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ラックス L-45A

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 耳につきやすいやかましい音、硬質な音を注意深く抑え込み、どちらかといえばソフトな音質にまとめているところは、まさにラックスの音づくり。総体に聴きやすさを重視したソフトタッチ。プログラムソースによっては時として、いくぶん含み声的またはこもりぎみという表現を使いたくなる場合もある。表示パワーが55Wと必ずしも大きくないにしても、聴感上のパワーの伸びが少し足りない。聴感上耳につきやすい歪が、あまり大音量でないところですでに生じてしまう。表示パワーが本機より小さくても、もう少し音量感のあるアンプがある。
●カートリッジへの適応性 VMS30/IIのようなソフトタッチのカートリッジではこもりかげんで、必ずしも合っているとはいいにくい。エムパイア4000DIIIは、カートリッジの持っている性格とアンプ自体の音の性格が合いにくい。エラック794Eで傷んだレコードをトレースしてのテストでは、レコードの傷みやシリつきノイズなどはわりあい目立ちにくく、基本的な音の質がうまくおさえこんであるためか、聴きやすくはあるが音の魅力があるとまではいえない。
 MCポジションでの音質は、オルトフォンの場合にはよく言えばソフトタッチで心地よくまとまり、粗い音をいっさい出さない。とはいうものの、鋭く切れこむべき音もやや甘くなる。ノイズの質は良質であまり耳ざわりではないが、さすがにあまり音量を上げるわけにはゆかない。外附のトランスにした場合には音が瑞々しく、目の前が開けた感じになり、良い音質に仕上る。デンオンDL303の場合はカートリッジの持っている本質的な性格と重なり、重低音の量感がやや不足ぎみ。ただしこのアンプにはローブーストがついているため、70HzをONにするとうまく救われる。この場合には総合的に、音のこまやかさ、キメ細かさを増して、やや物足りなさはあるものの、これはこれで聴かせる。またDL303の場合のノイズは、ボリュウムをかなり上げたところでいささか耳につくが、ハム性のノイズはほとんどない。総じてこのアンプでは、MCカートリッジの方がアンプの音が生かされるように思った。
●スピーカーへの適応性 アルテックのようないくぶん粗く鳴りがちなスピーカーを、一応柔らかく鳴らしてくれた。言いかえれば、ソフトタッチという味わいの中でのスピーカーの選り好みは少ないタイプ。
●ファンクションおよび操作性 「フォノ・ストレート」のポジションでは心もち(ごくわずかな差とはいうものの)音が滑らかになる印象。トーンコントロールはターンオーバー切替えつきで、キメの細かい調整が可能。サブソニックフィルターおよびハイフィルターも2ポジション切替え可能というように、音質調整機能はキメ細かく豊富。フォノ端子はMC/MCダイレクトに分れていて、各種MCカートリッジに対応可能。フォノ聴取時期音洩れも全くない。
●総合的に この価格としてはパワーの伸びにいささかの物足りなさがあるものの、このアンプのもっている基本的な性格に賛同できる場合には価値をもつだろう。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:2
7. スピーカーの特性を生かすか:2
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:中

ヤマハ A-6

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 大掴みにいうとヤマハの一連のアンプが聴かせていた明るい上品さを受け継いでいるものの、従来のヤマハのアンプからはやや異色の力強い音を聴かせる。ごく初期のA6の音は、良く言えば元気、悪く言えばやや粗っぽいところがあり、ポップス系のパーカッシヴな音を力強く表現する反面、クラシックの管弦楽などで違和感を感じさせるなど、やや個性の強い面があった。が、今回テストしたA6ではそこのところが柔らげられ、クラシックのオーケストラでは一応納得のいくバランスで鳴る。細かいことを言えば、ベートーヴェンの第九(ヨッフム)第4楽章で時として音がいくぶん硬め、かつ音量を上げた時にややキツい感じになる傾向はやはり持っていて、もう少し解きほぐしたような柔らかさが加われば、より説得力のある音になっただろうと思われた。
●カートリッジへの適応性 オルトフォンVMS30/IIの場合の音質が、バランス的にいちばん納得がゆくが、たとえばベートーヴェン第九(ヨッフム)のティンパニーの音などは、低音に特徴のある音づくりを感じさせる。エムパイア4000DIIIでの「ニュー・ベイビィ」は、100Wという表示パワー相応の力が感じられ、ポップスではなかなか楽しめる。ただしエラック794Eのように高域の上昇したカートリッジでは、特に音量を絞り加減にして聴いたときに、歪をやや強調する感じで、ハイ上りの、あるいは傷んだ歪みっぽいレコードがプログラムソースとして使われたとき、やや弱点を露呈する傾向があった。
 MCポジションの音質は、オルトフォンのように低出力低インピーダンスMCの場合でも、ノイズはこのクラスとしてはかなり小さく抑えられ、またノイズの質も耳につきにくいため、オルトフォンでも実用的な音量まで上げることができるのが良い。デンオン系の場合には、MCポジションのノイズもきわめて低く抑えられ、耳につきにくく、音質も一応のところでまとめてくれる。ただ、いずれのカートリッジでも、管弦楽のような複雑な音楽で音量を上げた場合はややキツい傾向の音になるので、これがこのアンプの個性なのだろう。
●スピーカーへの適応性 アルテック620Bカスタムのようにアンプへの注文の難しいスピーカーについては、あまりうまく鳴らしたとはいえない。他のスピーカーについても、やや選り好みするタイプのようだ。
●ファンクションおよび操作性 このアンプにはミューティングとサブソニックフィルターがついていないが、ハイパワーアンプとしては、後者はぜひつけてほしい。ボリュウムを上げてMM/MCを切替えると、やや大き目のショックノイズが出る。また、メインダイレクトとディスクスイッチをごくゆっくり押すと、音が途切れる。これ以外のファンクションはスイッチ類の感触もよく、よくこなれている。
●総合的に ヤマハのアンプの中ではやや異色の、若い元気な坊やという感じのアンプ。やや特徴のある製品。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:2-
7. スピーカーの特性を生かすか:1
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:中

