「アダージョ・ドルチェ」

黒田恭一

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
特集・「オーディオ評論家──そのサウンドとサウンドロジィ」より

瀬川冬樹様

 今日、お宅できかせていただいた音、あの音を、もしひとことでいうとすれば、さわやかさという言葉でいうことになるでしょう。今日はしかも、冬にしてはあたたかい日でした。そよかぜがカーテンをかすかにゆらすなかできかせていただいた音は、まさにさわやかでした。かけて下さったレコードも、そういうとにふさわしいものだっと思いました。やがて春だなと思いながら、大変に心地よい時をすごさせていただきました。あらためてお礼を申しあげたいと思います。ありがとうございました。
 普段、親しくおつきあいいただいていることに甘えてというべきでしょうか、そのきかせていただいたさわやかな音に満足しながら、もっとワイルドな音楽を求めるお気持はありませんか? などと申しあげてしまいました。そして瀬川さんは、ワーグナーのオペラ「さまよえるオランダ人」の合唱曲をきかせてくださいましたが、それをかけて下さりながら、瀬川さんは、このようにおっしゃいました──さらに大きな音が隣近所を心配しないでだせるようなところにいれば、こういう大音量できいてはえるような音楽を好きになるのかもしれない。
 たしかに、そういうことは、いえるような気がします。日本でこれほど多くの人にバロック音楽がきかれるようになった要因のひとつに、日本での、決してかんばしいとはいいがたい住宅環境があるというのが、ぼくの持論ですから、おっしゃることは、よくわかります。音に対しての、あるいは音楽に対しての好みは、環境によって左右されるということは、充分にありうることでしょう。ただ、どうなんでしょう。もし瀬川さんが、たとえばワーグナーの音楽の、うねるような響きをどうしてもききたいとお考えになっているとしたら、おすまいを、今のところではなく、すでにもう大音量を自由に出せるところにさだめられていたということはいえないでしょうか。
 なぜ、このようなことを申しあげるかといいますと、今日きかせていただいた音が、お書きになったものからや、さまざまな機会におはなしして知った瀬川さんと、すくなくともぼくには、完全に一致したものと感じられたからです。まさにそれは、瀬川サウンドといえるもののように思われました。
 ぼくはいまだかつて(ふりかえってみますともうかなりの回数お目にかかっているにもかかわらず)、瀬川さんが、馬鹿笑いをしたり、声を尖らしたり、つつしみにかけたふるまいをなさったりするのに接したことがありません。ぼくのような、血のけが多いといえばきこえはいいのですが、野卑なところのある人間にとって、そういう瀬川さんは、驚きの的でしたが、今日、その瀬川さんの音をきかせていただいて、なるほどと、ひとりでうなずいたりいたしました。きかせていただいた音にも、馬鹿笑いをするようなところとか、声を尖らすようなところとか、あるいはつつしみにかけたふるまいをするようなところは、まったくありませんでした。敢てそのきかせていただいた音を音楽にたとえるとすれば、短調のではない、長調の、そう、ヴィヴァルディのというより、テレマンのというべきでしょう。緩徐楽章の音楽ということになるかもしれません。そこには、それにふれた人の心をなごませるさわやかなやさしさがあるように思えました。
 タバコをすわない瀬川さんのお部屋には、タバコのみの部屋の、あのなんともいえないやにくささがまったく感じられませんでした。それがはじめわからなくて、なんとも不思議な気持がしました。そのタバコのやにくささの感じられないことが、さらに一層、きかせていただいた音のさわやかさをきわだたせていたということも、いえなくはないのかもしれません。もしぼくは経済的に余裕があったら犬を沢山飼ったりするのかもしれませんが、瀬川さんだったらきっと、そういう時、ばら園をつくられたりするのかもしれないと思ったりいたしました。そのようなことを考えさせる瀬川さんの音だったといえなくもないようです。
 お忙しくて、まだ、ぼくの家においでいただけないでおりますが、いつか、機会がありましたら、ご一緒にレコードでもききながら、おはなしできたらと思います。ただ、そのためには、おいでいただく前にぼくは、空気清浄器を購入して、部屋のタバコのけむりでにごった空気をきれいにしておかなくてはなりません。
 今日は、瀬川さんの音をきかせていただいて、胸いっぱい深呼吸をしたような気持になり、今、とてもさわやかな気持です。ありがとうございました。

