早瀬文雄
ステレオサウンド 96号(1990年9月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より
アカペラ・ミュージック・アーツ社は、1976年西独でデビューして以来、ヨーロッパのハイエンドオーディオ・シーンで、着実にその地盤を固めつつあるメーカーだ。ドイツ製のスピーカーといえば、なんといってもシーメンス・オイロダインを筆頭にがっしりとした立体感を持った堅牢、重厚な響きが思い出される。しかしアカペラの製品は、先に紹介されたフィデリオ同様、現代的な透明感やワイドレンジ感を備えた、これまでのドイツ製品にはない繊細感を備えている点が興味深い。
実物を見ると、まずその大きさに驚かされる。(W41×H130×D50cm)。高さ130cmというと、目の前に置くと結構圧迫感があるものだ。まあ、そういう感じがしないほど、広い部屋で鳴らすべきものなのかもしれない。
しかし、音には圧迫感なんて全然なく、すっきりとした、どちらかといえば硬質な響きで、まじめで潔癖な印象を抱かせるものだった。
音像は引き締って存在感がしっかりしており、蜃気楼的に漂う音の対極に位置する。しかし、トールボーイ型のメリットなのか音場の見通しはクールな爽快感を伴うほどで、特に天井がすっと抜けたような、縦方向の広がり感の演出には、ちょっとしたやり手ぶりを覗かせる。
低域ユニットは正面から見える17cm口径のウーファーの他に、30cm口径のサブウーファーがエンクロージュアの天板に上を向けて取りつけてあり、エンクロージュア内の音響迷路(折り曲げホーンのようなものだが、ホーンのように開口面積が徐々に大きくはならない)を持つラビリンス方式を採用している。ベントは正面からは見えないが、エンクロージャーの下部に開口している。
このサブウーファーによって、オーケストラのうねるような低音や電子楽器の持続音などを重みのあるどっしりとした響きでうまく聴かせる。しかし、ウッドベースのキレはやや甘く、時に箱の響きが気になることもあった。
ただ、響きそのものが綺麗なので、けして耳ざわりではない。それは、ヨーロピアン・チェリーの上品な木目仕上げからも類推されよう。ユニットはトゥイーター、スコーカーともソフトトームではあるが、ピアノのアタックには実体感がきちんと出ていた。
弦の響きも辛口でいかにも玄人好み、通好みの音だといえる。あいまいさはないが、かといってアラを拡大するようなモニター的なところはなく、この辺りが家庭用として十分に練られた成果なのかもしれない。
なお、仕上げはヨーロピアン・チェリー、ローズと、ピアノフィニッシュブラックの3種類が用意されている。
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