ナカミチ

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 ナカミチは、1958年に東京都豊島区で創立者・中道悦郎氏により設立された中道研究所からスタート。官公庁から研究開発を受託し、電子、電磁、音響機器などの研究開発を開始したのが、その第一歩である。
 ナカミチ・ブランドでの製品は、磁気ヘッドの開発に始まる。創業者が旧海軍技術将校で音好きであったことが一段と高じて、テープレコーダーの開発を手がけ、オープンリール型の、国内では「フィデラ」というブランドのタテ置型の小さなモデルを完成。一方では海外向けOEM製品も手がけ、フィッシャーやハーマンカードンに、テープメカニズムや磁気ヘッドを供給していた。
 その後、オイルショックや日本の大手メーカーが本格的に米国進出を始めてOEMが低調化した頃、現社長の中道仁郎氏が、世界初の3ヘッド方式カセットデッキ♯1000を自らの手で開発。アメリカで当時1000ドルの超高級カセットデッキとして発売したのが、後に超高性能カセットデッキとしてカセットの王座に君臨した1000シリーズのスタートである。続いて同じ年に、手動アジマス調整機構付の、1000とはデザインを一新してヨーロッパ調にした700、’74年にポータブル型550、’75年に傾斜型のミキサーアンプ調2ヘッド型600が製品化された。そしてアメリカ市場でも高級カセットデッキが認められるようになり、国内でもその優れた性能と音質により、カセットデッキをハイファイ機器として定着させた原動力は、ナカミチの音の魅力だといってよい。
 基本的に、純粋な技術集団的なところがあり、創業の原点である人のマネをしないベンチャー精神が、会社組織になってからも根強くあるようだ。不可能を可能にするナカミチならではのユニークな発想と、それを実現するだけの技術能力の高さがあることは、国内メーカーのなかでも異例の存在である。
 ’76年ごろからアンプ関係も製品に加わり、2ヘッド型の580、105W+105Wのレシーバー730、’79年にはハーフスピードを加えた680が発表された。そして高級カセットデッキの頂点を極めた1000IIの改良型、1000ZXLをトップモデルに、次いで700ZXLがラインナップされ、’82年には再生ヘッド自動アジマス調整、再生オートリバース型のDRAGONが登場する。
 この頃の製品でユニークなのは、’81年発売のディスクの偏芯を自動調整するTX1000アームレスプレーヤーで、これは後にDRAGON−CTに受け継がれた。
 一方アンプ関係も、’86年のステイシス回路採用のステレオパワーアンプPA50/70、プリアンプCA50/70、CDプレーヤーOMS50II/70IIが登場した。

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