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JBL D44000 Paragon

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 JBLパラゴン家の中に持ち込んでみてわかったのは、この「パラゴン」ひとつで部屋の中の雰囲気が、まるで変ってしまうということだった。なにせ「幅2m強、高さ1m弱」という大きさからいっても、家具としてこれだけの大きさのものは、少なくとも日本の家具店の中には見当らない見事な仕上げの木製であるとて、この異様とも受けとめられる風貌だ。日本人の感覚の正直さから予備知識がなかったら、それが音を出すための物であると果してどれだけの人が見破るだろうか。何の用途か不明な巨大物体が、でんと室内正面にそなえられていては、雰囲気もすっかり変ってしまうに違いなかろう。「異様」と形容した、この外観のかもし出す雰囲気はしかし、それまでにこの部屋でまったく知るはずもなかった「豪華さ」があふれていて、未知の世界を創り出し新鮮な高級感そのものであることにやがて気づくに違いない。パラゴンのもつもっとも大きな満足感はこうして本番の音に対する期待を、聴く前に胸の破裂するぎりぎりいっばいまでふくらませてくれる点にある。そして音の出たときのスリリングな緊張感。この張りつめた、一触即発の昂ぶりにも、十分応えてくれるだけの充実した音をパラゴンが秘めているのは、ホーンシステムだからだろう。ホーン型システムを手掛けることからスタートした、ジェイムズ・B・ランシングの、その名をいただくシステムにおいて、正式の完全なオールホーンを探すと、現在入手できるのはこのパラゴンのみだ。だから単純に「JBLホーンシステム」ということだけで、もはや他には絶対に得られるべくもない、これ限りのオリジナルシステムたる価値を高らかに謳うことができる。このシステムの外観的特徴ともいえる、左右にぽっかりとあく大きな開口が見るからにホーンシステム然たる見栄えとなっている。むろんその堂々たる低音の響きの豊かさが、ホーン型以外何ものでもないものを示しているが、ただ低音ホーン型システムを使ったことのない平均的ユーザーのブックシェルフ型と大差ない使い方では、その真価を発揮してくれそうもない。パラゴンが、その響きがふてぶてしいとか、ホーン臭くて低い音で鳴らないとかいわれたり、そう思われたりするのも、その鳴らし方の難しさのためであり、また若い音楽ファン達の集る公共の場にあるパラゴンの多くは、確かに良い音とはほど遠いのが通例である。しかしこれは、決して本来のパラゴンの音ではないことを、この場を借り弁解しておこう。優れたスピーカーほどその音を出すのが難しいのはよく言われるところで、パラゴンはその意味で、今日存在するもっとも難しいシステムといっておこう。パラゴンの真価は、オールホーン型のみのもつべき高い水準にある。
 パラゴンは、米国高級スピーカーとしておそらく他に例のないステレオ用である。正面のゆるく湾曲した反射板に、左右の中音ホーンから音楽の主要中音域すべてをぶつけて反射拡散することによりきわめて積極的に優れたステレオ音場を創成する。この技術は、これだけでもう未来指向の、いや理想ともいえるステレオテクニックであろう。常に眼前中央にステージをほうふつとさせるひとつの方法をはっきり示している。

