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スペックス SDT-77

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 スイッチ切替なしに2〜50Ωのカートリッジが使える昇圧トランスで、昇圧比は1対30。入出力が逆相の反転トランスである。
 帯域バランスは低域を抑え気味とし、やや硬質でコントラストをクッキリつける中高域、ハイエンドを抑えた高域が特徴である。
 MC20はクッキリとシャープな音で、明快さはあるがバランスが高いパートに偏り、音場感がナチュラルに拡がらず独特の中低域の豊かさが出難い。
 305は、やや硬質ではあるがバランスもスッキリとし、スケールはまだ小さいがロッシーニの軽快さ、華やかさを聴かせる。ドボルザークは予想よりもスケール感がなく小柄にまとまり、峰純子はリアリティは相当にあり音像もクリアーだが、プレゼンス不足だ。

スペックス SD-909, SDT-77

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 スペックスからは、MC型のSD−909である。このカートリッジは、共振を防ぐために、カートリッジのボディに、航空機用の軽合金を使い、共振点の異なる2つの材質が共振を打ち消す構造である。
 振動系は、78・5%PCパーマロイを使った巻枠に巻いたコイル、つまり発電系と、カンチレバーの振動支点が一致するワンポイント支持方式を採用し、温度変化にたいして一定のダンピング係数を保つために、異なった性質の材料を2枚合わせてプッシュプル方式を採用している。
 SD−909は、MC型で、精密な作業をおこなうために、少数生産でつくられ、一日に21個しかつくれないとのことだ。
 SD−909などの低出力MC型カートリッジの昇圧用トランスとして、スペックスでは、SDT−77が用意されている。このトランスは、SDT−180newのトランス本体をベースとし、より使いやすくよりスペースをとらない小型にするために、かずかずの改良が加えられている。
 この種の昇圧トランスは、入力インピーダンスのマッチングを、切替によっておこなうのが一般的であるが、ここでは、切替不要の独得のトランス設計により、2〜50Ωのインピーダンス範囲では、切替なしで使用できるとのことである。
 SD−909を、SDT−77をペアにして使ってみる。従来からも、スペックスのMC型カートリッジは、音色が明るく、力強い音を特長としていたが、SD−909は、この系統を受継ぎながら、さらに、音の密度が高くなり太い線も表現できるMC型としてユニークであると思う。