。その証拠に、いまやドイツのハイファイは年々隆盛で、ドイツ製のコンポーネントの種類はメーカーの数とともに年ごとに増大している。わが国への輸入も徐々に増え、スピーカーシステム、アンプリファイアーともにドイツらしい造りのしっかりした高級品が見られる。このレステックというブランドも耳新しいが、製品を見ればその強固な主張と明確なコンセプトが理解できる一級品であって、トータルシステムが構成できる全カテゴリーの製品が用意されている。その一貫したフィロソフィを音として確認するためにはトータルで使用すべきかもしれないが、アンプを独立したコンポーネントとして使ってみても、このメーカーのクォリティへのこだわりと音への主張が理解できるであろう。ヴェクトルもエクスポーネントも一貫してソリッドで磨きぬかれた輝きの質感と、力感に溢れる音のウェイトをもっている。厚く丸く、きりっと締った魅力的な高密度な音である。 その外観の絢爛さはドイツ製品らしさであり、一時代前のメルセデス・ベンツの雰囲気だ。不思議なことだが、他のドイツ製高級アンプと共通のこの重厚なポリュウム感とソリッド感は、ドイツの音の特徴ともいえる個性である。

マッキントッシュ C34V

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 1949年の創立になるマッキントッシュ社は、今やスピーカーもCDプレーヤーも製品群にもつ総合メーカーだが、もともとアンプの専門メーカーとしてスタートした。アンプの一流品としては現在最古のブランドといってよいだろう。初代社長フランク・マッキントッシュ氏の氏名がそのままこの社のブランドになっている。2代目の社長ゴードン・ガウ氏は創立時から実際にマッキントッシュアンプを設計した技術者であった。1950年代にはマッキントッシュとガウの連名で回路特許が見られるが、今や2人ともこの世を去ってしまった。しかし、マッキントッシュの製品は頑固なまでにオリジナリティとアイデンティティを守る体質によって、一貫してマッキントッシュらしさに満ちているし、このアンプの存在がオーディオの世界をここ30年余りにわたって豊かに彩り、重厚な深みを与えてきた功績は大きい。まさに一流メーカー、一流ブランドの見本のような足跡がマッキントッシュの歩んできた道である。昨年からこの社のオーナーシップが日本のクラリオン株式会社となり注目されたが、旧来のマッキントッシュ社の伝統と実績の延長上でさらなる発展飛躍に向けて意欲的な再出発を始めることとなった。パワーアンプMC2600、MC7300、MC7150の3機種はこうした新しいマッキントッシュから発売された最新機であるが、すべてマッキントッシュらしさをいささかも失うことなく、新しいテクノロジーでリファインされている。プリアンプも計画中と聞くが、現在のところこのC34Vが最高級機の位置にある。発売以来5年経つが、これだけ豊富な機能をもつ使いよいコントロールセンターとしての機能と、音質のよさを併せもっている製品は他に類がない。まさにマッキントッシュならではのプロの腕の冴えが感じられる製品で、美しいグラスイルミネーションには持つ喜びと使う喜びが満たされる。豊潤で明るく、かつ重厚な音だ。

アキュフェーズ C-280V

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 アキュフェーズは高級アンプ専門メーカーとして1972年に設立された。来年で20周年を迎える。旧トリオ株式会社(現ケンウッド)の事実上の創立者である春日仲一、二郎兄弟がトリオと別れて組織した純オーディオ企業である。現社長の出原眞澄氏も創業時に参加した一人で、個人的にもオーディオを愛するエンスージアストである。創業時には社名がケンソニック株式会社で、商標がアキュフェーズであったが、10年後にアキュフェーズに統一された。高級セパレートアンプ群を中心にブリメインアンプやチューナー、CDプレーヤー、グラフィックイコライザー、チャンネルディヴァイダーなどのエレクトロニクスとサウンドテクノロジーの専門技術集団としてソリッドな体質に徹し、いたずらに営業規模の拡大に走ることを戒めてきた企業である。当然、その体質は製品に反映して多くのファンの支持と信頼を得ている一流品であり、ブランドである。C280Vは、現在同社の最新最高級のプリアンプであるが、その原器は1982年発売のC280である。その後、C280Lを経て、3世代目のこの製品に発展した。オリジナC280において実現した基本構成はそのままに、細部の改良リファインを行なってきたものだ。電源部からすべてを完全にツインモノーラル・コンストラクションとした内部のレイアウトはメカニカルビューティと呼ぶにふさわしい魅力をもつ。各ブロックをシールドケースに収納した美しい造形である。全段A級プッシュプルDCサーボアンプ方式で、入力は安定性の高いカスコード・ソースフォロア。出力段はコンプリメンタリー・ダーリントン・プッシュプルである。本機で最も大きなリファインはCP抵抗素子による4連動ボリュウムコントローラーの採用だろう。この低歪率ボリュウムが象徴するかのように、一際透明でシャープな音像への迫真が鮮かに実感される音が得られている。

ソニー TA-ER1

井上卓也

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 CDプレーヤーは、定格出力が他のチューナーやカセットデッキなどの機器と比べて2Vと非常に高いため、CD初期からバッシヴ型のボリュウムコントロールを使い、ダイレクトにパワーアンプと接続する使い方が注目されてきた。感覚的にも増幅系であるアンプを信号が通らないため、信号劣化が少なく、結果としての音質が優れているように思える。
 これに対して、より良く音楽を聴くためにはコントロールアンプが必要だと考える人も多い。しかし、単純に音質のみにポイントを置けば、アンプで増幅すれば当然、歪みの増加は避けられないことを知るだけに、鮮度最優先的なパワーダイレクトの音よりも、ほどよく調和のとれた一種の熟成された音楽が楽しめる点がコントロールアンプの魅力であると、心情的に納得せざるを得ないのが現実であろう。
 パワーダイレクトと比べ、コントロールアンプを使う方が音質が良くなることを実証すべく、それに挑戦して開発した製品がこのTA−ER1である。
 徹底した入出力系のグラウンドの処理にポイントを置き、直径50mm、最大肉厚9・5mmの黄銅くり抜きハウジングを採用した高音質アッテネーター、2MΩの異例に高い入力インピーダンスをもつバランスアンプをアンバランス/バランス入力ともに使う独自の手法、出力段でのMOSダイレクトSEPPによる平衡出力で4Ωの低インピーダンス、そして直線性の向上などが相乗的に効果を発揮し、測定値はもとより、聴感上でも非常に高いSN此が得られることが、素晴らしい本機の魅力である。
 MC/MM対応のフォノイコライザー、超高級ヘッドフォン対応のリアパネル独立端子、夜間などの小音量時に高音質を保つ2段切替音量調整を備える。
 最終製品ではないが、パワーダイレクトと比較して聴感上でのSN比、音場感情報量が圧倒的に優れ、柔らかく、芯があり、深々と鳴るナチュラルな音は、従来の超高級機の枠を超えた見事な成果である。

パイオニア Exclusive C7

井上卓也

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 現在のオーディオアンプでは、最先端のエレクトロニクスの成果である優れた性能をもつ信号増幅系のアンプ設計が最大のポイントとされているが、振動に弱いCDプレーヤーの例からみてもわかるように、メカニズム的に高度な内容を備えた筐体構造が必須の条件として要求されることになる。いかに優れた性能をもつアンプであっても、筐体構造に問題があれば、アンプ本来の性能が発揮できず、結果として良い音質も望めぬことは明白な事実である。この意味から、現代のアンプは、エレクトロニクスとメカニズムが表裏一体となったメカトロニクスの産物と考えるべきであろう。
 コントロールアンプの筐体構造に、パワーアンプ的な考え方を導入して開発されている点が、エクスクルーシヴC7の最も魅力的なところである。筐体構造は、重量級軽合金ダイキャスト製のメカニカルベースを中核にし、筐体内部を上下に2分割、下側に電源系と音量調整、入力切替などの制御系を、上側に機械的にも電気的にも対称構造のデュアルモノーラル構成とした、左右チャンネルの信号増幅系アンプが収納されており、フロントパネル側に左右チャンネル用2個とコントロール系用1個の電源トランスが置かれている。この構造を採用した理由は、ステレオ信号を完全に対称条件で増幅することが本機の最大のポイントとなっているからだ。完全対称のアンプ系を機械的・振動的に対称の位置に置き、かつ磁気的にも同条件とする目的によるものであり、電源のフィルターコンデンサーも、+用−用の箔の巻き方を逆方向としているのは、完全対称に対する徹底したこだわりの現われとして注目したい。
 C7は、パワーアンプの音の表現に使われるスピーカーを引き締め、余裕をもって鳴らすドライブ能力が最大の魅力だ。コントロールアンプでスピーカーの鳴り方が一変するのは聴き手を驚かすに違いない。