デンオン PMA-540

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 たいへん穏やかなバランス。それを支える力も十分にあり、大掴みにたいへん優れた音質といってよいと思う。以前のデンオンのプリメインと比べ、クラシック、ポップスを通じて十分納得のゆくバランスおよび音質に仕上げられ、いろいろなプログラムソースを通じて、かなり満足できる。一聴して目立つ解像力の良さ、鮮度の高さが表立っていないために、ちょっと聴くと平凡に感じられるほど、何気ない音を聴かせるようでありながら、時間をかけて聴くにつれ、このバランスがかなり慎重に練り上げられていることがわかる。長いこと、デンオンのアンプの弱点であったクラシックのオーケストラのかなりのハイパワーの再生でも、聴き疲れすることなく、全体のバランスおよび音像の再現もことさら音を前に押し出すのではなく、十分、奥行き感、ひろがりをもって聴かせる。
●カートリッジへの適応性 オルトフォンVMS30/IIの場合のバランスは際立って良好で、クラシックばかりでなく「サンチェスの子供たち」のパーカッションをかなりの音量で聴いても、パワー感や音の伸び、充実感は十分。またエムパイア4000DIIIのシェフィールド「ニュー・ベイビィ」の再生では、全体の力感がしっかりし、ローエンドの支えが十分で、パーカッションの強打でも、この価格帯としては、実体感がよく聴きとれた。エラック794Eのような傾向に対して、旧モデルPMA530は弱点を聴かせたが、本機ではそこがコントロールされ、レコードの歪は歪みとして出しながらも、基本的な音を美しく、アラを目立たせない方向で聴かせるために、録音の古いレコードも十分に楽しめるアンプになっている。
 MCポジションでの音質は、デンオンDL303に対しては言うまでもなく良く適合し、かなりのボリュウムレベルでもノイズは実用上あまり耳につかず、音のバランスも優れている。オルトフォンのような低出力低インピーダンスMCの場合には、このカートリッジのもっている特徴をいくぶん抑えこむ
印象で、外附のトランスを使った方がオルトフォンの特徴がはっきり出る。ただし、オルトフォンの持っている中~高域の張りが、外附のトランスの場合、ややキツくなる印象もあり、そこがこのアンプの潜在的な性格といえるかもしれない。
●スピーカーへの適応性 アルテック620Bのような気難しいスピーカーを、十分とはいえないまでも、楽しませて聴かせてくれることから、スピーカーの選り好みは比較的少ないタイプといえるだろう。
●ファンクションおよび操作性 ボリュウムを上げて多種のスイッチを操作しても、ラウドネススイッチを除き、クリックノイズはほとんど出ない。フォノ聴取時のチューナーから音洩れも全くない。
●総合的に 音質についてだけいうなら、この価格帯での注目製品。デザインに上品さがあれば、もっとよい印象を与えるのではないだろうか。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2+
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:2+
7. スピーカーの特性を生かすか:2
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:小

トリオ KA-800

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 まずスピーカーコードを2本のまま(一般的な)接続では、これといった特徴のない、わりあい平凡な音がする。そこで4本の、トリオの名付けたシグマ接続にしてみる。と、一転して、目のさめるように鮮度が向上する。いわゆる解像力が良い、というのだろうか、とくにポップス系の録音の良いレコードをかけたときの、打音の衝撃的な切れこみ、パワー感の凄さにはびっくりさせられる。これで55Wとは、ちょっと信じがたいほどの音の伸び。少なくとも、ポップス系のレコードをショッキングに鳴らしたいという人には、大いに歓迎される音だろう。この価格でこんなに切れこみの良い音は、ちょと聴けない。しかし対象がクラシック、あるいは本質的に柔らかさやムードを要求する曲になると、この音に手離しでびっくりしているわけにはゆかなくなる。一見クリアーふうの音も、管弦楽などをやや大きめの音で楽しみたいと思うと、やや硬質で聴き疲れしやすく、また曲の進行によって音のバランスが変ってしまうような、どこかちぐはぐな要素を内包している。とくに古い録音の、少し傷んだレコードなど、傷みを拡大するような傾向があって好ましいとはいいにくい。
●カートリッジへの適応性 MM系に関しては、各種のカートリッジの持ち味をわりあい生かすような鳴り方をして、概して好ましいが、MCの場合には、MCポジションでのノイズがやや大きく、ことにハム性のノイズが混入して、ちょっと音量を上げようとすると、ピアニシモではノイズが邪魔をして、実用上問題がある。外附のトランスを使えば一応聴けるが、後述のFMの混入が困る。
●スピーカーへ適応性 以上の音質の印象はJBL4343Bによっているが、アルテック620Bカスタムのように、アンプへの注文のうるさいスピーカーの場合には、このアンプではやや役不足。言いかえれば、スピーカーを選り好みするタイプといえる。
●ファンクションおよび操作性 MM/MC切替ボタンは、ボリュウムを上げたまま押すと(なぜか左チャンネルのみ)かなり耳ざわりなノイズを出すのでこわい。また、MMポジションでは、MMカートリッジまたはMC+トランスで聴く際、FMチューナーが接続されていると、ボリュウムを上げた場合やや明瞭にFMが聴こえて具合がわるい。もうひとつ、このアンプは機構的にかなり弱く、平らな台の上でガタつくほど脚がチンバだし、ボンネットの上面を軽く叩くとギシギシときしむ。パネルのの右上をやや押し下げると、プリセットボタンのON-OFFが動作してしまうなど、組立上の不備が散見されたのは残念。ただし、別に店頭に出ている一般市販品を何台かチェックしてみたところ、この問題が出ない製品もあった。量産品では解決しているようだ。
●総合的に 機構上の多少の不備を別としても、かなり個性の強いアンプで、好き嫌いがはっきり別れるだろう。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:中
2. MCポジションでのノイズ:大(ハム混入)
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:ややあり
6. ヘッドフォン端子での音質:2+
7. スピーカーの特性を生かすか:1
8. ファンクションスイッチのフィーリング:1-
9. ACプラグの極性による音の差:中

