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ポータブル・カセットデッキのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「読者の質問に沿って目的別のベストバイを選ぶ」より

 カセットのポータブル機は、移動使用をするためにカセットハーフが360度内の立体的な位置の変化、さらに外部振動にも影響されずに安定した走行性が要求されるため、オーディオ用としても音のクォリティを条件とすると小型化は至難というほかはない。
 現在の平均的なポータブル機の重量は約4kgであり、外形寸法も大きく、これをもって野外の録音をしようとすると、ある程度以上の心の準備が必要である。もっとも典型的な肩掛け使用をする場合には、物理的な重量ももちろんであるが、肩掛け用ベルトの幅や材質、それに外形寸法では、横幅と厚さが感覚的な重さに直接関係をもつことを体験する。たとえば、横幅が狭く厚さが薄いほど心理的にも感覚的にも重さが軽減されるようだ。
 現在のポータブル機のなかで、気軽にポータブルならではの楽しみを味わうための製品としては、価格も併せてソニーTC2220が唯一の存在である。小型・軽量で、オートマチック録音機能を備え、電池の消耗も神経質にならないだけの寿命がある。また、音質的にも十分であるが、この製品に限らず、再生には高級デッキを使用すると予想以上の結果が得られるのは、ポータブル機使用の常識といってよい。
 やや価格が上がると、ビクターKD2がある。モニタースピーカーを除き、スーパーANRSを備えた機能と、ラフに使えるボディの仕上げが、いかにも実戦派といった印象である。電池寿命は長く、音質、走行性能、再生能力は、コンポーネント型の5〜6万円台に匹敵する汎用機である。
 10万円前後の価格になると、新しいソニーTC−D5が超小型、軽量機として最近のポータブル機の話題を集めている。単1型2本使用でもアルカリタイプなら5時間の録音が可能であり、自動テープ選択、ヘッドフォン専用レベルコントロールなどの機能を備えた、いわばTC2220の高級機だ。また、走行性、音質ともにコンポーネントシステムの常用デッキとして十分なものがある。
 テクニクスRS686Dは、ほぼフル機能をもった小型の高級機である。とくにイヤホーンでモニタできる実質的な3ヘッドならではの魅力は、一発勝負のポータブル機に必須なものだ。このデッキは電源の寿命がアキレス腱であるが、オプションの単1型7個使用のパワーパックを併用すれば、その大半はカバーできる。操作は、走行性が優れ、音質も滑らかでキメ細かいクォリティの高さが感じられるものだ。
 特別ランクは、ウーヘルCR210である。趣味性を加えると依然としてトップランクの存在である。実質的にはもっともスペースファクターが優れる。操作性は抜群であり、走行性は平均的に留まる。録音優先型の設計のため、再生には是非ともしかるべきデッキを使いたい。その音質は欧州系小型スピーカーに似た独特の魅力がある。

ウーヘル CR210

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

実質的にもっとも小型機の魅力を味わわせてくれる趣味のポータブル。

ウーヘル CR210

瀬川冬樹

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

国産機も学んで欲しい思い切りの良い設計。ほかに類似品のない強み。

ウーヘル CR210

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 西独のウーヘルのポータブルカセットで、コンパクトな精密機械。いかにもドイツ製のメカニズムらしい、信頼性があって、性能もきわめて高い。音質のよさは特筆に値するもので、一種の風格すら感じさせる。値段も高いが、これは持っていて絶対満足できる製品であろう。

ウーヘル CR210

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 超小型ポータブル・カセットデッキとしてユニークな存在であったステレオ124を改良した、いかにもカセットレコーダーという言葉に応わしいモデルである。外形寸法は、185×57×180mm(W・H・D)、重量、電池なしで2kg、単2型電池を6個使用して、約2・5kgてある。機能は、片道録音、往復再生が可能であり、それもリレーを使った電磁コントロールで、操作は軽快であり、テープ走向方向はメーター指示される。クロームテープの自動切替、テープ量を確認するための窓と照明ランプ、自動録音レベル調整に、モノではあるがコンデンサーマイクとスピーカーを内蔵しているため、本機だけで録音・再生がおこなえるメリットがある。電源関係は、4200 REPORT ICと共通なタイプで、乾電池、電池、自動車バッテリー、充電機兼AC電源の4ウェイである。入出力端子は、欧州製品共通のDIN端子で、操作性が優れ、確実な利点はあるが、米国系のピンプラグやホーンプラグとの互換性には、やや難点を生じる面がある。アク七サリーは豊富で、別売として薄茶色の美しいバッグがあるのも大変に楽しい。超小型、軽量モデルだけに、カセットならではの魅力が製品自体にあり、使っても楽しいデッキである。

ウーヘル CR210

瀬川冬樹

月刊PLAYBOY 7月号(1975年6月発行)
「私は音の《美食家(グルマン)》だ」より

こじんまりと、コンパクトにまとめられたカセット・デッキ。西ドイツ、ウーヘルCR210、21万円。いかにもドイツのメカらしく、内部の配線の美しさは、比類ない。小型にもかかわらず、機構はよくととのっていて、再生もオートリバースである。
音も、超小型とは思えないほど、クリアーでしっかりしている。サンショは小粒でもピリリと辛い、大は小を兼ねない、という好例か。
いたって軽く、持ち運びにも便利このうえない。