サンスイ AU-9500

岩崎千明

スイングジャーナル 2月号(1973年2月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 サンスイがこのところコンポーネントに示す熱っばいまでの意気込みは、すざまじいという言葉で表されるほどの迫力を感じさせる。そうとるのは、決して私一人だけではあるまい。
 つい先々月、このSJ選定品としてAU7500が登場したばかりだというのに、今月再びSJ選定品として目白押しの新製品の中から、再びサンスイのアンプが紹介されることになった。AU9500である。
 この新製品、ごらんの通り風格も堂々たる貫禄であるし、価格もまた、10万を軽く越すという、最近のデラックス志向の強いステレオ・パーツの中にあっても、ひときわ目立つ超豪華型だ。
 まさに国産アリメイン・アンプ中の最高レベルを狙ったとみられる新製品なのだ。
「実はさきにAU7500のときに同時に発表すべきだったのですがこれだけの高級機になりますと、社内でもいろいろな形で検討を加えられ例えば発表時期もSP707Jと同時発表という形をとることになったわけです」とメーカー側のいいわけ。
 JBLの38センチ・フルレンジのD130をユニットとしたバックロードホーンのエンクロージュアに収めた新製品がSP707J。この国産随一を狙った豪華スピーカー・システムと同時にデビューさせたことは、このコンビで、ライバルを一挙に圧倒し去ろうという、いかにも専門メーか−らしい冴えをみせた憎いテクニックとみた。
 AU9500のうわさは、しかし、すでに7500発表当時からささやかれていた。それが現実となって、眼のあたりに接してみるとき、かつて、その昔、山水がAU111を市場にデビューした当時のことを思わずにはいられない。
 AU111は、旧いオーディオ・マニアなら、その存在は、アンプの最終目標として長く君臨していたことを知ろう。6L6GCのプッシュプルを最終段とした45/45ワットという当時の最強力管球プリ・メイン・アンプであった。
 ハイパワーなるが故の大型出力トランスを2個に加え、その電源をまかなうべき馬鹿でかいパワー・トランスは巨大なる図体を余儀なくし、家庭用アンプというにはほど違いヘビー・ウエイトぶりは、脚に金属椅子と同じキャスターを取りつけるさわぎで、しかも、わずかな移動も、これに頼らざるを得ないという、万事常識はずれの強力型重量級アンプであった。
 家庭用として、45ワットはおろか100ワットさえ登場する今日、その中にあっても今日の新製品AU9500の大きさと重量は、やはり特筆に催するほどだ。
 これというのも、今日のサンスイのアンプが、すべて、カタログ表示であるフル・パワーを20〜20Kヘルツという音声帯域内全帯にわたって、保証するという、ぜいたくさから、きている。しかも、この規格値は、なんと驚くべきことに、ひずみ0・1%においての値なのである。
 歪0・1%という値は、かつて英国リークのアンプの表カンバンだった。しかし、実際には、0・1%歪は、1000ヘルツにおいての場合でのみだ。音声帯域全帯に対するものではない。
 マッキントッシュのアンプさえもこの全音声帯域内での歪率に対しては、0.3%を示すに過ぎない。
 しかし、山水のアンプでは、この0・1%歪をギャランティーしようという。まさに、おどろきの他ない。
 これを実現するためにはパーツを選び最新の回路技術に加え、今まで見過されていた多くの部分を再開発しなければならなかったという。かつて、303シリーズで、0・3%歪を実現したサンスイは、0・1%歪に挑んでコンポーネントの製品化を実現したのである。
 いうはやすく、実現至難な0・1%歪。現実の市販品でこのクラスのカタログ・データは、少ないわけではないが市販製品をチェックすれば、カタログとは足もとにも及ばぬのが普通だ。サンスイの堅実な努力は、しかし着々と成果を上げているのである。
 JBLにコンシューマー用アンプのなくなった現在、このサンスイ・ブランドの高級アンプ群は、JBLシステムを鳴らすにはかけがえのない存在となるわけだが、それに応えるかのようにAU9500のサウンドは、かつての名器、SA660と相通ずるものを感じさせる。低域の底知れぬ力強い迫力がそれだし、中高域のこの上ない充実したサウンドは、JBLアンプのそれに一段と透明度を加えたともいいたい。
 JBLファンにとってこのアンプの出現は限りない信頼感を加えた大きな標的ともなるに違いない。

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