テクニクス SU-V7

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 基本的にはSU-V6とたいへんよく似た面をもっている。価格の高くなった分だけ表示パワーも増しているせいか、シェフィールド「ニュー・ベイビィ」のようなかなりのパワーを要求するレコードでも、ボリュウムを相当なところまで上げてもよくもちこたえ、聴感上のパワーも相当にある。パワーを上げた場合でも、全帯域のバランスが妥当で、特に出しゃばったり耳ざわりになったりする音はなく、よくコントロールされ、あまり作為的な部分を感じさせない点、V6の良さと共通している。
●カートリッジへの適応性 MCポジションでの音質が、V6よりもいくぶん向上し、特にオルトフォンを使った場合、V6ではその特徴をやや抑えこむ傾向があったが、V7では音の伸びが改善されていることがわかる。しかし反面、低音の充実感が少し薄れたようだ。ノイズレベルはいっそう改善され、低出力低インピーダンスMCの場合でも、実用上のノイズがかなり低く、ボリュウムを大幅に上げないかぎり、十分使える。デンオンDL303では、V6に比べてその性格を十分に生かすとはいいにくく、相性が必ずしもよくないように思われた。たとえばDL303自体が持っている、高域が切れこみながらやや細くなりがちな性質が、いくぶん相乗効果的に作用する。曲によってはわずかとはいえキャンつく傾向があり、解像力が向上したともいえる反面、入力側で高域の強調された性質にいくぶん弱いのではないかと感じられた。オルトフォン、デンオンとも、外附のトランスを使うことによりバランスの改善される傾向があった。オルトフォンVMS30/IIのように全体によくコントロールされたカートリッジの場合が、最もこのアンプの特徴を生かす感があり、そのことはたとえば、エラック794Eのような、ハイ上りのカートリッジをやや嫌う傾向があることからも、このアンプの性格が説明できるように思う。特に、やや傷んだレコードをかけたとき、歪は歪みとしてはっきりとさらけ出す。ただし基本的な音はたいへん美しくコントロールされていて、アンプ自体の性質は非常に優れているということは聴きとれた。
●スピーカーへの適応性 アルテックのような気難しいスピーカーを、この価格帯の製品としてはよく鳴らすと思った。スピーカーの選り好みの少ないタイプだと思う。
●ファンクションおよび操作性 ファンクションはV6とほとんど同じだが、操作性に関してはいっそうキメ細かく改善され、特にV6のところで指摘したオペレーション切替え(ストレートDCとヴィアトーン)スイッチをゆっくり動かしても、シグナルの途切れるようなこともなく、ボリュウムをあげたままどのスイッチを動かしてもクリックノイズが出ることもない。フォノ聴取時のチューナーからの音洩れも全くない。
●総合的に さすがにV6の後に発表されたアンプだけあって、V6の良さを受け継ぎながらいっそうキメ細かく改善され、最近のテクニクスが波にのっていることを感じさせる優れた新製品だと思う。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:小
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:2+
7. スピーカーの特性を生かすか:2
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:中

ハーマンカードン A750

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 まず大掴みにいって、トータルな音のバランス・質が良く練り上げられているという印象をもった。特に、音量をかなり上げた場合でも、張り出してくるような耳ざわりな音域が全くなく、前帯域に亘ってよくコントロールされ、十分聴きごたえがある。最近のプリメインアンプには珍しく、MCポジションがないので、まずオルトフォンVMS30/IIを主体に聴いてみた。このカートリッジのもっている音の特徴をよく生かし、音楽的内容の優れた音で楽しませてくれる。ベートーヴェンの第九(ヨッフム)でも、全体がよくコントロールされながら、ひとつひとつの音をよく生かし、かつバランスのよい音を聴かせる。またエムパイア4000DIIIでシェフィールドの「ニュー・ベイビィ」を相当にボリュウムを上げて聴いてみたにもかかわらず、表示パワー以上の実力でよくもちこたえ、力感のある明るい絞った弾みのある音を聴かせてくれる。エラック794Eのように高域のしゃくれ上ったカートリッジでも意外と思えるほど歪みっぽさをオさえ、くコントロールされた高音を聴かせる。
 MCポジションがないため、MCカートリッジに対しては外附のトランス(オーディオインターフェイスCST80)を使って試聴したが、たとえばDL303のようにやや細い音のカートリッジにしても、その細さを目立たせることなく、特にフォーレのヴァイオリン・ソナタのような曲が、意外にしっとりと雰囲気よく鳴るのに感心させられた。ヴァイオリンの胴のふくらみなどを含めて、中域から低域にかけての音の支えが、このクラスとしてはかなりしっかりしている。オルトフォンMC30のもっている可能性を十分抽き出すとはいえないものの、魅力的なところを聴かせる。
●スピーカーへの適応性 以上の試聴感はJBL4343Bによるが、アルテック620Bカスタムのようなアンプに対しての要求の厳しいスピーカーに対しては、必ずしも十分とはいいにくく、アルテックの良さを抽き出すまでには至らない。したがって、スピーカーをいくぶん選り好みするタイプのアンプといえるかもしれない。
●ファンクションおよび操作性 前述のように、フォノ入力にMCポジションを持っていないが、フォノそのものは2系統ある。ミューティングスイッチがついていないのは不便。テープファンクションのスイッチまわりの表示がやや独特で、なれないと理解しにくく、誤操作しやすい。フォノ聴取時のチューナーからの音洩れは全くなく、良好。
●総合的に 最近の国産アンプの中に混じると、価格の割に表示パワーが低め。見た目にコンパクトだが、やや高級感を欠くところもあり、好印象を与えないところがあるにしても、試聴した結果では、基本的に良い性質を持ったアンプと感じられた。MCポジションのないことを別にして、新製品の中でも注目アンプのひとつかもしれない。なお、テスト機は量産以前の製品らしかった。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:-
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):-
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):-
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:2+
7. スピーカーの特性を生かすか:1
8. ファンクションスイッチのフィーリング:1+
9. ACプラグの極性による音の差:中

テクニクス SU-V6

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 今日の時点で改めて厳しいテストに参加させても、相変わらずこのアンプは一頭地を抜いた素晴らしい出来栄えだと思った。むろんそれはあくまでも、5万9800円という価格のワクの中での話にせよ、同クラスのアンプの中では、特に音の支えがしっかりして全体に充実感があり、音のバランスが妥当で特にうわついたり低域をひきずったりというところもなく、その意味ではむしろ、作為がなさすぎると思わせるほどだ。このアンプはテクニクスの製品としては珍しく、スイッチを入れシグナルを加えてから時間が経過するにしたがって、音質が滑らかにこなれてゆくタイプで、音がこなれてからはとても価格が想像できないほどクォリティの高い音を聴かせる。しいて気になる点を指摘すれば、基本的に持っている音の質感がややウェット、あるいはいくぶん暗く、全体に少し線の細い傾向を持っている点火。
●カートリッジへの適応性 オルトフォンVMS30/IIが特にこのアンプの良さを生かしたように思う。テストソースの中でも比較的難しいベートーヴェンの第九(ヨッフム)の第4楽章のテノールのソロからコーラスのフォルティシモに至る部分でも、音楽的に優れたバランスを聴かせ、十分納得のゆく音を楽しませてくれる。
 MCポジションの音質は良く練り上げられていて、SN比も良好。特にDL303の持っている繊細な切れこみのよさが十分に楽しめる。ただし、フォーレのヴァイオリン・ソナタではヴァイオリンの胴のふくらみがやや減った、いくぶん細い感じの音になり(むろんこれはDL303のキャラクターでもあるが)このレコードの微妙なニュアンスの再現に関しては、このアンプでさえも物足りない面もある。
 本機のMCポジションは、オルトフォンのような低出力低インピーダンスタイプではさすがにノイズがいくぶん耳ざわり。音質もオルトフォンの特徴をおさえこむ方向だ。エラック794Eで傷んだレコードをトレースした場合は、音の粗さは目立ちにくいものの、レコードの傷みや歪をさらけ出してしまうタイプなので、古い傷んだレコードでも楽しめるアンプとはいいにくい。
●スピーカーへの適応性 アルテック620Bのような気難しいスピーカーを、十分とはいえないまでも、価格を考えれば一応満足すべきレベルで鳴らす。その意味から、スピーカーの選り好みの比較的少ないアンプといえそうだ。
●ファンクションおよび操作性 ボリュウムを上げたままで各種のスイッチを動かしてもノイズはほとんど耳につかず、安心して操作でき、操作性もこなれている。MM/MC切替スイッチを操作してもノイズはなく、この点は立派。ただし、ストレートDCとヴィアトーンを切替えるレバースイッチをゆっくり動かすと音が途切れる。フォノ聴取時のチューナーからの音洩れは全くなかった。
●総合的に この価格帯では抜群の出来栄えのアンプ。ただし、以前から何度も発言したことだが、このアンプのデザインはいただけない。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:2+
7. スピーカーの特性を生かすか:2
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:小