パイオニア EXCLUSIVE C7

井上卓也

ステレオサウンド 100号(1991年9月発行)
「エキサイティングコンポーネント」より

 パイオニアの最高級オーディオコンポーネントEXCLUSIVEシリーズは、昭和49年に市場に導入されて以来、アナログプレーヤー、チューナー、コントロールアンプ、パワーアンプ、そしてスピーカーシステムなどのラインナップを揃え、それぞれのモデルが各時代のトップモデルとして話題を呼び注目を集めてきた、いわばパイオニア・オーディオの象徴であり、マイルストーシともいうべきシリーズである。その最新モデルとして、昨年の『全日本オーディオフェア』で、その存在が明らかになったコントロールアンプEXCLUSIVE・C7がついに発売されることになった。
 設計の基本構想は、左右2チャンネルの信号系で成り立つステレオアンプのステレオ伝送誤差をゼロとすることである。この考え方は、ステレオアンプとしては常識的なものと考えられやすいが、各種の条件を交えて現実の商品として実現することは、予想外に至難な技である。
 左右が独立したステレオ信号を入力し、そのままの姿・形で増幅し出力することができれば、左右の信号に伝送差がないことになるが、この簡単明瞭なことを実現するための条件は数多く存在する。左右チャンネルの条件の対称性が重要な要素となるが、電気的、機械的な対称性をはじめ、磁気的、熱的な対称性などの視覚的には確認し難い条件までクリアーしなければならない。
 まず、コントロールアンプのベースとなる筐体構造は、いわゆるデュアルモノーラルコンストラクションと呼ばれている設計であるが、一般的に採用されているデュアルモノ風な設計ではなく、本機はかなり本格的な徹底したデュアルモノーラルコンストラクション設計で、左右チャンネルの対称性は限界的なレベルに到達している。
 従来の木製ケースに収めたクラシカルなEXCLUSIVEのデザインイメージは完全に一新され、現代のオーディオアンプに相応しい装いを備えた新EXCLUSIVEのデザインは、視覚的にも対称性のあるシンプルなパネルレイアウトを特徴とする。中でも、重量級パワーアンプに匹敵する14mm板厚のアルミ製フロントパネルは、重量級コントロールアンプともいえる独特の迫力を備えている。
 アンプの基盤であるシャーシは、筐体を上下に2分割したアルミダイキャスト製の重量級ベースであり、下側はボリュウムコントロールや入力切替スイッチなどをリモートコントロールする各種の制御回路用スペースで、上側は基本的に厚いアルミ材で左右に2分割された左右チャンネル用アンプと電源部用スペースにあてられている。
 ここで基本的にと表現した理由は、フロントパネルの近くに3個配置されている電源トランスの中央の1個が、ボリュウムや切替スイッチをコントロールする制御系用電源トランスであるからである。ちなみに、この制御系用トランスも当然のことながら左右チャンネル独立の巻線を備えており、左右感の干渉を避けた設計だ。
 左右チャンネルのアンプ、電源系のレイアウトは、基板上のアンプの部品配置、内部配線に至るまで対称性が追求されており、レイアウト的に左右の対称性を欠く部分は、フロントパネルのボリュウムコントロールと入力切替スイッチ関係の部品のみであろう。
 C7で新しくテーマとなった磁気フラックス分布の対称性の確保は、発生源となる電源トランスに新開発の低漏洩磁束電源トランス採用で、フラックス分布を左右均一にすると共に、予想以上に問題となる電源用電解コンデンサーに+側と−側で巻方向を逆にし、ケースを絶縁しグラウンド電位に落とすコンプリメンタリーペアコンデンサーを開発した点に注目すべきである。
 アンプ系の構成は、必要最少限の構成とし、MM専用の利得35・5dBのフォノイコライザー段の出力と、CD、チューナーなどのハイレベル入力を受ける利得0dBのバッファー段の出力にボリュウムコントロールがあり、さらに利得0dBのバッファー段と、利得16・5dBの低出力インピーダンス設計のフラットアンプがあり、この段のバランス入力部の+と−を使いアブソリュートフェイズ切替としている。
 アンプとしての基本構成は、不平衡設計であるが、平衡入出力には、トランスが入力系と出力系に設けられスイッチ切替で対応する設計である。なおキャノン端子の接続は、3番ホットの仕様である。
 バッファーを含むアンプは、新開発のアルミベースの基板に集積化されているハイブリッドICで、熟的な安定度の向上と外部ノイズに対するシールド効果に優れた特徴がある。
 振動モードの対称性では、音圧や床振動などの外部振動に対してはアルミダイキャストシャーシで対処し、電源トランスやコンデンサーなどの内部振動には、基板支持部分のダンピング材でフローティング構造とし、加わった振動を適度に減衰させ左右チャンネルのモードを揃えている。
 ボリュウムコントロールは、信号が直接通る経路であるため、アンプの死活を分ける最も重要なポイントとして、その選択にはさまざまな配慮がなされるが、C7ではフロントパネルのボリュウムコントロール用ツマミの位置を検出し、ステッピングモーターと電気的に絶縁されたカップラーで駆動するステップ型アッテネーターで音量調整を行なっている。ステッピングモーター用ジェネレーターは、ボリュウム位置が固定している場合には出力が止まる設計で、この部分の音質への影響を避けている。
 入力切替スイッチも、リモートコントロール動作で、PHONO、チューナー、5系統のAUX入力、2系統のテープ入出力および2系統のバランス入力は、ホット側をノンショートステップ型、グラウンド側をショートステップ型のモータードライブによるロータリースイッチで切替えており、多系統の入力を接続して使うステレオコントロールアンプで問題となる、接続機器からのグラウンドを経由するノイズや、空間からの外来ノイズの混入を防ぐ設計である。
 その他、アンプ内部の配線の引き回しによる相互干渉や数多くのノイズ発生源は、厳重な内部シールドが施されており、ハンドメイドを特徴とするEXCLUSIVEならではの入念な作り込みが見受けられ、その徹底したノイズ対策は世界的なレベルで見ても従来の概念を超えたオーバーリファレンス的な領域に到達している点は特筆に値する見事な成果である。
 まず、平衡入力で使う。力強く、密度が濃く質感に優れた低域ベースの安定感のある音と、やや奥に広がるプレゼンスが特徴である。帯域バランスは程よく両エンドを整えた長時間聴いているのに相応しいタイプといえる。
 入力を不平衡に替えるとナチュラルに伸びたレスポンスとなり、鮮度感が向上し、音場感も一段と広がり、音像定位も前に出るようになる。
 出力も不平衡とすると低域レスポンスは一段と伸び、柔らかく十分に伸びた深々と鳴る低音に支えられた素直な音は素晴らしい。音場感情報は豊かで音像は小さくまとまり、浮き上がったような定位感だ。プログラムソースには的確に反応を示し、録音の違いをサラッと引き出して聴かせる。素直なアンプではあるが、パワーアンプに対する働きかけは予想以上に積極的で、スピーカーはパワーアンプの駆動力が向上したように鳴り万が一変する。これは数少ない異例な経験である。

A&D DA-P9500, DA-A9500

井上卓也

’89NEWコンポーネント(ステレオサウンド別冊・1989年1月発行)
「’89注目新製品徹底解剖 Big Audio Compo」より

 デジタルプログラムソースが主流になった時代背景を反映して、次第にプリメインアンプの分野でも、D/Aコンバーターを内蔵したモデルが確実な歩みで増加をしているが、より一段と趣味性の色濃いセパレート型アンプともなると、D/Aコンバーター内蔵型コントロールアンプとして、現在市販モデルとして存在するのは、早くからコントロールアンプのデジタル化を手がけた、ヤマハCX2000、1モデルのみが現状である。
 A&Dブランドにとり、初めて本格的なセパレート型アンプのジャンルに挑戦するモデルとして登場したモデルが、デジタルコントローラー、DA−P9500とデジタルパワーアンプDA−A9500の2機種で構成される新構想に基づく新デジタル・アンプシステムである。
 従来までのセパレート型アンプの概念から考えれば、デジタルコントロールアンプとデジタルパワーアンプのペアと受け取られやすいが、デジタルコントローラーと呼ばれるようにDA−P9500には増幅系がなく、A/Dと録音系用のD/Aコンバーターとデジタルグラフィックイコライザーを備え、パワーアンプをリモートコントロールする大型リモートコントローラーと考えてよいものだ。
 システムの基本構成はデジタル系を主流とし、カセットデッキに代表されるアナログ系プログラムソースが混在するプログラムソース多様化の現状に、デジタル機器の特徴を最大限に活かしたシステムプランは何かを模索して整理した結果、通常のD/Aコンバーター部を、コントロールアンプ側でなくパワーアンプ側にビルトインすることを決定したことが、新システムのユニークなところだ。
 従来からも、電力を扱うパワーアンプとスピーカー間は、可能な限り短いスピーカーケーブルで結ぶことが理想的であり、業務用モニタースピーカーは現在ではパワーアンプ内蔵型がむしろ標準的とさえなっているようだが、それも業務用の600Ωバランスラインの特徴を利用して、初めて可能となったシステム系なのである。
 デジタル系プログラムソースを前提条件とした場合、業務用600Ωバランスラインを、同軸型もしくは光ケーブルに置き換えたシステムを考えれば、デジタル伝送系ならではの延長をしても音質劣化が理論的にない特徴を一括かして、スピーカー近くのパワーアンプに送り、D/A変換後の信号でパワーアンプをドライブし、その出力を近接したスピーカーに加えることで容易に理想に近づけることが可能、ということになる。
 パワーアンプをスピーカーに近く置き、聴取位置から離すことによる副次的なメリットは、電源トランスのウナリや振動による聴感上でのSN比の劣化が少なく、発熱量が大きい熱源としてのパワーアンプが隔離可能になること。また、スピーカーコードが短いことは、超強力な高周波源であるTVやFM電波に対するアンテナとしての働きが抑えられ、バズ妨害に代表される高周波の干渉を少なくできる利点を併せ持つことにもなる。
 DA−P9500は、外観的には一般のコントロールアンプに表示部を付けたという印象を受けるが、コントロールアンプ的な機能は、ビデオ系、デジタル系、アナログ系それぞれの入力を切り替えるスイッチ機能と3バンドデジタルパラメトリックイコライザーにあり、オーディオ系入力は増幅部を持たないため、そのままスルーの状態でパワーアンプのアナログ入力に送られる。
 2種のコンバーター内蔵の目的は、カセットデッキ、FMチューナー、VCRなどのアナログ系入力をA/D変換してパワーアンプにデジタル伝送を行なうためと、デジタル系のCDやDAT、衛星放送などの信号をD/A変換して、カセットデッキなどに録音するためにある。
 外観上ボリユウムと思われる大型ツマミは、実際には、パワーアンプ部にあるパラレル型ディスクリート構成のボリュウムをデジタルコントロールするためのツマミである。このコントロール用信号は、A&D独自のフォーマットによるAADOT型で、EIAJのデジタルI/Oにも対応し、128×128種類の利用が可能である。
 DA−A9500は、18ビット・リニアゼロクロスD/Aコンバーターを採用。原理的にゼロクロス歪み発生がなく、4D/Aコンバーター構成のL/R、±独立プッシュプル構成で、アナログフィルターのON/OFFが可能である。
 パワー段は、スピーカー駆動時の電流リニアリティに着目した初めてのリニアカレントドライブ回路を採用。電流と電圧フィードバックの巧みな組合せで、パワー段の電源変動を受けにくい利点があり、結果的に電源を10倍強化したことと同等のメリットがあるとのことだ。
 構造面では、電源トランスを筐体から分離独立し専用ペデスタルで支える分離トランス方式の採用が最大の特徴。
 機能面は、単体使用時に入力切替や音量調整をする専用リモコンを標準装備。
 単体使用では素直で力強い駆動能力、音場感情報を豊かに出すパワーアンプは、かなり高水準の完成度を聴かせる。コントローラーを加え、試みにDA、AD、DAと3度変換した音も聴いたが、これがアナログ的な魅力で驚かされた。