一九七六年一月十四日
黒田恭一

「アンダンティーノ・グラチオーソ」

黒田恭一

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
特集・「オーディオ評論家──そのサウンドとサウンドロジィ」より

山中敬三様

 ともかく山中さんのお宅にうかがったら、生きた状態にあるすごい名器の音をきかせていただけるから──と、編集部の人にいわれていたので、期待に胸はずませて、うかがいました。聴覚的にも、視覚的にも、期待をはるかにうわまわるもので、音の美味を、心ゆくまで堪能させていただきました。ありがとうございました。美食家であるがゆえに超一流の料理の腕をもつ方の手になるごちそうでもてなしていただいたような気持になりました。
 弦楽器の、特に低い方の、つややかな、そして腰のすわった音に、まず、びっくりしました。本当にいい音ですね。とげとげしたところが全然なく、なめらかで、しかも響きには、それ本来ののびやかさがあるように感じられました。
 そういう音をきかせていただいた後だったので、山中さんの、かつてのベルリン・フィルはよかったけれど……とおっしゃる言葉をきいて、なるほどと思いました。オーケストラを、少しはなれた、つまりコンサートホールで申せば特等席できいているような気持になりました。響きが津波のごとくききてめがけておしよせてくるということはなく、オーケストラの音が、多少の距離をおいたところで美しく響いているという印象を、ぼくはもちました。それは、言葉をかえて申しますと、あからさまに、そしてむきだしになることを用心深くさけた、節制の美とでもいうべき美しさをもった音ということになるかもしれません。
 かけて下さったレコードも、山中さんの、そういうきかせてくださった音から感じとれる美意識を、裏切らないものだったと、ぼくには思えました。それはすべて、ごちそうになったブランデーのように、充分に時間をかけて醸成されたもののみがもつこのましさをそなえていたともいえるでしょう。
 そのよさは、いかにあたらしものずきのぼくにも、わかりました。つまりそこには、ほんもの強さがあったということでしょう。ただ、かつてのベルリン・フィルはよかったけれど、今のベルリン・フィルも、また別の意味ですごいと思っているぼくが、山中さんのきかせてくださった音に心ひかれたとすれば、それはぼくにとってはなはだ危険なことということになります。ぼくはどうも、あいからわず、今の音楽を、今の音で追い求めたがっているようです。誤解のないように申しそえておきますが、この場合、今の音楽と申しても、現代音楽だけ意味しません。現代の演奏家による、たとえばベートーヴェンをも含めてのことです。
 その時つかっている装置によってきくレコードがかなり左右されると山中さんはおっしゃいましたが、そのお考えに、ぼくもまったく同感です。オーディオ機器のこわさは、こっちがつかっていると思っていたものに、結果としてつかわれてしまっていることがあるところにあると思います。ですからぼくは、正確には、今日きかせていただいた音を、山中さんの音というではなく、今の山中さんの音というべきなのかもしれません。
 今日は、耳をたのしませていただいただけでなく、きかせていただいた音や、うかがわせていただいたおはなしから、いろいろ勉強させていただきました。これまでぼくのオーディオについての考えの一部をあらため、さらにおしすすめることができたような気がいたします。その意味でも、お礼を申しあげなければなりません。
 お部屋で拝見した機器は、どれもこれも、文字通りの超一流品ばかりで、中には、はじめて目にしたものもすくなからずありました。一流品には、当然のことに、一流品ならではのよさがありますが、一流品ばかりがそろっている場所には、とかく、これみよがしな、ひどく嫌味な気配がついてまわるものですが、そうしたものがまったく感じられなかったのは、多分、山中さんが一流品だからということで集められたのではなく、それぞれの機器に充分にほれこんでお部屋にもちこまれ、しかもそれらを生きた状態でおいておかれるからだろうと、ぼくなりに了解いたしました。
 ただ、アンプにしろ、プレーヤーにしろ、機械というものを生きた状態でおいておかれるのは、さぞ大変な努力が必要でしょうね。アンプのパネル面など、すぐにタバコのやにでうすよごれてしまうのに、山中さんのところのアンプはどれもこれも、とてもきれいだっことが印象に残っております。今もなお、山中さんという音の美食家がきかせて下さった音のおいしさを思いだし、舌なめずりをしております。ありがとうございました。