ソニー TA-F55

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 このアンプは例外的にコンパクトで超薄型に作られているが、こうした見た目の印象から想像するのとは正反対の、たいそう迫力のある音がする。たとえばポップミュージックを多少パワーを上げぎみで聴くと、まるで音の塊がこちらに飛んでくるような感じといったらよいだろうか、同クラスのアンプと比べ、やや異色といってもよい音だ。たとえば、左右の両スピーカーの間に十分にひろがり奥行きをもって聴こえるべきレコードをかけた場合でも、このアンプは音を空間に散りばめるというよりは、むしろ中央に塗り固めるという表現を使いたくなる、やや独特な音で鳴る。再生音に迫力を求める向きには歓迎されるだろうが、本質的にレコードに刻まれているはずの、二つのスピーカーの外側、あるいは奥行き方向にひろがるべき音が、十分に再現されない。
●カートリッジへの適応性 基本的な音質がかなり個性的であるために、各種カートリッジを付替えた場合にこのアンプの個性で聴かせてしまうという性質がある。しかし、各カートリッジの差は正確に鳴らし分けている。中ではVMS30/IIの場合がいちばん妥当な組合せのようにも思われた。エラック794Eのように高域のしゃくれ上ったカートリッジの場合は、その性質を比較的さらけ出す傾向があり、特にレコードが傷んでいる場合は、歪もそのまま出してしまうタイプだ。
 MCポジションは3Ωと40Ωのインヒーダンス切替えがついていて、オルトフォンのような低出力低インピーダンスMCの場合でも、SN比はかなり優れている。むろん40Ωのポジションでは、デンオンに対するSN比は実用上十分。アンプが基本的に持っている性質同様の音質だが、外附のトランスまたはヘッドアンプを使えば、その性質が柔らげられる。
●スピーカーへの適応性 アンプが基本的に持っている性質が、高域を際立たせるということがないためか、アルテックのような気難しいスピーカーをつないだ場合でも、高域がやかましいということはない。しかしこのスピーカー自体の持っている、中高域が固まりがちな性格はいくぶん強調される。スピーカーを選り好みするタイプといえる。
●ファンクションおよび操作性 このアンプの最大の特徴は、二つ並んだプッシュボタンにより、ボリュウムの上下を間接的に操作することだ。ボリュウムの上下は、ボタンの左に並んだダイヤル上の窓の中のLEDで表示される。ボタンを軽く押すとゆっくり、強く押せば倍速でボリュウムが上下し、キメ細かい作り方といえる。上下動とも動作速度は全く同じだが、人間工学的には上昇側をゆっくり、下降側を速くした方がいっそう好ましい。ボリュウムを上げた状態でMM/MCを切替えると、かなり耳につくクリックノイズが出るが、この点は改めてほしい。フォノ聴取時のチューナーからの音洩れはボリュウムを上げると、きわめて高い音域でかすかに(トゥイーターだけを鳴らしたような感じで)聴こえるが、実用上はほとんど問題ない。
●総合的に デザイン、構造、サイズ、音質ともきわめてユニークなアンプなので、この点で好き嫌いが分かれるだろう。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):1
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:かすかにあり
6. ヘッドフォン端子での音質:1-
7. スピーカーの特性を生かすか:1
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2-
9. ACプラグの極性による音の差:小

サンスイ AU-D7

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 明るく、軽快さ華やかさなどといった形容を思いつく音。最近の一連の国産メーカーの目差している、音の透明度や解像力あるいは鮮度の高さをストレートに表現した、反応の鋭敏さを感じさせる音だ。この明るい音は、一種瑞々しさを感じさせる反面、曲の種類によってはいくぶん華やぎすぎと思わせるところがないとはいえない。本来こうした音は中~低音域にかけて音を支えるだけの力があればより生きるのだろうが、本機には価格的にそうした要求は無理なのかもしれない。音のひと粒ひと粒が気持良く弾んで聴こえるところが特徴的でこれはポップミュージックで良く生かされる反面、クラシックを、中でも音の重厚感、渋さといった要素を要求する人にとっては、多少の違和感あるいは華やぎすぎという印象を与える。
●カートリッジへの適応性 このアンプの音をプラス方向に生かすためには、たとえばエムパイアのようなタイプの音カートリッジでポップミュージックにピントを合わせる聴き方をすれば、たいへん美しい音がする。またクラシックまでカバーしようという場合には、オルトフォンVMS30/IIのようなタイプを使えば、落着いた面も描き出せるだろう。エラック794Eで傷んだレコードをかけると、レコードの歪を目立たせるようなことはないにしても、楽しませる方向に生かすとはいいにくい。
 MCポジションは、オルトフォンのような低出力低インピーダンス型に対してもノイズは比較的よく抑えられているが、実用上十分なレベルまで音量を上げた場合にはいくぶん耳につく。デンオンDL303に対しては、ノイズも実用上不備のないまで抑えられ、悪心津もたいへん優れている。MCポジション自体の音質が、このアンプの基本的な音同様、明るくクリアーで華やいだ傾向があるため、外附のトランスを使うことで、この傾向を抑えることができる。
●スピーカーへの適応性 このアンプ自体の持っている性質からいって、中~高音域の強く出るタイプのスピーカーは組合せ上好ましくない。アルテックのような気難しいスピーカーには、少しおさえが利きにくい印象であった。
●ファンクションおよび操作性 ボリュウムを上げたまま、MMとMCの切替スイッチを操作すると、多少耳につくノイズが出る。その他のファンクションはよく整理され、ノイズも抑えられていた。このアンプのトーンコントロールは普通のバス、トレブルのツマミの他に、スーパーバスとプレゼンスというツマミがある。スーパーバスはきわめて低いところで利かせているらしく、低音のよく入ったレコードと低域特性の優れたスピーカーでないと、その効果はよくわからなかった。プレゼンスは音の近接感を調整するための中高域の強調ツマミで、これによって唱い手の声をかなり近接した感じにコントロールでき、使い方によっては面白い感じにコントロールできる。フォノ聴取時のチューナーからの音洩れはほとんどなく良好。
●総合的に 音の明るさ華やかさにたいへん特徴があり、その点に好き嫌いがあるかと思う。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:2-
7. スピーカーの特性を生かすか:1
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:中

