Monthly Archives: 6月 1990

JBL XPL90

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 音場の温度がほんのりと低下したような、やや醒めた表情がつく。冷徹、あるいは冷酷なまでにすべてを分析していくような厳しさは、ここにはなく、ある種の穏やかさや丸さ、おとなしさ、と言った、これまでのJBLの音を語る時に出てこなかったような修辞が並ぶ。それでも、情緒過多になったり、軽薄さに近いあっけらかんとした明るさとは無縁の、知的響き、無駄をそぎ落としたようなある種のストイシズムというJBLの特質の一側面はあわせ持っている。JBLフリークには良い子になりすぎた存在で、個人的にもかつての鋭敏さがもう少し欲しいとも思う。しかし、一般的にはニュートラルになった個性、中和された鋭敏さはむしろメリットになろう。

BOSE Model 501SE

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 同社イルソーレでシステムのスピーカー部分を単売したようにも思えるが、音の傾向は微妙に違い、こちらの方がいわゆるこれまでのボーズ・カラーをよく持っているように聴けた。いわば洗練よりおおらかさを感じさせる。かといってピーキーなじゃじゃ馬的な要素はなく、むしろ家庭用のイージーハンドリングな製品として、実にうまい音作りがなされている。刺激的な音は出ず、サテライトスピーカーのサイズの小ささが、功を奏して音の広がりはなかなかだ。
 とりわけサックスの響きには形而上的な黒っぽい雰囲気がついて楽しめる。ディテールにこだわった聴き方をする製品ではないことを承知していれば、使いこなしも楽しめる。

アヴァロン Eclipse

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 前号この頁に初登場した米国アバロン社のスピーカーシステム/アセントIIの下位モデルであるエクリプスが発表された。
 アセントIIが3ウェイであったのに対し、今度のモデルは2ウェイ構成で、チタン製ドームスコーカーが省かれている。チタンドームトゥイーター、およびノーメックスケブラーと呼ばれる繊維を織り込んだ複合素材からなる22cm口径のウーファーは、同様のユニットがそのまま採用されている。また、アセントIIではサブエンクロージャー内に別付けされていたネットワークが、本機では一般的スピーカーシステム同様、本体エンクロージュア内に収められるようになった。
 エンクロージュアのサイズからすると、わが国の感覚ではややウーファーが小さいように感じるかもしれないが、これは完全密閉のエンクロージュアで理想的な特性を得るためのものと考えたい。密閉型では、エンクロージュアの内圧が相当に高くなるわけで、ユニットの口径を大きくするには、振動板の強度を高める必要があり、振動板の重量増を招きかねない。
 したがって、密閉型では低域の再生限界を補うため、ユニットにたいしてエンクロージュアを十分に大きくし、強度を高め、かつユニット自体の磁気回路や振動板の質量、エッジの硬さ、あるいは内部の吸音材の量、そういった多面的な要素をふまえた上でバランスを取る必要がある。
 スピーカーシステムの実際の低域特性は、ユニットそのもののf0のほかにf0における制動状態=Q0に影響されるのだが、エクリプスでは42Hzで0・5のQを設定している。一般的には0・7以上はアンダーダンピング、0・7以下ではオーバーダンピングといわれているが、ケースバイケースでの検討が必要だろう。
 実際の再生音は反応が早く造形のたしかな低域が聴けた。
 ユニットは完璧な新品であり、鳴らし込みが十分にされていないため、ややニュアンスにぎこちないさが感じられた。2ウェイでもあり、クロスオーバーポイントが下がってトゥイーターにかかる負担が増え、下方に距離を置いてマウントされたウーファーの高域特性の是非にも大きく依存することになるため、上級期アセントIIの圧倒的な透明感や精鋭ながらも、スムーズな響きにはやや水を開けられてると言う印象はいなめない。価格も100万円ほど安くなっているのだから、直接的な比較は意味がないのかもしれないが……。
 それでも手の込んだ贅沢なエンクロージュアのおかげで、音場の自然な広がりや安定した定位感のよさは楽しむことができる。おそろしく立派な装丁を施された分厚いオーナーマニュアルや、今時めずらしい板による厳重かつ堅牢な梱包がなされていることにメーカーの意気込みやプライドというものを如実に感じた。

