マイクロ MC-4100

菅野沖彦

スイングジャーナル 3月号(1970年2月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 マイクロ精機の新製品カートリッジ、MC4100を聴いた。マイクロ精機はディスク・レコード再生パーツの専門メーカーとしてお馴染みのメーカーであるが、その製品の一つ一つにはアイデアの生かされたユニークな特長をもったものばかりである。カートリッジ、トーン・アーム、ターンテーブルそしてアクセサリー・パーツの数々は既に市場で大きなシェアを占めている。私もマイクロの製品にはいろいろ接してきたが、このメーカーの誠実さ、熱意が生きた製品ながら、もう一つ注文があって、全面的にほれこんだものがなかったのである。特にカートリッジは今や専門メーカーとしての地位を完全に確立した同社だが、本誌の選定新製品としてとりあげられたのは、このMC4100が初めてではないかと思う。このカートリッジは、一聴して、きわめてすっきりとしたシェイプの音像が印象的で、再生音のヴェールを一枚はいだような明解さであった。これは広く読者に御紹介すべき製品だと思う。
 再生装置を構成するユニットやパーツはいずれもそうなのだが、このカートリッジほど嗜好品的性格の強いものもあるまい、本来、ディスク・レコードに刻まれた波形を忠実になぞって拾いあげ、これを歪ませることなく電気エネルギーに変換するというドライな働きをすべきハード・ウェアなのだが、いろいろな変換原理、構造のちがい、材質の差などが、それぞれ個性的な設計思想や製造技術を生み出した。そこへもってきて、その動作を完全に定量的に把握して客観的なデータとして示し得ないという問題もからんで、製品による音質、音色の個性が、レコードとの相性、使用者の好みとからみ合い現在のような商品性をつくり上げたといってよかろう。しかし、技術は着実に進歩しているし、理論解新はほぼ完全なまでに進み、優れたカートリッジの具備すべき条件はかなりの程度明白になっていることも事実である。その証しに、現在の市販カートリッジを何種頬も比べてみると、その音質の差は、一時からみればずっと少くなっているのである。
 このような状況下で新しく売り出される製品にはそれなりにメリットがなくてはならないが、このMC4100はMC型としては価格が低廉なこと、しかも高級MC型として十分な特性と品位の高い音質を再生してくれる点、まずは新製品として立派な価値をもつものと思う。MC4100はマイクロらしいユニークな独創性をいくつももっているカートリッジだが、振動系をそっくり交換してしまうという交換方式がまず大きなポイントだろう。これは同社のMC4000において採用された方式だが、この製品では、さらに扱いやすくなっている。出力端子とシェルの結線はそのままで、可動コイルごと針先を交換できるのである。独特なニードル・プロテクターも簡便で確実だ。黒を基調としたデザインも好ましく、シャープな音質にふさわしいスタイリングだ。
 試聴にはずい分いろいろなレコードを使ったけれど、このカートリッジの高音域の切れ味、繊細さは抜群で、シンバルやハイ・ハットのハーモニックスがきわめて鮮やかに再現される。欲をいえば、ガッツのある太く野性的なサウンドの再生が、ちょっびり品がよくなりすぎるということなのだが、それは欲張りすぎるかもしれない。これが音響機器の難しいところであることは度々述べた通りで、この爽やかな高音域は得難い特質である。低音ののびもよく、素直に透明にベース・ラインを再現する。指定針圧は1・5gで、0・5〜2・5gというラチュードで表示されているが、トレースは安定で、オーバー・カット気味のパルシヴなソースもよくカヴァーするし、ダンピングもよくノイズは少いほう。出力電圧は0・1mVで3Ωの出力インピータンスであるから、普通のフォノ入力にはトランスかヘッド・アンプを介す必要がある。同時に売り出されるMTA41というヘッド・アンプを使うのが本節だが、他のトランスやヘッド・アンプでも、それなりに使えることは勿論である。このヘッド・アンプは2個のバッテリーを収納できるが1個はスペアーで、外部スイッチの切換で任意の電源を選べるから、電池の滅りも簡単に確認できるし、安全である。このアイデアもいかにもマイクロらしいキメの細かさであった。

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