パイオニア A-570

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 全体の印象をひと言でいえば、ソフト&メロウ。パイオニアかがここ数年来つくり出すアンプは、新技術を導入しながらも、あえてその新技術を極端な形で音に表わさず、特別なオーディオマニアを対象にするよりも、一般の音楽を愛好する層に広く受け入れられるような、最大公約数的な音にまとめられている。またその音が絶妙なバランスポイントを掴んでいるという点に、ひとつの特徴を見い出すことができる。オーディオマニア好みの解像力やツブ立ち、音の鮮明度を求めるのは無理な反面、どようなプログラムソースをかけても、どのようなカートリッジ、スピーカーと組合わせても、一応のバランスで鳴るという点、いわゆる中庸をおさえた巧みな作り方といえる。細かいことを言えば、たとえばオルトフォンVMS30/IIのようなカートリッジと組合わせ、ポップミュージックを再生した場合に、聴き手を楽しませるバランスのよい音が、パーカッションでかなりの音量まで上げた時でも十分もちこたえるだけの良さを聴かせる。反面、MCカートリッジでかなり厳しい聴き方をした場合には、たとえばいくぶん音量を上げぎみにした時に、一聴した印象のソフト&メロウなサウンドの中にあんがい中高域が張り出す硬質な面が聴きとれて、必ずしソフトなばかりのアンプでないことがわかる。
●カートリッジへ適応性 MCカートリッジと組合わせて厳しい聴き方をするというタイプではないにしても、オルトフォンのような低出力低インピーダンス型のMCに対しては、実用上十分といえる程度にボリュウムを上げると(1時位置くらい)軽いハムの混入したやや耳につくタイプのノイズがわずかに聴きとれる。一方、デンオンDL303に対しては、実用的な音量でノイズが軽く耳につくものの、ほぼ満足できる音質が得られる。あかて外附のヘッドアンプやトランスを使うことなくMCカートリッジを使いたい場合には、デンオン系の出力の大きいタイプを組合わせるべきだ。エラック794Eで傷んだレコードを演奏しても、レコードの傷み歪はあまり耳ざわりにならず抑えられているので、古い傷んだレコードでも楽しめる。
●スピーカーへの適応性 いわゆるハイクォリティ指向のアンプではないので、厳しいことはいえないにしても、アルテック620Bカスタムのように気難しいスピーカーを十分に鳴らせるとはいかない。
●ファンクションおよび操作性 独特のプッシュボタンを生かしたデザインはたいへんユニークで、類型が全くなくまとまっている。ボリュウムをを上げたまま各スイッチをON-OFFした時のノイズも抑えられているが、フォノ聴取時にボリュウムが12時に近づくあたりから、チューナーからの音洩れが、かすかだがやや耳につく。何らかの対策が必要。
●総合的に 本質的にポップス指向の、オーディオマニアでないごく普通の愛好家のためにつくられたアンプという印象がはっきりしている。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:ややあり
6. ヘッドフォン端子での音質:2+
7. スピーカーの特性を生かすか:1
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2-
9. ACプラグの極性による音の差:小

オンキョー Integra A-815

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 ここ数年来のオンキョーのアンプに共通の、独特の音の透明感を感じさせる、いくぶん女性的ななよやかな音。一時期の製品が中~高域の透明感を重視するあまり、低域の支えにいくぶんの物足りなさを感じさせたのに対して、本機の場合は十分とはいえないまでも、以前の製品よりもしっかりし、クラシックのオーケストラの低音弦などはむしろ、いくぶんふくらみを感じさせる程度に豊かさがある。低音をそれほど引締めていないタイプらしく、ポップスのバスドラムの強打音などでは、少し音を締めたいと感じさせる場合もある。総体に、以前の製品の弱点であった一聴したカン高さのようなものが感じられなくなり、音にいっそう磨きがかけられ透明感が増して、美しい音を聴かせるアンプといってよい。
●カートリッジへの適応性 たとえばオルトフォンのVMS30/IIのもっている性格が、このアンプの一面の弱点をうまく補うせいか、このカートリッジとの組合せがいちばんバランスの良い楽しめる音がしたと思う。エラック794Eのように高域のしゃくれ上ったカートリッジで傷んだレコードをトレースした場合にも、歪をあまり目立たせず高域のよくコントロールされた音を聴かせる点から類推すれば、古い録音、傷んだレコードをも美しく聴かせ楽しませてくれるタイプだと思う。
 MCポジションは、オルトフォンのような低出力低インピーダンス型では、いくぶんノイズが耳につく。ただしこのノイズは性質が良いために、ボリュウムを絞り加減で聴く限りはあまり耳ざわりではない。しかしトランスを使うと音質がいっそう充実し、ノイズもほとんど耳につかなくなるため、オルトフォンを使うためには外附のトランスが必要と思う。一方デンオンDL303の場合は、カートリッジ自体の持っている音質に、このアンプの音と一脈通じるところがあるためか、いっそうオンキョー的な音に仕上る。デンオン系に対しては外附のトランスにしてそれほどのメリットは感じられなかった。
●スピーカーへの適応性 アルテック系のスピーカーに対しては、クォリティが及ばずといった感じで、このアンプを生かすにはスピーカーを慎重に選ぶ必要があると思った。
●ファンクションおよび操作性 ボリュウムを上げたままで各種スイッチをON-OFFしても、耳ざわりなノイズは良く抑えられている。たいへん手なれた作り方。ローコストアンプでは珍しくモードセレクターが5ポジションあるはたいへん親切。トーンコントロールがオンキョーのプリメインに共通の独特なタイプで、ボリュウムの位置によって利き方が変わり、ボリュウムを中央よりも上げたところではほとんど利かなくなるので、やや注意が必要だ。フォノ聴取時のチューナーからの音洩れはほとんどない。
●総合的に オンキョー独特のサウンドにいくぶん好き嫌いが分かれると思うが、この価格帯のアンプとして、音質、構造、操作性ともよくこなれて、安心して使える。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:1
7. スピーカーの特性を生かすか:1
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:中