ソナス・ファベール Minima

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 アコースティックな楽器がもつ音色感の変化に対する描きわけに、独特の緻密さがあり、しかもその色一つ一つにある種の強さが感じられる点が、総じて淡白な国産スピーカーにはない魅力である。濡れたような質感と艶は、クリアカラーの吹きつけ塗装をしたみたいな光沢をつけ、この点が好みの別れるところかもしれない。エンクロージュアの作りのよさが、響きのよさに正しく反映されており、弦やピアノをよく歌わせてくれる。低域の量感はミニマムだが、不思議によく歌う性格の明るさに助けられ、音楽を楽しく聴かせててくれる。ディティールの描写力もあり、あいまいな音楽性という言葉で、情報量という絶対的物理量を誤魔化さない真面目さも併せもっている。

インフィニティ Modulus

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 ローインピーダンスでハイパワーアンプでないと鳴らないという風評だったが、常識的な音量で聴くかぎり、とくに破綻をみせることはなかった。というより、僕はこのスピーカーはやや音量をしぼって、しんと静まりかえったプライベートな空間で楽しむべき存在だと聴けた。なにしろ麻薬的に音がやわらかであり、ハイエンドが繊細なのだ。これほど傷つきやすく損なわれやすい個性は昨今めずらしく貴重だ。うっかりすると寝ぼけた音と誤解されそうなほど、音の輪郭、エッジは淡くあやうい。けだるくアンニュイな、まるで陽炎のような音の漂いにそっと耳をそばだて、やわらかな空気に浮ぶような浮遊感に遊ぶのも、またひとつの行き方だと納得させられる。

プロアック Response 2

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 サイズやユニット構成からすると割高感もあるだろう。しかし近年の注目株だけに、かなり手なれた作り手の存在を感じさせる、したたかな製品だ。モニター的な分解能の高さと耳あたりの良さを両立させ、上品によくのびた高域と、類型他製品に散見する、ポリプロピレンくさい響きをよくコントロールした低域が、巧妙にバランスしている。各楽器の音像サイズが、音程で不自然に小さくなったり肥大したりもせず、演奏のデリケートな陰影感を端正に提示するあたり、価格を納得させるものがある。
 ソフトドーム型のトゥイーターは、一見、スペンドールそっくりだが、随分と鳴り方が違うものだ。

アカペラ Fidelio

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 専用スタンドの背が高く、音が上方から降りてくるような感じだが、それにしてもよくひろがる雰囲気の良い音だ。声のもつエネルギー感がやや薄くなるものの、これがむしろ僕にとってはよい方向に作用して、春の霞たなびく、といった独特のエコー感とあいまって、情緒的でしっとりしたニュアンスが堪能できる。ふっくらした低域の支えも充分で、うっすらと甘い弦の艶や、弾力性のあるピアノの質感は、素直な自然さが感じられ、わざとらしさがない。ドイツにもこんなにマイルドな音があるのだと、越境的に変化するオーディオの個性より、やはり作る人の個性の差の方が大きくなりつつある、昨今のオーディオ界を暗示する象徴的な作品。

サンスイ SP-1000

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 硬質でメタリックな光沢が、あらゆる楽器の音色に乗ってくるところが、よくもわるくも、この製品の個性になっている。ふっくらとしたやわらかさや、しっとりとしたうるおいという世界からは、遠く、かっちり、きっちり、剛性追及、物理量優先、といったある種の真面目さがある。ピアノのアタックは凄いがやや人工的。弦は僕の認識している弦の音とはかなり違う、独特の輝きが耳に眩しい。シンバルの炸裂するエネルギー感はたいしたものだが、何かしらガラスを叩き割ったような音になるのはどうしてだろう。ローエンドの伸びはこのサイズとしては見事。特に単音より、低く重く持続するシンセサイザーの音などそれらしさがたっぷり出る。

