トリオ L-07C II

瀬川冬樹

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
特集・「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より

 こんにちの精度の高い各種の測定器及びそれを駆使しての測定技術の範囲内で、特性を良くするというだけではもはや現代のアンプを作るには不充分だということは、第一線のエンジニアの等しく認めるところだ。測定技術ではもはや追うことのできなくなったところから先で、回路構成や部品の配置やパーツ自体を変更して、聴いてみると明らかに音が違ってきこえる。耳ではその違いが聴き分けられるのに、測定器ではその差が掴めない。アンプの入力端子から出力端子までの何十、何百という箇所で、どこひとつ変えても、その差はきわめて微妙であるにしろ音が変る。どちらがよいのか測定データには出てこないのだから、もはや客観的にきめる方法はない。
 日本の凝り性のマニアだけがこんなことを言っているわけでは決してない。たとえばマーク・レビンソンも、彼のプリアンプは測定で差の掴めなくなってからあと、約二年以上は聴感を頼りに音質に磨きをかけて市場に送り出した、と言っている。しかもなおその後も、彼は着々と小改良を怠らない。
 そういうプロセスを終るのだから、アンプの音の仕上げには、その音を判定するヒアリングテスターのセンスが反映される。しかしまた、聴いた結果さらにこういう方向に音質を向上させたいという要求、回路技術で正しく応えられなくては、良いアンプは生み出せない。感覚と技術の絶妙にバランスしたポイントでこそ、優れたアンプが生み出される。
 トリオというメーカーが、そうした意味でほんとうに聴感と技術のバランスポイントを探りあてたのは、プリメインアンプのKA7300D以後だと私は思う。それ以前のKA9300にすでにその芽生えはあったが、まだ完成の域に達していない。やはり7300D以後、真の意味で音楽を愛好する人々の心をとらえる音で鳴りはじめたといってよいだろう。
 セパレートタイプでは、L05Mからようやく、KA7300Dの延長線上にあるナイーヴでバランスがよく、音楽の表情をとても生き生きと聴き手に伝える音が鳴りはじめた。05M以前に作られた07シリーズの改良が強く望まれた。
 しかし07シリーズは、音質ばかりでなくデザイン、ことにコントロールアンプのそれが、どうにも野暮で薄汚かった。音質ばかりでなく、と書いたがその音質の方は、デザインにくらべてはるかに良かったし、そのために私個人も多くの愛好家に奨めたくらいだが、ユーザーの答えは、いくら音が良くてもあの顔じゃねえ……ときまっていた。そのことを本誌にも書いたのがトリオのある重役の目にとまって、音質について褒めてくれたのは嬉しいが、デザインのことをああもくそみそに露骨に書かれては、あなたを殴りたいほど口惜しいよ。それほどあのデザインはひどいか、と問いつめられた。私は、ひどいと思う、と答えた。
 その07シリーズがマークIIに改良された。パワーアンプの外観の印象は変らないが、コントロールアンプは、ツマミなど基本の配置は大幅に変っていないのに、イメージは大幅に一新されたと思う。まだ満点とはゆかないが、これなら、レコード愛好家も手もとに置く気に十分になれることだろう。
 音質については、この価格帯では一頭地を抜いて、音の量感や力強さと、繊細でナイーヴな印象とが巧みにバランスしていて、何よりも音楽を生き生きと蘇らせる点が素晴らしい。なお、今回の選定では惜しくも入賞を逸したが、パワーアンプ07M/IIも、むしろ07C/IIを上廻る出来栄えだと私個人は信じている。
 07C、07Mとも、鳴らしはじめて時間のたつにつれて、いっそう滑らかな音に仕上ってくる点は、SAEなどによく似ている。

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