JBL 4343, 4350

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 その音を耳にした瞬間から、価格や大きさのことなど忘れてただもう聴き惚れてしまう。いい音だなあ、凄いなあ、と感嘆し、やがて音の良し悪しなど忘れて音楽の美しさに陶酔し茫然とし、鳴り止んで我に返って改めてああ、こういうのを本当に良い音というのだろうな、と思う……。スピーカーの鳴らす音の理想を書けば、まあこんなことになるのではないか。それは夢のような話であるかもしれないが、少なくともJBL#4350や#4343を、最良のコンディションで鳴らしたときには、それに近い満足感をおぼえる。
 JBLの創始者ジェイムズ・B・ランシングは、アルテックのエンジニアとしてスピーカーの設計に優れた手腕を発揮していたが、シアター用を中心として実質本位に、鋳物の溶接のあともそのままのアルテックの加工法に対して、もっと精密かつ緻密な工作で自分の設計をいっそう生かすべく、J・B・ランシング会社を設立した。その最初の作品である175DLHは、ショートホーンに音響レンズという新理論も目新しかったが、それにもまして鋳型からとり出したホーンの内壁をさらに旋盤で精密に仕上げるという加工法、また、アルニコVと最上級のコバルト鉄による漏洩の極度に少ない高能率の磁気回路の設計や、油圧によるホーン・ダイアフラムの理想的な整形法に成功したことなどにあらわれるように、考えられる限りの高度で最新の設計理論と、材料と手間を惜しまない製造技術によって、1950年代の初期にすでに、世界で最も優れたスピーカーユニットを作りあげていた。続いて設計された375ドライバーユニットは、直径4インチという大型のチタンのダイアフラムと、24000ガウスにおよぶ超弩級の磁気回路で、今に至るまでこれを凌駕する製品は世界じゅうにその類をみない。375のプロ・ヴァージョンの#2440は、#4350の高域ユニットとして使われているし、175の強力型であるLE85のプロ用#2420が、#4343の高域用ユニット、という具合に、こんにちの基礎はすでに1950年代に完成しているのである。驚異的なことといえよう。
 JBLのユニット群は、エンクロージュアに収めてしまうのがもったいないほどのメカニックな美しさに魅了される。1950年代はむろん飛び抜けて斬新で現代的な意匠に思えたが、四半世紀を経た今日でも相変らず新しいということは、不思議でさえある。が、その外形は単に意匠上のくふうだけから生れたのではなく、理想的な磁気設計や振動板の材質や形状、それらを支えて少しの振動も許さないダイキャストの頑強なフレーム構造……など、高度な性能を得るための必然から生まれた形であり、その性能が今日なお最高のものであるなら、そこから生まれた外観がいまなお新しいのも当然といえるだろう。
 JBLのエンクロージュア技術も、ユニットに劣らず優れている。最大の特長は、裏蓋をはじめとしてどこ一ヵ所も蓋をとれる箇所がなく、ひとつの「箱」として強固に固められていること。そしてユニットのネットワーク類はすべて、表からはめ込む形でとりつけられる。現在では多くのメーカーがこれに習っているが、長いあいだこの手法はJBLの独創であった。それはエンクロージュアが絶対に共振や振動を生じてはならないものだ、というJBLの信念が生んだ考案である。その考案を生かすべくJBLのエンクロージュアは板と板の接ぎ合わせの部分が、接着ではなく「溶接」されている。JBLではこれをウッドウェルド(木の溶接)と呼ぶ。パーティクルボードまたはチップボードは、木を叩解したチップ(小片)を接着剤で練り固めたものだ。その一端を互いに突き合わせ高周波加熱すると、接触部の接着剤が溶解して、突き合わせた部分は最初から一枚だった板のように溶接されてしまう。だからJBLのエンクロージュアは、輸送や積み下ろしの途中で誤って落下した場合つき合わせた角がはがれるよりも板の広い部分が割れて破壊する。ふつうのエンクロージュアなら、接着した角の部分がはがれる。そのくらいJBLのエンクロージュアは、堅固に作られている。
 ユニットやエンクロージュアへのそうした姿勢からわかるように、JBLのスピーカーシステムは、今日考えられる限りぜいたくに材料と手間をかけて作ったスピーカーだ。多くのメーカーには商品として売るための何らかの妥協がある。JBLにもJBLなりの妥協がないとはいえないが、しかし商品という枠の中でも最大限の手間をかけた製品は、そうザラにあるわけではない。JBLが高価なのは、有名料でもなければ暴利でもなく、実質それだけの材料も手間もかかっているのだ。JBLだからと、ユニットだけを購入してキャビネットを国産で調達しようとする人に私は言おう。ロールスロイスが優れているのは、エンジンだけではないのだ、と。あなたはエンジンだけ買ってシャーシやボディを自作して名車を得ようというのか。材質も加工法も全然違うエンクロージュアに、ユニットだけを収めてもそれはJBLの音とは全然別ものだ。
 JBLの栄光に一層の輝きを加えた作品が、新しいプロ用モニタースピーカー#4350であり#4343である。どちらも、低・中・高の3ウェイにさらにMID・BASSを加えた4ウェイ。#4350は低音用の38センチを2本パラレルにした5スピーカー。こういう構成は従来までのスピーカーシステムにあまり例をみない。その理由について解説するスペースがないが、JBLは必要なことしかしない、と言えば十分だろう。こんにちのモニタースピーカーに要求される性能は、広く平坦な周波数特性。ひずみの少ない色づけ(カラーレイション)の少ない、しかも囁くような微細な音から耳を聾せんばかりのハイパワーまで、鋭敏に正確に反応するフィデリティ、そして音像定位のシャープさ……。そうした高度な要求に加えてモニタースピーカーは、比較的近接して聴かれるという条件を負っている。こういう目的で作られた優れたスピーカーが、過程での高度なレコード観賞にもまた最上の満足感をもたらすことはいうまでもない。
 #4350も#4343も、外観仕上にグレイ塗装にブラック・クロスのスタジオ仕様と、ウォルナット貼りにダークブルーのグリルがある。どちらのデザインも見事で、インテリアや好みに応じていずれを選んでも悔いは残らない。

