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KEF Model 303

黒田恭一

サウンドボーイ 10月号(1981年9月発行)
特集・「世界一周スピーカー・サウンドの旅」より

 これはいいスピーカーである。スペンドールのBCIIもすぐれたスピーカーであったが、やはりこのスピーカーと較べると、いくぶん大人っぽいところがあった。このKEFの303の方が、いまの音楽、いまのサウンドをきくには、あっている。ひびきがひときわフレッシュである。ただ、あらためていうまでもないと思うが、スケールの大きいな音楽を恰幅よく示すタイプのスピーカーではない。それに、こもまたイギリス出身のスピーカーであるから、ひびきは暗めである。スペンドールのBCIIよりはいくぶんあかるいようであるが、あのアメリカのウェストコースト出身のスピーカーに較べれば、やはり暗いといわざるをえない部分がある。その分だけひびきのきめがこまかいとしても、聴感上は暗いというべきであろう。
 デイヴ・エドモンズの『トワンギン』で特徴的な、高い方でのいくぶんざらついた音への対応のしかたは、きいて、なるほどと思うものであった。きれいにみがきあげられたとはいいがたい音の、汚れた音であるがゆえの生命力とでもいうべきものを、なまなましく示した。これはイギリス出身のスピーカーに共通していえることでもあるが、このKEFの303でも、声がヴィヴィッドに示されたのが印象的であった。
 そのために、アメリカのウェストコースト出身のレコードであるマーティ・バリンのレコードを、ここでまたきいてみたいと思った。きいてみたら、なかなかいい感じであった。バリンのかすれた声をうまく示した。しかも、バリンの歌に、ウェストコースト出身のスピーカーできいたときには感じとりにくかった大人っぽい雰囲気があることがわかった。いくぶんかげりのあるひびきの中に、バリンのスリムな声がすっきり定位して、なかなかいい感じであった。
 スライ&ロビーの『タクシー』もよかった。シャカシャカした音とソリッドな音の対比を充分につける能力をそなえたスピーカーであるから、このレコードできける音楽の特徴を示すことにおこたりはなかった。このスピーカーの音は、たとえ多少のかげりがあるとしても、重くぼてっとはしていないので、このレコード『タクシー』におさめられているようなサウンドにもうまく対応できるということのようである。
 ハーブ・アルバートのレコードも、好結果をおさめた。むろん、「ベサメ・ムーチョ」でリズムをきざむ深いひびきの提示には、無理があった。しかし、それとても、一応それらしく示した。したがって、音楽をはこんでいくリズムのきざみは、ききてに感じとれるわけで、音楽としてきいている分には、ことさら不満をおぼえなかった。つまり、そのことから、このKEFの303というスピーカーが、その音楽的まとまりをこのましく示すスピーカーということがいえるにちがいない。
 大滝詠一のレコードでも、音がききての側に迫ってくる力は感じられなかったもの、すっきりした音場感を示し、大滝の声の特徴もよくあきらかにしていた。音のだし方にいくぶんひかえめなところがあるとしても、上品な音の、つかいやすいスピーカーのようである。

KEF Model 303

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 20cmウーファーとドーム型トゥイーターの2ウェイ。キャビネットはプラスチック成型を主体とし、外装はストレッチクロスでぐるりと囲んで、徹底的にコストダウンした作り方。レベルコントロールもついていない。が、その分だけ音質はさすが、で、バランスよく、大入力にも耐え、どちらかといえば地味な音色だが音楽を選ばず楽しませる。最近の製品はストレッチクロスの色が6色用意され、好みによって選べる。

KEF Model 303

菅野沖彦

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 KEF303は、英国のKEF社のシリーズ中、最もポピュラーなランクの小型ブックシェルフ。20cmウーファーと3・3cmメリネックス振動板採用のドーム・トゥイーターからなる2ウェイで、きわめて合理的なコストダウンモデルながら、その音の素晴らしさは特筆に値する見事なものである。大きいスケールの再生を望まなければ何にでも安心して使える傑作だ。

KEF Model 303

KEFのスピーカーシステムModel 303の広告(輸入元:BSRジャパン)
(スイングジャーナル 1980年7月号掲載)