BBCモニター・スピーカーの系譜

瀬川冬樹

別冊FM fan No.28(1980年12月発行)
「BBCモニター・スピーカーの系譜」より

BBCモニターとは
 イギリスにBBC(BRITISH BROADCASTING CORPORATION)という世界的に有名な放送局がある。このBBCは数ある世界中の放送局の中でも、音質をよくするということでは、昔からたいへん熱心な放送局で、局内で使う放送用機材について、BBCが独自にもっている技術研究所で、いろいろと研究を続けている。
 その中の一つとしてモニター・スピーカーの研究が、世界の〝知る人ぞ知る〟大変重要な研究テーマとなっている。
 数ある放送局の中でも、放送局の内部で使うモニター・スピーカーについて、独自の研究をしているところというのは、まず私が知るかぎりでは、BBCのみである。あるいはBBCの研究にヒントを得た形かと思うが、日本のNHKが独自のモニター・スピーカーを使っている。またドイツの放送局でも、独自に開発したスピーカーを使ってはいるが、BBCほど組織的かつ継続的に一つのスピーカーを地道に改良している放送局はほかに知らない。
 この場合のモニター・スピーカーというのは、いうまでもなく、放送局で放送プログラムを制作する過程で、あるミキシングルーム…プログラムを制作する部屋で、マイクが拾った音、あるいはテープで作っていく音を、技術者たちが聴き分け、そしてその音をたよりにして放送の質を改善していこうという、いわば、エンジニア達の耳の延長ともいえる。非常に重要な道具である。
 しかし、モニター・スピーカーという言葉を、読者は、いろいろな場所で耳にすると思うが、事実いろいろなモニター・スピーカーがある。たとえばレコード会社でレコードを作るためのモニター、あるいはホールの講演会などのモニター、プログラムの制作者がその制作の途中で音をチェックするためのモニターなど、すべてモニター・スピーカーと呼ぶ。

BBCとモニター開発の歴史
 このBBCのモニターに関しては、BBC放送局の厳格なモニター・スピーカーに対する基準がある。それは出来る限り〝自然な音〟であり、〝スピーカーから再生されているということをなるべく意識させない音〟これがBBCの唯一の研究テーマである。BBC放送局はこのモニター・スピーカーの研究をかなり古い時期、私が知る限り、一九五〇年代あるいはそれ以前から着手している。少なくともBBCがモニター・スピーカーを研究しようというきっかけを作った論文までさかのぼると、なんと一九四五年、昭和二十年までさかのぼることができる。
 これはちょっと余談になるが、BBCで定期的に刊行している「BBCクオータリー」という本があるが、BBCのスピーカー担当の専任技術者であるショーターという人の論文が、なんと一九四五年のBBCクオータリーに載っている。一九四五年というと、日本が第二次世界大戦に敗れた年である。
 やがてこのショーターがBBCのモニター・スピーカー開発のチーフに選ばれて、具体的なスピーカー作りに着手し、これを完成したのが、一九五五年。そしてこれが製品の形をとり、完全な形で発表されたのが一九五八年(昭和三十三年)で、偶然にもレコードがステレオ化された年である。
 発表されたといっても、BBCの放送局の内部で使われるためのスピーカーであるため、一般市販はされなかった。またBBCは当時スピーカーを製造する設備、技術は持たなかったので、実際の製造を担当したのが、現在イギリスのKEFというブランドで知られている会社の現社長であるレイモンド・クックというエンジニアが協力して、製造を担当した。
 レイモンド・クックとショーターという二人の大変優れたエンジニアをチーフにして、BBCの最初のモニター・スピーカー〝LS5/1〟というスピーカーが完成したわけである。LS5という型番がBBCのマスター・モニター、つまり主力になる一番大事なモニターの頭文字で、そこに/が入って、LS5型の改良年代にしたがって、1型、2型、3型、4型とついて、現在のLS5/8型に至っている。一九五八年から数えてもずいぶんと年月がたっている。その間BBCは絶え間なく、モニター・スピーカーの改良を続けて釆た。

BBCモニターの技術波及効果
 ところでBBCモニターの開発のプロセスというのは、もうひとつ大事な面を持っていて、BBCが作ったモニター・スピーカーはもちろん市販はされないが、BBCのモニターの開発にともなってぼう大な研究が積み重ねられ、その研究の資料が大変豊富に揃っている。これをBBCは、日本でいえばNHKによく似た半官半民のような公共的な性格を持っているために、BBCのモニター・スピーカーに関する研究資料は一般に広く公開されるかそしてイギリスの各オーディオ・メーカー、中でもスピーカー専門メーカーが、このBBCのモニター研究を大いに参考にしていて、現在の新しいイギリスのスピーカーの一連のグループは、ほとんどこのBBCモニターの資料を参考にして作られているといっても過言ではない。
 その例として述べたKEFという会社がレイモンド・クックを旗頭として一九七三年になって、モデル104というブックシェルフスピーカーを開発した。これは今から七年前の当時のスピーカーとしては、すばらしく画期的な特性を待ったスピーカーだった。現在聴き直してみても、実にすばらしい音を聴かせてくれる。この104の出現を皮切りにイギリス国内で作られるスピーカーが少しずつ、大変完成度の高い製品となってきた。

KEFとスペンドール
 読者諸兄ご存じの、あるいは名前は聞いたことは無いまでも、オーディオ専門店にいって、見ることのできる英国スピーカーを列挙してみると、スベンドールBCII、それからよく似た形のロジャースPM210、ハーベスのモニターHL、こういった中型のとても手頃なサイズのスピーカーは、だいたいKEF104とほぼ似たような大きさで、多少、間口と奥行きが異なるが、この四種類のスピーカーは、ひとつのグループをなしている。これらのスピーカーはすべてBBCモニターから派生したといってよい。KEF104はいま述べたように、設計者であるレイモンド・クックがBBCとの協力の中でつかんだ技術的なノウハウを最初に実現させたスピーカーといってよい。それからスベンドールBCIIは、イギリスのスベンドールというとても小さなアッセンブリー・メーカーで、自分のところでユニットの生産能力を持たない会社だが、その小さなアッセンブリー・メーカーが作ったスピーカーだ。この会社の経営者であるスペンサーも、もとBBCの研究所にいた技術者で、BBCモニター・スピーカーの研究をしていた人物だ。
 その人がBBCをやめて作った全社なのである。
 このBCIIはもちろんBBCの系譜をひくが、もっと正確にいえば、今日本にほとんど入っていないBCIIの前のBCIというスピーカーがあり、これはそっくりそのまま、BBCの局内でも正式なBBCモニターの一つとして認められている。ちょっと我が国では人気が出ないせいか、輸入元が輸入していないが、現在でも生産されている。たいへん優れたスピーカーだ。

