菅野沖彦
スイングジャーナル 9月号(1976年8月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
パイオニアというメーカーは企画のうまさでは抜群である。それも、ちゃんと内容のともなった製品を作るし、タイミングも実によい。パイオニアの製品群にはいくつかの本質的相異を見出すことができるようだ。第1はわれわれが大喜びする超マニア・ライクな高級機器である。第2はそのイメージを、たくみに合理化した中級・上級の製品、第3がパイオニアの商品の武器とでもいうべき、オーディオ的スパイスの効いた大衆商品である。この3本の柱を有機的に組み合せ、強固な商品構成を作りあげているのであろう。
20番シリーズのアンプ類は、そうした分類からすれば、当然第1のグループに属するものだ。それにしては、C21プリアンプが60、000円、M22パワーアンプが120、000円という価格はそう高くないと思われるかもしれないが、30W+30Wのプリメイン・アンプで、しかも、バス、トレブルの音質調整回路つまりトーン・コントロール機能がなしで、180、000円というのは決して安いものではないことに気がつくであろう。プリメインアンプが1W当り1、000円とかいう、おかしな相場からすれば、これはその6倍強の値段である。いうまでもなく、これは、現在のエレクトロニクス技術とオーディオロジーを結びつけた音質の品位の高さを得るために必然的に出た値段である。〝本当の商人は無駄な銭をとらない〟といわれるがまさにその通りであって、むしろ、あまり安いものはうたがったほうがよさそうだ。もっとも、オーディオのように、見ることも触れることも出来ない音を目的とした商品は、買手が要求しないようなところにコストをかけても無意味であるから、いわゆる大衆商品というものは形だけ整えて、見えない音のほうはそこそこにして成り立ち、いうなれば客が馬鹿にされているわけだが、客がそれでよければ何をかいわんやなのである。その道に、客の要求が高ければ高いほど、目に見えないところにコストと時間をかけて、いいクォリティーの音を追求しなければならず、これが、オーディオ製品の一見同じように見えていながら、大きな価格の差をもった製品が出てくる所以であろう。
C21、M22はまさにクォリティー製品であって、その性能は、同社の最高価格のC3、M4のコンビに劣らないほどなのである。いや、ある面ではむしろ優れているとさえいえる部分もある。トーン・コントロール回路をもたないC21は、信号系路を徹底的にシンプルにしてSNや歪の劣化を嫌う思想から作られただけあって、きわめてピュアーな音が得られる。選ばれたパーツも高級品であるし、よく音質検討がなされていて、洗練された最新の回路構成でまとめられている。機能的には先に述べたように、まったくシンプルなものだが、これは、コンパクトなシステムとして、マルチプルにシリーズ化する意図を持った製品群の中で占めるプリアンプという明確な姿勢を持っているのである。M22パワーアンプは、M4で実証したA級動作のノッチング歪のない音質の透明度と滑らかさを受け継ぐもので、音の柔軟性はきわめて高く、スムースこの上ない。ただ30Wというパワーはいかにも小さく、よほど高能率のスピーカーでもない限り、これでジャズをガンガン鳴らすというわけにはいかぬ。試聴にもいくつかのスピーカーをつないでみたが、アルテックのA7クラスだと、まず十分なラウドネスを得ることができるし、Dレンジもまずまずだが、ほとんどのブックシェルフ・スピーカーでは、フォルテを犠牲にしなければならなかった。つまり、このパワーアンプの本当の使われ方は、小音量で、最高の質の音でイメージの再生を目的とするクラシック・ファン向きか、あるいは、マルチ・アンプ構成としてその中域か高域に使うことだ。エネルギー的に大きな中低域両域は、現在の水準からして最低100Wを必要とする、というのが私の持論であって理想としては、低域を同社のM3、中域をM4、高域をこのM22というラインアップを組むことである。パイオニアもこれを考えてか、ちゃんと、この20番シリーズでは、クロスオーバー・ネットワークD23を同時に用意して発売しているのである。この本質をわきまえて、この一連のハイ・クォリティー・アンプを活しきったら素晴しい装置が構成し得るであろう。
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