Daily Archives: 1977年12月15日 - Page 3

アルテック Model 19

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 従来のアルテックからみると、まず二つの点で大きく変っている。第一に、中〜高域のドライバーに、「タンジェリン・タイプ」と名づけられた新型を採用して、2ウェイでありながらハイエンドのレンジを延ばしていること。第二に、ネットワークをくふうして、中域、高域のバランスを独立にコントロールして細かくバランスの調整ができるようにしてあること。レベルコントロールには、HIGH、MIDそれぞれにOPTIMUMの表示をしてある幅を持たせてあるが、今回の試聴ではMID、HIGHともOPTIMUMの文字の〝O〟のあたりに合わせた。MIDをこれ以上上げると中音がやかましくなるし、HIGHも上げればレンジは広がるがややキャンつく傾向も出るので、右のポジションがよかった。置き方では、フロアーにじかに置くと低音がわずかにこもるので、ほんの数センチの低い台で持ち上げると、音の抜けがよくなった。左右にはあまりひろげると中央の音が抜ける傾向があった。総体にJBLのような緻密な質感とは違っていくらかラフな鳴り方だが、アンプの方でいろいろいコントロールしてみると、結局、ハイもローも適度におさえてナロウレインジに徹してしまう方が、中域のたっぷりして暖かく楽しい、アルテックの良さが生かされると感じた。アルテックはワイドレインジにしない方がいいと思った。

ボリバー Model 18

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶あかるくすっきりきこえるピッチカート。
❷奥の方でくっきりと示される。力強いとはいえないが。
❸個々のひびきに一応対応するが、積極的とはいいがたい。
❹低音弦のピッチカートはふくらみすぎる。
❺クライマックスでは、ひびきが空虚になり、刺激的になる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像が大きめで、響きにまろやかさがたりない。
❷ファゴットが、どういうわけか、ひっこみがちである。
❸響きが、ふくらみずき、重くなる傾向がある。
❹ひっこんで、はえない。さわやかさがほしい。
❺音色的な対比が、さらにすっきりついてもいいだろう。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声の自然なのびは示す。表情は幾分濃くなる。
❷接近感は示すが、音像が大きいので、充分な効果をあげるとはいえない。
❸声がひっこみ、クラリネットがふくらんで、バランスに問題がある。
❹はった声が硬くならないのはいいが、艶をなくす傾向がある。
❺響きはよくブレンドしているが、効果的とはいえない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶低い方のパートが、きわだつ傾向がある。
❷声量をおとしたことが、強調されるように感じる。
❸残響がまといついているとでもいうべきか。
❹鮮明さが不足するために、響きの綾がはっきりしない。
❺のびてはいるが、必ずしも効果的とはいえない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的な対比はついているが、音場的にいかにも狭い。
❷後へのひきが充分でないために、効果があがらない。
❸ひびきが充分に浮いているとはいいがたい。
❹横へのひろがりは示すが、前後のへだたりはつまりぎみである。
❺ひびきの力のないことが、マイナスに働いている。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ここでのひびきにしては湿度は高すぎるようだ。
❷ギターの音像は大きめなために、せりだしの効果がいきない。
❸もう少しくっきり示されないと、あいまいになる。
❹きこえるものの、ひびきに輝きがたりない。
❺一応きこえはするが、うめこまれがちで、はえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ベースの響きが強調されて、12弦ギターの響きの特徴がいきない。
❷響きの重心が低い方にかかりがちで、さわやかさにかける。
❸響きの乾き方が不足だ。全体に重くひきずりがちである。
❹ベース・ドラムは重くひびいて、充分な効果をあげえない。
❺言葉のたち方が、不充分である。バック・コーラスの効果は稀薄だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶入れものの中でのように響いて、力感が感じられない。
❷もうひとつ鮮明に、くっきり示してもいいだろう。
❸音の消える尻尾は、不鮮明で、はっきりしない。
❹鋭く反応できているとはいいがたい。下にいくほどひきずりがちだ。
❺音像的に差がありすぎるので、不自然である。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶響きは、切れが鈍く、重い。もっとシャープでもいいだろう。
❷どういうわけか、細く、弱々しくなる。
❸響きに本来の力が不足しているので、効果がいきない。
❹さまざまな響きがいりまじって、音の見通しがつきにくい。
❺もう少しめりはりがくっきりついてもいいだろう。

座鬼太鼓座
❶奥へのひきがとれないためか、かなり前の方にでてくる。
❷尺八の音は、もう少し乾いて、脂っ気のない方が望ましい。
❸きこえることはきこえるが、くっきりととはいいがたい。
❹一応の響きの広がりは示すが、スケールゆたかにとはいいがたい。
❺この響きの特徴である硬質さが充分に示せているとはいえない。

パイオニア F-007

井上卓也

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 F007は、基本性能をF26におき、シンセサイザー方式を導入したモデルだ。100kHzおきに受信局を選択するこのタイプのダイアル精度をゼロとする目的で、本機には、ダイアルスケールにコード版がセットされ、これを光で検出する方式が採用されているのが、ユニークで大変に素晴らしい。

JR JR149

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 B&WのDM4/IIと価格もほとんど同じ、そして同じくイギリス生まれとなると、とうぜん両者の比較に興味が湧く。まず総体に、DM4/IIがあくまでモニター的に真面目に音を聴かせるのと全く対照的に、JR149の音は響きが豊かで、暖かみのあるアットホームな雰囲気を持っている。このいかにもくつろいだ響きの豊かさは、他のスピーカーとくらべてもJRの最大の特徴で、ことにオーケストラ録音のレコードの場合など、目の前にいっぱいに音をひろげて展開する感じで、いわゆるアンビエンス効果(周囲を音にとり囲まれたような感じ)がよく出るスピーカーだ。DM4/IIのところでも書いたように、楽器の構造を正確に聴き分けようとすると、B&Wよりも細かな声部がやや正確さを欠くようで、いわばB&Wよりも不正直にはちがいない。その点はバルバラのシャンソンでも、伴奏のアコーディオンの音がDM4/IIより細かく聴こえ、それらのことからおそらく帯域ないでどこか薄手の部分があることが想像できるが、反面、すべてのレコードで、音のひろがり、奥行き、音の溶け合いの豊かさを含めて柔らかく耳当りよく響かせる所が特徴といえる。やや雰囲気重視型だが、楽しめるという点では随一かもしれない。置き方や組合せにあまり神経質でなく使いやすい。ただし能率はB&Wよりも聴感上で6dB近く低かった。

パイオニア A-0012

井上卓也

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 パイオニアの新シリーズのプリメインアンプは、4モデルあり、A0012は、トップ機種でその外形寸法が他のモデルより1サイズ大きい。フロントパネルは、主機能を上部に、他の副次的な機能は下側のスモークグラスのヒンジ付サブパネル内に配置した使いやすさを狙った構成が特長である。
 内容的には、パワーアンプ部に、セパレート型のM25でおこなった超高域でも十分パワーを獲得し、可聴周波数帯域内のクォリティを向上するマグニワイドパワーレンジの構想と、小音量時の音質を改善する目的で3W以下の出力では純Aクラス動作、それ以上は徐々に定格出力までBクラス動作に近づくABクラス動作が採用されている点があげられるが、これはシリーズ共通の特長である。また、MCヘッドアンプイコライザーのSN比は、カートリッジ実装時の値を重視して追求されている点も見逃せない。
 機能的には、1dBステップのパイオニア方式ツインコントロール、DC構成のイコライザー部とパワーアンプ部を直接結合して使うためのオーディオミューティングスイッチ、ファンクション表示インジケーターなどが目立った点である。
 このモデルは、豊かに響くやわらかいスケール感がある低域から中低域をベースとし、粒立ちが細かく滑らかに磨かれた中域から高域の音が印象的だ。トータルの雰囲気がかなり洗練され、安定した大人の魅力を十分に感じさせる。反応は適度といえる。