ネイム・オーディオ Nac63, Nac72, Nap90, Nap140, Hi-Cap

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 1974年、ジュリアン・ベリカーという一人のオーディオマニアの手によって設立されたネイムオーディオ社は、現在英国のソールズベリーに64名のスタッフを擁する工場を持つに至っている。
 かつてコンパクトでこざっぱりしたデザインを持つプリメインアンプのNAIT2を目にした時、新鮮な驚きを覚えたことを思い出す。スリムなアルミ引き抜き材を使った堅牢なシャーシは、新しいプリアンプ/NAC62及びNAC72にも継承されている。目をひくのはフロントパネルのネイムのロゴで、バックライトによって文字の厚み部分が鮮やかなグリーンで照明され、文字そのものが黒いパネルから薄く浮き上がったように見える。ファンクションの文字が同様に見えるとなおよかったのだが、残念ながらブラックのままなので、逆にこの部分はかなり見にくく、しっかりと光りをあてたいと、何が何処にあるのかさっぱりわからない。
 入力はフォノ(MM、MC、およびリンKarmaとTroika専用のモジュールがある)、AUX(入力感度調整可能)、テープ(NAC72はテープ二系統)、チューナーの4回路をもち、一般的なRCAピンプラグではなく、以前のクォードの製品のようにDINプラグを採用している。
 プリアンプは両者とも内部にパワーサプライを装備していないため、実際の使用にあたっては、今回同時にご紹介するパワーアンプ/NAP90およびNAP140から専用の接続ケーブルで電源の供給を受ける。これは4ピンのDINプラグを持つケーブルでシグナルラインもその中に含まれ、電源と音楽信号は同一ケーブル内に同居する格好である。
 一方、オプションの電源ユニットHI-CAPを追加すれば、より一般的なプリアンプとしても使用可能だ。
 さて、価格順にNAC62とNAP90のペア、次にNAC72とNAP140、そして最後にプリアンプを単体電源のHI-CAPで駆動した音を順番に聴いていった。スピーカーは本誌リファレンスのJBL4344とはせず、この組合せでより一般的なものとして考えられる製品を選んで行なった。
 やや硬質の質感をもつ真面目な音作りで洒落た感じというよりは、見た目のとおり沈思黙考型の響きとでもいいたくなるような、無駄な光沢感を抑制した地味な印象を受ける。上級機ではさすがにスケール感の拡大を示し、音像にも立体感が徐々につきはじめる。別電源の使用では、さらに音場の広がりがぐっと奥行きを増し、このクラスとしては標準的なまとまりを見せてくれた。

NHT Model 1

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 鈍いスピーカーでは、とってつけたように人工的なエコー感でべったりとおおわれたようになる録音でも、嫌味なく再生しうる透明感がある。
 音の輪郭は硬質だが線が細いために固いという印象にはならず、むしろ繊細でやわらかなイメージをつくっている。声には、淡白さともいえる微妙なニュアンスもでかかっていた。
 音像の実体感を強調するより、全体の響きの綺麗さをねらっているようで、たとえば、シンバルのアタック感は弱まるが、パッと水面に石を投げ込んだ時にひろがる波紋のように、ディスパーションをとても爽やかに表現していた。サックスの響きは、やや上品すぎるか。

アコースティックエナジー AE2

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 プロアック同様、イギリスの注目株。顔つきは正反対で、真っ黒けでそっけないが、音は見かけによらず無骨さは微塵もない。一見スタティックな面があるや、とおもわせるほど、響きに定着感のよさがあり、ブレたり浮き上ったりしない、安定した音像定位が得られる。情緒的な色艶をやや抑制するが、各楽器のまわりには曖昧なもやつきがなく、すっきりと広がる響きのディスパーションパターンが綺麗に再現された。やわらかい音はやわらかく、硬い音は硬く、きちんと描き分けることのできる数少ないスピーカーで、どちらかに偏る傾向もない。
 ニュートラルなモニターとして有用。家庭用としても見た目を気にしなければ特選。