パイオニア C-90a, M-90a

井上卓也

ステレオサウンド 88号(1988年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 AVプログラムソースに対応したセパレート型アンプとして企画されたパイオニアのC90、M90のペアは、この種のアンプとして最初に成功を収めた意義深い製品であった。今回、本来の意味で内容が見直され、改良によって第2世代のC90a、M90aとして発売された。
 C90aは、もともとAVソース対応で、かつ高クォリティの音質を狙ったモデルであるだけに、新しく映像系入出力に輝度信号と色信号のY/C分離接続用のS端子を備え、S−VHSやEDベータなどの高画質VTR対応化を図っている。付属のリモコンは、従来の同社用のシステムリモコンから、最大154キーの学習型リモコンに発展し、多数のリモコンを使い分けざるを得ない煩雑さが解消された。
 視覚的には、外観上の変化は少ないように見受けられるが、筐体関係の改良、強化も、高音質が要求されるコントロールアンプでは、重要な部分である。
 筐体のトッププレート部は、C90の板厚1・2mm鉄板から、合計8個の止めネジにより振動が発生しないようにリジッドに止められた板厚1・6mmのアルミ板に改良された。ボトムプレート部もタテ長の通気孔パターンが、パイオニア独自のハニカム型に変わり、ボトムプレートの振動モードをコントロールし、共振を制動している。脚部は、釣り鐘断面状の一般的なタイプから、ハニカム断面に特殊な樹脂を充填した、一段と大型なタイプに変わっている。
 エレクトロニクス系は、ビデオ信号とオーディオ信号の完全分離、独立をポイントとし、①オーディオ左右チャンネルとビデオ系に専用電源トランス採用、②オーディオ部とビデオ部のアース回路を伝わる干渉を避けるためアースの独立化とビデオ系のフローティング化、③オーディオ系とビデオ系の電気的、機械的な飛びつき防止用アイソレーション、④アナログ使用時のビデオ電源オートOFF機能採用などのベーシックな部分を抑えた対策がとられている。
 C90をベースとしたアドバンスモデルだけに、表面に出ないノウハウの投入は、かなりのものと思われる。
 音質最優先設計のために、部品関係はEXCLUSIVEの流れを受継いだ無酸素銅配線材料、黄銅キャップ抵抗、シールデッドコンデンサーなどが全面的に採用されている。アナログオーディオの中心ともいうべきフォノイコライザーアンプには、MC再生のクォリティを保つためハイブリッドMCトランス方式を採用している点も見逃せないポイントである。
 M90aは、外観上のモディファイは、筐体トッププレート部の材料が、鉄板からアルミに変更、取りつけ方法もC90a同様の8本+1本のネジ止め、ボトムプレートの通風孔の形状変更と脚部の大型化、さらにトランスフレーム下側にある5本目の脚は、M90では他の脚と同じタイプが採用されていたが、今回は鋳鉄製で制振効果の高いキャステッドインシュレーターに変わっている。
 電源トランスは、鉄心をバンドで締めるシンプルなタイプから、パイオニア独自の制振構造鋳鉄ケースに収めたキャステッドパワートランスにグレードアップしている。これに伴い、トランスフレームも強度を向上し、電源トランスの振動対策を一段と強化している。また、放熱板のハニカム構造チムニー型化も、パワーステージトータルの振動コントロールを狙ったものだ。
 これらの大幅な改良の結果、重量はM90の20・9kgから28kgと増加した。
 機能面は、コントロール入力の他に2系統のボリュウムコントロールができる入力を備え、CDプレーヤーなどのパワーアンプダイレクト使用が可能など、単体でも使える機能を持つパワーアンプとして開発されたM90の構想を全て受け継いでいる。
 C90aとM90aは、堂々とした押し出しのよいナチュラルな音を持つアンプである。価格的には、高級プリメインアンプとも競合する位置にあり、セパレート型の名を取るか、プリメインアンプならではのまとまりのよい音、という実を取るかで悩むところであるが、このペアは、そんな枠を超えたセパレート型アンプならではの納得のできる音をもつ点が魅力である。
 基本的には、柔らかく、豊かで、幅広いプログラムソースや組合せにフレキシブルに対応を示すパイオニアならではの音を受け継いではいるが、前作の、やや受け身的な意味を含めての良いアンプから、立派なアンプ、大人っぼい充実した内容と十分に説得力のある音を聴かせるアンプに成長している。久し振りの聴きごたえのあるアンプである

ヤマハ CX-2000, MX-2000

井上卓也

ステレオサウンド 88号(1988年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 世界初のデジタルコントロールアンプとして脚光を浴びたCX10000を中心とするヤマハ10000シリーズは、見事なデザインと仕上げ、極限の性能に裏付けられた音質など、ヤマハ創業100周年記念の限定量産モデルとして高い評価を与えられた。今回、既発売のCDプレーヤーCDX2000、D/Aコンバーター内蔵プリメインアンプAX2000に続き、新製品として、デジタルAVコントロールアンプCX2000とパワーアンプMX2000、それにFM/AMチューナーTX2000が加わり、事実上のヤマハオーディオのトップランクを担う2000シリーズのラインナップが完成した。
 CX2000は、時代の要求に応えて、高いクォリティで、デジタル信号処理能力と映像信号処理能力を含め、ピュアオーディオのコントロールアンプとしての性能、音質を追求した新世代のコントロールセンターである。
 デジタル、AV信号も扱うコントロールアンプとして最大のポイントは、高いSN比を維持することにつきるだろう。そのためには、まず筐体関係で高周波や測定器に準ずるレベルで、シールドを施し分離しなければならない。
 全面的に銅メッキを施したフレーム、シャーシは、デジタル部、マイコン部、フォノイコライザー部、電源部、トーンアンプ部とフラットアンプ部を、それぞれ独立したBOXに分割収納する高剛性6BOXシャーシ構造が採用されている。この構造により、耐振性を向上させて、機械的振動による変調ノイズの発生による音質劣化も排除する設計だ。なおデジタル部は、パルス性雑音対策として銅メッキ製トップカバーで全体を覆い、厳重なシールド対策を施している。
 信号系は、MCヘッドアンプ付6ポジション負荷抵抗切替型フォノイコライザー部、高入力レベルのチューナーなどのアナログソース、8倍オーバーサンプリング18ビット・デジタルフィルターと、従来比でSN比を10dB向上した18ビット・ツインD/Aコンバーターを採用したデジタルソース、それにビデオソースの3ブロックで、これらのプログラムソースは、内部配線が短くできる半導体セレクタースイッチ、リモコン対応の4連ボリュウムを通り、20dBのフラットアンプ部に送られる。
 ソースダイレクトスイッチをONとすれば、フラットアンプ出力は、入力に4連ボリュウムの2連を使った0dBバッファーアンプを通り出力端子に送られる。次にスイッチをOFFにすれば、バランス詞整、モード、サブソニック、高・中・低音調整、連続可変ラウドネス調整を経由してバッファー入力に送られる。
 電源部は、デジタル・ビデオ部、アナログ部、マイコン部の独立3電源トランス採用。ビデオ電源は単独にON/OFF可能。デジタル電源は、アナログ入力選択時にデ
ーター復調回路のIC動作をとめる設計である。
 MX2000は、低インピーダンス駆動能力を重視したA級動作のステレオパワーアンプである。
 パワー段は、MX10000で開発されたHCA(双曲線変換増幅)回路により全負荷、全パワー領域でA級動作を可能としたHCA・A級増幅に特徴がある。ちなみに1Ω負荷のA級動作ダイナミックパワー600W+600Wを得ている。
 筐体構造は、銅メッキシャーシとフレーム採用の左右シンメトリー配置で、出力メーターを含むフロントパネル部、電源部、左右パワーアンプ部、電圧アンプ部、それにスピーカーリレー、出力コイルなどを収める出力ブロックの6ブロック構成である。
 注目したい点は、チムニー型ヒートシンクの配置が一般とは逆に内側に置き、パワーアンプ基板と電源トランスの干渉を避けた細心のコンストラクションである。
 電源部は、EI型コアの420VA電源トランスと、低箔倍率φ76mm、20000μF×2電解コンデンサーのペアである。
 CX2000とMX2000のペアは、音の粒子が細かく、滑らかに磨かれており、スムーズに延びたワイドレンジ型の帯域レスポンス、しなやかな表現力などは、従来のヤマハのセパレートアンプにはない、新しい音である。傾向として、十分にエージングに時間をかけたAX2000に近い。
 MC入力時には、ノイズ的な環境の悪いSS試聴室でも十分にSN比が高く保たれ、アナログならではの音が楽しめる。このことは、この種のアンプの重要なチェックポイントだ。
 デジタル入出力時は、光、同軸の差を素直に出し、銘柄、グレードの差が楽しめる。また各種CDのデジタル出力を使い、個々の音が楽しめるのも新しい魅力の展開だ。

