Category Archives: 黒田恭一 - Page 10

ダイヤトーン DS-50CS

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートはまろやかにひびくが、前にでる。
❷奥ゆきがとれていてひろがる。スタッカートに力がほしい。
❸フラジオレットの特徴はよく示されている。
❹多少ふくれぎみだが、切れはよい。
❺クライマックスでかたくならないよさがある。迫力を示す。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像は大きめで、たっぷりひびくが、定位はいい。
❷音色的な対比は充分についている。
❸もう少しすっきりひびいてもいいだろうが、こまやかさがある。
❹このフレーズの特徴は、充分にいきている。音色は暖色系だ。
❺各楽器の特徴は、キメこまかに示される。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声にまろやかさがあり、息づかいなども自然に感じられる。
❷接近感を無理なく示し、強調感がない。音像はいくぶん大きい。
❸クラリネットの音色はよく伝える。声とのバランスもいい。
❹はった声もかたくならず、なまなましさを失わない。
❺各楽器のひびきを、ほどよく、自然にきかせる。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像が大きめのため、定位はよくない。
❷声量をおとすと、言葉は不鮮明になる傾向がある。
❸残響をひっぱるため、言葉の細部はききとりにくい。
❹バリトンが強調されがちなため不鮮明になりがちだ。
❺一応の余韻は伝えるが、効果的とはいえない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、音像的対比は充分について、効果的である。
❷クレッシェンドは、無理なく示される。
❸ひびきに浮遊感があり、重くひきずらない。
❹前後のへだたりが充分に示されて、ひろびろと感じられる。
❺幾分ピークでひびきがかたくなるが、一応の迫力を示す。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひびきが暖色系のため、透明感が幾分うすれる。
❷ギターの音像が大きめのため、せりだしが感じとりにくい。
❸軽く、浮いてひびく。充分な効果をあげられない。
❹ひびきに輝きがなく、他のひびきにうめこまれがちだ。
❺耳をかたむけて、どうやらきける程度だ。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきが幾分甘くなっている。
❷サウンドの厚みはでているが、さらにくっきり示されてもいい。
❸ハットシンバルのひびきが幾分湿っている。
❹ドラムスの音像が大きい。声はまずまずた。
❺バックコーラスの効果はでているが、言葉はたちにくい。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶ペデルセンのベースがエネルギー充分にひびく。
❷指の動きを明らかにし、オンでとったよさを示す。
❸音が尾をひいて消えていく感じを一応は伝える。
❹こまかい音の動きに対しての対応は充分とはいえない。
❺音像的な面でのサム・ジョーンズとの対比が不自然だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスは、重くひびいて、アタックの鋭さはない。
❷ブラスは、本来の輝きに不足しているものの、効果はあげる。
❸フルートは、前にせりだしてきて、有効な働きをする。
❹全体に音像が大きめなので、音の見通しがよくない。
❺幾分ふやけぎみだ。もう少しすっりしてもいい。

座鬼太鼓座
❶尺八との距離感がさほどついているとはいいがたい。
❷尺八の響きが、幾分脂っぽくなっている。
❸あいまいにならず、かなりくっきりききとれる。
❹スケール感ゆたかに示される。エネルギーも感じられる。
❺大太鼓の音の消え方とのバランスがよく、雰囲気をだしている。

デンオン SC-107

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートが軽くひびく。木管も音色の特徴を示すが、軽い。
❷スタッカートは鮮明だが、ひびきにもう少し力がほしい。
❸フラジオレットの音色はわかるが、効果的とはいえない。
❹きれいにまとまるが、フランスのオーケストラのようにひびく。
❺迫力はとぼしいが、バランスよくまとまっている。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像が小さめで、オーケストラとのバランスがいい。
❷音色対比は充分にできている。それぞれの特徴をよく示す。
❸ひひきにさわやかさがあり、こまやかなあじわいを示す。
❹このフレーズの特徴はよく示していて、このましい。
❺木管楽器の特徴は示すが、ピアノの音は軽くなりすぎている。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像がふくれすぎないよさがある。すっきりした定位もいい。
❷接近感を示す。声もなまなましい。
❸クラリネットの音色もよく示されている。
❹はった声も硬くなることなく、オーケストラとのバランスもいい。
❺それぞれの楽器が、きれいに、くっきりとうかびあがる。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶すっきりした音できこえるので、定位ははなはだいい。
❷声量をおとしても、言葉は不鮮明にならない。
❸残響をほどよくおさえているので、細部があいまいにならない。
❹ひびきにみがるなところがあるので、明瞭にききとれる。
❺ほどよくひびきがのびているので、ポツンとは切れない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的にも、音場的にも、コントラストがついている。
❷ひびきが軽いので、しのびこみは自然で、のびもいい。
❸ひびきが浮遊するので、ひろがりがある。
❹前後のへだたりはとれているが、もう少しひびきに力がほしい。
❺ピークで刺激的なひびきになり、迫力の点で不足を感じる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひびきに透明感があり、さわやかでいい。
❷ギターのひびきがたたない。せりだし方も不足している。
❸しずみこんでしまって、充分な効果をあげえない。
❹さわやかに、輝きのあるひびきで、はえる。
❺ききとることはできるが、決して充分とはいえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音色は、多少薄味になっているが、いきている。
❷サウンドの厚みは感じとりにくい。
❸この部分についてはこのましいが、一面的なひびきになりがちだ。
❹つっこみはシャープだが、軽くひびきすぎる。声はまずまずだ。
❺言葉もたち、バックコーラスの効果もいきている。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶スケール感が示されず、しかも音像が大きくふくれがちだ。
❷指の動きは示すが、それがなまなましさにはつながらない。
❸一応示すものの、その際のひびきに力がない。
❹力強さは充分とはいえないが、音の動きはわかる。
❺ペデルセンがとびだしすぎて、いささか不自然だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶シャープに切りこむが、ひびきに力がほしい。
❷ブラスに輝きはあるが、力感にとぼしい。
❸音色的には充分な成果をあげているが、さらに強くてもいい。
❹音の見通しがつくために、後からきこえるトランペットがいきる。
❺リズムはシャープにきざまれているが、力がほしい。

座鬼太鼓座
❶尺八のひびきはこのましい。ひびきのひろがりも感じられる。
❷脂っぽさはまったくなく、このましいひびきになっている。
❸ぼんやりとひろがってだが、ききとることができる。
❹乾いた音になり、大きさも迫力も、示されない。
❺かなりくっきりききとれるものの、幾分わざとらしい。

マッキントッシュ XR5

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、鮮明だが、遠くでひびく。
❷低音弦のひびきはなめらかさが足りず、妙にがさつく。
❸一応の音色的な特徴を示すにとどまる。
❹ここでのピッチカートは、幾分ふくれがちだ。
❺もうひとつきりっとした力が望まれる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像はかなり大きくふくれる。
❷音色的な対比を一応は示すものの、鮮明さに不足する。
❸室内オーケストラのひびきのさわやかさが足りない。
❹第1ヴァイオリンのフレーズは太くひびく。
❺もう少しさまざまなひびきがあってほしい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像は大きめだが、強調感のないのがいい。
❷接近感はかなりなまなましく示す。
❸声よりオーケストラのひびきの方がめだつ。
❹はった声がかたくならないのはいいが、のびやかさがない。
❺さまざまなひびきのバランスがいいとはいえない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像はふくれがちながら、横一列に並んでいるのがわかる。
❷ひびきが重いので、言葉は鮮明になりきれない。
❸残響をかなりひきずっている。言葉のたち方が不充分だ。
❹バリトンが強調されがちで、各声部のからみに問題がある。
❺ひきずりがちなひびきがぽってりと残る。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンとポンの音色対比はくっきりとついている。
❷奥へのひきはいいが、音質的に問題がある。
❸浮遊感に欠ける。ひびきが重いためだろう。
❹示される空間がとうしても狭くなる。
❺ピークで刺激的なひびきになってしまう。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶奥へひいているが、ひろがりが示せているとはいえない。
❷ギターの音像はかなり大きく、せりだし方がはっきりしない。
❸一応はききとれるものの、効果的とはいえない。
❹妙にきわだってきこえる。一応のアクセントはつける。
❺きこえなくはないが、特にめだつということもない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのハイコードの特徴は示す。
❷サウンドの厚みは明らかにするが、さらにくっきりしてほしい。
❸ハットシンバルのひびきは、乾き方が足りない。
❹ドラムスは、音像が大きくなった分だけ、シャープさがない。
❺声は総じてひっこみがちになり、物たりない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶なにかの入れものの中でひびいているかのようだ。
❷きこえなくはないが、かなりききとりにくい。
❸音の消え方を示すものの、それが効果にはつながらない。
❹こまかい音の動きに対しての対応はよくない。
❺音像的、音量的、音質的対比は好ましい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスのアタックには弱々しさがある。
❷ブラスのつっこみにしても、鋭さが足りない。
❸大きくはりだすものの、力が不足している。
❹音の見通しがよくないので、トランペットの効果はでない。
❺さらにリズムがくっきり刻まれないとめりはりがきかない。

座鬼太鼓座
❶不思議なことに、天井のあるところで吹かれたようにきこえる。
❷尺八の枯れたひびきからは少なからずへだたっている。
❸きこえるものの、実体をきき定めがたい。
❹音の消え方を示しはするが、力強さに欠ける。
❺きこえるものの、効果を発揮しているとはいいがたい。