JBL 4333A, L300

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 JBLのスタジオモニター・シリーズの中で最初に評価されたのが#4320であることはよく知られているが、さかのぼればその原形は、プロフェッショナル部分を設立するよりはるか以前のC50SM型モニタースピーカーにはじまっている。C50SMにはS7(LE15A+LE85の2ウェイ)とS8(LE15A、375、075の3ウェイ)の二つの型があった。エンクロージュアのデザイン(外観および外形寸法)は#4320も全く同じだがC50SMの構造は密閉箱だったため、低音の伸びが悪く寸詰まりの感じで、良いスピーカーだという印象があまり残っていない。そのC50SM−S7を位相反転型に改良し、クロスオーバー周波数を800Hzに変更(S7は500Hz)したものが#4320だと思えばいい。こまかいことをいえばユニットその他相異はあるが大づかみにはそういう次第で、したがって#4320はプロ部門設立と同時にある日突然生まれたモニターではなく、C50SM−S7以来の十数年のつみ重ねがあったわけだ。
 #4320は、低域およびウーファーとトゥイーターのクロスオーバー附近での音質の問題点が指摘された結果、#4330および31に改良された。さらに高域のレインジを拡げるためにスーパー・トゥイーター#2405を加えた3ウェイモデルの#4332、#4333が作られた。しかしこのシリーズは、聴感上、低域で箱鳴りが耳につくことや、トゥイーターのホーン長が増してカットオフ附近でのやかましさがおさえられた反面、音が奥に引っこむ感じがあって、必ずしも成功した製品とは思えなかった。
 #4333を基本にして、エンクロージュアの板厚を、それまでの3/4インチ(約19mm)から、1インチ(25mm強)に増し、補強を加えて作ったコンシュマーモデルのL300は、家庭用スピーカーとしては大きさも手頃だし、見た目にもしゃれていて、音質はいかにも現代のスピーカーらしく、繊細な解像力と徴密でパワフルな底力を聴かせる。音のぜい肉を極力おさえた作り方で、ダブついたような鳴り方を全くせず、やや線の細い鋭敏でシャープな音がする。
 こうしてL300が完成してみると、#4333の問題点、ことにエンクロージュアの弱体がかえっていっそう目立ちはじめた。そのことにJBLもとうぜん気付いたのだろう。#4333のエンクロージュアの板厚と強度を増すと同時に、位相反転のチューニングを変更し、タテ位置にもヨコ位置にも自由に使えるよう、ユニットの取付け方にくふうを凝らすなど、こまかな改良を加えた#4333Aを発売した、という次第である。#4333よりはL300が格段に良かったのに、そのL300とくらべても#4333Aはむしろ優れている。従来、内蔵ネットワーク型とマルチアンプドライブ専用型とに分かれていた#4332と33とが、#4333Aでは兼用型となったのも便利だ。

JBL 4331A, 4333A, 4343

菅野沖彦

ステレオのすべて ’77(1976年11月発行)
「海外スピーカーをシリーズで聴く」より

 JBLの新しいプロシリーズは一層洗練された。その代表的なものは4333Aと4343の二機種である。4331は2ウェイで私としては、どうしてもトゥイーター2405をつけた4333Aでありたい。シリーズとしては文句のつけようもない端然とした系統をもっており、音にも製品企画にもJBLらしい並々ならぬメーカー・ポリシーがあり感心させられるのである。真の意味でのスピーカーの芸術品と呼びたい妥協のない製品群で、今時、他に類例を見ることができない。

JBL 4331A, 4333A, 4343

瀬川冬樹

ステレオのすべて ’77(1976年11月発行)
「海外スピーカーをシリーズで聴く」より

 4320以降のJBLのスタジオ・モニターシリーズの充実ぶりは目を見張るものがあるが,最新型の3機種を聴いて、このシリーズが一段と高い完成度を示しはじめたことを感じた。シリーズとしては4333Aからあえてスーパー・トゥイーターを除いた4331Aの必然性には少し疑問を感じる。新型の4343は単に4341の改良型であることを越えて、すばらしく密度の高い現実感に溢れる音で我々を魅了し尽くす。

JBL L400

岩崎千明

サウンド No.6(1976年5月発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(スピーカー編)」より

 JBLの最新最強力のシステムが、間もなく始まる6月の米国CEショーで発表される。これはL400と呼ばれる4ウェイシステムで、JBLのコンシューマー用初の4スピーカーシステムだ。おそらく、日本では70万円前後の価格で年内に発売されることになろうが、その母体はすでにあるスタジオモニター4341であろう。L200がスタジオモニター4331・2ウェイシステムと同格、L300が同じく4333・3ウェイと同じランクにあるのと同じように。
 このL400は、当然ながら38センチの低音ユニット、25センチの中低音用。ホーン型中高音用はLE85相当のユニットつき。それに077相当の高音ユニットの4ウェイ構成で、その狙うところは低歪、広帯域フラット再生だ。現代のハイファイ技術をそのままの姿勢でスピーカーに拡大した形といえよう。
 ところで、こうしたスピーカーのあり方は今日の全世界では共通なのだが、それがJBLシステムとして、他社との違いは何か、という点を具体的に追い求めていくと、D130ユニットになってしまう。D130は38センチ形のフルレンジだが、30センチ版がD131という名として知られており、これは4ウェイ5スピーカーのスタジオモニター4350の中低音用として、今日もっとも注目され、アピールされている。
 このように、JBLユニットのフルレンジの原形たる38センチD130から発したJBLサウンドが、もっとも現代的な形でまとまったのがL400に他ならない。L400はJBLの一般用システム中パラゴンを除き、最高価格のシステムになる。パラゴンは左右ひと組で3、600ドル。L400はひとつで1、200ドルは下るまい。ステレオで、3、000ドル近くでパラゴンに近い。L400の良さは具体的に接してみないと定かではないが、モニター4341から発展した音楽用で、低音をより充実して、ハイファイ志向に強く根ざした広帯域リブロデューサーの最強力形には違いあるまい。

JBL D44000 Paragon

岩崎千明

サウンド No.6(1976年5月発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(スピーカー編)」より

