菅野沖彦
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より
マッキントッシュのパワーアンプなどとは異なった価値観で評価しなければ、このアンプの魅力を理解するのは難しい。パワーアンプというベーシックなコンポーネントですら、こういう異なった性格の機器が存在するところがオーディオの世界の複雑さであり、面白さであろう。ゴールドムンドというメーカーは、フランス人の経営者がプロデュースするスイスの企業である。時計の世界でいうならばカルティエやフィリップ・シャリオール、あるいはパリのショーメ傘下のブレゲの存在に似ているかもしれない。ゴールドムンドやステラヴォックスというメーカーは、そういう国際的な企業である。とにかく、ヨーロッパのムードを色濃くもつ製品で、そのサウンドにも独特な味わいがあって情感豊かな魅力がある。
このメーカーの思想はアンプを小さく組んでも、筐体は大きく振動対策を追求してメカニカル・グラウンディング構造と呼ぶ思想を徹底させるところに特徴があって、この点でも中味がぎっしりつまった鉄の塊のようなアンプとは異なるのである。こういう異なった思想によって作られると、必然的に音も異なった性格を持つものであることは当然なのだが、それが独特な個性として一家を成すところが興味深い。
大らかで明るく、かつ重厚なアメリカ製アンプ、緻密で静的な美しさを凡帳面に聴かせる日本製アンプに対し、陰影に富んで粘りのある質感を感じさせるこのアンプの個性はヨーロッパ的というべきか、ラテン的というべきか? 他のアンプでは味わえない独特な世界が聴けるのである。
外観もごくシンプルでパネルの仕上げだけで見せるもの。洗練されているともいえるし、少々物足りなさとして感じられなくもない。
ステレオ・ペアで370万円という価格も、スイスメイドらしい付加価値が感じられる値付けだが、これをどう感じるかはユーザーによって違うはずだ。この音はこのアンプでしか得られないのだから。
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