スペンドール SP2/2

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 やや箱の響きが重いと感じる。特に中低域から低域にかけてややボンつくようなこもり感が、どうしても気になってしまう。たぶん試聴で使用した置き台との相性、あるいはアンプやCDプレーヤーとのマッチングが致命的に悪かったのかもしれない。弦も響きがドライで、ピアノも左手の低い音域がかぶり気味になる。アタックののびも頭打ちで平板なのだ。こんなはずはない。高域はトランジェントがやや穏やかに過ぎ、このクラスとしてはディティールの再現性がもう少しあってもいいのではないか、の不満ばかりだ。本機そのものが不調だったのかもしれず、不本意な結果だった。しかし、これは純粋に僕の嗜好と生理的にミスマッチだったのかもしれない。

エレクトロボイス Sentry30

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 低域を比較的たっぷり聴かせる英国系のスピーカーに比べると、この引き締った中低域からローエンドにかけてのニュアンスは、量的に不足感をいだきやすい。しかし、よく聴いてみると、張りのつよい明快な表現で音像の立体感をくっきりとマクロ的に押し出し、サックスの実体感はサイズを忘れさせる。シンバルのアタックにも凝縮されたエネルギー感が乗る。反面、弦の繊細感がややドライのタッチになるが、音楽そのものに求心力をつけてくれるために、ムードに流れず、のめり込んで聴く、といった聴き方には、ジャンルを超えた適応性を持つかもしれない。しなやかで柔らかな音や、透明感に富んだ洗練された音を求める人には、やや不向き。

メリオワ The Melior One

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 カナダのミュージアテックス・オーディオ社より、同社の〝マイトナー〟及び〝メリオア〟ブランドのCDプレーヤー、アンプにひき続き、メリオワ・ブランドから新たにスピーカーシステム/メリオアOneが登場した。
 一見エレクトロスタティック型のように見えるがこれは平面振動板を持った完全なるダイナミック型スピーカーである。
 平面振動板というと、かつての国産スピーカーで大流行したような、分割振動を抑制した剛性の高いダイアフラムに、ハイコンプライアンスエッジを組み合わせたユニットを思い出す。しかし、メリオアOneに採用されているユニットは全くその対極に位置するような構成をもっている。
 薄いダイアフラムの素材は、マーチン・ローガンの一連のスピーカーと似たようなマイラーフィルムの透明な膜で、パリッとしたある程度の硬さを持ったものだ。しかもエッジ部分はリジッドに固定されていて、一定のテンションで、ピンと張られ、膜の中心に貫通固定されたボイスコイルが前後にピストンモーションするようになっている。メーカー側はそのために自然な球面波が作られると説明してもいる。球面波になぜこだわるのかというと、平面波では、音像が遠のきがちになり、距離感がやや曖昧になる傾向があるからだ。
 正面から見て、ダイアフラムの反対側には、一辺が1cm程度の格子上に組んだスリットがあり、そのスリット上に薄いフェルトを貼付することで、ピーク性の音が出ないようにコントロールしている。
 どうやらメリオアOneは、ダイアフラムが分割振動することを積極的に音造りに活かしたアプローチがされているらしく、特に低域の音像が陽炎的な浮遊感をともない、オーケストラの再現に独特な広がりをつけてくれるのだ。
 事実は定かではないが、音の印象からすると、この水面のごとくフラットなマイラー膜は、分割共振を起こし、ユニット正面からも逆相成分の音を少なからず放射しているように聴ける。そのことが広がり感を演出しているらしいのだ。
 そうした、やや特殊な面もあるとはいえ、バロック系の古楽器オーケストラなどでも高弦群の定位は綺麗だし、音の漂いには、独特の浮遊感がついて楽しい。フルレンジユニットでネットワークを持たないが故の鮮度感もある。さらっとした軽やかな繊細感はないが、響きにある種の緊迫感がつく点もいいと思う。
 スピーカーのインピーダンスが過度に下がることがないから、大袈裟なパワーアンプを用意しなくても鳴ってくれる。ソースを選ぶ使いにくさはあるが、貴重な個性をもった製品であり、高価格ではあるが、一聴に値するスピーカーではないかと思った。

チャリオ HiperX

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 同じイタリアながらソナースファベルともずいぶんちがって、これは相当にアクの強い響きを持った製品。なにしろ、中高域におそろしくテンションの高い張出しのようなものがあって、かん高い感じの鳴り方をする。個人的にはもっとも苦手とする音だ。およそ繊細という表現からはほど遠い、不太くて硬質な線で音像をたくましく描き出す。エージングによってどれほどの変化があるか興味のあるところだ。はたしてこの音が、ひよわな音が嫌いな人にも好まれるのものなのかどうか、僕にはよくわからない。インフィニティの対極にある、押し出しの強さを持った好事家向きの超個性的サウンド。エンクロージュアとスタンドの仕上げは絶品だ。

