岩崎千明
スイングジャーナル 5月号(1969年4月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
ティアックが最初にスピーカー・システムを発表したのはもう一年も前であった。かなり好評をもってむかえられたこの大型ブックシェルフ型スピーカーの音に、初めて接したとき、私はそれほど感じなかったがまた同時にテープレコーダー・メーカーとしてトップ・クォリティをうたわれるティアックの音に対する独特なポリシーないしは立場のむつかしさというものの一面をかい間みた思いがした。テープレコーダーというものはレコードと一律にして判断でき得ないきわめて優れた再生品位を持っている。これはまぎれもない事実である。そして、これと表裏一体のマイナスの面も無視はできないこのマイナス面にはヒスを主体とするSNがあり、あるいは位相の問題もあろう。このマイナス面を意識しすぎた音作りが最初のスピーカー・システムの音にあったといえるのである。
具体的にいうならば声や歌が生々しいプレゼンスを持っているのにかかわらず器楽曲における類をみない独得の音色的バランスである。ヒスに対しての心使いから生れたのであろうが、少し高域が足りないようである。
TEACというブランドの知名度は、日本においてよりも米国マニアの間での方がより高い。それもずっと以前、ステレオ初期から、超高級テープレコーダー・コンサートン・ブランドのメーカーということで伝説的でさえあった。
そして、このトップ・レベルののれんがスピーカー・システムという音作り一本の商品に気おいこみすぎた結果といえそうだ。さてこのところテープレコーダーのティアックがマニアの間でますます地盤を固めてきた結果プレイヤー、アンプなど商品の範囲を広げるのは当然である。プレイヤーはマグネフロートを吸収してティアック独特の精密仕上げにより性能を一新した傑作であり、また当初海外向けに出されたアンプはとかく、ユニークな設計と企画のインテグレイト・タイプAS200は、これまた高品位の再生に期待通りの真価を発揮する優秀製品である。JBLのアンプを思わせるAS200の出現は、引き続きティアックが本格的なスピーカー・システムにも力を入れてくることを予想させた。
今回発表された新型システムLS360は、まぎれもなく「ティアック」ブランドにふさわしいスピーカー・システムということができる。
30cmウーハーを使用した3ウェイという常識的な構成をうんぬんすることは、ここでは必要ないだろう。注目したいのは、単にハイ・ファイ・テープレコーダー・メーカーというせまい立場で、この音は企画され設計されたのではないといえる点だ。AS200の回路構成にみられるコンピュータ技術に立脚した回路、たとえば差動アンプ回路やその安定性、またこのハイ・レベルの音から知ることのできるハイ・ファイ的センス、これは単にテープレコーダーの高級品メカニズムだけを作っていた頃のティアックのものではない。
ハイ・ファイ総合メーカーに大きく飛躍していこうという姿勢から生み出された音作りを新型スピーカーにも見出すことができるのである。
きわめてクリアーな歪の少なさを感じさせる中音。かつてのシステムから一段とレベル・アップしたすぐれたバランスの上に成り立っている音は分解能力の点でもずばぬけ、手元にあったヴォルテックス・レーベルの前衛派の数枚は、定位よくマッシヴに再現され、ひときわ鮮烈さを増したことを伝えよう。中音域に起因すると思われるいま少しのブラスの輝きがほしいが、このスケールの大きな音がこの価格で得られるというのもティアックならではのことだ。
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