 ステレオ全盛の今日、ステレオ用として十分に意識され考えられたスピーカー・システムが果たしていくつあろうか。ステレオ初期からあった「ステージ感のプレゼンス」を考慮して、高音を周囲360度に拡散するとか、音の直接放射を壁面に向けて壁からの反射音によって「拡大されたステレオ感」と「遠方音源」の両面から「ステージ感」を得ようとする試みはヨーロッパ製を始め、多くの英国製品にみられた。
 しかし、リスニング・ポジションをかなり限定されてしまうという点で、今日の主流となっている全エネルギー直接輻射型システムと何等変わることはない。つまり、現在のスピーカー・システムをステレオ用として使うことは、モノラルにおけるほど広い融通性を持っているわけではなくて左右2つのスピーカーの間の、ごく限られた一定場所においてのみ、正しいステレオ音像が得られるにすぎない。そのスピーカーの大小、部屋の大小に拘らず、理想的にはただ1人だけに限られる。
 パラゴンの場合、驚くべきことに、その設置された部屋のどこにあっても、ステレオ音像はほとんど変わることなく、両スピーカーの中心にある。たとえ部屋のどこにいて聴こうが、変わることはない。こうしたスピーカーが他にあるだろうか。
 しかも特筆すべきは、このシステムが低音、中音、高音各ユニットともホーン型のオール・ホーンシステムであるという点である。
 パラゴンが、現存するオール・ホーン型の唯一のシステムであるということだけでも、その価値は十分にあると、いってよいが、パラゴンの本当の良さは、ホーン型システムというより以上に、ステレオ用としてもっとも優れた音響拡散システムであるという点を注目すべきだ。ただ1人で聴けば、コンサートホールのステージ正面の招待席で、ステージを見下ろすシートを常にリスニングポジションとして確保できる。また部屋を空間と考えれば、その空間のどこにあっても、もっとも優れたステレオ音像を獲得できる。パラゴンでなければならぬ理由だ。

JBL D44000 Paragon(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 あらゆる意味でステレオ用スピーカーとして、世界に唯一の存在ともいえるのが、JBLレインジャーシリーズの主役たるパラゴン。得意な形態は、その中音域に対する理想的拡散器の役目を果す大きく湾曲した反射板によるものだ。中音は外観から一目瞭然だが、低音も高音もホーン型で構成される点、今や珍しい存在である。だが、f特ひとつ考えても「軸上1m」という測定条件の設定さえも不可能なことから判る通り、現代のスピーカー技術とは明らかに違った志向の所産である。この点がパラゴンの真の特長でもあるし、その価値判断の別れ道ともなる。
 こうしたホーン構成の3ウェイであるためか、音色バランスの特異な点が使用上むずかしい問題点となり、しばしばその良さが十分に発揮されることがない。JBLのオリジナルにおいて「エナジャイザー」SE408パワーアンプを組合せる場合にも、独特のイコライザーボードを挿替えて400Hz以上をオクターブ6dBで上昇させたり、超低域のダンピングを変えたりしている。事実このバランスは、組合せるべきパワーアンプが難しいようだ。この例は自信をもって奨められる数少ない組合せだ。

スピーカーシステム:JBL D44000 Paragon ¥1,690,000
コントロールアンプ:クワドエイト LM6200R ¥760,000
パワーアンプ:パイオニア Exclusive M4 ¥350,000
プレーヤーシステム:トーレンス TD125MKIIAB ¥141,000
カートリッジ:エレクトロ・アクースティック STS555E ¥35,900
計¥2,976,900

JBL L300(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 JBLの久しぶりの家庭用フロア型の大型システムが出た。前面を僅かに傾け角を落した奥行きの十分ある箱は、今までにない重量だ。そのずっしりした重量感から重低音の力強さは予測できるが、期待をさらに上まわり量感あふれる低音エネルギーがこのL300の最大の価値であろうか。ほぼ同じユニット構成ながらモニターの4333との違いも、フラットながらこの低音エネルギーに片寄っている所は、家庭用再生システムに対するJBLの志向を物語って興味深いが、音楽を楽しめる点で好感と親しみとを強く感じさせる。
 こうした音楽と直結した「音」を、もっとも活かそうと心したとき、新技術の結晶とでもいい得る最新のアンプジラは最適だ。音を知り抜いたハイセンスのサウンドは今日での頂点ということができ、ぜひL300に試みたい組合せであるといえるであろう。
 L300の登場した現代のオーディオ・シーンの状況下で、高品質のトランジスター・ハイパワーアンプこそもっとも適切な組合せであることは当然だ。鮮度の高い中域の充実感を考えるとき、最新技術を背景にしてより魅力あるサウンドを得られるに違いない。

スピーカーシステム:JBL L300 ¥520,000×2
コントロールアンプ:GAS Thaedra ¥610,000
パワーアンプ:GAS Ampzilla ¥499,000
プレーヤーシステム:トーレンス TD160C ¥98,000
カートリッジ:ピカリング XUV/4500Q ¥53,000
計¥2,280,000