ハーベス
 さて、その次にロジャースがある。がその前にハーベスのモニターHL、これはまたたいへん正統派のBBCモニターの流れを汲むスピーカーで、ハーベスという会社の経営者も、ダッドリー・ハーウッドというが……この人物も実は、さっき出てきたショーター──BBCのモニター・スピーカーを最初に開発するチーフになった──が老年で引退することになったあとを継いで、長い間次の世代のBBCモニターの開発のチーフとして研究を続けてきた人だ。この人も停年で退職して、そしてハーベスという会社を作ったのである。その間BBCでほぼ三十年間、スピーカーの研究をしていたそうだ。たいへん長いキャリアを待った人だ。ショーターとレイモンド・クックが作ったモニターがLS5/1だが、このバリエーションがいくつか出来たあと、次にBBCのモニターの中で主力になったスピーカーが、LS5/5という機種だ。このLS5/5を完成させたのが、ハーウッドその人である。このスピーカーからスピーカーの振動板にベクストレンというプラスチックの素材が使われた。これは現在KEFのスピーカーがほとんどベクストレンを採用しているが、ベクストレンという振動板素材はハーウッドが中心になって開発したもの。そしてこの振動板を使ったLS5/5という現在のLS5/8よりひと回り小さいシステムが、現在でもBBC放送局のあちこちで現役として活躍している。BBCのエンジニアの中には「自分はLS5/5が一番好きだ」という人が大勢いる。たまたま今年の三月に、私はBBC放送局を訪問して、長いことBBCモニター・スピーカーにあこがれていた私は、ようやく念願がかないBBC放送局の内部をずっと見せてもらった時にも、LS5/5はかなりの数が活躍していた。

チャートウェル
 さてだんだん発展して、ハーウッドの下で働いていた若いエンジニアに、デヴィット・ステビングというこれも優れたエンジニアがいた。ステビングは、ハーウッドといっしょに研究中に、ベクストレンよりももっと優れた振動板がないものかといろいろ研究した結果、ポリプロピレンという素材を振動板に成型することに成功した。これがたいへん優れた性質を持っていて、新しくスピーカーの振動板に採用することになった。彼はなかなか山気が多かったとみえて、一九七四年にはBBCを退社して、自分の会社チャートウェルを作っている。正確にいうと彼は一九七三年に会社を発足させていたらしい。
 このチャートウェルという名前の由来は、スピーカーの特性を表すグラフのことをチャートといい、ウェルは〝優れている〟との意味で、〝特性グラフが優れている〟という意味だ。
 そして自分がBBC在籍時代に特許をとったポリプロピレン振動板を使った、スピーカーユニットを製造する会社としてチャートウェル社をスタートさせた。そして彼はBBCとコンタクトを取りながら新しいスピーカーの研究開発を進め、現在のLS5/8の原型となっているPM450をまず完成させた。これはポリプロピレンの30cmのウーファーと小さなソフトドーム・トゥイーターからなる2ウェイのなんの変てつもないスピーカーだ。これがなかなか優秀で、そしてこれをマルチアンプ・ドライブとしたものをPM450Eと名づけた。

そしてロジャースの登場
 そして発売の準備をしていたが、なにせエンジニアあがりのステビングは、経営の才能があまりなかったとみえて、たちまち経営不振におちいってしまい、一九七五~六年にかけてチャートウェル社は倒産寸前までいってしまった。ちょうどその時に、手を差しのべたのが現在のロジャースの製造元のスイストン・エレクトロニクス社で、これが現在イギリスでロジャースというブランドでたいへん勢いをつけてきている。このロジャースがチャートウェル社の研究設備、工場をそっくり買い取り、現在のチャートウェルの開発したスピーカーをそのままロジャースと替えて、売っているわけである。チャートウェル時代にBBCと共同研究、開発していたのがLS5/8で、この型番はチャートウェルからも一時、発表されたことがあるが、ほとんど陽の目をみないまま、ロジャースに受け継がれてロジャースLS5/8として、日本にも輸入されている。すでにBBCでも正式な採用が決定し、今年に入ってから続々と、BBCに納入されている。そしてこのLS5/8が、従来のBBCモニター・スピーカーと異なるのは、我々にも手に入るように一般市販が許されたことである。

ロジャース PM510
 従来BBCモニターは、全く市販されたことがなかったことからみれば、たいへん画期的なことである。BBCのモニター・スピーカーというのはまぼろしの名機ということで、ウワサのみや、ナゾにつつまれていたのだが、いまは自宅で聴くことが出来る。ただし、惜しむらくは、やはりプロ用、BBCの厳格な規格をパスさせるために、非常に組み立てに手間がかかり、生産台数も少なく、さらにBBCのLS5/8という名称で市販するためのライセンス科などから、非常に高価である。スピーカーにはパワーアンプが付属していて、アンプにくわしい人はすぐ気がつかれると思うがこのアンプがイギリスのクオード社の405なのだが、実は基本は405だがBBCの仕様によって大幅に内部が改良されている。後面をみるとわかるが、プロ用のキャノンプラグで継がれており、内部もかなりの手が加えられている。この405はもともとステレオ用なので、L、Rの二出力を持っているが、これをL、Rではなくて、スピーカーの高音と、低音用に分割してマルチアンプシステムとしている。一つのスピーカーに一台のステレオアンプが付属しているのはそういう事情による。したがって、そういうモロモロの事情からアンプ・スピーカーこみでナント九十九万円という値段になっている。ステレオでざっと二百万円というわけである。
 ともあれBBCモニター・スピーカーがまぼろしではなく、とにかく我々の手元に入るようになってきたわけである。
 実は最近朗報があって、ロジャースではこのドライブアンプを取り除き、かわりに通常のLCネットワークを組み込んだ、他のアンプで鳴らすことの出来るスピーカーシステム…基本はLS5/8とほとんど同じで、ただしBBCの規格をパスさせる必要はないので、もう少し調整プロセスをラフにして、大幅にコストダウンしたモデルをPM510(ファイブ・テン)という形で市販してくれた。つい二、三カ月前から我が国にも入ってきている。このスピーカーはここ数年来の、世界各国のスピーカーの中でも注目すべきスピーカーである。LS5/8ほどピシッと引き締まってはいないが、もう少し甘口というか、ソフトな肌合いをもったなかなかのスピーカーだ。LS5/8の九十九万円に対し、一台四十四万円という定価もたいへんうれしい。
 現在自分も買おうか買うまいか、まよっている。

