「My Best3」

瀬川冬樹

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

●スピーカー
 オーディオ機器の音質の判定に使うプログラムソースは、私の場合ディスクレコードがほとんどで、そしてクラシック中心である。むろんテストの際にはジャズやロックやその他のポップス、ニューミュージックや歌謡曲も参考に試聴するにしても、クラシックがまともに鳴らない製品は評価できない。
 ところがその点で近ごろとくにメーカー筋から反論される。最近のローコストの価格帯の製品を買う人は、クラシックを聴かない人がほとんどなのだから、クラシック云々で判定されては困る、というのである。クラシックのレコードの売上げやクラシックの音楽会の客の入り具合をみるかぎり、私には若い人がクラシックを聴かないなどとはとうてい信じられないのだが、しかし、ともかく最近の国産のスピーカーのほとんどは、日本人一般に馴染みの深い歌謡曲、艶歌、そしてニューミュージックの人気歌手たちの、おもにTVを通じて聴き馴れた歌声のイメージに近い音で鳴らなくては売れないと、作る側がはっきり公言する例が増えている。加えて、繁華街の店頭で積み上げられて切替比較された時に、素人にもはっきりと聴き分けられるようなわかりやすい味つけがしてないと激しい競争に負けるという意識が、メーカーの側から抜けきっていない。
 そういう形で作られる音にはとても賛成できないから、スピーカーに関するかぎり、私はどうしても国産を避けて通ることが多くなる。いくらローコストでも、たとえばKEFの303のように、クラシックのまともに鳴るスピーカーが作れるという実例がある。あの徹底したローコスト設計を日本のメーカーがやれば、おそろしく安く、しかしまともな音のスピーカーが作れるはずだと思う。
 KEF303の音は全く何気ない。店頭でハッと人を惹きつけるショッキングな音も出ない。けれど手もとに置いて毎日音楽を聴いてみれば、なにもクラシックといわず、ロックも演歌も、ごくあたり前に楽しく聴かせてくれる。永いあいだ満足感が持続し、これを買って損をしたと思わせない。それがベストバイというものの基本的な条件で、店頭ではショッキングな音で驚かされても、家に持ち帰って毎日聴くと次第にボロを出すのでは、ベストバイどころではない。売ってしまえばそれまでよ、では消費者は困るのだ。
●アンプ・FMチューナー
 アンプやチューナーの音質は、その点もっとまともで正攻法で作られる。したがって、国産のローコスト機の中に、良い製品をかなり見出すことができる。だが単にまともであるだけでなく、やはり音楽を生きた姿で蘇らせ、聴き手に音楽を聴く喜びを持続させてくれなくては、真の良い音とはいえない。こんにちの技術では、プリメイン一体型でも相当に水準の高いアンプは作れる。それをあえて分割し、割高を承知でプリメインでは不可能な電子回路の限界に挑むのがセパレート。私はそう考えているから、セパレートタイプに対する要求は一段ときびしい。しかもなお、数多くの製品の中から、あえてわざわざその製品を選び出すだけの明確な魅力が、音質にも外観にも現われていないくては、セパレートを入手する満足感が薄れる。
●プレーヤーシステム
 プレーヤーシステムは難しい。今回別項で高価格帯グループの比較試聴をしてみて、その思いのほかの音質の差を体験してみると、最近の新製品競争で生まれてきた大半の製品を、本当によく聴き比べたとは私は言えない。この部門は投票を棄権したいくらいだ。ただ、メーカーのこれまで実績や、シリーズの中の何機種かを試聴した体験とで、かろうじて選び出したという形。
●カートリッジ
 カートリッジは、スピーカーと別の意味で国産にどうしても冷たい態度をとりたくなる。それは価格である。輸入品と国産品の価格差がほとんどないというのはどこかおかしい。価格体系さえ修整されるなら、国産カートリッジは音質の点では相当な水準に達している。
●カセットデッキ
 カセットデッキは、個人的にテストの機会がほとんど与えられていないので棄権させていただいた。
          *
 投票結果が一覧表になってみると、例によって自分としては入れたかった製品が入選してなかったり、逆に思わぬ製品が入ってたりする。多数決制では多少矛盾は止むをえないことだろう。

●スピーカーシステム
 JBL 4343B(WX) ¥720,000 (730,000)
 JBL L150 ¥250,000
 KEF Model 303 ¥62,000
●プリメインアンプ
 ケンウッド L-01A ¥270,000
 ラックス L-58A ¥149,000
 サンスイ AU-D607 ¥69,800
●コントロールアンプ 
 マークレビンソン LNP-2L ¥1,460,000
 マークレビンソン ML-6L ¥1,460,000
 アキュフェーズ C-240 ¥430,000
●パワーアンプ
 ルボックス A740 ¥598,000
 マイケルソン&オースチン TVA-1 ¥560,000
 アキュフェーズ P-400 ¥410,000
●プレーヤーシステム
 マイクロ RX5000 + RY-5500 ¥470,000
 パイオニア Exclusive P3 ¥530,000
 EMT 930st ¥1,258,000
●カートリッジ
 デンオン DL-303 ¥45,000
 オルトフォン MC20MKII ¥53,000
 オルトフォン MC30 ¥99,000
●FMチューナー
 パイオニア Exclusive F3 ¥250,000
 アキュフェーズ T-104 ¥250,000
 ケンウッド L-01T ¥160,000
●カセットデッキ
 テクニクス RS-M88 ¥145,000
 サンスイ SC-77 ¥73,800
 ヤマハ K-1a (B) ¥98,000

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