トリオ LS-707

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきは薄く、遠くにきこえる。音に力がほしい。
❷もう少しくっきりひびきのりんかくがついてもいいだろう。
❸ひろがりをたっぷりと感じさせて、それぞれの音色を明示する。
❹低音弦のピッチカートがふくらみすぎる
❺一応迫力ははやかに示すが、もう少しひびきに力がほしい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は、きわめて大きくふくらむ。
❷音色的な対比はなされているが、不自然なところがある。
❸ひびきそのものにキメ細かさがほしい。
❹特徴をきわだたせはするが、誇張感がある。
❺右とほぼ同じことがいえる。ひびきにしなやかさがほしい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶残響の非常に多い部屋ではなしているようにきこえる。
❷接近感がもう少しあきらかになってもいいだろう。
❸クラリネットの音像がかなり大きい。声も前にはりだす。
❹はった声はニュアンスにとぼしいものとなる。
❺くっきり提示するがいくぶんこれみよがしだ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶右端のバスがせりだしがちで、定位があいまいになる。
❷ひびきが全体にひきずりだかちで、言葉のたち方が弱い。
❸残響を拡大するため、鮮明さの点で不足だ。
❹吸う息を誇張ぎみに示す傾向がなくもない。
❺一応はのびているが、自然なのびとはいいがたい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンという高い音はいいが、ポンという低い音に力がほしい。
❷ひっそりとしのびこむべきところが、そうはなっていない。
❸音がバラバラにきこえる傾向がなくもない。
❹シンセサイザーの特徴的なひびきが示されにくい。
❺ひびきは横にひろがり、ピークはメタリックになる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶このひびきは、もう少し透明に、ひっそりとひびいてほしい。
❷ギターの音像は大きく、横にひろがりつつ、前にせりだす。
❸ひびきそのものに力が不足ぎみなので、実在感がとぼしい。
❹くっきりとひびき、ききのがしようがないほどだ。
❺これもまた、かなりきわだってきこえる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ベースのひびきが強調されて、12減ギターの特徴をききとりにくい。
❷音の厚みということでいえば、いくぶんものたりない。
❸ひびきが湿っていないのは、このましい。
❹ドラムスの音像はかなり大きく、ひびきはひきずりがちだ。
❺バック・コーラスがもう少しとけあってきこえてもいいだろう。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶ダブルベースの大きさを感じさせる。
❷指を弦の上をはしらせている音には誇張感がある。
❸弦をはじいた後の音の尻尾は示すものの、ひびきの力がもうひとつだ。
❹細かい音に対しての反応がもう少しシャープでもいい。
❺音像差の点でいくぶん不自然なところがある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ひびきが横にひろがり、リズムの切れが甘い。
❷ブラスの中央からのつっこみは、刺激的なひびきになりがちだ。
❸ひびきとして拡大されがちだが、前にせりださない。
❹後方へのひきは充分だが、見通しはつきにくい。
❺もう少し軽いひびきで、鋭く反応してもいいだろう。

座鬼太鼓座
❶尺八は奥の方でひびくものの、入れものの中でひびいているかのようだ。
❷ひびきに乾きがあり、尺八らしさが感じられる。
❸ききとることができるが、音の輪郭ははっきりしにくい。
❹大太鼓の音の消え方を伝えるが、スケールゆたかとはいいがたい。
❺ききとれる。ここで求められる一応の効果はあげる。

JBL L200B

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 L200もBタイプになって格段に音質が向上して、JBLはこのところ乗りに乗っていると実感できる。実に音の質が高く緻密で、これが鳴り始めると、これ以前に聴いた数多くのスピーカーとは格が違う、と思わせる。もちろん、タンノイのARDENやKEFの105や、ルヴォックスのBX350など、イギリスやドイツのスピーカーの鳴らすあのしっとりと潤いのある、渋く地味な音、しかしそこにえもいわれぬ底光りのするような光沢を感じさせるような音とくらべると、JBLの音は良くも悪くも直接的だ。ことにL200Bのようにスーパートゥイーターのついていな、ハイエンドを延ばしていないスピーカーの音は、骨太で、よくいえば男性的なたくましさのある反面、クラシックなどでは図太さあるいは音の構築の細部に対して見通しの利かない部分がある。いわば本当のデリカシーやニュアンスを欠いている。しかし、音量を絞ってもまた逆にどこまで上げていっても、少しも危なげのない、ピアノの打鍵音で全くくずれずに安心して身をまかせられる良さは、ヨーロッパ系のスピーカーにはとうてい望めない。ことにポップス系では、最高域をあえて伸ばさない良さがはっきり聴きとれる。床に直接置いても低音が重くなったりこもったりすることが全くない。ただし、アンプにはグレイドの高いセパレート型が欲しくなる。

ラックス T-12

井上卓也

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 T12は、クォーツロックFM専用チューナーで、最適同調点でツマミは機械的にロックするユニークな機構を採用している。

デンオン SC-105

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶あかるくひびくピッチカートの音。木管の音色の特徴もよく示す。
❷くっきりきこえる。響きの重さを強調しないよさがある。
❸さまざまなひびきの特徴を鮮明に示す。
❹キメこまかなひびきをきかせる第1ヴァイオンのフレーズ。
❺刺激的にならず、一応のゆたかさもあり、好ましい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は小さく、くっきりして、さわやかである。
❷音色的な対比を、誇張感なく、さわやかに示す。
❸「室内オーケストラ」の響きの特徴をよく伝える。
❹薄味ながら、すっきりと示して、効果的だ。
❺独特の鮮明さがあるものの、ことさらはりだしてはいない。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声に強調感がなく、自然に、のびやかにきこえるのがいい。
❷接近感をくっきり、誇張感なく示すのがいい。
❸クラリネットの音色はまろやかでこのましい。
❹はった声は硬くなりがちだが、通常の声はしなやかでいい。
❺バランスが自然で、響きの明るいのがいい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶上下の音のバランスがいいので、凹凸がない。
❷声量をおとしたことを、特に意識させない。
❸残響の強調がないために、すっきりときこえる。
❹響きはいくぶん重めだ。もう少しぜい肉がとれてもいい。
❺自然なのびで、すっきりとまとまっている。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色対比も、音場的対比も、充分に示されている。
❷ひびきは、不自然になることなく、ひっそりとしのびこむ。
❸ひびきのとびかい方に軽さがあるので、広々と感じられる。
❹前後のへだたりは、充分に示しえている。
❺ある種の鮮明さは保つものの、ピークではきつくなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひびきの透明感はある。ひろがりを示しえている。
❷ギターの音像が大きくふくらんでいないのがいい。
❸ふくらみすぎず、くっきり示されて、きわめて効果的だ。
❹輝きをもって響いて、充分に効果的である。
❺うめこまれることなく、きわだってきこえる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶上下のバランスがよく、12弦ギターの特徴をよく示す。
❷独自の効果によく対応して、効果をあげる。
❸響きは乾いていて、反応もシャープである。
❹ベース・ドラムの、力があって重くならない音がいい。
❺言葉はよくたって、鮮明だ。バック・コーラスの効果も示す。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶ふやけることのない響きで、力強さをよく示す。
❷なまなましさを感じさせはするが、誇張感はない。
❸音の消え方には、独特の自然さがあって好ましい。
❹シャープに反応できているので、迫力も一応示す。
❺音像的対比の点でもさしたる問題はない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶軽い音で鋭く反応しているので、ききやすい。
❷つっこみの鋭さは充分に示されているが、力感の点では多少不足だ。
❸必ずしも積極的とはいいがたいが、一応の効果はあげる。
❹奥行きがとれていて、音の見通しがつきやすい。
❺めりはりをくっきりつけて、あいまいにならない。

