Tag Archives: 500(Stanton)

スタントン 500AA, 600EE, 680EL, 680EE, 681EE, 681EEE

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 スタントンは、米国系のカートリッジとしては、素直で標準的な音をもち、個性的な魅力を聴かせるタイプでないのが珍しい。
 681EEEは、音の粒子が細かくスッキリとして磨き込まれている。聴感上の帯域はフラットで爽やかによく伸びている。音に汚れがなく、滑らかで美しさがあるが、表情がおだやかで、やや控えめである。ヴォーカルは少し線が細く、キレイではあるが、力感が不足気味で実体感が薄らぎ、ピアノは澄んだ透明な感じが美しいが、迫力に乏しく、スケールが充分に感じられない。クォリティは充分に高く、音場感はホールトーン的によく拡がり、音像も平均的に立つ。このカートリッジは、力強い表現には向かないが、線が細くキレイな特長は、それなりにかなりの魅力があると思う。
 681EEは、EEEよりもスッキリとしてクリアーな音である。粒立ちはやや粗いが、SN比で気になることはない。帯域バランスはフラット型でカラリゼーションは少ないタイプである。低域は質感がよく音の変化がわかりやすい。ヴォーカルは、スッキリとして、ややハスキー調で子音を強調するが、バランスは崩れず、明るい感じがある。ピアノは、カッチリとした音で、響きも美しく、スケール感もある。細部のニュアンスを拾い出して美しく聴かせるところは、681EEEが優れるが、バーサタイルに使用する場合には、この681EEの方が、爽やかで明快な音をもち、音色が明るく開放感があって使いやすいと思う。
 680ELは、粒立ちが粗く、SN比が気になる。低域から中低域は腰が強く、エネルギーが充分にあって安定度は大きいが、中域以上は明快だが線が太く、しなやかに細部を拾い出して聴かせるわけにはいかない。
 680EEは、粒立ちは、681EEより粗くなり、SN比が少し気になる。帯域バランスはナチュラルで、全体の音はソリッドに引き締まり、適度に音にコントラストをつけて、フレッシュに聴かせる。低域は標準型で甘すぎず、安定しており、中域以上の音をよくサポートしている。ヴォーカルは、ストレートな感じで押し出しがよく、ピアノもカッチリとスケール感がある。
 600EEは、メリハリ型のクッキリとした音である。やや線が太く、骨組みがシッカリとして男性的な感じがあり、低域の腰が強く、エネルギーがタップリとあって堂々とした安定感のある音が特長である。ヴォーカルは子音を強調気味でハスキー調となるが、音像は大きく、前にグッと出て定位する。ピアノはアタックの力が強くダイナミックにスケール感があって、よく鳴る感じだ。トータルバランスはよく、安定した音をもつが、粒立ちは粗く、SN比が少し気になる。
 500AAは、全体に音にラフな感じがあり、充分の力感がないために、表面的に音にコントラストをつけて聴かせる傾向がある。中低域から低域は安定しているが、中域以上は粗く、やや硬調で、音の密度もあまり濃いタイプではない。

スタントン 500AA, 600EE, 680EL, 680EE, 681EE, 681EEE

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 スタントン・マグネディックスは、アメリカ・オーディオ界のボス的存在として知られるフォルダー・O・スタントンを社長とするピカリングと同系の会社である。本来業務用のみのカートリッジをつくる専門的なプロユースのメーカーだが、そのブランドイメージが高くなったことから高級オーディオマニアから注目を浴び、コンシュマーの手にも入ることになったという。ピカリングの技術を土台とした、安定志向の兄弟ブランドといえる。
 スタントン500AAは、このメーカーの中では低価格のクラスに属する手頃な製品といえる。出力は、聴感上非常に高く感じるが、とくに広帯域化を狙った音ではなく、力強い中低域をもつ安定した響きをもつ。左右に大きく拡がるタイプではなく、適度な音響をつくるが、全体に聴き手に近づく音だ。
 600EEは、500シリーズと同じブロードキャスト・スタンダードシリーズに入る。
 その音は、周波数バランスはかなりナローレンジと感じさせるが、帯域内でのピーク・ディップがあまり感じられず、聴きやすい音だ。音のクォリティそのものは相当高く、中域での音離れも良いので、比較的リズミックな表現は得意だ。
 680シリーズに入る680ELと、ハイファイ志向の680EEとがある。680ELは、まさに放送局用ともいえる音を再生し、帯域内での音の緻密さを充分にもってバランスは悪くない。ステレオ音像の広がりも、カベをつき抜けるような空間の広さは感じられないが、音楽の確かさを充分に感じさせる。それに対して680EEは、家庭再生用としての音のバランス、やはり中域の確かさをもちながらも、広帯域感は充分にもち、トレース能力もきわめて良いのが特徴といえる。このシリーズは、まさにスタントンの本領を出しているが、次に出る681シリーズは、現在のスタントンの2チャンネル専用のトップモデルにふさわしいクォリティを聴かせてくれた。
 681EEは、比較的オーソドックスなサウンドイメージをもちながらも、他のアメリカ・カートリッジとは多少違ったハイグレードな再生音が得られる。渋さを感じさせる落着いた中低域と、鮮やかすぎない適度なブライトネスを持った高域をもつ。全体にスタントン・カートリッジは、広帯域感が過剰にならないのが特徴となっているが、この681EEの場合は、それにもまして音の粒立ちをみがき上げている点で、ハイクォリティ・サウンドということができる。ステレオ感も、これまでになく、安定して拡がりが得られる。
 681トリプルEは、681EEのグレードアップ版といえる高性能タイプだ。スタントン・ニューキャリブレーション・スタンダードシリーズと呼ばれる。この音は、まさに大人の音を感じさせる。どのプログラムソースに対しても高級品のイメージをくずすことなく、まったく音楽を安心して楽しむことができる点で、他のメーカーのトップ機種に通じている。ステレオ感の安定した再生ぶりは、もちろん優れているが、それ以上にレコードにおさめられているスペクトラムの再生はシュアーV15に対しても、一歩もひけをとらない。トレース能力も一段と安定して、スタントンのキャリアを充分に感じさせてくれる。

スタントン 500A

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

ピカリングの業務用として、とくに広い帯域は望まないにしろその中域を主体とした安定した音とトレースとで、少々針圧を増せば使いやすいことこの上なしだ。