ヤマハ NS-470

菅野沖彦

スイングジャーナル 7月号(1974年6月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 ヤマハのスピーカー・システムとして最新型のNS470を聴いた。新しいNSシリーズのスピーカー・システムは、NS650、NS690を頂点としていずれも、まともな音を再生するスピーカーという印象で好きなものだが、(事実、まともな音を再生するスピーカーがいかに少いかというのが実感だから……)、今度のNS470という、いわば普及価格のシステムも一口にいって、バランスのよい、音楽本来の姿を再現してくれるシステムであった。やはり、さすがに楽器作りの長年のキャリアを待ったヤマハらしい体質が感じられる。このシステムは、NS690などで使われているものと同系の振動材を使ったソフト・ドーム・ツイーターを新開発のコーン使用の25cm口径ウーハーと組み合わせた2ウェイであって、クロスオーバーは2kHz、エンクロージャーは密閉型のアコースティック・サスペンション式、ブックシェルフ・システムである。300×577×275・5(mm)というサイズは、ブックシェルフらしいプロポーションで、比較的重い13・5kgという重量だが、これなら、たしかに棚へ乗せて使う事が出来そうだ。あまりにも大きく、重いブックシェルフ・システムが多いので、このシステムぐらいの大ききのものをみるとほっとするのである。正面グリルはオレンジとグリ−ン系の2種が用意され、好みで選択出来るが、モダーンなカラー・タッチは若い層に喜ばれるだろう。エンクロージャーの仕上げはきわめて高く、木工の得意なヤマハらしい美しい仕上げである。ただし、表面木目の仕上げ材はツキ板でなく木目プリントのビニール材である。つまり偽物である。コストからして、こうせざるを得ないのかもしれないが、私個人の気特を率直に述べれば、趣味の世界に偽物が入りこんで来るのは不快である。もし、木が使えないならば、ビニールらしい仕上げでカラフルにする事を考えたほうがまともではないか。わざわざ木目プリントをしてまでも木にみせようという根性のデコラやビニールや紙を見ると、いじましくて嫌になる。デコラやビニールそのものを否定しているのではなく、無理に木に見せようとする態度が嫌なのである。このスピーカーの性能や音質は、明らかに、コンポーネント・システムとしての品位の高さを持っていると思うので、それだけに、この仕上げにはどうしても不満なのである。あまりにも巧みに張ってあるので初めは解らなかったが、解った途端に音まで悪く聞えてしまった。こんなことはどうでもいいという人には音だけについて語らねばなるまいが、音は本物である。ステレオフォニックなプレゼンスの豊かさ、音場の奥行の再現、モノフォニックな音像の定位の明解さと、楽音のリアリティに満ちたタッチの鮮やかさは、このクラスのスピーカーとしては高い讚辞を呈したい。小型ながら、かなりの音圧レベルも再現し、ジャズのパルシヴな波形にも頼りなさがない。弦楽器やピアノの倍音のデリカシーもよく出るし、小音量での音のぼけや鈍い濁りもない。ドーム・ツイーターは能率をあまりかせげないので、ウーハ一に対してのレベルのノーマル・ポジションはほぼマキシマムに近いが、ウーハーの中高域が軽く明るいので、部屋の特性か低域上昇タイプでも重く暗くなることがない。32、000円という価格は、NS650と比較してやや割高という感じもするが、実際には値上げをしていないNS650が割安だという評価が妥当だと思う。上手に組み合わせれば、10万円台でトータル・コンポーネントとして組み上げる可能性をもったシステムで、これだけバランスのよい、音質も美しく、しっかりしたスピーカー・システムは決して多くないと思う。ジャズを大音量で聞くというケースでは、さすがに低域の敏感と力強さには物足りなさも残るけれど、全体のバランスを考えれば、これは我慢するべきといえるだろう。スピーカー・システムというものは、必らず、どこかを重視すればどこかが犠牲になるという宿命をもっている。ましてや、ある範囲でコストを限定すれば、これはしかたのないことなのである。総合的に見て、このNS470いう新製品はヴァリュー・フォー・プライス、つまり、買って損のない価値をもった快作といえると思う。最近好調なヤマハのオーディオ製品への力がよく発揮されたシステムである。

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