座鬼太鼓座
❶奥行きがとれているので、広がりが感じられる。
❷尺八の響きの特徴をよく示して、好ましい。
❸過不足なく自然なバランスでききとれる。
❹一応のスケール感も示し、消える音の尻尾も明らかだ。
❺くっきりきこえて、効果をあげている。

ラックス C-12, M-12

井上卓也

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 新世代のラックスを意味する技術志向が前面に出たラボラトリー・リファレンスシリーズのセパレートアンプをベースとして、より入手しやすいコストのモデルとして開発されたのが、この一連のセパレートアンプである。趣味としてのオーディオを熟知したラックスの製品であるだけに、最近の動向である薄型アンプの形態を採用し、キュートで、洗練されたデザインにまとめられている魅力は、むしろ兄貴分のラボラトリー・リファレンスシリーズに勝るとも劣らないものがある。
 C12は、単純機能のクォリティ優先型のモデルであるが、独得のリニアイコライザー、ツインT型サブソニックフィルターを備え、2系統のテープ入出力端子をもつ。回路は、すべてDC構成である。
 M12は、ブラックボックス風のユニークなデザインである。とくに、メッシュを通して、管球アンプ的な灯りが仄かに見えるのが楽しい。構成は、完全左右独立型のDCパワーアンプである。
 C12、M12の組合せは、クォリティの高い、外観とマッチしたキュートなスッキリとした音だ。リニアイコライザーで低域を補正するとスケール感が豊かな予想以上の余裕ある音を響かせる。

タンノイ Arden

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 タンノイの新シリーズが、アルファベットのABCDEでそれぞれ始まるニックネームでランク分けしてあることはよく知られているが、ARDENはその中の最高クラスだけのことはあって、音のスケールの大きなこと、響きの豊かなこと、とうぜん表現力の大きいこと、やはりさすがといえる。この上のGRFやオートグラフがオリジナル製品でなくなってしまったので、不満はいくらかあってもアーデンがタンノイの代表機種ということになるが、以前からの音像の芯のしっかりした、鮮度の高いしかしやかましさのない独特の味わいのあるタンノイ・トーンは相変らず残っていて、そこにいっそうのバランスの良さとレンジの広さが加わっている。たとえばKEFの105のあとでこれを鳴らすと、全域での音の自然さで105に一歩譲る反面、中低域の腰の強い、音像のしっかりした表現は、タンノイの音を「実」とすればkEFは「虚」とでも口走りたくなるような味の濃さで満足させる。いわゆる誇張のない自然さでなく、作られた自然さ、とでもいうべきなのだろうが、その完成度の高さゆえに音に説得力が生じる。ブロック程度の台に乗せた方が、そして背面を壁からやや離した方が、低域の解像力がよくなる。かなりグレイドの高いしっとりした音のアンプと、ヨーロッパ系の優秀なカートリッジが必要だ。

ダイヤトーン DA-P15, DA-A15DC

井上卓也

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ダイヤトーンのセパレート型アンプには、DA−P100/A100をはじめ、コントロールアンプとパワーアンプを機械的に結合すれば、プリメイン型化が可能な大変ユニークなコンストラクションを採用したDA−P10/A15に代表される一連のシリーズがあるが、今回発表された製品は、コントロールアンプは完全な新モデルであり、パワーアンプは従来の機種に改良をくわえたモデルである。また、コントロールアンプが19型ラックマウントタイプとなったために、パワーアンプとのドッキングはできない。実用上では問題はないがやや、残念な感がないでもない。
 DA−P15は、DA−P7/P10の上位に位置づけされるコントロールアンプである。
 フロントパネルは、スッキリとしてシンプルな19型ラックマウントタイプであり、最近の動向を反映したものだ。外観からは一般的なコンストラクションと受け取れるが、内部は、前シリーズで採用した2台のモーラルアンプを機械的に結合した、2モノーラル構造を踏襲している。
 機能的には、コントロールアンプらしくMCヘッドアンプ内蔵、テープデュプリケート、ターンオーバー可変型の左右独立したトーンコントロール、スピーカー切替など、現在の標準装備といってよい。
 DA−A15DCは、基本的には従来のDA−A15をDCアンプ化し、高域特性を改善したモデルである。ダイヤトーンのパワーアンプは、DA−A100以来、機能を象徴したユニークなデザインを採用している点に大きな特長があり、フロントパネルを持たないために、本来のセパレート型アンプの楽しみである任意のコントロールアンプとの組合せが、デザイン的な制約なしに可能なメリットがある。コンストラクションは、左右独立した2モノーラル構成であり、スピーカー切替はリレーを使い、コントロールアンプ側でリモートコントロールする方法を採用している。なお、シリーズ製品としてDA−A10DCとチューナーのDA−F15がある。
 この組合せは、コントロールアンプの性能が従来のDA−P7より一段と向上しているために、スッキリとした聴感上のf特が広く、歪感が少ない粒立ちの細やかな現代的なサウンドで、パワーアンプの150W+150Wのゆとりが、より十分に感じられ、スケール感も大きい。

オーレックス SS-930S

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 バランスポイントをみつけるまでに、かなり時間のかかったスピーカーだ。フロアータイプだが、台なしで床にじかに置くと、低音のこもりがかなり耳ざわりだ。ブロック一段の上に乗せてみると、こんどは低音が不足する。そのまま背面を壁につけるようにしてみて、一応低音は出るようになったが、こさ」も他の多くの国産フロアータイプと同じように、試聴室にモルトプレンの吸音ブロックを多目に入れてデッドにした方が総合的にはよかった。このスピーカーは大型にもかかわらず音量の大小によって音色やバランスが変わりやすい傾向を聴かせる。音量を中程度以下におさえているかぎりは、一聴してソフトでむしろ音が引っ込んでいるといいたいようだが、フォルテからffと音量が上ってくると、途中から中〜高域の一部がかなり張り出してくる。音量でいうと平均で80dB近辺から、この試聴室でのパワーでいえば1〜2Wまでは一応いいが、3Wをしばしば越えるようになると急にカン高い音になる。低域は置き方でかなり調整したつもりだが、ベースの音は重い、というより鈍い。ピアノも鍵(キイ)が太くなったような印象だ。シェフィールドのテルマ・ヒューストンの歌は音量を上げて聴きたいところだが、リズムが粘って重く響きがつきすぎる感じ。ピカリング4500Qのような強烈なカートリッジにしてみると一応は楽しめる。