JBL L65A

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、いきいきとひびいて積極的だ。
❷低音弦の動きは、ひびきに力があり、鮮明だ。
❸個々のひびきをくっきり示し、とけあい方もいい。
❹第1ヴァイオリンは、もう少ししなやかでもいいだろう。
❺クライマックスのひびきは、幾分刺激的になる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は中位だ。ひびきに力がある。
❷音色的な対比は明らかだが、ひびきがかたすぎる。
❸室内オーケストラのひびきのまとまりは示す。
❹第1ヴァイオリンのフレーズはかたい。
❺個々の楽器のひびきの特徴は示すものの、しなやかさが不足だ。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像はほどほどで、好ましいが、子音を強調する。
❷接近感を示すものの、表情が濃くなる。
❸ひびきにとけあった気配が希薄で、ばらばらにきこえる。
❹はった声がかなりかたくなり、前にせりだす。
❺オーケストラと声とのバランスがいいとはいえない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像が大きく感じられ、そのためか定位の点で問題がある。
❷声量をおとした分だけ、不鮮明さが増す。
❸残響をかなりひきずっているのがわざわいしているようだ。
❹ひびきに本来の敏捷さがないために明瞭にはききとれない。
❺重いひびきをたっぷりとひっぱっている。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンとポンのひびきの性格的な違いがくっきりと示される。
❷ひびきの後方へのひきは充分にとれている。
❸充分に浮遊感はあるが、ひびきにやわらかさがほしい。
❹ひろがりはとれている。目のつまった感じのしないのがいい。
❺ピークは力にみち迫力充分なものだ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶奥へのひきはできているが、ひびきが幾分かたい。
❷ギターの音像はほどほどだ。せりだし方がわかる。
❸ほぼ十全な、くっきりとした提示のされ方をする。
❹かなり目だって、ひびきにアクセントをつけている。
❺意外なことに、ここではあまりよくはきこえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの特徴的なひびきがよく示されている。
❷ここでは、厚みより、力が増したように感じられる。
❸ハットシンバルのひびきのちらばり方がみごとだ。
❹ドラムスの音像は幾分大きいが、つっこみはシャープで有効だ。
❺声の重なり方、全体とのバランス等でまずまずだ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像がふくらみすぎず、力感充分なのがいい。
❷指の動きを鮮明に示すが、部分拡大のいやみはない。
❸ことさら目だたせるわけではないが、充分にききとれる。
❹力強いひびきだ。こまかい動きにも対応できている。
❺音像的な面でも無理がなく、はなはだ自然だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶アタックはシャープで、しかも力がある。
❷ブラスのひびき方は、パワフルで、効果的だ。
❸フルートによるとは思えないほどの積極的なひびきだ。
❹見通しがいいために、トランペットの効果がいきている。
❺リズムの切れが鋭く、めりはりをくっきりつけている。

座鬼太鼓座
❶尺八は、かなりへだたったところからきこえる。
❷脂っぽさはなく、しかも余韻を残している。
❸不自然でない、本来のきこえ方がする。
❹大きさも、力強さも、それに音の消え方もよく示す。
❺効果的なきこえ方をして、アクセントをつけている。

パイオニア CS-755

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきがかげりがちだが、木管の音色はよく示す。
❷ひろがりはあるが、スタッカートの音に力がほしい。
❸フラジオレットの特徴をよく示して、ひびきのとけあいもいい。
❹ピッチカートはふくれない。主旋律のひびきもふくよかだ。
❺幾分硬めになるが、一応のスケール感は示す。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像の大きさはほどほどだが、かなり前にでてくる。
❷音色のちがいをくっきり示す。多少くっきりしすぎているようだ。
❸室内オーケストラの性格をよく示すが、なめらかさがたりない。
❹少しきつくでるが、すっきりはしている。
❺個々の楽器のひびきの性格をよく示す。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声がひろびろとひびく。息づかいもなまなましい。
❷接近感をよく示す。小声ではなす時の微妙さがいい。
❸幾分まろやかさに欠けるが、声とオーケストラの対比はいい。
❹はった声は、幾分硬めになる。しかし気になるほどではない。
❺オーケストラのひびきはバランスよくきこえる。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶声に脂がのりすぎているかのようだ。定位はよくない。
❷ひびきが重いために、鮮明さはもう一歩だ。
❸残響をひっぱりすぎるので、言葉はわかりにくい。
❹ひびきに軽やかさがないので、明瞭さは不足している。
❺一応余韻を示すが、雰囲気ゆたかとはいいがたい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶暖色系の音で再現されるが、音色対比はいい。
❷奥にも充分にひけている。クレッシェンドも自然に示せている。
❸浮遊感はたたない。ひびきが点にならずひろがるのはいい。
❹前後のへだたりがとれているので、ひろがりを感じさせる。
❺自然なのびやかさは不足するが、迫力は示す。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶やわらかく、しなやかにひびくのがいい。
❷ギターは、少し前にせりだしすぎる。
❸くっきりとその存在をあきらかにして、効果をあげる。
❹かなりめだってきこえる。しかしきらびやかとはいえない。
❺一応きこえるが、効果的とはいいがたい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶幾分12弦ギターの音色を強調しすぎる傾向がある。
❷サウンドの厚みも示して、まとまりがいい。
❸乾いたひびきで、さわやかにひびく。効果的だ。
❹アタックもかなりシャープだ。声は少し乾きすぎている。
❺声のかさなり方は自然でこのましく、言葉もよくたつ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶ひびきに力があっていい。スケール感もまずまずだ。
❷指の動きをよく示すが、誇張感はない。
❸音の尻尾がよくでるので、迫力がでる。
❹力感を示し、こまかい音の動きも示す。
❺サム・ジョーンズの音像が小さくなる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶つっこみは、特に鋭いとはいえないが、力感はある。
❷ブラスのつっこみは、はなやかで、効果的だ。
❸フルートの音は、強く示されて、幾分刺激的になる。
❹トランペットの音はめだたない。したがって接近感も不足している。
❺ふやけてはいないが、音色的な特徴は幾分あいまいになる。

座鬼太鼓座
❶尺八は遠くからきこえて、距離感はある。
❷尺八ならではのひびきの特徴は示す。
❸ききとれるが、充分とはいいがたい。
❹大きさは感じとりにくい。きりっとひびいて、力強さはある。
❺ききとれる。雰囲気的にもかなり満足すべきものだ。

B&W DM6

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、遠くでひびき、木管のひびきはうす味だ。
❷低音弦のひびきに、力とはりがほしい。
❸ひびきはとけあうが、鮮明さがたりない。
❹低音弦のピッチカートがふくらんで、重くひびく。
❺クライマックスでひびきにのびやかさがたりない。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノは、音像が大きく、はりだしてきこえる。
❷一応の音色対比は示すが、ひびきにキメ細かさがない。
❸室内オーケストラのひびきの軽やかさがなく、くぐもる。
❹第1ヴァイオリンのフレーズの特徴は示される。
❺個々のひびきのくせをきわだたせてきかせる。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像は大きく、本来の声のしなやかさがない。
❷接近感を誇張ぎみに示す傾向がある。
❸声よりも楽器のひびきの方がきわだつ。
❹はった声がかたくならないのはいいが、くせのあるひびきになる。
❺声とオーケストラのバランスがいいとはいえない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶横一列の並び方に少なからず問題がある。
❷声量をおとすとひびきの重みがきわだつ。
❸残響を強調ぎみのため、言葉はたちにくい。
❹バリトン、バスがかなり前にでているようにきこえる。
❺たっぷりとしたひびきが後まで残る。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンもポンも、力をもったひびきで、示される。
❷後方からのひびきも、かなりの力を感じさせる。
❸ひびきそのものの重量がかなりのものなので、浮遊感はない。
❹総じてひびきがかげりがちのため、ひろがりはとれない。
❺力をもって、重々しくはりだしてくる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶奥の方からひびいてくるものの、ひろがらない。
❷ギターの音像は大きく、当初からせりだしぎみだ。
❸かなりめだつようにひびき、積極的に前にでる。
❹めだってきこえるが、きらびやかなひびきとはいえない。
❺他のひびきの中にうめこまれてしまっている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきが、さらに切れ味鋭くてもいいだろう。
❷サウンドの、厚みというより、重みが強調される。
❸ハットシンバルのひびきは、乾き方がたりない。
❹大きなドラムスが力をもってひびいてくる。
❺バックコーラスがもう少しひろがってひびいてほしい。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像はことさら大きいとはいえない。エネルギー感を示す。
❷オンでとったなまなましさを示す。
❸消えていく音を、くっきり、あいまいにならず示す。
❹こまかい音の動きにも、一応対応できている。
❺サム・ジョーンズとの音像対比はかなり好ましい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶つっこみというより、押しだしぎみにひびく。
❷もう少しさわやかに、ぬけきってほしい。
❸積極的に前の方にせりだして、効果をあげる。
❹後方へのひきは一応とれているが、効果的とはいえない。
❺リズムは、重いためか、奥にひっこみがちだ。

座鬼太鼓座
❶尺八は、大きい。すぐ近くできこえる。
❷もう少し枯れたひびきできこえるべきだろう。
❸一応きこえてくるものの、ひびきとしてのまとまりがない。
❹力強さは充分に示すが、ひびきのひろがりは不足している。
❺ききとれる。和太鼓の特徴がさだかでない。

トリオ LS-505

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートがよわい。オーボエの音がしめっている。
❷スタッカートがひきずりがちだ。もう少しすっきりしてもいい。
❸フラジオレットの特徴がききとりにくい。
❹ヴァイオリンの音にもう少しつやがほしい。
❺クライマックスでは、硬くなり、刺激的になる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像はほどほどだが、ピアノの音にもう少し力がほしい。
❷音色的対比は充分だが、ひびきにもう少しキメこまかさがほしい。
❸ひびきの柄が大きくなりすぎないのはいいが、さわやかさは不足。
❹くっきり示すが、ひびきが粗くなっている。
❺ひびきの特徴はよく示すが、魅力にとぼしい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像はほどほどだが、表情を部分拡大的に示す。
❷接近感は示す。ただ、子音がめだちすぎる。
❸クラリネットの音はまろやかだが、とけあい方に問題がある。
❹はった声は、極端に硬くなり、かなりききにくい。
❺ひびきが平面になるので、効果的にはならない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶残響を多くとりすぎているので、定位はあいまいになる。
❷声量をおとすと、さらに言葉がききとりにくくなる。
❸鮮明さということで、かなり問題がある。
❹ひびきに敏捷さが不足しているために明瞭にならない。
❺ひびきはかなりのびるが、雰囲気をたかめてはいない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的対比がもうひとつはっきりしない。
❷クレッシェンドの効果は一応示されている。
❸音は浮いてきこえるが、もう少し透明でもいいだろう。
❹空間がせまく感じられる。前後のへだたりはあまりない。
❺ピークで音が硬くなり、刺激音になる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶かなり前の方できこえる。ひろがりも充分とはいえない。
❷ギターも、中央に定位するが、前の方にせりだしている。
❸きこえるが、他の楽器によるひびきにうめこまれている。
❹弱くしかひびかない。もう少しすっきりきこえてもいいだろう。
❺ききとるのが、大変にむずかしい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきと特徴をききとりにくい。
❷ツイン・ギターによるひびきの厚みが希薄だ。
❸きこえてはくるが、本来のさわやかさに不足している。
❹ドラムスのひびきはいいが、つっこみが弱い。
❺言葉のたち方がもうひとつすっきりするといいのだが。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像はかなり大きい。大きな箱の中でひびいているかのようだ。
❷指の動きをきわだたせて示すようなことはない。
❸音が尾をひいて消えていく感じが伝わりにくい。
❹音の反応にシャープさがないので、こまかい動きがでにくい。
❺ふたりの奏者の音像的な差がありすぎる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶一応の力は感じさせるが、切れがにぶい。
❷ブラスのひびきがはなやかなのはいい。
❸この部分のひびきの特徴をきわだたせる。
❹トランペットは、かなり前の方からきこえる。
❺もう一歩ふみこんだ強いアタックがほしい。

