ワーフェデール Airedale

菅野沖彦

音[オーディオ]の世紀(ステレオサウンド別冊・2000年秋発行)
「心に残るオーディオコンポーネント」より

 ワーフェデールの「エアデール」は、20代のころの僕の、憧れのスピーカーシステムであった。このスピーカーシステムの開発は、たぶん1950年前後であろうと思われるが、このころ、僕は自作のシステムでオーディオを楽しんでいた。そのスピーカーシステムはまったくのオリジナル発想による3ウェイシステムで、低音は約140cm(H)×80cm(W)×50cm(D)の大型コーナータイプエンクロージュアを、近所の家具職人に頼んで桜材で作ってもらい、これにダイナックスの12インチ・フリーエッジのウーファー(フィールド型)を入れたもの。中音はコーラルの6・5インチ・フルレンジユニットを小型のバッフルボードに取り付けて3基、それぞれ45度の角度をつけたもの。高音は、ディフューザー付きのトーアのホーントゥイーターを真上に向けてセットして、写真印画紙の乾燥に使うフェロタイプ板を天井から斜めに吊るして反射板としたものだった。自分の言うのもおかしいが、このシステムは当時としてはわれながら素晴らしい音で、このままそっくり譲ってくれという人が何人もいたほどだったのである。もちろん、モノーラルシステムであった。
 その後、英国製のワーフェデールの「エアデール」という高級システムを知ることになるのだが、実物を見て驚いたのなんの……。美しいコーナー型エンクロージュアには、12インチ・ウーファー(W12)、8インチ・スコーカー(スーパー8)、3インチ・トゥイーター(スーパー3)が収められているのだが、スコーカーとトゥイーターがエンクロージュア上部に上向きに取り付けられているではないか! つまり僕と同じ間接放射式なのであった! ワーフェデールの創始者で、設計者のA・G・ブリッグスはスピーカーの著書もある音響学者と聞いていたが、その彼が、このようにいわばヘテロドックスとも言える、スピーカーユニットのオフ・アクシスによる間接放射型を、自社のフラッグシップモデルに採用していたのだった。
 じつは、当時、僕は自己流で中高音を間接放射式にしたシステムに、若干の後ろめたさを感じていたのだったが、これを見て、大いに意を強くしたものなのである。エアデールのエンクロージュアは3つのユニットの背面の音がすべてスリットから出るようになっているという徹底した開放型で、しかも、それを十分計算して、中高域のユニットの周波数特性にはわざとピークを作って、音のエッジのメリハリをもたせているのは心憎いところだ。
 僕はこれを、先年、本誌のO編集長の口利きで手に入れたから感激ものである。しかも、ほぼ半世紀近く立経っているはずなのに、2台そろって信じられないぐらいの美しいミントコンディションである。

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