ヤマハ NS-10M

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートの響きは、薄く、細く、力に不足している。
❷あいまいにはなっていないが、低音弦の力が感じとれない。
❸フラジオレットの特徴的な響きは、はっきりしない。
❹第1ヴァイオリンの響きに艶がなく、かさかさしている。
❺かん高い響きで、刺激的になり、なめらかさがたりない。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像が大きくないのがいいが、ピアノ本来の力が感じられない。
❷音色的対比は、薄味だが、くっきりついている。
❸ふくらみすぎないのはいいが、響きがいかにも粗い。
❹すっきりときこえはするが、いかにも薄味である。
❺音色対比をくっきりつけて、さわやかである。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶接近感を充分に示すが、風呂場の中の響きのようだ。
❷まずまずというべきだろう。定位もいい。
❸響きが乾きすぎるためか、キメが粗くなる。
❹硬く、細く、刺激的になるのがおしまれる。
❺オーケストラ本来の響きの広がりに不足する。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶すっきり横に並んでいるとは感じとりにくい。
❷不鮮明にはなっていない。響きのたちも悪くない。
❸残響を強調していない好ましさがある。
❹明瞭ではあるが、響きが、もう少しとけあってもいい。
❺響きののびは、充分で、ある程度のしなやかさがある。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶広がりは必ずしも充分とはいえない。音色対比もいま一歩だ。
❷もう少ししなやかさがほしい。響きが硬い。
❸浮遊感がもう少しあるといい。めりはりをつけすぎているためか。
❹前後のへだたりは示されず。横にはひろがるが。
❺ピークでは、やはり刺激的な響きになる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶響きに透明感はあるが、広がりがたりない。
❷音像的に横に広がるので、効果的とはいいがたい。
❸響きのふくらみが不充分なため、本来の効果から遠い。
❹きわだってきこえて、エフェクティヴである。
❺うめこまれないで、響きの特徴を示す。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ベースが不足ぎみなで、ギターの音がきわだつ。
❷ひびきの厚みはかならずしもあきらかになっていない。
❸はっきりときわだつ。低い音とのバランスは必ずしもよくない。
❹乾いているというより、薄く、軽すぎる。
❺刺激的なひびきになり、バック・コーラスの効果が稀薄だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶入れものの中でひびいているかのようだ。
❷指が弦の上をすべる音はきこえる。一応のなまなましさがある。
❸響きの消え方は、ほとんどききとれない。
❹くっきり示しはするが、力感にとぼしい。
❺あたかも別の楽器ででもあるかのようにきこえる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスのアタックの強さが充分に示されない。
❷鋭さと、響きの輝きはあるが、刺激的になる。
❸充分にはりだしてはするが、わざとらしさがついてまわる。
❹後へのひきが充分にとれているとはいえない。
❺あいまいにならないのはいいが、迫力は感じとりにくい。

座鬼太鼓座
❶ひきがもうひとつたりない。比較的手前できこえる。
❷ひびきが脂っぽくなっていないところはいい。
❸一応はきこえはするが、きわめてかすかだ。
❹響きの消え方は、ほとんどききとれない。
❺かすかにきこえはするものの、なまなましさにとぼしい。

アキュフェーズ C-200S, P-300S

井上卓也

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 アキュフェーズのコントロールアンプC200とパワーアンプP300は、同社の第1弾製品として、すでに4年間にわたりセパレート型アンプのトップランクの製品として定評を得ている。今回の新製品は、これをベースとして現時点での最高水準の性能を実現するために改良、変更が加えられたものであり、それぞれ型番末尾にSをつけた新モデルに発展している。なお、同社では従来モデルを愛用しているファンのために、Sタイプ仕様の改造を引き受けており、これにより、主にフロントパネル関係を除いてSタイプと同等の性能にグレイドアップすることができる。最近では、とかく新製品発表が多くなっているが、高級アンプほど新製品に買換えることは至難であり、メーカーへの信頼感が薄らぐことが多いが、今回のSタイプの発表に際して採用された従来品を改造するプランは高級ファンをつかんでいるアキュフェーズらしい細やかな配慮である。
 C200Sは、各ユニットアンプのICL化、ミューティングスイッチ、プリアンプ出力ON−OFFスイッチ、ヘッドフォン利得の向上、フィルター関係の整理などをはじめ、パネルの色調が一段と濃くなった点が主な変更点である。
 P300Sは、DCアンプ化された他に、1dBステップの入力調整、高域フィルターの除去、メーター目盛にW表示の追加、オーバーロードにも強い保護回路、M60などと共通化された増幅度、出力端子の変更などがある。
 Sタイプとなって、この両機種の組合せの音は、今までの力強く緻密な音を保ちながら、性能の向上により、その物理的特性に裏付けられたような、一段とクリアでスッキリと抜けた、リファインされたものとなり、現代高級アンプらしさを身につけている。

「曖昧沼からの脱出ができればと思って」

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 結局は、主観な作業でしかないのはわかっているが、だからといって恣意的な発言がゆるされるというものではないだろう。せめてどのレコードのどの部分のどのあたりをきいたのかを、はっきりさせようと思った。そのことから考えついた、ごく大雑把なものでしかないが、試聴につかった部分を図表にして、特に注意してきいた部分で、しかもああ、あそこのことかと、それらのレコードをきいたことのある方に、すぐにわかっていただけそうな部分を、それぞれのレコードについて書きだした。
 ききとってメモにしるしたのは、その五つにとどまれなかったが、あまり数をふやして、煩雑になることをおそえ、五つにとどめた。
 当然、そこで言葉は、しごくそっけないものにならざるをえなかった。ひとつのポイントについて30字以内で書かなければならないという制約もあった。しかし、試聴してのメモには、本来、美辞麗句が入りこみようがないものと思う。即物的な言葉でことたりた。そのようにすることで、多少なりとも、あいまいさからのがれられたといえるかもしれない。
 できるかぎり音楽を構成する音に即して、きいて印象をしるそうとしたがゆえの、ひとつの方法だった。むろん充分にその目的を達しえているなどとは思わないが、多少なりとも、あいまいさから遠ざかることができたかもしれない。

レコードA
「カラヤン/ヴェルディ、序曲・前奏曲集」

カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー
(グラモフォン MG8213-4 録音=1975年9月22日〜30日、10月21日、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)より、オペラ「仮面舞踏会」前奏曲 演奏時間=4分32秒。

 ヴェルディがその中期に完成したオペラ「仮面舞踏会」のための前奏曲は、オペラの内容を実にたくみに暗示したすぐれたものだ。ヴァイオリンのピッチカートで開始され、それにフルートとオーボエがピアニッシモでこたえる。そして次第に音の厚みをましていってクライマックスに達するが、そうした推移のうちに、中期のヴェルディならではの、手のこんだ、しかも有効な楽器のあつかい方が示される。その微妙な響きの色調の変化をどこまでききとりうるかが、ひとつのポイントになるだろう。

0’→
❶=ヴァイオリンによるピッチカートが左から鮮明にききとれるか。それにこたえるフルートのとオーボエのピアニッシモによるフレーズの音色が充分にわかるか。

0’53″→
❷=チェロとコントラバスによるpppのスタッカートが、あいまいにならず、いくぶん奥の方にひろがっているか、ここで響きがぼけると、スタッカートである意味が薄れる。

1’35″→
❸=主旋律を奏するフルート、オーボエ、クラリネットに、第1ヴァイオリンがフラジオレットでからむ。その独特な音色が充分にききとれるかどうか。

2’05″→
❹=第1ヴァイオリン以外の弦楽器はピッチカートを奏している。主旋律はエスプレッシーヴォと指示された第1ヴァイオリンで、ピッチカートがふくれず、ゆたかに響くか。

3’35″→
❺=ホルン4本、トロンボーン3本、それにオフィクレイド等も加わっての、フォルティッシモの総奏が、音がわれたりにごったりせずに、ききとれるか。

レコードB
モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番変ホ長調

アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)、ネヴィル・マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団
(フィリップス X7700 録音=1975年12月18日〜20日、ロンドン、ウェンブリー)より、第3楽章の冒頭1分20秒。

 ここでつかったのは、K482のコンチェルトの、第3楽章の冒頭である。この第3楽章は、アレグロで、ロンド形式によっている。ピアノと弦楽器で、ロンド主題が示されて、曲は開始されるわけだが、ここでまずきくべきは、「室内管弦楽団」の響きの軽やかさと、フルート、クラリネット、ファゴット等の木管楽器の響きの色調だろう。ブレンデルによってひかれたピアノの音には、独特のまろやかさがあるが、それがオーケストラの響きといかにとけあっているかも、むろんポイントのひとつになる。