座鬼太鼓座
❶尺八はかなり前の方からきこえる。
❷脂っぽくなっているわけではないが、ひびきの特徴がでにくい。
❸耳をすましても、ききとりにくい。
❹きわめて消極的にしか、大太鼓の迫力を示さない。
❺一応示すが、必ずしも効果的とはいえない。

ダイヤトーン DS-40C

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきがまろやかでいい。木管の音色もいい。
❷もう少し力があってもいいように思うがすっきりしたよさがある。
❸フラジオレットの特徴的なひびきがよくでている。
❹もう少しひびきにつやがほしいが弦の響きの美しさはでている。
❺ひびきのゆたかさと力が充分でない。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像は小さめでこのましいが、ピアノの音に力がほしい。
❷音色的な対比は示せている。薄味のひびきにとどまる。
❸ひびきがもう少し軽やかでいいだろう。
❹きめこまかく示すが、幾分しめりがち。
❺かなりオンでとっているようにきこえる。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶子音がいつくひびく。音像はふくらみがちだ。
❷接近感は示すが、定位が鮮明ではない。
❸クラリネットの音色はよく示すが、声とのバランスはよくない。
❹はった声は硬くなり、声のしなやかさがなくなる。
❺とがったひびきが強調ぎみになる。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶ひびきの目がつまりすぎているので、定位がすっきりしない。
❷まろやかなひびののよさはあるが、鮮明さがたりない。
❸残響をぴっぱりすぎるためか、すっきりしない。
❹とけあってはきこえるが、各声部の動きは不鮮明だ。
❺ポツンときれずに、ある程度の余韻を感じさせる。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶暖色系のひびきのためか、音色対比は充分でない。
❷ひびきの後へのひきがかならずしも充分でない。
❸ひびきに浮遊感がたりず、ひきずりぎみにきこえる。
❹前後のへだたりがあまりなく、空間がせまくきこえる。
❺ピークでは、ひびきが金属的になる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひろがりは一応感じられるが、ひびきに透明感が不足している。
❷これと❶での音との、サウンドの性格のちがいがはっきりしない。
❸他のひびきにうめこまれがちで、ひきたたない。
❹かなりめだってききとれる。ひびきに輝きがある。
❺一応ききとれるが、かならずしも効果的といえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきから角がとれすぎている。
❷サウンドの厚みは充分に示されているとはいえない。
❸かなり積極的に前にでてくるが、さわやかさがたりない。
❹切れがにぶいので、アタックの鋭さがでない。声はまずまず。
❺言葉のたち方は弱い。声とのとけあい方はよくわかる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶スケールの大きさは示すが、迫力ではたりないところがある。
❷指の動きの示し方は、かなり鮮明だ。
❸かならずしも余裕をもって示すとはいいがたい。
❹こまかい音の動きに対応するのは得意ではないようだ。
❺サム・ジョーンズの音色の示し方に問題がある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスに力が不足しているので、にぶい。
❷ブラスのつっこみはそれなりの効果をあげる。
❸せりだしてくるが、ひびきは幾分刺激的になる。
❹個々のサウンドを分離して示すより、とけあう傾向にかたむく。
❺幾分ふやけぎみで、めりはりがつきにくい。

座鬼太鼓座
❶尺八はかなり奥の方にひいた感じできこえる。
❷尺八の音色の特徴を、よく示した。
❸一応ききとれるものの、ごくかすかにきこえるだけだ。
❹スケールのゆたかさは示すが、力強さがたりない。
❺かならずしも充分にはきこえない。

タンノイ Berkeley

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきがうす味で、木管は軽くひびく。
❷低音弦のスタッカートに、もう少し力がほしい。
❸各ひびきをさわやかに、こだわりなく示すのはいい。
❹ここでのピッチカートは、幾分ふくれぎみだ。
❺クライマックスでのもりあがりは、一応の成果をおさめる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノは中くらいの音像で、軽いひびきできこえる。
❷音色的な対比を、うす味ではあるが示す。
❸室内オーケストラのひびきの軽やかさがある。
❹第1ヴァイオリンのフレーズには、さわやかさが感じられる。
❺とりわけ木管楽器の音色の特徴をよく示す。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶ほどほどの音像で、セリフの声もしなやかさを示す。
❷残響をひっぱりつつも、接近感をきわだたせる。
❸声とオーケストラのバランスは、無理がなく、素直でいい。
❹はった声はかたくならず、しなやかにのびる。
❺すっきりと、迫力はないが、さわやかにきける。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶左端のカウンターテナーから右端のバスが一列に並んでいる。
❷声量をおとしても言葉は不鮮明にならない。
❸残響はたっぷりきけるが、言葉の細部も一応きかせる。
❹とりわけ明瞭とはいえないが、ことさらの不満もない。
❺ひびきののびに自然さのあるのがいい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、音場的対比が、すっきりと示されている。
❷後方へのひきが自然にとれていて、好ましい。
❸ひびきにもう少し生気がほしいが、浮遊感は示す。
❹ひびきがひろがりを感じさせて、好ましい。
❺ピークでの、迫力ということでは、ものたりない。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶暖色系のひびきながら、透明感はある。
❷ギターも、音像が小さく、奥からきこえる。
❸他のひびきの中にうめこまれ、本来の力を発揮していない。
❹きこえることはきこえるが、輝きがもうひとつだ。
❺他のひびきの中にまぎれこんでいる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶かたくひきしまったひびきを伝えない。
❷サウンドの厚みが、もうひとつすっきりと示されない。
❸ハットシンバルのひびきは、少し湿りがちだ。
❹ドラムスの音像が小さいのはいいが、力感が不足している。
❺声と他の楽器とのひびきのバランスがいい。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像はかなり大きいが、力感はさほどでもない。
❷きこえるが、部分拡大になっていない。
❸消え方を、一応示すものの、充分とはいえない。
❹力が不足ぎみなので、こまかい音の動きが幾分不鮮明だ。
❺音像的な面で、少なからず不自然なところがある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスは、力を感じさせず、かなりふくらむ。
❷ブラスのつっこみに、鋭さがない。
❸クローズアップの感じは示すが、スタティックだ。
❹見通しがよくないので、はえない。
❺リズムに力がたりないので、めりはりがつきにくい。

座鬼太鼓座
❶尺八が、かなり大きく、前の方できこえる。
❷尺八の特徴的な音色は充分に、伝わる。
❸くっきりととはいえないがききとれる。
❹大きくひびくものの、本来の迫力は感じとりにくい。
❺大太鼓の消えていく音がないので、きこえても、はえない。

テクニクス SB-5500

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートの音に力がない。オーボエよりフルートがめだつ。
❷あいまいにならないが、ひびきが腰高になっている。
❸フラジオレットの感じが十分にでているとはいえない。
❹ふくれてはいないが、ゆたかにひびいているとはいえない。
❺クライマックスでひびきがヒステリックになる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像は大きくないが、ピアノの音にまろやかさがたりない。
❷音色対比はついているが、とけあっていない。
❸ひびきにもう少しキメこまかさがほしい。
❹幾分これみよがしになって、せりだす。
❺各楽器のひびきを誇張ぎみにしめす。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶全体的に前にでたままになる。子音を強調ぎみである。
❷接近感はあまりない。もともと前にですぎるためか。
❸クラリネットの音色は伝えるが、声や他の楽器の音ととけあわない。
❹はった声は硬くなり、表情のコントラストを強くつける。
❺きこえることはきこえるが、効果的とはいいがたい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶横一列にならんだ感じは伝わりにくい。
❷ブレス等をきわだたせるが、言葉は鮮明とはいえない。
❸音がひとかたまりになる傾向があるのでききとりにくい。
❹各声部のからみ方は不鮮明にしか示されない。
❺ポツンと切れてはいないが、のびやかとはいいがたい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色対比はかなりくっきりついている。
❷後へのひきがたりない。ひびきが平面的になりがちだ。
❸音に重量がかかりすぎていて、浮遊しているとはいえない。
❹前後のひびきのへだたりが感じとりにくい。
❺ピークでは、力づくでおしてくるようなところがある。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのかすかなひびきは、もう少ししなやかでもいいだろう。
❷ギターの音は、くっきりと、中央に定位する。
❸他の楽器によるひびきの中にうめこまれがちだ。
❹きわだってきこえるが、そのひびきにもう少し輝きがあるといい。
❺かなりめだってきこえるが、他の音とのバランスに問題がある。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ここでの12弦ギターの音の特徴が充分に示されてはいない。
❷ひびきが薄いので、かならずしも効果的とはいえない。
❸ハットシンバルの音はぬけだしてくるが、さわやかさがほしい。
❹ドラムスのアタックはとがった感じになる。声の乾きぐあいはいい。
❺言葉はたってくるが、バックコーラスのとけあい方がよくない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力強くはあるが、ひびきのひろがりがたりない。
❷指の音だけでなく、奏者の息づかいまできかせる。
❸音の消え方がもう少し精妙に示されてもいいだろう。
❹力強いひびきをきかせるが、音の動きのこまかさは示されない。
❺サム・ジョーンズによるかげったひびきがききとりにくい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶一応の迫力は示すが、切れ味はにぶい。
❷充分につっこんでくるが、他の音がひっこみすぎる。
❸クローズアップの効果は充分に示される。
❹ひびきの目が,つんでいるので、わかりにくい。
❺ふやけてはいないが、切れが充分とはいえない。

