Daily Archives: 1973年2月20日

サンスイ AU-9500

岩崎千明

スイングジャーナル 2月号(1973年2月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 サンスイがこのところコンポーネントに示す熱っばいまでの意気込みは、すざまじいという言葉で表されるほどの迫力を感じさせる。そうとるのは、決して私一人だけではあるまい。
 つい先々月、このSJ選定品としてAU7500が登場したばかりだというのに、今月再びSJ選定品として目白押しの新製品の中から、再びサンスイのアンプが紹介されることになった。AU9500である。
 この新製品、ごらんの通り風格も堂々たる貫禄であるし、価格もまた、10万を軽く越すという、最近のデラックス志向の強いステレオ・パーツの中にあっても、ひときわ目立つ超豪華型だ。
 まさに国産アリメイン・アンプ中の最高レベルを狙ったとみられる新製品なのだ。
「実はさきにAU7500のときに同時に発表すべきだったのですがこれだけの高級機になりますと、社内でもいろいろな形で検討を加えられ例えば発表時期もSP707Jと同時発表という形をとることになったわけです」とメーカー側のいいわけ。
 JBLの38センチ・フルレンジのD130をユニットとしたバックロードホーンのエンクロージュアに収めた新製品がSP707J。この国産随一を狙った豪華スピーカー・システムと同時にデビューさせたことは、このコンビで、ライバルを一挙に圧倒し去ろうという、いかにも専門メーか−らしい冴えをみせた憎いテクニックとみた。
 AU9500のうわさは、しかし、すでに7500発表当時からささやかれていた。それが現実となって、眼のあたりに接してみるとき、かつて、その昔、山水がAU111を市場にデビューした当時のことを思わずにはいられない。
 AU111は、旧いオーディオ・マニアなら、その存在は、アンプの最終目標として長く君臨していたことを知ろう。6L6GCのプッシュプルを最終段とした45/45ワットという当時の最強力管球プリ・メイン・アンプであった。
 ハイパワーなるが故の大型出力トランスを2個に加え、その電源をまかなうべき馬鹿でかいパワー・トランスは巨大なる図体を余儀なくし、家庭用アンプというにはほど違いヘビー・ウエイトぶりは、脚に金属椅子と同じキャスターを取りつけるさわぎで、しかも、わずかな移動も、これに頼らざるを得ないという、万事常識はずれの強力型重量級アンプであった。
 家庭用として、45ワットはおろか100ワットさえ登場する今日、その中にあっても今日の新製品AU9500の大きさと重量は、やはり特筆に催するほどだ。
 これというのも、今日のサンスイのアンプが、すべて、カタログ表示であるフル・パワーを20〜20Kヘルツという音声帯域内全帯にわたって、保証するという、ぜいたくさから、きている。しかも、この規格値は、なんと驚くべきことに、ひずみ0・1%においての値なのである。
 歪0・1%という値は、かつて英国リークのアンプの表カンバンだった。しかし、実際には、0・1%歪は、1000ヘルツにおいての場合でのみだ。音声帯域全帯に対するものではない。
 マッキントッシュのアンプさえもこの全音声帯域内での歪率に対しては、0.3%を示すに過ぎない。
 しかし、山水のアンプでは、この0・1%歪をギャランティーしようという。まさに、おどろきの他ない。
 これを実現するためにはパーツを選び最新の回路技術に加え、今まで見過されていた多くの部分を再開発しなければならなかったという。かつて、303シリーズで、0・3%歪を実現したサンスイは、0・1%歪に挑んでコンポーネントの製品化を実現したのである。
 いうはやすく、実現至難な0・1%歪。現実の市販品でこのクラスのカタログ・データは、少ないわけではないが市販製品をチェックすれば、カタログとは足もとにも及ばぬのが普通だ。サンスイの堅実な努力は、しかし着々と成果を上げているのである。
 JBLにコンシューマー用アンプのなくなった現在、このサンスイ・ブランドの高級アンプ群は、JBLシステムを鳴らすにはかけがえのない存在となるわけだが、それに応えるかのようにAU9500のサウンドは、かつての名器、SA660と相通ずるものを感じさせる。低域の底知れぬ力強い迫力がそれだし、中高域のこの上ない充実したサウンドは、JBLアンプのそれに一段と透明度を加えたともいいたい。
 JBLファンにとってこのアンプの出現は限りない信頼感を加えた大きな標的ともなるに違いない。