マランツ DAC-1

井上卓也

ステレオサウンド 88号(1988年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 DAC1は、デジタル・オーディオ・コントロールアンプの頭文字をモデルナンバーにもつ、ユニークなコンセプトにより開発されたマランツの新製品だ。
 CD、DATに代表されるデジタル系のプログラムソースは、オーディオ信号とするためにD/Aコンバーターを使うことになるが、変換後のアナログ信号に、いわゆるデジタルノイズと呼ばれる、可聴帯域外におよぷ高い周波数成分をもつノイズが、程度の差こそあれ混入することが、重要な問題点のひとつである。
 一般的に、従来のコントロールアンプでは、広帯域型の設計が基本である。そのため、音にはならないが、高い周波数成分のノイズも、信号と一緒に増幅するために、混変調歪などが発生し、オーディオ信号を劣化させることになりやすい。
 DAC1の信号の流れは、入力切替スイッチ、テープ入出力スイッチ、バッファーアンプ、ボリュウムコントロール、14dBの利得をもつ出力アンプで増幅される。
 第一の特徴は、バッファーアンプには、裸特性が下降しはじめる700kHzに時定数をもつハイカットフィルターを設け、混変調歪の発生を防止したことである。
 第二の特徴は、出力アンプにフィリップスLHH2000で採用されている、定評の高いトランス結合マルチフィードバック回路を採用していることだ。出力トランスは、アンプ負荷用、フィードバックアンプ用の2系統の一次巻線と、同じ巻線比の、+位相と−位相の2系統の二次巻線を備えており、完全に同条件でアブソリュートフェイズの切替えができるほかに、2系続の出力を同時に使えば、BTL接続にも使用可能である。
 この回路の特徴は、二次導線が、基本的にフローティングされているために、アースや筐体に流れるノイズと信号が分離され、またバンドパスフィルターとして働くトランスの利点により、デジタルノイズに強い設計となつていることにある。
 8mm厚アルミ製シャーシ、シャンペンゴールドのフロントパネル、LHH1000系統の片側1・3kgのダイキャストサイドパネル、4mm厚トップパネルに見られるように、筐体は共振を抑えた剛体構造である。使用部品を含め、高密度に凝縮された構成は、オーディオ的な魅力を備えたものだ。
 DAC1は、中低域から中域の量感がたっぷりとあり、密度感を伴った安定度の高い音が特徴。オーケストラの空間の拡がりを感じさせるホールトーンの豊かな響き、素直なパースペクティブとディフィニションは、デジタル系プログラムソースの利点を充分に引き出したものである。しかも、無機的な冷たさにならないところが、本棟の魅力である。高密度設計だけに、置き場所の影響がダイレクトに現れる点は要注意だ。

怪盗M1の挑戦に負けた!