座鬼太鼓座
❶尺八が比較的近くできこえる。距離感がでない。
❷脂っぽいとはいえないが、尺八の特徴をよく示してはいない。
❸一応きこえるが、かろうじてきこえる程度だ。
❹力強さは示されるが、ひびきのひろがりは示されない。
❺むしろ強調ぎみにきかせて、それなりの効果をあげる。

エレクトロボイス Sentry V

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶弦をはじいた強さがききとれる。幾分遠くにひびいてはいるが。
❷スタッカートに力があって、ひろがりを示し、好ましい。
❸さまざまなひびきのとけあい方がいい。
❹主旋律がたっぷりひびいて、しかも重くならないのがいい。
❺クライマックスでひびきに無理がなく、たくましくきかせる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は大きい。ひびきのゆたかさが特徴的だ。
❷音色的な対比はついているものの、こまやかな味わいにとぼしい。
❸たっぷりひびくが、大味とはいえない。
❹この第1ヴァイオリンのフレーズとしては肉がつきすぎている。
❺各楽器の音色を幾分誇張ぎみに示す傾向がある。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶セリフの声が太く感じられ、表情を拡大する傾向がある。
❷接近感を誇張ぎみに示し、わざとらしい。
❸オーケストラと声のとけあいは多少ものたりない。
❹ロザリンデのはった声がかたくなる。
❺各々のひびきがもう少し鮮明に分離してもいい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像はかなり大きく、声も太く感じられる。
❷言葉は、いずれにしろ、鮮明とはいいがたい。
❸残響を少なからず拡大している傾向がある。
❹バリトン、バスがせりだしぎみで、バランスはよくない。
❺たっぷりひびいて、堂々と終る。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、音場的な対比は、力のあるひびきで示される。
❷後へのひきはたっぷりとれている。
❸ひびきに軽さが不足しているので、浮遊感はない。
❹前後のへだたりはとれているが、ひろがりは感じとりにくい。
❺ピークでの迫力は、圧倒的で、すばらしい。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのひびきに力がつきすぎている。
❷ギターの音像は、大きく、しかも力がある。
❸かなりせりだしてきこえるものの、効果的とはいえない。
❹きこえて、アクセントをつけているが、ひびきに輝きがない。
❺ききとれないことはないが、効果的とはいえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶くっきりきかせるが、ここでのサウンドの特徴を示さない。
❷ひびきはきわめて重厚であり、積極的だ。
❸ひびきの乾きも軽やかさもともにたりない。
❹重く大きなドラムスが、力感ゆたかにつっこんでくる。
❺声もまた、力にみちてひびいている。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像は大きいが、力強く、筋肉質のひびきとでもいうべきか。
❷指の動きをとびきりなまなましくきかせる。
❸消えていく音にも力強さが感じられる。
❹力強く、こまかい音の動きにも対応できている。
❺音像的な対比の上で、サム・ジョーンズが小さい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶力にみたちドラムスがつっこんでくる。
❷ブラスのひびきの押しだしもすごい。
❸きわめて積極的に、前方に力をもって押しだされている。
❹音の見通しがよくないので、トランペットはいきない。
❺重いリズムだが、力があるので、効果を上げる。

座鬼太鼓座
❶前の方できこえて、ほとんど距離を感じとれない。
❷尺八のひびきは脂っぽく、和楽器とは思えないほどだ。
❸かすかにではなく、かなりしっかりきこえる。
❹力強くきこえる。消え方も充分に伝わる。
❺きこえる。大太鼓は西洋の楽器のようなひびきがする。

ビクター SX-55N

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、あかるく、くっきり示される。
❷ひろがりが感じられる。スタッカートを強調ぎみ。
❸フラジオレットの音色を積極的に示す。
❹ピッチカートに力があり、音の動きをくっきり示す。
❺迫力はあるが、ひびきとして幾分硬質にすぎる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は、くっきりと示される。音に力もある。
❷音色的な対比をよく示すが、多少わざとらしさがある。
❸全体にひびきがはりだしすぎるので、キメこまかさが不足する。
❹ひびきに肉がつきすぎているとでもいうべきか。
❺音色の特徴は示すが、はりだしぎみである。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶近づいてくる感じは示すが、誇張感がある。
❷残響が強調されている。声が幾分硬い。音像が大きい。
❸もう少しまろやかにひびいてもいいだろう。
❹はった声は硬い。声のまろやかさが感じとりにくい。
❺一応オーケストラの各楽器の特徴は示す。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像が大きいので、メンバーの並び方が不鮮明だ。
❷残響が誇張されるので、言葉は不鮮明だ。
❸子音が充分にたっているとはいえない。ひびきが重い。
❹きわめてかりにくい。音がひきずりがちのためか。
❺のびてはいるが、ひびきに軽やかさがたりない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色対比は充分についていて、しかも音に力がある。
❷クレッシェンドするのはわかるが、しのびこみ方がわざとらしい。
❸音に重みがあるので、軽やかな飛遊にはならない。
❹ひろがりが不充分。前後のへだたりも充分とはいいがたい。
❺力強い音をきくことができるが、ピークで硬くなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶充分な透明感とはいいがたい。ひろがりもたりない。
❷ギターは、もともと、かなりはりだしてきこえる。
❸くっきり、きわめて積極的にひびく。
❹充分に効果的にひびいて、アクセントをつける。
❺他のひびきの中にうめこまれる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音が、一種のまるみをおびて、力強くひびく。
❷充分に効果的だ。積極的に音は前におしだされる。
❸もう少し乾いてもいいが、一応の成果はおさめる。
❹つっこみは、充分に力感をともなっている。声は乾きがたりない。
❺言葉のたち方、声のとけあい方には、多少問題がある。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力にみちた音だ。スケール感も一応示す。
❷弦の上を走る指の音もききとれる。
❸音の尻尾をききとることができる。
❹こまかい音の動きは、多少あいまいになる。
❺音色の差は充分に示すが、音像の面で多少ひっかかる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶力強くはあるが、シャープとはいいがたい。
❷ブラスのつっこみは、力の輝きがある。かなり派手だ。
❸前に大きくはりだして、まことに積極的だ。
❹へだたりはかならずしも充分には示さない。
❺むしろふやけぎみだ。もう少しきりっとひびいてもいいだろう。

座鬼太鼓座
❶近くからきこえるわけではないが、距離感を示さない。
❷枯れたひびきからは遠い。かなり脂っぽい。
❸一応ききとれるが、十全にとはいいがたい。
❹スケールより迫力がきわだつ。消え方は示す。
❺ききとりにくい。雰囲気にものたりなさを感じる。

ビクター FB-7

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、遠くで、鈍くひびく。
❷低音弦のスタッカートはもう少しシャープであってほしい。
❸フラジオレットの効果は示し、各楽器の音色も明らかだ。
❹主旋律はたっぷりうたわれている。
❺クライマックスで力はしめされるが、鮮明さがたりない。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は大きいが、ピアノのひびきそのものは薄い。
❷音色の特徴は、一種絵解き風に示される。
❸ひびきが総じてふくらみがちなので、さわやかさが不足する。
❹この第1ヴァイオリンのフレーズの特徴は示す。
❺ひびきに軽やかさがもうひとつほしい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像は大きく、残響をかなりひっぱっている。
❷子音が強調されて、表情は大きくなる。
❸音色の特徴をかなり拡大して示す。
❹はった声はかたくなりがちで、きわだつ。
❺一体になって前の方に押しだしてくる傾向がある。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像が大きいためだろう、横一列の並び方がききとりにくい。
❷声量をおとすと、ひびきの重み故か、不鮮明になる。
❸ひびきがふとりぎみで、明瞭さが薄れる。
❹各声部のからみがはっきりするためには、響きが重すぎる。
❺一応のびてはいるが、好ましい効果をあげているとはいえない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ポンという低い音の方が大きくひびく。
❷後方へのひきは充分にとれている。
❸音に軽さがないので、浮遊感はでにくい。
❹ひびきの質に関係してのことだろう、ひろがりが感じられない。
❺ピークでは、迫力を示すが、とげとげしくなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後へのひびきはとれているが、ひびきの透明感がほしい。
❷ギターのびひきは、中央からきこえるが、音像は大きい。
❸多少ふやけすぎているためだろう、効果的ではない。
❹充分にききとれるものの、音色的なアクセントをつけてはいない。
❺ほとんど他ののひびきの中にうめこまれている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ギターの弦があたかも太いかのようにきこえる。
❷サウンドの厚みは示すものの、過渡にせりだしすぎる。
❸ハットシンバルのひびきはもう少しすっきりしてほしい。
❹ドラムスの音像は大きく、重くひびく。
❺声は、きわだってくっきりきこえる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶あたかも大きな箱の中でひびいているかのようだ。
❷指の動きは部分拡大的にきかせる。
❸音の尻尾は横にひろがってきこえる。
❹音のこまかい動きがくっきり示されているとはいえない。
❺音像的な面で両者の差が極端すぎる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスのひびきは、重く、せりだしてくる。
❷ブラスのひびきは、かがやきに不足するものの、派手にきこえる。
❸大きくはりだしてきて、一応の効果をあげる。
❹ひびきの目がつみすぎているために、トランペットはいきない。
❺リズムの刻みが重く、めりはりがつきにくい。

座鬼太鼓座
❶尺八は大きく、なにか入れものの中でのごとくにひびく。
❷音色的には、大きな問題はなく、尺八らしさを示す。
❸かすかな音が、低い方にひろがってきこえる。
❹一応のスケール感は示されるが、力強さがほしい。
❺きこえるが、消える音との対比がないのでいきない。

