早瀬文雄
ステレオサウンド 96号(1990年9月発行)
「アカペラ・オーディオ・アーツ 超弩級オールホーンスピーカーを聴く」より
最近日本でも販売されるようになった、アカペラ・オーディオ・アーツのスピーカーは、僕がこれまでドイツのオーディオ製品に抱いていたイメージとはガラッと違う、とてもマイルドな音を聴かせてくれる、印象深いスピーカーであった。
アカペラ・オーディオ・アーツの正式な社名は、AUDIO FORUM H・WINTERS KG。同社は1976年に、元、西ドイツのシーメンス社の技術者であったヘルマン・ヴィンテルスとアルフレッド・ルドルフの二人によって設立されたオーディオメーカーだ。
そのアカペラに、オールホーン型の超弩級スピーカーシステムがあることは、以前から海外のオーディオ雑誌によって知ってはいた。どんな音がするんだろうと、あれこれ想像していたところ、なんと日本でも聴けるようになったとの電話を編集部よりもらい、早速、輸入元である中央電機のリスニングルームに出掛けていったわけだ。
この巨大なオールホーンシステム、トリオロンMKIIは、1986年に発表されたトリオロンの改良モデルである。
30畳はあろうかという、中央電機のリスニングルームに、ドーンといった感じで収まったトリオロンMKIIの姿は、今でも日本に根強いファンがいる、古くからのオールホーンシステムをちょっと思い出させるようなところもあるのだが、それよりもまず、中央にある壁面の突出が目をひいた。これは、実は、スーパーウーファーなのだ。この巨大なエンクロージュアには、42cm口径のユニットが二本内蔵され、150Hz以下の音域を受け持っており、さらに壁面をホーンの一部として利用しているのだ。トリオロンMKIIの価格には、この壁に設置すべきホーンの設計料、およびシステムの調整料も含まれている。中低域は30cm口径のポリマーコーンとエクスポーネンシャルホーンを組み合わせ、150Hzから600Hzをカバー、中域は54mm口径のソフトドーム型ユニットをドライバーとして用い、600Hzから4・8kHzをうけもたせている。さて、残るは高域ユニットだが、このユニット、どこかで見たことあるな、と思われた読者も多いとおもう。それもそのはず、これは以前から輸入販売され、評価の非常に高かったATRのイオントゥイーターそのものなのだ。1986年にATR社は、ブランド名をATRからアカペラに変更していたのだ。初めて実用的な製品として送り出された、振動板を全く持たないイオンスピーカーが、トリオロンMKIIに搭載されている。
で、肝心の音であるが、設置して間もないということで調整不足の感もあったのだが、通常のホーンの音からは想像もつかない、エネルギー感を抑制した、耳を圧迫せず、部屋全体が震えるような不思議な音響空間が提示された。相当に特殊な世界ともいえるけれども、このすさまじい存在感は貴重なものだ。
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