黒田恭一

ステレオサウンド 87号(1988年6月発行)
「怪盗M1の挑戦に負けた!」より

 午後一時二十分に成田到着予定のルフトハンザ・ドイツ航空の701便は、予定より早く一時〇二分に着いた。しかも、ありがたいことに、成田からの道も比較的すいていた。おかげで、家には四時前についた。買いこんだ本をつめこんだために手がちぎれそうに重いトランクを、とりあえず家の中までひきずりこんでおいて、そのまま、ともかくアンプのスイッチをいれておこうと、自分の部屋にいった。
 そのとき、ちょっと胸騒ぎがした。なにゆえの胸騒ぎか? 机の上を、みるともなしにみた。
「どうですか、この音は? ムフフフフ!」
 机の上におかれた紙片には、お世辞にも達筆とはいいかねる、しかしまぎれもなくM1のものとしれる字で、そのように書かれてあった。
 一週間ほど家を留守にしている間に、ぼくの部屋は怪盗M1の一味におそわれたようであった。まるで怪人二十面相が書き残したかのような、「どうですか、この音は? ムフフフフ!」のひとことは、そのことをものがたっていた。しかし、それにしても、怪盗M1の一味は、ぼくの部屋でなにをしていったというのか?
 ぼくは、あわてて、ラスクのシステムラックにおさめられた機器に目をむけた。なんということだ。プリアンプが、マークレビンソンのML7Lからチェロのアンコールに、そしてCDプレーヤーが、ソニーのCDP557ESD+DAS703ESから同じソニーのCDP-R1+DAS-R1に、変わっていた。
 怪盗M1の奴、やりおったな! と思っても、奴が「どうですか、この音は?」、という音をきかずにいられるはずもなかった。しかし、ぼくは、そこですぐにコンパクトディスクをプレーヤーにセットして音をきくというような素人っぽいことはしなかった。なんといっても相手が怪盗M1である、ここは用心してかからないといけない。
 そのときのぼくは、延々と飛行機にむられてついたばかりであったから、体力的にも感覚的にも大いに疲れていた。そのような状態で微妙な音のちがいが判断できるはずもなかった。このことは、日本からヨーロッパについたときにもあてはまることで、飛行機でヨーロッパの町のいずれかについても、いきなりその晩になにかをきいても、まともにきけるはずがない。それで、ぼくは、いつでも、肝腎のコンサートなりオペラの公演をきくときは、すくなくともその前日には、その町に着いているようにする。そうしないと、せっかくのコンサートやオペラも、充分に味わえないからである。
 今日はやめておこう。ぼくは、はやる気持を懸命におさえて、ついさっきいれたばかりのパワーアンプのスイッチを切った。今夜よく眠って、明日きこう、と思ったからであった。
 おそらく、ぼくは、ここで、チェロのアンコールとソニーのCDP-R1+DAS-R1のきかせた音がどのようなものであったかをご報告する前に、怪盗M1がいかに悪辣非道かをおはなししておくべきであろう。そのためには、すこし時間をさかのぼる必要がある。
 さしあたって、ある時、とさせていただくが、ぼくは、さるレコード店にいた。そのときの目的は、発売されたばかりのCDビデオについて、解説というほどのこともない、集まって下さった方のために、ほんのちょっとおはなしをすることであった。予定の時間よりはやくその店についたので、レコード売場でレコードを買ったり、オーディオ売場で陳列してあるオーディオ機器をながめたりしていた。
 気がついたときに、ぼくは、オーディオ売場の椅子に腰掛けて、スピーカーからきこえてくる音にききいっていた。なんだ、この音は? まず、そう思った。その音は、これまでにどこでどこできいた音とも、ちがっていた。ほとんど薄気味悪いほどきめが細かく、しかもしなやかであった。
 まず、目は、スピーカーにいった。スピーカーは、これまでにもあちこちできいたことのある、したがって、ぼくなりにそのスピーカーのきかせる音の素性を把握しているものであった。それだけにかえって、このスピーカーのきかせるこの音か、と思わずにいられなかった。そうなれば、当然、スピーカーにつながれているコードの先に、目をやるよりなかった。
 スピーカーの背後におかれてあったのは、それまで雑誌にのった写真でしかみたことのない、チェロのパフォーマンスであった。なるほど、これがチェロのパフォーマンスか、といった感じで、いかにも武骨な四つのかたまりにみにいった。
 チェロのパフォーマンスのきかせた音に気持を動かされて、家にもどり、まっさきにぼくがしたのは、「ステレオサウンド」第八十四号にのっていた、菅野沖彦、長島達夫、山中敬三といった三氏がチェロのパフォーマンスについてお書きになった文章を、読むことであった。このパワーアンプのきかせる音に対して、三氏とも、絶賛されていたとはいいがたかった。
 にもかかわらず、チェロのパフォーマンスというパワーアンプへのぼくの好奇心は、いっこうにおとろえなかった。なぜなら、そこで三氏の書かれていることが、ぼくにはその通りだと思えたからであった。しかし、このことには、ほんのちょっと説明が必要であろう。
 幸い、ぼくはこれまでに、菅野さんや長嶋さん、それに山中さんと、ご一緒に仕事をさせていただいたことがあり、お三方のお宅の音をきかせていただいたこともある。そのようなことから、菅野、長島、山中の三氏が、どのような音を好まれるかを、ぼくなりに把握していた。したがって、ぼくは、そのようなお三方の音に対しての好みを頭のすみにおいて、「ステレオサウンド」第八十四号にのっていた、菅野沖彦、長島達夫、山中敬三といった三氏がチェロのパフォーマンスについてお書きになった文章を、熟読玩味した。その結果、ぼくは、レコード店のオーディオ売場という、アンプの音質を判断するための場所としてはかならずしも条件がととのっているとはいいがたいところできいたぼくのチェロのパフォーマンスに対しての印象が、あながちまちがっていないとわかった。そうか、やはり、そうであったか、というのが、そのときの思いであった。
 ぼくはアクースタットのモデル6というエレクトロスタティック型のユニットによったスピーカーシステムをつかっている。残る問題は、アクースタットのモデル6とチェロのパフォーマンスの、俗にいわれる相性であった。ほんとうのところは、アクースタットのモデル6にチェロのパフォーマンスをつないでならしてみるよりないが、とりあえずは、推測してみるよりなかった。
 そのときのぼくにあったチェロのパフォーマンスについてのデータといえば、レコード店のオーディオ売場でほんの短時間きいたときの記憶と、菅野沖彦、長島達夫、山中敬三の三氏が「ステレオサウンド」にお書きになった文章だけであった。そのふたつのデータをもとに、ぼくは、アクースタットのモデル6とチェロのパフォーマンスの相性を推理した。その結果、この組合せがベストといえるかとうかはわからないとしても、そう見当はずれでもなさそうだ、という結論に達した。
 そこまで、考えたところで、ぼくは、電話器に手をのばし、M1にことの次第をはなした。
「わかりました。それはもう、きいてみるよりしかたがありませんね。」
 いつもの、愛嬌などというもののまるで感じられないぶっきらぼうな口調で、そうとだけいって、M1は電話を切った。それから、一週間もたたないうちに、ぼくのアクースタットのモデル6は、チェロのパフォーマンスにつながれていた。
 ぼくのアクースタットのモデル6とチェロのパフォーマンスの相性の推理は、まんざらはずれてもいなかったようであった。一段ときめ細かくなった音に、ぼくは大いに満足した。そのとき、M1は、意味ありげな声で、こういった。
「高価なアンプですよ。これで、いいんですか? 他のアンプをきいてみなくて、いいんですか?」
 このところやけに仕事がたてこんでいたりして、別のアンプをきくための時間がとりにくかった、ということも多少はあったが、それ以上に、チェロのパフォーマンスにドライブされたアクースタットのモデル6がきかせる、やけにきめが細かくて、しかもふっくらとした、それでいてぐっとおしだしてくるところもある響きに対する満足があまりに大きかったので、ぼくは、M1のことばを無視した。
「ちょっと、ひっかかるところがあるんだがな。もうすこしローレベルが透明になってもいいんだがな。」
 M1は、そんな捨てぜりふ風なことを呟きながら、そのときは帰っていった。なにをほざくか、M1めが、と思いつつ、けたたましい音をたてるM1ののった車が遠ざかっていくのを、ぼくは見送った。
 それから、数日して、M1から電話があった。
「久しぶりに、スピーカーの試聴など、どうですか? 箱鳴りのしないスピーカーを集めましたから。」
 きけば、菅野さんや傅さんとご一緒の、スピーカーの試聴ということであった。おふたりのおはなしをうかがえるのは楽しいな、と思った。それに、かねてから気になっていながら、まだきいたことのないアポジーのスピーカーもきかせてもらえるそうであった。そこで、うっかり、ぼくは、怪盗M1が巧妙に仕掛けた罠にひっかかった。むろん、そのときのぼくには、そのことに気づくはずもなかった。
 M1のいうように、このところ久しく、ぼくはオーディオ機器の試聴に参加していなかった。
 オーディオ機器の試聴をするためには、普段とはちょっとちがう耳にしておくことが、すくなくともぼくのようなタイプの人間には必要のようである。もし、日頃の自分の部屋での音のきき方を、いくぶん先の丸くなった2Bの鉛筆で字を書くことにたとえられるとすれば、さまざまな機種を比較試聴するときの音のきき方は、さしずめ先を尖らせた2Hの鉛筆で書くようなものである。つまり、感覚の尖らせ方という点で、試聴室でのきき方はちがってくる。
 そのような経験を、ぼくは、ここしばらくしていなかった。賢明にもM1は、ぼくのその弱点をついたのである。どうやら、彼は、このところ先の丸くなった2Bの鉛筆でしか音をきいていないようだ、そのために、チェロのパフォーマンスにドライブされたアクースタットのもで6の音に、あのように安易に満足したにちがいない、この機会に彼の耳を先の尖った2Hにして、自分の部屋の音を判断させてやろう。M1は、そう考えたにちがいなかった。
 そのようなM1の深謀遠慮に気がつかなかったぼくは、のこのこスピーカー試聴のためにでかけていった。そこでの試聴結果は別項のとおりであるが、ぼくは、我がアクースタットが思いどおりの音をださず、噂のアポジーの素晴らしさに感心させられて、すこごすごと帰ってきた。アクースタットは、セッティング等々でいろいろ微妙だから、いきなりこういうところにはこびこんで音をだしても、いい結果がでるはずがないんだ、などといってはみても、それは、なんとなく出戻りの娘をかばう親父のような感じで、およそ説得力に欠けた。
 音の切れの鋭さとか、鮮明さ、あるいは透明感といった点において、アクースタットがアポジーに一歩ゆずっているのは、いかにアクースタット派を自認するぼくでさえ、認めざるをえなかった。たとえ試聴室のアクースタットのなり方に充分ではないところがあったにしても、やはり、アポジーはアクースタットに較べて一世代新しいスピーカーといわねばならないな、というのが、ぼくの偽らざる感想であった。
 そのときのスピーカーの試聴にのぞんだぼくは、先輩諸兄のほめる新参者のアポジーの正体をみてやろう、と考えていた。つまり、ぼくは、まだきいたことのないスピーカーをきく好奇心につきうごかされて、その場にのぞんだことになる。ところが、悪賢いM1の狙いは、ぼくの好奇心を餌にひきよせ、別のところにあったのである。
 あれこれさまざまなスピーカーの試聴を終えた後のぼくの耳は、かなり2Hよりになっていた。その耳で、ソニーのCDP557ESD+DAS703ES~マークレビンソンのML7L~チェロのパフォーマンス~アクースタットのモデル6という経路をたどってでてきた音を、きいた。なにか、違うな。まず、そう思った。静寂感とでもいうべきか、ともかくそういう感じのところで、いささかのものたりなさを感じて、ぼくはなんとなく不機嫌になった。
 そのときにきいたのは「夢のあとに~ヴィルトゥオーゾ・チェロ/ウェルナー・トーマス」(オルフェオ 32CD10106)というディスクであった。このディスクは、このところ、なにかというときいている。オッフェンバックの「ジャクリーヌの涙」をはじめとした選曲が洒落ているうえに、あのクルト・トーマスの息子といわれるウェルナー・トーマスの真摯な演奏が気にいっているからである。録音もまた、わざとらしさのない、大変に趣味のいいものである。
 これまでなら、すーっと音楽にはいっていけたのであるが、そのときはそうはいかなかった。なにか、違うな。音楽をきこうとする気持が、音の段階でひっかかった。本来であれば、響きの薄い部分は、もっとひっそりとしていいのかもしれない。などとも、考えた。そのうちに、イライラしだし、不機嫌になっていった。
 理由の判然としないことで不機嫌になるほど不愉快なこともない。そのときがそうであった。先日までの上機嫌が、嘘のようであったし、自分でも信じられなかった。もんもんとするとは、多分、こういうことをいうにちがいない、とも思った。おそらく昨日まで美人だと思っていた恋人が、今日会ってみたらしわしわのお婆さんになっていても、これほど不機嫌にはならないであろう、と考えたりもした。
 しかし、その頃のぼくは、自分のイライラにつきあっている時間的な余裕がかった。一週間ほどパリにいって、ゴールデン・ウィークの後半を東京で仕事をして、さらにまた一週間ほどウィーンにいかなければならなかった。パリにもウィーンにも、それなりの楽しみが待っているはずではあったが、しわしわのお婆さんになってしまっている自分の部屋の音のことが気がかりであった。幸か不幸か、あたふたしているうちに、時間がすぎていった。
 そして、あれこれあって、ルフトハンザ・ドイツ航空の701便で成田につき、怪盗M1の挑戦状。
「どうですか、この音は? ムフフフフ!」を目にしたことになる。
「ちょっとひっかかるところがあるんだがな。もうすこしローレベルが透明になってもいいんだがな。」、と捨てぜりふ風なことを呟きながら一度は帰ったM1の、「どうですか、この音は? ムフフフフ!」、であった。ここは、やはり、どうしたって、褌をしめなおし、耳を2Hにし、かくごしてきく必要があった。
 翌日、朝、起きると同時にパワーアンプのスイッチをいれ、それから、おもむろに朝食をとり、頃合をみはからって、自分の部屋におりていった。
 ぼくには、これといった特定の、いわゆるオーディオ・チェック用のコンパクトディスクがない。そのとき気にいっている、したがってきく頻度の高いディスクが、そのときそのときで音質判定用のディスクになる。したがって、そのときに最初にかけたのも、「夢のあと~ヴィルトゥオーゾ・チェロ/ウェルナー・トーマス」であった。
 ぼくは、絶句した。M1に負けた、と思った。
 スピーカーの試聴の後で、菅野さんや傅さんとお話ししていて、ぼくは自分で思っていた以上に、スピーカーからきこえる響きのきめ細かさにこだわっているのがわかった。もともとぼくの音に対する嗜好にそういう面があったのか、それとも、人並みに経験をつんで、そのような音にひかれるようになったのかはわかりかねるが、そのとき、ソニーのCDP-R1+DAS-R1~チェロのアンコール~チェロのパフォーマンス~アクースタットのモデル6で、「夢のあと~ヴィルトゥオーゾ・チェロ/ウェルナー・トーマス」をきいて、ぼくは、これが究極のコンポーネントだ、と思った。
 また、しばらくたてば、スピーカーは、アクースタットのモデル6より、アポジーの方がいいのではないか、と考えたりしないともかぎらないので、ことばのいきおいで、究極のコンポーネントなどといってしまうと、後で後悔するのはわかっていた。にもかかわらず、ぼくはソニーのCDP-R1+DAS-R1~チェロのアンコール~チェロのパフォーマンス~アクースタットのモデル6できいた「夢のあと~ヴィルトゥオーゾ・チェロ/ウェルナー・トーマス」に、夢見心地になり、そのように考えないではいられなかった。
 ぼくのオーディオ経験はごくかぎられたものでしかないので、このようなことをいっても、ほとんどなんの意味もないのであるが、ソニーのCDP-R1+DAS-R1~チェロのアンコール~チェロのパフォーマンス~アクースタットのモデル6できいた音は、ぼくがこれまでに再生装置できいた最高の音であった。響きは、かぎりなく透明であったにもかかわらず、充分に暖かく、非人間的な感じからは遠かった。
 静けさの表現がいい、などといういい方は、オーディオ機器のきかせる音をいうためのことばとして、いくぶんひとりよがりではあるが、そのときの音に感じたのは、そういうことであった。すべての音は、楽音が楽音たりうるための充分な力をそなえながら、しかし、静かに響いた。過度な強調も、暑苦しい押しつけがましさも、そこにはまったくなかった。
 ぼくは、気にいりのディスクをとっかえひっかえかけては、そのたびに驚嘆に声をあげないではいられなかった。そうか、ここではこういう音の動きがあったのか、と思い、この楽器はこんな表情でうたっていたのか、と考えながら、それまでそのディスクからききとれなかったもののあまりの多さに驚かないではいられなかった。誤解のないようにつけくわえておくが、ぼくは、ソニーのCDP-R1+DAS-R1~チェロのアンコール~チェロのパフォーマンス~アクースタットのモデル6のきかせる音にふれて、そこできけた楽器や人声の描写力に驚いたのではなく、そこで奏でられている音楽を表現する力に驚いたのである。
 したがって、そこでのぼくの驚きは、オーディオの、微妙で、しかも根源的な、だからこそ興味深い本質にかかわっていたかもしれなかった。オーディオ機器は、多分、自己の存在を希薄にすればするほど音楽を表現する力をましていくというところでなりたっている。スピーカーが、あるいはアンプが、どうだ、他の音をきいてみろ、と主張するかぎり、音楽はききてから遠のく。つまり、ぼくは、ソニーのCDP-R1+DAS-R1~チェロのアンコール~チェロのパフォーマンス~アクースタットのモデル6のきかせる音をきいて感動しながら、そこでオーディオ機器として機能していたプレーヤーやアンプやスピーカーのことを、ほとんど忘れられた。そこに、このコンポーネントの凄さがあった。
 こうなれば、もう、ひっこみがつかなかった。まんまと落とし穴に落ちたようで、癪にはさわったが、ここは、どうしたってM1に電話をかけずにいられなかった。目的は、あらためていうまでもないが、留守の間においていかれたソニーのCDP-R1+DAS-R1とチェロのアンコールを買いたい、というためであった。
「ソニーのCDP-R1+DAS-R1はともかく、チェロのアンコールはご注文には応じられませんね。」
 M1は、とりつく島もない口調で、そういった。
 M1の説明によると、チェロのアンコールの輸入元は、すでにかなりの注文をかかえていて、生産がまにあわないために、注文主に待ってもらっている状態だという。ぼくの部屋におかれてあったものは、輸入元の行為で短期間借りたものとのことであった。事実、ぼくがチェロのアンコールをきいたのは、ほんの一日だけであった。その翌日の朝、薄ら笑いをうかべたM1が現れ、いそいそとチェロのアンコールを持ち去った。
「いつ頃、手にはいるかな?」
 M1を玄関までおくってでたぼくは、心ならずも、嘆願口調になって、そう尋ねないではいられなかった。
「かなり先になるんじゃないですか。」
 必要最少限のことしかしゃべらないのがM1の流儀である。長いつきあいなので、その程度のことはわかっている。しかし、ここはやはり、なぐさめのことばのひとつもほしいところてあったが、M1は、余計なことはなにひとついわず、けたたましい騒音を発する車にのって帰っていった。
 しかし、ソニーのCDP-R1+DAS-R1は、残った。プリアンプをマークレビンソンにもどし、またいろいろなディスクをきいてみた。
 ソニーのCDP-R1+DAS-R1がどのようなよさをもっているのか、それを判断するのは、ちょっと難しかった。これは、束の間といえども大変化を経験した後で、小変化の幅を測定しようとするようなものであるから、耳の尺度が混乱しがちであった。一度は、M1の策略で、プリアンプとCDプレーヤーが一気にとりかえられ、その後、CDプレーヤーだけが残ったわけであるから、一歩ずつステップを踏んでの変化であれば容易にわかることでも、そういえば以前の音はこうだったから、といった感じで考えなければならなかった。
 しかし、それとても、できないことではなかった。これまでもしばしばきいてきたディスクをききかえしているうちに、ソニーのCDP-R1+DAS-R1の姿が次第にみえてきた。
 以前のCDプレーヤーとは、やはり、さまざまな面で大いにちがっていた。まず、音の力の提示のしかたで、以前のCDプレーヤーにはいくぶんひよわなところがあったが、CDP-R1+DAS-R1の音は、そこでの音楽が求める力を充分に示しえていた。そして、もうひとつ、高い方の音のなめらかさということでも、CDP-R1+DAS-R1のきかせかたは、以前のものと、ほとんど比較にならないほど素晴らしかった。しかし、もし、響きのコクというようなことがいえるのであれば、その点こそが、以前のCDプレーヤーできいた音とCDP-R1+DAS-R1できける音とでもっともちがうところといえるように思えた。
 なるほど、これなら、みんなが絶賛するはずだ、とCDP-R1+DAS-R1できける音に耳をすませながら、ぼくは、同時に、引き算の結果で、マークレビンソンのML7Lの限界にも気づきはじめていた。はたして、M1は、そこまで読んだ後に、ぼくを罠にかけたのかどうかはわかりかねるが、いずれにしろ、ぼくは、今、ほんの一瞬、可愛いパパゲーナに会わされただけで、すぐに引き離されたパパゲーノのような気持で、M1になぞってつくった少し太めの藁人形に、日夜、釘を打ちつづけている。