0’→
❶=弦楽器群にかこまれて、8分の6拍子の軽やかなメロディを奏しはじめるピアノの音像が大きくなりすぎることなく、中央にくっきり定位することが望ましい。

0’26″→
❷=2ほんのファゴット+2ほんのホルンによる和音と、それにつづく2本のクラリネット+2本のホルンによる和音の、音色的な対比が充分についているかどうか。

0’43″→
❸=オーケストラのフォルテによる総奏が、「室内管弦楽団」によるものならではの軽やかさをあきらかにできているかどうか、それがこの部分のポイントになる。

1’→
❹=そよ風を思わせる、第1ヴァイオリンの、8分音符+8分音符による単純なフレーズが、これみよがしにならず、しかもすっきりと、左からきこえるかどうか。

1’05″→
❺=ソロをとるファゴット、ついでフルートの音色が、ここでみさだめられる。それらの楽器がことさらはりだすことなく、しかし鮮明にきこえることが望ましい。

レコードC
ヨハン・シュトラウス:オペレッタ「こうもり」全曲

ヘルマン・プライ(バリトン)、ユリア・ヴァラディ(ソプラノ)、ルチア・ポップ(ソプラノ)他 カルロス・クライバー指揮バイエルン国立管弦楽団
(グラモフォン MG8200-1 録音=1975年10月〜1976年3月 ミュンヘン、ヘルクレスザール)より、第2面の冒頭2分20秒。

 第2面の冒頭とは、ロザリンデ、アイゼンシュタイン、アデーレによる三重唱(第4曲)に先だつセリフの部分から、三重唱の途中までということだが、セリフで語られるドイツ語は、声のひびき方をきくのに絶好だ。そして三重唱に入っての、声とオーケストラのバランスも、スピーカーによって、きこえ方がちがった。オーケストラの中のソロをとる楽器の音色についても充分に注意をはらう必要がある。

0’02″→
❶=ロザリンデに呼ばれて、やってくるアデーレの言葉 “Ja, gnadge Frau?” が、少し離れたところから近づいて来るよう
にききとれるか。

0’22″→
❷=アイゼンシュタインが、言葉にならない言葉を口にしつつ、足音とともに登場する。その接近感があきらかにならないと、この場の雰囲気はあきらかにならない。

1’→
❸=ロザリンデがうたいはじめた時、オーケストラでまず耳につくは、分散和音を奏するクラリネットだ。そのクラリネットの音がまろやかに響くかどうか。

1’52″→
❹=ここでロザリンデは、”Aus Jammer werd’ ichg’wiβihn schwarz und bitter trinken.Ach!” とうたって、声をはるが、その時、はった声が硬くなっていないか。

2’15″→
❺=ロザリンデ、アデーレ、アイゼンシュタインの3人がうたいだしたところで、音楽は4分の2拍子になるが、そこでタンブリンがきこるかどうか。

レコードD
「キングズ・シンガーズ/珠玉のマドリガル集」

キングズ・シンガーズ
(ビクター VIC2045 録音=1974年、ロンドン)より、今や五月の季節(トマス・モーリー)。演奏時間=1分48秒。

 キングズ・シンガーズは、カウンターテナー2人、テナー1人、バリトン2人、バス1人といった6人構成のグループだが、トマス・モーリーの「今や五月の季節」をうたうキングズ・シンガーズは、左から右へ、カウンターテナー、テナー、バリトン、バスの巡でならんでいる。その、いわゆる定位が、ちゃんとききとれるのかどうかは、このレコードの場合、最大のポイントになる。それからむろん、うたわれている言葉がどれだけはっきり示されるのかも、問題になる。多少残響が多めのこのレコードの特徴がネガティヴに働くこともあるからだ。

0’→
❶=左端のカウンターテナーから右端のバスまでの定位がきちんとききとれかどうか、それをまず、ここでききとる。

0’09″→
❷=これまでにうたった部分を、今度は、声量をおとしてくりかえす。声量をおとしたことで、言葉が不明瞭になっていないか。

0’30″→
❸=第2節は、”The spring, clad all in gladness” とうたいだされるが、残響のために、言葉の細部がききとれないということはないか。

1’03″→
❹=第2節をしめくくる、ソット・ヴォーチェでの「ファラララ……」で、各声部のからみあいが明確にききとれるか。

1’45″→
❺=最後の「ラー」が、残響をともなって、のびているか。うたい終ってポツンとされてしまっては困る。

レコードE
浪漫(ロマン)

タンジェリン・ドリーム
(コロムビア YX7141VR 録音1976年8月、ベルリン、オーディオスタジオ)より、「ロマン」の冒頭2分30秒。

 タンジェリン・ドリームは、クリス・フランケ、エドガール・フローゼ、ペーター・バウマンといった3人の音楽家によって構成されている。彼らは、それぞれ、いわゆるマルチ・プレーヤーで、だからここでもさまざまな楽器を演奏して、まことにアーティフィシャルなサウンドをうみだしている。そういうサウンドの特徴が十全に感じとれることが望ましい。たとえばムーグ・シンセサイザーによる浮遊感のある響きの再現のされ方によって、ふたつのスピーカーの間の空間が、広くもなればせまくもなる。むろんその空間が広ければ広いだけ、タンジェリン・ドリームの音楽がききとりやすくなる。

0’→
❶=ピンという高い音とポンという低い音が、音色的にそして音場的に充分にコントラストがついて、示されているか。ここで提示されるリズムは、ここでの基本的リズムだ。

0’11″→
❷=後方から、シンセサイザーによるものと思える響きが、シンプルなメロディを奏してしのびこむ。それが次第に、それとわからぬように、クレッシェンドしていく。

0’25″→
❸=ヒュ、ヒュという音が、とびかう。その音が充分に浮遊感をもつことなく、しめってひびくと、ここで提示される空間は、せまくるしくなる。

0’55″→
❹=ピヨ、ピヨと書くより他に手がないひびきが、ひろがる。このひびきと、後方のシンプルなメロディーとが、前後の隔たりを示すことがのぞましい。

1’45″→
❺=オルガン的なひびきが、ひっそりとしのびこんできて、大きくふくれあがるが、そのピークで音がひずんだりしないか。またそのふくれ方が自然かどうか。

レコードF
アフター・ザ・レイン

テリエ・リビダル(エレクトリック・ギター、アクースティック・ギター、ストリング・アンサンブル、ピアノ、エレクトリック・ピアノ、ソプラノ・サクソフォン、フルート、チューブラ・ベルス、ベルス)
(ECM PAP9055 録音=1976年8月、オスロ、タレント・スタジオ)より、「アフター・ザ・レイン」の冒頭1分45秒。

 テリエ・リビダルは、ノルウェー出身のギタリストだが、ここでは、さまざまな楽器をひとりで演奏し、それ多重録音して、作品を完成している。しかし、ここできけるサウンドの特徴は、ひとことでいえば、透明感ということになるだろう。透明な響きの中に切りこんでくるエレクトリック・ギターのソリッドな響きがあり、その対比が充分に示されなければならない。

0’→
❶=後方での、ほんのかすかな、しかしひろがりを充分に暗示する響きが、透明感をもって示されるかどうか、それがここでのポイントになる。

0’07″→
❷=エレクトリック・ギターによる音が、中央からきこえてくる。この音は、音楽の進展にともない、次第に前にせりだしてくるが、それが感じとれるかどうか。

1’06″→
❸=タムタムとおぼしき音がきこえる。この音は人工的なひびきの中で、奇妙な実在感を示すが、それがあいまいにならずに、ききとれるかどうか。

1’21″→
❹=ベルス、つまり鈴が、そのきらびやかな音で、アクセントをつける。これは、音色的にまるでちがうが、先のタムタムと同じような効果をあげる。

1’25″→
❺=他のひびきの中に埋めこまれた鈴の音がきこえる。これは、きわめてかすかにひびくものだが、スピーカーによって、きこえたり、きこえなかったりする。

レコードG
ホテル・カリフォルニア

イーグルス
(ワーナー・パイオニア P
10221Y 録音=1976値本3月〜10月、マイアミ、クリテリア・スタジオ、ロス・アンジェルス、レコード・プラント)より、「ホテル・カリフォルニア」の冒頭2分。