一九七六年二月二日
黒田恭一

「瀬川氏の再生装置について」

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
特集・「オーディオ評論家──そのサウンドとサウンドロジィ」より

 瀬川氏のリスニングルームには、二組のスピーカーシステムがあり、それぞれヨーロッパとアメリカを代表する中型の業務用モニターシステムであるのが大変に興味深い。
 KEF LS5/1Aは、英国系の最近のモニタースピーカーの見せる傾向を知るうえでは典型的な存在である。エンクロージュアのプロポーションが、横幅にくらべて奥行きが深く、調整室で椅子に坐ったときに最適の聴取位置となるように、金属製のアンプ台を兼ねたスタンド上にセットしてある。このシステムをドライブする標準アンプは、ラドフォード製の管球タイプのパワーアンプで、アンプ側でスピーカーシステムの周波数特性を補整する方法が採用されている。
 ユニット構成は、38cmウーファーとセレッション系のトゥイーターを2本使用した変則2ウェイシステムで、一方のトゥイーターはネットワークで高域をカットし、中域だけ使用しているのが珍しい。38cmウーファーは、一般に中域だけを考えれば30cmウーファーに劣ると考えやすいが、KEFの場合には38cm型のほうが中域が優れているとの見解であるとのことだ。このシステムは比較的近い距離で聴くと、驚くほどのステレオフォニックな空間とシャープな定位感が得られる特徴があり、このシステムを選択したこと自体が、瀬川氏のオーディオのありかたを示すものと考えられる。
 JBLモデル4341は、簡単に考えればモデル4333に中低域ユニットを加えて、トールボーイ型エンクロージュアに収めたモニタースピーカーといえ、床に直接置いて最適のバランスと聴取位置が得られるシステムである。ユニット構成は、2405、2420ドライバーユニット+2307音響レンズ付ホーン、2121、2231Aの4ウェイで、中低域を受持つ2121は、ユニットとしては単売されてはいないが、コンシュマー用のウーファーLE10Aをベースとしてつくられた専用ユニットと思われる。
 かねてからJBLファンとして、JBLのユニットでシステムをつくる場合には、必然的に4ウェイ構成となるという見解をもつ瀬川氏にとっては、モデル4341の出現は当然の帰結であり、JBLとの考え方の一致を意味している。それかあらぬか、システムの使いこなしについては最先端をもって任ずる瀬川氏が、例外的にこのシステムの場合には、各ユニットのレベルコントロールは追込んでなく、メーカー指定のノーマル位置であるのには驚かされた。なお、取材時のスピーカーはこのモデル4341であった。
 アンプ系はスピーカーシステムにあわせて2系統が用意されている。1系統は、マークレビンソンLNP2コントロールアンプとパイオニアEXCLUSIVE M4、他の1系統は、LP初期からアンプを手がけておられる富田嘉和氏試作のソリッドステート・プリアンプとビクターJM−S7FETパワーアンプとのコンビである。プレーヤーシステムは、旧タイプのTSD15付EMT930stと、ラックスPD121にオーディオクラフトのオイルダンプがたトーンアームAC−300MCとEMT TSD15の組合せであり、テープデッキは、アンペックスのプロ用38cm・2トラックのエージー440コンソールタイプを愛用されている。

フォステクス GZ80, FP253, UP203Super, UP163, FE83New, FT60H, FT3RP, BK25, BK45, BK70, BK101, BK202