ジェルマックス model-65

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

「BEST PRODUCTS」より

『あなたの常識である《原音》の概念が、今、完全に変わります。オーディオ界最大のタブーが今、破られた』とのキャッチフレーズで登場した、管球タイプのコントロールアンプがジェルマックスmodel65である。
 詳細は不明であるが、その特徴を記すと、アンプの回路内の電解コンデンサーに、歪やSN比、位相ズレなどの音に与えるマイナスの要素があり、この原因が電解コンデンサーの物理的なイオン歪によるものであるとのことだ。長期間にわたりコンデンサーの問題に取り組み、劇的に物理的性質を改善した結果が『BLACK GATE』の名称のコンデンサーとして開発され、レコード会社のカッティングアンプに採用され、従来ではノイズにマスクされ切捨てなければならない信号帯を、すべて記録できるようになり、アナログディスクを革新するスーパーアナログ時代の到来を告げる出来事になったが、このコンデンサーを世界で初めて全面採用したのが、このコントロールアンプである、とのことだ。
 回路面では、この無歪コンデンサーの性能を完全に引き出すために、OTB(オクターブ・トリプル・バイパス)システムを採用し、全オーディオ帯域の歪を完全に取り除くことに成功しているという。
 主入力債号源をアナログディスクとし、管球タイプNFイコライザーを採用し、すべての電源には損失の異なる3種類のコンデンサーを採用(これがOTBシステムか?)。また、超ローレベルのSN比を実現するため、ヒーター点火回路には、独自設計の超安定化電源を採用している。
 さらに、信号系電源の『STLX』、方向性活性リッツ線、低損失ピンジャック、OFC電源コード、非磁性体の抵抗器とシャーシ採用など、すべてのパーツは無歪と完全動作を支えている。以上が、model65の説明書にあった内容の説明だ。
 定格からみれば、フォノイコライザー利得が32・4dB、フラットアンプ利得がmaxで24dBあり、使用真空管は、12AY7×3、12AX7×1、12AU7×1で、整流はダイオード使用である。
 なお、専用の接続コードとして古河電工と共同開発の柔軟性のあるリッツ線構造のオーディオケーブルが付属。50m以上の延長でも音質変化は皆無とのことだ。
 パワーアンプにPOA3000ZとエアータイトATM1を用意をし、アナログディスクとCDで音を聴く。基本的に、スムーズで、適度に抜けのよい音だが、やや中高域に輝やかしいキャラクターがあり、これが繊細さとして聴かせるために効果的に働いているようである。プログラムソースのメインをアナログディスクとするだけに、フォノイコライザーはよく調整してあるようで、ノイズの質は水準以上だ。キャラクターは付属ケーブルにあるが、適否は試聴用機器との兼ね合いであろう。