ダイヤトーン DS-700

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 先に聴いたビクターの優等生的な音にも、少し色がついていたことを教えてくれるような、蒸留水的な透明感がある。ヴォーカルの口元も小さくなり、音場の空間、とくに天井の高さがスッと増して、部屋全体の空気が軽くなったような気がする。高域にエネルギーが分布する楽器群の音像が引き締ってタイトだが、低域が時として脹らみ気味になるようだ。部屋との相性の問題か。弦はウェットで、やや人工的な艶や、光沢感が乗るが、ピアノのアタック感や、シンバルのエネルギー感には実体感がある。ウッドベースの質感が音程の上下でややニュアンスを変えてくるような感じがあり、この辺りが、スタガー駆動の難しさかもしれない。

ワーフェデール Coleridge

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 デザインの小粋さがそのまま音になったみたいな、とても素敵なスピーカーだった。
 ほどよく明るく、情感たっぷりの女声は、子音の抜けもよく、品のいい華やぎがつく。
 ふんわりとやわらかくひろがる音場感は、中低域から低域にかけての豊かな量感と、中域の張りをやや緩めたバランスのためだろう。ホールの中ほどでゆったり聴いているような気分にさせる。そうした距離感の提示のせいで、直接音成分のエネルギー感はやや弱まるものの、各パートが放射する響きの拡がり具合がとてもきれいに聴こえ、やがて一つに溶け合っていく様は、このサイズとしては異例の描写力だと思う。伝統の底力とはこういうものだろう。説得力がまるっきり違う。

セクエラ Metronome7 MK II

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 とても懐かしい感じのする音だ。からっと乾いた軽い音で、今日的な水準からするとややナローであり、高域も低域もそれほどのびていない。部屋がデッドになったような鳴り方がする。弦の響きはややマットな傾向で、艶やうるおい、色彩の精緻さに欠ける。キース・ジャレットのあの知的で、クールな世界に耽溺するような部分や、ウェットで感傷的な要素をすげなくやりすごし、情緒に溺れず距離をつけて表現するのは一つの個性かもしれない。少なくとも、ディティールの精緻さや透明感を第一に望む人向きではないようで、おおらかな素朴な響きが欲しい人向きだ。
 ユニット配置の特殊さからくる音の広がりを生かすため、セッティングには要注意。

ミッション 781

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 コストの枠の中で、知的に音をまとめてみせる、英国製品ならではの見識を感じさせる。音楽の情緒的な振幅の大きさにも追従できる表現力があり、音像を輪郭だけなぞっておしまいにしてしまわない密度をもつ。
 特にピアノの実体感は立派だ。
 弦は新品ということもあって、うっすらと硬質なニュアンスが乗るが、エージングで解消できるレベルだ。シンバルワークのディティールを精緻に描きだしてくる方ではないが、エッジが丸くつぶれることはない。ウッドベースはやや暗く粘る印象があるものの、ポリプロピレンのウーファーとしてはよくコントロールされている方だと思う。音場はやわらかくおだやかに奥に広がるタイプだ。

ビクター SX-500II

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 音場の透明感が、さすがにこのクラスになると一段向上する。国産機らしくまんべんなく物量と手を入れられた優等生的な音だ。ビクターの伝統か、国産の中では音色が明るく色彩感に富み、かといって、油っぽさが少ない品のよさもある。音像定位にも正確さが出てきて、センターで聴く限り、ジャック・デジョネットの精妙なシンバルワークにおいて、サイズも音色も異なるいくつかのシンバルを叩きわけている様子がよくわかる。各楽器の位置関係の描写力が、国産で9万円というここへきてやっと出てきたということか。マルサリスのスタジオ録音では、冒頭の声の掛け合いがリアルで、遮蔽板の存在がみえそうなほど、音場の再現性が高まっている。