KEF Model 5/1AC, JBL 4341

瀬川冬樹

ステレオ別冊「ステレオのすべて ’76」(1975年冬発行)
「オーディオの中の新しい音、古い音」より

 イギリスのBBC放送局で、1968年までは全面的に、そして現在でも一部のスタジオでマスターモニターとして活躍しているLS5/1AはKEFの製品で、BBCの研究員と協力してその開発に携ったのがKEF社長のレイモンド・クックである(本誌昨年版参照)。このスピーカーの音の自然さは他に類をみないが、現時点では耐入力及び音の解像力に多少の不満がある。KEFでは約二年前に、同じスピーカーユニットでマルチアンプドライブ式に改造し、MODEL 5/1ACという型番で新らしいスタジオモニターを完成させた。初期の製品は内蔵パワーアンプの歪やノイズの点で不満があったが、今年9月、R・クックが再来日の折に私の家まで携えてきた改良型のアンプに入れ変わって以後の製品は、明らかにBBCモニターを凌駕する音質に改善された。JBLと同じく冷徹なほどの解像力を持ちながら、JBLがアルミニウムのような現代的な金属の磨いた肌ざわりを思わせるならKEFは銀の肌、あるいは緻密な木の肌のようで、どこかしっとりとうるおいがあるところが対照的で、しかもこの両者には全く優劣がつけ難い。
 JBLプロフェッショナル・シリーズのモニター・スピーカーの中で、♯4350(本誌昨年版に紹介)ほどのスケール感とダイナミックな凄味には欠けるにしても、同様に周波数レンジがきわめて広く平坦で、音のバランスのよさと音のつながりの滑らかさという点で、♯4341は注目すべき製品といえる。
 各帯域のレベルコントロールの調整や設置条件の僅かな違いにも鋭敏に反応するし、カートリッジやアンプに他のスピーカーでは検出できないような歪があっても♯4341は露骨にさらけ出してしまう。レコードにこれほど生々しく鮮烈な音が刻まれていたのかと驚嘆するような、おそろしいほど冷徹な解像力である。そういう能力を持ったスピーカーだから、鳴らす条件を十分に整えなくてはかえって手ひどい音を聴かされる。もうひとつ、スタジオでハイパワーで鳴らしても三ヶ月以上鳴らしこまないと鋭さがとりきれない。家庭で静かに鑑賞する場合は、一年以上の馴らし運転期間が必要だろうと思う。

JBL L65 Jubal

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 旧型のL101に代るべき製品だが、低音はより明るく弾み、しかも高音は格段にレインジが拡張され、従来のJBLからみると別もののように繊細な高音を聴かせる。したがってクラシックのオーケストラものでも、一応こなせるようになった。L101と比べると、中音の品位は少し落ちるのでポピュラー系には中域の多少の粗さも明るさ、華やかさといった長所として生かせるが、クラシックの弦を主体に聴くには、アンプやカートリッジに、中~高域のややウェットな、滑らかで緻密なタイプを組み合わせる必要がある。音量をしぼっても細かな音が失われないし、ハイパワーにもきわめて強いのがJBLの良いところだが、このL65は音量を上げても音像がばかげてふくらむようなことのない点がことに好ましい。ブロック一段程度の台に乗せた方が音の抜けがよく、左右に思い切り拡げて設置して定位を確保したい。背面は壁に近づける。レベルセットは中音を-1、高音を0とした。タンノイ等と同様長期間馴らし運転しないと音の鋭さがとれないので注意。

採点:94点

JBL 375 + 2397(組合せ)