ロジャースのラインナップ
 話がそれるがPM510というスピーカーは、ロジャースが新しく一連のスピーカーとして、末尾に10の数字がつくスピーカーのラインナップを整備して、510が一番上級機、その下に410、210、110。これを〝テン〟シリーズといい、呼び名は〝ファイブ・テン〟〝フォー・テン〟というように呼ぶ。さきほど述べたスベンドールBCIIとよく似た構成の210は〝トウーテン〟であり中堅機種である。ただし510はテン・シリーズの中では異色ともいえるもので、別格である。
 ロジャースには以前から、もっとミニサイズのBBCモニター・スピーカーのLS3/5というのがあり、正確には3/5Aであるが、LS3というのはいままで述べてきたLS5が、いわゆるメインの大型モニターであるのに対して、ミニサイズ、あるいは中型サイズに与えられるBBCの正式名称で、非常に小型のスピーカーだが、とてもそのサイズからは信じられないすばらしい音を聴かせてくれる。これもやはりBBCが局内で使う以外に一般市販を認めた例外機種である。
 というわけでBBCモニター・スピーカーは一九五八年までさかのぼれるという話。

LS5/1との出合い
 どうして私がBBCモニターに、これほど関心を持つようになったかというと、全く偶然の機会に、いまから十五年くらい前に、その当時のBBCモニターの最新のモデル、LS5/1の小改良型LS5/1Aを手に入れることができ、いまでも自宅に置いているのだが、このスピーカーを手に入れた時から、実はBBCモニターがなぜ、こんなにすばらしいのかと興味をもって、いろいろと文献を調べているうちに、つい探入りをしてしまったわけなのだ。
 このLS5/1Aは、現在でもすごいスピーカーで、実は昨日も自宅でレコードを聴いていたほどである。
 しかしそのすごいスピーカーをベースに着々と改良を加えてきたのが現在のLS5/8であることを思うとその実力をわかってもらえると思う。

男性アナウンサーの声を…
 いままでBBCモニターの開発の系譜らしき話をしてきたが、BBC放送尚がこれらのモニター・スピーカーをどういう理想を持って開発しているかというと、これはかなり有名になってしまったが、たいへん興味探い話がある。
 スピーカーの音というのは、理屈だけではなかなかうまく作れないもので、作ってみては音を聴き、聴いてはその欠点を耳で指摘して改良するというプロセスを何回もへていくのであるが、BBC放送局ではその改良のプロセスに使う音の素材として、何を一番重視したかというと、〝男性アナウンサーの声〟であったということが昔から多くの文献に載っている。これは大変興味深い話で、我々が、スピーカーの音を聴き分けるのに、音楽をかけては欠点を指摘するわけだが、BBCでは、欠点を指摘する材料として、人の声を最も重視したというわけである。これはひとつには放送という性質上、アナウンサーの声ができるだけ正確に伝わられなければならないという目的があったにはちがいないが、スピーカー開発にともなういろいろな文献を読んでみると、むしろそうではなく、スピーカーの音を聴き分けるには、我々人間がいちばんなじんだ、人間の声を素材に使うのがいちばんいいのだということが書かれてある。そして人の声の中でも女件の声よりも男性の声の方がスピーカーを開発するのにむずかしいという事が書かれてある。男の声というのは、いうまでもなく女性の声よりもピッチが低く、そして男の声の一番低いピッチのあたりがスピーカーとしては一番むずかしいところらしい。そういえばよく悪いスピーカーを形容する言葉に胴間声という表現があるではないか。スピーカーを再生してみるとどうしても人の声が不自然になりがちである。また人の声ほど不自然さに気づきやすいという我々の耳の性質がある。そこでBBC放送局では、二つの隣り合ったスタジオを選んで、一方のスタジオに男のアナウンサーを座らせてて、朗読をさせておく。彼の前にはマイクロホンが立って、そのマイクからコードを引っ張って、隣りのスタジオでアンプを通して、開発中のスピーカーがアナウンサーの座ったところと同じ位置に置かれて、そしてアナウンサーの声と同じ音量に調節されている。そしてスピーカーの開発スタッフたちは、アナウンサーの生の声を聴いては、こちらのスタジオに来て、スピーカーの音を聴き、また隣りのスタジオにもどって生の音を聴いては、またスピーカーの音を聴くということを何度も何度も繰り返す。そうするとスピーカーの音がいかに不自然かということが指摘でき、その不自然さをさてどうして改良していこうか、ということになる。というのがBBCのモニター・スピーカーの主な開発テーマなのだそうだ。

適度な音量でモニター
 このことからも、彼らのスピーカーに対する要求というものがよくわかるような気がする。最も自然な音量での自然な音質ということで、決して音量を大きく出した時での音の良さではない。実際に私は、BBC放送局でモニターしている現場を見せてもらった時も、彼らは実に抑えた、おだやかな音量でモニターしているのを聴いて、なるほどと思った。概してアメリカや日本のレコーディング・スタジオでのモニターは、それこそ耳の鼓膜がしびれそうな音量でモニターしていることが多く、特に近頃のポップミュージックの録音の現場に立ち合ってみると、本当に聴き慣れない人だったら三十分もいたら、ヘトヘトになって、耳がガンガンしてしまう音量で、平気でミキサーはモニターしている。そしてモニター・スピーカーというものは、そういう音量に耐えられるスピーカーだというのが、主にアメリカや日本のひとつの常識になりかけている。イギリスのモニター・スピーカーは、決して馬鹿げた音景を出すことを考えていないで、ごくおだやかな音量でいい音を出すことがまず第一のテーマらしい。
 けれども時代は次第に大音最再生に流れているわけで、BBC放送局といえどもなにしろビートルズを生んだ国であるから、BBC放送局でもポップミュージックを放送する。そういう時にはかなりの音景でモニターしなくてはならないわけで、そういう大音量モニターということに対しては、古いモニター・スピーカーが次第に要求に応えられなくなってきたということも事実である。そのような背景もあって、新しいモニター・スピーカーを開発する必然性が生じてきたのだということが最近のLS5/8の誕生にも関係あるといえる。
(1980年11月、東京・渋谷の東邦生命ホールで行なわれた「フィリップス最新録音をBBCモニターで聴く会」での講演をまとめたもの。)