 イーグルスの、レコードできける音は、重低音を切りおとした独特のものだ。そのために、ベース・ドラムなどにしても、決して重くはひびかない。そういう特徴のあるサウンドが、あいまいになっては、やはり困る。そして、ここでとりあげた2分の、前半の50秒は、インストルメンタルのみによっているが、その後、ヴォーカルが参加するが、そこで肝腎なのは、うたっている言葉が、どれだけ鮮明にききとれるかだ。なぜなら、「ホテル・カリフォルニア」はまぎれもない歌なのだから。

0’→
❶=左から12弦ギターが奏しはじめるが、この12弦ギターのハイ・コードが、少し固めに示されないと、イーグルスのサウンドが充分にたのしめないだろう。

0’25″→
❷=ツィン・ギターによって、サウンドに厚みをもたせているが、その効果がききとれるかどうか。イーグルスの音楽的工夫を実感できるかどうかが問題だ。

0’37″→
❸=ハットシンバルの音が、乾いてきこえてほしい。ギターによるひびきの中から、すっきりとハットシンバルの音がぬけでてきた時に、さわやかさが感じられる。

0’51″→
❹=ドラムスが乾いた音でつっこんでくる。重くひきずった音ではない。ドン・ヘンリーのヴォーカルがそれにつづく。声もまた、乾いた声だ。

1’44″→
❺=バック・コーラスが加わる。その効果がどれだけ示されるか。”Such a lovely place, such a lovely face” とうたう際の、言葉のたち方も問題になる。

レコードH
ダブル・ベース

ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ(ベース)
(スティーブル・チェイス RJ7134 録音=1976年2月15日、16日)より、「イエスタディズ」(ジェローム・カーン)の冒頭1分30秒。

 ここでは、ニールス・ペデルセンとサム・ジョーンズというふたりのベーシストが、演奏している。ペデルセンが右、そしてサム・ジョーンズが左に、定位している。ペデルセンによってひかれたベースの音は輝きにみちているが、サム・ジョーンズのものはしぶい色調をおびている。定位の点で、あるいは音像的に、さらには音色面、音量的に、両者の対比が示されなければならない。スピーカーによっては、サム・ジョーンズによるものが、音色的な性格が関係してのことか、音像的に小さく感じられるものもなくはなかったが、それでは困る。

0’→
❶=右からきこえるペデルセンによるベースの音が、充分に力強く、スケール感ゆたかにひびくかどうか。ダブルベースならではの迫力が示されなくてはいかんともしがたい。

0’08″→
❷=指を弦の上を走らせている音がきこえる。これはかなりオンで録音したことをものがたると同時に、録音のなまなましさをあきらかにしている。

0’25″→
❸=弦をはじいた後に、音が尾をひいて消えていく。その消え方がききとれるのか、それともプツンときれてしまうのか、そのちがいは、決して小さくない。

0’53″→
❹=力強い、しかしこまかい音の動きが、あいまいにならず示されているか。スピーカーが音に対してシャープに反応しないと、音の動きがわからなくなる。

1’02″→
❺=ここからサム・ジョーンズが参加する。両者の音色的、音像的、音量的対比が正しく示されなければなるまい。さもないとドゥエットの意味がなくなってしまう。

レコードI
タワーリング・トッカータ

ラロ・シフリン(キーボード)、エリック・ゲイル(ギター)、ジョー・ファレル(フルート)、ジェレミー・スタイグ(フルート)、スティーヴ・ガット(ドラムス)他
(キング GP3110 録音=1976年10月、12月、ヴァン・ゲルダースタジオ)より、「燃えよキング・コング」の冒頭1分

 すべての音が積極的に前に出てくることを特徴としている。ラロ・シフリンによる手のこんだスコアは、よく考えられたもので、なかなか効果的だ。ただ、さまざまな音が積極的に前にでてくることによって、見通しがわるくなっては、ラロ・シフリンがねらった効果は、半減してしまう。おしだしてくる音を通して、耳の視線がどこまでとどくか、それがこのレコードできいた場合の、ひとつのポイントになるだろう。

0’→
❶=左手からつっこんでくるドラムスのひびきで開始される。これがシャープに切りこんでこないと、この音楽のアタックの強さがあいまいになる。

0’09″→
❷=ブラスが中央を切りひらいてきこえてくる。この音に、ブラスならではの輝きや力が感じとれるかどうか。さもないと音色対比が不充分になる。

0’17″→
❸=フルートの力にみちた吹奏が、前の方にはりだすかどうか。この極端なクローズ・アップがこ音楽の性格を明確にするのに有効な働きをしている。

0’29″→
❹=トランペットが後方、幾分へだたったところからきこえてくる。しかし、くっきりとききとれねばならない。それがしかも、次第に近づいてくるのが、わからなければならない。

0’52″→
❺=左できざまれるリズムが、ふやけることなく、提示できているかどうか。それがあいまいになると、この音楽のめりはりがつきにくくなる。

レコードJ
座鬼太鼓座(ZAONDEKOZA)

(ビクター SF10068 録音データ不詳)より、「大太鼓」の冒頭1分。

 鬼太鼓座(おんでこざ)による大太鼓の演奏がおさめられている。その大太鼓の音は、エネルギーにみちたものだが、そのエネルギーの大きさは、多少離れたところからきこえる尺八の音と対比されてきわだつ。尺八の音がフルートの音のようにきこえては困るし、大太鼓の音にそれなりのエネルギーがなくては困る。ここで問題になるのは、音の消え方だろう。大太鼓がうちならされて音が生じ、それが次第に消えていく。その消え方が明らかにならないと、大太鼓の大きさが示されにくいということがあるようだ。サウンド的に決して複雑とはいいがたいこのレコードの音のポイントはその辺にあるといえよう。

0’→
❶=尺八が左奥からきこえる。これがあまりに奥でも困る。あまりにはりだしても困る。程よく距離感が示されていなければなるまい。

0’→
❷=同時に、尺八の音色が、西洋楽器の笛、たとえばフルートのそれのように脂っぽくてはいけないだろう。尺八独自の音色が十全にききとれるかどうか。

0’25″→
❸=一種のゴーストと思える、かすかな音で、大太鼓の音がきこえる。その音がきこえるスピーカーと、きこえないスピーカーとがある。

0’30″→
❹=大太鼓のスケールゆたかなひびきがききとれるかどうか。それと、大太鼓の音の消え方が伝わるかどうかも、この場合には、肝腎である。

0’40″→
❺=ふちをたたいていると思える音が、かすかに入っている。その音がきこえるのときこえないのとでは、雰囲気的にすくなからずちがってくる。

ヤマハ B-3

井上卓也

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ヤマハのセパレート型パワーアンプは、全段V−FET構成のBIが最初の製品として、バイポーラトランジスターとV−FETの長所を活かして開発されたB2は第2弾の製品としてすでに発売されている。今回発表されたB3は、形態的にもパワーアンプ本来の機能をシンボライズするような個性的なデザインとパワー段に静電誘導トランジスター(SIT)を純コンプリメンタリー方式に使ったDCパワーアンプである。
 デザイン的には、左右側面の長手方向に放熱版を配し、電源関係を含む入出力端子は残った2面の1面に集中しているが、入力レベル調整ボリュウムの軸は本体を貫通して対向面に伸長され、この面にもツマミがついているために、どちらが前面ともいえないユニークな設計である。この構造をもつため実用上での場所の制約は少なく、場合によれば立てても使用可能である。機能的にはパワーアンプだけにシンプルなタイプだが、スイッチによりBTL接続して140Wのモノーラルパワーアンプとして使用でき、今後とも増加すると思われるマルチアンプ化にもふさわしい製品である。
 すでに定評を得ているコントロールアンプC2は、発表時期からすれば、B2がペアになるが、細部の仕上げの異なった面を考えれば、むしろこのB3が本来のペアとなるパワーアンプのように思われる。この点は、組み合わせたときの音にも現われているようで、同じヤマハのサウンドではあるが、フレッシュで伸びやかであり、Cの2の魅力がより効果的に音に活きてくるように思われる。