KEF

KEF Model 303

菅野沖彦

スイングジャーナル 5月号(1980年4月発行)
「SJ選定新製品」より

 KEFというスピーカーには、ジャズ・ファンはそれほど馴染みがないかもしれない。クラシック・ファンの間では、古くから親しまれ、高く評価されていたイギリスの製品である。今月の選定新製品として選ばれたMODEL 303は、同社のシリーズ中、もっとも安価な普及タイプではあるが、これを機会にKEFそのものについて紹介をしておこうと思う。
 KENT-ENGINEERING-FOUNDRYのイニシャルをとってKEFと名付けられているイギリスのスピーカー専門メーカーで、創立は1961年である。社長のレイモンド・クック氏は、有名なワーフデルのチーフ・エンジニアでもあった人で、スピーカー一筋の人生を歩んでいる人だ。ワーフデルという名もまた、若い人達にはあまり馴染みがないかもしれないが、スピーカー・エンジニアリングの草分け的存在の故ブリッグス氏が創立したメーカーで、イギリスのスピーカー・メーカーとしては、タンノイやグッドマン、そしてヴァイタヴォックスなどと並ぶ名門であった。私事になるが、私も昔ワーフデル・スピーカーを愛用していて、今でもW12RS/PSTという平板ウーファー(平板スピーカーは決して新しいものではないが)の再生する音の魅力は忘れていない。
 クック氏は、61年にKEFを創立して以来、一貫して優れたモニター・スピーカー、家庭用のハイファイ・スピーカーを製造し、今やワーフデルの壮年の名声に代って、現代第一級のスピーカー・メーカーとして発展させるに至った。数々のユニークな開発をおこなっているが、中でも、スピーカーの測定面で大きな進歩といえるフーリエ・アナライザー・スピーカー解析法の開発技術はスピーカーの技術史に残るものといえる。スピーカーの静特性と動特性の両面を解析することにより、スピーカーの音の実体をより適確に知り得るもので、今では世界中のスピーカー・メーカーが、この測定法を用いているといってもよい。このように、KEFのスピーカーは、すべて社長のクック氏の手から生み出されるといってもよいが、クック氏のスピーカーの考え方は、あくまで、プログラム・ソースを忠実に、誇張することなく、音楽を楽しく聴くことのできるものであって、PA用やディスコ用の特殊スピーカーは絶対に作らないというポリシーを明確にしている。
 さて、このMODEL 303は、先述したように、KEF製品中もっともポピュラーな製品ではあるが、さすがにKEFらしい魅力ある製品である。20cmウーファーとドーム・トゥイーターの2ウェイを、小型ブックシェルフにまとめたもので、エンクロージュアの材質もプラスチック成形を用いるというコスト・ダウン化を計ったものなのだ。62,000円という価格は輸入品として大変に安価であるが、特筆すべきは、その音の品位の高さである。決して、コスト・ダウンが音の品位の低下につながっていないのだ。それどころか、この2倍、3倍の値段のスピーカーでも、これほどバランスのよい、高品位の音の再生が得られるものは少ないといえるだろう。ジャズを聴いても、決してクラシック向きと俗称されるスピーカーにありがちな脆弱な音ではなく、楽器の質感はリアルで、演奏表現の情感や、演奏場のリアリティはよく再現されるのである。このすっきりと透明感の高いプレゼンスはKEFスピーカーの大きな魅力だが、これは、とりもなおさず、クック氏のスピーカーへの主張の現われであるといえるであろう。節度のあるベースは、決してボンボンと量一点張りの鳴り方はしないが、充分に弾み、低音楽器の質感を忠実にイメージ・アップしてくれる。小型には小型の限界があることは否めないが、このサイズのシステムの限界をうまく補う音のまとめ方には、さすがにKEFの腕と耳の冴え、キャリアーが偲ばれる。そして、発音の大らかさは、国産スピーカーにはないもので、エクスプレッションが豊かな海外スピーカーらしい一味ちがった魅力が、解る人には解るはずだ。さり気なく上質の音を居間に流すといった目的には絶好のもので、デザインもシックで、コストダウン製品によくある品の悪さはまったくないところもセンスのなせるわざというべきだろう。

