クライスラー CE-6a

菅野沖彦

スイングジャーナル 11月号(1970年10月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より

 クライスラーのCE6aというスピーカーは明らかに用途を限定したスピーカー・システムのようである。つまり、これから普及しそうな4チャンネル再生システムの2−2方式のリアー・チャンネル用として、あるいは、サヴ・スピーカー・システムとしてリヴィング・ルームか寝室にという目的を意図した設計ポリシーであろう。奥行の浅い正方形バッフルを持ったプロポーションから、それは一目瞭然である。使用ユニットや構成は同社の傑作といってよいCE5a系と全く同一で20cmウーハー、12cmスコーカー、ホーン・トゥイーターの3ウェイである。もちろん、すべてのCEシリーズに共通のアコースティック・サスペンション方式で、f0の低いQの小さなフリー・エッジのハイ・コンプライアンス・ウーハーをベースにした完全密閉型となっている。ネットワークのクロスオーバー周波数がCE5aと異なるかどうかは不明だが、その再生音はややちがう。しかし私の個人的好みからいくと、この6aの音のほうが中低域の明瞭度があって好ましいように感じられた。CE5aのほうが豊かだとする人もいるし、事実、低域の再生キャラクターは、あのほうが分厚く豊かだ。しかし、6aの低域のほうが中域へのかぶりが少ない感じですっきりと音階を分離する。それでいて、低音域の量感も決して不十分な感じはなく、むしろ、あの容積のフラットなエンクロージュアから、これほどの量感豊かな低域が再生されることに驚くほどである。能率もけっして高いほうではないが、市版のアンプがハイ・パワー化の傾向にある現状では全く問題なく、パワー・ハンドリングにもゆとりがあって、相当な入力にも耐えて、大音量でジャズを満喫することができる。冒頭に書いた、サブ・スピーカー、あるいは、リアー・チャンネル用ということにこだわらずに、メイン・システムとして十分通用する実力をもったものと思う。小型システムを大型の代用品とか間に合わせのように考える人がいるが、それに賛成できない。狭い部屋には小型システムというのは一応常識的ではあるが、かといって、オーディオに熱心ならば、それに趣味として打込んでいれば、たとえ寝るスペースがスピーカーに占領されても、本人さえよければ大型システムを入れるのがよい。しかし、それにも限度があって、入らなければ仕方がない。また、部屋の中でスピーカーが目立つのを好まなかったり、小型のほうが趣味に合うという人だっている。小型システムは決して大型の代用品ではなく、要望に応じて独立存在価値をもつものだ。しかも、大型とは異なった設計理論と、製造面の相違から、小型には小型特有のメリットが音の上にもある。小型システムでも残念ながら、大型の代用としての能力しか持たないものもあるが、そうしたものは私たちのオーディオの世界に無関係であって、それは趣味の音響機器としてではなく、実用品として存在すればよいのである。話しが少々脱線したけれど、このクライスラーのCE6aは5a型と共に、小型システムの最高級品といってよい内容と、製品としての完成度をもった好ましいものだ。今さらいうまでもないが、好き嫌いは別として、同社のシステムに共通のバッフルの美しい仕上げ、紗を使ったフロント・フィニッシュなどには商品作りの誠意が滲みでている。これを商魂といっては誤りで、趣味の対象である嗜好品には、このように製作者の作品に対する愛情が現れるべきだ。仕上げのよさとはそういうもので、売らんかなという発想からでた表面だけのつくろいはすぐばれる。このサイズを形状を好まれる人は是非聴いてみるべきシステムで、きっと満足されると思う。

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