トリオ KP-7700

井上卓也

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このモデルは、重量級ターンテーブルにより機械的な慣性を利用して滑らかな回転を得ておき、これにクォーツロック制御をかけて総合的な特性を向上しようとしている点は、ラックスの新モデルと同様な構想である。しかし、ダイレクトドライブ用のモーターに20極30スロットDCモーターを使用し、サーボ検出部は磁気的、機械的積分方式ともいえる180スロット3層ギアを使い、さらにターンテーブルの回転速度をそのまま電圧に変換する速度電圧方式としているのが特長だ。この方式は、回転数・周波数・電圧とも3段階に変換する従来方式よりも損失が少なく、クォーツPLL回転の応答を早くできる利点がある。
 その他、10mm直径のスピンドル、電子ブレーキ機構、ヘルムホルツ共鳴箱を利用したターンテーブルシート、デュアルサスペンション型インシュレーターなどを備えている。

ラックス PD444, PD441

井上卓也

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 五十年をこえる長いキャリアを持っているだけに、プレーヤーシステムの分野でもラックスの製品には、趣味性を活かしたディスクファン向きのユニークなモデルが従来からも存在していることは見逃すことができない。
 かつてのベルトドライブ全盛時代のターンテーブル軸受部分をフレキシブルマウントした製品や、最近での、アルミダイキャスト製のスケルトン構造フレームを採用し、アームの取替にカメラのバヨネット機構を導入したPD131/121は、とかく画一的な手法が見受けられるプレーヤーシステムのなかでは、性能、デザインはもとより、趣味性が活かされた優れた製品だ。
 今回発表された新モデルは、組み合わせるトーンアームの全長のさを、左右方向にスライドする剛性が高いアーム取付用ベースで調整する方法を採用した点に特長がある。ターンテーブルは、30cm直径、重量2・5kgのアルミダイキャスト製で、フライホイール効果をフルに活かし、サーボ系により制御不能な5〜10Hz以上の周波数帯域における外乱負荷変動を抑えている。この手法は、PD131でも採用されているが、今回はこれに加えて、軸受部分の荷重を軽減する目的で、モーターローターの下部に埋込んだ磁石と駆動固定コイルの上側に設けられたヨークとの吸引力を利用し、スピンドルに上向きの力を与え、実質的な軸受にかかる負荷を80%程度少なくし、モーターの駆動電流を大幅に減らし、SN比やワウ・フラッターなどの諸特性を改善している。また、電気的にはクォーツロックにより時間的、温度適度リフトを抑え、機械的なターンテーブルの慣性、フリー・ロード・スピンドル方式と組み合わせて、直流域から5〜10Hz以上の外乱負荷変動、ドリフトを抑えている。
 PD444は、ロングアーム取付可能な2本アーム用ターンテーブル、PD441はショートアーム専用の製品である。

ソニー TA-F6B

井上卓也

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 TA−F6Bは、プリメインアンプの電源に最初にパルスロック電源を採用した注目の製品である。MCヘッドアンプ、DC帰還付イコライザー、新開発のドライバー用IC採用のDCパワーアンプなどに特長があり、対数圧縮型の大型パワーメーターを装備している。

ソニー TA-N88, TA-E88

井上卓也

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 一般にオーディオ用パワーアンプには、Aクラス動作、Bクラス動作といったアナログ増幅法が採用され、電力増幅素子の出力側がスピーカーと電源の間に置かれ、素子の内部抵抗を変化させて負荷であるスピーカーに流れる電力をコントロールしている。この場合、電源からの電力はスピーカーのなかだけではなく、増幅素子によっても消費され電力の損失になるが、PWMアンプのようなデジタル増幅器では、扱う信号はパルスであるため、増幅素子は単純にオンかオフの動作しかない。つまり、デジタル増幅器では、増幅素子はスイッチの役目を果たすことになり、オンのときには抵抗値がゼロ、オフのときには無限大であれば、すべての電力が負荷であるスピーカーに供給されることになる。したがって、アンプの効率は100%になるはずだが、実際にはオンのときに抵抗値がゼロにならないため、効率は80〜90%になる。
 オーディオ信号をデジタル変換するためには、500kHzの搬送波をオーディオ信号で変調し、PWM波としておこない、これをデジタルアンプで電力増幅をし、フィルターで搬送波を除去し、もとのオーディオ信号を取出している。このタイプを採用した製品としては、米インフィニティのしプがある以外はなく、国内では、数年前からソニーで研究され、試作品として発表されたことがある。
 TA−N88は、これをベースとして製品化された国内最初の製品であり、電源にも高能率のパルスロック方式のスイッチングレギュレーターを採用しているため、画期的な超小型で160W+160Wのパワーを得ている。
 TA−E88は、PWNステレオパワーアンプ、TA−N88と組み合わせるプリアンプとして開発された製品である。本機のコンストラクションは、完全に2台のモノアンプを前後に並べ、入力端子から出力端子までの信号経路は最短距離を一直線にとおるように配置されている。機能は単純型でクォリティ重視の設計であり、各ユニットアンプは入力コンデンサーのないダイレクトカップリングのDCアンプ構成で、低雑音LECトランジスター採用のMC用ヘッドアンプを内蔵している。各使用部品は物理的にも聴感上でも厳選されている。
 この組合せの音は、従来のソニーのアンプとは一線を画した、滑らかで、明るく、伸び伸びとしたものであり、デジタルアンプ然とした冷たさがないのが好ましい。適度の暖かさがあるのは特筆すべき点である。

JR JR149

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきはあかるい。音色の対比は充分についている。
❷力強さに不足するところがあるが、ひびきのくまどりはたしかだ。
❸それぞれの特徴的な音色をすっきりと提示する。
❹低音弦のピッチカートが幾分ふやけがちなのがおしい。
❺迫力の点でもう一歩だが、鮮明なよさがある。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像が大きくならないが、ひびきのゆたかさに欠ける。
❷音色的対比は充分についていて、鮮明だ。
❸ひびきがふやけないので、「室内オーケストラ」の感じをよく示す。
❹これみよがしにならず、しかもすっきりと示されていて好ましい。
❺鮮明であり、さわやかで、よく対応できている。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶余分な音がまといつかず、すっきりときこえるよさがある。
❷さわやかに提示されて、声のなまなましさを感じさせる。
❸声と各楽器の音色的なバランスは、このましい。艶に不足するが。
❹声が幾分細くきこえて、はった声はかんだかく感じられる。
❺オーケストラのひびきの細部をさわやかに示す。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶すっきりしているが、ひびきが乾きすぎていないのがいい。
❷声量をおとした感じが、くっきりと示される。
❸残響をほどよくたち切って、言葉をたたせている。
❹個々のパートの音のからみをかなり鮮明に示す。
❺自然なのびやかさがあり、しかもしなやかだ。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的な対比は充分についている。音場的にもまあまあだ。
❷クレッシェンドも自然で、きれいにまとまる。
❸すっきりとしていて、しかも乾きすぎていないのがいい。
❹前後のへだたりが充分にとれているのでひろびろと感じられる。
❺しのびこみ方はひっそりとしていて美しい。ピークも一応こなす。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶にごり、しめりけのないひびきが、後方で、心地よくひろがる。
❷❶の音との対比が充分についていて、せりだし方は実に効果的だ。
❸音の輪郭がはっきりしているので、流れの上でのアクセントたりうる。
❹このひびきの特徴である輝きがきれいに示される。
❺すっきりきこえる。わざとらしくならないのがいい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ベースとのバランスがいい。12弦ギターの特徴をよく示す。
❷ここで求められている効果をつつがなく示す。
❸すっきり、ぬめりのないひびきで、示されている。
❹ひびきに力があり、言葉のたち方にも問題がない。
❺バック・コーラスの効果もよくいかされている。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶迫力は誇示しないが、一応の力は伝える。
❷過度にならないよさというべきか。ほどほどのなまなましさだ。
❸消える音の尻尾の提示は充分とはいえない。
❹シャープに反応して、充分な効果をあげている。
❺対比は、実に自然で、無理がなく、好ましい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶鋭さは特徴的だ。もう少し力強くてもいいが。
❷輝きは申し分ないが、力の提示はもう一歩だ。
❸いくぶんつつましげではあるが、一応有効だ。
❹後方へのひきがとれていて、見通しはいい。
❺あいまいになることなく、めりはりをつける。

