ラックス SQ507X

菅野沖彦

スイングジャーナル 4月号(1972年3月発行)
「SJ選定ベスト・バイ・ステレオ」より

 アンプというものは、あらゆる音響機器の中で最もその動作が理論的に解説されていて、しかも、その理論通りとまではいかなくても、それに近い設計生産の可能なものだと考えられている。それはたしかに、電気信号増幅器としてはその通りだろうし、アンプに入ってくる信号は音楽の情報が電気エネルギーに変換された信号であるから電気信号の伝送、増幅という次元で問題を考えることに問題はないし、またそうするより他に現在のところでは方法はないのである。
 アンプはその出口に測定器がつながれるのは研究所内のことだけで、オーディオ機器としてのアンプは、必ずスピーカーがつながれる。いかなるアンプといえども、その動作はスピーカーの音としてしか判断されないのである。そのスピーカーというのが、アンプとちがってオーディオ機器の中で、もっとも解析のおくれているもので、その基本的な構造はスピーカーの歴史開闢以来ほとんど変っていないというのだから皮肉といえば皮肉な話しではないか。現代科学の諸分野の中でも特に著しい進歩の花形といってよいエレクトロニクスの領域にあるアンプリファイヤーと、かなり素朴な機械的動作をもった変換器であるスピーカーとのくされ線はいつまで続くのか知れないが、とにかくアンプはスピーカーを鳴らすためにある。したがって、エレクトロニクス技術の粋をこらしたアンプは、これから、その技術の高い水準を、スピーカーというものとのより密接な結びつきにおいて検討され尽されねばならないという考え方もあると思う。もちろん、このことも、識者の間ではよく話題になることなのだが、現実はアンプとスピーカーはバラバラに開発されている。どこかで、本当にスピーカーという不安定な動特性をもった変換器、あるいは、スピーカーという音をもった音声器?の標準(もちろんそのメーカーなりの考え方と感覚で決めたらいい)に対してトータルでもっとも有効に働くアンプを作ってみてくれないだろうか? つまり、そのスピーカーは他のいかなるアンプをつなぐより、そのアンプで鳴らしたほうがよいという実証をしてくれないだろうか。さもなければ、いつまでたっても、アンプとスピーカーの相性というものが存在しながら、それが一向に明確にならない。
 このラックスのSQ507Xほど多くのスピーカーをよく鳴らしてくれるアンプも少ないというのが私のここ数ヶ月の試用実感なのである。昨年来いろいろなスピーカーをいろいろなアンプで鳴らす機会を多くもって感じた体験的な実感なのである。もう少し具体的にいうならば、あるスピーカーをいくつかのアンプで鳴らして、多くの場合、一番よいと感じたのが、このアンプで駆動した時であった。しかし、スピーカーによっては必らずしもそうでないという例外があったことも事実で、これが私をしてこんなやっかいなことをいわしめる理由でもある。そして、このアンプは、かなり高級な大型システムを鳴らした時に充分その実力が発揮される。アルテックA7をはじめ、JBLのL101、タンノイのヨークなどでよくそのスピーカーの持味を生かしながら、いずれの場合も、明解な音像の輪郭と透明な質感が心地よく好感のもてるアンプだった。同社のSQ505Xのパワー・アップ・バージョンであり、パネル・フェイスやコントローラーのレイアウトもよく練られていて感触もよい。最新の3段直結回路のイクォライザー・アンプによるプリ部と、これまた全段直結OCLのピュア・コンというパワー部の構成は、現在の高級アンプとしては珍らしくないかもしれないが、この音とパワーがなによりも、このアンプの高性能を実際に感じさせてくれる。入力のDレンジに余裕があって、かなりホットなジャズのソースにも安定している。実際にかなりの価格なアンプの中にもレコードからの入力信号でクリッピングが感じられるのも実在するのだから安心できない。残留ノイズも非常に少いしON、OFF時のいやなショックもない。欲をいうと、この製品、SQ505以来の意匠で嫌味のないすっきりした点は評価するが、決して魅力があるデザインや質感とはいい難い。音に見合った量感と風格が滲みでるような魅力が欲しいと思うのは私だけだろうか。

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