セレッション Ditton 66

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは遠くひびく。全体的に遠い。
❷低音弦の動きに鮮明さと張りが不足している。
❸各楽器のひびきのとけあい方は悪くない。
❹第1ヴァイオリンがたっぷりひびくところはいい。
❺一応のもりあがりは示すが、細部くっきり型とはいいがたい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像が大きく、たっぷりひびく。
❷音色対比は充分で、よくとけあう。
❸室内オーケストラのものとしては、ひびきが重すぎる。
❹一応の特徴は示すが、さわやかとはいいがたい。
❺音色の特徴をきわだたせる傾向がある。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像はかなり大きい。吸う息、吐く息を誇張しがちだ。
❷接近感はききとりにくい。残響をひっぱりすぎるためだ。
❸オーケストラと声とのとけあい方は悪くない。
❹はった声のかたくならないのはいいが、鮮明さに欠ける。
❺各々の音色を充分に示すものの、鮮明さが不足だ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像が大きいので、横一列の並び方がききとりにくい。
❷ひびきがひきずりがちなため、音楽の鮮明さが不足する。
❸かなりたっぷり残響をひっぱっているので、細部は不鮮明だ。
❹各声部のからみあいは、はっきりしにくい。
❺最後のひびきは一応ひっぱられている。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ポンという低い音のひびき方が鈍い。
❷後方へのひびきのひきは、一応とれている。
❸もう少しひびきに浮遊感がほしい。
❹前後のへだたりはとれているが、音ののびに自然さがない。
❺ピークで示される迫力はなかなかのものだ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのひびきにもう少し透明感がほしい。
❷ギターの音像があまりに大きすぎる。
❸ひびきが大きくふくらんで、本来の効果を発揮しえない。
❹かなりこれみよがしにめだってひびく。
❺他のひびきの中にうめこまれてしまっている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶いかにも豊満にひびきすぎて、異色だ。
❷重厚ではあるが、このグループのサウンドらしからぬものがある。
❸必ずしも乾いているとはいいがたい。
❹ドラムスの音像は大きく、力を強調する。
❺声は総じてうめこまれがちで、効果的とはいえない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像はきわめて大きいが、力強いとはいいがたい。
❷指の動きのみならず、息づかいまでもきかせる。
❸幾分誇張ぎみに音の尻尾をきかせる。
❹力を感じさせるが、こまかい音の動きに対しては問題がある。
❺音像的な対比は自然でないところがある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶重くひびくドラムスに切れの鋭さがほしい。
❷ブラスのつっこみは、力強くはあるが、輝きに不足している。
❸きわめて積極的に前方に張りだしている。
❹音の見通しがよくないので、トランペットの効果はいきない。
❺もう少し鋭くリズムが刻まれると、めりはりがつくだろう。

座鬼太鼓座
❶比較的近くできこえるので、距離感がない。
❷さらに脂っぽさがなくなれば、尺八の特徴が示せるだろう。
❸ききとれるものの、末広がりのひびきではない。
❹力感ゆたかなきこえ方がして、迫力はある。
❺きこえる。しかし大太鼓の消え方は示せていない。

フェログラフ S1

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、いきいきとひびく。
❷スタッカートは、重さを強調せず、ひろがりを示して好ましい。
❸各々のひびきの音色的な特徴をよく示している。
❹低音弦のピッチカートがふくらまないのがいい。
❺迫力には幾分とぼしいが、しなやかなひびきがいい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノは、音像が小さく、軽いひびきで示される。
❷各々のひびきがきわめてさわやかに、音色対比充分に示される。
❸室内オーケストラのひびきの特徴をすっきり示す。
❹細身のひびきでさわやかに提示する。
❺鮮明だが、音にもう少し力があってもいいだろう。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像がほどほどで、セリフの声にわざとらしさがない。
❷接近感が無理なく、誇張感なく、自然に示される。
❸楽器と声との、小味だが、バランスのいいとけあいが好ましい。
❹はった声がかたくならないのはいいが、もう少し前にでてほしい。
❺オーケストラと声とのバランスがいいため効果的だ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶横一列にすっきりならんでいるのがよくわかる。
❷声量をおとしても言葉は不鮮明にならない。
❸声に自然なのびがあるために、細部の表現も無理がない。
❹ひびきに一種の軽やかさがあるためだろう、明瞭だ。
❺しめくくりは、ポツンと切れることなく、のびている。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、,音場的対比がよく、無理なく示される。
❷奥へのひきもよく、ひろがりを獲得できている。
❸ひびきの身軽さが、ここでこのましく示される。
❹ひびきの流れがとどこおることなくひろがる。
❺幾分力不足ぎみだが、一応の効果はあげる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶透明感をもったひびきがすっきりと後にひいている。
❷ギターの音像が小さめに、くっきりと示される。
❸ひびきがふくらみすぎていないのがいい。
❹さわやかに、すっきりと、効果的にひびく。
❺他のひびきの中からその存在を主張する。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ほっそりしたひびきで、このサウンドの特徴を示す。
❷厚みはあるが、さわやかさを失わない。
❸ひびきは充分に乾いていて、効果的だ。
❹ドラムス、声、いずれも望ましくきこえる。
❺声の重なりがよく示されて、有効だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力感ゆたかとはいえないが、シャープな反応がいい。
❷くっきりききとらせるものの、誇張感はない。
❸きこえなくはないが、特に特徴的とはいいがたい。
❹こまかい音の動きを、くっきり示す。
❺音色的、音像的、音量的対比に不自然さはない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶力感に不足するものの、シャープなつっこみはみごとだ。
❷ひびきのコントラストが充分についている。
❸一応の効果はあげるものの、特にきわだってはいない。
❹音の見通しがいいために、トランペットは有効な働きをする。
❺リズムの提示がはなはだシャープだ。

座鬼太鼓座
❶尺八は充分にへだたったところからきこえてくる。
❷ひびきに脂っぽさはないが、特に秀れているとはいいがたい。
❸かすかな音できこえるが、特徴的ではない。
❹大きさは感じさせないが、力感はある。
❺はなはだ効果的にひびいて、雰囲気をたかめている。

オンキョー Scepter 10

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは幾分奥まったところからきこえてくる。
❷低音弦の動きにもうひとつきりっとしたところがほしい。
❸フラジオレットの特徴的な音色は示す。
❹ここでのピッチカートは幾分ふくれぎみだ。
❺たっぷりひびくが、ひびきに張りがほしい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は大きい。ブレンデルの音色は示しえている。
❷音色的な対比はついている。もう少しキメ細かでもいいだろう。
❸室内オーケストラのひびきとしては軽やかさが不足だ。
❹どうしたわけか多少きつめにひびく。
❺各楽器の音色はわかりやすく示してくれる。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像が大きく、息づかいを強調ぎみに示す。
❷接近感はあるが、表象が大きくなっている。
❸クラリネットの音色はいいが、とけあい方に問題がある。
❹はった声は、もう少しなめらかにひびいてほしい。
❺各楽器の特徴は示すものの、もう少しとけあってほしい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像は大きめである。そのために定位が感じとりにくい。
❷子音がたちにくいためか言葉の鮮明度が幾分不足している。
❸残響をひっぱりすぎているのか、細部をききとりにくい。
❹バリトン、バスが誇張されがちだ。
❺余韻を残しているが、必ずしも効果的とはいえない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶どちらかといえばポンという低い音の方がきわだってきこえる。
❷ひびきの後方へのひき方はうまくいっている。
❸ひびきが幾分湿りがちなのがおしい。
❹前後のへだたりはとれているが、ひろがりは感じにくい。
❺ピークでひびきにもう少し力がほしい。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのひびき方はよく感じとれる。
❷ギターの音像が大きめなため、せりだし方が感じとりにくい。
❸もう少しくっきり、輪郭さだかにひびいてもいいだろう。
❹幾分湿ったひびきになっているが、アクセントはつける。
❺ちょっとききとりにくい。他のひびきにうめこまれている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶暖色系の音のためか、シャープなひびきに不足ぎみだ。
❷サウンドの厚みは感じとれるものの、音像が大きい。
❸ハットシンバルのひびきは、もう少し乾いていた方がいい。
❹ドラムスはかなり大きく感じられる。
❺ヴォーカルがひっこみがちなのはなぜだろう。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像は大きい。スケール感は示すが、力強さがもうひとつだ。
❷指の動きをなまなましくきかせるが、幾分部分拡大的だ。
❸音の消え方は示す。そのためにスケール感が明らかだ。
❹こまかい音の動きに対しての反応は不十分といわざるをえない。
❺音色的には対比がついているが、音像的に問題がある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶左手からのドラムスのつっこみは重厚だ。
❷ブラスの切りこみははなやかだが、力強さがたりない。
❸極端なクローズアップが一応の効果をあげている。
❹音の見通しがよくないために、トランペットがいきない。
❺リズムがもう少しシャープに示されてもいいだろう。

座鬼太鼓座
❶尺八の像は大きく、しかもかなり前にでてくる。
❷音色的には、尺八の特徴をよく伝える。
❸これみよがしにではないが、そのひびきの存在を気づかせる。
❹スケールゆたかなひびきだが、力強さがほしい。
❺ききとれなくはないが、効果的とはいえない。

テストの結果から私の推すスピーカー

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 せっかくレコードに、ごくこまかいところまで入っているのだから、それをききたいと思う。きかなければ損だと思う。最近のレコードは、細部を拡大してはきかせてくれない。ききたければききなさい──とでもいうかのように、ピアニッシモはまさにピアニッシモのまま、レコードにおさめられている。だからききては、きこえてくるものを待っていられない。みずから求めて、音をつかまえにいかねばならない。そっくりかえってはいられない。
 しかもききては、欲張りだから、そのごくこまかい部分の音が、上質のひびきできこえてほしいと思う。これはつまり、サウンドのクォリティに対しての要求だ。この件に関しては、残念ながらというべきか、価格が関係する。高価なスピーカーシステムは(そのすべてがそうだというわけではないが)、おおむね、それ相応の質で、きかせてくれる。したがって、どうしても上質のひびきで──ということになれば、かなりの出費を覚悟しなければならない。
 しかし、もう少し手前のところで、スピーカーシステムを考えることもできそうだ。質的なことをひとまず棚にあげて、こまかい音への対応のしかたに的をしぼって考えることだ。そこでうかびあがるスピーカーシステムは、新しいレコードの新しいレコードならではの特徴を、一応はあきらかにする。 価格の下の方からあげていけば、デンオンSC104、パイオニアCS755、デンオンSC107、ダイヤトーンDS50CS、KEFカンタータなどが、その範疇に入る。たとえば、デンオンSC104などは、その価格からしても当然というべきかもしれぬが、真に迫力ある音をきこうとしても、それは不可能だ。ただ、ひびきの細部への対応力といったことでは、かなりのものだ。いかにも再生音じみた、ひびきのひろがりのなさは感じられるが、しかし、新しいレコードをきいているよろこびは、ききてに与えてくれる。
 ゲイルGS401Aは、そのいかにも瀟洒な、スピーカーシステムらしからぬ容姿ともども、今回試聴したものの中で、もっとも心ひかれたものだった。これにしたところで、腰のすわった、力強い音をきかせてくれたわけではなかった。だが、こまかいところまでききとろうとする、ききての、視線という言葉にならっていえば、聴線に、充分にこたえていた。そのすっきりしたひびきは、なかなか魅力的だった。
 フェログラフS1についても、ゲイルとほぼ同じようなことがいえるだろう。ただ、ひびきのキメこまかさということでは、こっちの方が一枚上だった。パイオニアCS955のひびきは、キャラクターとして、個人的には特に好きなものとはいいがたかったが、さまざまな音に対してのあぶなげのない対応のしかたで、ひいでていた。こまかい部分も鮮明で、ききてがひびきにでむいていくかぎり、それにこたえてくれた。
 さらに高価なスピーカーシステムでは、スペンドールBCIII、JBLL300、それにテクニクスSB10000をあげておくことにしよう。いずれも、まったく問題がないというわけではないが、新しいレコードの新しいレコードならではの魅力をひきだしてくれた。
 音楽をきく時に、そんな微細なところにこだわってばかりはいないという主張もあろうかと思うが、いずれにしろ、音楽をきくとは、音をきくことから出発せざるをえないわけで、だとすれば、ききては、いかにかすかな音に対してだろうと、貪欲に、おのれの聴線をひびきの森の中ではいずりまわすべきではないか。

