サンスイ AU-999

岩崎千明

スイングジャーナル 5月号(1970年4月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 サンスイから、やっと待望の大出力アンプAU999が発表された。
 やっと、というこの言葉をもっとも痛切に感じているのは、このアンプの常用者になり買い手となるべきマニアの側ではなくして、おそらくサンスイというメーカー自身ではないだろうか。
 サンスイがブラック・フェイスという独特のメカニカルなデザインを打ち出したトランジスタ・アンプのPBシリーズ、AU777を頂点として爆発的なベストセラーを続けたのは、今を去る3年前であった。このAU777の売れ行きは、まさに伝説として残るほど驚異的であり絶対的であった。高級マニアにトランジスタ・アンプの良さを納得させ、トランジスタ・アンプの愛用者を確実に個定化したのもこのサンスイAU777の大きな業績といえるだろう。それまでは、トランジスタ・アンプは音が良いという以外の何かの理由で使用するだけであったのである。
 AU777の驚くべき人気に刺激されたトリオ、さらにパイオニアなどのステレオ専門メーカーが、このAU777の後を続けとばかり、ぞくぞくと一連の製品を充実させて今日のトランジスタ・アンプ全盛期を迎えている。今では、特にことわらなければ、アンプといえば、トランジスタであるのが常識である。それは、そのままトランジスタ・アンプの性能の向上と現在の優秀性を物語るのである。そして、市場のアンプの充実が著しい最近の情況下に於いては、定評のあったAU777も多くのライバル製品にその地位をおびやかされる現状である。AU777は中音コントロールを加えAU777Dとして諸性能を充実させたが、ライバルメーカーのより大型のアンプ群を相手に、ベストセラーの伝統に輝くサンスイ・PBシリーズの象徴製品たるには物足りなくなって来たのは事実である。それをもっとも強く感じていたのが、かつての栄光を意識するサンスイと言うメーカー自身であって何の不思議があろうか。
 その山水が逐に他を圧する本格的大出力アンプを出したのである。
 AU999は単に大出力というだけでなく、PBシリーズの最高級、いやそれ以上に「象徴」たるにふさわしい幾多の「内容」に充たされている。
 その最大のポイントは、なんといっても全段直結パワー・アンプという点であろう。最近の高級トランジスタ・アンプのひとつの流行がこの全段直結である。JBLのアンプSE400の改良型によって初めて採り入れられたこの回路方式は、トランジスタ回路によってのみ実現の可能な、いいかえれば、トランジスタにふさわしい回路方式であり、これは初めカウンター回路のために開発された直流増幅器であった。高速カウンター回路への発達が、そのままオーディオ用としてもっとも理想的な回路方式を創ることになったとしても、少しも不思議ではなく、トランジスタとその回路の発展として考えればごく当然な結論であった。ハイ・ファイ用として終局的に理想とされるのがこの全段直結であり、これを製品化したのがJBLであった。さらにサンスイがJBLの日本総代理店を兼ねていることから、サンスイのアンプにJBLの息のかかった全段直結が応用されるのもまた当然であり、サンスイならそれが最良の状態で活きてくることも想像できる。
 サンスイとJBLの結合はすでにスピーカー・システムにおいても見られるが、アンプにもこの優れた成果が遂に通せられたと見るべきであろう。
 このことはAU999の音質を聞けばだれしもが納得するのではないだろうか。力強く、あくまでも豊かな低音、輝かしい中高音、そして冴えわたる高音のひびき。JBLのアンプとの違いはより充実し厚みと力を増した中音域に
あろう。それはテナーのソロを聞くときに強く意識させられ、中音コントロールをも備えるAU999にとって大きなメリットとなろう。
 AU999のもうひとつのポイントは2台のデッキにより、テープからープの録音再生が容易な点であり、これは今日のテープ隆盛期においてのマニアには大きな魅力といえよう。
 全段直結と名を冠した各社の高級アンプの中でも本命とみられるこの50/50Wの大出力のアンプが85、000円と割安なのもファンにとってはかけがえのない製品といえるだろう。

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