KEF Model 303

黒田恭一

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 ともかくひびきのあかるくさわやかなのがいい。その点では、このランクのスピーカーとしては、ひときわぬきんでている。ひびきの力感の提示ということでは、たしかにものたりない。しかし、❸のレコードでの、オーケストラのフォルテによる総奏、あるいはブラスの鋭いつっこみなども、一応、その音楽的特徴をそこなわずあきらかにしているのは、見事だ。❷のレコードでのグルダのピアノが、やはりどうしてもこあじ、こつぶになるのは、いかんともしがたいが、その一方で、そこできかれる声のなまなましさはなかなかのものだ。当然のことに、重量級の音楽を、大音量できくスピーカーとはいいがたい。インティメイトな表情をもった音楽を、おさえめの音量でしずかにきくききてには、おそらく、うってつけのスピーカーといえるのではないか。❶のレコードできけるような今様な音楽への対応もすぐれている。

総合採点:9

試聴レコードとの対応
❶HERB ALPERT/RISE
(好ましい)
❷「グルダ・ワークス」より「ゴロヴィンの森の物語」
(ほどほど)
❸ヴェルディ/オペラ「ドン・カルロ」
 カラヤン指揮ベルリン・フィル、バルツァ、フレーニ他
(好ましい)

KEF Model 303

瀬川冬樹

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 キャビネットはプラスチック製。しかも外装に金をかけないためだろう、四周をグリルクロスで囲っていて、天板部分はおそらくキズを目立たせないための配慮か、粗い砂目に仕上げてある。レベルコントロールは無い……というように、およそ無愛想のこの小っぽけなスピーカーが、実はびっくりするほどバランスのよい、そして渋い控えめながらこういう価格としてはおどろくほど質の高い音を聴かせる。クラシックはまあまあ聴かせてもポップスで腰くだけになるような古いイギリスのスピーカーの弱点は、303ではほとんど改善されている。音がやせてもいず太りすぎてもせず、冷たくも細くもならず適度のあたたかさで、音楽愛好家を十分満足させるだろう。床から30センチ以上持ち上げ、背面も壁にあまり近づけず、できるだけ左右にひらいて設置するとよい。小型ローコストでも、いわゆるセカンドスピーカー的存在でなく、十分とはゆかないまでもけっこう聴きごたえする佳作だ。

総合採点:10

●9項目採点表
音域の広さ:7
バランス:9
質感:8
スケール感:6
ステレオエフェクト:8
耐入力・ダイナミックレンジ:6
音の魅力度:8
組合せ:普通
設置・調整:普通

KEF Model 303

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 楽器や音楽表現の美しさが実に巧みに緻密にスケールダウンして再生される、素晴らしいスピーカーだ。小型で、かつコストダウンをうまく図りながら、巧みにまとめ上げた傑作といってよいだろう。音色の美しさだけでなく、演奏のエクスプレッションをはっきりと聴かせてくれる数少ない製品の一つだ。こうしてまとめて同クラスのシステムを聴いてくると、これがKEFというイギリスのものであるので、海外のメーカーの音楽の掴み方のうまさに、改めて感心させられてしまう。クラシックの室内楽にはほとんど不満のない再生音が得られたし、たとえジャズやロックのスケールの大きな力感が生命のような音楽にさえ、スケールこそ小さいが、立派に本物をイメージアップさせてくれるバランスと質感には、脱帽である。このシステムを中高域に使って、低域を大型のもので補えば、相当なシステムが組み上げられるのではないかという可能性も想像させてくれた。何かの機会に、是非挑戦してみたいと思っている。

総合採点:10

KEF Model 303

井上卓也

コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より

新しいシリーズに置き換えられたKEFのスピーカーシステムのなかでは、もっとも小型な製品である。20cmウーファーとドーム型トゥイーターの2ウェイで、柔らかく伸びやかな低音と透明な高音だ。

KEF Model 105(組合せ)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第16項・KEF105を生かす組合せ例」より