ヤマハ NS-L325

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶弦のピッチカートも木管楽器のフレーズも細めにひびく。
❷あいまいにはならないが、さらにすっきりしてもいいだろう。
❸フラジオレットの効果は示せている。
❹ピッチカートがふくらまないのはいい。主旋律のひびきも豊かだ。
❺クライマックスでは、迫力はあるものの、少しきつくなる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像はほどほど。ただひびきにもう少し力がほしい。
❷各楽器の音色は、無理なく、示すので、対比はついている。
❸室内オーケストラならではのひびきのさわやかさがある。
❹本来はなにげないフレーズだが、少しきわだたせすぎるようだ。
❺鮮色だが、ひびきの特徴をかなりクローズアップする。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶残響を適度にひろっているが、音像は小さい。
❷子音を強調ぎみに示す。接近感はあきらかだ。
❸クラリネットの音色をよく示すが、ひびきのとけあいはよくない。
❹はった声は、硬くなりがちで、耳ざわりになる。
❺一応きこえるが、エフェクティヴとはいいがたい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶定位はかならずしもすっきりとは示さない。音像は大きめだ。
❷残響をひろいすぎているので、鮮明とはいえない。
❸ひびきに敏捷さがたりず、幾分不鮮明になる。
❹もう少しすっきりきこえてもいいだろう。
❺一応のびてはいるが、すっきりした気配にとぼしい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色対比は充分だが、音場的には、ひろがりがとれない。
❷奥へのひきがかならずしも充分でない。
❸音は、重くなって、ひきずりがちのために、浮遊しない。
❹前後のへだたりは充分とはいえない。
❺しのびこみ方がしぜんでなく、ピークで刺激的になる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶透明感はたりない。ひろがりもとれない。
❷音像は大きく、はりだしてきこえる。
❸他の楽器のひひきにうめこまれがちだ。
❹一応の成果をあげる。かなりめだってひびくからだ。
❺ことさら耳をすまさなくてもきこえてくる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶きりっとひびかず、幾分かげりがちになる。
❷ひびきの厚みがでにくい。薄味なひびきでとどまる。
❸さわやかにひびくとはいいがたい。
❹乾いた音ではきこえるが、シャープさが不足している。
❺言葉はききとれるが、ひびきにさわやかさがたりない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶大きな箱の中でひかれているかのようにきこえる。
❷指の動きはききとれるが、特にあざやかとはいえない。
❸消え方は充分とはいいがたく、余韻はとぼしい。
❹力強さは感じられるが、こまかい音の動きが鮮明とはいえない。
❺音色の差はあきらかだが、音像の面で問題がある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶つっこみが弱い。切りこんでくるとはいいがたい。
❷ひびきの目がつみすぎているためか、本来の成果が示されない。
❸おしだすようにして前の方できこえる。
❹後方からはきこえるが、接近感は充分ではない。
❺力強くひびくが、切れ味するどいとはいえない。

座鬼太鼓座
❶一応の距離的なへだたりは感じとれる。
❷脂っほいひびきになってしまっている。
❸きこえなくはないが、かなり耳をすますことが必要だ。
❹力強さは感じられる。しかし大きさは感じとりにくい。
❺ききとれる。かなりめだってききとれる。

サンスイ SP-G300

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは明るくひびく。木管との音色対比も充分だ。
❷低音弦のひびきに多少の鈍さがあるものの、積極的だ。
❸第1ヴァイオリンによる特徴的な音色は示されている。
❹ヴァイオリンのたっぷりしたひびきがいい。
❺クライマックスで多少ひびきがかたくなる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は大きめで、ひびきのキメは粗い。
❷音色的な対比は示されるものの、ひびきがかさかさしている。
❸室内オーケストラのひびきの軽やかさが示されない。
❹第1ヴァイオリンによるフレーズが大味になっている。
❺音色の特徴を強調ぎみに示す傾向がある。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像が大きく、残響を強調する傾向がある。
❷接近感は示すものの、子音が強く、表情を大きくする。
❸クラリネットの音色は示すが、もう少しとけあってもいい。
❹声は全般的にかためだが、はった声は特にかたい。
❺オーケストラのひびきはもう少しとけあってきこえてほしい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像は大きい。メンバーの並び方を感じとりにくい。
❷声量をおとすと、さらに言葉のたち方がよわくなる。
❸残響をひきずりすぎるので、言葉の細部がききとりにくい。
❹各声部のからみが明瞭になるためには、キメこまかさが必要だ。
❺ぽつんときれていないが、効果的ではない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、音場的対比は充分にとれている。
❷シンプルなメロディーの後へのひき方は好ましい。
❸ひびきに浮遊感はあるが、多少ばらばらになりがちだ。
❹前後のへだたりはかなりたっぷりとれている。
❺ピークでは幾分ごりおし風になって、ひびきが刺激的だ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひびきの後へのひき方はいいが、透明感に不足する。
❷ギターの音像がかなり大きいため、せりだす気配が希薄だ。
❸このひびきは力をもってのびないといけないが、それが不足している。
❹くっきりと浮びあがり、効果をあげる。
❺きこえるが、もう少しキメのこまかさがほしい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音が金属的になりすぎている。
❷サウンドの厚みはでるが、ニュアンスが伝わりにくい。
❸ハットシンバルのひびきの特徴は一応でている。
❹ドラムスはかなり大きく感じられる。シャープさがたりない。
❺バックコーラスはひっこみがちだ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像は大きい。スケール感は示すが、力強さはもう一歩だ。
❷部分拡大的に指の動きをきかせる。
❸音の消え方の示し方は、かなり積極的だ。
❹ひびきに本来の力がないためか、こまかい音の動きがわかりにくい。
❺音像的、音量的に差がありすぎる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスのひびきに鋭さがほしい。
❷派手な音色でブラスがつっこんでくる。
❸この場のフルートのひびき方を誇張ぎみに示す。
❹トランペットの接近感は一応示しえている。
❺ふやけていないが、もうひとつめりはりがつかない。

座鬼太鼓座
❶尺八が大きく感じられる。したがって距離感がとれない。
❷尺八独自のひびきが明らかになりにくい。
❸あやふやにではなく、力をもってきこえる。
❹たっぷりとひびき、消え方も示すが、力強さはいま一歩だ。
❺一応きこえて、雰囲気をもたらしえている。

デンオン SC-104

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートはさわやかにひびくが、木管は薄味だ。
❷スタッカートは鮮明で、ひろがりもあるが、ゆたかさに欠ける。
❸特徴的な音色をよく示し、他の楽器とのからみもききとれる。
❹ピッチカートはふくれない。音の動きは鮮明だ。
❺われもにごりもしないが、決して充分とはいえない。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像が小さく、くっきり定位するのがいい。
❷音色的対比は、これみよがしにならず、このましく示される。
❸室内オーケストラのさわやかさが感じとれる音だ。
❹すっきりと、さわやかにきこえる。
❺幾分ひかえめにすぎるが、鮮明にききとれる。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶言葉に残響がつきすぎないので、すっきりきこえる。
❷接近感を、ことさらめかさないで、さわやかに示す。
❸まろやかな音色を傷つけていない。声と楽器のバランスもいい。
❹声はあくまでもまろやかで、硬くならない。
❺ききての側で出むいていってきこうとすれば充分にきかせる。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶メンバーの並び方は、よくわかる。
❷声に多少残響がついているが、不鮮明になっていない。
❸子音のたち方なども過不足なく、細部までよくききとれる。
❹各声部の動きはあいまいになっていない。
❺一応の残響があるので、ポツンと切れてはいない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的にも、音像的にも、コントラストがついている。
❷ひびきの透明感のあるのがいい。クレッシェンドも自然である。
❸音に軽みがあり、ひきずらず、一応浮遊する。
❹前後のへだたりはとれている。ただ音にもう少し力がほしい。
❺ピークでは力不足を感じる。圧倒的なひびきにはなりえない。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶透明感はある。ただ、ひろがりとんいうことでは、もう一歩だ。
❷ギターの音像がふくらまず、すっきり中央に定位するのがいい。
❸一応の効果はあげるが、ひびきに力がない。
❹そのひびきの特徴を示すが、いかにも薄い。
❺きこえることはきこえるが、ひきたたない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音色の特徴はよく示すが、ベースは不足ぎみだ。
❷ひびきの厚みの提示は、かならずしも十全とはいいがたい。
❸すっきりとぬけてくるが、幾分ひびきに力が不足している。
❹ドラムスはシャープだが力感に不足している。声はいい。
❺バックコーラスの効果は示せている。言葉は鮮明だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像がふくらみすぎないのはいいが、力強さがない。
❷なまなましく指の音をきかせるが、すごみはない。
❸音の消え方は、ききとりにくいので、スケール感がでない。
❹こまかい動きはわかるが、力強さはない。
❺音色的にはいいが、音像的に差がありすぎる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶シャープに切れこんでくるが、アタックの強さはない。
❷ブラスに力がないので、浅いひびきにとどまる。
❸一応の効果はあげるが、ひびきが刺激的になっている。
❹へだたりはあまり感じられず、したがって接近感は不足している。
❺ふやけないのはいいが、力がたりない。