フォステクスのスピーカーシステムGZ80、スピーカーユニットFP253、UP203Super、UP163、FE83New、FT60H、FT3RP、エンクロージュアBK25、BK45、BK70、BK101、BK202の広告
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

GZ80

アイワ AD-7600

アイワのカセットデッキAD7600の広告
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

AD7600

マイクロ MD-7, MD-1000

マイクロのターンテーブルMD7、MD1000の広告
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

MD7

エクセル ES-70S typeII, ES-70SH typeII, ES-70E typeII, ES-70EX typeII, ES-70EX, ES-801

エクセルのカートリッジES-70S typeII、ES-70SH typeII、ES-70E typeII、ES-70EX typeII、ES-70EX、トーンアームES-801の広告
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

ES801

ソナス Blue Label, Red Label, Green Label, セシルワッツ DISC PREENER, DUST BUG, Hi-Fi PRASTAT MK4

ソナスのカートリッジBlue Label、Red Label、Green Label、セシルワッツのレコードクリーナーDISC PREENER、DUST BUG、Hi-Fi PRASTAT MK4の広告(輸入元:今井商事)
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

Watts

トリオ KT-7700, KT-5500

トリオのチューナーKT7700、KT5500の広告
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

KT7700

ダイナベクター OMC-38

ダイナベクターのカートリッジOMC38の広告
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

OMC38

テクニクス EPA-101L, EPA-102L, EPA-121L, PLUSARM-101T, PLUSARM-102T, PLUSARM-121T, EPC-205C-II, EPC-205C-IIL, EPC-205C-IIH, EPC-405C, EPC-440C

テクニクスのトーンアームEPA101L、EPA102L、EPA121L、PLUSARM101T、PLUSARM102T、PLUSARM121T、カートリッジEPC205C-II、EPC205C-IIL、EPC205C-IIH、EPC405C、EPC440Cの広告
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

Technics

ビクター TT-101

ビクターのターンテーブルTT101の広告
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

TT101

タンノイ Arden, Berkeley, Cheviot, Devon, Eaton

タンノイのスピーカーシステムArden、Berkeley、Cheviot、Devon、Eatonの広告(輸入元:ティアック)
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

Tannoy

オーディオクラフト AC-10E

オーディオクラフトのカートリッジAC10Eの広告
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

AC10E

ヤマハ YP-600

ヤマハのアナログプレーヤーYP600の広告
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

YP600

ダイヤトーン DS-251MKII, DS-261

ダイヤトーンのDS251MKII、DS261の広告
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

DS261

オットー SX-441/II

オットーのスピーカーシステムSX441/IIの広告
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

SX441II

ピカリング XUV/4500Q, OA3, ミルティ Pixall, ゼロスタット ZEROSTAT

ピカリングのカートリッジXUV/4500Q、ヘッドフォンOA3、ピクソールのレコードクリーナーPixall、ゼロスタットのレコードクリーナーZEROSTATの広告(輸入元:東志)
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

TOSY

ヤマハ YP-800

ヤマハのアナログプレーヤーYP800の広告
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

ヤマハ2

dbx 117, 119

dbxのエンハンサー117、119の広告(輸入元:エレクトリ)
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

dbx117

マランツ Model 3600, Model 250M

マランツのコントロールアンプModel 3600、パワーアンプModel 250Mの広告
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

マランツ

マクセル UD-XL

マクセルのカセットテープUD-XLの広告
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

マクセル

シュアー SHG-2

シュアーの針圧計SFG2の広告(輸入元:バルコム)
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

SFG2

テクニクス SL-1100, SL-1200, SL-1300, SL-1350, SL-1500, SL-55, SL-110, SL-120, SP-10MKII, SP-12

テクニクスのアナログプレーヤーSL1100、SL1200、SL1300、SL1350、SL1500、SL55、ターンテーブルSL110、SL120、SP10MKII、SP12の広告
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

SP10MKII

富士フィルム FX, FXJr, FXDuo

富士フィルムのカセットテープFX, FXJr, FXDuoの広告
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

フジ