岩崎千明
ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より
スタントン・マグネディックスは、アメリカ・オーディオ界のボス的存在として知られるフォルダー・O・スタントンを社長とするピカリングと同系の会社である。本来業務用のみのカートリッジをつくる専門的なプロユースのメーカーだが、そのブランドイメージが高くなったことから高級オーディオマニアから注目を浴び、コンシュマーの手にも入ることになったという。ピカリングの技術を土台とした、安定志向の兄弟ブランドといえる。
スタントン500AAは、このメーカーの中では低価格のクラスに属する手頃な製品といえる。出力は、聴感上非常に高く感じるが、とくに広帯域化を狙った音ではなく、力強い中低域をもつ安定した響きをもつ。左右に大きく拡がるタイプではなく、適度な音響をつくるが、全体に聴き手に近づく音だ。
600EEは、500シリーズと同じブロードキャスト・スタンダードシリーズに入る。
その音は、周波数バランスはかなりナローレンジと感じさせるが、帯域内でのピーク・ディップがあまり感じられず、聴きやすい音だ。音のクォリティそのものは相当高く、中域での音離れも良いので、比較的リズミックな表現は得意だ。
680シリーズに入る680ELと、ハイファイ志向の680EEとがある。680ELは、まさに放送局用ともいえる音を再生し、帯域内での音の緻密さを充分にもってバランスは悪くない。ステレオ音像の広がりも、カベをつき抜けるような空間の広さは感じられないが、音楽の確かさを充分に感じさせる。それに対して680EEは、家庭再生用としての音のバランス、やはり中域の確かさをもちながらも、広帯域感は充分にもち、トレース能力もきわめて良いのが特徴といえる。このシリーズは、まさにスタントンの本領を出しているが、次に出る681シリーズは、現在のスタントンの2チャンネル専用のトップモデルにふさわしいクォリティを聴かせてくれた。
681EEは、比較的オーソドックスなサウンドイメージをもちながらも、他のアメリカ・カートリッジとは多少違ったハイグレードな再生音が得られる。渋さを感じさせる落着いた中低域と、鮮やかすぎない適度なブライトネスを持った高域をもつ。全体にスタントン・カートリッジは、広帯域感が過剰にならないのが特徴となっているが、この681EEの場合は、それにもまして音の粒立ちをみがき上げている点で、ハイクォリティ・サウンドということができる。ステレオ感も、これまでになく、安定して拡がりが得られる。
681トリプルEは、681EEのグレードアップ版といえる高性能タイプだ。スタントン・ニューキャリブレーション・スタンダードシリーズと呼ばれる。この音は、まさに大人の音を感じさせる。どのプログラムソースに対しても高級品のイメージをくずすことなく、まったく音楽を安心して楽しむことができる点で、他のメーカーのトップ機種に通じている。ステレオ感の安定した再生ぶりは、もちろん優れているが、それ以上にレコードにおさめられているスペクトラムの再生はシュアーV15に対しても、一歩もひけをとらない。トレース能力も一段と安定して、スタントンのキャリアを充分に感じさせてくれる。
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