座鬼太鼓座
❶尺八が奥にいるのはわかるが、消極的にすぎる。
❷音色的には問題ないが、ひびきにもう少し力がほしい。
❸ききとりにくい。深く沈む音の再生が不得手なためか。
❹スケールの大きさは感じとりにくい。
❺かすかにきこえるが、エフェクティヴではない。

ソニー SS-G7

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきはいきいきとしていてはえる。
❷スタッカートはたっぷりひびいているが、鋭さは不足ぎみだ。
❸フラジオレットの特徴は明らかになっている。
❹低音弦のピッチカートは、たっぷりして、あいまいにならない。
❺クライマックスでの迫力はなかなかのものだ。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は大きい。ひびきに力のあるのがいい。
❷音色対比は充分だが、ひびきにキメこまかさがほしい。
❸室内オーケストラによるひびきの軽やかさが不足している。
❹このフレーズの特徴は示すが、すこしせりだしすぎる。
❺各楽器の音色は示すものの、キメはあらい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶セリフの声のまろやかさがたりない。
❷接近感は示すが、プライの声が太くなりすぎる。
❸オーケストラのひびきのとけあい方が充分でない。
❹はった声はかたくなる。もう少しまろやかでもいいだろう。
❺個々のひびきがばらばらになりがちだ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像が大きいので、メンバーの並び方を感じとりにくい。
❷声量をおとすと、さらに言葉がもやっとする。
❸残響を切りおとしされていないので、細部はききとりにくい。
❹バリトン、バスが強調されがちなので各声部のバランスが悪い。
❺一応ひびきはのびているが、効果的とはいえない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、音場的なコントラストは充分についている。
❷力をもってシンプルなメロディーがクレッシェンドする。
❸浮遊感はあるものの、音がばらばらにきこえる傾向がある。
❹ひびきのひろがりという点で、多少ものたりないところがある。
❺ふくれあがり方は力があっていいが、ピークでひびきが濁る。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひろがりはとれているものの、透明感がとぼしい。
❷ギターの音像は大きめで、さらにくっきりしてもいい。
❸ひびきが充分な効果をあげない。他のひびきにうめこまれがちだ。
❹この音は、かなりきわだってきこえて、アクセントをつける。
❺充分にききとれ、ひびきに変化をもたせている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶過渡にスケールの大きいひびきで開始される。
❷サウンドの厚みは、多少これみよがしに示される。
❸一応の効果は示すものの、すっきりぬけでてくるとはいえない。
❹ドラムスは、力強いが、シャープとはいいがたい。
❺バックコーラスでは言葉はたつが、とけあわない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶ペデルセンの音像がきわめて大きい。
❷指の動きは不自然なほどに誇張されて示される。
❸音の尻尾はなまなましく示されている。
❹力強いが、こまかい音の動きが鮮明とはいいがたい。
❺音像的、音量的に差が大きすぎる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスはたっぷりひびくが、アタックがシャープとはいえない。
❷ブラスは派手なひびきでつっこんでくる。
❸フルートを大柄なひびきで前面におしだしてくる。
❹音の見通しは悪くないが、トランペットはいきない。
❺リズムは一応の切れを示して、はなやかにまとめる。

座鬼太鼓座
❶尺八がきわだって大きく感じられる。
❷ひびきにかなり艶があり、尺八らしさがとぼしい。
❸力をもった音でくっきりときかせる。
❹大きさは充分に示すが、もうひとつ力強さがほしい。
❺大太鼓の消えていく音とよくバランスしてきこえる。

サンスイ SP-L100

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは軽くひびく。木管楽器のひびきの性格は不充分。
❷あいまいにならず、ぼけてもいないが、力感にはとぼしい。
❸ヴァイオリンの音が硬くなる。音色面での特徴はとぼしい。
❹第1ヴァイオリンの響きが、乾いている。
❺総奏では響きが刺激的になる傾向がある。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像はふくれぎみの傾向がある。
❷音色的な対比はできているが、響きが乾燥ぎみ。
❸室内オーケストラ的なまとまりはあるが、もう少し湿りがほしい。
❹すっきりときこえるが、他の楽器とさらにとけあってもいい。
❺その音のキャラクターはくっきり示す。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶❷で接近感は示される。ただそれを幾分強調ぎみの傾向がある。声は硬めで、子音が強く感じられる。
❸クラリネットはくっきりきこえるが、とけあい方が不充分。
❹はった声が幾分刺激的になって、とびだしてきこえる。
❺個々の楽器をききわけることはできるが、とけあわない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶それぞれのメンバーの定位はいい。ただ声は乾いている。
❷鮮明で、子音が幾分強調されている。
❸残響は、むしろおさえられすぎている。
❹各声部のこまかい動きは、かなりはっきりききとれる。
❺ひびきののびやかさがない。そのためにポツンときれる。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶コントラストは充分にとれていて、ひろがりが感じられる。
❷奥ゆきは示されているが、クレッシェンドに自然さがない。
❸一応の浮遊感はあるものの、とびかい方になめらかさがない。
❹個々のひびきの呼応のしかたにちぐはぐなところがある。
❺クライマックスで頭をうってしまって、のびない。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方からきこえるが、のびやかさ、透明感に不足している。
❷せりだしてくるものの、もともとの音像が大きい。
❸他のひびきの中に埋没しがちである。
❹多少の強調感をともなって、きわだつ。
❺きこえることはきこえるが、かならずしも効果的とはいえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音が少し硬すぎるようだ。
❷一応の効果は示されるものの、もう少しベースが積極的でもいい。
❸ハットシンバルの音はぬけでてくるが、薄いひびきにとどまる。
❹ドラムスの音はいいが、声は乾きすぎている。
❺言葉はたつが、声にもう少しなめらかさがほしい。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶スケール感は不足しているが、エネルギーは感じられる。
❷指の走る音はかなりくっきり、なまなましくきこえる。
❸消えていく音は、消極的にしか示さない。
❹ひびきそのものは細身だが、一応こまかい音の動きは示す。
❺コントラストの点で不自然さはない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶音に力が不足しているので、つっこみに鋭さが足りない。
❷ブラスのつっこみが金属的なひびきに傾きがち。
❸クローズアップの効果は示せている。
❹奥ゆきがとれて、しかも接近感もあきらかだ。
❺幾分ふやけぎみで、そのためにめりはりがつきにくい。

座鬼太鼓座
❶かなり前の方にでてくるので、距離感はとれない。
❷脂っぽさはないが、乾きすぎている。
❸一応きこえるが、きわだってきこえるほどではない。
❹スケール感不足ぎみ。消え方はつたわらない。
❺かすかにきこえる。しかしひびきにもう少し雰囲気がほしい。