パイオニア C-90, M-90

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 本格的なデジタル&AV時代に、多機能にして音質を優先するという、二律背反な追求を実現させた新製品が、セパレート型アンプC90とM90である。
 コントロールアンプC90は、多様化とともに、ハイグレード化するオーディオとビデオ信号に対応するために、オーディオ入力6系統、ビデオ入力6系統などの入出力端子を備え、リモコン操作も可能だ。
 設計面での最大のポイントは、コントロールアンプという同じ筐体中で、ビデオ信号を入出力する機能を備えると、いかに努力をしたとしてもアースや電源からのリケージで、ビデオ信号がアナログ信号に影響を与え、音質を劣化し、多機能とハイクォリティの音質は両立しないのが当然のことであり『アンプにビデオ信号を入れると音が悪くなる』という定説がうまれることになるが、パイオニアでは独自の技術開発によるAVアイソレーションテクノロジー(特許出顔中)により、入力信号間の干渉を徹底して排除した点にある。
 その内容は、左右オーディオ系とビデオ系に専用電源トランスを使う電源トランスのアイソレーション、オーディオ回路とビデオ回路のアースラインを独立させ、なおかつビデオ系の最終シャーシアースをオーディオ系に対してフローティングし干渉を抑える電気的アイソレーション、映像系と音声系入出力端子の距離をとり配置するとともに、基板の独立使用、シールド板などによるメカニズム的な飛付きを遮断するアイソレーションと、アナログディスクやCD演奏中には使っていないビデオ系の電源を切るビデオ電源オート・オフ機能の四つのテクニックが使われている。
 機能面では、リモートコントロールを駆使できることが最大の魅力のポイントだ。アルミ削り出しムクのツマミは、クラッチ付モータードライブ機構を備えており、SR仕様(パイオニア統一システムリモコン)専用リモコンユニットを標準装備しており、入力切替、ボリュウム調整などの他に、パイオニア製品のCDプレーヤー、LDプレーヤー、VTR、チューナー、カセットデッキなどの他のコンポーネントの主な操作も可能である。
 また、映像関係の機能には録再出力系にシャープネス、ディテールとノイズキャンセル調整付きビデオエンハンサー装備だ。
 EXCLUSIVEを受継いだ音質重視設計は、筐体の銅メッキシャーンとビスの全面採用、基板防振パッドと70μ銅箔基板、無酸素銅線配線材、黄銅キャップ抵抗、無酸素銅線極性表示の電源コードや樹脂とアルミによる2重構造フロントパネル、ポリカーボネイト製脚部の採用などがある。
 回路面ではシンプル・イズ・ベストを基本に、高品位MC型力−トリッジ再生を目指したハイブリッドMCトランス方式、多電源方式を基盤としたモノコンストラクション化とロジック化による信号経路の最短化設計などが見受けられる。
 M90は単純なパワーアンプと思われる外観をもつが、内容的には2系統のボリュウムコントロール可能な入力と一般的な入力の3系統をもつ、ファンクション付パワーアンプというユニークな構成で、パワーアンプ単体で必要にして最低限の機能を備え、プリメインアンプ的に備える魅力は、一度発表されてしまえば簡単に判かることだが、セパレート型アンプの基盤をゆるがしかねない。多様化する現在のマルチプログラム化とシンプル化の両面を満足させる企画の勝利ともいえる成果だ。
 パワー段は、4個並列接続(片チャンネル8個)、200W+200W(8Ω)ダイナミックパワー310W(8Ω)810W(2Ω)のパワーを誇り、ノンスイッチング回路TypeII採用である。電源部は左右独立トランス採用、銅メッキのシャーシとビスなどはC90と共通である。ただし、重量級電源トランスを2個採用しているために、筐体はトランスを支えるH型構造と黄銅のムク材の柱を介したトランス専用脚を含む5個のポリカーボネイト製脚部に特徴がある。なお、フロントパネルはC90共通の2度のアルマイト処理、バフ研磨の漆調のエ芸晶的な仕上げである。
 C90とM90の組合せは、多機能型の印象の枠を超えた、予想以上に十分に磨き込まれた、細かく滑らかな音の粒状性をもつことにまず驚かされる。このクォリティは、オーディオ専用としても見事なものがあり、アナログディスクも、スクラッチノイズの質と量からみて、水準以上の音質と音場感を聴かせる。試みにM90単体にする。2系統の可変入力間の音の差も抑えられており、さすがにダイレクトな鮮度感は高くは、当然ながら自然な結果だ。

コントロールアンプのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 プリアンプの価格帯は四つのゾーンに分かれていて、30方円未満から100万円以上にわたっている。
 30万円未満でのベストワンとしては、デンオンPRA2000Zを選んだが、このアンプのもつ、美しい仕上げに見合った精密感のある音の魅力が印象的である。組み合わせるパワーアンプやスピーカーによっては、やや肉付きが薄くなるかもしれないが、逆に豊かな量感のスピーカーに対してややパワーアンプをきりっと引き締めて毅然とした音にする効果も捨て難い。ヤマハC2xは、ごくオーソドックスな質感をもち、特に個性的ではないが、質の高い信頼感がある。メリディアンMLPは、フォノやCDそしてチューナーなどのライン入力アンプを、それぞれモジュールとして組み合わせられる自由度をもった独特なコンセプトによるもので、同じモジュールパワーアンプも用意されているから、本当はプリメインアンプとして扱うべき製品だと僕は思う。しかし、そのブリ部分だけを独立させて、他のパワーアンプを鳴らすことも可能なので、このジャンルの扱いになったと思われる。きわめてよくコントロールされた音で、質感には独確で魅力的な粒立ちがある。作者の感性のふるいを通した音だ。QUAD44は、いかにもQUADらしいコンセプトでまとめられ、これも個性が強い。
 30〜50万円の価格帯ではアキュフェーズのC200LとカウンターポイントSA3を選んだ。この2機種、単刀直入にいえば信頼性ではC200L、魅力ではSA3である。C200Lはアキュフェーズが創業時に発表したC200のロングランだが、中身は常に、その時点でのテクノロジーでリファインされ続け、現代の200Lは、最新プリアンプとして優れた特性に裏付けられ、かつ、よくコントロールされたバランスのよい音のアンプだ。しかし、僕が同じ日本人で同質文化への新鮮さが希薄なためか、音への新鮮で強烈な魅力という点で、カウンターポイントSA3をベストワンとしたのである。ソリッドステート電源をもつ管球式のプリアンプで、その柔軟にしてしなやかな強靭さをもった音の魅力は格別である。ただ、作りの点、信頼性の点では垂島最高点はつけ難い。ラックスマンのCL360は発売が来年に延びたのであげなかった。
 50〜100万円では、さすがに全て第一級の甲乙つけ難い製品が並んでいる。強いてベストワンとなれば僕は、その完成度の点でマッキントッシュにならざるを得ない。C33、C30の両者は価格差を考えると甲乙つけ難いが、C33の中域の魅力をとってこれを推す。アキュフェーズC280、サンスイC2301、それぞれ魅力的で、信頼性の高い上質のプリアンプである。

コントロールアンプのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 従来からも、コントロールアンプには、傑出した製品が少ないのが通例であるが、この傾向は今年も大して変わりはない様子である。基本的にコントロールアンプはフォノイコライザー付コントロールアンプという形態で発展してきたが、昨今のCDブームが定着化してくると、この形態を保つ必然性はかなり大幅に減少してきたように思われる。
 現状では、まだアナログディスクとCD共存がベースではあるが、CDに対する依存度が高まってくると、現状のコントロールアンプの重要な部分であるフォノイコライザーアンプやMCカートリッジ用のヘッドアンプや昇圧トランスなどを使う頻度は低下し、それらの部分のコントロールアンプ中に占める価格が問題になってくることになる。簡単に考えれば、フォノイコライザーアンプは、アナログプレーヤー側に装備するか、ブラックボックス的に独立した存在であるべきである。
 その大きな理由を簡単に記しておこう。CDをメインに使う場合には、フォノ入力にプレーヤーがつながれていないことが往々にしてあるだろう。この状態でCDの音を聴き、次にフォノ入力にショートピンを差込んで再びCDを聴いてほしい。音の透明度や、抜けのよさ、音場感の拡がりに大きな差が聴き取れるだろう。簡単に考えれば、フォノイコライザーアンプのノイズがアンプの筐体内部でCD入力に干渉して、音を汚していることになる。
 フォノ入力の端子に、かつてショートタイプの構造をもつものを採用していたメーカーがあり、これも対応策だが、根本的には、フォノ入力使用時以外にフォノイコライザーアンプの電源を切る対策がベストである。この提案を採用したプリアンプが既に存在しているが、結果は非常に良好であり、各社各様の対応をうながしたい点だ。
●30万円未満の価格帯
 アナログディスクを重視する使い方では、内蔵昇圧トランスとヘッドアンプとMM用入力を使えば、外付の昇圧トランスやヘッドアンプも使えるPRA2000Zの基本構成は抜群の成果である。入力切替はリモートコントロールのリレー切替でミュート付でボップノイズは皆無の点が特徴。オーソドックスに置き方、ACの給電方法などで追込んで使えば、かなり高級機とも比較できる音の良さが魅力のポイントだ。C2xの薄型アンプとしての完成度の高さは歴代ヤマハのコントロールアンプ中でトップランクの存在。熟成のきいたP−L10の安心して使える音も好ましい。
●30〜50万円未満の価格帯
 高価格であるだけに信頼感の高さが特徴。C3aの潜在能力が予想以上に高いようだ。
●50〜100万円未満の価格帯
 強いて使うならばといった選択である。

ウエスギ U·BROS-1

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 きわめてニュートラルな音で、ソースの性格を素直に聴かせてくれる。いかにも端正な、中庸をいく音である。質感は、ふっくらとまろやかで自然なものだ。強烈な個性の主張はないが、暖かく滑らかなバランスのよい音は、多種多様な音のプリアンプ群の中では、これ自体が、一つの個性としても、主張としても目立つものだ。荒々しさとか、鮮烈さといった趣きとは対照的な音だから、使うほどに、飽きのこないアンプだろう。
[AD試聴]弦のアンサンブルはふっくらとしたしなやかな質感で、細部のディテールもよく描き出す。やや淡彩なマーラーだが、緻密で端正なオーケストラの響きと透明なライブネスの再現が快い。このプリアンプは存在感を主張しないから、効果的とか魅力的とかいう言葉は使いにくい。「蝙蝠」のステージの自然なリアリティは素晴らしく、人の声の〝らしさ〟は抜群であった。この点、ジャズのガッツやスイング感の強烈な毒性が少々おとなしいが、当然だ。
[CD試聴]CDに対する音の鮮度はきわめて高く、細かい音がよく出る。ショルティのワグナーにおける弦の質感や音の鮮度は第一級。トゥッティの迫力、安定度も素晴らしく、空間もよくぬけて気持ちがよい。このディスクの音としては、もう一つ情熱的で脂の乗った響きだと一層効果的なのだが、ここでも、このアンプの中庸性を知らされる。ベイシーのピアノの開始では、アクションの動きが、他のアンプでは聴けない実感で、この点はSA3と共通した印象。