岩崎千明

スイングジャーナル臨時増刊モダン・ジャズ読本 ’76(1975年秋発行)
「理想のジャズ・サウンドを追求するベスト・コンポ・ステレオ25選」より

●組合せ意図、試聴感
 使い慣れたJBLをシステムとして生かすべく考えたのがこの2397ホーンと375ユニットの中高音用を組込んだシステムだ。52年発行の米国のあるオーディオ文献に掲載してあったウェスターン・エレクトリック社無響室の写真で、技術者の横に置いてあるスピーカー・システムが眼に止った。この、小型フロアー型とも思えるシステムに、大きさといい、形状といい、JBLの木製ラジアル中高音用ホーン2397をそっくりの高音ユニットが使われているではないか!
 これを見付けたのは7月中旬の、長い入院生活の退屈さまぎれのひとときだったが、そのときすでに、我が家では1年半ほど使用していた2397の、原型を発見した気分でいささか得意であった。
 さて、2397ホーンと2328アダプターとのアセンブリーに、ドライバー・ユニットの375またはそのプロ版2440を組み合わせた高音用ユニットは、それ以外のJBLの高音用ユニットに較べて、格段の品の良さと、音の繊細感が素晴らしく、パワフル一点張りのJBL中高音用ホーンとは何か違ったスッキリした音なのが、この上なく大きな魅力だ。そして、このユニットの魅力をフルに活かしてやろうと考えたのがこのJBLの強力型ユニットを用いたスピーカー・システムだ。
 我が家で7年来も付き合っているバックロード・ホーン型エンクロージャー、ハークネスの中に収めたD130とはまた違って、もっともマニアにとって手近な形の低音用ユニットを考えると、平面バッフルに取り付けた最新型モデル136Aウーハーがある。これは従来のウーハー130Aより、ずっとf0を下げた点で、家庭用としてはロー・エンドをはるかに拡大できるユニットだ。低音用ユニットとのクロスオーバーとしてJBLのネットワークには、LX5またはそのプロ用の3110がある。この木製ホーンは、一応カット・オフ周波数が500Hz、使用クロスオーバーとして800Hzを指定されるが、375という強力ユニットと、家庭用として、アンプから送りこむパワーを、それほどの大きさにすることはないという前提のもとに、その音響エネルギーの中域でのレベル・ダウンを予測すれば、500Hzを選ぶこともできる。
 こうした変速用クロスオーバーでの使い方は、色々な問題点もないわけではないが、その創り出される音色バランスからは意外なほどに、おとなしいサウンド・クォリティーが得られるので、ぜひ試聴されることを強く望む。木製ホーンは決して問題点を悪い形では現わさない。
 さて、136Aは、中域でやや控え目ながら、ロー・エンドはずっと伸びて、平面バッフルでも至近距離では実にゆとりある深く豊かな重低音を楽しませてくれる。こうした高級なシステムを、フルに発揮するのに、JBLのディーラーであるサンスイの高級アンプは、JBLのアンプなき今、欠かすことはできまい。BA1000は、ブラック・パネルのハイ・パワー、BA5000、BA3000とはまた異った家庭用の広帯域再生に迫力あるクリアーなサウンドを発揮してくれる。プリアンプのCA3000はフル・アクセサリーで、ハードな魅力のカタマリだ。この、サンスイのアンプを組み合わせた本コンポーネントは、高級マニアも充分納得するだろう。プレイヤーでは、トーレンスTD125MKIIとピカリングXUV4500Qの組合せが極めつけだ。

●グレード・アップとバリエーション
──JBLの新製品ユニット136Aと375+2397をネットワーク3110でつなぎ、サンスイCA3000+BA1000でドライブ、次にこれをマルチ駆動、チャンネル・フィルターにサンスイCD10を用い、アンプではサイテーション16を低域用に、375+2397をさきほどのBA1000でドライブいたしましたが、結果としてはいかがでしたでしょう。
岩崎 マルチ駆動とする前に、まずやりたいことは、ここでは試みませんでしたが、ユニットをエンクロージャーに収めたいですね。これがまず第1のグレード・アップですね。これは自作でもけっこうです。実は、JBLの4350に、あるいは4340というプロ・ユースのマルチ駆動用システムに刺激を受け、触発されまして、これはマニアの間でもチャンネル・アンプを使ってみようとする気運が高まってきたと思います。これを実際に試してみるのも意義のあることではないかと思います。また、理論的に考えてみた場合、ネットワークの持つL成分、C成分というものを、無視して考えられない面がないわけでなく、とりわけインダクタンスを持つコイルにおける直流抵抗分がスピーカーのボイスコイルに直列に入ることを考えた時、それがたとえごくわずかでも、ゼロではない限り、なんらかの形で影響が出てくるということも考えられますね。確かに理論上、わずかでもダンピングの面で理想状態より悪くなってしまう。そのあるかなしの、ごくわずかの問題点であっても、たとえ神経質と言われようと取り除く方向で努力するのが世のマニアの常なんでしょうね。理想に一歩でも近付こうとする努力がマルチ・アンプ・システムなんですね。さらに言うなら、自分だけの、オリジナルなシステムを究極に求めるならば、自分の嗜好をより完全な形で求めようとするのは当然だと思うんです。それを端的に表現できるのがマルチ・チャンネル・システムだと思うんです。クロスオーバー周波数をはじめ、レベル調整でも、ネットワークに付随する減衰量のあらかじめ指定された点以上に、自由に、1dB、0・1dBといったわずかの変化量さえ可変できるし、またクロスオーバー付近でのスロープ特性も6dB、あるいは12dBと、自由に選べます。すなわち、あらゆる意味で、良い音というものを判断できる耳があり、自身があるならばある程度完全に近い形をとりうる方式だといえますね。
──低域に使用していただきましたサイテーション16に関してはいかがでしょうか。
岩崎 このモデル16というアンプは、力強さ、エネルギー面におきまして、海外製アンプの中ではとりわけ質の高い強力な製品で、とても150W+150Wとは思えない、それ以上のものを感じさせてくれますね。回路的に見ますとこれは左右を完全に分離した独立電源を用いておりまして、超低域におけるクロストークを排斥することで、再生音場に対するマイナス面を除去しよう、という試みがされています。またLEDによるパワー表示はどうも日本人の好みとは異るようですが、しかしピーク表示という意味に関してはこれほど正確なものはないわけで、性能的にはメーター指示よりはるかに上回るものを持っており、ハイパワーアンプにはさわしい方式だと思いますね。

JBL LE8T(組合せ)