試聴テストを終えて

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

「試聴」は、いつもながらのことだが、非常に疲れる。ひとことでいえば、はなはだしんどい仕事だ。そんなにつらいのなら、しなければいいじゃないかと、自分でも思う。でも、また、やってしまった。しかも、なんたることだ。しぶしぶいやいやではなく、いそいそと「試聴」にのぞみ、終って、気がついてみたら、疲れはてていた。
 そこで考えてみることになる。なにを「試」しに「聴」こうとして、いそいそとしたのか、つまり、「試聴」の目的は、いったいなんだったのか。いそいそとするからには、なんらかのたのしみが期待できたはずだ。そのたのしみとはどのようなたのしみだったのか。
 ふりかえってみて気づいたのは、この場合の「試聴」のたのしみが、その「試聴」の過程にあったということだ。結果として、どのスピーカーが好ましくて、どのスピーカーが好ましくないというようなことはわかる。しかし、だからといって、その、いわゆるよしあしの判断が、「試聴」の目的ではなかった。よしあしは、特に音に関するものとなれば、すくなからず主観が関係する。AがいいといったものをBがよくないというようなことは、ままある。 どうやら、「試聴」のたのしみは、自分をモルモットにするたのしみだったようだ。モルモットは意見をもちえない。ただ、音に対して反応するだけだ。しかし、その場合、モルモットが、いかなるレコードのいかなる部分をつかって、どのような部分にポイントをおいて反応したのかを、示しておく必要があるだろう。そのようにすることは、自分をモルモットとしておいこむのに有効でもあった。
 モルモットのしたことは、モルモットにできることにおのずと限界があるから当然のことだが、はなはだ単純なことだった。すなわち、モルモットがしたのは、ただ、興味の綱をたぐりよせることだけだった。ヴァイオリンのピッチカートが、ちゃんとピッチカートらしくきこえるかな? 少しぼやけているけれど、きこえた。それでは、月のフルートとオーボエのフレーズはどうかな? オーボエの響きがちょっとききとりにくいが、まあまあだろう──、モルモットの反応のしかたは、ざっとそんな具合だった。
「試聴」にあたってのプログラム、つまり興味の綱は、すでに、「試聴」に先だって、できていた。「試聴」しながら恣意的にあれこれレコードをえらぶということはしなかった。
 しかし、そういう方法が今回にかぎってのものとは、いえない。いつも、「試聴」に先だって、興味の綱はつくっておく。ことさらめかしたいい方になってしまうが、それぞれのレコードのそれぞれの部分で、こことこことここ──といったように、いくつかのチェックすべきポイントをもってきいている。そんなことは、あらためていうべきことではなく、当然のことでしかない。
 今回ちがったのは、おおよそどの部分を注意してきいたのかを示せ──という、編集部からの要請もあって、それをあらかじめ示したことだった。ただ、ここでひとことことわっておきたいのは、それそれのレコードで示したチェックポイントは、書きだしやすいものにかぎって、数も、それぞれのレコードについて5つにおさえたということだ。ちょっとお考えいただけば、すぐにもおわかりになることだが、1分そこそこしかきかなかったレコードと4分32秒もきいたレコードで、ひとしく5つずつのチェックすべきところが示してあることのアンバランスがある。
 だから、それは、モルモットがたぐりよせた興味の綱の一部を示しただけのものだ。全部はとても、繁雑になりすぎて、書ききれない。それに、たしかにその部分を注意してきいたのだが、その部分の音の内容についてうまく言葉にできなかったということもなくはなかった。
 しかし、いずれにしろ、編集部の要請にしたがったがゆえに、モルモットはモルモットに徹することができた。当然、その結果、このモルモットが書きつけた言葉には、抽象的な美辞麗句はありえない。しごく乾いた、味もそっけもない、きこえたとかきこえなかったとか、そんな言葉が、まさにメモ風に書きつらねてあるだけだ。今、ためしに数えてみたら、「試聴」の際にとったメモは、ひとつのスピーカーについて、ほぼ3000字ほどある。
 むろん、いくらなんでも、それをそのまま活字にするわけにはいかない。なぜなら、そこには重複があったり、自分にしかわからない暗号風な言葉があったりするからだ。それを幾分整理したのが、別項の「試聴メモ」ということになる。
 ここがこうなら、次のところはどうか──といったように、ということは、別の言葉でいうと、土竜(もぐら)が土に穴をほるようにということになるだろうが、ききつづけた。疲れは当然というべきかもしれない。しかし、反面、たのしかった。モルモットだか土竜だかしらぬが、ともかく試聴者は、せいいっぱいおのれの耳の視線を、音の群れの中にしのびこませた。疲れたのは、耳と、耳が感じとったものを書きつける手だった。およそ頭は疲れなかった。頭は使いようがなかったからだ。
 たとえばヴェルディのオペラ「仮面舞踏会」の前奏曲で、低音弦のピッチカートがどうきこえるかは、はなはだ音楽的な問題だが、そのことについてあれこれいうことを、この際、モルモットは、放棄した。
 それでは、モルモットよ、お前は、木をみて、林をみなかったのか?──という質問があるかもしれない。その質問に答えておこう。たしかに、そうだ。モルモットがみたのは、木であって、林ではなかったかもしれない。しかし、ここでモルモットが選んだレコードは、俗にいわれるオーディオチェック用レコードではなかった。たとえ一部に、いわゆるデモ用レコードとしてつかえそうに思えるものもなくはなかったが、大半は、ことさらに響きの部分拡大をしていない、音楽をきくためのレコードだった。そこでモルモットは、木をみとどけるために、みずから、おのれの耳を、木々のたちならぶ、つまり林をかきわけて、中に入りこまざるをえなかった。なるほど、結果としてみたのは木でしかなかったが、林を意識しての木に対しての、モルモットのモルモットなりの視点だったということができる。
 ここがこうきこえて、あそこがああきこえた──という結果をよせ集めれば、たとえば新聞の写真のように、それなりに顔なり景色なりが浮かびあがってくる。しかし、今回のここでのモルモットは、その作業をおこなわなかった。点が黒いか、灰色か、白いかは、できるかぎり明記したが、それが示す顔なり景色なりについては、ふれなかった。顔の写真を好む人もあるだろうし、景色の写真を好む人もあるだろうから、顔の写真がいいという人に、景色の写真のよさを力説することはしなかった。
 しかし、モルモットには、モルモットなりの感想があった。それは、個々の木が十全であって、しかも林の輪郭がぼけたものはなかったということだ。ということは、部分が十全であって、しかも非音楽的にしかきこえなかったスピーカーはなかったということだ。これがもし、部分拡大されたレコードでの、「試聴」だと、そういはいかないのだろうが、最近の、しかもすぐれたレコードは、極端に部分拡大をこばんでいる。モルモットが、できうるかぎり最新のレコードをえらんだ理由は、そこにある。
 最近のレコードは、ほら、おききなさい、これがコントラバスですよ、これがピッコロですよ──といったようには録音されていない。ききての耳が入りこんでくるのを待っていて、そこまで耳がいたれば、それなりにコントラバスの音なり、ピっ子の音なりをきかせてくれる。そういうレコードで、モルモットは、「試聴」した。そして、むきになって穴をほって、むくわれたこともあり、石ころにばかりぶつかって苦労したこともあったが、たのしかった。

テクニクス SB-10000

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、ゆたかに、しかし鮮明にひびく。
❷低音弦のスタッカートは、たっぷりひびくが、切れ味鋭い。
❸さまざまなひびきのとけあい方には無理がなく、好ましい。
❹ここでのピッチカートは、ふやけず、充分な力を示す。
❺クライマックスでのもりあがりは、鮮明で、迫力充分だ。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は中くらいで、くっきりと示される。
❷音色的な特徴がキメ細かく、すっきりと示される。
❸ひびきが大柄にならないよさがいきている。
❹第1ヴァイオリンのフレーズは、さわやかにひびく。
❺さまざまな音色の提示に無理がない。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像は小さめで、セリフの声のなまなましさが特徴的だ。
❷表情の拡大がなく、接近感を自然に示す。
❸クラリネットの音色はまろやかで、大変美しい。
❹はった声も自然にのびて、かたくならない。
❺オーケストラと声とのバランスはほぼ十全だ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶定位はくっきりとして、ひとりひとりを見分けられるほどだ。
❷声量をおとしても言葉が不鮮明になったりしない。
❸残響はかなりひいているが、悪く影響はしていない。
❹ひびきはけっして軽くないが、各声部のからみは明瞭だ。
❺ひびきは自然に、しなやかにのびている。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ふたつの異なる性格のひびきが充分に対比されている。
❷暖色系のひびきながら、後へのひきは充分だ。
❸ひびきは重くなることなく、充分に浮遊している。
❹前後のへだたりが充分で、広々と感じられる。
❺ピークでのひびきの強さと広がりは圧倒的だ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのほんのかすかなひびきが特徴的だ。
❷ギターの音像はふくれすぎず、音色的特徴をよく示す。
❸くっきりと、あいまいにならず、効果的にひびく。
❹固有の音色的特徴を明らかにしてアクセントをつける。
❺静かに、しかし、あいまいにならず、きこえる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきはもとより、それをつつむひびきが明らかだ。
❷サウンドの厚みを示し、その内容も明らかにする。
❸ハットシンバルのひびきはもう少し乾いてもいいだろう。
❹ドラムスの音像はほどほどで、鋭くつっこむ。
❺声の重なりが自然で、言葉もよくたってくる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶ほどほどの音像で、エネルギー感ゆたかにきかせる。
❷なまなましく、オンの感じを伝えるが、誇張感はない。
❸たっぷりときこえて、不自然さがない。
❹力強く、しかも鮮明さもそこなっていない。
❺サム・ジョーンズの音像はきわめて好ましい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスは力感ゆたかだが、ねばらないのがいい。
❷ブラスのつっこみは、きわだって力強い。
❸クローズアップの効果が、いっぱいにひろがる。
❹ひびきにひろがりがあるため、トランペットがいきる。
❺リズムにはずみがあり、生気にとんでいる。

座鬼太鼓座
❶充分に距離がとれているが、あいまいではない。
❷脂っぽさはいささかもなく、きわめて好ましい。
❸不自然にではなく、また誇張感もなく、きこえる。
❹大きさと力強さは、ほとんど圧倒的といってもいい。
❺ごく自然なきこえ方で、充分にアクセントをつけている。

JBL L300

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、生気があって、くっきりとひびく。
❷低音弦のスタッカートは力があって、ひろがりも感じさせる。
❸各々のひびきの特徴をくっきりと示し、とけあい方もいい。
❹ここでのピッチカートは、たっぷりひびいて、しかも鮮明だ。
❺内容を示しつつ、迫力充分にきかせる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は大きく、ひびきに力がある。
❷個々のひびきの特徴は示すが、キメ細かさが足りない。
❸室内オーケストラのひびきとしては、大柄にすぎるだろう。
❹すっきりときこえるが、ひびきにしんがありすぎる。
❺ひびきの特徴を示し、ばらばらにならない。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶残響をかなりひろっているが、声になまなましさがある。
❷接近感は拡大ぎみに示す。表情はゆたかだ。
❸クラリネットのひびきはきわだつが、声とのバランスはいい。
❹はった声がかたくならず、充分にのびている。
❺オーケストラと声とのバランスは理想的だ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像はふくらみがちなため、定位は必ずしもよくない。
❷声量をおとしても鮮明さがなくなることはない。
❸残響をかなりひろっているが、言葉は充分にたつ。
❹ひびきに軽やかさはないが、各声部のからみあいは明瞭だ。
❺とってつけたようにではなく、自然にのびている。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ふたつのひびきの、音色的、音場的対比は充分だ。
❷後方にひいたひびきの質がよくききとれる。
❸さらに軽やかであってもいいが、浮遊感は示す。
❹力のあるひびきによりながら、ひろがりがある。
❺ふくらみ方は自然で、ピークでの迫力は圧倒的だ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのひびきには力があるが、透明感をそこねていない。
❷ギターはくっきり示されて、せりだし方をよく示す。
❸ふくらみすぎず、あいまいにならず、きわめて好ましい。
❹ひびきの輝きをよく伝えて、アクセントをつけている。
❺すっきりとこのひびきの本来の姿を伝える。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきがあいまいにならずくっきりと定位する。
❷ひびきの重なり具合が充分にききとれる。
❸ハットシンバルの音は、乾いて、すっきりとぬけでてくる。
❹ドラムスの音像は大きくならず、シャープに切りこんでくる。
❺声の重なり方が手にとるようによくわかる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像が巨大になっていないのがいい。充分な力がある。
❷指の動きが、ことさらめかさず示され、なまなましい。
❸音の消え方にも、誇張感がなくていい。
❹こまかい音の動きに対しての反応も好ましい。
❺音像的、音量的、音色的対比は十全だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶アタックのシャープさはなかなかのものだ。
❷ブラスの切りこみも、はなやかなひびきで、有効だ。
❸この部分で求められる効果を充分にいかしている。
❹ひびきの目がつみすぎていないので、トランペットの参加が生きる。
❺左でのリズムの刻みはまことに鋭い。

座鬼太鼓座
❶尺八は左奥からすっきりきこえてくる。
❷くっきり示されるものの、ひびきに脂のついていないのがいい。
❸かすかな音できこえて、誇張感はない。
❹充分な力を示し、音の消え方もよく伝える。
❺好ましいきこえ方をして、はなはだ効果的だ。