ロバートソンオーディオ 2020

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 パワーリニアリティの卓越したパワーアンプとして、注目のうちに国内に登場した2モデルのパワーアンプ6010、4010に続く、シンガポールのロバートソンオーディオ社の新製品が、このコントロールアンプ、2020である。
 基本的な設計ポリシーは、伝統的なアナログディスクをハイクォリティで再生するために、機能面を必要最少限に簡潔化した、フォノ重視型プリアンプといった性格が、このモデルの特徴である。
 剛性感のあるコンストラクションをもつ筐体は、高性能コントロールアンプのひとつの典型ともいえる専用電源部をもつセパレート型で、視覚的にもその内容に相応しく、簡潔さが本機の個性だ。
 回路構成は、MC型カートリッジ用ヘッドアンプ、フォノイコライザーとトーンコントロールやフィルター類のないシンプルな23dBのゲインをもつフラットアンプの3ブロック型である。MC入力は、負荷抵抗が100?Ωと500Ωの2段切替、入力セレクターはCD、チューナー、AUX、AVと、独立した1系統のテープ入出力端子を備える。その他、出力端子の直前に、スタンバイスイッチと名付けられた送り出しスイッチがあり、プリアンプ出力をカットアウトすることができる。
 試聴には、本来のベアである、4010か6010パワーアンプが望まれるが、都合により用意されていなかったため、とりあえず、数種の国産パワーアンプと組み合わせてヒアリングをすることにした。
 基本的には、適度にレスポンスをコントロールした、安定感のある帯域バランスをもち、音色はやや明るく一種独得のエッジの効いた、硬質な魅力をもつ音が特徴である。そのため、とかく薄く表面的な音となりやすいCDもプログラムソースとしても、比較的に音の彫りが深く、アナログディスク的なイメージのサウンドになり、この音ならデジタル嫌いのファンでも安心して音楽が楽しめるだろう。
 フォノ入力系は、低インピーダンス型MCでも、聴感上でのSN比は充分にあり、比較的に生じやすい、フォノ系の信号のCDやAUXなどのハイレベル入力系へのクロストークが少ないのが特徴である。
 力−トリッジは、AKG・P100LE、デンオンDL304、オルトフォンSPUを用意したが、安定感のある低域をベースとしたSPUの、いかにもレコードを聴いている、という実感あふれた音が、このアンプには好適の組合せである。
 CD入力は、ソ二−CDP552を使ったが、アバド/シカゴの幻想のアナログ的なまとまり、パブロの’88ベイシー・ストリートのライブホール的なプレゼンスのある力強いサウンドなど、独特の硬質な魅力は、やはり国内製品にないものだ。

H&S EXACT + EXCELLENT

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 たしかに素晴らしい鮮度の音である。あまりにも超高価格なので、かなり差し引きして聴くことになるのだが、音は確かによい。曖昧さ、鈍さなどは一切拒絶した明晰な音だが、それでいてちゃんと、ソースの柔軟でしなやかな特徴は再現する。つまり、この締まりのあるたくましい音は、決して次元の低い音色ではなく、高度な品位に裏付けられたフィデリティのなせる業らしい。完成度の点で未消化な部分もあるが、水準を超えていることは確かである。
[AD試聴]楽器の頭のアタックが印象的である。立上りの呼吸、気迫のようなものが伝わってくる。しっかりとたくましい質感のオーケストラは、輝かしいブラスの音が豪放に響き、弦の厚味が充実していて深い響きとなる。めりはりの利いた、腰の坐った安定感のある音は得がたいものだ。人の声も生き生きとしてリアルだ。ロージーの声は艶麗で輝かしい。もう少しハスキーでなよなよしたニュアンスが本当だと思うが……。ベースは重めだがよく弾む。
[CD試聴]エクザクトはフォノイクオライザーだから、これをとばして、エクセレントのCD入力でCDを聴く。ややぷっきら棒で、男性的なたくましさを感じる堂々とした音はエクザクトを通したADと共通している。エクザクトはエクセレントを併用しないと生きないだろう。CDの音に関しては、物理的特性的に最高で、どのソースにも違和感がない。相当、鮮度が高いラインアンプだし、アッテネーターなどのパーツの品位も高いことに納得させられる音だ。

ディネセン JC-80

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 このアンプの音はスケールが大きく、濃やかさもあって、聴き応えがある。どちらかというと華麗な響きだが、決して品が悪くならない。ややSN比の点で不満があり、最高級アンプとしては何とかしてもらいたいところだが、この音の魅力は強烈なものがある。艶っぼく、脂ののった、血の通った音で、演奏表現が生きてくる。フェイズの優れた特性のためだろう。よく空間感や、定位が明瞭に再現され、豊かな立体感の中に明確に音像が定位する。
[AD試聴]マーラーの第6交響曲の再生音は、正しい質感とバランスだと感じた。高音弦の音は滑らかで、しなやかさを失わず、それでいて丸くなったり、鈍くなったりしない。レーグナーの演奏に共通の流麗なタッチのマーラーである。シュトラウスの「蝙蝠」における、色気のあるヴァイオリン群はひときわ魅力的であった。声も自然で、ステージ感がリアルに再現される。ロージーの声は年頃もいい線いっているし、艶っぽさ、ハスキーさもほどよいところ。
[CD試聴]CDは、このアンプのSN比がやや悪いので、不満が目立つ。音はAD同様、大変好ましいのだが、せっかくのCDの据えぬ比のよさが、曲によっては生かされない。高能率のスピーカーでは特に問題があると思われるのである。試聴でも、B&Wでは実用上差し支えなかったが、JBLだと、pppで開始のワグナーなど、どうしてもノイズが気になってしまう。大変素晴らしい音のアンプであるだけに〝珠に疵〟である。

マークレビンソン ML-7L

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 このプリアンプの音の品位はきわめて高い。品位が高いというのは、物理特性によるところが大きい。パーツやコンストラクションを含めて、音の実体に則した特性の洗練が生んだ結果だろう。測定データ上の物理特性の次元では、今や、品位が高いという表現が使える音になるとは限らない。この透明度の高い空間再現性、滑らかでソリッドな実在感豊かな音の多彩な再現能力は、現在の高級プリアンプの中でも傑出していると思う。
[AD試聴]マーラーの第6交響曲を聴いて、定位、奥行きの再現などが、ちょっと、他のアンプとちがうことを感じさせられた。個性としては、やや粘りっこい女性的な色合いと質感の中間ぐらいの感触が感じられて気になるが。JBLだと、より実在感が高く、眼前に屹立するようで、いわゆるソリッドな音、マッシヴな音という表現をしたくなる。B&Wでも、このスピーカーのスケールが一廻り大きくなったような音像の立体感と実在感が聴ける。
[CD試聴]CDを聴いても、ADの項で述べたような、並のアンプとは一桁ちがう品位の高い音という印象は変らない。好き嫌いは別として脱帽せざるを得ないものだと思う。質感は表面は骨らかで、しなやかで、中味はかなりつまっている感じである。ショルティのワグナーの鮮かなオーケストラには圧倒される。ベイシーのピアノの輝かしい音色、ミュート・トランペットの複雑な音色の妙と冴え、リズムの抑揚が生き生きと弾んでスイングする。

クレル PAM-3

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 このアンプの音は、ややスタティックな雰囲気で、音楽の動的な表現力に乏しい。繊細柔軟な感じのする高音域の質感は、耳当りのよいものだが、解像度が甘く、緻密ではない。品のよい滑らかな音なのだがリアリティに不足するようにも思われる。他のアンプでは聴こえて、このアンプでは聴こえないように感じられる音があるのは不思議だ。聴こえないというのは印象の問題で、その音が全く出ていないというわけではない。出方の問題である。
[AD試聴]しっとりとして、滑らかな高弦が耳当りがよいので一聴したところ魅力的であった。しかし、どうも冷たく、さらさらと流れて、演奏に熱っぽさが感じられないのが気になり始めた。音色の変化にも、常に中間色的な色合いが支配的で、鋭敏とはいえない。いわゆる冴えがないのJBLでも同じような傾向で、ロージーの声も艶っぽさが不十分で、少々ドライに響く。ベースも抑揚がフラットだ。
[CD試聴]ショルティのワーグナーは開始から中低域がもっこりとした響きで冴えがない。空間のプレゼンスも透明度が劣り、細かい音場の中での奏者の動きなどが、不思議に静かになる。どっしりとした低音をベースにバランスは整っていて、B&Wではトゥッティの響きは分厚くたくましい。しかし、JBLだと様子が変り、低弦の力が不足する印象となる。ジャズは、ベイシーのピアノが、滑らか過ぎて、つるつるした質感になるのも不思議であった。

マッキントッシュ C30

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 中域から中低域、つまり音楽の最も重要な帯域が充実しているのが印象的である。オーディオは、ついハイエンド、ローエンドに気をとられ、レンジの広さを聴いてしまうのだが、同時に、そういう音のバランスの製品も多いようだ。このアンプの音は、無意識に聴いても中域が充実しているし、意識的に最高域、最低域に注意をすると、十分ワイドレンジであることがわかる。とろっとした特有の中域の魅力が、好みの分れるところでもあろう。
[AD試聴]マーラーの第6交響曲は豊かな低域と、このアンプ特有の中域の充実により、きわめてスケールの大きな、表現の豊かな再生で、いかにも〝壷にはまった〟という印象の音だった。音像のエッジがもう少しシャープだったら、全ての人を魅了するだろう。JBLで聴いたローズマリー・クルーニーの声は、今回の試聴中のベストで、ハスキーさと艶っぽさのバランスが見事であった。ベースも、捻り出すような弾み感がリアルで、よくスイングする。
[CD試聴]ショルティのワーグナーはきわめて重厚な再現で、開始は暗めのムードがよく出た。トゥッティへの盛り上り、力感も立派。アメリンクの声が、やや明るさを一点ばりのきらいなのが惜しいが、美しいことでは絶品といってよい。ベイシーの出だしのピアノのアクション感が明確に聴かれる数少ないアンプの一つである。ベースの量感は豊かだが、重く鈍くなることはない。弾みもよく、音色感の識別も明瞭である。スピーカーへの対応の変化もないようだ。