岩崎千明

スイングジャーナル臨時増刊モダン・ジャズ読本 ’76(1975年秋発行)
「理想のジャズ・サウンドを追求するベスト・コンポ・ステレオ25選」より

●組合せ意図、試聴感
 JBL大型システム・パラゴンを聴くようになってから、至近距離できくマルチウェイのシステムの持つ「ステレオ音像の不自然さ」がやたら気になるこの頃だ。ほんの、ちょっと顔を左右にふっただけで、その正面の音像はスッと位置を変える。それだけならまだよくて、音域が変わるにつれて、その音像は大幅に移動してまるで躍るように動き廻る。首をふらなければそうしたことはほとんど意識されずにすむかも知れないが、逆に気になり出したら、頭を動かさなくても気になり出す。
 こうした現象を避けるために、永い間、ラジアル・ホーンとか、放射レンズつきの中高ユニットとの2ウェイで通してきたが、むろんスピーカーの振動板の構成がシンプルなほど有利になるので、シングル・コーンのフルレンジ型ひとつのシステムを用いることがもっともオーソドックスな解決法であり、理想的なテクニックでもあるといえよう。
 だから、ここではぐっと後戻りの印象を受けるかも知れぬがLE8Tを用いることにした。もうひとつ考えられるのにアルテックの755Eパンケーキと呼ばれる永く愛されている755Eが考えられる。
 LE8Tのプロ・シリーズ2115は、それはハイエンドの拡大という点で一挙向上してはいるが、聴きやすさとか音楽としてのバランスの点でLE8Tの方が、かえっていいくらいといえそうで、ここでは予算が限られたこともこともあってユニットを購入して平面バッフルに取付けて用いることとする。21mmのベニア合板を2つに切って90×90cmの板の中心からやや下にずらした所に17cmの穴をあけて用いる。
 さてLE8Tを鳴らすのに最初一般的なリスナーの便利さを考えてレシーバーを用いるつもりだった。
 しかし、ちょうど出たばかりのヤマハCA−X1という普及価格のアンプを見、それを試聴してみてこれを採用した。今までのヤマハのアンプのようなジッとおさえた控え目な鳴り方ではなくて、スピーカーを朗々と鳴り響かせてくれるのが驚きであり、嬉しい限りだった。効果的にCA−X1の採用は大成功だったといってよかろう。決してこのX1はパワー競争の所産ではないので、あり余るパワーとはいえないにしろ、LE8Tというさして大きくないスピーカーをガンガン鳴らすには不足はまったく感じさせることはない。それどころかゆとりも感じるので、低音コントロールを2ステップほど上げて、平面バッフルによる低域の不足を補うことさえできる。つまりLE8Tを90×90cmという平面バッフルできくにはこの程度の補正は必要である。
 プレイヤーのヤマハYP511は白い木目でなく、落ち着いた雰囲気で高級感も十分で、新型の多い中にあってもまずお買徳。ヤマハの例によってカートリッジのシュアー製も大きなプラス・アルファだろう。
 さてこのCA−X1にはコンビとなるべきチューナーもあり、こちらもまた大変に優れたクォリティーで、価格からはどうしても信じられぬほどだ。

●グレード・アップとバリエーション
──おもに「ドラム・セッション」のレコードなどを聴かせていただいたわけですが。
岩崎 そうですね。音の定位というものをここで少し考えてみたわけで、シングル・コーン一発という形をとってみようと思い、LE8Tを一本、平面バッフル仕様としましたが、どうも低域の伸びが不足しがちで、「ドラム・セッション」での、あのオンな感じのドラムの音が間近に、力となって量感をともなって出てこないんです。どうも箱がないとね。そこで、グレードアップの第一としてはこのLE8TをサンスイSP−LE8Tの箱に収めるという作業ですね。もちろん低域をアンプでブーストしてやるという手もあることはありますが。
──次に、音の解像力という点ではいかがですか。あのシンバルの音をよりリアルにとらえるにはどうすればいいでしょうか。
岩崎 その点では、YP511付属のカートリッジでは、音が平均的になりすぎて、力となって出てくる部分に物足りなさを感じますね。音にメリハリをつけ、さらに解像力をも増すという面で、私はオーディオテクニカのAT15Saに魅力を感じました。これを使う方向でいけばいいでしょう。またもう一つの方向としてMC型のカートリッジを使うということで、この場合、出力電圧の少なさという面でハンディがあるわけですが、高出力型MC型もありますので、オンライフOMC38−15Bなどは非常に一音一音をくっきりと浮き出させ、しかも力強さも持っていますね。その点、デリケートさとは違う意味での細やかな表現も可能としてくれる素晴らしい製品だと思います。サテンのM117というカートリッジも似たようなタイプですしね。ただ音の傾向としては以上あげたカートリッジは、それぞれ異った性格を持ったものだけに、できれば何かの機会を得て、聴き較べ、自らの感覚にそった選択をしてほしいですね。
──この「ドラム・セッション」における生々しいリアリティーを持った音は確かに素晴らしいものだと思いますが例えばバリエーションとして、もっとボーカルなら強いとか、やわらかな味を持ったとかいう、別の良さをそれに付け加えたい時にはどうしたらいいでしょう
か。
岩崎 リアルな音像再現という点で、ヤマハCA−X1は抜群の偉力を発揮しますが、たとえば、もっと生の演奏の持っているやわらかい雰囲気を狙う場合、最近話題となっているFETを使用したパワー部を持つアンプの使用は有効だと思いますね。その意味ではソニーTA4650、日立Lo−DのHA500Fが考えられますが、結果、HA500Fでは中域のやわらかみが良く出てきて、ボーカルでは品の良い──たとえばアニタ・オディの声がそれほどやわらかくて品がいいとも思えないんですが(笑)──響きの良い豊かな声が聴かれますね。これはもう、それだけで大変な魅力ですね。また、ソニーTA4650では、CA−X1とHA500Fの中間をゆくというか、両方の良さをうまく兼ねそなえたものを持っていましたね。「ドラム・セッション」でのタイコの皮の張り具合がゆるむこともなく、しかもサックスやトランペットなど、管の再生にもやわらかな丸みを帯びた、それでいてリアルな音で楽しめましたね。

