アルテック Crescendo (605B)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 筆太の力強いタッチで朗々と鳴り響く味の濃い音質は、明らかにアルテックの個性である。中音域を最も重視してこの音域に厚みを持たせ、高域にしっかりと芯を一本通しながらなだらかに落し込んでゆく作り方は、現代の尺度からみればもはや旧式の特性には違いないが、そこに線の太い安定感が生じ、やはり名器のひとつと納得させるだけの、密度の濃い音で説得する力を持っている。能率のきわめて良い点も重要な長所だ。エンクロージュアの大きいことも手伝って、こせこせしない悠々たる鳴り方はブックシェルフや小型スピーカーには望めない。反面、弦の倍音のあの魅惑的な表情や、ヴァイオリンの独奏の鮮鋭かつ繊細な表情の出にくいという面ひとつとっても、やはりこれは古いスピーカーなのだという感想は否めない。左右にひろげて設置しても、オーケストラが中央に固まる傾向があり、ワイドレンジ型の爽やかな広がりを聴いた耳にはどうにも不満が残る。蛇足ながらエンクロージュアはオリジナルの620Aを奨めたい。

採点:85点

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