座鬼太鼓座
❶自然な距離感を示し、したがってひろがりも感じられる。
❷尺八の音色的特徴をさわやかなひびきで示す。
❸きこえるものの、ことさら誇張はしない。
❹スケールゆたかなひびきとはいいがたい。
❺かすかであり、しかも自然で、アクセントたりえている。

ヤマハ NS-10M

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 白いコーンのウーファーの良さは、すでにNS451でも実証されているが(本誌37号参照)、今回の新製品も、帯域内でのバランスが周到にコントロールされてよくできたスピーカーだ。全域に亘って質の高い、そしてどちらかといえば耳当りの柔らかい音で鳴るので、いつまでも聴いていて疲れない。パワーにはかなり強く、メーターを見ていると瞬間的には指定以上の100Wをしばしば振り切れるほどの鳴らし方もしてみたが、腰くだけにならずに、ハイパワーにも耐えて音がよく伸びる。アンプやカートリッジの組合せを変えてみると、それぞれの音色の特徴に鋭敏に反応して鳴らし分けることから、基本的な素性の良さもうかがわれる。要するにこの小型スピーカーの見かけや価格から想像するよりもはるかに良い音がしてびっくりするわけだが、かといって、やはり大きさ相応に低音がそんなに低い方まで伸びているわけでなく、おそらくそれとバランスをとる意味か、高域端もあまり伸びきったという感じではない。国産にしては中高域のやかましさをよく抑えながら、中域の密度も適当だが、音量を上げたとき、オーケストラでは弦の音など僅かだが硬さが残る。置き方は、耳の位置よりやや低く、左右にひろげ気味にセットするとよい。部屋の特性に応じて背面と壁との距離を調節して、低音のバランスを慎重にコントロールしたい。

JBL 4343

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 いまや日本でも最も注目されているスピーカーのひとつになって、おそらくマニアを自称されるほどの愛好家のほとんどの方は一度は耳にしておられるはずなので、音質をこまかく言うよりもそれ以外で気づいた点を書く。まず第一に、いまでもこの♯4343が、ポピュラー系には良いがクラシックの弦やヴォーカルには音が硬いと言われる人が少なくないのに驚いている。もしほんとうにそういう音で聴いたとすれば、それは、置き方の調整、アンプやカートリッジや、プレーヤーシステムや、プログラムソースの選定、そして音を出すまでの数多くの細かな調整の、いずれかの不備によって正しく鳴っていないのだ。ただ、輸送の際の不手際か、トゥイーターの特性が狂っているのではないかと思えるものを聴いたこともある。また、店頭やショールームでというよりもこれはいくつかの試聴室での体験だが、もしも4343をこんなひどい音で鳴らして、これが本当に4343の音だと信じているのだとしたら、そういう試聴条件で自社のスピーカー開発し仕上げをしてゆくそのこと自体に問題があるのではないか、と感じたことも二度や三度ではなかった。それは4343が唯一最上のスピーカーなどという意味ではない。弱点や欠点はいくつもある。けれど、それならこれを除いてもっといい製品がが、現実にどれほどあるのか……。

スペンドール SA-1

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ひびきはあるかいが、薄く、細すぎるということもできるだろう。
❷くまどりはついているが、やはりもう少し力がほしい。
❸特徴的なひびきの対応のしかたにはかなり敏感なところがある。
❹第1ヴァイオリンのフレーズにたっぷりしたところが不足している。
❺本来の迫力を示しえず、クライマックスでヒステリックになる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像がふくらまないのはいいが、ひびきがやせている。
❷音色的な対比を、薄味なひびきだが、充分に示す。
❸細やかなあじわいはあるものの、しなやかさが不足している。
❹すっきりさわやかで、大変に好ましい。
❺さらにしなやかなところがあればいいのだが。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶余分なひびきがついていないなまなましさがある。
❷接近感をくっきり示すこのましさがある。定位はきわめていい。
❸クラリネットのひびきはもう少しまろやかでたっぷりしていてもいい。
❹はった声が硬くならないのは大変にいい。ただ、細めだ。
❺バランスがいいので、ききやすい。鮮明なよさもある。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶並び方に凹凸がなく、すっきりしていて、定位に問題はない。
❷声量を落としたのがわざとらしくならずに、その効果がいきている。
❸言葉のたち方は十全で、あいまいさはない。
❹各パートのからみを、すっきりと、あいまいにならずに示す。
❺自然なのびがある。無理のないところがいい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的にも、音場的にも充分にコントラストがついている。
❷クレッシェンドにとってつけたような不自然さのないのがいい。
❸ひびきの浮遊感は充分だ。せまくるしくなっていない。
❹前へのせりだしはいくぶん不足するが、奥へのひきは充分だ。
❺ピークになると、とたんにひびきがとげとげしくなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶白っぽいひびきでの後方でのしろがりは美しい。
❷もう少しくっきりひびいてもいいだろう。音に力がほしい。
❸ききとれるが、低い方のひびき方に空虚さがある。
❹輝きという点で、いくぶんものたりないところがある。
❺きこえなくはないが、うめこまれがちである。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶音にもうひとつ力がないので、軽くなりすぎている。
❷ここで求められている効果が充分に発揮されていない。
❸ひびきがいかにも薄く、力不足なのがおしい。
❹ベース・ドラムの音が乾きすぎていて、パサパサしている。
❺言葉のたち方は一応だが、楽器とのバランスがよくない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶あたかも何かの入れものの中でひびいているようだ。
❷一応示しはするものの、本来のなまなましさはない。
❸消える音の尻尾は、ほとんどききとれないといってもいいほどだ。
❹ひびきそのものに力がないためだろう、あいまいになりがちだ。
❺音像対比の点で、少なからず問題がある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶アタックの強さの提示が充分でないために、めりはりがつきにくい。
❷ブラスのきこえ方が、ヒステリックになっている。
❸一応前の方にはりだすことははりだすが、空騒ぎめく。
❹へだたりはとれているものの、トランペットのひびきはかん高い。
❺あいまいではないが、反応は甘くて、しまらない。

座鬼太鼓座
❶一応の距離感は示せて、ひろがりは感じられる。
❷脂っぽさはないが、尺八らしさが充分とはいえない。
❸きこえることはきこえるものの、何の音かさだかでない。
❹さらにスケールゆたかにひびいてほしい。
❺いくぶんここで音は、くすんできこえる。