エンパイア 2000E, 2000E/III, 4000D/I, 4000D/III, 2000Z

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 エンパイアは米国の電気音響部門中心の大規模な総合オーディオメーカーで、主力はスピーカーとプレーヤー・カートリッジなど変換機器を中心としたメーカーだ。カートリッジもMMではなくムービングアイアン方式の音質的にも技術的にも他社とは違った所に位置していて、サウンドの面から強いオリジナリティを持っている。つまり、どちらかというと、米国系の一般的大メーカーの平均的傾向でもある繊細だがデリケートな音とは違ってヨーロッパ系に似た力のこもった張りのある力強い弾力的な音が本来の姿勢であった。ところがこの数年来、力強さを押さえ、品の良さを表面に打出してシュアーと争ってきた。その最終的な製品が1000Zであった。一昨年から再び、かつての力強いサウンドが製品によみがえってきて、その意欲作4000の大成功がこれに自信を与えることになって、今年はすべて主力製品は4000を受けついだ2000Eを加えたニューラインアップだ。
 その音は、広帯域かつ、中低域から低域にかけて力強く、張りのある音だ。しかもハイエンドは十分に延びてスッキリしており、輝きも適度に持って明快なサウンドを特長としている。
 エンパイアの4000以後のもっとも大きな特長は針圧の許容範囲が、適正値を中心にプラス・マイナス100%ぐらいの大幅な点であろう。4000以前の軽針圧高級品1000Zでは、この点がとかくいわれて、ほんの少しでも重すぎると針先がもぐってカートリッジのボディの下を盤面でこすってしまうという初歩的なトラブルが多くあった。かといって時代の至上命令、軽針圧化のためにはカンチレバー支持をできるだけやわらかくしなければならず、この辺がエンパイアの新型全般の最大の利点をなしている。
 2000Eは、もっともポピュラーなタイプで昔からのエンパイアの伝統的路線でもあるメリハリの効いた明快なサウンドを持つ。聴感上、レンジは広くないが、歌などの間近な再現性、楽器のパンチあるサウンド。誰にも使いやすく気軽に音を楽しめるカートリッジである。その上、音場の拡がりは十分でないがステレオ音像の明確な定位もすばらしい。
 2000E/IIIは、2000とはまったく違って、これは4000D/IIIの普及型といった方が近いだろう。レンジは、4000ほどではないにしろ、すばらしく広帯域かつ、その高域は決して薄くなく輝きがあり、中域の充実感と低域のよく延びた量感とバランスよい再生ぶりだ。やや中域での力強さが控え目で歌などでそれを良く感じられる。
 4000D/IIIは、価格からは他社のトップクラスに相当するわけで価格からすればこれは良くても当り前ということになる。だがそれにしてもエンパイア、シュアーやADCとはまったく違った路線から推めて、極点に達すると、他社の最高価格品と結果的に同じ方向へひたはしり、ということになるのだろう。だから4000は低音感にパンチがあり、力強さを音の芯に持っているという点以外は、米国他社一流品と似ているといえよう。4000D/IIIはこうした僅かの差がもっとはっきりした形で感じられ、ステレオ音像のすばらしい確かさが違いとなっていることが特長だ。むろん高価だがこの差は数字として性能的、技術的な差なのだ。
 2000Zは1000Zの改良型でこれのみが広帯域型で、かなり控え目な細身のサウンドで、針圧のクリティカルな点も旧シリーズ直系だ。

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