 JBL4343のところであげた8、9、10項の組合せ例が、このKEF105にもほとんどそっくりあてはまることをまず言っておいて、ここではそれ以外の組合せ例をもう少し追加してみる。それには二つの方向が考えられる。
 第一は、音の謹厳な分析者、という感じの、言いかえれば聴き手にさえ真面目な鑑賞者としての態度をとらせてしまうような厳格な鳴り方を、いくぶん和らげながら、できるかぎり音楽の表情を楽しく聴きとれるような方向に調整してゆくような組合せ。
 第二は、KEF105のどちらかといえばクールな、すっきりした音の味わいをそのまま生かしてゆく方向。
 第一の方向としては、できるだけ音のニュアンスの豊かな、そして105の持っている音を露わにしない上品さを損ねないような、アンプやカートリッジを選びたい。そこでアンプはオンキョーのP307とM507。カートリッジにはデンオンのDL303を組合わせる。チューナーが必要なら(オンキョーにはこのシリーズとデザインの合う製品がないので、色やサイズのよく似た)テクニクスの38Tを持ってくる。この38のシリーズは、38R、38Pと組合わせてロータリーアンテナを自動制御したり、留守録音の可能なテープデッキと組合わせれば一週間分の番組をプログラムできたりという、マイコン内蔵ならではの機能を発揮させることもできる。
 このまま、カートリッジにもっと味の濃いEMT(XSD15)や、オルトフォンSPU−GT/E(このカートリッジの使えるようにアームを調整することが必要──第三章74項参照)や、エラック(エレクトロアクースティック)STS455E、555Eを追加すると、いっそう幅広く楽しめる。
          ※
 第二の方向としては、ラックスが、〝ラボラトリーシリーズ〟の名で発売している一連のアンプを主体にしてみる。このアンプの開発の意図やその音質が、ある意味でKEF105の目ざす方向と一脈通じているからだ。プリアンプの5C50、トーンコントロールアンプの5F50、パワーアンプの5M21、それにFMチューナーの5T10。5F70は好みに応じて省略してもよいし、パワーアンプにモノーラル構成のB12を2台使うのもよい。チューナーはもっと複雑なシンセサイザー方式の5T50もある。そしてこれらのすべてが、同じ寸法のモジュールに作られていて、積み重ねたり、ラックマウントもできる。
           ※
 JBLの4343では、おもにアンプの部分でのローコスト化をはかる組合せ例をあげたが、それは4343が、非常に幅の広い能力を持っていて、スピーカーに比較して多少性能の見劣りするアンプでも、その能力をスピーカーのほうがカバーしてくれたからだ。しかしKEF105の場合には、原則として、アンプに上のような高級機を組合わせないと、その性能が十分に生かされない。アンプのグレイドの差を、このスピーカーはそのままさらけ出してしまうからだ。

スピーカーシステム:KEF Model 105 ¥185,000×2
コントロールアンプ:オンキョー P-307 ¥220,000
パワーアンプ:オンキョー M-507 ¥270,000
チューナー:テクニクス 38T ¥65,000
マイコムプログラムユニット:テクニクス 38P ¥80,000
プレーヤーシステム:デンオン DP-50F ¥98.000
カートリッジ:デンオン DL-303 ¥45,000
計¥1,148,000

スピーカーシステム:KEF Model 105 ¥185,000×2
コントロールアンプ:ラックス 5C50 ¥160,000
トーンコントロールアンプ:ラックス 5F70 ¥86,000
パワーアンプ:ラックス 5M21 ¥2400,000
チューナー:ラックス 5T10 ¥108,000
ターンテーブル:ラックス PD121 ¥135.000
トーンアーム:オーディオクラフト AC-3000MC ¥65,000
カートリッジ:オルトフォン MC30 ¥99,000
ヘッドアンプ:オルトフォン MCA76 ¥58,000
計¥1,321,000

更新のお知らせ(5月2日)

KEFのスヒーカーシステムmodel 303の菅野沖彦氏の記事(スイングジャーナル 1980年6月号掲載)を公開しました。
http://audiosharing.com/review/?p=26994

