パイオニア C-21, M-22

岩崎千明

ジャズランド 7月号(1976年6月発行)

 高級パワーアンフが海外製、国産合わせて40機種あまりも市場にあって、互いにその高性能ぶりを競いあっている。そのメーカーにとって最高の位置に存在すべきより抜きの製品の中で、製品としてもっとも成功したのが、パイオニアの特級ブランド「エクスクルーシヴ」の名を冠したM4であることは、よく知られる。
 Aクラス・アンプM4は、海外製のもっとも優れた製品と比較しても、なおそれをしのぐ。アンプをM4に換えれば、音質の差として、聴くものにはっきりと違いを感じとることができるは無論だが、それが品の良いスッキリした響きとして誰でもが質的な向上を知らされるはずだ。
 ただM4はあまりにも高価だ。35万という価格は一般的オーディオ・ファンにとって決して容易ではない。50/50ワットの規格出力のことになると、単位出力当り、世界でもっとも高価なアンプといってよいが、最高を望むにはこれくらいの出費を覚悟しなければならないのだろうか。M4を作った当事者たるパイオニアがそのひとつの解答を与えてくれた。
 Aクラス・アンプM22がその答えだ。価格12万、出力30/30ワットで、M4と変わらぬ高品質のサウンドを与えられたアンプだ。M4の3分の1の価格で6割の出力となると、ざっと計算して、このM22はM4に較べて2倍の価値を持つことになる。
 M4を欲しくても持ってなかったファンがM22に期待し注目するのも当然だといえよう。
 M4が大型のアンプ・ケースに収められたごく標準的な箱型であるのに対し、このM22は昔ながらの、パワーアンプ然として、平なシャーシーの上に中央にトランスを、左右に大きな放熱器を配した、マニアの自作するアンプのようだが、全体はかなり大型でありながら、ごく薄く、いかにも現代的な製品だ。鋳物で造られた軽金属のヒートシンカーはシャーシー上の2分の1を占めて、M22の外観の大きな特徴をなしている。
 Aクラス・アンプとしての動作が、あらゆる意味でM4の特長であるのと同様に、M22においても「Aクラス・アンプである」ということがそのすべてだ。
 Aクラス動作の大きな特徴は、極めて大きな電流をパワー・トランジスタに流すということによってもたらされる高熱発生を前提とすることである。M4の場合は低速回転の放熱ファンによってこれに対処したが、コストを抑えたM22では先程述べた大型の放熱器がこれを受けもつ。つまりM22の特長のすべては外観同様、この放熱器に象徴されるともいえそうだ。
 Aクラス・アンプがオーディオ再生になぜこれほどの優秀性を発揮するかの解析は難しく、現代の技術をもってしても詳かではない。しかし、Aクラス・アンプで優れた設計をなされたアンプは、間違いなくベストな再生を約束するはずだ。
 もし本当にクォリティ本位の選択をするなを、M4あるいはその弟分たるM22を選ぶのに何のためらいもあるはずがない。

 M22とペアになるべきプリアンプがC21だ。プリアンプといっても、それは従来の常識的なプリアンプではなくて、その一部のフォノ・イコライザー回路を独立させ、それに音量調節用ボリューム回路を加えたものだ。だから回路的にトーンコントロールもなく極めてシンプルであり、従ってそれを収めるべきスペースも大きくとる必要はないし、そのフロント・パネルはつまみが極端に少いので小さい面積で済む。
 そうしたC21の基本的特長をズバリ、全体のプロポーションで表明せんとするかの如く、C21はごく薄い形にまとめられている。この特長的な薄型は、だから商品アピールというよりも、本質的な内容を象徴するわけなのだ。
 なぜ、こうした単純化を極度に推進したかというと、「入力信号の純粋性を大切にする」ためだ。今日のように高級アンプはすべての面で充実させようという「万能志向」が、実はその本質を見落してしまう根拠になっていたが、この事実はもう早くから気付いていて、この三年来、高級プリアンプにおいて単純化を求める模索が続けられ、例えば海外製の一部、マークレビンソンのプリアンプなどに成果がみられた。
 パイオニアC21もこうした点を追求して得られたひとつの結果なのである。海外製の価格の上では10倍近い製品と較べても、SNの点ではるかに勝るというべき驚くべきフリアンプがこのC21だ。
 C21はプリアンプの常識的機能をすべて取り去ったマイナスを考慮したとしても、より大きい成果をも生みだした。それは極限まで高められたSN、驚異的低歪率、信号回路の単純化による波形的損失の徹底的な追放等々である。しかし、こうしたデータの上に認められる向上だけを認識するのでは、C21の真の素晴しさを知るには物足りない。
 やはり、C21の良さはそれを優れたパーツで構成されたオーディオ・システムの中に置いて、音楽を演奏したときにはじめてはっきりと体験することができよう。
 それ以外の方法は目下ないのである。

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