マイクロ

マイクロの広告
(スイングジャーナル 1973年3月号掲載)

micro

ブラウン LV1020

菅野沖彦

スイングジャーナル 3月号(1973年2月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 ブラウン社といえば、日本ではオーディオのイメージは全くなかった。もっとも強いイメージが電気カミソリ、ファンやラジオ程度がせいぜいというところだったろう。しかし、昨年のオーディオ・フェアに行かれた人なら、そこに展示された同社の数々のコンポーネント・システムに一朝一夕にはできない質の高さと風格を認められたにちがいない。私自身も不勉強ながら、ブラウンがこれほどオーディオ製品に力をもっている会社だとは知らなかったのである。聞くところによるとブラウン社は1921年にマックス・ブラウンというエンジニアによって創立されたそうだから、すでに過半世紀の歴史をもつ会社であり、ラジオ、オーディオ製品にも1923年から手をつけているという本格派なのである。今まで私が知っていたのは、日本でいえばアンサンブル型という装置であって、アメリカのゼニスやウェスティングハウスのような広く家庭用の電蓄にしか興味をもたない会社だと思っていたのである。
 総合家電メーカーとしてのブラウン社の現在の規模は国際的であるから、その製品にマニア・ライクな要素を求められるとは思っていなかった。しかし、偶然の機会に同社のスピーカー・システム一連の製品を聴き、テレコやアンプをいじることができた時から、私のそうしたイメージはすっかり改められてしまったのである。アンプはステレオ・レシーバーと、チューナー・プリで、日本の実状には合わないが、スピーカーの音を聞いて、すっかりほれこんでしまった。
 ブラウンのスピーカーは、コンパクトなL420/1、L500/1や薄型のL310,L480/1、L550、そして、中型のL620、L710、やや大型のL810、そして今回選定新製品としたLV1020などとヴァリエーションが豊富だが、いずれも共通のデザイン・ポリシーとサウンド・ポリシーに貫かれている点が特に印象的である。仕上げはすべてウォルナットとホワイトの二種類が用意され、前面グリルはエロクサイド処理アルミニュームのパンチング・メタルである。きわめて精緻な密閉型エンクロージュアに優れたユニットが巧みに組み合わされているが、基本的には最近のヨーロッパ系のスピーカー・システムが多く採用しているドーム・スコーカー(トゥイーター)とコーン・ウーハーのマルチ・ウェイを採用している。スキャン・ダイナ、フェログラフ、ヘコー、などヨーロッパ系のスピーカーのもつサウンドは日本でも好評で、明解な音像のたたずまいと広い帯域特性のもつ豊かなソノリティにどこか共通した魅力を感じるが、中でもこのブラウンの製品は強い印象を受けた。ソフト・ドームとしてはやや荒目のシャープな音像再現がぴりっと引締りながら、朗々とした音場を再現するのである。
 LV1020は中でも最高級の特殊なシステムであって30cmウーハー、5cmスコーカー、2・5cmトゥイーターの3ウェイを3台のパワー・アンプでドライブするマルチ・チャンネル・システムなのである。ウーハー用40W、スコーカー用20W、トゥイーター用15Wのアンプがエレクトロニクス・デバイダーを通して帯域分割されたシグナルで各ユニットをダイレクト・ドライブしている。K+Hがスタジオ用モニターとしてこの方式を採用していたが、ブラウン社でもこれはプロフェッショナル・システムとうたっている。このスピーカーを使うには本来は同社のCE1020というチューナー・プリが用意されている。しかし勿論、ディン(DIN)・ピン・プラグの変換コードと電源の特殊コンセントの対策さえおこなえば、どんなプリ・アンプと組み合わせても使えるわけで入力感度は0・25〜1・5Vという一般的なライン・レベルに設計されている。
 とかく苦手ときれているソフト・ドームのパルシヴな波形への応答、物性からくるハードな切れ味もそれほど不満はなくシンバルのアタックも実感が出る。グラマスで締切った低音はブラウンの一連のシステムに共通で、このシステム以外はほとんど2個のウーハーを使っていることをみても低音の充実感に同社のサウンド・ポリシーがあることがわかる。音楽的な充実感はここからくる。音楽の美しさの基盤は低音にある。難をいえば、マグネット装着のアルミのグリルの汚れが目立ったり、凹凸が目立つのと、大振幅時にびりつきを起す場合があったことだ。グリルはともかくエンタロージュア面との接触部分はダンプしたソフトな材料を使うべきであろう。