「My Best3」

瀬川冬樹

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

●スピーカー
 オーディオ機器の音質の判定に使うプログラムソースは、私の場合ディスクレコードがほとんどで、そしてクラシック中心である。むろんテストの際にはジャズやロックやその他のポップス、ニューミュージックや歌謡曲も参考に試聴するにしても、クラシックがまともに鳴らない製品は評価できない。
 ところがその点で近ごろとくにメーカー筋から反論される。最近のローコストの価格帯の製品を買う人は、クラシックを聴かない人がほとんどなのだから、クラシック云々で判定されては困る、というのである。クラシックのレコードの売上げやクラシックの音楽会の客の入り具合をみるかぎり、私には若い人がクラシックを聴かないなどとはとうてい信じられないのだが、しかし、ともかく最近の国産のスピーカーのほとんどは、日本人一般に馴染みの深い歌謡曲、艶歌、そしてニューミュージックの人気歌手たちの、おもにTVを通じて聴き馴れた歌声のイメージに近い音で鳴らなくては売れないと、作る側がはっきり公言する例が増えている。加えて、繁華街の店頭で積み上げられて切替比較された時に、素人にもはっきりと聴き分けられるようなわかりやすい味つけがしてないと激しい競争に負けるという意識が、メーカーの側から抜けきっていない。
 そういう形で作られる音にはとても賛成できないから、スピーカーに関するかぎり、私はどうしても国産を避けて通ることが多くなる。いくらローコストでも、たとえばKEFの303のように、クラシックのまともに鳴るスピーカーが作れるという実例がある。あの徹底したローコスト設計を日本のメーカーがやれば、おそろしく安く、しかしまともな音のスピーカーが作れるはずだと思う。
 KEF303の音は全く何気ない。店頭でハッと人を惹きつけるショッキングな音も出ない。けれど手もとに置いて毎日音楽を聴いてみれば、なにもクラシックといわず、ロックも演歌も、ごくあたり前に楽しく聴かせてくれる。永いあいだ満足感が持続し、これを買って損をしたと思わせない。それがベストバイというものの基本的な条件で、店頭ではショッキングな音で驚かされても、家に持ち帰って毎日聴くと次第にボロを出すのでは、ベストバイどころではない。売ってしまえばそれまでよ、では消費者は困るのだ。
●アンプ・FMチューナー
 アンプやチューナーの音質は、その点もっとまともで正攻法で作られる。したがって、国産のローコスト機の中に、良い製品をかなり見出すことができる。だが単にまともであるだけでなく、やはり音楽を生きた姿で蘇らせ、聴き手に音楽を聴く喜びを持続させてくれなくては、真の良い音とはいえない。こんにちの技術では、プリメイン一体型でも相当に水準の高いアンプは作れる。それをあえて分割し、割高を承知でプリメインでは不可能な電子回路の限界に挑むのがセパレート。私はそう考えているから、セパレートタイプに対する要求は一段ときびしい。しかもなお、数多くの製品の中から、あえてわざわざその製品を選び出すだけの明確な魅力が、音質にも外観にも現われていないくては、セパレートを入手する満足感が薄れる。
●プレーヤーシステム
 プレーヤーシステムは難しい。今回別項で高価格帯グループの比較試聴をしてみて、その思いのほかの音質の差を体験してみると、最近の新製品競争で生まれてきた大半の製品を、本当によく聴き比べたとは私は言えない。この部門は投票を棄権したいくらいだ。ただ、メーカーのこれまで実績や、シリーズの中の何機種かを試聴した体験とで、かろうじて選び出したという形。
●カートリッジ
 カートリッジは、スピーカーと別の意味で国産にどうしても冷たい態度をとりたくなる。それは価格である。輸入品と国産品の価格差がほとんどないというのはどこかおかしい。価格体系さえ修整されるなら、国産カートリッジは音質の点では相当な水準に達している。
●カセットデッキ
 カセットデッキは、個人的にテストの機会がほとんど与えられていないので棄権させていただいた。
          *
 投票結果が一覧表になってみると、例によって自分としては入れたかった製品が入選してなかったり、逆に思わぬ製品が入ってたりする。多数決制では多少矛盾は止むをえないことだろう。

●スピーカーシステム
 JBL 4343B(WX) ¥720,000 (730,000)
 JBL L150 ¥250,000
 KEF Model 303 ¥62,000
●プリメインアンプ
 ケンウッド L-01A ¥270,000
 ラックス L-58A ¥149,000
 サンスイ AU-D607 ¥69,800
●コントロールアンプ 
 マークレビンソン LNP-2L ¥1,460,000
 マークレビンソン ML-6L ¥1,460,000
 アキュフェーズ C-240 ¥430,000
●パワーアンプ
 ルボックス A740 ¥598,000
 マイケルソン&オースチン TVA-1 ¥560,000
 アキュフェーズ P-400 ¥410,000
●プレーヤーシステム
 マイクロ RX5000 + RY-5500 ¥470,000
 パイオニア Exclusive P3 ¥530,000
 EMT 930st ¥1,258,000
●カートリッジ
 デンオン DL-303 ¥45,000
 オルトフォン MC20MKII ¥53,000
 オルトフォン MC30 ¥99,000
●FMチューナー
 パイオニア Exclusive F3 ¥250,000
 アキュフェーズ T-104 ¥250,000
 ケンウッド L-01T ¥160,000
●カセットデッキ
 テクニクス RS-M88 ¥145,000
 サンスイ SC-77 ¥73,800
 ヤマハ K-1a (B) ¥98,000