JBL L36 Decade

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 鮮烈、というとオーバーかもしれないが、たとえばあれほど鮮明な鳴り方をするヤマハ1000Mが、これとくらべるとおとなしく聴こえるといえば、まず全体の感じを大掴みに説明できる。必ずしも極上の品位とはいいにくいが、この一種新鮮な鳴り方はやはり魅力で、とくにポピュラー系では、音像をくっきりと隈どって、低音弦の弾力的な鳴り方に支えられて、むろんナマとは違う作られた魅力であるにしても、音離れのいい、腰のくだけない力の強い音を聴かせる。クラシック系をどこまで鳴らせるか挑戦してみようと、レベルコントロールの中音(プレゼンス)を-2に、高音(ブリリアンス)を-1にしぼった。これでも鮮鋭さは失われないが、これ以上絞っては、音のバランスもJBLの魅力も失われてしまう。高い台に乗せてアンプで低音をやふ増強してみると、量感が確実に増す。スクラッチノイズの質からみても中~高域の質感は決して上等ではないが、ともかくまとまりの良さでつい聴かされてしまう。クセも強いが妙に魅力的な音。

JBL L16 Decade

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 小柄なくせに、ハイパワーで鳴らしてみると、信じがたいような堂々としたスケール感を聴かせて、少しも音がくずれない。JBLの一連の製品に共通の、クリアーで芯のしっかりした、カリッと詰まった音色をやはり受けついでいて、ことに打楽器を主体としたプログラムに対して、右のような偉力をみせる。ところが中音から高音にかけて、やや線の太い、どこか鼻にかかったような独特の音色を持っていて、弦やヴォーカルの音色に相当に個性の強い色をつけて鳴らすし、その鳴り方が本質的にドライなところがあるため、弦や声の内包している情感のような面を一切断ち切ってしまう。JBLの製品は、総体に贅沢の上に成り立っているので、ここまでコストダウンするのはもはや無理なのではないか。トゥイーターのレフベルセットをいろいろいじってみたが、結局「0」(ノーマル)以外にやりようがなかった。カートリッジはオルトフォン(VMS)系よりもシュアー、エンパイア系が合う。やや低めの台、壁にあまり近づけず、左右に拡げ気味にセットしたときがよかった。

JBL LE10A

井上卓也

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 比較的に小型のバスレフ型が使えるのがメリットである。高音ユニットはJBLがよいが、国産のコーン型から選び足出しても、かなりの好結果が得られた実績がある。

JBL L45-S1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 L45のエンクロージュアにバリエイションが出揃った。L101の製造中止を惜しむ声が多いが、LE14Aと175DLHの組合せは、L45/S1に残されている。

JBL L88PA

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 ウーファーにくらべるとトゥイーターの質が少しもの足りないが、L26よりも音の角がとれて、弦楽器系も一応十分に聴ける。が、それよりもこのデザインの斬新さこそ魅力だ。

JBL Aquarius4

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 これはハイファイ用と範疇の違う、いわば「音響家具」と呼びたいスピーカー。明るい近代的なリビングルームで本領を発揮する。非常にぜいたくなイージーリスニング用。

JBL 4350

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 ユニットの構成は私が本誌創刊号当時発表した考え方とそっくりで、その点でも親しみを感じるし、出てくる音もデザインも、事情が許せばいますぐにでも買いこみたい製品。

JBL L65

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 L26系のよく弾み音形のしっかりした低音と、2405を改良した077トゥイーターによるレインジの広い、雰囲気描写に優れた高域が魅力。JBLの新しい音のひとつ。

JBL D123

井上卓也

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 D130とLE8Tの陰にかくれて目立たぬ存在である。しかし、比較的に高域が出るタイプであり、とくに質感がかろやかな低音は良い。075をぜひ併用したい。

JBL D208

井上卓也

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 形態的にD130をミニチュア化したマキシマムエフェシエンシー・シリーズの全域型である。古典的な設計であるため能率は高いが、エンクロージュアは大型が必要である。

JBL 2115

井上卓也

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 プロフェッショナルシリーズのLE8Tである。聴感上のバランスは、ややカマボコ型の傾向で中域重視型とも考えられる。トーンコントロールの補正で充分に使える機種だ。

JBL D130

井上卓也

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 外観からは、かなりハイファイな音が出るように思われるが、予想外に、中低域ベースの、まろやかな音だ。JBLサウンドのベースとなった機種だが高域の補正が必要である。